説明

汚水浄化装置

【課題】設置の場所を取らず、簡易的に設置可能で、効率的に汚水の浄化を行い得る汚水浄化装置を提供する。
【解決手段】上部に設けられた流入部から流入した汚水が、流路内にて浄化されて下部に設けられた排出部から排出される汚水浄化装置1であり、流路は、水平面に対し流水方向に向けて上方へ傾斜し、これにより該流路内に汚水滞留空間が形成される上昇流路と、水平面に対し流水方向に向けて下方へ傾斜した下降流路とを備える。汚水滞留空間には、汚水を浄化する浄化物質50が設置されている。汚水滞留空間に汚水を滞留させつつ、浄化物質50による浄化作用で汚水を浄化して排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚水浄化装置、特に、光合成細菌を利用した汚水浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、阪神淡路大震災や新潟県中越地震等、大震災時に下水道施設が壊滅され、処理施設の運転停止などが生じる事態に陥り、汚水が公共用水域へ直接垂れ流しになる事態があった。また、一般家庭において、上下水道が使用不能となることにより、トイレが使用できない等の問題も報告されている。更には、下水による土壌汚染や地下水汚染等も報告されている。
【0003】
また、田園地帯に広がる家屋や離島の汚水に対して、浄化処理設備はほとんど設けられておらず、そのまま垂れ流しとなっている。さらに、大都市域などでは「合流式下水道」という方式が多く見られるが、雨の日には洗濯排水を含む排水が汚れたまま河川等へ流れ出てしまっている。
【0004】
このような、地震災害による下水の垂れ流しや、生活排水の垂れ流しによる水質汚染は非常に大きな問題となっていることから、環境の改善が必要とされる。
【0005】
水質や土壌汚染の改善について、微生物を用いた手法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−238258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、汚染土壌中に光合成細菌を混合し、かつ光ファイバーによって土壌中に光を導入し、汚染物質を分解する方法が開示されている。この手法は光源を必要とすることから、簡易的に用い得るものではない。
【0008】
本発明は、上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、設置の場所を取らず、簡易的に設置可能で、効率的に汚水の浄化を行い得る汚水浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る汚水浄化装置は、
上部に設けられた流入部から流入した汚水が、流路内にて浄化されて下部に設けられた排出部から排出される汚水浄化装置において、
前記流路は、水平面に対し流水方向に向けて上方へ傾斜し、これにより該流路内に汚水滞留空間が形成される上昇流路と、水平面に対し流水方向に向けて下方へ傾斜した下降流路とを備え、
前記汚水滞留空間に汚水を浄化する浄化物質が設置され、
前記汚水滞留空間に汚水を滞留させつつ、前記浄化物質による浄化作用で汚水を浄化する、
ことを特徴とする。
【0010】
また、前記汚水滞留空間に汚水が最大限満たされた際に、汚水面上方の空間が外気に連通する開放空間とされていることが望ましい。
【0011】
また、前記上昇流路が管状体の上昇管にて形成され、前記下降流路が管状体の下降管にて形成され、前記上昇管と前記下降管とが屈曲部を有する屈曲管を介して連結されていてもよい。
【0012】
また、前記上昇管、前記下降管、及び、前記屈曲管がそれぞれ脱着自在であってもよい。
【0013】
また、前記下降管と前記上昇管とが前記屈曲管にてつづら折り状に連結されていてもよい。
【0014】
また、鉛直方向に伸びる同一平面上に前記下降管と前記上昇管とがつづら折り状に連結されていてもよい。
【0015】
また、前記下降流路の内部に堰板が設けられ、前記下降流路内にも汚水滞留空間が形成されていてもよい。
【0016】
また、前記汚水滞留空間にエアを供給する曝気装置を備えていてもよい。
【0017】
また、前記浄化物質が汚水に含まれる成分を分解可能な微生物であってもよい。
【0018】
また、前記微生物が光合成細菌及び/又は脱臭光合成細菌であってもよい。
【0019】
また、前記微生物がアルギン酸及び/又は寒天にて担体に固定された微生物固定化フィルターが前記汚水滞留空間に配置されていてもよい。
【0020】
また、前記微生物固定化フィルターがカートリッジに設置され、前記カートリッジが前記上昇流路の内部に挿入されていてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る汚水浄化装置は、上昇管と下降管とが交互に連結した簡易な構成であり、設置場所の自由度が高い。そして、汚水浄化装置では、汚水を上流から下流へ流す際に汚水を滞留させる汚水滞留空間を有しており、この空間には汚水を浄化可能な浄化物質が配置されているので、この空間に汚水を滞留させつつ、浄化物質で汚水を浄化することができる。これにより従来の浄化槽に代わる、設置容易で、省スペース型の汚水浄化装置が実現できる。また既設の浄化槽に追加して汚水浄化装置を設置すれば、浄化能力をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】汚水浄化装置の外観図である。
【図2】汚水浄化装置の断面図である。
【図3】汚水浄化装置の部分断面図である。
【図4】他の実施の形態に係る汚水浄化装置の断面図である。
【図5】他の実施の形態に係る汚水浄化装置の断面図である。
【図6】浄化物質が設置されたカートリッジの斜視図である。
【図7】浄化物質が設置されたカートリッジの斜視図である。
【図8】他の形態に係る汚水浄化装置の分解斜視図である。
【図9】排出液中のCODの経時変化を示すグラフである。
【図10】排出液中のリン酸イオンの経時変化を示すグラフである。
【図11】排出液中の硝酸性窒素の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本実施の形態に係る汚水浄化装置1は、図1の外観図及び図2の断面図に示すように、汚水が流入する流入管11、浄化された汚水が排出される排出管12、これら流入管11及び排出管12の間に連接された上昇管20a〜20c、下降管30a、30b、屈曲管40a〜40f、及び上昇管20a〜20cの内面底部に敷設された浄化物質50から構成される。上昇管20a〜20cにて上昇流路が、下降管30a、30bにて下降流路が形成される。
【0024】
流入管11、排出管12、上昇管20a〜20c、下降管30a、30b、屈曲管40a〜40fは、それぞれ内部中空で、断面環状の筒体である。
【0025】
流入管11は上部が開口しており、下部は屈曲管40aを介して上昇管20aの下端に連結している。
【0026】
そして、上流から下流に向けて順に上昇管20a、下降管30a、上昇管20b、下降管30b、上昇管20cの順に交互に配置されている。上昇管20aと下降管30aとは略U字状の屈曲管40bを介して、下降管30aと上昇管20bとは屈曲管40cを介して、上昇管20bと下降管30bとは屈曲管40dを介して、また、下降管30bと上昇管20cとは屈曲管40eを介してそれぞれ連結している。
【0027】
最も下方に位置する上昇管20cは屈曲管40fと連結し、屈曲管40fの他端は排出管12と連結している。屈曲管40a及び屈曲管40dは略L字状、屈曲管40b〜40eは略U字状の連結管である。排出管12の他端は下方が開口しており、下水又は浄化槽等へつながっている。
【0028】
このように、汚水浄化装置1はつづら折り状に形成された一本の流路を有しており、流入管11から流入した汚水は、上昇管20a〜20c内を上昇し、下降管30a、30b内を流下し、屈曲管40a〜40fで形成された流路を蛇行しながら流れ、排出管12から排出される。
【0029】
そして、上昇管20a〜20cは、上流から下流に向けて水平面から上方へ傾斜して配置されている。また、下降管30a、30bは、上流から下流に向け、水平面から下方へ傾斜して配置されている。
【0030】
上昇管20a〜20cは、上流から下流に向けて水平面から上方へ傾斜しているため、上昇管20a〜20cそれぞれの内部には、流れてきた汚水を滞留させる汚水滞留空間(図2に斜線で示す断面略3角形部分)が形成されている。そして、上昇管20a〜20c内部に形成されるこの空間には、汚水を浄化する浄化物質50がそれぞれ敷設されている。このため、流入した汚水はこの空間に滞留しつつ、浄化物質50によって浄化される。この浄化物質50は、少なくとも滞留汚水が接する管内面に敷設される。
【0031】
上昇管20a〜20cの傾斜角度は、汚水が滞留する空間に汚水が最大限満たされた場合、汚水の水面が上部の内壁(天井部分)に接しない程度に設定されることが好ましい。言い換えると、図3の断面図に示すように、上昇管20a〜20cの上流側の屈曲部の内壁上端に接する水平面S1が、上昇管20a〜20cの下流側の屈曲部の内壁下端(管底部)に接する水平面S2よりも高く、両者間に所定の距離Dほど離間していることが好ましい。これにより、汚水浄化装置1内に空気の通り道が確保されて管内の空気の排気が可能となり、同時に汚水の流れもスムーズになる。上昇管20a〜20cの傾斜角度は、用いる上昇管20a〜20cの長さや直径に応じ、汚水の水面が上部の内壁に接しない程度に適宜設定される。
【0032】
一例としてあげれば、内径107mm、長さ1000mmの塩化ビニル製パイプ5本(上昇管3本、下降管2本)を、各管の水平面に対する傾斜角を7度として連結して装置を構成した場合、間隔Dは25mmとなり、上昇管20の汚水滞留容積(図2に斜線にて示す略3角形部分)は最大4.3リットルとなる。3本の上昇管20a〜20cでは合計12.9リットルの汚水が滞留可能となる。一般家庭の汚水処理に際しては、この約2倍の処理量が必要となるため、パイプの内径を大きくするかまたはパイプ数を増やす必要がある。
【0033】
浄化物質50として、汚水を浄化可能な微生物を用いることができる。微生物として、光合成細菌及び脱臭光合成細菌が挙げられる。これらの細菌として、脱窒能、COD除去能を有するRhodobacter sphaeroides S、油分解能、耐熱性を有するRhodobacter sphaeroides NAT、脱窒能を有するRhodobacter sphaeroides IL106、リン蓄積能を有するRhodobacter sphaeroides NR−3、脱臭能を有するRhodopseudomonas palstris、デンプン分解能、タンパク分解能を有するRhodcyclus gelatinosus等が挙げられる。これらは複数組み合わせて用いられるのが効果的であるが、単一で用いることも可能である。浄化しようとする汚水に含有している成分を考慮して、適宜選択して用いられる。
【0034】
上述した光合成細菌は、光の当たらない暗条件下でもその機能を発揮する。このため、本実施の形態に係る汚水浄化装置1は必ずしも光を透過可能な素材から構成される必要はなく、また、汚水浄化装置1内部に光を照射させる装置を設ける必要もない。
【0035】
更には、上記の光合成細菌により汚水を処理すれば、脱臭能も発揮されて悪臭の発生も抑えられるととともに、汚泥発生も極めて少なく、汚泥処理も抑えられる。
【0036】
浄化物質50として、上述した微生物が多孔質状の担体に固定化された微生物固定フィルターが用いられていてもよい。担体への微生物の固定化は、アルギン酸や寒天を用い行うことができる。担体として、スポンジや観賞魚用のろ過フィルター(化学繊維を絡み合わせた構造)等が挙げられ、微生物を混合したゲル状のアルギン酸又は寒天がこれに固定され、厚さ10mm程度の柔らかいシート状に形成される。アルギン酸又は寒天は汚水に接触して溶け微生物を汚水中に放出する。
【0037】
また、浄化物質50として、観賞魚用ろ過フィルター等がそのまま用いられていてもよい。
【0038】
微生物固定フィルター或いはろ過フィルターを上昇管20a〜20cに設置する場合、アロンアルファ(登録商標)等、耐水性接着材を用いて固定するとよい。微生物固定フィルターは常時汚水に浸漬した状態となるが、その場合でも上昇管20a〜20cから剥離し難く好適である。
【0039】
上記微生物の活性化を図るため、図4に示すように、汚水が滞留する箇所にエアレーションパイプ60が設置されていることが望ましい。不図示のエアーポンプ等からエアレーションパイプ60を介して汚水の滞留箇所を曝気することにより、好気条件下とすることができる。好気条件下とすることで、微生物の活動が活性化され、汚水の浄化能力が高まる。曝気を効率よく行うためにパイプ60の先端は各上昇管20a〜20cの汚水滞留部の最深部分に位置させるのが望ましい。またエアレーションは連続して行うことができる。
【0040】
また、図5に示すように、下降管30a、30bに汚水が滞留するよう複数(図示の例は3枚)の堰板70が垂直方向に設けられていてもよい。この堰板70は略半円形形状を有し、下降管30a、30bの下降面に適当な間隔を隔てて固定され、新たな汚水の滞留領域が形成される。3枚の堰板70は下降管30a、30bが傾斜していることから、その上端が下流に行くほど低い位置にあり、それゆえ上流側の滞留領域のあふれた汚水が、次段の滞留領域へ流れ込む構成とされている。これら滞留領域底部にはそれぞれ浄化物質50が設置され、汚水が浄化される。堰板70を設けることで、汚水の滞留量が増加し、汚水浄化効率が向上する。
【0041】
また、流入管11、排出管12、上昇管20a〜20c、下降管30a、30b、屈曲管40a〜40fは、それぞれ着脱自在な構成であることが好ましい。この場合、汚水浄化装置1に流れる汚水が連結箇所から漏れないよう、それぞれ連結する管同士が嵌合し、連結箇所に防水テープ等が巻かれていたり、或いは、パッキンが用いられている構造であることが好ましい。また、それぞれの連結部に係止金具等が設けられ、汚水浄化装置1の分解・組み立てが容易に行える構成であってもよい。
【0042】
汚水浄化装置1を上記のように分解可能とすることにより、浄化物質50の交換を容易に行うことができる。浄化物質50は汚水に溶け出し微生物を及び水中に放出することから、時間経過とともにその量は徐々に減っていく。それゆえ浄化物質50を定期的(半年ないし1年程度)に交換することで、汚水浄化装置1の浄化能力を保つことができる。
【0043】
また、図6に示すように、浄化物質50の交換作業がより容易に行えるよう、浄化物質50を固定したカートリッジ80を用いてもよい。上昇管20a〜20cの内部から使用済みのカートリッジ80を引き抜き、代わりのカートリッジ80を上昇管20a〜20cの内部に挿入するだけで、容易に浄化物質50を交換することができる。また、図7に示すように、堰板70及び浄化物質50が設置されたカートリッジ80を用いることもできる。
【0044】
また、上記例のように、上昇管20a〜20c等として、塩化ビニル製など、樹脂製パイプを用いて汚水浄化装置1を製造すれば軽量で持ち運びも容易である。しかし、上昇管20a〜20c等の材料はこれに限定されず、金属等他の材料よりなる管を使用することもできる。
【0045】
また、上述のように、流入管11、排出管12、上昇管20a〜20c、下降管30a、30b、屈曲管40a〜40fがそれぞれ着脱自在であれば、分解状態でコンパクトに纏めて持ち運ぶこともでき、設置場所で汚水浄化装置1を組み立てて用いることもできる。したがって、汚水の浄化が必要な場所での、簡易的な汚水処理が可能である。例えば、地震等の災害時に架設避難場所では、生活排水やし尿等の浄化が要求されるが、その様な場所でも汚水浄化装置1を簡単に設置することができる。
【0046】
更に、流入管11、排出管12、上昇管20a〜20c、下降管30a、30b、屈曲管40a〜40fとして、それぞれ市販の塩化ビニル製等のパイプをそのまま用いることにより、汚水浄化装置1は低コストで製造可能である。
【0047】
また、鉛直方向に延びる同一平面上に、流入管11、排出管12、上昇管20a〜20c、下降管30a、30b、屈曲管40a〜40fがつづら折り状になるように汚水浄化装置1が構成されていることが好ましい。これにより、汚水浄化装置1を建物の壁に沿わせて設置する等、設置場所の制限が少なく、狭い設置スペース等、様々な場所へ設置することができる。
【0048】
上記の実施形態では、鉛直方向一平面内につづら折り形状とした汚水浄化装置1について説明したが、上昇管と下降管が交互に連結していればよく、これに限定されることはない。例えば、上昇管と下降管が交互に連結して平面略四角とし、これを複数段形成した四角柱形状であってもよく、また、六角注形状等、多角形かつ立体的な構造とした汚水浄化装置であってもよい。或いは、複数の半円弧状の上昇管及び下降管とが交互に連結した円柱形状の汚水浄化装置であってもよい。
【0049】
また、上昇管と下降管の数に制限はなく、上述した5段構造のほか、3段構造、7段構造、9段構造等、適宜選択可能であり、汚水処理量、設置スペース等を考慮して設計される。上昇管及び下降管の長さ、内径、傾斜角度の選択も同様である。
【0050】
また、上記の実施形態では、流入管11、排出管12、上昇管20a〜20c、下降管30a、30b、屈曲管40a〜40fが円管形状である場合について説明したが、多角形の管形状であってもよい。
【0051】
また、上記実施形態においては、上昇流路及び下降流路にパイプ等の管状体を利用した場合について説明したが、上昇流路及び下降流路が形成されるならば、これに限定されることはない。
【0052】
例えば図8に示すように、直方体形状の汚水浄化装置90であってもよい。直方体形状の本体91の内部を仕切板93a〜93c、94a〜94cにて区分することで流路を形成することもできる。即ち、仕切板93a〜93cは水平方向Xに対し流路方向に向けて上方に傾斜している。他方、仕切板94a〜94cは水平方向Xに対し流路方向に向けて上方に傾斜している。仕切板93a〜93cにて上昇流路が形成され、仕切板94a〜94cにて下降流路が形成される。上昇流路には、仕切板93a〜93cとその先端が位置する水平面との間に汚水滞留空間が形成される。仕切板93b、93cの最上端は仕切板94a、94bの最下端より高い位置に設定されており、それゆえ仕切板93b、93cにて形成される汚水滞留空間の上部は、開放空間とされ外気に対し連通状態にある。
【0053】
95は汚水流入管、96は排出管である。50は仕切板93a〜93c上に敷設された前述同様の浄化物質である。前記実施形態と同様、下降流路を形成する仕切板94a〜94cの途中に垂直方向Yに略一致する方向に延びる堰板を適当な間隔で複数設け、ここに別の汚水滞留空間を形成することもできる。60は滞留した汚水に空気を吹き込むエアレーションパイプ、92は汚水浄化装置90の前面を閉鎖する蓋体で、パッキン(図示せず)等を介してシールされた状態で本体91に固定される。この蓋92は、保守点検の作業を容易にするために、本体91に対し、取り外し可能に取り付けられるのが望ましい。またこの蓋体92は透明樹脂等により構成し、内部に外光が入射する構造とすれば、流路内で植物を栽培することも可能となる。
【実施例】
【0054】
汚水浄化装置を作成し、これに下水を流して浄化を行った。
【0055】
汚水の浄化作用を有する微生物として、紅色非硫黄細菌Rhodobacter属に分類されるRhodobactersphaeroides S(以下、S株と記す)を用いた。
【0056】
S株は、市販されている養魚用の水質浄化フィルターに固定化して用いた。S株の固定化には、アルギン酸ナトリウムを使用した。固定化の手順として、遠心分離機によって濃縮回収したS株を吸光光度計によりOD660=40の濃度に調整した。調整後、濃度4%のアルギン酸ナトリウム溶液を等量混合した。その後、混合したものを水質浄化フィルターへ染み込ませ、塩化カルシウム溶液(6.62g/L)に6時間以上浸し、NaとCaの交換により固定化を行った。
【0057】
図4に示す汚水浄化装置1を組み立てた。上昇管20a〜20c、下降管30a、30b等の管体として市販の塩化ビニル製のパイプを用いて組み立てた。そして、それぞれの上昇管20a〜20cの底部内壁に固定化菌体フィルターを設置した。
【0058】
上記の水質装置1を用い、流入部から人工下水を流し、人工下水の浄化を試みた。人工下水は流量調整ポンプを用い、11mL/minの速度で、常時流し続けた。人工下水は、グルコースとペプトンを主成分とするものを用いた。人工下水の組成を表1に示す。
【表1】

【0059】
実験は室温を30℃に維持して行い、1日に4回、4時間ごとに装置1の排出部から取水し、COD・硝酸性窒素・燐酸の各含有量を分析した。(以下、固定化菌体フィルターと記す)
【0060】
また、S株を固定せずに浄化フィルターをそのまま設置した装置について(以下、フィルターと記す)、及び、S株及び浄化フィルターいずれも用いない装置について(以下、塩ビ管のみと記す)も、それぞれ上記同様に人工下水を流し、COD・燐酸イオン・硝酸性窒素の各含有量を分析した。
【0061】
(COD分析)
CODの分析は以下のようにして行った。ブランクとして純水を100mL三角フラスコに入れたものを二本用いた。また検水を1mL三角フラスコに入れたものに純水を99mL入れて100倍希釈した。これらに硫酸(12N,1+2)を10mLずつ加え攪拌した。次に全てに過マンガン酸カリウム(1/40N KMnO)を加え攪拌し着色させた。その後、100℃の水に30分間湯浴させた。最後にシュウ酸ナトリウム溶液を10mL加え攪拌し脱色させた。溶液が60℃を下回らない間に検水に入れたのと同じ過マンガン酸カリウム(1/40N KMnO)をビュレットに入れ、終点を薄い赤紫色に変色したところとして中和滴定を行い、CODの含有量値を求めた。
【0062】
COD含有値の経時変化を図9及び表2に示す。
【表2】

【0063】
塩ビ管のみでは全くCODが低下していない。一方、フィルターのみの場合では72時間辺りから、ゆっくりとした数値の低下が確認された。その後、108時間辺りに急激な低下をした後、数値の安定が確認された。このフィルターでもCODが低下する原因は、フィルター内に細菌が繁殖したためだと考えられる。
【0064】
また、固定化菌体フィルターでは、フィルターのみの場合より2日早い段階で急激な数値の低下が確認された。その後も、フィルターのみのものより低い値を保った。
【0065】
(燐酸イオン(PO)分析)
標準液(KHPO(燐酸二水素カリウム)7.165g/Lの燐酸標準原液を1000倍希釈したものを標準液とする)を、0,1,2,5,10mLと検水を1mLずつ各比色管に入れた。その後、40mLまでメスアップを行った溶液に、2.5M硫酸:酒石酸アンチモニルカリウム溶液(2.743g/L):モリブデン酸アンモニウム溶液(40g/L):アスコルビン酸溶液(1.76g/100mL)=10:1:3:6の比で混合した試薬を各検水に8mLずつ加えた。その後、純水で50mLまでメスアップを行い、全ての溶液を攪拌した後、10〜30分以内にOD880で各検水について吸光光度計を用いて吸光度を測定し、燐酸イオンの含有量値を求めた。
【0066】
リン酸イオンの含有量値の経時変化を図10及び表3に示す。
【表3】

【0067】
リン酸イオンの含有量値についても、固定化菌体フィルター、フィルター、塩ビ管のみともに、それぞれ上述したCODの分析結果とほとんど同じ様な経時変化が見られる。フィルターのみの場合では、数回に分けて数値の減少が確認され、その後はほぼ一定の数値を保った。固定化菌体フィルターではフィルターとは違い、急激な減少の後、低い値を保ち続けた。
【0068】
(硝酸性窒素の分析)
標準液KNO(0.772g/L)を0、0.1、0.3、0.5、1.0mLと検水1mLずつを各比色管に入れた後、純水を加えて10mLまでメスアップを行った。その後全ての比色管に緩衝剤として塩化ナトリウム溶液(300g/L)を2mL入れ攪拌した。次に濃硫酸を入れ攪拌した。このとき、硫酸と水が反応して熱が発生するので流水冷却を行った。最後にフルシルスルファニル溶液を0.5mL入れ攪拌した後、100℃のお湯20分温浴した。その後、流水冷却を行い、OD410を吸光光度計で測定して硝酸性窒素の含有量値を求めた。
【0069】
硝酸性窒素の含有量値の経時変化を図11及び表4に示す。
【表4】

【0070】
固定化菌体フィルターとフィルターとでは、いずれも硝酸性窒素含有量は当初の1/2程度に減少している。固定化菌体フィルターとフィルターとで大きな変化が見られないのは、曝気によってアンモニアがNOに酸化され、S株の脱窒能力が発揮出来なかったものと考えられる。なお、フィルターのみの場合だと、曝気の有無にかかわらず、120時間から140時間の辺りで急激な数値の増加が見られ、これは、フィルターの吸着できる許容範囲を超えたことが想定される。
【0071】
以上の実験結果から、人工下水が滞留する箇所を設け、また、その箇所に浄化作用を有するフィルターや固定化菌体フィルターを設置することで、下水の浄化が可能であることを立証した。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明に係る汚水浄化装置は、上述したように、上昇管と下降管とが交互に連結した簡易な構成であり、設置場所の自由度が高い。そして、汚水浄化装置では、汚水を上流から下流へ流す際に汚水を滞留させる空間を有しており、この空間には汚水を浄化可能な浄化物質が配置されているので、この空間に汚水を滞留させつつ、浄化物質で汚水を浄化することができる。
【0073】
汚水浄化装置は設置場所の自由度が高く、また、運搬も容易である。それゆえ災害時における簡易トイレの排泄物浄化装置、畜産における糞尿汚水の浄化装置として使用することができる。通常、汚水が排泄される適当な部分にこの汚水浄化装置を介在させることにより、かなり浄化した汚水を河川に排出し、また下水もしくは他の浄化槽等処理装置に導出させることができ、これら次段の処理負担を軽減することができる。
【0074】
また建物の壁面に設置することにより、狭いスペースでの利用が可能となる。また食品製造現場等において、既設の合併槽、浄化槽に追加して本発明に係る汚水浄化装置を設けることにより、さらに浄化能力を向上させ、浄化性能をも上げることが可能となる。本発明に係る汚水浄化装置において、浄化の進んだ下段のパイプに透明樹脂パイプを用い、又はLED等光源を設置してここに滞留している浄化の進んだ汚水を利用してクレソン、カイワレ大根等野菜を栽培することも可能である。
【符号の説明】
【0075】
1 汚水浄化装置
11 流入管
12 排出管
20a〜20c 上昇管
30a、30b 下降管
40a〜40f 屈曲管
50 浄化物質
60 エアレーションパイプ
70 堰板
80 カートリッジ
90 汚水浄化装置
91 本体
92 蓋体
93a〜93c 仕切版
94a〜94c 仕切版
95 流入管
96 排出管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部に設けられた流入部から流入した汚水が、流路内にて浄化されて下部に設けられた排出部から排出される汚水浄化装置において、
前記流路は、水平面に対し流水方向に向けて上方へ傾斜し、これにより該流路内に汚水滞留空間が形成される上昇流路と、水平面に対し流水方向に向けて下方へ傾斜した下降流路とを備え、
前記汚水滞留空間に汚水を浄化する浄化物質が設置され、
前記汚水滞留空間に汚水を滞留させつつ、前記浄化物質による浄化作用で汚水を浄化する、
ことを特徴とする汚水浄化装置。
【請求項2】
前記汚水滞留空間に汚水が最大限満たされた際に、汚水面上方の空間が外気に連通する開放空間とされていることを特徴とする請求項1に記載の汚水浄化装置。
【請求項3】
前記上昇流路が管状体の上昇管にて形成され、前記下降流路が管状体の下降管にて形成され、前記上昇管と前記下降管とが屈曲部を有する屈曲管を介して連結されている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の汚水浄化装置。
【請求項4】
前記上昇管、前記下降管、及び、前記屈曲管がそれぞれ脱着自在である、
ことを特徴とする請求項3に記載の汚水浄化装置。
【請求項5】
前記下降管と前記上昇管とが前記屈曲管にてつづら折り状に連結されている、
ことを特徴とする請求項3又は4に記載の汚水浄化装置。
【請求項6】
鉛直方向に伸びる同一平面上に前記下降管と前記上昇管とがつづら折り状に連結されている、
ことを特徴とする請求項5に記載の汚水浄化装置。
【請求項7】
前記下降流路の内部に堰板が設けられ、前記下降流路内にも汚水滞留空間が形成されている、
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の汚水浄化装置。
【請求項8】
前記汚水滞留空間にエアを供給する曝気装置を備える、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の汚水浄化装置。
【請求項9】
前記浄化物質が汚水に含まれる成分を分解可能な微生物である、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の汚水浄化装置。
【請求項10】
前記微生物が光合成細菌及び/又は脱臭光合成細菌である、
ことを特徴とする請求項9に記載の汚水浄化装置。
【請求項11】
前記微生物がアルギン酸及び/又は寒天にて担体に固定された微生物固定化フィルターが前記汚水滞留空間に配置されている、
ことを特徴とする請求項9又は10に記載の汚水浄化装置。
【請求項12】
前記微生物固定化フィルターがカートリッジに設置され、前記カートリッジが前記上昇流路の内部に挿入されている、
ことを特徴とする請求項11に記載の汚水浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−45445(P2012−45445A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187054(P2010−187054)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(593112137)
【Fターム(参考)】