説明

油脂のドライ分別方法

【課題】結晶部の純度を高く保ちながら結晶化速度を高めた、効率的な油脂のドライ分別方法の提供。
【解決手段】原料油脂に炭素数4〜14の遊離脂肪酸を添加することにより、結晶化速度を速めることによりドライ分別を行う。また、炭素数4〜14の遊離脂肪酸を有効成分とする結晶化促進剤。ラウリン系油脂以外の油脂であることが好適であり、上記原料油脂のトリグリセリド組成におけるSUS(Sは飽和脂肪酸、Uは不飽和脂肪酸)で表される対称型トリグリセリド含量が、10質量%以上であること、トリ飽和トリグリセリド(SSS)含量が、0〜10質量%であることを特長とする油脂のドライ分別方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油脂のドライ分別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂は多様なトリグリセリドの混合物であり、用途に合わせた物性となるよう分別処理が行われる場合がある。分別方法としては、加熱溶解した油脂を冷却し部分的に結晶化させた後、ろ過等により結晶部と液状部を分離し油脂を分画するドライ分別法、有機溶媒に対する溶解度の差を利用して分画する溶媒分別法、界面活性剤を利用して結晶部と液体部を効率よく分離する界面活性剤分別法が知られ、広く利用されてきた。
【0003】
ここで、ドライ分別法は溶剤分別法に比べ安全性が高く、低コストで分別できるという長所を持つが、液状部を抱き込んだ状態で結晶部が生成するため、結晶部の純度が低く、また、結晶化に長時間を要するため、分離効率が低いという問題がある。
とくに、トリ飽和トリグリセリド(SSS)含量が低い油脂、あるいは、パーム系油脂、とくにパームオレインのような結晶化速度がおそい油脂を原料油脂とする場合には、特に結晶化時間が長くなってしまうため、ドライ分別の分離効率の悪さは特に問題となっていた。そのため、このような油脂を原料油脂とした場合であっても、結晶の純度を高く保ちながら結晶化速度を高める方法が望まれていた。
【0004】
この問題の解決のため、通常は、トリ飽和グリセリド等の高融点成分、すなわち「シード剤」を原料油脂に添加することで、油脂の結晶核を作り、結晶化速度を向上させる方法をとる。しかし、この方法では、原料油脂と同一の油脂の結晶化物をシード剤として使用する場合を除き、シード剤の成分が結晶部に残留するので純度が下がる問題がある。また、シード剤は高融点の物質であるため、使用量によっては結晶部の口溶けも悪化する。また原料油脂と同一の油脂の結晶化物をシード剤として使用する場合は、結晶化速度の向上効果が低いという問題があることに加え、原料油脂の種類に応じて数多くの種類のシード剤をあらかじめ準備しておく必要があるため、煩雑であるという問題があった。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1には、分別時に10〜400MPaの高圧をかけるドライ分別法が、特許文献2には、10〜400MPaの高圧をかけて得られたシード剤を使用するドライ分別法が開示されている。また、特許文献3には、過冷却状態にある液体に超音波を作用させ結晶核の発生を促進する方法が、特許文献4には、加熱溶解した油脂を冷却し、種晶を生じさせ、種晶を微細化することなく超音波処理を行い、結晶化を促進する方法が開示されている。
【0006】
しかし、特許文献1や特許文献2の方法では、高圧発生のための大規模な装置が必要であるため非効率的であるという問題があることに加え、とくに特許文献2の方法ではシード剤を使用するため、シード剤を使用する際に生じる上記の問題は残ったままであった。また、特許文献3や特許文献4の方法でも、特殊な装置が必要であることに加え、結晶の微細化を防ぐための制御が困難であるという問題があった。
【0007】
一方、結晶部の採取を目的とするのではなく、油脂からの高融点部分の除去や、液状油から結晶部を除去してサラダ油を製造する場合等、液状部の採取を目的とする場合、アルキルエステルを添加する方法(特許文献5参照)も提案されている。
ただし、この文献は、単に、アルキルエステルや、遊離脂肪酸とトリグリセリドをエステル交換した際に発生するアルキルエステルが、自動的に結晶化核(シード剤)として働く、という発明である。そのため、副生したあるいは残存するアルキルエステルを結晶部として除去することから、結晶部の純度は極めて悪いものとなる。また、モノグリセリドやジグリセリド等の部分グリセリドや遊離脂肪酸も同時に生成するが、これらの部分グリセリドや遊離脂肪酸は油脂の結晶化の阻害物質であるため(非特許文献1参照)、結晶化速度もまた低下したものとなってしまう。
【0008】
このため、ドライ分別時、とくにシード剤を使用せずとも、さらには、トリ飽和グリセリド等の高融点成分含有量が低い油脂、あるいは、もともと結晶化速度がおそい油脂を原料油脂とした場合であっても、結晶部の純度を高く保ちながら結晶化速度を高めるドライ分別方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−030295号公報
【特許文献2】特開2005−281462号公報
【特許文献3】特表平06−509498号公報
【特許文献4】特開2002−226886号公報
【特許文献5】特開2010−209147号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】B.Jacobsberg,O.C.Ho,J.Am.Oil Chem.Soc.,53,609(1976)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、結晶部の純度を高く保ちながら結晶化速度を高めた、効率的な油脂のドライ分別方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決すべく種々検討した結果、油脂のドライ分別において、従来は結晶化が阻害されるとして除去する対象でしかなかった油脂中の遊離脂肪酸のうち、ある特定の遊離脂肪酸を原料油脂に添加した場合には、驚くべきことに、結晶化速度を高めることができるとの知見を得た。すなわち、油脂には一般に遊離脂肪酸が含まれているが、その遊離脂肪酸は、その油脂の主要成分であるトリグリセリドの分解によって生じるものであるため、遊離脂肪酸はトリグリセリドの構成脂肪酸と同一であるが、ここで、その油脂のトリグリセリドの構成脂肪酸以外の遊離脂肪酸種を添加したところ、その遊離脂肪酸の種類によっては結晶化速度が高まることを見出したものである。本発明はこのような知見を基に完成されたものである。
【0013】
すなわち、本発明は、原料油脂に炭素数4〜14の遊離脂肪酸を添加することを特徴とする油脂のドライ分別方法を提供するものである。また、本発明は、炭素数4〜14の遊離脂肪酸を有効成分とすることを特徴とする結晶化促進剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、結晶の純度を高く保ちながら結晶化速度を高めた効率的な油脂のドライ分別を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の油脂のドライ分別方法について詳細に説明する。
本発明で用いる原料油脂は、原油(未精製油)であってもよいが、高い結晶化促進効果と、純度の高い結晶部を得ることが可能な点から、脱酸、脱色、脱臭等の通常の処理を必要に応じて施した精製油脂であることが好ましい。
【0016】
本発明において原料油脂として精製油脂を使用する場合、その酸価は0.5未満、好ましくは0.2未満、さらに好ましくは0.05未満である。
また、遊離脂肪酸含量は好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.02質量%以下とする。
また、グリセリド以外のエステル含有量は好ましくは1質量%未満、より好ましくは0.5%質量以下、さらに好ましくは0.3%質量以下とする。
【0017】
本発明で用いられる原料油脂の起源は、特に限定されず、たとえば、牛脂、豚脂、乳脂、魚油などの動物油脂、菜種油、米油、サフラワー油、サンフラワー油、トウモロコシ油、大豆油、綿実油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、サル脂、シア脂、イリッペ脂、マンゴー核油、コクム脂などの植物油脂、およびそれらの硬化油、エステル交換油等の一般に使用されている油脂の単独および混合油、あるいはそれらの分別油が使用できる。
本発明の油脂のドライ分別方法においては、トリグリセリド組成において炭素数4〜14の脂肪酸含量が高い油脂を使用すると本発明の効果が低いため、特に上記原料油脂としてラウリン系油脂以外の油脂を使用することが好ましい。
なお、ラウリン系油脂とは、一般的にパーム核油及びヤシ油に代表される炭素数14以下の脂肪酸、とくにラウリン酸(炭素数12の脂肪酸)を多く含有する油脂を指すが、本発明のドライ分別方法においては、それ以外にも、構成脂肪酸組成において、炭素数14以下の脂肪酸含量が50%質量以上の油脂を指すものとする。
【0018】
また、本発明のドライ分別方法においては、上記原料油脂のトリグリセリド組成におけるSUS(Sは飽和脂肪酸、Uは不飽和脂肪酸)で表される対称型トリグリセリド含量が、10質量%以上、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上であることが、本発明の効果をより引き出すことができる点で望ましい。ここでいう対称型トリグリセリドとは、トリグリセリドの2位に不飽和脂肪酸が結合し、1、3位に飽和脂肪酸が結合したものである。上記不飽和脂肪酸の炭素数はとくに限定されないが好ましくは15〜30、より好ましくは16〜22である。なお、その不飽和度については特に限定されないが、好ましくは2以下、より好ましくは1である。また、上記飽和脂肪酸の炭素数についてもとくに限定されないが、好ましくは15〜30、より好ましくは16〜22である。
なお、対称型トリグリセリドの含有量の上限は、一般的には90質量%以下であるが、本発明のドライ分別方法においては、好ましくは75質量%未満、さらに好ましくは60質量%未満である。
【0019】
上記「トリグリセリド組成におけるSUSで表される対称型トリグリセリド含量が10質量%以上である油脂」としては、例えばカカオ脂、サル脂、シア脂、イリッペ脂、マンゴー核油、コクム脂、パーム油、あるいはこれらの分別油が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
また、選択的エステル交換反応により対称型トリグリセリド含量を高めた油脂を使用してもよい。
【0020】
また、本発明の油脂のドライ分別方法においては、上記原料油脂のトリグリセリド組成におけるトリ飽和トリグリセリド(SSS)含量が、0〜10質量%であることが好ましく、0〜3質量%であることがより好ましく、0〜1質量%であることがさらに好ましく、0〜0.5質量%であることが最も好ましい。ここでいうトリ飽和トリグリセリド(SSS)とは、トリグリセリドを構成する脂肪酸がすべて飽和脂肪酸(S)のものである。一般に、ドライ分別においてトリ飽和トリグリセリドが多く含まれる原料油脂を使用した場合、該トリ飽和トリグリセリドは高融点成分として結晶核になりやすいため、結晶化速度が向上することが知られているが、一方で得られる油脂は口溶けが悪く、ざらついた食感となってしまう。本発明のドライ分別方法においては、SSS含量の低い原料油脂を用いた場合においても、結晶化速度を高く保つことができる。上記飽和脂肪酸の炭素数についてはとくに限定されないが、好ましくは15〜30、より好ましくは16〜22である。
【0021】
「トリグリセリド組成におけるトリ飽和トリグリセリド(SSS)含量が0〜10質量%である油脂」としては上記各種原料油脂のうち、菜種油、米油、サフラワー油、サンフラワー油、トウモロコシ油、大豆油、綿実油等の常温(25℃)で液状である油脂(液状油)を挙げることができる。また、パーム油の分別中部油、カカオ脂、サル脂、シア脂、イリッペ脂、マンゴー核油、コクム脂等のSUS含量が高く且つSSS含量が低いハードバターを挙げることができる。また、各種動植物油脂、あるいはそれらの硬化油、エステル交換油等の加工油脂から、分別によりSSSを除去した分別軟部油が挙げられる。
【0022】
以上のことから、本発明のドライ分別方法において最も高い効果が得られる原料油脂は、ラウリン系油脂以外であり、SUS含量が10質量%以上であり、且つ、SSS含量が10質量%以下の油脂である。
このような油脂としてはパーム油、パーム油の分別中部油、パーム油の分別軟部油等のパーム系油脂、カカオ脂、サル脂、シア脂、イリッペ脂、マンゴー核油、カカオ脂の分別軟部油、サル脂の分別軟部油、シア脂の分別軟部油、イリッペ脂の分別軟部油、マンゴー核油の分別軟部油、コクム脂の分別軟部油を挙げることができるが、本発明の効果が最も高い点で、パーム油の分別軟部油であることが好ましい。
【0023】
次に、本発明で使用する炭素数4〜14の遊離脂肪酸について述べる。
本発明で使用する上記遊離脂肪酸の炭素数は4〜14の範囲であればよいが、好ましくは6〜14、より好ましくは8〜14、さらに好ましくは8〜12である。炭素数が4未満又は14超であると油脂の結晶化促進効果が得られない。
また、炭素数4〜14の脂肪酸が遊離脂肪酸の形態でなく、例えば、トリグリセリドの形態の場合も本発明の効果はまったく得られず、モノグリセリドやジグリセリドのような部分グリセリドの形態であると、結晶化が逆に大きく阻害されることに加え、ドライ分別に使用した際に、精製による除去が困難になってしまう。また、アルコール等のエステル体であると、結晶化促進効果が低いことに加え、ドライ分別に使用した際に、分離除去が極めて困難になってしまう。
【0024】
上記の炭素数4〜14の遊離脂肪酸としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、ヘプチル酸、ペラルゴン酸、ミリスチン酸等を挙げることができるが、より効果的に結晶化速度を高めることができる点からカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸を用いることが好ましい。
【0025】
本発明のドライ分別方法は、上記原料油脂をドライ分別する際に、上記炭素数4〜14の遊離脂肪酸を添加するものである。ここで、上記炭素数4〜14の遊離脂肪酸の原料油脂への添加量は、原料油脂と炭素数4〜14の遊離脂肪酸との合計量100質量中に、好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.05〜3質量部、さらに好ましくは0.05〜1質量部となる量である。0.01質量部よりも少ない場合、結晶化速度を高めることができず、また10質量部よりも多い場合、微細結晶が多数発生してしまうため、結晶部と液状部の分離の際に良好な濾過性が得られなくなるため好ましくない。
【0026】
原料油脂への結晶化促進剤としての炭素数4〜14の遊離脂肪酸の添加方法は特に限定されず、原料油脂に添加してから溶解してもよく、また溶解した油脂に添加してもよい。要は結晶化の最初の段階で、遊離脂肪酸が原料油脂に溶解し、均質な状態となっていればよい。
【0027】
ここで、なぜ原料油脂中に上記特定の遊離脂肪酸を添加することで結晶化速度を向上させることができるのか明らかではないが、おそらく添加した遊離脂肪酸が液状部に濃縮されることで晶析中の過飽和度を高め、結果として結晶部の結晶化速度が促進されているものと考えられる。すなわち、上記炭素数4〜14の遊離脂肪酸は、ドライ分別時において結晶化促進剤として働くものである。
【0028】
原料油脂への上記炭素数4〜14の遊離脂肪酸の添加後、該炭素数4〜14の遊離脂肪酸を完全に溶解させた原料油脂を冷却結晶化して結晶部を析出させ、これを結晶部と液状部に分別する。
結晶化方法は、ドライ分別に用いられる結晶化方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、(1)攪拌しながら冷却結晶化する方法、(2)静置下で冷却結晶化する方法、(3)攪拌しながら冷却結晶化した後、さらに静置下で冷却結晶化する方法、(4)静置下で冷却結晶化した後、機械的攪拌により流動化する方法を挙げることができるが、結晶部と液状部の分離が容易な結晶化スラリーとなる点において、(1)、(3)、(4)のいずれかの方法を採ることが好ましく、より好ましくは(1)の方法を選択する。
結晶化温度は、結晶部と液状部に分別できるような温度とし、原料油脂によって異なり適宜選定することができる。
【0029】
なお、本発明のドライ分別方法は、上記冷却結晶化の過程において、シード剤(種結晶)を使用せずとも結晶化を促進することが可能であるが、シード剤を併用することもできる。これは、結晶化促進剤有効成分である上記遊離脂肪酸とシード剤では結晶化促進機構が異なるためである。
【0030】
上記シード剤としては、公知のシード剤を使用することができ、例えば、原料油脂をあらかじめ冷却固化したものや、SSSを多く含有する極度硬化油、あるいはポリグリセリン脂肪酸エステルやポリグリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤を挙げることができるが、本発明では、結晶部の純度を高めるために、原料油脂と同一組成のシード剤以外のシード剤は使用しないことが好ましい。
【0031】
本発明の油脂のドライ分別法においては、上記の結晶化により得られる結晶部の割合、すなわち、結晶化温度での原料油脂における固体脂含量(SFC)を1〜65%とすることが好ましく、10〜60%とすることがさらに好ましく、20〜60%とすることが最も好ましい。固体脂含量が上記範囲内であると、結晶部と液状部に分別する際の分離効率が良く、固体脂含量が1%よりも少なかったり、65%よりも多いと、該分離効率が悪くなりやすい。
【0032】
上記の結晶部と液状部に分別する方法としては自然濾過、吸引濾過、圧搾濾過、遠心分離等を用いることができるが、使用する機械を最小限に抑え、分別操作を簡便に行なうために、加圧と分別を行なうことができる圧搾濾過機や、圧搾できるフィルタープレス(メンブレンフィルター)、ベルトプレス等を用いた圧搾濾過が好ましい。
特に、原料油脂が、上記結晶化時に、結晶化温度での固体脂含量(SFC)が高く、極めて粘度の高いスラリーであったり、一見ブロック状に見える場合などにおいては、圧搾濾過時に圧力によりスラリー化するため、特に適している。
【0033】
圧搾濾過によって分別を行なう場合の好ましい圧力は、0.2MPa以上、さらに好ましくは0.5〜5MPaであることが好ましい。なお、圧搾時の圧力は圧搾初期から圧搾終期にかけて徐々に上昇させることが好ましく、その圧力の上昇速度は1MPa/分以下、好ましくは0.5MPa/分以下、さらに好ましくは0.1MPa/分以下である。加圧速度が1MPa/分より大きいと、最終的に結晶部の純度が低下する場合がある。
【0034】
上記の分別は、得られる結晶部と液状部の割合が、質量比率で、結晶部:液状部=5:95〜90:10となるように行うのが好ましい。
なお、このようにして得られた本発明の結晶部や液状部をさらに分別することも勿論可能である。
【0035】
得られた結晶部と液状部は、漂白、脱臭等の精製を行う。とくに液状部は、遊離脂肪酸を多く含有しているため、これを除去するために、特に脱臭を必要とする。その方法は特に限定されず、たとえば、得られた結晶部や液状部に対して吸着剤0.1〜8.0質量%添加し、漂白温度75〜105℃、漂白時間15〜60分間、減圧下で漂白を行い、脱臭温度180〜265℃、脱臭時間20〜90分間で脱臭を行う。上記の漂白時の吸着剤は、白土の他、シリカゲル、活性炭等を使用しても構わない。
【0036】
本発明のドライ分別方法により得られた結晶部の用途としては、チョコレート用油脂、バタークリーム用油脂、サンドクリーム用油脂、マーガリン・ショートニング用油脂等が挙げられる。
一方、液状部の用途としては、チョコレートの硬さ調整やマーガリン・ショートニングの原料油脂、アイスクリームやアイスコーティング用油脂、ホイップクリームなどのO/W型乳化油脂の原料油、フライ用油脂等が挙げられる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0038】
[実施例1]
脱酸・漂白したパームオレイン(ヨウ素価56、酸価0.1)1992gをジャケット付ガラス製晶析槽に取り、60℃で完全に溶解した。このパームオレインは、高融点成分としてトリ飽和酸トリグリセリド(SSS)を0.7質量%含んでおり、一方で炭素数4〜14の遊離脂肪酸の含有量は0.0質量%であった。また、SUSで表わされる対称型トリグリセリドを38.6質量%含んでいた。溶解したパームオレインにカプリル酸(花王(株)製、ルナック8−98)8gを添加し完全に溶解させて、カプリル酸を0.4質量%含む晶析原料油脂を調製した。
晶析原料油脂をゆっくり攪拌しながら16.5℃まで冷却した後、16.5℃で72時間結晶化することで、結晶化スラリーを得た。結晶化72時間時点における結晶化スラリーの固体脂含量(SFC)(%)を測定し、測定結果を表1に示した。
その後、メンブレンフィルターを用いて結晶化スラリーを濾過分別後、結晶部を3MPaで圧搾し、結晶部と液状部に分離し、結晶部501g(収率:25.1質量%)と液状部1499g(収率74.9質量%)を得た。得られた結晶部及び液状部はそれぞれ常法により脱臭を行ない、それぞれDAG:ジグリセリド、TAG:トリグリセリド組成、遊離脂肪酸含量について測定し、測定結果を表1に示した。
【0039】
[実施例2]
実施例1で使用したカプリル酸8gをカプリン酸(花王(株)製、ルナック10−98)8gとした以外は、実施例1と同様にして、カプリン酸0.4質量%を含む晶析原料油脂を調製した。調製した晶析原料油脂を実施例1と同様にして結晶化させ、結晶化72時間時点における結晶化スラリーのSFC(%)を測定し、測定結果を表1に示した。
その後、実施例1と同様の操作で濾過分別を行い、結晶部499g(収率:25.0質量%)と液状部1501g(収率75.0質量%)を得た。得られた結晶部と液状部のDAG:ジグリセリド、TAG:トリグリセリド組成、遊離脂肪酸含量を測定し、測定結果を表1に示した。
【0040】
[実施例3]
実施例1で使用したパームオレイン1980gに、実施例2で使用したカプリン酸20gを添加した以外は、実施例1と同様にして、カプリン酸1.0質量%を含む晶析原料油脂を調製した。調製した晶析原料油脂を実施例1と同様にして結晶化させ、結晶化72時間時点における結晶化スラリーのSFC(%)を測定し、測定結果を表1に示した。
その後、実施例1と同様の操作で濾過分別を行い、結晶部492g(収率:24.6質量%)と液状部1508g(収率75.4質量%)を得た。得られた結晶部と液状部のDAG:ジグリセリド、TAG:トリグリセリド組成、遊離脂肪酸含量を測定し、測定結果を表1に示した。
【0041】
[実施例4]
実施例1で使用したカプリル酸8gをラウリン酸(花王(株)製、ルナックL−98)8gとした以外は、実施例1と同様にして、ラウリン酸0.4質量%を含む晶析原料油脂を調製した。調製した晶析原料油脂を実施例1と同様にして結晶化させ、結晶化72時間時点における結晶化スラリーのSFC(%)を測定し、測定結果を表1に示した。
その後、実施例1と同様の操作で濾過分別を行い、結晶部494g(収率:24.7質量%)と液状部1506g(収率75.3質量%)を得た。得られた結晶部と液状部のDAG:ジグリセリド、TAG:トリグリセリド組成、遊離脂肪酸含量を測定し、測定結果を表1に示した。
【0042】
[比較例1]
実施例1で使用したパームオレイン2000gを晶析原料油脂とした。晶析原料油脂を実施例1と同様にして結晶化させ、結晶化72時間時点における結晶化スラリーのSFC(%))を測定し、測定結果を表1に示した。
その後、実施例1と同様の操作で濾過分別を行い、結晶部430g(収率:21.5質量%)と液状部1570g(収率78.5質量%)を得た。得られた結晶部と液状部のDAG:ジグリセリド、TAG:トリグリセリド組成、遊離脂肪酸含量を測定し、測定結果を表1に示した。
【0043】
[比較例2]
実施例1で使用したカプリル酸8gをパルミチン酸(花王(株)製、ルナックP−95)8gとした以外は、実施例1と同様にして、パルミチン酸0.4質量%を含む晶析原料油脂を調製した。調製した晶析原料油脂を実施例1と同様にして結晶化させ、結晶化72時間時点における結晶化スラリーのSFC(%)を測定し、測定結果を表1に示した。
その後、実施例1と同様の操作で濾過分別を行い、結晶部451g(収率:22.5質量%)と液状部1549g(収率77.5質量%)を得た。得られた結晶部と液状部のDAG:ジグリセリド、TAG:トリグリセリド組成、遊離脂肪酸含量を測定し、測定結果を表1に示した。
【0044】
[比較例3]
実施例1で使用したパームオレインを1980gに、比較例2で使用したパルミチン酸を20g添加し、実施例1と同様にして、パルミチン酸1.0質量%を含む晶析原料油脂を調製した。調製した晶析原料油脂を実施例1と同様にして結晶化させ、結晶化72時間時点における結晶化スラリーのSFC(%)を測定し、測定結果を表1に示した。
その後、実施例1と同様の操作で濾過分別を行い、結晶部399g(収率:19.9質量%)と液状部1601g(収率80.1質量%)を得た。得られた結晶部と液状部のDAG:ジグリセリド、TAG:トリグリセリド組成、遊離脂肪酸含量を測定し、測定結果を表1に示した。
【0045】
[比較例4]
実施例1で使用したカプリル酸8gをステアリン酸(花王(株)製、ルナックS−98)8gとした以外は、実施例1と同様にして、ステアリン酸0.4質量%を含む晶析原料油脂を調製した。調製した晶析原料油脂を実施例1と同様にして結晶化させ、結晶化72時間時点における結晶化スラリーのSFC(%)を測定し、測定結果を表1に示した。
その後、実施例1と同様の操作で濾過分別を行い、結晶部451g(収率:22.5質量%)と液状部1549g(収率77.5質量%)を得た。得られた結晶部と液状部のDAG:ジグリセリド、TAG:トリグリセリド組成、遊離脂肪酸含量を測定し、測定結果を表1に示した。
【0046】
表1から明らかなように、カプリル酸(実施例1)、カプリン酸(実施例2、3)、ラウリン酸(実施例4)を添加した時の結晶化72時間時点におけるSFC(%)は、脂肪酸無添加(比較例1)、パルミチン酸添加(比較例2、3)、ステアリン酸添加(比較例4)より高く、また同時点における結晶部の収率も比較例1に比べ15%前後向上したことが確認され、中鎖脂肪酸類の添加により結晶化速度が向上したことが明らかとなった。
【0047】
[実施例5]
脱酸・漂白したパームオレイン(ヨウ素価56、酸価0.1)2200gをジャケット付ガラス製晶析槽に取り、60℃で完全に溶解した。このパームオレインは高融点成分としてトリ飽和酸トリグリセリド(SSS)を0.7質量%含んでいた。溶解したパームオレインをゆっくり攪拌しながら21.0℃まで冷却した後、21.0℃で72時間結晶化して、SSSを結晶化させた。
その後、メンブレンフィルター(圧搾できるフィルタープレス)を用いて結晶化したSSSを濾過分別し、結晶部40g(収率:1.8質量%)と液状部2160g(収率98.2質量%)を得た。得られた液状部中のSSSは0.2質量%であった。このようにして得られた液状部を低SSSパームオレイン(ヨウ素価56、酸価0.04、SSS0.2質量%、SUS37.8質量%)とした。
上記低SSSパームオレイン1992gに、実施例2で使用したカプリン酸を8g添加し、実施例1と同様にして、カプリン酸0.4質量%を含む晶析原料油脂を調製した。尚、使用した低SSSパームオレイン中に元来含まれている遊離脂肪酸としてのカプリン酸は0.0質量%であった。
調製した晶析原料油脂を実施例1と同様にして結晶化させ、結晶化72時間時点における結晶化スラリーのSFC(%)を測定し、測定結果を表2に示した。
その後、実施例1と同様の操作で濾過分別を行い、結晶部416g(収率:20.8質量%)と液状部1584g(収率79.2質量%)を得た。得られた結晶部と液状部のDAG:ジグリセリド、TAG:トリグリセリド組成、遊離脂肪酸含量を測定し、測定結果を表2に示した。
【0048】
[比較例5]
実施例5で調製した低SSSパームオレイン(ヨウ素価56、酸価0.1、SSS0.2質量%)2000gを晶析原料油とした。尚、使用した低SSSパームオレイン中に元来含まれている炭素数4〜14の遊離脂肪酸の含有量は0.0質量%であった。
上記低SSSパームオレインを実施例1と同様にして結晶化させ、結晶化72時間時点における結晶化スラリーのSFC(%)を測定し、測定結果を表2に示した。
その後、実施例1と同様の操作で濾過分別を行い、結晶部248g(収率:12.4質量%)と液状部1752g(収率87.6質量%)を得た。得られた結晶部と液状部のDAG:ジグリセリド、TAG:トリグリセリド組成、遊離脂肪酸含量を測定し、測定結果を表2に示した。
【0049】
一般的に、晶析原料油脂中のSSS含量が低い場合、結晶核となる高融点成分の含有量が低いことから、結晶核の形成に時間を要し、結晶化速度は遅延する。
しかし、表2から明らかなように、低SSSパームオレインを晶析原料油とした場合においても、カプリン酸(実施例5)を添加した時の結晶化72時間時点におけるSFC(%)は、脂肪酸無添加(比較例5)より高く、中鎖脂肪酸類の添加により結晶化速度が大きく向上したことがわかる。
【0050】
また、実施例1〜5で得られた結晶部は、SUSに富んでおり、且つ高融点成分であるSSSが少ないことから、口解けが良好なチョコレート用油脂等への使用に好適である。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料油脂に炭素数4〜14の遊離脂肪酸を添加することを特徴とする油脂のドライ分別方法。
【請求項2】
さらにシード剤を添加すること特徴とする請求項1に記載の油脂のドライ分別方法。
【請求項3】
上記原料油脂が、ラウリン系油脂以外の油脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の油脂のドライ分別方法。
【請求項4】
上記原料油脂のトリグリセリド組成におけるSUS(Sは飽和脂肪酸、Uは不飽和脂肪酸)で表される対称型トリグリセリド含量が、10質量%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の油脂のドライ分別方法。
【請求項5】
上記原料油脂のトリグリセリド組成におけるトリ飽和トリグリセリド(SSS)含量が、0〜10質量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の油脂のドライ分別方法。
【請求項6】
上記原料油脂が、パーム系油脂であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の油脂のドライ分別方法。
【請求項7】
炭素数4〜14の遊離脂肪酸を有効成分とすることを特徴とする油脂の結晶化促進剤。

【公開番号】特開2012−188584(P2012−188584A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54396(P2011−54396)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】