説明

汚水処理水の脱色方法及び脱色用部材の再生方法

【課題】汚水処理水に残留する色成分を脱色用部材により簡単に吸着除去して、汚水処理水を脱色し、安心して再利用できるようにする。さらに、色成分を吸着した脱色用部材を簡単に再生して、再利用できるようにする。
【解決手段】細孔を有する芳香族ポリアミドにより囲まれたマイクロボイドを含有し、芳香族ポリアミドにハイドロタルサイトが担持されてなる粒子状、繊維状又は塊状の脱色用部材1を、処理層11に充填して水が通過可能な充填層を形成し、腐植物質又は屎尿系色素物質が残留した汚水処理水6を充填層に通水速度SV値1〜12で1回通水することにより、腐植物質又は屎尿系色素物質を脱色用部材1に吸着させて汚水処理6水を脱色する脱色工程と、脱色工程後の充填層にアルカリ水溶液を通水することにより、脱色用部材1から腐植物質又は屎尿系色素物質を脱離させて脱色用部材1を再生する再生工程とを、交互に繰り返す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水処理場、浄化槽等により浄化処理された汚水処理水を脱色する方法と、該方法に使用した脱色用部材の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭の生活排水、事業場からの排水、畜産場からの汚水等の汚水は、下水処理場や浄化槽で、水に混じり又は溶けている汚れを微生物の働きにより分解する処理を行い、該処理を経て浄化された上澄み水を消毒し、処理水として河川や海に放流している。また、近年では、放流先の河川や海の水質改善を図るため、従来の二次処理よりも処理水の水質を向上させる高度処理も実施されるようになってきた(例えば特許文献1)。
【0003】
高度処理された処理水は、河川や海に放流するだけではなく、トイレの洗浄水や、緑化散水用水や、市街地のせせらぎ等の修景用水等に再利用することも可能である。しかし、高度処理によってもその処理水には若干の色成分が残留して淡い色を呈するため、この色が再利用する際の不安要因となっていた。
【0004】
ところで、特許文献2には、流体と接触させるシリカゲル光触媒被覆多孔体と光触媒励起用の光源とを備えた流体浄化装置が開示され、着色廃液の脱色などを行うために使用される環境浄化装置として利用し得ることが記載されている。同装置によれば、汚水処理水の上記の色成分を分解除去できる可能性がある。
【特許文献1】特開平6−320190号公報
【特許文献2】特開2007−68752号公報
【特許文献3】特開2005−305343号公報
【特許文献4】特開2006−257371号公報
【特許文献5】特開2006−265468号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のとおり、汚水処理水には若干の色成分が残留して淡い色を呈するという問題があり、特許文献2の装置によれば色成分を除去できる可能性はあるものの、光触媒励起用の光源が必要であるとか、分解除去には時間がかかりやすいという問題があった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、汚水処理水に残留する色成分を脱色用部材により簡単に吸着除去して、汚水処理水を脱色し、安心してトイレの洗浄水や、緑化散水用水や、市街地のせせらぎ等の修景用水等に(汚水処理水の浄化度によっては飲み水としても)再利用できるようにすることにある。さらには、色成分を吸着した脱色用部材を簡単に再生して、再利用できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明者らがまず汚水処理水を分析したところ、若干残留する色成分は主として腐植物質又は屎尿系色素物質であることが判明した。続いて腐植物質又は屎尿系色素物質の除去方法を検討し、活性炭による吸着を試したところ、ある程度は除去できたが、効率的ではなかった。そこで、さらに効率的な除去方法を種々検討し、本発明に到ったものである。すなわち、本発明は次の手段[1]〜[3]をとったものである。
【0008】
[1] 細孔を有するポリマーにより囲まれたマイクロボイドを含有し、前記ポリマーにハイドロタルサイトが担持されてなる粒子状、繊維状又は塊状の脱色用部材を、容器に充填して水が通過可能な充填層を形成し、汚水を浄化処理してなるが色成分である腐植物質又は屎尿系色素物質が残留した汚水処理水を前記充填層に通水することにより、前記腐植物質又は屎尿系色素物質を前記脱色用部材に吸着させて前記汚水処理水を脱色することを特徴とする汚水処理水の脱色方法。
【0009】
[2] 細孔を有するポリマーにより囲まれたマイクロボイドを含有し、前記ポリマーにハイドロタルサイトが担持されてなる粒子状、繊維状又は塊状の脱色用部材であって、色成分である腐植物質又は屎尿系色素物質を吸着した後の脱色用部材が容器内で水が通過可能な充填層を形成しており、前記充填層に脱離液アルカリ水溶液を通水することにより、前記腐植物質又は屎尿系色素物質を前記脱色用部材から脱離させて前記脱色用部材を再生することを特徴とする脱色用部材の再生方法。
【0010】
[3] 細孔を有するポリマーにより囲まれたマイクロボイドを含有し、前記ポリマーにハイドロタルサイトが担持されてなる粒子状、繊維状又は塊状の脱色用部材を、容器に充填して水が通過可能な充填層を形成し、汚水を浄化処理してなるが色成分である腐植物質又は屎尿系色素物質が残留した汚水処理水を前記充填層に通水することにより、前記腐植物質又は屎尿系色素物質を前記脱色用部材に吸着させて前記汚水処理水を脱色する脱色工程と、
前記脱色工程後の前記充填層にアルカリ水溶液を通水することにより、前記腐植物質又は屎尿系色素物質を前記脱色用部材から脱離させて前記脱色用部材を再生する再生工程とを、交互に繰り返すことを特徴とする汚水処理水の脱色方法。
【0011】
ところで、上記の特許文献3〜5には、ポリマーに担持された機能性物質について次の記載がある。しかし、その機能性物質としてハイドロタルサイトを選択し、それを脱色に用いることまでの記載及び示唆はこれらの文献にはない。
特許文献3には、ハイドロタルサイトを造粒成形体とし、あるいは有機物の担体に担持してなる濾材とし、これにリンを吸着させ、吸着されたリンを脱離させて回収する方法が記載されている。
特許文献4には、マトリックスポリマーにより形成され、外殻部およびマクロボイド部からなり、機能性物質が担持された成形体が開示され、この成形体が、大気や水処理などの環境浄化、化学品製造などの種々の分野で応用が期待されることに言及されている。
特許文献5には、良溶媒に50質量%以上が芳香族ポリアミドであるポリマーと機能性物質を添加してドープを調製し、このドープを凝固液中で凝固させることによる成形体の製造方法が開示され、この成形体が、大気や水処理などの環境浄化、化学品製造などの種々の分野で応用が期待されることに言及されている。
【0012】
以下に、本発明の上記各手段における各使用部材についての態様を説明する。
【0013】
1.脱色用部材
1−1.ポリマー
ポリマーは、マイクロボイドを隔てる隔壁のマトリックスを構成するものである。ポリマーは、さらに成形体の外殻部も構成するものであることが好ましい。また。ポリマーは、ポリマーのドープを用いて湿式法で成形される疎水性ポリマーであることが好ましい。ポリマーとして、アラミドポリマー、アクリルポリマー、ビニルアルコールポリマー、セルロースポリマー、ポリスチレン、非晶質ポリカーボネートなどを例示することができる。
ポリマーの総重量の50質量%以上が芳香族ポリアミドであることが好ましく、さらに好ましくは80質量%以上、最も好ましくは90質量%以上である。特に、ポリマーは芳香族ポリアミドのみからなることが好ましい。芳香族ポリアミドとして、ポリメタフェニレンテレフタルアミド、またポリパラフェニレンテレフタルアミドが挙げられる。
アクリルポリマーは、85モル%以上のアクリロニトリル成分を含むポリマーが好ましい。共重合成分として、酢酸ビニル、アクリル酸メチル、メタクリ酸メチル、および硫化スチレンスルホン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分が挙げられる。
【0014】
1−2.細孔
ポリマーが有する細孔は、ポリマー表面で開口しているとともに、ポリマー中で他の細孔と連通しており、細孔同士が連結した網目構造を形成している。細孔の孔径の最長部は0.1nm〜1μm、好ましくは10nm〜500nmの範囲にある。
【0015】
1−3.マイクロボイド
隣接するマクロボイドはポリマーの前記細孔により連通している。マクロボイドは、その最大径が好ましくは1μm〜1mm、より好ましくは10μm〜150μm、、最も好ましくは20μm〜100μmの範囲にある。
【0016】
1−4.外殻部
上記1−1.で説明したように成形体が外殻部を有する場合には、外殻部のポリマーも細孔を有するので、外殻部の表面には複数の細孔の開口部が観察され、多孔質構造となっている。細孔は他の細孔とポリマー中で連通しており、細孔同士が連結した網目構造を形成している。かかる細孔は、マクロボイドに連通している。外殻部の厚さは、好ましくは100nm〜1μm、さらに好ましくは200nm〜500nmの範囲である。
特に塊状の成形体の場合であって、それが例えば球状若しくは楕円体状であれば、外殻部の厚さは、好ましくは直径の0.005〜0.05%、さらに好ましくは0.01〜0.025%の範囲である。
また、繊維状の成形体の場合、外殻部の厚さは、成形体の長手方向に垂直な断面の直径の0.005〜0.05%であることが好ましく、さらに好ましくは0.01〜0.025%の範囲である。
【0017】
1−5.ハイドロタルサイト
ハイドロタルサイトは、天然に産出する粘土鉱物の一種であり、次の化学組成式(1)で表される複合金属水酸化物である。
1-x2+x3+(OH-2+x-y(An-y/n (1)
〔式中、M2+はMg2+、Ni2+、Zn2+、Fe2+、Ca2+及びCu2+からなる群から選ばれる少なくとも1種の二価の金属イオンを示し、M3+はAl3+及びFe3+からなる群から選ばれる少なくとも1種の三価の金属イオンを示し、An-はn価のアニオンを示す。また、0.1≦x≦0.5であり、0.1≦y≦0.5であり、nは1または2である。〕
【0018】
ハイドロタルサイトは、粒子状のものが好ましい。粒子の粒径は、好ましくは0.1nm〜500μm、より好ましくは1nm〜100μm、さらにより好ましくは1nm〜50μmである。
【0019】
ハイドロタルサイトは、マクロボイド部を隔てるポリマーに担持され、外殻部がある場合には外殻部のポリマーにも担持される。成形体におけるハイドロタルサイトとポリマーとの比率は、ハイドロタルサイト50〜98質量%、ポリマー50〜2質量%の範囲であることが好ましく、ハイドロタルサイト70〜95質量%、ポリマー30〜5質量%の範囲であることがより好ましい。ハイドロタルサイトが50質量%未満では、脱色効果が小さく、ハイドロタルサイトが98質量%を超えると、ポリマーが量が少なすぎて成形体の強度不足が起き、通水中に破壊が生じやすい。
【0020】
1−6.成形体の形状(粒子状、繊維状又は塊状)と寸法
粒子状としては、円柱状、角柱状、球状、楕円体状等を例示することができる。粒子状の最大径(最大方向の径)が、好ましくは0.5〜10mm、より好ましくは0.5〜5mmである。
繊維状としては、紐状、パイプ状、中空糸状等を例示することができる。繊維状の繊維径は、好ましくは0.1〜5mm、より好ましくは0.2〜3mmである。
塊状のものとしては、球状、楕円体状等を例示することができる。塊状の最大径(最大方向の径)は、好ましくは0.1〜10mm、より好ましくは0.2〜3mmである。
【0021】
1−7.成形体の製造方法
本発明の成形体は、前出の特許文献4に記載された方法(ドープを凝固液中で凝固させることからなる、機能性物質が担持されたポリマー成形体の製造方法であって、ドープが、ポリマー、該ポリマーの良溶媒および界面活性剤を含有し、凝固液が該ポリマーの貧溶媒および界面活性剤を含有し、かつ、ドープ、凝固液またはこれらの双方が機能性物質を含有すること。)や、特許文献5に記載された方法((1)300〜2400重量部の良溶媒に、100重量部のポリマーおよび10〜9700重量部の機能性物質を添加しドープを調製する工程、並びに(2)ドープを、凝固液中で凝固させる工程、からなる成形体の製造方法であって、該ポリマーの50質量%以上が芳香族ポリアミドであること。)により、製造することができる。
【0022】
2.汚水処理水
2−1.種類
汚水処理水としては、家庭の生活排水、事業場からの排水、畜産場からの排水等の各種汚水を、下水処理場や浄化槽で浄化処理した処理水を例示することができる。
【0023】
2−2.腐植物質(フミン質)
腐植物質とは、植物の葉や茎の部分が腐植してできた有機成分のことであり、土壌をNaOH等のアルカリで抽出した分画、あるいは天然水でXADR樹脂に吸着し希アルカリ水溶液で溶出される分画として定義される。腐植物質の中で酸により沈殿する分画をフミン酸といい、沈殿しない分画をフルボ酸という。汚水処理水中の腐植物質の残留量は、特に限定されない。
【0024】
2−3.屎尿系色素物質
屎尿系色素物質には、「ウロビリン等の黄色系の胆汁成分」や「哺乳類の肝臓で分泌されるビリルビン」がある。ウロビリン等は、生物処理では完全に処理できないものであるから(「初歩から学ぶ水処理技術」111頁 福田文治著 工業調査会)、本発明が有効である。
【0025】
3.汚水処理水を充填層に通水する速度
脱色工程において、汚水処理水を充填層に通す回数は、処理効率上、1回が好ましい。同じ汚水処理水を循環させて充填層に複数回通すことも可能ではあるが、処理効率は低下する。通水回数が1回の場合の通水速度は、好ましくは空間速度Space Velocity SV値1〜12、より好ましくはSV値3〜12である。SV値1未満では処理効率が低下し、SV値12を超えると脱色効果が小さくなる。通水回数が複数回の場合の通水速度は、好ましくはSV値1〜12をその回数倍した範囲である。
【0026】
4.アルカリ水溶液
脱色用部材の再生に用いるアルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物の水溶液を例示することができる。アルカリ水溶液のpHは、好ましくは12以上である。
アルカリ水溶液はさらに塩化物イオンを含んでもよい。塩化物イオンを含むと、ハイドロタルサイトの表面電荷が、色成分である腐植物質又は屎尿系色素物質がはずれやすい方向にシフトする可能性があるからである。塩化物イオンとしては、NaCl、KCl等のイオンを例示することができる。
【0027】
5.アルカリ水溶液を充填層に通水する速度
再生工程において、アルカリ処理水を充填層に通す通水速度は、好ましくはSV値1〜12、より好ましくはSV値3〜8である。また、アルカリ処理水を循環させて複数回通してもよい。
【0028】
6.脱色処理工程と再生処理工程のインターバル
脱色処理工程と再生処理工程とを交互に繰り返すときのインターバルは、特に限定されず、実際の処理状況に応じて適宜決めることができる。すなわち、脱色処理工程(通水回数は1回)を脱色用部材の脱色効果が所定のレベルに低下するまで連続運転した後、再生処理工程に移り、再生処理工程を脱色用部材の脱色能力が所定のレベルに回復するまで連続運転すればよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、汚水処理水に残留する色成分を脱色用部材により簡単に吸着除去して、汚水処理水を脱色し、安心してトイレの洗浄水や、緑化散水用水や、市街地のせせらぎ等の修景用水等に(汚水処理水の浄化度によっては飲み水としても)再利用できるようになる。さらには、色成分を吸着した脱色用部材を簡単に再生して、再利用できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
最良の形態は、複数の細孔を有する芳香族ポリアミドにより囲まれた複数のマイクロボイドを含有し、前記芳香族ポリアミドにハイドロタルサイトが担持されてなる粒子状、繊維状又は塊状の脱色用部材を、容器に充填して水が通過可能な充填層を形成し、汚水を浄化処理してなるが色成分である腐植物質又は屎尿系色素物質(以下、両物質をまとめて「色素物質」という。)が残留した汚水処理水を前記充填層に通水速度SV値1〜12で1回通水することにより、前記色素物質を前記脱色用部材に吸着させて前記汚水処理水を脱色する脱色工程と、
前記脱色工程後の前記充填層にアルカリ水溶液を通水することにより、前記脱色用部材から前記色素物質を脱離させて前記脱色用部材を再生する再生工程とを、交互に繰り返すことである。
【実施例1】
【0031】
まず、実施例1として、図1(a)に示すように、カラム法により汚水処理水の溶存有機炭素及び色素物質の吸着試験を行った。また、同試験後、図1(b)に示すように、脱色用部材の再生試験を行った。
【0032】
(1)溶存有機炭素及び色素物質の吸着試験
(1−1)脱色用部材
脱色用部材1としては、図1(a)の左側に拡大して示すように、複数(多数)の細孔2を有する芳香族ポリアミドにより囲まれた複数(多数)のマイクロボイド3を含有し、芳香族ポリアミドにハイドロタルサイトが担持されてなる粒子状の脱色用部材1(以下、HTCFと記すことがある。)を使用した。この脱色用部材1の製造方法は、特許文献5に記載された実施例5の方法と同様であり、次のとおりである。
良溶媒としてのN−メチル−2−ピロリドン100重量部に、ポリメタフェニレンテレフタルアミド(帝人テクノプロダクツ(株)製コーネックス(登録商標))11.1重量部と、ハイドロタルサイト(平均粒径10μm)138重量部とを添加し、ドープを調製した。
次に、ドープを、25℃の凝固液中に浸漬させた口径1mmのダイから凝固液中に押し出し、凝固させた(湿式凝固成形(学識名:NIPS))。凝固液は100質量%の水からなる。
凝固により得られたストランド状の成形体を長さ2mmを目標にしてカットし、直径0.9mmで長さ1〜5mm(分布の中心は2mmである。)の円柱状の成形体を得た。乾燥した成形体中には、92.5質量%のハイドロタルサイトと、7.5質量%のポリメタフェニレンテレフタルアミドとを含む。この成形体を脱色用部材1とした。
【0033】
(1−2)汚水処理水
汚水処理水6としては、汚水としての生活排水を浄化処理してさらに調整した汚水処理水6を使用した。この汚水処理水6は、より詳しくは次のように浄化処理及び調整してなるものである。
斐川町役場上庄原地区浄化センター(住所: 島根県簸川郡斐川町上庄原224−8)内に設置されている濾過槽で、汚水としての生活排水(し尿と雑排水)を活性汚泥法により浄化処理し、その汚水処理水を採取した。
採取した汚水処理水を、捕捉粒子径10〜20μmのフィルターを用いて濾過し、さらにpHを5に調整した後、空気曝気を行い炭酸イオン濃度を約1mg−HCO3-/Lに調整し、試験に供した。この汚水処理水6は、色素物質が残留しているため、例えばカラムに数十cmの深さで入れた汚水処理水を上から目視すると、淡い褐色を呈していることが明瞭に分かった。
【0034】
(1−3)溶存有機炭素及び色素物質の吸着試験方法
上記の脱色用部材1をカラム5に、充填量20g・充填容積50mLで充填した。このカラム5に上記の汚水処理水6を上方から流速300mL/時間(SV値6)で1回通水し、溶存有機炭素及び色素物質を同時に脱色用部材1に吸着させた。本試験は、カラム5を通過した後の汚水処理水(以下、「脱色処理水7」という。)の色度が、カラムを通過する前の汚水処理水6(以下、「原水」ということがある。)の色度と同様になる(すなわち脱色用部材1の脱色能力がなくなる)まで行い、同様になった時点で終了した。
【0035】
(1−4)溶存有機炭素及び色度の計測
通水の開始から終了までの間の随時(通水量(L)が8、16、23、31、39、46、54、62、70の各時)において、脱色処理水7の溶存有機炭素と色度とを次のように計測した。ここで、通水量(L)が70の時とは、通水の開始から233時間20分経過した時ということになる。
全有機体炭素計として島津製作所社製TOC−5000を使用し、原水及び脱色処理水のそれぞれの溶存有機炭素(DOC)を計測した。図2にその計測結果を示す。
色度計としてHACH社製多項目迅速水質分析計(白金・コバルト標準法)を使用し、原水及び脱色処理水のそれぞれの色度を計測した。図3にその計測結果を示す。なお、通水量(L)が70の時の原水の色度が大きく減少しているが、原水の一時的なバラツキと思われる。
【0036】
<比較例1>
比較例1として、実施例1の脱色用部材1に代えて、顆粒子状活性炭(和光特級試薬、ロット番号 WKL1685)を使用し、この顆粒子状活性炭を充填量20g・充填容積50mLでカラム5に充填し、それ以外は実施例1と同様にして、汚水処理水の溶存有機炭素及び色素物質の吸着試験を行った。
【0037】
(1−5)溶存有機炭素及び色素物質の吸着試験の計測結果
図2に示すように、溶存有機炭素(DOC)成分の吸着性能については、実施例1は比較例1に対して顕著な差異が見られなかった。しかし、図3に示すように、色素物質の吸着性能については、実施例1は通水の開始から通水量46Lの頃まで高い脱色能力を示し、比較例1に対して明らかに優れていた。このことは、実施例1の脱色用部材1による吸着性能が色素物質に対して特異的に高いことを示している。カラムに数十cmの深さで入れた実施例1の脱色処理水7を上から目視すると、実質的に無色であった。
【0038】
(2)再生試験
(2−1)アルカリ水溶液
アルカリ水溶液8としては、NaOHが0.7質量%、NaClが25.2質量%となるように水に溶解させた水溶液を使用した。
【0039】
(2−2)再生試験方法
次に、上記溶存有機炭素及び色素物質の除去試験が終了した後の実施例1のカラム5に、図1(b)に示すように、カラムの容量に対して十分に多量のアルカリ水溶液8を貯留した容器9を、アルカリ水溶液8が循環可能なように接続し、脱色用部材1の再生試験を行った。上記の脱色用部材1を充填したカラム5に、上方から流速300mL/時間(SV値6)でアルカリ水溶液8を通水し、脱色用部材1から色素物質を脱離させた。3時間通水したところで再生処理を終了した。
【0040】
(2−3)再生試験結果
こうして脱色用部材1を再生した実施例1のカラム5に、図1(a)に示すように、再び上記の汚水処理水6を上方から流速300mL/時間(SV値6)で1回通水し、通水の開始から終了までの間の随時において、脱色処理水7の色度を計測した。図4にその計測結果を示す。この計測結果から、再生後の脱色用部材1は、図2の実施例1と同等以上の脱色効果を有することが分かる。
【0041】
(3)まとめ
従って、上記の色素物質の吸着(脱色工程)と再生工程とを、適宜のインターバルで交互に繰り返すことにより、汚水処理水の脱色処理を効率的に実施できることが裏付けられた。
【0042】
<再生試験の変更例1>
アルカリ水溶液8として、0.7質量%のNaOHのみを(NaClは無し)溶解させた水溶液を使用し、上記と同様の再生試験を行ったところ、上記とほぼ同等の再生結果が得られた。
<再生試験の変更例2>
アルカリ水溶液8の通水時間を1時間に減らして、上記と同様の再生試験を行ったところ、上記とほぼ同等の再生結果が得られた。
【実施例2】
【0043】
次に、実施例2として、図5に示すように、実規模実証試験(色素物質の吸着試験)を行った。
(1)色素物質の吸着試験
図5(a)に示すように、実規模の処理槽11に実施例1と同様の脱色用部材1を、充填量200kg・充填容積500Lで充填した。この処理槽11に実施例1と同様の汚水処理水6を上方から流速2000L/時間(SV値4)で1回通水し、色素物質を脱色用部材1に吸着させた。本試験は15日間連続して行った。通水の開始から終了までの間の随時において、脱色処理水7の色素物質の吸着傾向は実施例1と同様であった。
【0044】
(2)再生試験
図5(b)に示すように、上記色素物質の除去試験が終了した後の実施例2の処理槽11に、実施例1と同様のアルカリ水溶液8を貯留した貯留槽12を、アルカリ水溶液8が循環可能なように接続し、脱色用部材1の再生試験を行った。上記の脱色用部材1を充填した処理槽11に、上方から流速2000L/時間(SV値4)でアルカリ水溶液8を通水し、脱色用部材1から色素物質を脱離させた。3時間通水したところで再生処理を終了し、再生後の脱色用部材1が脱色効果を回復したことを確認した。
図6の左側に使用前のアルカリ水溶液を入れた半透明容器を示し、図6の右側に使用後のアルカリ水溶液を入れた半透明容器を示す。脱色用部材1から脱離した色素物質がアルカリ水溶液に移行したことが分かる。
【0045】
(3)まとめ
従って、上記の色素物質の吸着(脱色工程)と再生工程とを、適宜のインターバルで交互に繰り返すことにより、汚水処理水の脱色処理を効率的に実施できることが実証された。
【0046】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施例1を示し、(a)は溶存有機炭素及び色素物質の吸着試験装置の正面図、(b)は再生試験装置の正面図である。
【図2】該溶存有機炭素の吸着試験の計測結果を示すグラフである。
【図3】該色素物質の吸着試験の計測結果を示すグラフである。
【図4】該再生試験後に再度行った色素物質の吸着試験の計測結果を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例2を示し、(a)は色素物質の吸着試験装置の正面図、(b)は再生試験装置の正面図である。
【図6】該再生試験に用いたアルカリ水溶液を入れた半透明容器の写真による図であり、左側は使用前のもの、右側は使用後のものである。
【符号の説明】
【0048】
1 脱色用部材
2 細孔
3 マイクロボイド
5 カラム
6 汚水処理水
7 脱色処理水
8 アルカリ水溶液
9 容器
11 処理槽
12 貯留槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔を有するポリマーにより囲まれたマイクロボイドを含有し、前記ポリマーにハイドロタルサイトが担持されてなる粒子状、繊維状又は塊状の脱色用部材を、容器に充填して水が通過可能な充填層を形成し、汚水を浄化処理してなるが色成分である腐植物質又は屎尿系色素物質が残留した汚水処理水を前記充填層に通水することにより、前記腐植物質又は屎尿系色素物質を前記脱色用部材に吸着させて前記汚水処理水を脱色することを特徴とする汚水処理水の脱色方法。
【請求項2】
細孔を有するポリマーにより囲まれたマイクロボイドを含有し、前記ポリマーにハイドロタルサイトが担持されてなる粒子状、繊維状又は塊状の脱色用部材であって、色成分である腐植物質又は屎尿系色素物質を吸着した後の脱色用部材が容器内で水が通過可能な充填層を形成しており、前記充填層に脱離液アルカリ水溶液を通水することにより、前記腐植物質又は屎尿系色素物質を前記脱色用部材から脱離させて前記脱色用部材を再生することを特徴とする脱色用部材の再生方法。
【請求項3】
細孔を有するポリマーにより囲まれたマイクロボイドを含有し、前記ポリマーにハイドロタルサイトが担持されてなる粒子状、繊維状又は塊状の脱色用部材を、容器に充填して水が通過可能な充填層を形成し、汚水を浄化処理してなるが色成分である腐植物質又は屎尿系色素物質が残留した汚水処理水を前記充填層に通水することにより、前記腐植物質又は屎尿系色素物質を前記脱色用部材に吸着させて前記汚水処理水を脱色する脱色工程と、
前記脱色工程後の前記充填層にアルカリ水溶液を通水することにより、前記腐植物質又は屎尿系色素物質を前記脱色用部材から脱離させて前記脱色用部材を再生する再生工程とを、交互に繰り返すことを特徴とする汚水処理水の脱色方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−202125(P2009−202125A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−48884(P2008−48884)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度地域新生コンソーシアム研究開発事業「中・小規模排水処理施設用高性能リン除去・回収装置の開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000185949)クリオン株式会社 (105)
【出願人】(504155293)国立大学法人島根大学 (113)
【出願人】(391054143)株式会社イズコン (9)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】