説明

油性インクジェットインク

【課題】油性インクジェットインクを印刷濃度の向上と裏抜けおよび転写汚れの抑制を両立することが可能なものとする。
【解決手段】少なくとも顔料、顔料分散能を有する非水系樹脂分散微粒子および溶剤を含む油性インクジェットインクにおいて、溶剤を1分子内に少なくともエステル基とエーテル基とを有する溶剤を含むものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録システムの使用に適した油性インクジェットインクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、流動性の高いインクジェットインクを微細なヘッドノズルからインク粒子として噴射し、上記ノズルに対向して置かれた印刷紙に画像を記録するものであり、とりわけ、多数のインクヘッドを備えるラインヘッド方式のインクジェット記録装置を用いると高速印刷が可能であることから、近年急速に普及している。このようなインクジェット記録方式に用いられるインクとして、非水溶性溶剤に顔料を微分散させたいわゆる油性インクジェットインクが種々提案されている。
【0003】
例えば、出願人は特許文献1において、顔料をエステル溶剤、高級アルコール溶剤、炭化水素溶剤等の非極性溶剤に分散させたインクを提案している。このインクは機上安定性に優れるとともに、PPC複写機やレーザープリンターで印刷された印刷面と重ね合わせた場合でも貼り付かない印刷面を得ることができるという利点を有するものである。
【0004】
ところで、油性インクジェットインクは、インク自体が乾燥固化するものではなく、紙などの印刷物に浸透して乾燥する浸透乾燥方式のインクである。このため、高速印刷した場合には、印刷から出力までの時間もその分短くなるために、紙面に印刷された未乾燥のインクが搬送ローラーに転写されてしまい、ローラーから次に搬送されてきた印刷物へ転写されて印刷物を汚す、いわゆるローラー転写汚れ(以下、単に転写汚れという)という問題が起こる。
【0005】
一方、油性インクには、一般に溶剤に溶解する顔料分散剤(以下、溶解型分散剤ともいう)が用いられている。この溶解型分散剤を用いると溶剤と顔料の親和性が高くなるため、溶剤が印刷物に浸透する際に顔料も溶剤に引きずられて印刷物内部に引き込まれやすくなる傾向がある。その結果、印刷濃度が低くなり、裏抜けが発生しやすい。このような問題を解決するインクとして、出願人は顔料分散能を有する非水系樹脂分散微粒子(以下、NAD=Non Aqua Dispersionともいう)を分散剤として用いる非水系顔料インクを提案している(特許文献2および3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−126564号公報
【特許文献2】特開2007−197500号公報
【特許文献3】特開2010−1452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2および3で提案したインクは、NADを用いることによって、顔料が紙表面に留まるため印刷濃度の向上や裏抜け抑制を実現することができるものである。しかし、顔料が印刷物表面に留まっているがゆえに、転写汚れが生じることは否めない。すなわち、印刷濃度の向上と転写汚れの抑制は二律背反の関係にあり、いずれかの効果をある程度犠牲にしているのが実情である。
【0008】
本発明者らが鋭利研究を重ねた結果、NADと特定の溶剤とを使用することによって、印刷濃度を向上させることができるとともに転写汚れを抑制できることを見出し本発明に至った。すなわち、本発明は、印刷濃度の向上と転写汚れの抑制を両立することが可能な油性インクジェットインクを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の油性インクジェットインクは、少なくとも顔料、顔料分散能を有する非水系樹脂分散微粒子および溶剤を含む油性インクジェットインクにおいて、前記溶剤に1分子内に少なくともエステル基とエーテル基とを有する溶剤を含むことを特徴とするものである。
前記溶剤はグリコールエーテルエステル系溶剤であることが好ましく、さらにはジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の油性インクジェットインクに含まれる顔料分散能を有する非水系樹脂分散微粒子は、溶剤に溶解しない重合体粒子が安定に分散して粒子分散系を形成するとともに、顔料分散性能を有する樹脂であるため、印刷後の溶剤と顔料の分離性を高めることができ、顔料が溶剤とともに印刷物の内部に沈み込むことを抑制するので印刷濃度を高めることができる。また、溶剤に1分子内に少なくともエステル基とエーテル基とを有する溶剤を含むことによって、溶剤と顔料との離脱性がより速くなり、浸透速度を向上することが可能となるため、転写汚れを抑制することができる。すなわち、本発明は非水系樹脂分散微粒子と1分子内に少なくともエステル基とエーテル基とを有する溶剤との相互作用によって、印刷濃度の向上と転写汚れの抑制の両立を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の油性インクジェットインク(以下、単にインクともいう)は、少なくとも顔料、顔料分散能を有する非水系樹脂分散微粒子(NAD)および溶剤を含むインクにおいて、溶剤に1分子内に少なくともエステル基とエーテル基とを有する溶剤(以下、この溶剤を他の溶剤と区別するために特定溶剤ともいう)を含むことを特徴とする。
NADは、炭素数12以上のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート単位と、ウレタン基を有する(メタ)アクリレート単位とを含むアクリル系ポリマー(ウレタン変性アクリルポリマー)であり、インクに用いられる非水系溶剤に溶解せずに、インク中で微粒子を形成する。ここで、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよびメタクリレートを意味する。
【0012】
NADは、溶剤に対し、溶解しないコア部(極性部分)と、溶剤側に配向して溶媒和するシェル部(低極性部分)とを備えたコア/シェル構造を形成している。溶剤に不溶であるコア部は、印刷後に溶剤と顔料との分離性を高め、溶剤と共に顔料が紙の内部に沈み込むのを防いで顔料を紙表面に留まらせ、印刷濃度を向上させる役割を果たすと考えられ、一方、シェル部(立体反発層)は溶剤への分散安定性を高め、粒子分散系を形成する役割を果たすと考えられる。
【0013】
上記アルキル(メタ)アクリレート単位は、炭素数12以上の長鎖アルキル基を備えることにより、溶剤との親和性に優れ、溶剤中での分散安定性を高めてシェル部としての機能を果たすことができる。エステル部分のアルキル鎖は、直鎖であっても分岐鎖であってもよい。このアルキル基の炭素数の上限は、特に限定されないが、原料の入手のしやすさ等から25以下であることが好ましい。
【0014】
炭素数12以上のアルキル基としては、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコサニル基、ヘンイコサニル基、ドコサニル基、イソドデシル基、イソオクタデシル基等が挙げられ、これらの複数種が含まれていてもよい。
【0015】
上記ウレタン基を有する(メタ)アクリレート単位は、極性が高く顔料を吸着させるウレタン基(ウレタン結合)、すなわちカルバミン酸エステル(HNCOOR、RNHCOOR)部を有することにより、顔料を取り込んでNADのコア部(溶剤への不溶性部)を形成する。ウレタン基は、アクリル系ポリマーの主鎖(幹)に対し、上記長鎖アルキル基と共に側鎖(枝)を構成するものである。このウレタン基を含む枝は、ウレタン結合が繰り返されたポリウレタンとなって、枝ポリマーを形成していてもよい。
【0016】
NADの分子量(質量平均分子量)は、特に限定されないが、インクジェット用インクとして用いる場合には、インクの吐出性の観点から10000〜100000程度であることが好ましく、20000〜80000程度であることがより好ましい。
NADのガラス転移温度(Tg)は、常温以下であることが好ましく、さらには0℃以下であることがより好ましい。これにより、インクが記録媒体上で定着する際に、常温で成膜を促進させることができる。
NADの粒径についても、特に限定されないが、インクジェット用インクとして用いる場合には、ノズル径に対して充分に小さいものである必要があり、一般に0.3μm以下、より好ましくは0.1μm以下である。
【0017】
NADは、炭素数12以上のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(A)(以下、「モノマー(A)」ともいう。)と、アミノ基と反応しうる官能基を有する反応性(メタ)アクリレート(B)(以下、「モノマー(B)」ともいう。)とを含むモノマー混合物の共重合体(以下、この共重合体を「幹ポリマー」ともいう。)において、モノマー(B)のアミノ基と反応しうる官能基に対し、アミノアルコールと多価イソシアネート化合物とを反応させてウレタン基を導入することにより、好ましく製造することができる。
【0018】
モノマー(A)、とりわけ炭素数12〜25の長鎖アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(A)としては、たとえば、ラウリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、イソラウリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレートを例示できる。これらは、複数種が含まれていてもよい。
【0019】
モノマー(B)におけるアミノ基と反応しうる官能基としては、グリシジル基、ビニル基、および(メタ)アクリロイル基を好ましく例示できる。グリシジル基を有するモノマー(B)としては、グリシジル(メタ)アクリレートが挙げられ、ビニル基を有するモノマー(B)としては、ビニル(メタ)アクリレート、2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート等が好ましく挙げられる。(メタ)アクリロイル基を有するモノマー(B)としては、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの反応性(メタ)アクリレート(B)は、複数種が含まれていてもよい。
【0020】
モノマー混合物は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、上記のモノマー(A)、(B)以外の、これらと共重合しうるモノマー(C)を含むことができる。このモノマー(C)としては、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系モノマー;酢酸ビニル、安息香酸ビニル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル系ポリマー;マレイン酸エステル、フマル酸エステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−オレフィン等が挙げられる。また、アルキル鎖長の炭素数が12未満のアルキル(メタ)アクリレート、たとえば2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、tert−オクチル(メタ)アクリレート等を使用することもできる。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0021】
上記モノマー混合物において、モノマー(A)は30質量%以上含まれていることが好ましく、40〜95質量%であることがより好ましく、50〜90質量%であることがさらに好ましい。モノマー(B)は、1〜30質量%含まれていることが好ましく、3〜25質量%であることがより好ましい。モノマー(A)および(B)以外のモノマー(C)は、60質量%以下の量であることが好ましく、10〜40質量%であることがより好ましい。
【0022】
上記の各モノマーは、公知のラジカル共重合により、容易に重合させることができる。反応系としては、溶液重合または分散重合で行うことが好ましい。この場合、重合後のアクリル系ポリマーの分子量を上述した好ましい範囲とするために、重合時に連鎖移動剤を併用することが有効である。連鎖移動剤としては、たとえば、n−ブチルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、ステアリルメルカプタン、シクロヘキシルメルカプタンなどのチオール類が好ましく用いられる。
【0023】
重合開始剤としては、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)等のアゾ化合物、t−ブチルペルオキシベンゾエート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート(パーブチルO、日本油脂(株)製)等の過酸化物など、公知の熱重合開始剤を使用することができる。その他にも、活性エネルギー線照射によりラジカルを発生する光重合型開始剤を用いることができる。
【0024】
溶液重合に用いる重合溶媒には、たとえば石油系溶剤(アロマフリー(AF)系)などを使用できる。この重合溶媒は、そのままインクの溶剤として使用できる溶媒(後述の溶剤)のなかから1種以上を選択することが好ましい。重合反応に際し、その他、通常使用される重合禁止剤、重合促進剤、分散剤等を反応系に添加することもできる。
【0025】
次に、得られた共重合体(幹ポリマー)において、アミノ基と反応しうる官能基に対し、アミノアルコールと多価イソシアネート化合物とを反応させてウレタン基を導入する。アミノアルコールのアミノ基が、モノマー(B)のアミノ基と反応しうる官能基と反応して結合する。そして、このアミノアルコールのヒドロキシ基に、多価イソシアネート化合物のイソシアン酸エステル基(R1N=C=O)が次のように付加反応し、ウレタン基(ウレタン結合)(カルバミン酸エステル:R1NHCOOR)が得られる。
1N=C=O + R−OH→ROCONHR1
ここでR−は、幹ポリマーの官能基に結合したアミノアルコール部を示す。
上記により、顔料吸着能を持たない幹ポリマーに対して、顔料吸着基として作用するウレタン基が導入される。
【0026】
アミノアルコールとしては、モノメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等を例示できる。なかでも、2個のヒドロキシ基を提供して形成されるウレタン基の数を増やせることから、一般式(HOR)2NH(Rは2価の炭化水素基)で示されるジアルカノールアミン(2級アルカノールアミン)であることが好ましい。これらのアミノアルコールは、複数種を組み合わせて用いることもできる。
【0027】
このアミノアルコールは、上記モノマー(B)のアミノ基と反応しうる官能基に対し、適切な量のウレタン基を導入する観点から、0.05〜1モル当量で反応させることが好ましく、0.1〜1モル当量で反応させることがより好ましい。アミノアルコールが1モル当量より少ない場合は、モノマー(B)において未反応の官能基が残ることになるが、残った官能基は顔料の吸着基として作用すると考えられる。
【0028】
多価イソシアネート化合物としては、1,6−ジイソシアネートへキサン、1,3−ビス(イソシアネートメチル)ベンゼン、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,5−ナフタレンジイソシアネート等の脂肪族系、脂環式系、芳香族系のものが挙げられ、複数種を使用することもできる。多価イソシアネート化合物は、ヒドロキシ基との反応でウレタン基を導入する際に未反応原料などが残らないようにするために、仕込んだ原料に含まれるヒドロキシ基に対してほぼ当量(0.98〜1.02モル当量)で反応させることが好ましい。
【0029】
このようにして、溶剤に可溶な共重合体部(幹ポリマー)に対し、モノマー(B)に結合したアミノアルコールを基点として、溶剤に不要なウレタン側鎖部(グラフト部)が形成され、これが分散粒子核を形成する。このプロセスによって、最終的に、溶剤に溶媒和可能なシェル構造体(幹ポリマー)にくるまれた重合体粒子(NAD)が形成される。
【0030】
本発明のインクには1分子内に少なくともエステル基とエーテル基とを有する溶剤を含む。詳細には下記の一般式(1)あるいは(2)で表わされる構造の溶剤であることが好ましい(一般式(1)および(2)中、R1はCH3またはC25、R2はHまたはCH3、R3は炭素数1〜4の炭化水素(直鎖であっても分岐鎖であってもよい)であり、mは1〜4の整数、nは2〜3の整数を示す)。
【化1】

【化2】

本発明のインクは特定溶剤を含むことにより、インクの極性がより高まり、インク成分からの溶剤離脱性が速くなり、浸透速度をさらに向上させることができる。これによって転写汚れを抑制することができる。
【0031】
特定溶剤としては、浸透速度および安全性の観点からグリコールエーテルエステル系溶剤が好ましく、詳細にはエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート及びそれら混合物等を挙げることができる。印刷濃度および貯蔵安定性の観点からすればジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートがより好ましい。
【0032】
上記特定溶剤は全溶剤の全てが特定溶剤であってもよいが、下記の炭化水素系溶剤を組み合わせることによって、さらに顔料と溶剤の離脱性を上昇させることができ、印刷濃度をより高くすることができる。このような観点からすれば、特定溶剤は全溶剤に対して10〜75質量%であることが好ましく、10〜30質量%であることがより好ましい。上記特定溶剤が10質量%未満であると、顔料と溶剤の離脱性が不十分になり、印刷濃度が向上しにくくなる。一方で75質量%よりも多くなると、選択する特定溶剤にもよるが吐出安定性が得られなくなる可能性がある。
【0033】
上記特定溶剤以外の溶剤としては、非極性有機溶剤および極性有機溶剤から適宜選択することができ、非極性有機溶剤としては、脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素溶剤等を好ましく挙げることができる。脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素系溶剤としては、たとえば、JX日鉱日石エネルギー社製「テクリーンN−16、テクリーンN−20、テクリーンN−22、日石ナフテゾールL、日石ナフテゾールM、日石ナフテゾールH、0号ソルベントL、0号ソルベントM、0号ソルベントH、日石アイソゾール300、日石アイソゾール400、AF−4、AF−5、AF−6、AF−7」、Exxon社製「Isopar(アイソパー)G、IsoparH、IsoparL、IsoparM、ExxsolD40、ExxsolD80、ExxsolD100、ExxsolD130、ExxsolD140」等を好ましく挙げることができる。芳香族炭化水素溶剤としては、JX日鉱日石エネルギー社製「日石クリーンソルG」(アルキルベンゼン)、Exxon社製「ソルベッソ200」等を好ましく挙げることができる。
【0034】
極性有機溶剤としては、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、高級脂肪酸系溶剤、エーテル系溶剤、およびこれらの混合溶剤を用いることができる。エステル系溶剤としては、ラウリル酸メチル、ラウリル酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソステアリル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸ブチル、リノール酸メチル、リノール酸イソブチル、リノール酸エチル、イソステアリン酸イソプロピル、大豆油メチル、大豆油イソブチル、トール油メチル、トール油イソブチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、モノカプリン酸プロピレングリコール、トリ2−エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリルなどを好ましく挙げることができる。
【0035】
アルコール系溶剤としてはイソミリスチルアルコール、イソパルミチルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコールなどを好ましく挙げることができる。
高級脂肪酸系溶剤としてはイソノナン酸、イソミリスチン酸、ヘキサデカン酸、イソパルミチン酸、オレイン酸、イソステアリン酸などを好ましく挙げることができる。
【0036】
エーテル系溶剤としてはジエチルグリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテルなどを好ましく挙げることができる。
上記の非極性有機溶剤および極性有機溶剤は、単独で、または2種以上を適宜混合して用いることができる。
【0037】
本発明で使用される顔料としては、有機顔料、無機顔料を問わず、印刷の技術分野で一般に用いられているものを使用でき、特に限定されない。具体的には、カーボンブラック、カドミウムレッド、クロムイエロー、カドミウムイエロー、酸化クロム、ピリジアン、チタンコバルトグリーン、ウルトラマリンブルー、プルシアンブルー、コバルトブルー、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、スレン系顔料、ペリレン系顔料、チオインジゴ系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料などが好適に使用できる。これらの顔料は単独で用いてもよいし、適宜組み合わせて使用してもよい。顔料は、インク全量に対して0.01〜20質量%の範囲で含有されることが好ましい。
【0038】
本発明のインクには、インクの浸透乾燥性、吐出安定性および貯蔵安定性に影響を与えない限り、上記の溶剤、分散剤及び顔料に加えて、例えば、染料、界面活性剤、防腐剤等を添加することができる。
【0039】
本発明のインクは、例えばビーズミル等の公知の分散機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等の公知のろ過機を通すことにより調製できる。
以下に本発明の油性インクジェットインクの実施例を示す。
【実施例】
【0040】
(NAD1の調製)
四つ口フラスコに、ラウリルメタクリレート(日油(株)製)58g、ジメチルアミノエチルメタクリレート(和光純薬社製)14g、グリシジルメタクリレート(日油(株)製)14g、2−エチルヘキシルメタクリレート(和光純薬社製)42g、スチレンマクロマー(東亞合成(株)製)7gを混合し、さらに重合開始剤としてV601(和光純薬社製)を1g、ININ(日清オイリオグループ(株)製)270g、AF6(AFソルベント6号;JX日鉱日石エネルギー社製)80g、FOC180(ファインオキソコール180;日産化学社製)80gを加え、80℃還流下で6時間反応を行ない、NAD1の溶液を得た。
【0041】
(NAD2の調製)
(NAD1の調製)のラウリルメタクリレートをステアリルメタクリレート(和光純薬(株)製)に変えた以外は同様の方法でNAD2の溶液を得た。
【0042】
(NAD3の調製)
(NAD1の調製)のラウリルメタクリレートの全量を2−エチルヘキシルメタクリレートに変え、溶剤の全量をジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(和光純薬社製)に変えた以外は同様の方法でNAD3の溶液を得た。
NAD1〜3の質量平均分子量は8000〜25000程度であった。(GPC法、ポリスチレン換算)
【0043】
(インクの調製)
下記表1に示す配合(表1に示す数値は質量部である)で原材料をプレミックスした後、ロッキングミル(セイワ技研(株)製)で4時間分散させて実施例および比較例のインクを作製した。
【0044】
(評価)
(印刷濃度)
得られたインクをORPHIS−X9050(理想科学工業(株)製)に装填し、普通紙(Askul Multipaperスーパーセレクトスムース(アスクル(株)製)に印刷した。印刷後24時間後にベタ画像の表面と裏面のOD値を、光学濃度計(RD920、マクベス社製)を用いて測定し、以下の基準で評価した。
(表OD)
◎:1.15以上
○:1.10〜1.14
△:1.05〜1.09
×:1.04以下
(裏OD)
○:0.20以下
△:0.21〜0.24
×:0.25以上
【0045】
(転写汚れ評価)
各インクをORPHIS−X9050(理想科学工業(株)製)に装填して300dpi相当のベタ画像を、普通紙(Askul Multipaperスーパーセレクトスムース(アスクル(株)製)に両面印刷した。印刷物の非印刷部分の汚れ度合いを目視で確認し、以下の基準で評価した。
○:目視で汚れを確認できない
△:若干の転写汚れがある
×:転写汚れが目立つ
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示すように、本発明のインクはNADと特定溶剤(ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールジアセテート)とを含むので、印刷濃度を向上させることができるとともに、裏抜けおよび転写汚れの抑制を両立することができた。NAD1〜3はそれぞれ極性が異なるもので、NAD1を基準にすると、NAD2はより低極性、NAD3はより高極性であるが、NADの極性が異なっても印刷濃度の向上と転写汚れの抑制を両立できていることがわかる。なお、実施例7および実施例8に示すように溶剤の全てが特定溶剤であっても、印刷濃度向上、転写汚れの抑制の両立を図ることができるが、炭化水素系溶剤(AFソルベント6号)を組み合わせることによって、さらに顔料と溶剤の離脱性を上昇させることができ、印刷濃度をより高くできることがわかる。
【0048】
比較例1のインクは特定溶剤を含むもののNADを有さないものであるが、この場合には転写汚れは生じなかったものの印刷濃度が低い上に裏抜けが生じた。比較例2および3のインクはエステル基を有する溶剤とNADを含むものであるが、この場合には印刷濃度は向上したものの転写汚れが生じた。比較例4のインクは溶剤中にエーテル基を有する溶剤(ジエチレングリコールモノエチルへキシルエーテル)とエステル基(オレイン酸メチル)を有する溶剤を含むものであるが、1分子内にエステル基とエーテル基とを有していないため、印刷濃度は本発明のインクよりも低かった。この作用機序は必ずしも明らかではないが、1分子内にエーテル基のみまたはエステル基のみを有する溶剤は、1分子内にエステル基およびエーテル基を有する特定溶剤と比較してNADや他の溶剤との極性の差が小さいため、顔料と溶剤の離脱性が小さく、印刷濃度が低くなるものと考えられる。
【0049】
以上のように、本発明のインクはNADと特定溶剤によって、印刷後の溶剤と顔料の分離性を高めることができ、顔料が溶剤とともに印刷物の内部に沈み込むことを抑制するので印刷濃度を高めることができるとともに、溶剤と顔料との離脱性がより速くなることにより、浸透速度を向上することが可能となり、転写汚れの抑制をすることができる。
なお、本実施例では顔料としてカーボンブラックを用いた例を示したが、NADと特定溶剤の作用効果からすれば、その他の顔料でも同様の結果が得られるものと推測される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも顔料、顔料分散能を有する非水系樹脂分散微粒子および溶剤を含む油性インクジェットインクにおいて、前記溶剤に1分子内に少なくともエステル基とエーテル基とを有する溶剤を含むことを特徴とする油性インクジェットインク。
【請求項2】
前記溶剤が、グリコールエーテルエステル系溶剤であることを特徴とする請求項1記載の油性インクジェットインク。
【請求項3】
前記溶剤が、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートであることを特徴とする請求項2記載の油性インクジェットインク。

【公開番号】特開2012−140506(P2012−140506A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292799(P2010−292799)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】