説明

油滓処理装置、油滓処理方法および油滓由来の肥料の製造方法

【課題】植物油を製造する過程で生じる油滓を、短時間に効率良く処理することが可能な油滓処理装置を提供する。
【解決手段】油滓処理装置は、油滓を酸化分解処理するための反応器20と、反応器20内の水の温度を水の臨界温度以上である650℃に加熱するための電熱コイル23と、反応器20内に油滓を導入するとともに同反応器20内の水の圧力を水の臨界圧力未満である17MPaに加圧する高圧ポンプ13と、反応器20内に酸化剤を供給するとともに同反応器20内の水の圧力を水の臨界圧力未満である17MPaに加圧するコンプレッサー33とを備えている。また、反応器20には、油滓の酸化分解処理によって生じる反応ガスを排出するための排気管41と、同酸化分解処理によって生じる固体(無機)残渣を排出するための廃棄管51とが接続されている。さらに、排気管41には、反応ガスを気体物質と液体物質とに分離する気液分離器44が接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物油の製造過程で生じる油滓を酸化分解処理するための油滓処理装置、油滓処理方法および同油滓処理装置・油滓処理方法を用いて肥料を生成する肥料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、植物油を製造する過程、例えば、大豆を搾油する工程においては、大豆油の搾り滓である油滓が生じる。油滓は、水分や油分を多く含み高粘性のペースト状であるため取り扱いが困難である。このため、従来、油滓は産業廃棄物として焼却処分されることが多かった。しかし、近年、油滓に含まれる油分等から各種脂肪酸または有機肥料を生成する装置や方法が提案され、油滓の有効利用が試みられている。例えば、下記特許文献1には、油滓から脂肪酸エステル化物等を生成するシステムが開示されている。また、下記特許文献2には、油滓を肥料化する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2004−91783号公報
【特許文献1】特開平09−268086号公報
【0003】
しかしながら、上記したような油滓から各種脂肪酸や有機肥料を生成する油滓の処理方法は、処理効率の点で問題となる。すなわち、上記特許文献1に示される油滓処理システムにおいては、油滓の処理工程が多いため処理に時間が掛かる。また、各処理工程を適切に維持管理するメンテナンス作業も煩雑である。一方、上記特許文献2に示される油滓処理方法においては、油滓を発酵分解させるために所定の時間が必要である。したがって、これらのような油滓の処理方法では、日々、大量に生じる油滓を処理する方法としては必ずしも適当ではないという問題があった。
【発明の開示】
【0004】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、植物油を製造する過程で生じる油滓を、短時間に効率良く処理することが可能な油滓処理装置および油滓処理方法を提供するとともに、併せて、同油滓処理装置・油滓処理方法を用いて肥料を生成する肥料の製造方法を提供することにある。
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、植物油の製造過程で生じる油滓を処理する油滓処理装置において、水の臨界温度(374℃)以上に加熱するとともに、水の臨界圧力(22MPa)未満に加圧した状態の水の中に酸化剤を加えて、前記油滓を酸化分解する酸化分解手段を備えたことにある。
【0006】
この場合、前記酸化分解手段は、油滓を酸化分解するための酸化分解槽と、酸化分解槽内の水の温度を水の臨界温度(374℃)以上に加熱するための加熱手段と、酸化分解槽内の水の圧力を水の臨界圧力(22MPa)未満に加圧するための加圧手段と、酸化分解槽内に酸化剤を供給する酸化剤供給手段とを備えるとよい。また、この場合、前記酸化分解手段による油滓の酸化分解における水の温度を600℃以上700℃以下、かつ同水の圧力を10MPa以上水の臨界圧力(22MPa)未満にするとよい。また、前記酸化分解手段による油滓の酸化分解における酸素供給比を1.0〜3.0にするとよい。
【0007】
このように構成した本発明の特徴によれば、水の臨界温度(374℃)以上の温度で水の臨界圧力(22MPa)未満の圧力の状態にある高圧過熱水蒸気中に酸化剤と油滓とを投入して、同油滓を酸化分解処理、すなわち、燃焼させている。この場合、油滓を酸化分解処理(燃焼)するための構成のみ油滓を処理することができる。このため、従来技術に比して処理工程が少なく短時間に油滓を処理することができる。また、処理工程が少ないため、各処理工程を維持管理する工数・メンテナンス作業も少なくなる。これらの結果、油滓を短時間に効率良く処理することができる。
【0008】
また、本発明の他の特徴は、前記油滓処理装置において、前記酸化分解手段は、油滓の酸化分解によって生じる流体状の物質を排出するための流体排出手段と、油滓の酸化分解によって生じる固体状の物質を排出するための固体排出手段とを備えたことにある。この場合、油滓処理装置に、さらに、流体排出手段から排出された流体状の物質を、気体状の物質と液体状の物質とに分離する気液分離手段を備えるとよい。
【0009】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、油滓の酸化分解処理によって生じた反応流体(例えば、ガスや水蒸気)と固体(無機)残渣とをそれぞれ別々に酸化分解手段から排出する構成としている。このため、反応流体中に無機塩などの固体(無機)残渣が含まれることがなく、反応流体および固体(無機)残渣の廃棄または再利用・再資源化が容易となる。
【0010】
また、本発明は装置の発明として実施できるばかりでなく、方法の発明としても実施できるものである。また、本発明は、同油滓処理装置・油滓処理方法を用いて肥料を製造する肥料の製造方法としても実施できるものである。
【0011】
具体的には、植物油の製造過程で生じる油滓から肥料を生成する肥料の製造方法において、水の臨界温度(374℃)以上の温度、かつ水の臨界圧力(22MPa)未満の圧力の水に酸化剤を加えた流体中で、前記油滓を酸化分解する酸化分解工程を含むようにすればよい。これによれば、油滓の酸化分解処理によって油滓に含まれる無機成分を抽出することができ肥料として再利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る油滓処理装置の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、油滓を酸化分解する油滓処理装置の全体構成を模式的に示すブロック図である。ここで、油滓とは、各種植物油(例えば、大豆油、コーン油、菜種油、オリーブ油、ゴマ油など)の製造過程で生じる副生成物であり、主として水分、中性油、脂肪酸およびリン脂質などから構成され、高粘性でペースト状の物質である。この油滓処理装置は、被処理物を貯留する貯留タンク11を備えている。
【0013】
貯留タンク11は、油滓処理装置の処理対象である流体状の油滓を貯留するための容器である。貯留タンク11の底部には、導入管12が接続されている。導入管12は、貯留タンク12に貯留されている油滓を高圧ポンプ13およびバルブ14を介して反応器20に導くための配管である。高圧ポンプ13は、貯留タンク11に貯留されている油滓を導入管12を介して反応器20に供給するための送液ポンプであり、図示しない制御装置により作動が制御される。また、高圧ポンプ13は、前記制御装置による作動制御により、反応器20内の圧力を水の臨界圧力(22MPa)未満の圧力、具体的には17MPaに加圧する。バルブ14は、導入管12を介して反応器20に供給される油滓の流量を調節するための手動弁である。
【0014】
反応器20は、油滓を酸化反応させて分解処理するために液密かつ気密的に形成された略円筒状の横型の容器である。この反応器20は、水の臨界温度(374℃)以上および水の臨界圧力(22MPa)に耐えられる材料、例えばニッケル・クロム合金で構成されている。反応器20の外周面上部における一方の端部(図示左側端部)には、前記導入管12が接続されているとともに、反応器20内に酸化剤を供給するための供給管31が接続されている。また、反応器20の外周面上部における他方の端部(図示右側)には、油滓を酸化反応させることにより生じる反応ガスを反応器20の外部に排出するための排気管41が接続されている。さらに、反応器20の外周面下部における前記排気管41に対向する位置には、油滓を酸化反応させることにより生じる固体(無機)残渣を廃棄するための廃棄管51が接続されている。
【0015】
反応器20の内部には、スクリューコンベア21が設けられている。スクリューコンベア21は、丸棒状に形成された駆動軸21aの外周面に略帯状の羽根体21bが螺旋状に巻き回されて構成されており、反応器20内に投入された油滓を駆動軸21aの軸線方向に沿って攪拌しながら移送する。このスクリューコンベア21の駆動軸21aは、その一端部(図示左側)が反応器20の一方の側面(図示左側側面)の略中心部を貫通して移送モータ22に連結支持されているとともに、他端部(図示右側)が反応器20の他方の側面(図示右側側面)の略中心部に図示しない軸受を介して回転自在に支持されている。すなわち、スクリューコンベア21は、反応器20の長手方向に沿って設置されており、油滓を導入管12側から排気管41側に向けて攪拌しながら移送する。
【0016】
移送モータ22は、反応器20の一方の側面(図示左側側面)の外側に固定された電動モータであり、前記制御装置によって作動が制御されてスクリューコンベア21の駆動軸21aを回転させる。反応器20の外周面であって供給管31と排気管41との間には、電熱コイル23が巻き回された状態で設けられている。電熱コイル23は、前記制御装置によって作動が制御される加熱装置であり、反応器20内の温度を水の臨界温度(374℃)以上、具体的には650℃程度の温度に加熱するとともに、同温度状態を維持する。すなわち、この電熱コイル23は、油滓に含まれる水分を水の臨界温度以上に加熱するための熱源である。
【0017】
供給管31の上流側には、バルブ32、コンプレッサー33を介して空気取込口34が接続されている。バルブ32は、供給管31内を流れる空気の流量を調節するための手動弁である。コンプレッサー33は、前記制御装置により作動が制御される空気圧縮装置である。具体的には、コンプレッサー33は、空気取込口34を介して大気中から吸引した空気を圧縮して反応器20に供給するとともに、反応器20内の圧力を水の臨界圧力(22MPa)未満の圧力、具体的には17MPaに加圧し維持する。すなわち、コンプレッサー33は、空気中の酸素を酸化剤として反応器20内に供給する。この場合、コンプレッサー33は、制御装置によって制御されて、酸素供給比が「2」となるように反応器20内に空気を供給する。ここで、酸素供給比とは、反応器20内の油滓に含まれる有機分を完全に酸化分解するために必要な酸素量に対する実際に供給した酸素量の比率である。
【0018】
排気管41の下流側には、冷却器42、焼結フィルタ43および気液分離器44がそれぞれ設けられている。冷却器42は、前記制御装置によって作動が制御され、排気管41を空冷および水冷方式により冷却して反応器20から排気された反応ガスの温度を大気温度に略等しい温度にまで下げる。焼結フィルタ43は、反応器20から排気された反応ガスに含まれる固形分を分離するためのものである。また、気液分離装置44は、反応器20から排気された反応ガスに含まれる水蒸気を液体として分離するとともに、同水蒸気が除かれた反応ガスを大気中に放出するための装置である。
【0019】
廃棄管51の下流側には、残渣受器52およびバルブ53がそれぞれ設けられている。残渣受器52は、反応器20にて生成された固体(無機)残渣を回収して貯留しておく容器である。また、バルブ53は、残渣受器52に貯留された固体(無機)残渣を放出するための手動弁である。
【0020】
上記のように構成した油滓処理装置の作動について説明する。まず、作業者は、ペースト状の油滓(含水率約60%)を貯留タンク11内に貯留する。そして、油滓処理装置における図示しない電源スイッチを投入して、油滓の処理の開始を制御装置に指示する。この指示に応答して前記制御装置は、コンプレッサー33および電熱コイル23の各作動を開始させる。これにより、反応器20内は、酸化剤(空気)が供給されて17MPaに加圧されるとともに、電熱コイル23により650℃に加熱される。また、この場合、酸素供給比が「2」となるように反応器20内に酸化剤が供給される。
【0021】
次に、制御装置は、高圧ポンプ13、移送モータ22および冷却器42の各作動を開始させる。これにより、反応器20内に貯留タンク11に貯留されている油滓の導入が開始されるとともに、反応器20内のスクリューコンベア21の回転が開始される。反応器20に導入された油滓は、反応器20の底部に向かって自由落下した後、スクリューコンベア21により攪拌されながら排気管41側に移送される。この場合、油滓の滞留時間は約70分である。このスクリューコンベア21による攪拌・移送過程において油滓に含まれる水分は、650℃(水の臨界温度(374℃)以上)、かつ17MPa)の雰囲気中に曝されて高圧過熱水蒸気となり、油滓に含まれる有機物を溶解する。高圧過熱水蒸気に溶解した有機物は、反応器20内に供給されている酸化剤によって酸化分解されて、水蒸気、二酸化炭素ガスおよび窒素ガス等からなる反応ガスに転化する。また、油滓に含まれる無機物(リン、ナトリウム、カルシウム、カリウムなど)は粉状の固体(無機)残渣として析出する。
【0022】
油滓の酸化処理によって生成された前記反応ガスは、排気管41を介して冷却器42、焼結フィルタ43および気液分離器44に導かれる。気液分離器44は、反応ガスに含まれる水蒸気を液化して貯留するとともに、二酸化炭素ガスおよび窒素ガスを大気中に放出する。この気液分離器44に貯留された水は、そのまま廃棄してもよいし、他の用途に利用してもよい。一方、固体(無機)残渣は、スクリューコンベア21により廃棄管51に導かれた後、残渣受器52内に回収される。残渣受器52内に回収された固体(無機)残渣は、そのまま廃棄してもよいし、他の用途、例えば、肥料などに利用してもよい。すなわち、残渣受器52内に回収された固体(無機)残渣を肥料として用いれば、この油滓処理装置を油滓に由来する肥料を製造する製造装置と見做すことができるとともに、この油滓処理方法を油滓に由来する肥料の製造方法と見做すこともできる。
【0023】
このようにして、油滓の酸化処理が連続的に実行されて、有機物を含む油滓が水、二酸化炭素ガス、窒素ガスおよび無機物質などの無害な物質に分解される。そして、すべての油滓を酸化処理した場合には、作業者は油滓処理装置の作動を停止させて油滓の酸化処理作業を終了する。この油滓処理装置によって油滓を処理した際の排水中に含まれるTOC(全有機炭素量)および炭素分解率の経時変化を図2に示す。また、同排水中に含まれる各種窒素分(NH態窒素,NO態窒素,NO態窒素)の濃度および同窒素分の合計Sの経時変化を図3に示す。この場合、各種窒素分の合計Sは、下記式1によって表される。
窒素分の合計S=NH×0.4+NO+NO・・・式1
【0024】
図2に示すように、排水に含まれるTOCは、油滓の処理開始から12時間経過後まで5〜8ppmであり、油滓に含まる炭素分は略100%分解されている。また、図3に示すように、排水中に含まれるアンモニア態窒素、硝酸態窒素および亜硝酸窒素は、それぞれ1.5ppm以下であり、これらの合計量も2ppm以下である。すなわち、本発明に係る油滓処理装置によれば、有害物質を発生することなく油滓を短時間に処理することができる。
【0025】
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、温度が650℃で圧力が17MPaである高圧過熱水蒸気中に酸化剤と油滓とを投入して、同油滓を酸化分解処理、すなわち、燃焼させている。この場合、油滓を酸化分解処理(燃焼)するための主な構成・工程は反応器20のみである。このため、従来技術に比して処理工程が少なく短時間に油滓を処理することができる。また、処理工程が少ないため、各処理工程を維持管理する工数・メンテナンス作業も少なくなる。これらの結果、油滓を効率良く処理することができる。
【0026】
また、上記実施形態によれば、油滓の酸化分解処理によって生じた反応物質のうち、反応ガスと固体(無機)残渣とをそれぞれ別々に反応器20から排出する構成とし、さらに同排出された反応ガスを気液分離器44によって液体の水と気体ガスとに分離している。このため、排水中に無機塩などが含まれることがなく、反応物質の廃棄または再利用・再資源化が容易となる。
【0027】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0028】
上記実施形態においては、各種植物油の製造過程で生じる油滓自体を被処理物としたが、当然、これに限定されるものではない。すなわち、上記油滓を含む混合物、例えば、油滓に水または油などを混ぜた混合物や、種類のことなる植物または互いに異なる工程で生じた油滓を混ぜ合わせた混合物等も含まれる。これによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0029】
また、上記実施形態においては、図示左右方向に延びる横型の反応器20を用いた例について説明したが、当然、これに限定されるものではない。すなわち、縦型の反応器20を用いてもよいし、横型の反応器20を排気管41側に向けて上り勾配となるように傾斜させた構成としてもよい。これによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0030】
また、上記実施形態においては、反応器20内の水の温度を650℃としたが、水の臨界温度(374℃)以上であれば、これに限定されるものではない。この場合、油滓に含まれる有機物中の窒素分がアンモニアに転化することを防止するため、反応器20内の水の温度を600℃以上とすることが好ましい。これによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。なお、油滓の酸化分解処理によって生じたアンモニアを別途処理する構成を備えた場合には、水の臨界温度(374℃)以上600℃以下の温度の高圧過熱水蒸気中で油滓を処理するように構成してもよい。これによれば、反応器20の耐熱性能を下げることができ構成を簡単にすることができる。
【0031】
また、上記実施形態においては、反応器20内の水の圧力を17MPaとしたが、水の臨界圧力(22MPa)未満であれば、これに限定されるものではない。これは、油滓に含まれる有機物中の炭素分の分解率を高い値(99%以上)に維持した状態で、有機物中の窒素分が亜酸化窒素に転化することを防止するためである。したがって、反応器20内の水の圧力を水の臨界圧力(22MPa)未満、具体的には、5MPa以上22MPa、好ましくは13MPa以上19MPa以下に設定するとよい。これによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0032】
また、上記実施形態においては、酸素供給比が「2」となるように反応器20内に酸化剤である空気(酸素)を供給したが、これに限定されるものではない。酸素供給比は、反応器20に導入された油滓の処理時間に影響を与えるパラメータである。すなわち、酸素供給比の値が大きい程、反応器20に供給される酸化剤の量が増大し、油滓の酸化分解処理に要する時間が短くなる。本発明者らの実験によれば、酸素供給比は、1〜3の範囲で設定するのが適当である。なお、上記した水の温度や圧力、酸素供給比、反応器20内での油滓の滞留時間等は、処理する油滓の種類、性状および量などに基づいて総合的に設定されるものでもある。
【0033】
また、上記実施形態においては、反応器20に排気管41および廃棄管51をそれぞれ設け、油滓の酸化分解反応により生じた反応ガスと固体(無機)残渣をそれぞれ回収するとともに、回収した反応ガスを気液分離器44により更に気体物質と液体物質とに分別するように構成した。すなわち、上記実施形態においては、油滓の酸化分解反応により生じた反応物質を各相(気相,液相,固相)ごとに回収するように構成した。これは、油滓の酸化分解反応により生じた反応物質を各相ごとに回収することにより、反応物質の廃棄または再資源化を容易にするためである。すなわち、油滓の酸化分解反応により生じた反応物質を各相ごとに回収する構成は、油滓を酸化分解処理するために必須な構成ではない。したがって、油滓の酸化分解反応により生じた反応物質を回収する方法は、反応物質の最終的な処分方法に応じて適宜決定すればよく、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、油滓の酸化分解反応により生じた反応物質を1つの廃棄管からまとめて反応器20の外に排出するように構成してもよい。
【0034】
また、上記実施形態においては、反応器20内の水を水の臨界温度以上である650℃に加熱する熱源として電熱コイル23を用いるとともに、同反応器20内の水の圧力を水の臨界圧力未満である17MPaに加圧する圧力源として高圧ポンプ13およびコンプレッサー33を用いた。しかし、これらの熱源および加圧源は一例を示すものであって、これらに限定されるものではないことは当然である。
【0035】
また、上記実施形態においては、酸化剤として空気を用いたが、被処理物を酸化処理できる物質であれば、これに限定されるものではない。例えば、酸素、オゾンまたは過酸化水素などを用いることができる。これらによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態に係る油滓処理装置の全体構成を模式的に示すブロック図である。
【図2】図1に示す油滓処理装置によって油滓を処理した際の排水中に含まれるTOC(全有機炭素量)および炭素分解率の経時変化の例を示すグラフである。
【図3】図1に示す油滓処理装置によって油滓を処理した際の排水中に含まれる各種窒素成分の濃度および同窒素成分の合計の経時変化の例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0037】
11…貯留タンク、12…導入管、13…高圧ポンプ、20…反応器、21…スクリューコンベア、21a…駆動軸、21b…羽根、22…移送モータ、23…電熱コイル、31…供給管、33…コンプレッサー、34…空気取込口、41…排気管、44…気液分離器、51…廃棄管、52…残渣受器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物油の製造過程で生じる油滓を処理する油滓処理装置において、
水の臨界温度(374℃)以上に加熱するとともに、水の臨界圧力(22MPa)未満に加圧した状態の水の中に酸化剤を加えて、前記油滓を酸化分解する酸化分解手段を備えたことを特徴とする油滓処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載した油滓処理装置において、
前記酸化分解手段は、
前記油滓を酸化分解するための酸化分解槽と、
前記酸化分解槽内の水の温度を水の臨界温度(374℃)以上に加熱するための加熱手段と、
前記酸化分解槽内の水の圧力を水の臨界圧力(22MPa)未満に加圧するための加圧手段と、
前記酸化分解槽内に酸化剤を供給する酸化剤供給手段とを備える油滓処理装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載した油滓処理装置において、
前記酸化分解槽手段による前記油滓の酸化分解における水の温度が600℃以上700℃以下、かつ同水の圧力が10MPa以上水の臨界圧力(22MPa)未満である油滓処理装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちのいずれか1つに記載した油滓処理装置において、
前記酸化分解手段による前記油滓の酸化分解における酸素供給比が1.0〜3.0である油滓処理装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1つに記載した油滓処理装置において、
前記酸化分解手段は、
前記油滓の酸化分解によって生じる流体状の物質を排出するための流体排出手段と、
前記油滓の酸化分解によって生じる固体状の物質を排出するための固体排出手段とを備える油滓処理装置。
【請求項6】
請求項5に記載した油滓処理装置において、さらに、
前記流体排出手段から排出された前記流体状の物質を、気体状の物質と液体状の物質とに分離する気液分離手段を備える油滓処理装置。
【請求項7】
植物油の製造過程で生じる油滓を処理する油滓処理方法において、
水の臨界温度(374℃)以上に加熱するとともに、水の臨界圧力(22MPa)未満に加圧した状態の水の中に酸化剤を加えて、前記油滓を酸化分解する酸化分解工程を含むことを特徴とする油滓処理方法。
【請求項8】
請求項7に記載した油滓処理方法において、
前記酸化分解工程は、
前記油滓を酸化分解するための酸化分解槽に同油滓を導入する油滓導入工程と、
前記酸化分解槽内の水の温度を水の臨界温度(374℃)以上に加熱するための加熱工程と、
前記酸化分解槽内の水の圧力を水の臨界圧力(22MPa)未満に加圧するための加圧工程と、
前記酸化分解槽内に酸化剤を供給する酸化剤供給工程とを含む油滓処理方法。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載した油滓処理方法において、
前記酸化分解工程による前記油滓の酸化分解における水の温度が600℃以上700℃以下、かつ同水の圧力が10MPa以上水の臨界圧力(22MPa)未満である油滓処理方法。
【請求項10】
請求項7ないし請求項9のうちのいずれか1つに記載した油滓処理方法において、
前記酸化分解工程による前記油滓の酸化分解における酸素供給比が1.0〜3.0である油滓処理方法。
【請求項11】
請求項7ないし請求項10のうちのいずれか1つに記載した油滓処理方法において、
前記酸化分解工程は、
前記油滓の酸化分解によって生じる流体状の物質を排出するための流体排出工程と、
前記油滓の酸化分解によって生じる固体状の物質を排出するための固体排出工程とを含む油滓処理方法。
【請求項12】
請求項11に記載した油滓処理方法において、さらに、
前記流体排出工程によって排出された前記流体状の物質を、気体状の物質と液体状の物質とに分離する気液分離工程を含む油滓処理方法。
【請求項13】
植物油の製造過程で生じる油滓から肥料を生成する肥料の製造方法において、
水の臨界温度(374℃)以上の温度、かつ水の臨界圧力(22MPa)未満の圧力の水に酸化剤を加えた流体中で、前記油滓を酸化分解する酸化分解工程を含む肥料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−207134(P2008−207134A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−48192(P2007−48192)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【特許番号】特許第4058497号(P4058497)
【特許公報発行日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【出願人】(302042678)株式会社J−オイルミルズ (75)
【Fターム(参考)】