説明

油浴潤滑式の軸箱及びそれを備えた鉄道車両用台車

【課題】保守作業性が向上する油浴潤滑式の軸箱、及びそれを備えた鉄道車両用台車を提供する。
【解決手段】鉄道車両用台車に用いられる油浴潤滑式軸箱において、摩耗粉を除去するため先端に磁石35aが設けられた油栓35が、軸箱体30aの前方を覆う前蓋32において、上方から軸箱30内に貯留される潤滑油内に挿入されている。この軸箱の構造では、軸箱体30aの最底位置に取り付けられた従来の油栓とは異なり、摩耗粉を確認するために油栓を35取り外しても、油が漏れることがない。磁石35aへの摩耗粉の付着状況を点検することにより、車軸軸受の健全性等の点検・確認時の作業性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用台車に使用される油浴潤滑式の軸箱及びそれを備える鉄道車両用台車に関しており、特に、油浴潤滑式の軸受の油中に含まれる摩耗粉を簡単に検査できる油栓を有する軸箱、及びそれを備えた鉄道車両用台車に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両用台車の軸箱は、使用する軸受の種類により、グリス潤滑式及び油浴潤滑式の2種類がある。油浴潤滑式の軸箱においては、所定の期間に使用された潤滑油を軸箱から抜き取って廃棄するとともに、新しい潤滑油が軸箱に注油される。潤滑油の軸箱体からの抜取り又は軸箱体内への潤滑油の供給のため、軸箱体の下壁には油栓が設けられている。通常、軸箱1個当たり、1個又は2個の油栓が設けられる。
【0003】
一般に、台車が運用に供されている間(使用中)に、軸箱内に配設される外輪、コロ、内輪等の回転体からは摩耗粉が発生し、発生した摩耗粉は潤滑油中に浮遊する。潤滑油中の摩耗粉は軸受の健全性に悪影響を及ぼすので、摩耗粉については潤滑油から取り除くことが好ましい。軸箱体の油栓には、その先端に磁石が埋め込まれており、磁石の磁気吸引力によって潤滑油中に浮遊する摩耗粉を吸着することで、潤滑油から摩耗粉を捕捉・除去している。また、劣化した潤滑油については、新規なものと交換する必要がある。
【0004】
現在、一般に使用されている油浴潤滑式の軸箱は、上記したように、軸箱の下壁に磁石付き油栓を備えているので、車両を車両所又は工場に入場させて車両の全般検査又は台車検査等の定期的な保全を行う場合に、油栓を外し、潤滑油を抜き取って新しい潤滑油を注油することで、潤滑油の交換が行われる。その際に、磁石付き油栓に付着した摩耗粉の状況(量)を確認することによって、間接的に軸箱に内蔵される車軸軸受(外輪、コロ、内輪)の健全性を確認することができる。
【0005】
図4は鉄道車両用台車に用いられている従来構造の軸箱を示す側面図であり、図5は図4における線B−Bで示す切断面での断面図である。軸箱30は、軸箱体30aと、当該軸箱体30a内において輪軸20に圧入された車軸軸受31と、軸箱体30aの前面に取り付けられていて軸箱体30aの前側を覆う前蓋32と、軸箱体30aの背面に取り付けられていて軸箱体30aの後ろ側を覆う後蓋33とを備えている。軸箱30は、油浴潤滑式であるので、前蓋32、後蓋33及び軸箱体30aの内部において、輪軸20と車軸軸受31の周囲に存在するスペースには潤滑油が溜められている。
【0006】
従来構造の軸箱においては、潤滑油を注入するための注油口は前蓋32の上方に構成されており、この注油口を閉じるために注油口栓36が取り付けられている。また、従来構造では、軸箱体30aの下面に油抜き用の油栓34が設けられている。そして、当該油栓34の軸箱体30a内部側の先端には磁石34aが取り付けられている。車軸軸受の健全性については、油栓34を軸箱30から取り外して、その先端の磁石34aに付着した摩耗粉の状況によって確認していた。
【0007】
特許文献1には、油浴式軸受を備える鉄道車両用台車が記されている。この鉄道車両用台車においては、鉄道車両車軸用軸受の内部における潤滑油の挙動を考慮し、潤滑油循環経路の途中にフィルターシールを配置して、摩耗粉等の鉄粉を捕集している。摩耗粉等の鉄粉を捕集することで、軸受やシールが傷付けられないようにしているので、軸受、シールの寿命が延び、その結果、車両故障の原因が軽減され、鉄道車両車軸軸受の定期点検の間隔を延長することを図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−162883号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、軸箱の下壁に磁石付き油栓を備える車両用台車においては、潤滑油を交換しない場合には、油栓を取り外した後に油栓の取付孔からの潤滑油流出を抑えるための方策が必要である。現状では、別の油栓を準備しておき、軸箱から油栓を取り外したとき、即時に別の油栓に付け替えるという方策を採用している。この方策は、本来の栓と別に保管される栓を用意するとともに、油栓を取り外した孔から潤滑油が漏れる中で、当該別の栓で封鎖しなければならないことから、作業性が悪い。
【0010】
そこで、磁石付き油栓を備える車両用台車において、潤滑油を交換しない場合でも、油栓への摩耗粉の付着状況から車軸軸受の健全性を容易に確認可能にする点で解決すべき課題がある。
本発明の目的は、潤滑油を交換しない場合でも、摩耗粉の付着状況から車軸軸受の健全性を容易に確認でき、且つその作業性を良好にする軸箱、及びそうした軸箱を備えた鉄道車両用台車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明による鉄道車両用台車の軸箱は、鉄道車両用台車の車軸と当該車軸に取り付けられた車輪とから成る輪軸を、軸受を介して回転自在に支持するとともに、内部に貯留した潤滑油に浸すことによって前記軸受を潤滑する油浴潤滑方式の軸箱であって、前記軸箱は、上方より取り外し可能に挿入されて下方先端が前記潤滑油に浸される磁石付き油栓を備えていること、を特徴としている。
【0012】
本発明による軸箱、あるいはそうした軸箱を備えた鉄道車両用台車であれば、軸箱に備わる磁石付き油栓は上方より取り外し可能に軸箱内に挿入されており、油栓の軸箱への取付け状態では、油栓の下方先端に設けられた磁石が軸箱内に貯留された潤滑油に浸されている。したがって、車軸軸受から生じて潤滑油中に浮遊する摩耗粉は、軸箱に取り付けられた状態にある油栓の磁石に付着する。軸箱から油栓を取り外しても、潤滑油はその取付孔から漏れることはない。油栓の先端部に設けられている磁石への摩耗粉の付着状況を見ることで、車軸軸受の健全性を点検することができる。
【0013】
本鉄道車両用台車の軸箱において、前記軸箱は、前記軸受が取り付けられる筒状の軸箱体と、当該軸箱体の前方の開口部を覆う前蓋と、当該軸箱体の後方の開口部を覆う後蓋とを備えており、前記磁石付き油栓は、前記前蓋に形成されている油栓取付孔に挿入されて取り付けることができる。
また、本鉄道車両用台車の軸箱において、前記前蓋における前記油栓取付孔は、前記軸箱における前記潤滑油の油面レベルよりも上方位置に形成することができる。
更に、本発明による鉄道車両用台車は、鉄道車両の構体を支持する台車枠、車軸と当該車軸に取り付けられた車輪とから成る輪軸、当該輪軸を回転自在に支持する軸箱、及び前記台車枠を支持するため前記台車枠と前記軸箱との間に介装される軸バネを備えており、上記した軸箱を備えることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、軸箱への油栓の取付け構造として、軸箱上方より挿入可能な磁石付き油栓を備えることで、鉄道車両用台車の定期的な点検等の時に、軸箱から油栓を取り外しても潤滑油がその取付孔から漏れることなく、油栓の先端部に設けられている磁石への摩耗粉の付着状況を見ることで車軸軸受の健全性の点検及び確認を容易に行うことができる。したがって、車軸軸受の点検や潤滑油の点検・交換の作業性及び保守性を向上させた軸箱及びそれを備えた鉄道車両用台車を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による鉄道車両用台車の一実施例を示す側面図である。
【図2】本発明による鉄道車両用台車において使用される軸箱の一実施例を示す断面図である。
【図3】図2に示す軸箱を線A−Aで示される切断面で切断した断面図である。
【図4】鉄道車両用台車に使用される従来構造の軸箱の一例を示す側面図である。
【図5】図4に示す軸箱を線B−Bで示される切断面で切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明による鉄道車両用台車の一実施例を図1、図2、図3を参照して説明する。図1は、本発明による鉄道車両用台車の台車枠構成の一例を示す側面図である。
図1に示す鉄道車両用台車は、空気ばね50を介して車両の構体を支える台車枠10と、車軸及び車輪を組み立てて成る輪軸(組立体)20,20と、各輪軸20のそれぞれの端部に車軸軸受(図示せず)を介して取り付けられた軸箱30と、軸箱30に取り付けられており台車枠10を軸箱30上に支えるための軸バネ40とを備えている。
【0017】
図2は図1に示す鉄道車両用台車の軸箱を拡大して示す側面図であり、図3は図2において折れ曲がった線A−Aで示す切断面で切断した断面図である。軸箱30は、軸箱体30aと、当該軸箱体30a内において輪軸20に圧入された車軸軸受31と、軸箱体30aの前面に取り付けられていて軸箱体30aの前側を覆う前蓋32と、軸箱体30aの背面に取り付けられていて軸箱体30aの後ろ側を覆う後蓋33とを備えている。前蓋32と後蓋33、及びこれら両蓋で覆われた軸箱体30aの内部において、輪軸20と車軸軸受31の周囲に存在するスペースには潤滑油が溜められている。
【0018】
軸箱体30aの下壁には、油抜き用の油栓34が設けられている。油栓34で封鎖される孔は、潤滑油が貯留される軸箱体30aの最底内部に繋がっている。油栓34を軸箱体30aから取り外すことで、軸箱体30a内の潤滑油を抜き取ることができる。
【0019】
本軸箱30においては、前蓋32には、先端に磁石35aを設けた油栓35が前方外側から斜め下に向かって傾斜する態様に取り付けられている。前蓋32における油栓取付孔は、軸箱30における潤滑油の油面レベルよりも上方位置に形成されている。また、油栓35の手元側は前蓋32から露出しているので、適宜の工具を用いて前蓋32から取り外すこと、また点検や潤滑油の交換等の作業後において前蓋32に取り付けることができる。油栓35の先端部に取り付けられた磁石35aは、前蓋32内のスペース中に貯留されている潤滑油中に浸されている。前蓋32に形成された油栓35のための孔は、油栓35を取り外すことで、注油口としても使用可能である。
【0020】
従来構造では、油栓34を取り外すことにより、車軸軸受から生じた摩耗粉の状況を確認していたが、油栓34を取り外した後、潤滑油が漏れることから、別の油栓を準備しておき直ちに取り付ける必要があった。本発明の構成とすることにより、上方より前蓋32に取り付けた磁石付き油栓35を取り外すことが可能であり、しかも、前蓋32における油栓取付孔が軸箱30における潤滑油の油面レベルよりも上方位置に形成されていることから、油栓35を取り外しても、油栓取付孔から潤滑油が漏出することがなく、油栓35の先端に磁石に付着する摩耗粉の状況を点検・確認することができる。したがって、軸箱から潤滑油の漏れを生じさせることなく、取り外した油栓35の先端に設けられている磁石に付着する摩耗粉の状況から、車軸軸受の健全性の点検及び確認することができ、こうした点検等の作業性の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0021】
10:台車枠 20:輪軸組立
30:軸箱 30a:軸箱体
31:車軸軸受 32:前蓋
33:後蓋 34:油栓
35:磁石付き油栓 35a:磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両用台車の車軸と当該車軸に取り付けられた車輪とから成る輪軸を軸受を介して回転自在に支持するとともに、内部に貯留した潤滑油に浸すことによって前記軸受を潤滑する油浴潤滑方式の軸箱において、
前記軸箱は、上方より取り外し可能に挿入されて下方先端が前記潤滑油に浸される磁石付き油栓を備えていること、
を特徴とする鉄道車両用台車の軸箱。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両用台車の軸箱において、
前記軸箱は、前記軸受が取り付けられる筒状の軸箱体と、当該軸箱体の前方の開口部を覆う前蓋と、当該軸箱体の後方の開口部を覆う後蓋とを備えており、
前記磁石付き油栓は、前記前蓋に形成されている油栓取付孔に挿入されて取り付けられていること、
を特徴とする鉄道車両用台車の軸箱。
【請求項3】
請求項2に記載の鉄道車両用台車の軸箱において、
前記前蓋における前記油栓取付孔は、前記軸箱における前記潤滑油の油面レベルよりも上方位置に形成されていること、
を特徴とする鉄道車両用台車の軸箱。
【請求項4】
鉄道車両の構体を支持する台車枠、車軸と当該車軸に取り付けられた車輪とから成る輪軸、当該輪軸を回転自在に支持する軸箱、及び前記台車枠を支持するため前記台車枠と前記軸箱との間に介装される軸バネを備えており、
前記軸箱は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の軸箱であることを特徴とする鉄道車両用台車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−162168(P2012−162168A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23818(P2011−23818)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】