説明

油圧式作業機の緊急脱出方法

【課題】異常が発生した油圧式作業機を鉄道軌道内などの作業場所から脱出させる作業を容易に行うことができる油圧式作業機の緊急脱出方法を提供する。
【解決手段】緊急脱出装置11は、エンジンにより駆動される油圧ポンプから油圧回路を介して供給される圧油により作動する走行装置12と、異常が発生した油圧式作業機72に圧油を供給するための圧油供給装置16とを備えている。圧油供給装置は、緊急脱出装置の油圧回路と油圧式作業機の油圧回路とを接続する油圧ホース26と、油圧ホースを巻き取るホースリール22とを備えている。油圧ホース接続後は、緊急脱出装置11と油圧式作業機72とを交互に走行させて油圧式作業機を鉄道軌道内から脱出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧式作業機の緊急脱出方法に関し、詳しくは、エンジンや油圧ポンプに異常が発生して自走不可能となった油圧式作業機を作業場所から安全な場所に脱出させるための油圧式作業機の緊急脱出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道軌道の敷設作業や保守作業、周辺施設の整備作業などに、エンジンにより駆動される油圧ポンプから油圧回路を介して供給される圧油により作動する走行装置及び作業装置を備えた油圧式作業機が用いられている。通常、鉄道軌道内での作業は、最終列車が通過した後、始発列車が運転を開始する前までの間に行われており、作業終了後は速やかに鉄道軌道内から待避する必要がある。
【0003】
また、架線下や跨線橋下、トンネル内などの鉄道軌道内で作業を行う際には、何らかの原因で油圧式作業機のエンジンや油圧ポンプに異常が発生して走行装置などに圧油を供給できなくなり、油圧式作業機が鉄道軌道内から待避できなくなった場合に備えて、油圧式作業機を外部から作動させて油圧式作業機を鉄道軌道内から脱出させるための緊急脱出装置を待機させておくことが行われている。
【0004】
前記緊急脱出装置として、原動機、油圧ポンプ及び作動油タンクからなる油圧源ユニットと、前記油圧源ユニットによって発生される圧油によって駆動される油圧モータと、この油圧モータによって駆動され、異常が発生した油圧式作業機の油圧回路に接続可能な油圧ポンプとからなるモータユニットとを備えた脱出装置が提案されており、さらに、前記油圧源ユニットとして、別の油圧作業機の油圧ポンプを利用することも提案されている(例えば、特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−148148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記特許文献1では、別の油圧作業機を油圧源ユニットとして用いることは提案しているものの、別の油圧作業機を油圧源ユニットとして使用し、ここからの圧油によってモータユニットの油圧ポンプを駆動し、このモータユニットの油圧ポンプで発生した圧油を異常が発生した油圧式作業機の油圧回路に供給するようにしているため、油圧源ユニットとなる別の油圧作業機とモータユニットとの間、モータユニットと異常が発生した油圧式作業機との間を、巻回した状態で別途保管していた油圧ホースを取り出してそれぞれ接続する必要があり、重くて太い油圧ホースを長く引き出して手作業で運んで接続しなければならないことから、非常に手間が掛かり、作業時間も長く掛かるという問題があった。
【0007】
そこで本発明は、異常が発生した油圧式作業機を鉄道軌道内などの作業場所から安全な場所に脱出させる作業を容易に行うことができる油圧式作業機の緊急脱出方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の油圧式作業機の緊急脱出方法は、エンジンにより駆動される油圧ポンプから油圧回路を介して供給される圧油により作動する走行装置を備えた油圧式作業機における前記エンジン又は前記油圧ポンプに異常が発生した際に、該油圧式作業機を作業場所から脱出させるための緊急脱出装置を使用した油圧式作業機の緊急脱出方法において、前記緊急脱出装置は、前記油圧式作業機とは別のエンジン及び該エンジンにより駆動される油圧ポンプと、該油圧ポンプからの圧油を前記油圧式作業機に供給するための圧油供給装置とを備えるとともに、該圧油供給装置は、緊急脱出装置の油圧回路と前記油圧式作業機の油圧回路とを接続する油圧ホースと、該油圧ホースを巻き取るホースリールと、該ホースリールを回転させる油圧モータとを備え、前記油圧式作業機を緊急脱出させる際には、前記緊急脱出装置を油圧式作業機の近くまで移動させる第1工程と、前記油圧ホースを前記ホースリールから繰り出して油圧式作業機の油圧回路に接続する第2工程と、圧油供給装置から油圧式作業機への圧油の供給を停止させた状態で緊急脱出装置を移動させることにより緊急脱出装置を油圧式作業機から離間させるとともにホースリールから油圧ホースを繰り出す第3工程と、緊急脱出装置の移動を停止させた状態で前記圧油供給装置から油圧ホースを介して油圧式作業機の油圧回路に圧油を供給し、該油圧式作業機の走行装置を作動させることにより油圧式作業機を緊急脱出装置に接近させるとともに、前記油圧モータによって前記ホースリールを油圧ホースの巻取方向に回転させる第4工程と、前記第3工程及び前記第4工程を少なくとも1回行って油圧式作業機の脱出場所に油圧式作業機が到達したときに、緊急脱出装置の移動を停止させた状態で前記圧油供給装置から油圧ホースを介して油圧式作業機の油圧回路に圧油を供給し、該油圧式作業機の走行装置を作動させることにより油圧式作業機を脱出させる第5工程とを行うことを特徴としている。
【0009】
また、本発明の油圧式作業機の緊急脱出方法は、前記ホースリールを回転させる前記油圧モータは、前記第2工程、第3工程及び第5工程では前記ホースリールを自由回転状態とし、前記第4工程では、あらかじめ設定されたトルク以下で前記ホースリールを前記油圧ホースの巻き取り方向に回転させることを特徴としている。
【0010】
さらに、前記緊急脱出装置の油圧回路から前記油圧式作業機の油圧回路に供給した圧油は、油圧式作業機の油圧回路から緊急脱出装置の油圧回路に戻して回収することを特徴としている。
【0011】
また、前記圧油供給装置は、前記緊急脱出装置に着脱可能に取り付けられていることを特徴とし、前記緊急脱出装置は、該緊急脱出装置の前記エンジンにより駆動される前記油圧ポンプから油圧回路を介して供給される圧油により作動する走行装置を備えていることを特徴としている。さらに、前記緊急脱出装置は、前記走行装置上に旋回可能に設けられた上部旋回体を備えるとともに、該上部旋回体の前部に該緊急脱出装置の前記エンジンにより駆動される前記油圧ポンプから油圧回路を介して供給される前記圧油により作動する油圧式作業機械を取り付けるフロント装置取付部とを備え、該記フロント装置取付部に前記圧油供給装置と前記油圧式作業機械とが着脱交換可能に取り付けられることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の油圧式作業機の緊急脱出方法は、油圧式作業機に異常が発生した際に、所定位置に待機させておいた緊急脱出装置を、異常が発生した油圧式作業機の近くまで走行させてから油圧ホースを接続した後、緊急脱出装置と油圧式作業機とを交互に走行させて油圧式作業機を鉄道軌道内から脱出させるので、緊急脱出装置における油圧供給能力を必要最小限とすることができ、前述のモータユニットのような他の設備を不要とし、緊急脱出装置や圧油供給装置の構造の単純化や装置の小型化を図りながら、異常が発生した油圧式作業機を鉄道軌道内などの作業場所から速やかに待避させることができる。
【0013】
また、ホースリールに油圧ホースを巻回した状態の圧油供給装置を備えているので、従来のように、巻回した状態で別途保管していた油圧ホースを取り出して用意する必要はなく、接続時に取り扱う油圧ホースの長さを短くできるので、油圧ホースの接続作業を容易に行うことができる。さらに、両者を交互に走行させるため、油圧ホースをホースリールから繰り出したり、巻き取ったりする操作が必要であるが、ホースリールに油圧モータを設けておくことにより、油圧ホースの巻き取りも容易に行うことができる。
【0014】
さらに、本発明方法で使用する緊急脱出装置として、走行装置上に旋回可能に設けられた上部旋回体のフロント装置取付部に、前記圧油供給装置と、圧油によって作動する油圧式作業機械、杭打作業機械とを選択して装着可能とすることにより、油圧式作業機の脱出用に待機させておく必要があるとき以外は、圧油供給装置を取り外して前記杭打作業機械をフロント装置取付部に装着するとともに、前記圧油供給装置に接続していた油圧回路を杭打作業機械を作動させるための油圧モータやシリンダなどに繋ぎ替えるだけで通常の杭打機と同様の杭打作業に使用することができる。これにより、緊急脱出装置として使用するとき以外には、杭打機として使用することができるので、緊急脱出装置の利用効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の緊急脱出方法の一形態例を示す説明図である。
【図2】圧油供給装置を装着する状態の緊急脱出装置を示す側面図である。
【図3】同じく平面図である。
【図4】杭打作業機械を装着した状態の緊急脱出装置を示す側面図である。
【図5】杭打作業機械を装着したときの緊急脱出装置の油圧回路の概略を示す回路図である。
【図6】異常が発生した油圧式作業機の油圧回路と緊急脱出装置の油圧回路とを油圧ホースを介して接続した状態で、緊急脱出装置のみが走行する際の圧油の流れを示す説明図である。
【図7】同じく異常が発生した杭打機のみが走行する際の圧油の流れを示す説明図である。
【図8】同じく異常が発生した杭打機でオーガ掘削を行う際の圧油の流れを示す説明図である。
【図9】同じく異常が発生した杭打機のオーガの昇降操作又は上部旋回体の旋回操作を行う際の圧油の流れを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するために用いられる緊急脱出装置11は、クローラを備えた走行装置12と、該走行装置12上に旋回可能に設けられた上部旋回体13と、該上部旋回体13の前部に設けられたフロント装置取付部14とを備えた装置本体15と、前記フロント装置取付部14に着脱可能に装着される圧油供給装置16及び杭打作業機械17とで構成されている。上部旋回体13の内部には、エンジン、油圧ポンプ、油圧回路、燃料タンクなどが設けられるとともに、上部一側には運転台18が設けられている。上部旋回体13の前後左右の四隅部には、フロントジャッキ13a及びリアジャッキ13bがそれぞれ設けられ、前記フロント装置取付部14には、圧油供給装置16を装着するための圧油供給装置装着部14aと、杭打作業機械17を装着するための杭打作業機械装着部14bとが設けられている。
【0017】
圧油供給装置16は、架台21の上に4台のホースリール22を並列に設けたものであって、架台21の後端部には、前記圧油供給装置装着部14aに連結するための連結部23が設けられている。各ホースリール22は、回転軸線を上部旋回体13の幅方向に向けて配置されており、回転軸の端部にはスイベルジョイントを有する油圧回路連結部24がそれぞれ設けられるとともに、各ホースリールを回転させるための油圧モータ25がチェーンを介してそれぞれ接続されている。前記各ホースリール22には、基端が前記油圧回路連結部24にそれぞれ連通する油圧ホース26がそれぞれ巻回されている。各油圧ホース26の先端には、異常が発生した油圧式作業機の油圧回路に接続するためのカプラ27がそれぞれ設けられており、待機時は架台21の前端部にカプラ27を保持させている。
【0018】
杭打作業機械17は、ブラケット31の前端に設けたリーダ取付部に起伏可能かつ傾動可能に支持されたリーダ32と、ブラケット31の後端に設けた起伏シリンダ取付部に基端が取り付けられ、先端がリーダ32の後部側に取り付けられた起伏シリンダ33と、リーダ32に沿って昇降する作業装置、例えばオーガ駆動装置34と、該オーガ駆動装置34を昇降させるための昇降手段35と、吊り上げ用のウインチ(図5参照)36とを備えており、起伏シリンダ33、オーガ駆動装置34、昇降手段35及びウインチ36には、それぞれを作動させるための油圧回路が接続されている。
【0019】
装置本体15に設けられている油圧回路41は、複数の油圧ポンプ42と、該油圧ポンプ42を駆動するエンジン43と、油圧ポンプ42から供給される圧油を所定の回路に切換供給するための複数のコントロール弁44とを備えている。装置本体15には、前記走行装置12を作動させるための左右一対の左走行用油圧モータ12ML及び右走行用油圧モータ12MRと、前記上部旋回体13を旋回させるための旋回用油圧モータ13Mとが前記油圧回路41に接続されている。
【0020】
装置本体15に杭打作業機械17を装着したときの油圧回路は、図5に示すように、前記油圧回路41に設けられている複数のコントロール弁44からの各回路と、杭打作業機械17に設けられている前記起伏シリンダ33、オーガ駆動装置34の油圧モータ34M、昇降手段35の油圧モータ35M及びウインチ36の油圧モータ36Mとがそれぞれ接続しており、各コントロール弁44を作動させることにより、これらの各機器を作動させるように形成している。なお、図面が煩雑なることを避けるため、図5では、装置本体15に杭打作業機械17を装着したときに使用する主な回路のみを図示し、各機器からの戻り回路や、フロントジャッキ13a、リアジャッキ13bなどを作動させる回路、圧油供給装置16を装着したときの回路の図示は省略している。
【0021】
図4及び図5に示すように、装置本体15に杭打作業機械17を装着し、複数のコントロール弁44により切り換えられる油圧回路41を杭打作業機械17のシリンダや油圧モータにそれぞれ接続することにより、通常の杭打機として、杭打作業や地盤改良作業などに使用することができる。
【0022】
装置本体15に圧油供給装置16を装着したときには、図6乃至図9に示すように、前記油圧回路41に設けられている複数のコントロール弁44からの各回路を、前記各ホースリール22の油圧回路連結部24を介して各油圧ホース26にそれぞれ接続する。また、一つのコントロール弁44には、各ホースリール22を回転させるための油圧モータ25を作動させるホースリール用油圧回路61が設けられている。このホースリール用油圧回路61には、ホースリール22の回転を巻取回転状態と自由回転状態とに切り換えるための回転状態切換手段62と、ホースリール22の回転トルクを切り換えるトルク切換手段63とが設けられている。なお、図6乃至図9においても、装置本体15に圧油供給装置16を装着したときに使用する主な回路のみを図示し、各部からの戻り回路などの図示は前記同様に省略する。
【0023】
回転状態切換手段62は、前記ホースリール駆動用の油圧モータ25に圧油を供給する供給側回路と油圧モータ25から圧油が戻る戻り側回路とを非連通状態と連通状態とに切り換える切換弁が用いられており、供給側回路と戻り側回路とを非連通状態(図7〜図9)にすることにより、油圧ポンプ42から一つのコントロール弁44を介してホースリール用油圧回路61の供給側回路に供給される圧油が各油圧モータ25にそれぞれ供給され、油圧モータ25によって各ホースリールが油圧ホースを巻き取る方向に回転し、油圧ホース26をホースリール22にそれぞれ巻き取っていく。各油圧モータ25から出た圧油は、戻り側回路を通り、最終的には油圧回路41内の作動油タンクに戻る。
【0024】
回転状態切換手段62にてホースリール用油圧回路61の供給側回路と戻り側回路とを、図6に示す連通状態にすることにより、供給側回路と戻り側回路との間を作動油が自由に流通できる状態になることから、各油圧モータ25が自由に回転できる状態になり、ホースリール22が自由回転状態となる。このホースリール22の自由回転状態は、ホースリール22から油圧ホース26を引き出すとき、即ちホースリール22を油圧ホース26の巻取方向と逆方向に回転させるときに用いられる。
【0025】
また、トルク切換手段63は、リリーフ弁63aと切換弁63bとを組み合わせて形成されており、リリーフ弁63aの設定圧は、油圧ホース26を巻き取ることができる範囲で十分に低い回転トルクをホースリール22(油圧モータ25)に与えることができる圧力に設定されている。切換弁63bは、ホースリール用油圧回路61の供給側回路と戻り側回路とをリリーフ弁63aを介して連通させる低トルク位置と、供給側回路と戻り側回路とを遮断する高トルク位置とを有しており、切換弁63bを高トルク位置に設定すると、供給側回路に供給される圧油が各油圧モータ25にそれぞれ供給され、油圧ポンプ42からの供給圧力に応じた圧力で油圧モータ25を作動させ、油圧ホース26を巻き取る方向にホースリール22を高トルクで回転させる。
【0026】
切換弁63bを低トルク位置に設定すると、油圧モータ25への圧油の供給圧力がリリーフ弁63aの設定圧以下のときには、その設定圧以下の圧力でホースリールを低トルクで回転させ、供給圧力がリリーフ弁63aの設定圧を超えるとリリーフ弁63aが開いて供給側回路と戻り側回路とが連通状態になり、供給側回路と戻り側回路との間を作動油が自由に流通できる状態になってホースリール22が自由回転状態となる。このように、あらかじめ設定したトルク以上でホースリール22が巻取方向に回転しないように形成することにより、油圧ホース26の巻き取り時に油圧ホース26に大きな引張荷重が作用することを防止でき、油圧ホース26を保護することができる。
【0027】
一方、図1に示すように、鉄道軌道内で作業を行う油圧式作業機、本形態例では短尺のリーダ71を装着した鉄道軌道内作業用の杭打機72は、通常の杭打機と同様に、クローラを備えた走行装置73と、該走行装置73上に旋回可能に設けられた上部旋回体74と、該上部旋回体74の前部に設けられた前記リーダ71と、該リーダ71を後方から支持する起伏シリンダ75と、前記リーダ71に沿って昇降する作業装置であるオーガ駆動装置76と、オーガ駆動装置76をリーダ71に沿って昇降させるための昇降手段77と、吊り上げ用のウインチ78などが設けられるとともに、これらを作動させるための油圧回路81が設けられている。
【0028】
杭打機72の油圧回路81は、図6乃至図9に示すように(図7乃至図9においては、油圧回路41及び油圧回路81の主要部にのみ符号を付している。)、複数の油圧ポンプ82と、該油圧ポンプ82を駆動するエンジン83と、油圧ポンプ82から供給される圧油を所定の回路に切換供給するための複数のコントロール弁84と、該複数のコントロール弁84によって切り換えられる機器作動用の回路とを備えている。機器作動用の回路は、各コントロール弁84から、走行装置73を作動させるための左右一対の左走行用油圧モータ73ML及び右走行用油圧モータ73MR、上部旋回体74を旋回させるための旋回用油圧モータ74M、前記起伏シリンダ75、オーガ駆動装置76の油圧モータ76M、昇降手段77の油圧モータ77M、ウインチ78の油圧モータ78Mにそれぞれ接続されている。さらに、鉄道軌道内で作業を行うための油圧式作業機として、外部の油圧回路を接続するための外部回路接続部85と、油圧回路81内で各機器から導出した作動油を外部回路接続部85側に切り換えるための戻り回路切換弁86とが設けられている。外部回路接続部85には、前記油圧ホース26の先端に設けられたカプラ27に対応したカプラ受け85aが設けられている。このカプラ受け85aとカプラ27は、非接続時には逆止弁によって閉じ状態となっており、両者を接続したときに自動的に開弁して連通状態になる構造のものが用いられている。
【0029】
この杭打機72は、通常時には、前記戻り回路切換弁86を油圧回路81内の作動油タンク87側に切り換えて自機の油圧回路81を使用し、走行装置73により鉄道軌道内の所定の位置に移動し、上部旋回体74を所定の角度に旋回させた状態で、起伏シリンダ75などでリーダ71の角度を調整し、昇降手段77によりオーガ駆動装置76を昇降させるとともに、オーガ駆動装置76を作動させて杭打作業を行う。このとき、緊急脱出装置11は、フロント装置取付部14に圧油供給装置16を装着した状態で所定の待機位置にて待機している。
【0030】
作業中にエンジン83又は油圧ポンプ82に異常が発生して杭打機72が自力で作業場所から所定の待避場所まで移動できなくなった場合、架線下ではクレーンを使用できないため、緊急脱出装置11が待機場所から鉄道軌道内に進入し、異常が発生した杭打機72の直近まで走行していく(第1工程)。そして、回転状態切換手段62をホースリール22の自由回転状態に切り換えて各ホースリール22から油圧ホース26をそれぞれ引き出し、杭打機72の外部回路接続部85に油圧ホース26をそれぞれ対応させて接続する(第2工程)。このとき、緊急脱出装置11を杭打機72の直近まで、例えば1乃至数m近くまで接近させることにより、ホースリール22から引き出して接続する油圧ホース26の長さを数m程度にすることができ、重くて太い油圧ホース26の接続作業を短時間で容易に行うことができる。また、油圧ホース接続後は、杭打機72の油圧回路81における前記戻り回路切換弁86を、外部回路接続部85側に切り換えておく。
【0031】
油圧ホース接続後の緊急脱出装置11による杭打機72の脱出作業は、図1に示すように、緊急脱出装置11と杭打機72とを交互に走行させて行う。
【0032】
まず、図1(A)に示すように、油圧ホース接続後の状態で、緊急脱出装置11を待避場所の方向(後退方向)へ走行させる。このとき、緊急脱出装置11の油圧回路41における回転状態切換手段62はホースリールの自由回転状態の位置、トルク切換手段63は任意の位置とし、コントロール弁44は、杭打機72の油圧回路81への圧油供給は行わずに、緊急脱出装置11自身の走行装置12を後退方向に作動させる状態とする。
【0033】
これにより、油圧回路41の油圧ポンプ42で昇圧した作動油は、所定のコントロール弁44から回路L11を通り、左走行用油圧モータ12ML及び右走行用油圧モータ12MRにそれぞれ供給され、走行装置12を作動させて緊急脱出装置11を杭打機72から離間させる。このとき、回転状態切換手段62がホースリール22の自由回転状態となっているので、杭打機72から緊急脱出装置11が離間していくのに伴って油圧ホース26がホースリール22から引き出されていく(第3工程)。
【0034】
図1(B)に示すように、緊急脱出装置11が杭打機72から所定距離、例えば油圧ホース26の長さに応じた距離まで離間したときに緊急脱出装置11を停止させるとともに、油圧回路41の油圧ポンプ42で昇圧した作動油を杭打機72の油圧回路81に供給する状態とし、杭打機72を後退させて緊急脱出装置11に近接した位置まで走行させる。
【0035】
すなわち、図7に示すように、油圧回路41の油圧ポンプ42で昇圧した作動油を、所定のコントロール弁44から圧油供給装置16を介して杭打機72の油圧回路81に供給し、杭打機72の走行装置73を後退方向に作動させるとともに、戻り回路切換弁86から外部回路接続部85を介して戻ってくる作動油を、所定のコントロール弁44から油圧回路41の作動油タンク45に回収する。また、前記回転状態切換手段62は非連通状態とし、トルク切換手段63は低トルク位置とする。
【0036】
油圧ポンプ42で昇圧した作動油は、所定のコントロール弁44から複数の供給側回路L12、この供給側回路L12に接続した供給側の油圧ホース26及び外部回路接続部85を経て杭打機72の油圧回路81におけるポンプ82の吐出側回路L13に供給される。これにより、杭打機72にて通常時と同様の後退方向への走行操作を行うことにより、所定のコントロール弁84から供給側回路L14を通って左走行用油圧モータ73ML及び右走行用油圧モータ73MRに圧油がそれぞれ供給され、走行装置73が後退方向に作動して緊急脱出装置11に接近する方向に杭打機72が走行する。
【0037】
各油圧モータ73ML,73MRから出た作動油は、図示しない戻り側回路(前進側回路)から所定のコントロール弁84に戻り、回路L15、戻り回路切換弁86、回路L16を通り、更に、外部回路接続部85を経て戻り側の油圧ホース26から油圧回路41の回路L17を通り、所定のコントロール弁44から油圧回路41の作動油タンク45に回収される。
【0038】
同時に、ホースリール22の各油圧モータ25は、トルク切換手段63によって低トルクで巻取方向に回転する状態に設定されているので、杭打機72が緊急脱出装置11に接近するのに伴って油圧ホース26をホースリール22に巻き取り、杭打機72が停止したときには、ホースリール22を空回り状態にして油圧ホース26やカプラ27などを保護する(第4工程)。
【0039】
そして、図1(C)に示すように、杭打機72が緊急脱出装置11に対して所定距離まで接近したときに、杭打機72を停止させることにより、前記図1(A)と同じ状態になるので、その後、杭打機72が待避場所に到達して脱出可能な状態になるまで、緊急脱出装置11の走行(第3工程)と杭打機72の走行(第4工程)とを交互に繰り返す。これにより、杭打機72を待避場所に待避させて鉄道軌道内から脱出させるとともに(第5工程)、緊急脱出装置11を鉄道軌道内から待避させることにより、鉄道軌道を列車が走行可能な状態にすることができる。
【0040】
また、前記緊急脱出装置11の油圧回路41を杭打機72の油圧回路81におけるポンプ82の吐出側回路に対応させてそれぞれ接続することにより、杭打機72では、通常時と同じ杭打作業を行うことも可能である。例えば、図8に示すように、杭打機72による杭打作業を行う場合には、緊急脱出装置11の油圧回路41から圧油供給装置16及び外部回路接続部85を介して杭打機72の油圧回路81に供給された圧油を、所定のコントロール弁84から回路L18を介してオーガ駆動装置76の油圧モータ76Mや昇降手段77の油圧モータ77Mに供給すればよい。さらに、図9に示すように、回路L19を介して旋回用油圧モータ74Mに圧油を供給することによって杭打機72の上部旋回体74を旋回させることができ、回路L20から圧油を供給することで起伏シリンダ75の伸縮、回路L21から圧油を供給することでウインチ78の操作、その他、各回路をそれぞれ選択することにより、フロントジャッキ及びリアジャッキの操作なども行うことができる。
【0041】
したがって、杭打作業中の杭打機72でエンジンや油圧ポンプに異常が発生した場合でも、杭打機72を鉄道軌道内で走行可能な状態にすることができるだけでなく、緊急脱出装置11の油圧回路41を接続することにより、杭打機72では通常時と同様に杭打作業を行うことができるので、中途半端な状態で杭打作業を終えることなく、列車が走行可能な状態になるまで作業を行ってから待避、脱出することができる。
【0042】
前記緊急脱出装置11は、杭打機72が鉄道軌道内で作業を行うときには、圧油供給装置16を装着した状態で所定位置に待機させておく必要があるが、鉄道軌道内での作業を行わない期間は、圧油供給装置16から油圧回路41の各回路を取り外してフロント装置取付部14から圧油供給装置16を取り外し、フロント装置取付部14に前記杭打作業機械17を装着するとともに、油圧回路41の各回路を杭打作業機械17の所定位置にそれぞれ接続することにより、図4及び図5に示したように、通常の杭打機として使用することができる。したがって、緊急脱出専用の装置のように待機状態で長期間にわたって保管しておく必要はなく、杭打機から緊急脱出装置11への変換も容易に行うことができるので、緊急脱出装置11の装置本体15を有効に利用することができ、稼働効率を向上させることができる。また、油圧ホース26は、圧油供給装置16に設けたホースリール22に巻回した状態で保管しておくことができるので、従来のように別途リールに巻回して保管した油圧ホースを工事現場に搬送したりする必要もなくなる。
【0043】
なお、本形態例では、緊急脱出装置を使用して脱出させる油圧式作業機として、鉄道軌道内で杭打作業を行う杭打機を例示したが、本発明の緊急脱出方法は、エンジンにより駆動される油圧ポンプから油圧回路を介して供給される圧油により作動する走行装置を備えたクレーン、ショベルをはじめとする各種油圧式作業機に対応可能である。また、脱出させる油圧式作業機の作業場所も特に限定されるものではなく、架線下や橋梁下、トンネル内などのクレーンを使用できない場所で作業する油圧作業機の脱出に好適にであるが、他の様々な場所で作業を行う油圧作業機の脱出にも同様にして使用することができる。
【0044】

さらに、前記形態例では、緊急脱出装置として、走行装置、上部旋回体及びフロント装置取付部を備え、フロント装置取付部に圧油供給装置又は杭打作業機械を装着可能とし、上部旋回体に、エンジン、油圧ポンプ、油圧回路、燃料タンク、運転台などを設けた緊急脱出装置を例示したが、緊急脱出装置としては、エンジン、油圧ポンプ、油圧回路及び燃料タンクを備えた本体部に前記同様の圧油供給装置を備えた専用の緊急脱出装置であってもよい。また、移動手段となる走行装置は、前記本体部に一体に設けられていてもよく、別体のものを用いることもでき、走行装置はクローラに限らず、車輪であってもよい。
【0045】
前記フロント装置取付部に装着する油圧式作業機械は、前記杭打作業機械に限定されるものではなく、ショベルなどを装着することもでき、フロント装置取付部に装着する油圧式作業機械を着脱可能な状態に形成するとともに、前述のような圧油供給装置を取り付け可能な状態に形成し、圧油供給装置を装着したときに必要となる油圧回路を付加しておくことにより、例えば、2台の杭打機の一方を所定の作業を行う杭打機として使用し、他方を緊急脱出装置として使用することも可能となる。
【符号の説明】
【0046】
11…緊急脱出装置、12…走行装置、12ML…左走行用油圧モータ、12MR…右走行用油圧モータ、13…上部旋回体、13a…フロントジャッキ、13b…リアジャッキ、13M…旋回用油圧モータ、14…フロント装置取付部、14a…圧油供給装置装着部、14b…杭打作業機械装着部、15…装置本体、16…圧油供給装置、17…杭打作業機械、18…運転台、21…架台、22…ホースリール、23…連結部、24…油圧回路連結部、25…油圧モータ、26…油圧ホース、27…カプラ、31…ブラケット、32…リーダ、33…起伏シリンダ、34…オーガ駆動装置、34M…油圧モータ、35…昇降手段、35M…油圧モータ、36…ウインチ、36M…油圧モータ、41…油圧回路、42…油圧ポンプ、43…エンジン、44…コントロール弁、45…作動油タンク、61…ホースリール用油圧回路、62…回転状態切換手段、63…トルク切換手段、63a…リリーフ弁、63b…切換弁、71…リーダ、72…杭打機、73…走行装置、73ML…左走行用油圧モータ、73MR…右走行用油圧モータ、74…上部旋回体、74M…旋回用油圧モータ、75…起伏シリンダ、76…オーガ駆動装置、76M…油圧モータ、77…昇降手段、77M…油圧モータ、78…ウインチ、78M…油圧モータ、81…油圧回路、82…油圧ポンプ、83…エンジン、84…コントロール弁、85…外部回路接続部、85a…カプラ受け、86…戻り回路切換弁、87…作動油タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより駆動される油圧ポンプから油圧回路を介して供給される圧油により作動する走行装置を備えた油圧式作業機における前記エンジン又は前記油圧ポンプに異常が発生した際に、該油圧式作業機を作業場所から脱出させるための緊急脱出装置を使用した油圧式作業機の緊急脱出方法において、前記緊急脱出装置は、前記油圧式作業機とは別のエンジン及び該エンジンにより駆動される油圧ポンプと、該油圧ポンプからの圧油を前記油圧式作業機に供給するための圧油供給装置とを備えるとともに、該圧油供給装置は、緊急脱出装置の油圧回路と前記油圧式作業機の油圧回路とを接続する油圧ホースと、該油圧ホースを巻き取るホースリールと、該ホースリールを回転させる油圧モータとを備え、前記油圧式作業機を緊急脱出させる際には、前記緊急脱出装置を油圧式作業機の近くまで移動させる第1工程と、前記油圧ホースを前記ホースリールから繰り出して油圧式作業機の油圧回路に接続する第2工程と、圧油供給装置から油圧式作業機への圧油の供給を停止させた状態で緊急脱出装置を移動させることにより緊急脱出装置を油圧式作業機から離間させるとともにホースリールから油圧ホースを繰り出す第3工程と、緊急脱出装置の移動を停止させた状態で前記圧油供給装置から油圧ホースを介して油圧式作業機の油圧回路に圧油を供給し、該油圧式作業機の走行装置を作動させることにより油圧式作業機を緊急脱出装置に接近させるとともに、前記油圧モータによって前記ホースリールを油圧ホースの巻取方向に回転させる第4工程と、前記第3工程及び前記第4工程を少なくとも1回行って油圧式作業機の脱出場所に油圧式作業機が到達したときに、緊急脱出装置の移動を停止させた状態で前記圧油供給装置から油圧ホースを介して油圧式作業機の油圧回路に圧油を供給し、該油圧式作業機の走行装置を作動させることにより油圧式作業機を脱出させる第5工程とを行うことを特徴とする油圧式作業機の緊急脱出方法。
【請求項2】
前記ホースリールを回転させる前記油圧モータは、前記第2工程、第3工程及び第5工程では前記ホースリールを自由回転状態とし、前記第4工程では、あらかじめ設定されたトルク以下で前記ホースリールを前記油圧ホースの巻き取り方向に回転させることを特徴とする請求項1記載の油圧式作業機の緊急脱出方法。
【請求項3】
前記緊急脱出装置の油圧回路から前記油圧式作業機の油圧回路に供給した圧油は、油圧式作業機の油圧回路から緊急脱出装置の油圧回路に戻して回収することを特徴とする請求項1又は2記載の油圧式作業機の緊急脱出方法。
【請求項4】
前記圧油供給装置は、前記緊急脱出装置に着脱可能に取り付けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の油圧式作業機の緊急脱出方法。
【請求項5】
前記緊急脱出装置は、該緊急脱出装置の前記エンジンにより駆動される前記油圧ポンプから油圧回路を介して供給される圧油により作動する走行装置を備えていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の油圧式作業機の緊急脱出方法。
【請求項6】
前記緊急脱出装置は、前記走行装置上に旋回可能に設けられた上部旋回体を備えるとともに、該上部旋回体の前部に該緊急脱出装置の前記エンジンにより駆動される前記油圧ポンプから油圧回路を介して供給される前記圧油により作動する油圧式作業機械を取り付けるフロント装置取付部とを備え、該記フロント装置取付部に前記圧油供給装置と前記油圧式作業機械とが着脱交換可能に取り付けられることを特徴とする請求項5記載の油圧式作業機の緊急脱出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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