説明

油圧式作業機械の作動油タンク

【課題】作動油タンクの底部に沈下した異物を捕獲することができて、油圧回路への再循環を効率的に抑制することができ、異物による油圧機器の摩耗を軽減可能な作動油タンクを提供する。
【解決手段】箱形に形成されたタンク本体1の底板1bと対向する部分に、多孔板からなる中底4を備える。中底4を構成する多孔板としては、パンチングメタルや金網を用いることができ、パンチングメタルを用いて中底4を構成する場合には、小孔4aの周縁に底板1b側に突出する返りを形成することもできる。また、タンク本体1の底板1bを下向きの凸形に形成し、その底部には異物排出用ドレン5を設置することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧式作業機械に備えられる作動油タンクに係り、特に、作動油タンク内に侵入した土砂等の異物による油圧機器の摩耗を抑制するための手段に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の油圧式作業機械は、ブーム、アーム、バケット又はブレーカ等のフロント部材を油圧シリンダにより駆動する構成になっている。油圧シリンダは、作動油の出入口が形成された筒状のシリンダ本体内に、末端部にピストンが取り付けられたロッドを出入可能に収容してなり、シリンダ本体に対してロッドを出没させてフロント部材の駆動を行うので、シリンダ本体内にロッドを引き込む際に、ロッドの表面に付着した異物をシリンダ本体内に取り込みやすい。特に、ブレーカ駆動用の油圧シリンダについては、作業部材であるブレーカチゼルの近くに油圧シリンダのロッド出入口が配置され、かつ作業によって生じる土砂の飛散方向に油圧シリンダのロッド出入口が向けられるので、シリンダ本体内に粉末状の土砂が侵入しやすい。シリンダ本体内に侵入した土砂等の異物は、油圧ポンプの駆動に伴って作動油と共に油圧回路を循環するが、その過程で、油圧回路を構成する各油圧機器の可動部の隙間に入り込み、油圧機器の摩耗の原因となる。
【0003】
油圧回路を循環した作動油は異物と共に作動油タンク内に戻されるので、作動油タンクには、内部に流れ込んだ異物を除去する機能や、油圧回路に再循環させない機能を備えていることが求められる。図7及び図8は、従来知られている作動油タンクの一例を示す図である。これらの図から明らかなように、この従来例に係る作動油タンクは、箱形に形成された作動油タンク100の内部を、蓋104に対して垂直に配置された仕切り板101にて、油戻り部102と油吸い込み部103とに分割し、蓋104に、油戻り部102に連通する油戻り口105と油吸い込み部103に連通する油吸い込み口106とをそれぞれ設けると共に、仕切り板101に連通管107を貫通して、その両端に設けられた開口部107A,107Bをそれぞれ油戻り部102と油吸い込み部103とに配置することにより構成されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
この作動油タンクによれば、油戻り口105から作動油タンク100の油戻り部102に戻された作動油は、連通管107を通って油吸い込み部103に流入し、しかる後に、油吸い込み口106を通って所要の油圧回路に供給されるので、作動油内に混入した異物は油戻り部102に戻された段階で作動油タンク100の底に沈み、また作動油内に混入したエアは油戻り部102に戻された段階で作動油タンク100の上方に浮き上がる。したがって、作動油タンク100にて作動油中の異物やエアを分離することができ、油圧回路を構成する各油圧機器の摩耗や動作不良を軽減することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−72492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の作動油タンク100は、底部に沈下した異物Cを捕獲し、作動油タンク100内に溜めておくための手段が備えられていないので、一旦底部に沈下した異物Cも、油戻り口105からの作動油の流入に伴って再び油戻り部102内で舞い上がり、連通管107、油吸い込み部103及び油吸い込み口106を通って油圧回路に再循環されることを防止できず、この点に改良の余地がある。また、特許文献1に記載の作動油タンク100には、底部に沈下した異物Cを外部に排出する機能が備えられていないので、作動油タンク100内に多くの異物Cが溜まりやすく、作動油の寿命が短くなるという問題もある。
【0007】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、作動油タンクの底部に沈下した異物を捕獲することができて、油圧回路への再循環を効率的に抑制することができ、異物による油圧機器の摩耗を軽減可能な作動油タンクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記の課題を解決するため、箱形に形成されたタンク本体と、該タンク本体に設けられた作動油流入口及び作動油流出口を備えた油圧式作業機械用の作動油タンクにおいて、前記タンク本体内の底板と対向する部分に、多孔板からなる中底を備えたことを特徴とする。
【0009】
かかる構成によると、タンク本体内の底板と対向する部分に多孔板からなる中底を備えたので、作動油流入口から作動油と共にタンク本体内に戻った異物は、自重により沈下して、中底に開設された透孔を通り、底板と中底との間に形成される異物溜め部内に侵入する。この異物溜め部内に侵入した異物は、作動油流入口からタンク本体内への作動油の流入及びタンク本体から作動油流出口への作動油の流出に伴う作動油の流れが中底によって遮られ、異物溜め部内における作動油の流れが弱まって、異物溜め部内における異物の舞い上がりが抑制されること、及び、異物溜め部内で舞い上がった異物が中底によって遮られ、中底よりも上方に至りにくくなることから、捕獲された異物の油圧回路への再循環が抑制され、油圧回路に備えられた油圧機器の摩耗を軽減することができる。
【0010】
また本発明は、前記構成の油圧式作業機械の作動油タンクにおいて、前記中底を構成する多孔板としてパンチングメタルを用い、当該パンチングメタルに開設された透孔の周縁に、前記底板側に突出する返りを形成したことを特徴とする。
【0011】
かかる構成によると、中底に開設された透孔の周縁に、作動油タンクの底板側に突出する返りを形成したので、異物溜め部内で舞い上がった異物が返りに当たって異物溜め部の内側に戻されやすく、中底に開設された透孔を通過してその上方に至る異物の量を減少できる。よって、異物溜め部に捕獲された異物の油圧回路への再循環がより一層抑制され、油圧回路に備えられた油圧機器の摩耗を軽減することができる。
【0012】
また本発明は、前記構成の油圧式作業機械の作動油タンクにおいて、前記タンク本体の底板をそれぞれ下方に傾斜する複数の面により形成し、その谷部に異物排出用のドレンを設置したことを特徴とする。
【0013】
かかる構成によると、タンク本体の底板をそれぞれ下方に傾斜する複数の面により形成したので、その谷部に異物が溜まりやすくなる。また、当該タンク本体の底板の谷部に異物排出用のドレンを設置したので、作動油タンク内に侵入した異物を効率的に排出することができ、作動油の寿命を延長することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、作動油流入口及び作動油流出口を備えたタンク本体内の底板と対向する部分に多孔板からなる中底を備えたので、作動油流入口から作動油と共にタンク本体内に戻り自重により沈下した異物を、底板と中底との間に形成される異物溜め部内に溜めることができ、この捕獲された異物の油圧回路への再循環を抑制できて、油圧回路に備えられた油圧機器の摩耗を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態に係る作動油タンクの側面図である。
【図2】実施形態に係る作動油タンクの縦断面図である。
【図3】実施形態に係る作動油タンクの底面図である。
【図4】図1のA方向から見た部分矢視図である
【図5】実施形態に係る作動油タンクに備えられる中底の一例を示す平面図である。
【図6】実施形態に係る作動油タンクに備えられる中底の要部拡大断面図である。
【図7】従来例に係る作動油タンクの横断面図である。
【図8】従来例に係る作動油タンクの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施形態に係る油圧式作業機械の作動油タンクについて説明する。
【0017】
図1〜図4に示すように、本実施形態に係る作動油タンクは、所要の容積を有する箱形に形成されたタンク本体1と、タンク本体1の周壁1aに貫通保持された作動油流入管2と、タンク本体1内において作動油流入管2に連結された流入側オイルフィルタ3と、タンク本体1内において底板1bと対向に配置された多孔板からなる中底4と、タンク本体1の底板1bに設けられた異物排出用ドレン5と、底板1b及び中底4に貫通保持された作動油流出管6と、タンク本体1内に備えられ作動油流出管6の開口部に押し付けられた流出側オイルフィルタ7と、タンク本体1の蓋板1cの上面に備えられた流出側オイルフィルタ7のメンテナンス用の操作部8と、流出側オイルフィルタ7と操作部8とを連結する連結部材9とから主に構成されている。作動油流入管2及び作動油流出管6のタンク本体1側の端部が、それぞれ作動油流入口及び作動油流出口となる。
【0018】
タンク本体1の底板1bは、図2〜図4に示すように、平面形状が角形に形成された周壁1aの一辺の中央部を頂点とする下向き三角錐状、即ち、それぞれ下方に傾斜する三面1b1,1b2,1b3と縦板1b4により形成されており、その谷部(三角錐の頂部)に異物排出用ドレン5が取り付けられている。これにより、タンク本体1内を沈下して底板1bに至った異物を、異物排出用ドレン5の取り付け位置まで案内することができるので、異物排出用ドレン5からの異物の排出を高能率に行うことができる。なお、タンク本体1の底板1bは、必ずしも下向き三角錐状に形成する必要はなく、例えば下向き又は上向きに湾曲する弧状などの他の形状に形成することもできる。
【0019】
作動油流入管2及び作動油流出管6は、油圧式作業機械に搭載された油圧回路に接続されており、タンク本体1内に蓄えられた作動油は、作動油流出管6を通って図示しない油圧ポンプにより汲み出され、油圧回路に備えられた各種の油圧機器を駆動する。油圧機器を駆動した後の作動油は、作動油流入管2を通ってタンク本体1内に戻る。タンク本体1内に戻る作動油には、油圧回路の各部から侵入した異物が混入しており、この作動油中の異物は、流入側オイルフィルタ3によって除去される。流入側オイルフィルタ3は、開口部の目が細かいものを用いるほど小さな異物を除去することができるが、開口部の目が細かいものほど目詰まりを起こしやすく、メンテナンスに多大の労力及び費用が必要になるので、通常はこれらの利害得失を考慮して、適当な孔径と開口率を有するものが用いられる。したがって、流入側オイルフィルタ3を通過した作動油にも、ある程度の異物が混入することは防げない。
【0020】
流出側オイルフィルタ7は、流入側オイルフィルタ3を通過した作動油に含まれる異物が作動油流出管6を通って油圧回路内に再循環されることを防止するためのもので、流入側オイルフィルタ3よりも目の細かいものが用いられる。流出側オイルフィルタ7は、図2に示すように、連結部材9を介して蓋板1c上に配置された操作部8と連結されており、メンテナンス時には、操作部8を上方に引き上げることによってタンク本体1内から取り出すことができる。
【0021】
中底4は、流出側オイルフィルタ7によって濾し取られ、中底4の上面に溜まった異物を捕獲するために備えられるものであって、本例にあっては、図2に示すように、下向き三角錐状に形成された底板1bの底面部分に取り付けられている。したがって、中底4の下面と底板1bの間には、下向き三角錐状の異物溜め部10が形成される。
【0022】
実施形態に係る中底4は、図5に示すように平面形状が正方形に形成されており、その四隅部を除く中央部分の円形領域に、多数の小孔4aが開設されている。小孔4aの孔径及び開設ピッチは、異物の捕獲効果、即ち、中底4の上方から異物溜め部10への異物の通過しやすさ、及び異物溜め部10から中底4の上方への異物の通過しにくさを考慮して適宜設定される。中底4の素材としては、パンチングメタルが好適に用いられるが、織金網、クリンプ金網、溶接金網等の金網類を用いることもできる。
【0023】
流出側オイルフィルタ7によって濾し取られ、中底4の上面に溜まった異物は、中底4に開設された多数の小孔4aを通って異物溜め部10内に侵入する。異物溜め部10内に侵入した異物も、タンク本体1内における作動油の流れの影響を受けて異物溜め部10内で流動するが、異物溜め部10内における作動油の流れは、中底4によりタンク本体1内における作動油の流れが遮られるために、タンク本体1内における作動油の流れよりも弱く、かつ異物溜め部10内で舞い上がった異物は中底4の下面に衝突しやすくなるので、中底4の上面側には戻りにくくなる。その結果、異物溜め部10内には異物がタンク本体1内よりも高濃度に貯えられる。したがって、中底4には、中底4の上面に至った異物を異物溜め部10内に円滑に導くため、及び、異物溜め部10内の異物が小孔4aを通過しにくくするため、図6に示すように、小孔4aを中底4の上面側が大径で下面側が小径のテーパ孔に形成したり、下面側に返り部4bを突出させることが特に好ましい。
【0024】
異物排出用ドレン5には、コック5aが取り付けられており、コック5aを開くことによって異物溜め部10内に溜まった異物を作動油とともに外部に排出することができる。異物排出用ドレン5は、下向き三角錐状に形成されたタンク本体1の底板1bの谷部に取り付けられているので、異物排出用ドレン5の取付部には底板1bの傾斜面に案内されて沈下してくる異物が集積されており、異物排出用ドレン5からの異物の排出を高能率に行うことができる。
【0025】
以上説明したように、実施形態に係る作動油タンクは、作動油流入口2及び作動油流出口6を備えたタンク本体1内の底板1bと対向する部分に多孔板からなる中底4を備えたので、作動油流入口2から作動油と共にタンク本体1内に戻り自重により沈下した異物を、底板1bと中底4との間に形成される異物溜め部10内に溜めることができる。よって、この異物溜め部10内に溜められた異物の油圧回路への再循環を抑制できて、油圧回路に備えられた油圧機器の摩耗を軽減することができる。
【0026】
なお、本発明の要旨は、タンク本体1内の底板1bと対向する部分に多孔板からなる中底4を備えたことにあるのであって、その他の部分、例えばタンク本体1の外観形状、流入側オイルフィルタ3及び流出側オイルフィルタ7の構成、作動油流入管2及び作動油流出管6の配置等については、上記実施形態に拘わらず任意に設計することができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、油圧ショベル等の油圧式作業機械に備えられる作動油タンクに利用できる。
【符号の説明】
【0028】
1 タンク本体
1a 周壁
1b 底板
1c 蓋板
2 作動油流入管
3 流入側オイルフィルタ
4 中底
4a 小孔
4b 返り
5 異物排出用ドレン
5a コック
6 作動油流出管
7 流出側オイルフィルタ
8 操作部
9 連結部材
10 異物溜め部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
箱形に形成されたタンク本体と、該タンク本体に設けられた作動油流入口及び作動油流出口を備えた油圧式作業機械用の作動油タンクにおいて、
前記タンク本体内の底板と対向する部分に、多孔板からなる中底を備えたことを特徴とする油圧式作業機械の作動油タンク。
【請求項2】
前記中底を構成する多孔板としてパンチングメタルを用い、当該パンチングメタルに開設された透孔の周縁に、前記底板側に突出する返り部を形成したことを特徴とする請求項1に記載の油圧式作業機械の作動油タンク。
【請求項3】
前記タンク本体の底板をそれぞれ下方に傾斜する複数の面により形成し、その谷部に異物排出用のドレンを設置したことを特徴とする請求項1及び請求項2のいずれか1項に記載の油圧式作業機械の作動油タンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−225061(P2012−225061A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94131(P2011−94131)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】