説明

油浸型プッシュプルソレノイド

【課題】油の外部流出の危険性の少ない油浸型プッシュプルソレノイドを提供する。
【解決手段】シャフト11と結合したプランジャ12と、プランジャ12を収容するとともに圧油が導かれるプランジャ収容室と、プランジャ12の外周面に軸線方向に間隔を置いて配置される第1ボビン14と第2ボビン15と、第1、第2ボビン14,15にそれぞれ巻回された第1、第2コイル16,17と、第1、第2ボビン14,15の間に第1、第2ボビンそれぞれと結合されるヨーク18と、これら部材が収容されるハウジング40と、第1ボビン14と第2ボビン15のうち少なくとも一方の側端面とハウジング40の間に備え付けられる環状の第1シール部材23と、第1ボビン14と第2ボビン15いずれか他方の内周面とハウジング40との間または他方の側端面とハウジング40との間に備え付けられる環状の第2シール部材24とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油浸型プッシュプルソレノイドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の油浸型プッシュプルソレノイド2は、図2に示すように、ヨーク18を中心に、第1コイル16を取り囲む磁路を形成する磁性材料部品(ヨーク18、スリーブ13、プランジャ12、ケース19のヨーク18の接触部より左側)と第2コイル17を取り囲む磁路を形成する磁性材料部品(ヨーク18、スリーブ13、プランジャ12、エンドキャップ20、ケース19のヨーク18の接触部より右側)を備える。さらに、スリーブ13とケース19間に磁気ギャップを設けるために第1フィラーリング21が装着される。また、スリーブ13とエンドキャップ20間に磁気ギャップを設けるために第2フィラーリング22が装着される。また、第1コイル16に通電されると、プランジャ12はケースボス部19b側(図2左側)に吸引され、逆に第2コイル17に通電されると、プランジャ12はエンドキャップ20側(図2右側)に吸引される。
【0003】
また、本ソレノイドは油浸状態で使用するため、プランジャ12装着室には圧油が供給される。そこで、上記圧油が外部流出しないように、第1ボビン14とヨーク18及び第2ボビン15とヨーク18の間は接着剤で結合・シールされる。さらに、シール部材として、第1のOリング23がケースボス部外周溝19gに、第2のOリング24がエンドキャップボス部外周溝20cに環装されている。(特許文献1参照)
【特許文献1】特開平11−154608号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、第1のOリング23及び第2のOリング24が上記位置に環装されている従来の油浸型プッシュプルソレノイド2にあっては、ソレノイド内部の圧油が、ヨーク18を挟んで、第1ボビン14と第2ボビン15との間を押し広げる方向に作用、すなわち、第1ボビン14をケースボス部19b側(図2左側)に押す力として作用し、また、第2ボビン15をエンドキャップ20側(図2右側)に押す力として作用する。その結果、第1ボビン14及び第2ボビン15とヨーク18の間が引き剥がされ、圧油が外部に噴出する危険性があるといった問題点があった。さらに、この引き剥がし力を機械的に拘束しようとすると、寸法管理が非常に厳しいものとなる問題点もあった。
【0005】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、油の外部流出の危険性の少ない油浸型プッシュプルソレノイドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のような解決手段によって前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために本発明の実施形態に対応する符号を付するが、これに限定されるものではない。
【0007】
シャフト(11)と結合したプランジャ(12)と、前記プランジャ(12)を収容するとともに圧油が導かれるプランジャ収容室と、前記プランジャ(12)の外周面に軸線方向に間隔を置いて配置される第1ボビン(14)と第2ボビン(15)と、前記第1、第2ボビン(14,15)にそれぞれ巻回された第1、第2コイル(16,17)と、前記第1、第2ボビン(14,15)の間に前記第1、第2ボビンそれぞれと結合されるヨーク(18)と、前記第1、第2ボビン(14,15)及び前記ヨーク(18)が収められるハウジング(19,20)と、前記第1ボビン(14)と前記第2ボビン(15)のうち少なくとも一方の側端面と前記ハウジング(19,20)の間に備え付けられる環状の第1シール部材(23)と、前記第1ボビン(14)と第2ボビン(15)いずれか他方の内周面と前記ハウジング(19,20)との間または他方の側端面と前記ハウジング(19,20)との間に備え付けられる環状の第2シール部材(24)とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、圧油により発生する力は第1ボビンと第2ボビンを引き剥がす方向に作用せず、第1ボビンと第2ボビンを一方に、若しくはそれぞれをヨーク側に押し付ける方向に作用することにより、ヨークと第1ボビンと第2ボビンとの間の接着剤による結合・シールが保証され、油の外部噴出を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は、本発明による油浸型プッシュプルソレノイドの一実施形態を示す図である。なお、前述した背景技術と同様の機能を果たす部分には、同一の符号を付する。
【0010】
本実施形態の油浸型プッシュプルソレノイド1は、通電されて磁力を発生する励磁コイル30と、磁気回路の一部を構成する可動部材であるプランジャ12と、これらを収容するハウジング40から構成されている。励磁コイル30は、第1コイル16と第2コイル17から構成され、前記プランジャ12と一体のシャフト11を軸方向に駆動する。ハウジング40は、ケース19とエンドキャップ20により構成されている。
【0011】
ケース19は、底部19aを有する有底円筒状である。底部19aの中心付近には外方及び内部に向けて出張るボス部19bが形成されている。ケース19には、貫通孔19cが形成されている。ケース19の底部19aと反対側の開口部19dは、エンドキャップ20で閉塞される。ケース開口部19dは、かしめられてエンドキャップ20を固定する。ケース19には、リード線26を引き出すための取り出し口19eが形成されている。リード線26は第1、第2コイル16、17を通電するために設けられている。ケース19は磁性材料で形成される。なお、ボス部19bは、ケース19と別体で形成する分割構造としてもよい。エンドキャップ20には、中心付近が内部に向けて出張るボス部20aが形成されている。エンドキャップボス部20aの中心には凹孔20bが形成されている。エンドキャップ20は磁性材料で形成される。
【0012】
プランジャ12は、ケース19の内部に往復移動自在に収容される。プランジャ12は、ケース19のボス部19bに設けた貫通孔19cと同軸的に貫通する貫通孔12aを有する。プランジャ12は磁性材料で形成される。シャフト11は、プランジャ12の貫通孔12aを貫通し、プランジャ12と一体的に結合している。シャフト11の一端には、バネ25が遊嵌されている。シャフト11の他端は、ケース19の貫通孔19cを貫通し、外部に露出する。シャフト11は、図示しない切換弁のスプールと結合し、プランジャ12に作用する駆動力を伝達する。バネ25は、エンドキャップ20の凹孔20bに遊挿され、プランジャ12をケースボス部19b方向に付勢する。スリーブ13は、円筒形状に形成されている。スリーブ13はケース19内に挿入して取付けられる。スリーブ13は、その内部にプランジャ12を軸線方向に摺動可能に収容している。スリーブ13は磁性材料で形成される。
【0013】
第1ボビン14は、スリーブ13及び第1フィラーリング21の外周面に環装される。第1ボビン14には側端面に第1のOリング23を装着するための環状溝14bが形成される。第1コイル16は、第1ボビン14に巻回されている。第2ボビン15は、第1ボビン14に対し軸線方向エンドキャップ20側に間隔をおいて収容され、スリーブ13及び第2フィラーリング22の外周面に環装される。第2ボビン15は、側端面に第2のOリング24を装着するための環状溝15bを備える。第2コイル17は第2ボビン15に巻回されている。ヨーク18は第1ボビン14と第2ボビン15の間に位置する。ヨーク18は円盤状に形成され、ヨーク18は、第1ボビン14と第2ボビン15それぞれと接着剤27、28で結合・シールされている。ヨーク18は磁性材料で形成される。
【0014】
第1フィラーリング21は円筒形状に形成されている。第1フィラーリング21は、スリーブ13とケースボス部19bの間に環状に取り付けられている。第1フィラーリング21は、ケース19とスリーブ13間の磁路を切断するために装着される。第1フィラーリング21は非磁性材料で形成される。第2フィラーリング22は円筒形状に形成されている。第2フィラーリング22は、スリーブ13とエンドキャップボス部20aの間に環状に取り付けられている。第2フィラーリング22は非磁性材料で形成される。第2フィラーリング22はエンドキャップ20とスリーブ13間の磁路を切断するために装着される。
【0015】
第1のOリング23は、第1ボビン14の側壁14aとケース19の内部端面19fとの間に装着される。第1のOリング23は、第1ボビン14に形成された環状溝14bに嵌合されている。第2のOリング24は、第2ボビン15の側壁15aとエンドキャップ20の内部端面20cとの間に装着される。第2のOリング24は、第2ボビン15に形成された環状溝15bに設けられている。第1のOリング23と第2のOリング24は、第1ボビン14及び第2ボビン15をケース19とエンドキャップ20とで挟み込む位置に装着される。
【0016】
次に、上記油浸型プッシュプルソレノイド1の作用について説明する。第1コイル16に通電すると、第1コイル16を取り囲む磁性材料部品(ヨーク18、スリーブ13、プランジャ12、ケース19のヨーク18接触部より左側)によって構成された磁気回路に磁束が流れ、プランジャ12とケースボス部19bとの間に磁気吸引力が発生する。この磁気吸引力により、プランジャ12及びプランジャ12と一体結合したシャフト11は、ケースボス部19bの方向(図1左側)に移動する。
【0017】
一方、第2コイル17が通電されると、第2コイル17を取り囲む磁性材料部品(ヨーク18、スリーブ13、プランジャ12、エンドキャップ20、ケース19のヨーク18接触部より右側)によって構成された磁気回路に磁束が流れ、プランジャ12とエンドキャップ20との間に磁気吸引力が発生する。この磁気吸引力により、プランジャ12及びプランジャ12と一体結合したシャフト11は、エンドキャップ20の方向(図1右側)に移動する。
【0018】
本実施形態のプッシュプルソレノイド1は、図示しない油圧回路側から侵入する圧油が、ケース19の貫通孔19cを通過してプランジャ12装着室内を満たす油浸型である。第1のOリング23及び第2のOリング24は、この圧油が外部へ流出することを防止するために設けられている。
【0019】
図2で示す従来の油浸型プッシュプルソレノイド2では、第1のOリング23をケース19のボス部外周溝19gに、第2のOリング24をエンドキャップ20のボス部外周溝20cに装着している。この場合、上記圧油は、ヨーク18と第1ボビン14の隙間から第1ボビン14をケースボス部19bの方向(図2左側)に押す力として作用する。また、上記圧油は、ヨーク18と第2ボビン15の隙間から第2ボビン15をエンドキャップ20の方向(図2右側)に押す力として作用する。したがって、上記圧油は、ヨーク18と第1ボビン14及び第2ボビン15の間を押し拡げる方向に作用する。この作用により、ヨーク18と第1ボビン14及び第2ボビン15の間が引き剥がされ、その隙間からソレノイド内に満たされた圧油が外部に流出するおそれが生ずることになる。
【0020】
一方、本発明のプッシュプルソレノイド1であっても、圧油はヨーク18と第1ボビン14及び第2ボビン15の間を押し拡げる方向に作用する。しかしながら、第1のOリング23と第2のOリング24は、第1ボビン14及び第2ボビン15を挟み込む位置に装着されているため、上記圧油は、第1のOリング23と第2のOリング24の内周側において、第1ボビン14及び第2ボビン15をケース19とエンドキャップ20とでそれぞれ軸線方向の内側に向けて押圧する。この作用により、ヨーク18と第1ボビン14及び第2ボビン15を引き剥がす力を油圧的にキャンセルすることができる。したがって、本実施形態による油浸型プッシュプルソレノイド1によれば、ヨーク18と第1ボビン14及び第2ボビン15の間の結合・シールは保証され、油の外部噴出を防止することができる。
【0021】
また、本実施形態ではOリングシール方式のため、圧油が漏れない程度までケース19とエンドキャップ20、第1ボビン14と第2ボビン15とで決まる隙間を設けることができるので、寸法公差を大きくとることができる効果も有する。
【0022】
なお、第1のOリング23若しくは第2のOリング24のいずれか一方のみをボビンの側端面に設けてもよい。この場合でも、第1ボビン14とヨーク18及び第2ボビン15とヨーク18を引き剥がす力は発生するが、一方を引き剥がす力が油圧的にキャンセルされる。また、他方を引き剥がす力はキャンセルされないが、結合されたヨーク及びボビンをハウジングの一方に押しつける作用が生ずる。例えば、第1のOリング23をケースボス部外周溝19gに環装し、第2のOリング24を第2ボビン15の側端面の環状溝15bに環装する。この場合には、上記圧油による圧力は、第1ボビン14とヨーク18及び第2ボビン15をケースボス部19bの方向(図1左側)に押圧し、ケースボス部19b側に押し付ける作用が生ずる。したがって、ヨーク18と第1ボビン14及び第2ボビン15の間のシール・結合を確保できる。さらに、両ボビンの側端面にOリングを環装した場合は両ボビンを押し付ける力以外にケース19とエンドキャップ20を引き離す力が生じるが、このように、一方のボビンの側端面にOリングを環装すると、ケース19とエンドキャップ20が引き離される力を弱めることもできる。
【0023】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【0024】
例えば、ヨーク18と第1ボビン14と第2ボビン15の間の結合・シールを接着剤ではなく、融着による結合方法を使用した場合でも同様の効果を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明による油浸型プッシュプルソレノイドを示す図である。
【図2】従来の油浸型プッシュプルソレノイドを示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 油浸型プッシュプルソレノイド
2 油浸型プッシュプルソレノイド
11 シャフト
12 プランジャ
12a 貫通部
13 スリーブ
14 第1ボビン
14a 側壁
14b 環状溝
15 第2ボビン
15a 側壁
15b 環状溝
16 第1コイル
17 第2コイル
18 ヨーク
19 ケース(ハウジング)
19a 底部
19b ボス部
19c 貫通口
19d 開口部
19e リード線取り出し口
19f 内部端面
19g ボス部外周溝
20 エンドキャップ(ハウジング)
20a ボス部
20b 凹孔
20c ボス部外周溝
21 第1フィラーリング
22 第2フィラーリング
23 第1のOリング(シール部材)
24 第2のOリング(シール部材)
25 バネ
26 リード線
27 接着面
28 接着面
30 励磁コイル
40 ハウジング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトと結合したプランジャと、
前記プランジャを収容するとともに圧油が導かれるプランジャ収容室と、
前記プランジャの外周面に軸線方向に間隔を置いて配置される第1ボビンと第2ボビンと、
前記第1、第2ボビンにそれぞれ巻回された第1、第2コイルと、
前記第1、第2ボビンの間に前記第1、第2ボビンそれぞれと結合されるヨークと、
前記第1、第2ボビン及び前記ヨークが収められるハウジングと、
前記第1ボビンと前記第2ボビンのうち少なくとも一方の側端面と前記ハウジングの間に備え付けられる環状の第1シール部材と、
前記第1ボビンと第2ボビンいずれか他方の内周面と前記ハウジングとの間または他方の側端面と前記ハウジングとの間に備え付けられる環状の第2シール部材と、
を備える油浸型プッシュプルソレノイド。
【請求項2】
前記第1シール部材は、前記第1ボビン側端面と前記ハウジングの間に備えられる、
ことを特徴とする請求項2に記載の油浸型プッシュプルソレノイド。
【請求項3】
前記第1シール部材は、前記第2ボビン側端面と前記ハウジングの間に備えられる、
ことを特徴とする請求項1に記載の油浸型プッシュプルソレノイド。
【請求項4】
前記第1シール部材は、前記第1ボビン側端面と前記ハウジングの間に備えられ、かつ、前記第2シール部材は、前記第2ボビン側端面と前記ハウジングの間に備えられる、
ことを特徴とする請求項1に記載の油浸型プッシュプルソレノイド。
【請求項5】
前記第1、第2シール部材は、Oリングである、
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の油浸型プッシュプルソレノイド。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−140417(P2006−140417A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−330896(P2004−330896)
【出願日】平成16年11月15日(2004.11.15)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】