説明

油絶縁機器の部分放電種別判別装置および方法

【課題】油絶縁機器の絶縁試験において、主なPD発生の原因となる気泡性PDと異物性PDを確実かつ簡便に判別する。
【解決手段】油絶縁機器内部で部分放電による絶縁異常が生じた場合に部分放電を検出し、部分放電種別を判別する部分放電種別判別装置であって、部分放電により発生する信号を検出するセンサー1と、部分放電により発生する信号の波形長、および部分放電が発生した際の印加電圧の極性を計測する計測器2と、波形長および極性に基づいて部分放電種別を判別する判別装置3とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油絶縁機器における絶縁異常を診断する装置および方法に関するものであり、特に、部分放電発生の要因を判別するための部分放電種別判別装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油絶縁変圧器などの油絶縁機器の絶縁試験や絶縁診断において、部分放電(Partial discharge:PD)種別を判別する技術の確立が望まれている。このような技術が確立できれば、絶縁試験の合理化や、絶縁診断の高精度化を図ることができる。
【0003】
近年、UHF帯の電磁波に注目したPD検出技術の報告がなされているが、油絶縁機器内部におけるPD源種別を判別する技術は、未だ明確ではない。PD源種別を判別する技術の例としては、次のものが挙げられる。まず1つに、PDにより発生する実時間信号の半値幅と波高値の関係が、PD源の種類によりそれぞれ固有の様相を示す特性を利用したPD源の種別判別方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図15は、特許文献1における従来技術の説明図である。この図15に示すガス絶縁電気機器のPD種別の判定方法は、ガス絶縁電気機器(GIS)の内部に生じたPDを検出して、PD源の種類を判別する。図15(a)に示すように、PDを測定すると(S61)、その信号波形を検波し(S62)、半値幅と波高値を求める(S63)。半値幅と波高値の関係は、PD源種別によりそれぞれ固有の様相を示すので、両者の比により(S64)PD源種別を判別する(S65a〜S65d)。
【0005】
その両者の比を図15(b)に示す。この図15(b)は、各種PD源で実験的にPDを発生させて得たデータを示しており、PD信号の時間波形を検波した検波波形の、半値幅と波高値をプロットしたグラフであり、横軸が波高値で、縦軸が半値幅である。ここで、半値幅とは、検波波形が最大になる点とその1/2になる点との時間間隔である。
【0006】
この図15(b)では、時間幅として半値幅を採用している。PDの大きさがばらついているが、図中A〜Dで示すように、PD源の種別毎に波高値−半値幅平面上の特定の範囲に集中している。従って、この図15(b)からGIS内部のPD源種別を判別することができる。
【0007】
また、他の従来技術としては、電磁波の波形長を計測し、PD源種別(位置)を特定する方法がある(例えば、特許文献2参照)。この方法では、PD源より放射される電磁波波形の電圧信号値の絶対値を積算していき、横軸を時間、縦軸を積算値としたグラフをプロットすることにより、PD源種別(位置)を特定する。
【0008】
図16は、特許文献2における従来技術の説明図である。GISにおけるPD検出技術において、図16(a)のように、接地容器側に異物が付着した場合の電磁波波形は、90ns程度振動が続く長いものなる。しかし、図16(b)のように、導体側に異物が存在する場合の電磁波波形は、20ns以下の振動しかない短い波形となる。従って(a)、(b)より直ちに異物の位置を判別できる。
【0009】
また、この場合に、図16(c)、(d)のように、横軸を時間、縦軸を周波数としたグラフを描けば、視覚的に次のことが判別できる。すなわち、異物が接地容器側にある場合には、高い周波数成分を比較的長い時間有していることがわかる。一方、異物が導体側にある場合には、高い周波数成分を短時間のみ有し、長時間持続しないことがわかる。
【0010】
さらに、実時間電磁波波形の各時点での電圧絶対値を逐次加算していけば、信号強度がプラスでもマイナスでも、絶対値が時間経過とともに加算されていく。その結果、異物が接地容器側にある場合には、信号強度の大きな変化が長く持続することにより、積算値は増加傾向となり、その状態が長時間持続する特性となる。逆に、異物が導体側にある場合には、信号強度の変化は長時間続かず、頭打ちの特性を示す。この特性を、図16(e)に示す。このように、波形を演算することで、PD源の判別が可能となる。
【0011】
【特許文献1】特開2001-242212号公報
【特許文献2】特開2007-114050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
油絶縁変圧器などの油絶縁機器は、内部が絶縁油で満たされ、鉄心、プレスボード、銅線等で構成されている。この油絶縁機器での主なPD源の種類は、2種類ある。1つは、絶縁油を機器内部に注入する際に残留する気泡による気泡性PDである。そして、もう1つは、機器製造時に内部に混入することがある金属片等による異物性PDである。
【0013】
この油絶縁機器内部での気泡性PDと異物性PDの判別に対して、上述した従来技術を適用しようとすると、気泡性PDと異物性PDとで同様の波形長が観測される場合があるため、両者を判別することができないといった問題が生じる。
【0014】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、油絶縁機器の絶縁試験において、主なPD発生の原因となる気泡性PDと異物性PDを確実かつ簡便に判別することのできる油絶縁機器の部分放電種別判別装置および方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る油絶縁機器の部分放電種別判別装置は、油絶縁機器内部で部分放電による絶縁異常が生じた場合に部分放電を検出し、部分放電種別を判別する部分放電種別判別装置であって、部分放電により発生する信号を検出するセンサーと、部分放電により発生する信号の波形長、および部分放電が発生した際の印加電圧の極性を計測する計測器と、波形長および極性に基づいて部分放電種別を判別する判別装置とを備えるものである。
【0016】
また、本発明に係る油絶縁機器の部分放電種別判別方法は、油絶縁機器内部で部分放電による絶縁異常が生じた場合に部分放電を検出し、部分放電種別を判別する部分放電種別判別方法であって、部分放電により発生する信号を検出するステップと、部分放電により発生する信号の波形長、および部分放電が発生した際の印加電圧の極性を計測するステップと、計測された波形長および極性に基づいて、印加電圧の両極性において計測されたそれぞれの波形長がともに、部分放電種別を判別するための閾値である所定の基準波形長未満となる場合には、発生した部分放電が気泡性部分放電であると判別し、印加電圧の両極性において計測されたそれぞれの波形長のいずれか一方が所定の基準波形長以上となる場合には、発生した部分放電が異物性部分放電であると判別するステップとを備えるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、PDにより発生する信号を検出し、PDが発生した極性と信号の波形長とに基づいてPDの主要因を判別することができ、FFTなどの高価な処理装置等を設置することなく、油絶縁機器の絶縁試験において、主なPD発生の原因となる気泡性PDと異物性PDを確実かつ簡便に判別することのできる油絶縁機器の部分放電種別判別装置および方法を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の油絶縁機器の部分放電種別判別装置および方法の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0019】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る油絶縁機器の部分放電種別判別装置を含む全体構成図である。図1における部分放電種別判別装置は、アンテナ1、計測器2、判別装置3、および結果表示装置4で構成される。
【0020】
アンテナ1は、油絶縁機器内部でのPDによって放射される電磁波を検出する。アンテナ1によって検出されたアンテナ誘起電圧は、同軸ケーブルを介して計測器2に導入される。そして、計測器2は、アンテナ誘起電圧から、PDが発生した際の印加電圧の極性ならびに電磁波の波形長を計測する。
【0021】
判別装置3は、計測器2による計測データ(極性および波形長)を受信し、PDが発生した印加電圧の極性および電磁波の波形長に基づき、異物性PDか気泡性PDかを判別する。そして、判別装置3は、判別結果を結果表示装置4に表示させる。
【0022】
次に、異物性PDか気泡性PDかを判別する方法について、具体的に説明する。
まず始めに、気泡性PDと異物性PDの信号波形の特徴を把握する目的で、気泡性PDと異物性PDのPD電磁波計測基礎試験を行った。図2は、本発明の実施の形態1におけるPD電磁波計測基礎試験を行った際の異物性モデルと気泡性モデルを示す図である。
【0023】
油絶縁機器内部でPDが発生し、電磁波が放射されると、この電磁波波形は、PD源種別によって変化する。そこで、図2に示すように、(a)の異物性モデルと(b)の気泡性モデルを試料としてPD測定を行った。
【0024】
(a)の異物性モデルは、異物性PDを模擬した針平板系で構成されている。この針平板系は、針の先端径を、変圧器内の絶縁構造の油隙に存在する可能性のある異物で考えなければならない最小の値である10μm程度とし、針−平板間距離も実際の変圧器の絶縁構造と同様の数mmとしている。また、針の先端径が10μmになると、針平板系での放電開始電圧(PDIV)が最低となり、それ以下の先端径ではPDIV値は降下せず、10μm時のPDIV値で飽和する。
【0025】
一方、(b)の気泡性モデルは、気泡性PDを模擬した平板−平板系(内部に気泡を挿入)で構成されている。気泡性PDを模擬したこの平板−平板モデルも、(a)の針−平板間距離と同様、油隙間を変圧器の絶縁構造に基づいて数mmとし、気泡径は1〜2mm程度とした。
【0026】
試料は、いずれもアクリル筐体内の油中に設置した。本実施の形態1におけるアンテナ1には、バイコニカルログペリオディックアンテナ(帯域幅:30〜2000MHz)を使用し、4GHz、20GS/sのオシロスコープによって計測した。実際の変圧器では、取付け可能なアンテナとして容量性アンテナ、UHFカプラー等があり、周波数帯域が広帯域のものを使用すればよい。
【0027】
本実施の形態1における基礎特性試験では、上述したバイコニカルログペリオディックアンテナを使用したが、このバイコニカルログペリオディックアンテナは、非常に広帯域な特性を有しているという特徴があり、PD電磁波を広帯域に検出できる利点がある。
【0028】
図3は、本発明の実施の形態1における基礎特性試験で印加するAC電圧波形を示した図である。AC電圧の正側を正極性、負側を負極性と定義する。また、図4は、本発明の実施の形態1における基礎特性試験の測定によって得られた異物性PDでの電磁波波形を示した図である。図4(a)、(b)は、それぞれ印加電圧が正極性、負極性である時点で生じたPDより放射された電磁波波形である。
【0029】
(a)と(b)の2つの電磁波波形を比較すると、極性によって波形の長さに明確な差異があることがわかる。この計測例では、正極性での波形長が7μs、負極性での波形長が450nsであり、正極性での波形長の方が負極性での波形長に比べて極めて長い。
【0030】
次に、図5は、本発明の実施の形態1における基礎特性試験で測定によって得られた気泡性PDでの電磁波波形を示した図である。図5(a)、(b)は、それぞれ印加電圧が正極性、負極性である時点で生じたPDより放射された電磁波波形である。
【0031】
図5を見ると、この計測例では、両極性における波形長は、ともに200〜300ns程度であり、差異はほとんどなく、両極性で同様の波形長の電磁波波形が得られていることがわかる。図4、図5の結果から、異物性PDと気泡性PDでは、印加電圧が正極性である時点で発生したPDから放射される電磁波信号波形の波形長に差異があることが判明した。
【0032】
図6は、本発明の実施の形態1において、実験的に得られた気泡性PDと異物性PDの極性と波形長との関係を示した図である。この図6からもわかるように、異物性PDの正極性の場合に波形長が長くなっている。なお、使用するアンテナは、数nsの波形を観測する必要があるため、1GHz程度までの周波数帯域を持つ容量性アンテナ等を用いることが望ましい。
【0033】
次に、前述した波形長の計測方法について説明する。
まず始めに、第1の計測方法について説明する。PDによって発生した電磁波波形のピーク値を検出し、その点を包絡線で結んだ曲線の値が平均したノイズレベルよりも大きくなった場合に、その点をPD信号の開始点と定義する。あるいは、電磁波波形の検出閾値を予め決めておいて、その閾値以上の信号となった場合にPD信号の開始点と定義する。
【0034】
また、再びある期間以上、例えば、1μs以上ノイズレベル以下の信号強度となった場合、その1μs以上ノイズレベル以下になった期間の始まりの時点をPD信号の終了点と定義する。そして、PD信号の開始点から終了点までの時間を計算することで、波形長を算出する。
【0035】
上述した方法により、電磁波波形の波形長を計測し、さらに、計測されたPD信号が印加電圧の正負どちらの極性で発生したかを計測器2で判断する。その後、計測データは、判別装置3に送られ、上記2つのパラメータ(波形長・極性)の組み合わせにより、確実にPD種別を判別する。
【0036】
判別基準は、次のようになる。異物性PDの場合には、正極性で発生したPDの電磁波波形は、予め決定したある波形長以上、例えば、2μs以上となる。一方、気泡性PDの場合には、正極性で発生したPDの電磁波波形は、予め決定したある波形長未満、例えば、1μs未満となる。図6に示した試験結果からも明らかなように、このPD種別を判別するための予め決定したある波形長は、1〜2μsの範囲で設定すればよい。ここで、予め決定したある波形長とは、所定の基準波形長に相当する。
【0037】
図7は、本発明の実施の形態1における第1の計測方法を用いたPD種別判別方法のフローチャートである。油絶縁機器でPDが発生する(10)と、アンテナ1によりこのPDにより放射される電磁波波形を検出する(11)。検出したPD信号は、計測器2に送られ、PDが発生した極性と波形長が計測される(12、13)。そして、計測されたデータは、判別装置3に送られ、上述した判別基準に従ってPD種別が判別される(14)。
【0038】
なお、先の図1に示した構成では、アンテナ1は、フランジ外部に取り付けてあるが、フランジ内部に取り付けることで、外部ノイズの低減を図るようにしてもよい。また、油絶縁機器内部のPD発生箇所からアンテナ1の位置が離れていると、PDにより放射される電磁波が減衰し検出しにくくなる場合がある。このため、複数のアンテナを油絶縁機器周囲のフランジに配置し、最も信号強度の強いアンテナによって評価してもよい。さらに、PDにより放射される電磁波強度が低い場合には、高周波増幅器を用いて信号強度を増幅させ、計測感度を上げてもよい。
【0039】
次に、波形長の第2の計測方法について説明する。
例えば、実時間信号の各時点での電圧絶対値を逐次加算していき、信号強度がプラスでもマイナスでも絶対値が時間経過とともに積算されていくようにしてもよい。この場合、ノイズレベル以上に、ある閾値を設け、閾値以下の信号は、絶対値を0と定義することにより、PDによる信号波形のみの電圧絶対値を積算することができる。
【0040】
そして、積算値が0より増加し始めた時点をPDによる信号波形の立ち上がり時間と定義し、そこから積算値が再度頭打ちになる時点(閾値以下になる時点)までを波形長と定義することにより、波形長を計測する。
【0041】
印加電圧が正極性の場合、異物性PDでは、予め決定したある波形長以上積算値の増加が続く。一方、気泡性PDの場合、異物性PDでは、積算値が増加する時間は、予め決定したある波形長未満となる。この予め決定したある波形長は、先の図6で示した試験結果からも明らかなように、1〜2μsの範囲で設定すればよい。ここで、予め決定したある波形長とは、所定の基準波形長に相当する。
【0042】
この積算値の増加する様子を、横軸を時間、縦軸を積算値としてx−y平面にプロットすれば、異物性PDと気泡性PDを、上述した波形長基準に基づき判別できる。図8は、本発明の実施の形態1における異物性PDと気泡性PDの正・負両極性における時間と積算値の関係を示す図である。この図8を見ると、正極性における異物性PDは、長時間積算値の増加が認められ、波形長が2μs以上となることを端的に示している。従って、積算値の増加時間により、異物性PDと判別できる。
【0043】
また、気泡性PDは、印加電圧が正・負極性の両方において、積算値の増加は1μs以下で終わる。従って、両極性に共通するこの積算値の増加時間により、気泡性PDと判別できる。
【0044】
図9は、本発明の実施の形態1における第2の計測方法を用いたPD種別判別方法のフローチャートである。先の図7に示したフローチャートと同様の部分については、説明を省略する。この図9のフローチャートでは、積算器を用いて波形長を計測し、その計測結果を判別装置3内で時間−積算値平面にプロットする(24)点が、先の図7のフローチャートとは異なっている。そして、そのプロットより、上述の方法で波形長を求め、油絶縁機器でのPD種別を判別する(25)。
【0045】
以上のように、実施の形態1によれば、PDにより放射される電磁波波形を検出し、PDが発生した際の印加電圧の極性と、電磁波波形の波形長から、気泡性PDと異物性PDを確実かつ簡便に判別することができる。さらに、FFTなどの高価な処理装置等を設置することなく、PDの主な原因である気泡性PDと異物性PDを判別することができ、安価で高精度な装置を実現できる。
【0046】
なお、上述の説明では、異物性PDに関して異物が高圧側と接触している場合のPDによって放射される電磁波の印加電圧の極性による波形長の違いについて述べた。しかしながら、実際には、針が低圧側と接触する場合もあり、その場合には、上述した波形長と極性との関係は異なってくる。
【0047】
すなわち、針が低圧側と接触するケースでは、印加電圧が負極性の場合に、数μsの長い波形が観測され、正極性においては長い波形は観測されない。このことから、長い波形の発生位相が正極性であれば異物は高圧側に存在し、負極性において長い波形が発生すれば低圧側に異物が存在すると判定することもできる。
【0048】
また、異物と気泡とが混在する場合については、以下のように考えることができる。
半波の継続時間は、8ms程度であり、放電寄与電圧値の持続時間は、そのうちの1/5程度とすると、1600μsとなる。PD持続時間は、数μsなので、PDはこの間に多数回発生し得る。そうすると、異物性PD、気泡性PDが混在したとしても、その放電時間が常に重なるわけではなく、分離した信号として認識できる波形が、通常は必ずあると考えることができる。従って、下表のような判断基準を設定することが可能となる。
【0049】
【表1】

【0050】
基本的に、気泡で長い波形は出ないという前提で考えると、長い波形が出た時点(すなわち、異物性PDが検出された時点)で変圧器の解体が決定する。従って、正極性印加時の波形および負極性印加時の波形が、ともに短長波形であった場合にも、実害はない。
【0051】
実施の形態2.
先の実施の形態1におけるPD種別の判別基準としては、PDが発生した際の印加電圧の極性と、電磁波波形の波形長に着目した。これに対して、本実施の形態2では、印加電圧が正・負極性でのPDにより放射された電磁波の波形長の差に着目し、PD種別を判別する場合について説明する。
【0052】
印加電圧が正・負極性でのPDにより放射された電磁波波形において、正極性での波形長と負極性での波形長との差が予め決定したある値より長い場合には、異物性PDと判別する。一方、正極性での波形長と負極性での波形長との差が予め決定したある値以内である場合には、気泡性PDと判別する。ここで、予め決定したある値とは、所定の基準差分波形長に相当する。
【0053】
この予め決定したある値は、先の図6で示した試験結果からも明らかなように、1〜1.5μsの範囲で設定すればよい。図10は、本発明の実施の形態2におけるPD種別判別方法のフローチャートである。先の実施の形態1における図7に示したフローチャートと同様の部分については、説明を省略する。
【0054】
この図10のフローチャートでは、計測器2内で印加電圧が正・負極性でのPDにより放射された電磁波の波形長の差を計測し(33)、判別装置3で上述した波形長の差に基づく判別基準により、油絶縁機器でのPD種別を判別する(34)。
【0055】
以上のように、実施の形態2によれば、PDにより放射される電磁波波形を検出し、PDが発生した際の印加電圧の両極性における電磁波波形の波形長の差から、気泡性PDと異物性PDを確実かつ簡便に判別することができる。さらに、FFTなどの高価な処理装置等を設置することなく、PDの主な原因である気泡性PDと異物性PDを判別することができ、安価で高精度な装置を実現できる。
【0056】
なお、異物と気泡とが混在する場合については、先の実施の形態1で説明した表1の判断基準と同様の考え方を適用することで、対応可能である。
【0057】
実施の形態3.
先の実施の形態1、2では、アンテナ1によって電磁波波形を計測し、PD種別を判別する方法について説明した。これに対して、本実施の形態3では、アンテナ1の代わりに高周波CTを用いてPD電流の計測を行うことにより、PD種別を判別する場合について説明する。図11は、本発明の実施の形態3に係る油絶縁機器の部分放電種別判別装置を含む全体構成図である。図11における部分放電種別判別装置は、高周波CT5、計測器2、判別装置3、および結果表示装置4で構成されており、変圧器の接地線に高周波CT5がクランプされた状態を示している。このように、高周波CT5を接地線にクランプさせるだけで、PDにより生じた電流波形の計測が可能となる。
【0058】
図12は、本発明の実施の形態3における基礎特性試験の測定によって得られた異物性PDでの電流波形を示した図である。図12(a)、(b)は、それぞれ印加電圧が正極性、負極性である時点で生じたPDにより生じた電流波形である。
【0059】
(a)と(b)の2つの電流波形を比較すると、極性によって波形の長さに明確な差異があることがわかる。この計測例では、例えば、電流の閾値を1mAに設定した場合、正極性での波形長が7.5μs、負極性での波形長が500ns程度となり、正極性での波形長の方が負極性での波形長に比べて極めて長い。
【0060】
次に、図13は、本発明の実施の形態3における基礎特性試験で測定によって得られた気泡性PDでの電流波形を示した図である。図13(a)、(b)は、それぞれ印加電圧が正極性、負極性である時点で生じたPDにより生じた電流波形である。
【0061】
図13を見ると、この計測例では、両極性における波形長は、ともに1μs程度であり、差異はほとんどなく、両極性で同様の波形長の電流波形が得られていることがわかる。図12、図13の結果から、異物性PDと気泡性PDでは、印加電圧が正極性である時点で発生したPDから放射される電流波形の波形長に差異があることが判明した。
【0062】
このことから、印加電圧が正極性におけるPD信号の波形長を計測することにより、気泡性PDと異物性PDが区別できる。すなわち、種別判別のための基準として予め決定したある波形長を設定し、この波形長以上の信号が得られた場合には異物性PD、この波形長未満の信号が得られた場合は気泡性PDと判断することができる。このPD種別を判別するための予め決定したある波形長は、先の図6に示した試験結果からも明らかなように、1μs〜2μsの範囲で設定すればよい。ここで、予め決定したある波形長とは、所定の基準波形長に相当する。
【0063】
図14は、本発明の実施の形態3におけるPD種別判別方法のフローチャートである。先の実施の形態1における図7に示したフローチャートと基本的には同じである。ただし、先の実施の形態1における図7のフローチャートでは、検出対象が電磁波波形であったが(11)、本実施の形態3における図14のフローチャートでは、検出対象が電流波形である(41)点が異なっている。
【0064】
以上のように、実施の形態3によれば、PDにより生じた電流波形を検出し、PDが発生した際の印加電圧の極性と、電流波形の波形長から、気泡性PDと異物性PDを確実かつ簡便に判別することができる。電流波形は、基本的には電磁波波形と同様の特性を有することから、アンテナの代わりに高周波CTを用いることで、先の実施の形態1、2と同様の効果を得ることができる。
【0065】
なお、上述の説明では、異物性PDに関して異物が高圧側と接触している場合のPDによって生じる電流の、印加電圧の極性による波形長の違いについて述べた。しかしながら、実際には、先の実施の形態1で説明したように、針が低圧側と接触する場合もあり、その場合には、上述した波形長と極性との関係は異なってくる。
【0066】
すなわち、針が低圧側と接触するケースでは、印加電圧が負極性の場合に、数μsの長い波形が観測され、正極性においては長い波形は観測されない。このことから、長い波形の発生位相が正極性であれば異物は高圧側に存在し、負極性において長い波形が発生すれば低圧側に異物が存在すると判定することもできる。
【0067】
また、先の実施の形態2では、電磁波の波形長の差分によるPD種別判別方法を説明したが、本実施の形態3においても、先の実施の形態2と同様に、電流の波形長の差分により、PD種別を判別することも可能である。
【0068】
さらに、異物と気泡とが混在する場合についても、先の実施の形態1、2で説明した表1の判断基準と同様の考え方を適用することで、対応可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施の形態1に係る油絶縁機器の部分放電種別判別装置を含む全体構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1におけるPD電磁波計測基礎試験を行った際の異物性モデルと気泡性モデルを示す図である。
【図3】本発明の実施の形態1における基礎特性試験で印加するAC電圧波形を示した図である。
【図4】本発明の実施の形態1における基礎特性試験の測定によって得られた異物性PDでの電磁波波形を示した図である。
【図5】本発明の実施の形態1における基礎特性試験で測定によって得られた気泡性PDでの電磁波波形を示した図である。
【図6】本発明の実施の形態1において、実験的に得られた気泡性PDと異物性PDの極性と波形長との関係を示した図である。
【図7】本発明の実施の形態1における第1の計測方法を用いたPD種別判別方法のフローチャートである。
【図8】本発明の実施の形態1における異物性PDと気泡性PDの正・負両極性における時間と積算値の関係を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態1における第2の計測方法を用いたPD種別判別方法のフローチャートである。
【図10】本発明の実施の形態2におけるPD種別判別方法のフローチャートである。
【図11】本発明の実施の形態3に係る油絶縁機器の部分放電種別判別装置を含む全体構成図である。
【図12】本発明の実施の形態3における基礎特性試験の測定によって得られた異物性PDでの電流波形を示した図である。
【図13】本発明の実施の形態3における基礎特性試験で測定によって得られた気泡性PDでの電流波形を示した図である。
【図14】本発明の実施の形態3におけるPD種別判別方法のフローチャートである。
【図15】特許文献1における従来技術の説明図である。
【図16】特許文献2における従来技術の説明図である。
【符号の説明】
【0070】
1 アンテナ、2 計測器、3 判別装置、4 結果表示装置、5 高周波CT。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油絶縁機器内部で部分放電による絶縁異常が生じた場合に前記部分放電を検出し、部分放電種別を判別する部分放電種別判別装置であって、
前記部分放電により発生する信号を検出するセンサーと、
前記部分放電により発生する前記信号の波形長、および前記部分放電が発生した際の印加電圧の極性を計測する計測器と、
前記波形長および前記極性に基づいて前記部分放電種別を判別する判別装置と
を備えることを特徴とする油絶縁機器の部分放電種別判別装置。
【請求項2】
請求項1に記載の油絶縁機器の部分放電種別判別装置において、
前記センサーは、前記部分放電により発生する前記信号として、放電時に発生する電磁波を検出可能な電磁波センサー、または放電時に発生する電流を検出可能な高周波CTであることを特徴とする油絶縁機器の部分放電種別判別装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の油絶縁機器の部分放電種別判別装置において、
前記判別装置は、部分放電種別を判別するための閾値である所定の基準波形長を有し、前記計測器により計測された前記波形長および前記極性に基づいて、前記印加電圧の両極性において計測されたそれぞれの波形長がともに前記所定の基準波形長未満となる場合には、発生した部分放電が気泡性部分放電であると判別し、前記印加電圧の両極性において計測されたそれぞれの波形長のいずれか一方が前記所定の基準波形長以上となる場合には、発生した部分放電が異物性部分放電であると判別する
ことを特徴とする油絶縁機器の部分放電種別判別装置。
【請求項4】
請求項3に記載の油絶縁機器の部分放電種別判別装置において、
前記判別装置の有している前記所定の基準波形長は、1μs以上の値が設定されていることを特徴とする油絶縁機器の部分放電種別判別装置。
【請求項5】
油絶縁機器内部で部分放電による絶縁異常が生じた場合に前記部分放電を検出し、部分放電種別を判別する部分放電種別判別方法であって、
前記部分放電により発生する信号を検出するステップと、
前記部分放電により発生する前記信号の波形長、および前記部分放電が発生した際の印加電圧の極性を計測するステップと、
計測された前記波形長および前記極性に基づいて、前記印加電圧の両極性において計測されたそれぞれの波形長がともに、部分放電種別を判別するための閾値である所定の基準波形長未満となる場合には、発生した部分放電が気泡性部分放電であると判別し、前記印加電圧の両極性において計測されたそれぞれの波形長のいずれか一方が前記所定の基準波形長以上となる場合には、発生した部分放電が異物性部分放電であると判別するステップと
を備えることを特徴とする油絶縁機器の部分放電種別判別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−32240(P2010−32240A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−191872(P2008−191872)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】