説明

油脂の染み出し抑制剤

【課題】 油脂の染み出しが抑制された油脂組成物、及びこれを用いてなる食感、外観の良好なチョコレート利用食品を提供する事。
【解決手段】 構成脂肪酸としてベヘン酸及び不飽和脂肪酸を必須とするポリグリセリン脂肪酸エステルを油脂の染み出し抑制剤として用いることを特徴とし、該ポリグリセリン脂肪酸エステルを油脂に添加することにより、油脂の染み出しが抑制され、且つ、外観及び口溶けの良好な油脂組成物、及びこれを用いてなるチョコレート利用食品を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ココアバター及び/又はココアバター代替油脂に対して油脂の染み出し抑制効果のあるポリグリセリン脂肪酸エステルに関する。さらに詳しくは、本発明のポリグリセリン脂肪酸エステルを添加してなる、油脂の染み出しが低減し、且つ、良好な食感並びに外観が付与された油脂組成物及びこれを用いてなるチョコレート利用食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、ホイップチョコレートや冬季限定の低融点化チョコレートといった、従来の配合にとらわれない様々な商品も増加しているが、ソフトさ、口溶けの良さ、ハードチョコレートとの食感の違いを出すために、通常、常温で比較的柔らかい油脂(液体油成分の比較的多い油脂)が原料として用いられている。しかし、液体油成分を増加させると確かに噛みだしが柔らかく、口溶けも良くなるが、チョコレート自体の粘度が低下して成形は困難となる。
【0003】
このような問題を解決する方法として、例えば、沃素価10以下のグリセリン脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる乳化剤を使用するチョコレートの製造方法(特許文献1)、炭素数20以上の脂肪酸のエステルである油脂固化剤、油脂固化剤にHLB3以下のポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又は蔗糖脂肪酸エステルを含有するチョコレート(特許文献2)などが提案されている。しかしながら、チョコレートの粘度調整や結晶化の促進によって成形性、保型性を改良するに留まり、液体油成分の増加に伴うチョコレートからの油脂の染み出しは依然として問題となっている。特に、高温に曝されたり、温度変化の大きい場所に保存された場合では、油脂の染み出しの結果として、ギラギラした外観となり、包装紙がべと付いてしまうなど商品価値が低下することとなる。また、チョコレート内部における油脂移行が要因と考えられるブルーム現象を伴うことも多く、食感及び外観等を長期間良好な状態に保つことができるチョコレートは望まれている。
【0004】
【特許文献1】特開平11−9191号公報
【特許文献2】特開2000−116330号公報
【0005】
更に、最近ではチョコレート類は単独で食されるだけではなく、他の可食素材、例えば、焼菓子類、ケーキ類、ナッツ類、クリーム類などと組み合わせた複合菓子等としても食されている。しかしながら、前述の様な噛みだしのソフトさ、口溶けの良さを特徴としたチョコレートを利用した複合食品では流通過程や保存中において油脂移行によって起こる食感の低下や外観の悪化といった商品価値の低下が大きな問題となっている。
【0006】
チョコレートと焼菓子等との複合食品における油脂の移行に対しては、これまでに、特定の油脂と結合脂肪酸が炭素数16〜22のモノエン脂肪酸又はジエン脂肪酸であるポリグリセリン脂肪酸エステルなどの乳化剤からなるハードバターを用いる方法(特許文献3)、構成脂肪酸のうち2個以上が炭素数18以上の飽和脂肪酸である親油性のポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又は親油性の蔗糖脂肪酸エステルを含有する複合菓子用油脂組成物を用いる方法(特許文献4)などが開示されている。しかしながら、いずれの方法も、前述のチョコレート利用食品に対しては実質的に効果は認められなかった。一方、焼菓子類の練り込み油脂として特定の油脂とHLBが3以下であって構成脂肪酸が炭素数12〜22の飽和脂肪酸及び炭素数16〜22の不飽和脂肪酸からなる蔗糖脂肪酸エステル又はポリグリセリン脂肪酸エステルとからなる油脂組成物を用いる方法(特許文献5)などの提案がなされているが、当然、チョコレートからの油脂の染み出しは抑制できなかった。
【0007】
【特許文献3】特開平4−53447号公報
【特許文献4】特許第3471848号公報
【特許文献5】特許第3378356号公報
【0008】
油脂の染み出しによって、チョコレート中の液体油成分は減少し、極端な場合は製造直後のソフトさ、クリーミーさが損なわれ、ボソボソした組織となってしまい、一方で焼菓子等の複合素材では液体油成分が増加するため、常温でべと付き、食感、外観とも悪くなってしまう。このため、チョコレートにおける油脂の染み出しを抑制し、その品質を一定に保持させておくことは商品価値を高める上からも極めて重要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、上記の問題点を解決し、高温に曝されたり、温度変化の大きい場所に長期間保存された場合でも油脂の染み出しが低減し、且つ、良好な食感並びに外観が保持された油脂組成物及びこれを用いて製造されたチョコレート、並びに他の可食素材と複合して製造された品質の安定したチョコレート利用食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するために、本発明者が鋭意研究を重ねた結果、構成脂肪酸としてベヘン酸及び不飽和脂肪酸を必須とするポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることにより、目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、油脂の染み出しを低減でき、品質の安定化した油脂組成物を提供できるため、該油脂組成物を用いてなるチョコレートは噛みだしの硬さや口溶けが自在に調製でき、同時に、高温に曝されたり、温度変化の大きい場所に長期間保存された場合でも食感及び外観が保持されたチョコレート並びにチョコレート利用食品を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、内容を詳述する。
本発明で使用されるポリグリセリン脂肪酸エステルは、構成脂肪酸としてベヘン酸及び不飽和脂肪酸を必須とすることを特徴とする。
【0013】
上記ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸としてはベヘン酸の含有率が5〜95重量%、不飽和脂肪酸の含有率が5〜95重量%の範囲であるが、より好ましくはベヘン酸の含有率が5〜50重量%、不飽和脂肪酸の含有率が5〜50重量%の範囲である。また、上記の必須脂肪酸以外の構成脂肪酸として使用可能な脂肪酸には、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸等の飽和脂肪酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸、リシノール酸、DHA、EPA等の不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸が挙げられ、これら1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0014】
本発明のポリグリセリン脂肪酸エステルに使用するポリグリセリンは、水酸基価から算出した平均重合度が2〜20、好ましくは2〜15である。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルのエステル化率は30%以上である必要があり、好ましくは40%以上である。30%未満であると、油脂への溶解性が低下する傾向があるため使用に制限が出てくる。
【0015】
本発明の油脂の染み出し抑制剤として用いるポリグリセリン脂肪酸エステルの使用量は、油脂組成物中、0.01〜10.0重量%、好ましくは0.1〜5.0重量%である。0.01重量%より少ないと所望の効果が得られ難く、10.0重量%を超えて用いても効果は頭打ちであり、使用量の増加に伴う効果の上昇は期待できない。
【0016】
本発明において用いられるココアバターは、これを単独で用いても良いし、ココアバターに代替して、例えばモウロウ脂、イリッペ脂、シア脂、サル脂、コクム脂等と併せて使用することもできる。また、大豆油、ナタネ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油等の植物油脂、及び、魚油、乳脂等の動物油、及びそれらの硬化油、エステル交換油等を任意の割合で調合したものを含む。更に、これら油脂はトリグリセライドでも一部又は全部がジグリセライドの形態であってもよい。
【0017】
本発明で言うチョコレートとは、チョコレート規約に言うチョコレートや準チョコレートのみならず、カカオ分を少量しか、あるいは、全く含まず、ノーテンパ型油脂(チョコレートの結晶をつくるための品温操作、いわゆるテンパリング操作が不要な油脂)を用いて調製するクリームをも含む。また、これらの配合や製造方法は特別なものでなくてよく、チョコレートなどに一般に使用される原料を用い、常法によって製造してよい。
【0018】
本発明の油脂組成物には最終のチョコレートが成形固化されうる限り広範囲に組成を変化させることができ、所望の効果を得るため、上記油脂及びポリグリセリン脂肪酸エステル以外に、水、乳化剤、乳製品、香料、着色料、調味料、甘味料、糖類、食塩、増粘安定剤、保存料、呈味物質、ビタミン類、ミネラル類、食物繊維類、機能性物質などを任意に含有させることができる。
【0019】
上記乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、サポニン等が挙げられ、一般にチョコレートに使用される乳化剤を単独又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0020】
上記糖類としては、ブドウ糖、蔗糖、麦芽糖、上白糖、異性糖、果糖、乳糖、還元澱粉糖化物、異性化液糖、蔗糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、ラフィノース、ラクチュロース、ステビア、アスパルテーム等が挙げられる。これらの糖類は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、配合量は所望とする甘味に応じて適宜選択することができる。
【0021】
本発明でいうチョコレート利用食品としては、クッキー、ビスケット、クラッカー、プレッツェル、ウエハース、パイ等の焼き菓子類や、ポテトチップス、ポップコーン等のスナック類、かりんとう、あられ等の油菓子類、バターケーキ、バタースポンジケーキ等のケーキ類、バタークリーム、シュガークリーム等のフィリングクリーム類、キャラメル、ソフトキャンディ等のキャンディ類、アーモンド、カシュー、マカデミア等のナッツ類などにチョコレートをトッピング、サンド、フィリング、包餡、注入、コーティングなどの方法により組み合わせた複合菓子類が挙げられる。
【0022】
以下に実施例、試験例を示し本発明を説明するが、その要旨を超えない限りこれらの実施例により限定されるものではない。尚、原料として用いたポリグリセリン#750、#500、#310の平均重合度は、水酸基価から算出し、各々10、6、4である。
【0023】
<実施例1>
ポリグリセリン#750(阪本薬品工業(株)製)100gとオレイン酸103.7g、ベヘン酸125.1gから成る混合脂肪酸を反応容器に入れ、触媒及び窒素気流下、250℃で反応させ、エステル化率50%のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。
【0024】
<実施例2>
ポリグリセリン#500(阪本薬品工業(株)製)100gとラウリン酸180.3g、ベヘン酸102.1g、エルカ酸101.5g、から成る混合脂肪酸を反応容器に入れ、触媒及び窒素気流下、250℃で反応させ、エステル化率95%のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。
【0025】
<実施例3>
ポリグリセリン#310(阪本薬品工業(株)製)100gとオレイン酸149.6g、ベヘン酸45.1g、エルカ酸224.1gから成る混合脂肪酸を反応容器に入れ、触媒及び窒素気流下、250℃で反応させ、エステル化率70%のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。
【0026】
<比較例1>
ポリグリセリン#750(阪本薬品工業(株)製)100gとベヘン酸553.7gを反応容器に入れ、触媒及び窒素気流下、250℃で反応させ、エステル化率95%のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。
【0027】
<比較例2>
ポリグリセリン#500(阪本薬品工業(株)製)100gとステアリン酸149.3g、オレイン酸197.6gから成る混合脂肪酸を反応容器に入れ、触媒及び窒素気流下、250℃で反応させ、エステル化率70%のポリグリセリン脂肪酸エステルを得た。
【0028】
[試験例1]
前記諸例のポリグリセリン脂肪酸エステルを使用し、以下に示す方法にてチョコレートの製造試験及び油脂の染み出し評価を行った。
チョコレートの製造試験
ココアバター31重量部、大豆油67重量部、及びポリグリセリン脂肪酸エステル2重量部からなるのチョコレート用油脂を調製した後、該チョコレート用油脂を使用し、表1に示した配合で常法により板チョコレートを作成した。次いで、下記に示す油脂の染み出し評価を行った。尚、ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加していないチョコレート用油脂を使用した場合、液体油成分が分離し、板チョコレートは作成できなかった。
【0029】
【表1】

【0030】
油脂の染み出し評価
板チョコレートを濾紙上にのせ、28℃、31℃、32℃の各温度で48時間保存した際の油脂の染み出し割合を求めた。油脂の染み出し割合は、濾紙の重量を予め測定しておき、濾紙の重量増加分(油脂が染み出した量)を油脂組成物の総油分量に対する比率で表した。結果は表2に示した。
【0031】
【表2】

【0032】
表2に見られるように、実施例1、2及び3は比較例1、2に比べ油脂の染み出しを抑制していた。
[試験例2]
【0033】
試験例1のチョコレートを使用してチョコレートコーティングクッキーを作成し、以下に示す方法にて保存試験及び官能検査を行った。クッキーは下記配合のものを作成して用いた。
クッキーの調製方法
大豆油40部に薄力粉70部、砂糖30部、食塩0.5部、液卵10部、水10部を加えて混捏し、得られた生地を所定の大きさに分割して圧延成形した後、200℃のオーブンで10分間焼成し、クッキーを作成した。次いで、試験例1のチョコレートとクッキーとを使用してチョコレートコーティングクッキーを作成した。
【0034】
保存試験及び官能検査
チョコレートコーティングクッキー各20個を用いて20℃/32℃(12時間/12時間)のサイクルテストを実施し、チョコレート及びクッキーの表面状態を評価した。更に、上記評価と並行して、50サイクル後のチョコレートコーティングクッキーの食感について10人のパネラーにより評価を行った。尚、外観が不良となったものについても同様に官能検査を実施し、各々5点満点で評価して平均点で示した。その結果を表3に示す。
【0035】
【表3】

【0036】
表3に見られるように、比較例1、2は10サイクル目でチョコレート及びビスケット部分に白色化または斑点等の現象が観察されたのに対し、実施例1、2及び3のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いた場合はその様な現象は一切観察されず良好な状態が維持された。更に、実施例1、2及び3では食感、口溶けともに良好なものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
実施例、試験例で具体的に述べたように、本発明により油脂の染み出しが低減され、且つ、外観及び口溶けの良好な油脂組成物の製造が可能となるため、これを用いて製造するチョコレート利用食品の品質の安定化に寄与するところが大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成脂肪酸としてベヘン酸及び不飽和脂肪酸を必須とするポリグリセリン脂肪酸エステルである油脂の染み出し抑制剤。
【請求項2】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸としてベヘン酸の含有率が5〜95重量%、不飽和脂肪酸の含有率が5〜95重量%である請求項1記載の油脂の染み出し抑制剤。
【請求項3】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルが重合度2〜20のポリグリセリンと脂肪酸とのエステル化物であって、そのエステル化率が30%以上である事を特徴とする請求項1、2記載の油脂の染み出し抑制剤。
【請求項4】
請求項1、2、3記載の油脂の染み出し抑制剤を含有するココアバター及び/又はココアバター代替油脂。
【請求項5】
請求項4記載のココアバター及び/又はココアバター代替油脂を含有するチョコレート。
【請求項6】
請求項5記載のチョコレートを利用する食品。

【公開番号】特開2006−6277(P2006−6277A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−191866(P2004−191866)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(390028897)阪本薬品工業株式会社 (140)
【Fターム(参考)】