説明

油脂含有水溶性組成物及び飲食品

【課題】本発明は、酒粕由来の新規な乳化剤の用途に関する。さらに詳しくは、耐酸性、耐塩性、耐熱性、耐アルコール性及び耐冷凍性に優れた油脂含有水溶性組成物およびこれを含有する飲食品を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明によれば、耐酸性、耐塩性、耐熱性、耐アルコール性及び耐冷凍性に優れた油脂含有水溶性組成物が提供され、この組成物を配合することにより、耐酸性、耐塩性、耐熱性、耐アルコール性に優れ、かつ、冷凍条件において長期間保存しても、クリーミングを生じたり、油脂が分離したりすることなく均一な乳化もしくは可溶化状態を保つことができる油脂を含有した飲食品が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化剤と脂溶性物質を含む油脂含有水溶性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
乳化剤は、現代生活には欠かせない物質として、様々な日用製品や食品で使用されるとともに、工業生産過程でも使用されている。洗剤や化粧品などの日用品に使用される乳化剤としては、有機合成的に得られるアルキル硫酸塩やポリオキシエチレン系の低分子量の合成乳化剤が利用されてきたが、これらは環境中での残留による汚染問題や皮膚刺激等の安全性への危惧が指摘されている。
【0003】
食品に適用される乳化剤としては、シュガーエステル等の合成乳化剤が使用されるが、安全面から、一般消費者は天然物を望んでおり、例えば、天然乳化剤として、カゼイン等の蛋白質、レシチン等の脂質、あるいはアラビアガムのような植物多糖が利用されている。しかしながら、これらは、乳化性は高いものの、溶液の粘性が低いために長時間放置すると水相と油相が分離してしまうという欠点があった。この問題を解決するために乳化剤を多量に添加するか、あるいはキサンタン等の増粘剤との併用による安定化が必要となり、経済上あるいは製造上の課題を有していた。また、アラビアガムは植物由来であるため、その生産量が気候等に左右されやすく、安定的に供給することが難しいという課題もあった。
【0004】
化粧品に用いられる乳化剤は、脂溶性色素等の脂溶性成分を肌になじませる為、また、化粧品内でこれらを均一に分散させる為等に用いられる。この場合、化学合成乳化剤が多く使用されており、直接肌に塗布し、長期間にわたり使用する場合は、皮膚刺激性が高い等の問題から様々な障害を生じる可能性が指摘されていた。このことから化粧品用途においても肌にやさしい安全性の高い乳化剤が求められていた。
【0005】
安価で環境負荷が少なく、安全性が高く、かつ乳化性能の高い天然由来の乳化剤として、微生物由来の乳化剤、いわゆるバイオサーファクタントと称される乳化剤が開発されてきている。このバイオサーファクタントは生物毒性や環境残留性がなく、培養によって大量生産が可能であるという長所を有しており、ラムノリピッド(非特許文献1)やソフォロリピド(非特許文献2)など、いくつかのバイオサーファクタントは、生産性を上げて既に実用化されている。しかしながら、これらのバイオサーファクタントの生産菌は、土壌をはじめとする環境中より分離された菌であるため、実際に人間の食経験があるかどうかは不明で、真に安全であるとは言いがたい。
【0006】
安全な乳化剤の一例として、日本酒製造時及びパン製造時に使用される食用酵母の培養上清中の水溶性成分を乳化剤として使用することが知られている(特許文献1)。しかし、特許文献1では研究用のYM培地で食用酵母が培養されており、この研究用培地に含まれる成分の食経験は不明である。
【0007】
一方で、日本酒製造時の副生産物である酒粕は、奈良漬などの漬物、甘酒、粕取り焼酎などの食品素材として使用されているにとどまり、有効利用されているとは言い難い。また、近年の食生活の変化によりこのような食品素材としての消費量も減少しており、酒粕、特に液化酒粕の有効利用法の開発が急務となっている。その一例として、化粧料用素材としての酒粕醗酵エキスが開発され、実用化されているが(特許文献2、3)、この醗酵エキスは酒粕の再発酵や有効成分を分離する必要があり、より簡便な酒粕の有効利用が求められている。
【0008】
酒粕に由来する成分を含む乳化剤が開発されている(特許文献4)。この乳化剤は、酒粕に含まれる有機溶媒可溶性成分を有効成分としており、抽出は酸性条件において常温で行われている。しかし、抽出条件による影響のためか、その乳化作用は不十分であった。
【0009】
また、飲食品、特に飲料では、油脂をその飲料に添加配合する場合、様々な添加物を配合し、熱殺菌処理をするため、耐酸性、耐塩性、耐熱性、耐アルコール性に優れ、かつ、冷凍条件において長期間保存してもクリーミングを生じたり、油脂が分離したりすることなく、均一な乳化もしくは可溶化状態を保つことが望まれている。
【0010】
このような飲食品を開発するために、これまでに種々の検討がなされてきた。例えば、ジェランガムを用いてゲル化する方法(特許文献5)、ポリアミンを含むカプセル壁を有するマイクロカプセルを用いる方法(特許文献6)、乳清蛋白質の加水分解物を含有させる方法(特許文献7)、レシチンを用いて乳化する方法(特許文献8)、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレン付加型界面活性剤で乳化する方法(特許文献9)などが提案されている。
【0011】
しかしながら、ジェランガムを用いてゲル化する方法は耐酸性に問題があり、ポリアミンを含むカプセル壁を有するマイクロカプセルを用いる方法は耐熱性に問題があり、乳清蛋白質の加水分解物を含有させる方法は耐塩性に問題があり、レシチンは耐冷凍性に問題がある。また、アルコール含有物の乳化に使用するポリオキシプロピレンポリオキシエチレン付加型界面活性剤は、安全性の面から飲料、食品の用途には適さない。
【0012】
このように、耐酸性、耐塩性、耐熱性、耐アルコール性さらには耐冷凍性ともに優れ、これらの条件下で安定な乳化もしくは可溶化状態を保つことのできる、安全な乳化剤はなく、十分に満足し得るものとはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2007−216218号公報
【特許文献2】特開平10−130121号公報
【特許文献3】特開2004−137235号公報
【特許文献4】特開2000−157259号公報
【特許文献5】特開昭62−125850号公報
【特許文献6】特開昭63−119845号公報
【特許文献7】特開平2−257838号公報
【特許文献8】特開昭53−113061号公報
【特許文献9】特開平7−241458号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】M.Benincasa et al., 2002. J.Food Eng. 54:283−288
【非特許文献2】M.Deshpande and L.Daniels, 1995. Bioresour.Technol. 53:143−150
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
耐酸性、耐塩性、耐熱性に優れ、かつ、冷凍条件において長期間保存しても、クリーミングを生じたり、油脂が分離したりすることなく均一な乳化もしくは可溶化状態を保つことができ、アルコールを含む種々の食品に広く適応できる油脂含有水溶性組成物を調製することが課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、酒粕由来の成分を乳化剤として用いて油脂を乳化もしくは可溶化させれば、耐酸性、耐塩性、耐熱性、耐アルコール性及び耐冷凍性に優れ、この組成物を利用した飲食品は、冷凍条件で長期間保存しても、クリーミングを生じたり、油脂が分離したりすることなく均一な乳化もしくは可溶化状態を保つことができることを見出し、この知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、酒粕由来の成分を有効成分として含有する乳化剤、及び脂溶性物質を含む、油脂含有水溶性組成物に関する。
【0018】
前記油脂含有水溶性組成物は、アルコール含有飲食品用、又は塩含有飲食品用であることが好ましい。
【0019】
また、本発明は、前記油脂含有水溶性組成物を含む飲食品に関する。
【発明の効果】
【0020】
酒粕由来の成分を乳化剤として利用することにより耐酸性、耐塩性、耐熱性、耐アルコール性及び耐冷凍性に優れた油脂含有水溶性組成物が提供される。この組成物を利用することにより、耐酸性、耐塩性、耐熱性、耐アルコール性に優れ、かつ、冷凍条件において長期間保存しても、クリーミングを生じたり、油脂が分離したりすることなく、均一な乳化もしくは可溶化状態を保つことができる、油脂を含有した飲食品が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に記載する。
本発明において、乳化剤は、酒粕由来の成分を有効成分として含有する。
ここで、酒粕とは、酒の製造工程において、発酵後のもろみを搾った固形の残渣である。もろみが発酵するまでには、原材料である米に、麹(こうじ)菌、酵母、及び乳酸菌が加えられているので、酒粕には、酵母以外に、米、麹菌、及び乳酸菌などが含まれるだけでなく、これらの微生物が産生する多くの代謝産物も含まれている。食用酵母をYM培地などで培養した後に、培地から有効成分を抽出する方法では、食経験のない培地からも有効成分が抽出される可能性があるが、酒粕であれば、食経験があり、安全性に大きな問題はない。
【0022】
酒粕に含まれる微生物の中で、酵母が、ブドウ糖をアルコールに変える発酵作用を担っている。酒の製造に使用される酵母としては、アルコールを醸成する能力を有するものであれば特に限定されないが、例えば、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属、キャンディダ(Candida)属、クリベロマイセス(Kluyveromyces)属、及び、チゴサッカロマイセス(Zygosaccharomycesrouxii)属に属するものが挙げられる。
【0023】
サッカロマイセス属の酵母としては、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)、サッカロマイセス・マンジニ(Saccharomyces mangini)、及び、サッカロマイセス・バヤヌス(Saccharomyces bayanus)が挙げられ、シゾサッカロマイセス属の酵母としては、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)が挙げられ、キャンディダ属としては、キャンディダ・ユチリス(Candida utilis)が挙げられ、クリベロマイセス属としてはクリベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、クリベロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)が挙げられ、チゴサッカロマイセス属としては、チゴサッカロマイセス・ルキシ(Zygosaccharomyces rouxii)が挙げられる。
【0024】
用いられる酒粕としては、例えば普通酒、本醸造酒、吟醸酒、大吟醸酒からの醸造過程で副生する酒粕や、これらの酒粕の乾燥品を用いることができる。酒粕の形状としては液体又は固体のいずれも使用可能であり、特に限定されることはない。普通酒等の醸造で副生される液化仕込み由来の酒粕は、糖分以外の成分が濃縮されているため製造工程で扱いやすいので、好適に使用できる。酒粕は、日本酒の酒粕に限定されず、芋、麦、黒糖、とうもろこし、えんどう等を原料として酒を製造する際の副産物である酒粕も用いることもできる。
【0025】
また、酒粕を食用酵母で再発酵したものは、有効成分の含量が高められているので、乳化剤の原料として好適に使用することができる。再発酵に使用される食用酵母としては、例えば、パン生地の発酵に用いられるパン酵母、ワイン醸造に用いられるワイン酵母、清酒醸造に用いられる清酒酵母、ビール醸造に用いられるビール酵母、焼酎醸造に用いられる焼酎酵母等が挙げられる。
【0026】
その中でも、培養が容易であり、また栄養源として安価な材料より生育できる点から、キャンディダ(Candida)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属中の食用酵母が好ましく用いられ、具体的には、Candida sake、Saccharomyces sake、Saccharomyces cerevisiae等がより好ましく用いられる。
【0027】
これらの食用酵母のうち、乳化作用をもつ物質を大量に生産することから、例えば、Candida sake NBRC1213、Candida sake NBRC0435、Saccharomyces sake協会10号、協会7号等の醸造用酵母;Saccharomyces cerevisiae NBRC0538、Saccharomyces cerevisiae NBRC0853、Saccharomyces cerevisiae ATCC9018等のパン酵母が、さらに好ましく用いられる。また、Candida sake NBRC1213、Saccharomyces sake協会10号及び7号が、特に好ましく用いられる。Candida sake NBRC1213、Candida sake NBRC0435、Saccharomyces cerevisiae NBRC0538、Saccharomyces cerevisiae NBRC0853は、NBRC(独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部生物遺伝資源部門)より入手可能である。また、Saccharomyces sake協会10号及び7号は、財団法人日本醸造協会より入手可能である。さらに、Saccharomyces cerevisiae ATCC9018は、ATCC(The American Type Culture Collection)より入手可能である。なお、当該食用酵母は、単独で用いても、2種以上を併用することもできる。
【0028】
また、上述のように、酒粕には食用酵母の他に麹菌や乳酸菌が含まれるが、本発明において、乳化剤に含まれる有効成分は、食用酵母に由来するものに限定されず、麹菌、又は乳酸菌に由来するものであってもよい。或いは、食用酵母、麹菌、及び乳酸菌に由来する有効成分が混合したものであってもよい。
【0029】
本発明で使用する酒粕由来の成分は、乳化力を有する有効成分を酒粕より抽出および回収することで得られる。具体的には、酒粕を水又は水溶性溶媒の抽出溶媒に懸濁し、常温または加熱して抽出した後、分離して得ることができる。また酒粕をそのまま使用することにより乳化作用を有する成分を間接的に利用することも可能である。
【0030】
酒粕の抽出溶媒としては、水又は水溶性溶媒を使用する。中でも、安全性が高く、他の成分への影響が少なく扱いやすく、食品添加時に風味・食感を損なわないなどの点で、水が好ましい。水溶性溶媒としては、エタノール、メタノール、アセトンなどが挙げられ、食品用途でも使用可能なエタノールが好ましい。水と水溶性溶媒の混合溶媒を抽出溶媒として使用することもできる。水の含有割合は、20重量%より多いことが好ましく、50重量%以上がより好ましい。
【0031】
抽出溶媒のpHは、酒粕由来の有効成分が抽出できるpHであれば特に制限はないが、中性域からアルカリ性域が好ましい。抽出溶媒はpH7.0以上であることが好ましく、pH8.0以上であることがより好ましく、pH9.0以上であることがさらに好ましい。pH5.0以下の場合、乳化活性が低下するという傾向がある。
【0032】
なお、アルカリ性の抽出溶媒を用いた際、抽出後に酸性液で中和しても良い。その際に用いる酸性液に制限はないが、例えば、クエン酸、酢酸、塩酸、硫酸、酒石酸、リン酸、乳酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、アジピン酸などが挙げられる。
【0033】
酒粕に対する水又は水溶性溶媒の量は、酒粕が懸濁される最低量以上であれば制限はないが、酒粕の固体換算で、下限は酒粕重量比の0.1以上、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.5以上である。上限は、酒粕重量比の10以下、好ましくは5以下である。0.1未満では、酒粕を均一にすることができず、十分な抽出が不可能となり、10を超えると、濃縮などの操作が煩雑となる傾向がある。
【0034】
上記水又は溶媒を添加後、常温でまたは加熱により抽出することができる。また、あらかじめ加温した水又は水溶性溶媒を酒粕に添加してもよい。抽出に際しては、乳化成分を効率よく抽出するために、懸濁液を攪拌することが好ましい。
【0035】
抽出時の温度の下限は、25℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、60℃以上がさらに好ましい。一方、抽出時の温度の上限は、特に限定されず、加圧下で100℃以上の温度で行ってもよい。室温以下で抽出した場合、抽出効率が悪くなる傾向がある。
【0036】
抽出時間には特に制限はないが、30分以上が好ましく、60分以上であることがより好ましい。30分未満では、抽出効率が悪くなる傾向がある。
【0037】
抽出後、自然沈降、ろ過及び/または遠心分離等により固形の抽出残渣を除去し、抽出液を回収する。自然沈降、ろ過、及び遠心分離の条件は特に限定されず、固形の抽出残渣を除去できる条件であればよい。この際、この固形の抽出残渣に対してさらに上記の抽出操作を1回以上繰り返すことにより、より効率よく乳化成分を回収することができる。さらに、イオン交換カラム、アフィニティーカラム等の親和性による分画、または限外ろ過、ゲルろ過カラム等の分子量による分画によって、乳化成分を濃縮することができる。
【0038】
分子量による分画を行う場合、カットオフ値はMW10,000以上とすることが好ましく、50,000以上がより好ましい。10,000未満では、分画に非常に時間を要し、大量に処理する場合の操作性が悪くなる傾向がある。
【0039】
上記方法で得られた抽出物をそのまま乳化剤として使用してもよく、これをさらに処理加工して用いてもよい。例えば、さらに濃縮または希釈してもよく、凍結乾燥、加熱乾燥、ドラム乾燥等の乾燥処理に付して使用してもよく、さらに乾燥後の固形分を水などで抽出して用いてもよい。
【0040】
乳化剤には、その性能を損なわない範囲で、種々の添加剤を添加することもできる。添加剤としては、乳化剤の剤型を保つための基材や、乳化成分保護のための安定化剤、実際の使用を容易とするための水等の液体、酸化防止剤、防腐剤、化粧用活性剤、加湿剤、スフィンゴ脂質、脂溶性ポリマー等が挙げられる。さらに、本発明の乳化剤に加えて、既存の他の乳化剤を併用することもできる。添加剤や、既存の乳化剤の添加量は特に限定されるものではなく、その用途に応じて適宜決めることができる。
【0041】
本発明の乳化剤の剤型としては、特に限定されず、例えば、溶液、懸濁液、半固体(例えば、ペースト状)、固体(例えば、粉末、顆粒)等であってもよい。
【0042】
酒粕由来の有効成分は、平均分子量は10万以上が好ましく、20万以上がより好ましい。10万未満では乳化作用が減少する傾向がある。ここで、平均分子量は、例えば、レーザー散乱計、ゲルろ過等の公知の方法により求めることができる。ゲルろ過による方法は、得られた抽出物を、ゲルろ過の担体(Sephacryl S−400、アマシャムバイオサイエンス社製、φ10mm×長さ100cm)に供し、標準高分子キット(東ソー社製)を用いて分子量検量線により算出することができる。
【0043】
本発明において、脂溶性物質としては、食品や化粧品等で用いられる生理学的に認容されるものであれば特に限定されないが、例えば、コエンザイムQ10、リコピン、ルテイン等の脂溶性物質;脂溶性ビタミンA、D、E、K、及びそれらの誘導体等のビタミン類;精油(例えば、パイン油、ライム油、ゆず油等)、植物油(例えば、大豆油、菜種油、べに花油、コーン油、ごま油、綿実油、オリーブ油、シソ油、エゴマ油、パーム油、サフラワー油、カカオ脂、落花生油、ヤシ油、ひまわり油、米油等)、動物油(例えば、牛脂、ラード、鶏油、鯨油、マグロ油、イワシ油、サバ油、サンマ油、カツオ油、ニシン油、肝油等);脂溶性色素(例えば、アナトー、ウコン、ベニコウジ、クロロフィル等);香料(例えば、オレンジオイル等);カロチノイド(例えば、カンタキサンチン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、リコピン、アポカロチナール、β−カロチン等)等の油脂等及びこれらを含有するもの;中鎖脂肪酸トリグリセリドなどの合成トリグリセリドなどを配合した油脂が挙げられる。当該脂溶性物質は、単独で用いることもできるし、2種以上を併用することもできる。
【0044】
乳化剤と脂溶性物質を混合(混和)する方法としては、振とう、撹拌等、両者が十分に接触できる条件となるものであれば特に限定されない。脂溶性物質等の粘性が比較的高いものを速やかにかつ十分に混和するために攪拌することが好ましく、さらに撹拌に際しては、激しく撹拌することが好ましい。このような乳化剤と脂溶性物質との混和方法としては、コロイドミル、高圧ホモジナイザー、マイクロフルイダイザー、ナノマイザー、ワーリングブレンダーやジューサーを用いる方法、ポリトロンホモジナイザーやマントン−ゴーリンホモジナイザーを用いる方法、超音波を利用する方法等、公知の方法が利用できる。
【0045】
また、脂溶性物質と乳化剤とを接触させ、さらに両者を混和させる条件において、処理温度、処理時間、pH等も考慮する必要があるが、用いる脂溶性物質の種類や、得られる脂溶性物質を含有する乳化物の用途に応じて、適宜適した条件にて行うことができる。例えば、混和中に熱が発生することがあるため、耐熱性があまりない材料を用いる場合には、高温とならないように注意して混和する必要がある。具体的には、食品等への適用や、塗料等のように揮発性を有する溶媒等が含まれる場合への適用には、前者については微生物の繁殖がないように、後者については溶媒が揮発してしまわないように、短時間で実施する必要がある。乳化を行う際のpHについては、特に制限はない。乳化剤は、pH7.0以下、好ましくはpH5.0以下、より好ましくはpH3.0以下の酸性域においても好適に用いることができる。また、pH7.0以上のアルカリ性域においても好適に用いることができる。そのため、酸性の食品の乳化に用いることが可能である。酸性の食品としては、例えば、アスコルビン酸、クエン酸、コハク酸、酢酸、炭酸、リンゴ酸等の酸性物質を使用したものが挙げられる。これらの酸は1種または2種以上を用いてもよい。
【0046】
本発明において、乳化を行う際の塩濃度については、特に制限はない。塩濃度10重量%以下の低濃度域だけでなく、塩濃度10重量%以上の高濃度域においても本発明の乳化剤は好適に用いることができる。そのため、高塩濃度の飲食品の乳化に用いることが可能である。塩には、例えば、アスコルビン酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸カルシウム、乳酸カリウム、乳酸カルシウム等の塩を使用したものが挙げられ、これらの塩は、1種または2種以上を用いてもよい。
【0047】
さらに乳化を行う際のアルコール濃度については、本発明の乳化剤の場合、特に制限はないが、1v/v%以下の低濃度域だけではなく、1v/v%以上の高濃度域においても好適に用いることができる。そのため、高アルコール濃度の飲食品の乳化に用いることが可能である。
【0048】
また、脂溶性物質に乳化剤を加える場合、両者を一度に加えた後に混和してもよいが、両者を少量ずつ徐々に加えて混和する、また、片方をもう一方へ徐々に加えて混和する等、あらゆる混和方法を採用できる。本発明の乳化剤は水等の水溶性溶媒へ溶けやすく、扱いやすい。
【0049】
また、本発明における乳化剤は様々な粒径の油脂含有水溶性組成物を作製することができ、粒径の小さなものだけでなく、大きなものを作製することも可能である。粒径の大きな乳化物は、食感やのど越しの改変など食品の物理的変化が可能なだけでなく、見た目など視覚的変化をもたらすことができるというメリットがある。乳化の条件によって粒径の調整は可能であるが、大きな粒の場合、その粒径は、1μm以上であり、好ましくは10μm以上、さらに好ましくは50μm以上である。小さな粒の場合、その粒径は1μm以下である。粒径は、乳化物や脂溶性物質の添加量、攪拌条件、温度、pH等の条件を改変することにより変化させることが可能である。
【0050】
油脂含有水溶性組成物中の酒粕抽出物の含有量は、特に限定されないが、固形分換算で乳化物全体の50重量%以下が好ましく、10重量%以下がより好ましい。また、0.0001重量%以上が好ましく、0.001重量%以上がより好ましい。0.0001重量%未満では、乳化作用が減少し、50重量%を超えると、混合や操作性に問題を生じる傾向がある。
【0051】
このような油脂含有水溶性組成物は、飲食品のために使用されるため、通常、高温での加熱処理を行って滅菌される。本発明における乳化剤は、高温で抽出されたものを有効成分として使用しているので、本質的に熱に強く、高温にさらされても乳化状態を安定に保つことができる。たとえば、60〜100℃での殺菌処理、または必要に応じて100〜150℃での高温殺菌または滅菌処理を行っても乳化状態を維持することができる。
【0052】
本発明の油脂含有水溶性組成物及びそれを含む食品は冷凍後にクリーミングを生じたり、油脂が分離したりすることなく、均一な乳化もしくは可溶化状態を保つことができる。その冷凍条件は対象物の一部または全部が冷凍できる条件であれば、特に制限はないが、0℃以下であり、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−20℃以下である。さらには0℃以上の冷蔵条件での乳化保持にも効果が認められる。
【0053】
本発明の飲食品は、酒粕由来の成分を有効成分として含有する乳化剤、及び脂溶性物質を含む油脂含有水溶性組成物を配合して得られるものであり、耐酸性、耐塩性、耐熱性、耐アルコール性に優れ、かつ、冷凍条件で長期間保存しても、クリーミングを生じたり、油脂が分離したりすることなく、均一な乳化もしくは可溶化状態を保つことができる。
【0054】
本発明の油脂含有水溶性組成物を含有する食品としては、パン、ドーナツ、ケーキ、クッキー、ビスケット、キャンディー、ゼリー、プリン、チョコレートなどのパン類や菓子類;ヨーグルトなどの乳加工食品、ハムなどの肉加工食品、薩摩揚げ、ちくわ、かまぼこなどの水産練り食品;醤油、味噌、ソース、マヨネーズ、たれ、ドレッシングなどの調味料;たくあん、奈良漬け、浅漬け、糠漬けなどの漬物;マーガリン、ファットスプレッド、ショートニングなどの油脂加工食品;粉末飲料、粉末スープなどの粉末飲食品;カプセル状、タブレット状、粉末状、顆粒状の健康食品および栄養補助食品などを挙げることができる。またチーズ、バター等の乳製品も挙げることができる。さらには耐酸性を利用して酢を使用した製品へも利用も可能である。
【0055】
本発明の乳化剤は、塩濃度の高い条件や、アルコール濃度の高い条件でも、乳化状態が損なわれることがないので、塩濃度やアルコール濃度の高い食品にも使用することができる。高塩濃度の食品としては、例えば、調味料(しょうゆ、ソース、ケチャップ、味噌、ドレッシングなど)、佃煮、漬物(梅干、粕漬け、ぬか漬け、味噌漬けなど)、塩蔵品(めんたいこ、たらこ、塩たら、塩さけ、塩から、筋子、新巻き、塩さばなど)、干し物(さけ、あじ、くさやなど)、水産練製品(ねりうに、かまぼこ、なると、ちくわ、甘露煮など)、肉加工食品(ハム、焼き豚、ベーコン、ソーセージなど)、スナック菓子、缶詰、インスタント食品が挙げられる。アルコール含有食品としては、例えば、酒類(日本酒、焼酎、ビール、ウイスキー、ワインなど)、菓子(ゼリー、ケーキ、チョコレート、冷菓など)、調味料(しょうゆ、ソース、ケチャップ、味噌、ドレッシングなど)が挙げられる。
【0056】
更に、卵や牛乳等の動物性タンパク質を含む材料を使用しなくても乳化等の特有の性質を食品に付与することが可能であるため、コストの低減や腎不全患者用の低タンパク質食品への応用が可能となる。更に、動物性タンパク質を使用せずに、アレルギーフリー食品を提供することも可能である。
【0057】
本発明の油脂含有水溶性組成物を含有する飲料とする場合、食塩などのミネラル、酸味料、甘味料、アルコール、ビタミン、フレーバーおよび果汁の中から少なくとも1種を含む飲料、例えば、スポ−ツ飲料、果汁飲料、乳酸菌飲料、アルコ−ル飲料、ビタミン・ミネラル飲料などのほか、加工乳、豆乳および手術前または手術後などの栄養補給のための濃厚流動食などを挙げることができる。特に、耐アルコール性、耐熱性の効果から、加温するアルコール飲料に好適である。
【0058】
高塩濃度の飲料としては、例えば、清涼飲料水、炭酸飲料、栄養飲料、果汁飲料(野菜、果実を含む)が挙げられる。アルコール含有飲料としては、例えば、酒類(日本酒、焼酎、ビール、ウイスキー、ワインなど)、栄養飲料、医薬飲料が挙げられる。
【0059】
本発明の油脂含有水溶性組成物を飲料に用いた場合には、その飲料は長期間保存しても、クリーミングを生じたり、油脂が分離したりすることなく、均一な乳化もしくは可溶化状態を保つことができる。
【0060】
本発明の油脂含有水溶性組成物を含有する飲料は、60〜100℃で殺菌処理または必要に応じて100〜150℃高温殺菌または滅菌処理を行うことができる。
【0061】
塩濃度に関して、酒粕由来の有効成分を含む乳化剤は、飲食品中の塩濃度が1重量%以上、好ましくは5重量%以上であっても好適に用いることができる。飲食品中の塩濃度は、30重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましい。
【0062】
アルコール濃度に関して、酒粕由来の有効成分を含む乳化剤は、飲食品中のアルコール濃度が0.1v/v%以上、好ましくは1v/v%以上であっても好適に用いることができる。飲食品中のアルコール濃度は、50v/v%以下であることが好ましく、30v/v%以下であることがより好ましい。
【0063】
本発明の乳化剤は、アルコール濃度の高い条件でも、乳化状態が損なわれることがないので、アルコール含有医薬品(ドリンク剤、薬用酒など)に使用することもできる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例にその技術的範囲が限定されるものではない。
(実施例1)酒粕からの粗乳化剤の調製
液化仕込み由来の酒粕(酒名:佳撰普通酒、清酒酵母(株名:協会7号))500gに対して、蒸留水2000mlを加えた後、家庭用ミキサーで粉砕し、5Nの水酸化ナトリウム液を用いてpH8.0に調整したものを準備した。その後、95℃で90分間抽出を行い、5,000×g、15分間の遠心分離後、上清を得た。その上清をカットオフ値MW100,000の限外ろ過膜を用いて10倍濃縮し、凍結乾燥で乾固させ、固体を得た。これを酒粕乳化剤とした。
【0065】
(実施例2)塩含有油脂含有水溶性組成物
0重量%、1重量%、5重量%、10重量%、又は20重量%塩化ナトリウム溶液3容量部に、大豆油7容量部及び実施例1で作製した酒粕乳化剤に水を加えて2.5重量%液にしたものを最終濃度0.05重量%になるように添加した。油脂含有水溶性組成物中の塩濃度は、それぞれ0重量%、0.3重量%、1.5重量%、3重量%、又は6重量%であった。最大設定にしたボルテックスミキサー(Scientific Industries社製)上で1分間混合し油脂含有水溶性組成物を作製後、常温で24時間静置した。
【0066】
(比較例1)塩含有油脂含有水溶性組成物
実施例1で作製した酒粕乳化剤に代えて、市販のショ糖脂肪酸エステル(リョートーシュガーエステルP−1570、三菱化学フーズ社製)を使用した以外は実施例2と同様の操作を行った。
【0067】
試験液の液体の全高を1とした場合の乳化部分の高さの比率を測定した結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
実施例2の組成物において、酒粕乳化剤では10重量%以上の塩化ナトリウム溶液を含んでいても乳化することができた。一方、比較例1の組成物において、ショ糖脂肪酸エステルは1重量%以上の塩化ナトリウム溶液を含むとまったく乳化できなかった。
【0070】
(実施例3)コーンサラダ油・醤油
コーンサラダ油50g、こいくち醤油56g及び実施例1で調製した酒粕乳化剤10gをポリトロンホモジナイザー(KINEMATICA PT10/35、KINEMATICA社製)により55℃、13000回転/分、6分間乳化させ油脂含有水溶性組成物を作製した。なお、こいくち醤油は、約17重量%の塩濃度のものを使用した。1週間、室温で静置したところ、分離は見られず、その後のクリーミング層の再分散性も良好であつた。
【0071】
(実施例4)酸性油脂含有水溶性組成物
pH2.0のクエン酸溶液、pH4.0またはpH7.0のクエン酸溶液3容量部に、大豆油7容量部及び実施例1で作製した酒粕乳化剤に水を加えて2.5重量%液にしたものを最終濃度0.05重量%になるように添加した。最大設定にしたボルテックスミキサー(Scientific Industries社製)上で1分間混合し油脂含有水溶性組成物を作製した後、常温で24時間静置した。
【0072】
(比較例2)酸性油脂含有水溶性組成物
実施例1で作製した酒粕乳化剤に代えて、市販のショ糖脂肪酸エステル(リョートーシュガーエステルP−1570、三菱化学フーズ社製)を使用した以外は実施例4と同様の操作を行った。
【0073】
試験液の液体の全高を1とした場合の乳化部分の高さの比率を測定した結果を表2に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
実施例4の組成物において、酒粕乳化剤は全てのpHにおいて良好に乳化することができた。一方、比較例2の組成物において、ショ糖脂肪酸エステルはpH2.0及びpH4.0でまったく乳化できなかった。
【0076】
(実施例5)油脂含有水溶性組成物
水3容量部に大豆油7容量部及び実施例1で作製した酒粕乳化剤に水を加えて2.5重量%液にしたものを最終濃度0.05重量%になるように添加した。最大設定にしたボルテックスミキサー(Scientific Industries社製)上で1分間混合し油脂含有水溶性組成物を作製した後、常温で24時間静置した。その後、−20℃で7日間凍結させ、次に30℃の水浴中で10分間解凍した。
【0077】
(比較例3)油脂含有水溶性組成物
実施例1で作製した酒粕乳化剤に代えて、市販のショ糖脂肪酸エステル(リョートーシュガーエステルP−1570、三菱化学フーズ社製)又は大豆レシチン(SLP−ホワイト、辻製油製)を使用した以外は実施例5と同様の操作を行った。
【0078】
実施例5及び比較例3の組成物について、それぞれ凍結前後に試験液の液体の全高を1とした場合の乳化部分の高さの比率を測定した。その結果を表3に示す。
【0079】
【表3】

【0080】
実施例5の組成物において、酒粕乳化剤は凍結、融解後も良好に乳化状態を維持していた。一方、比較例3の組成物において、ショ糖脂肪酸エステル及び大豆レシチンは凍結、融解後に急激な乳化の崩壊が見られた。
【0081】
(実施例6)マヨネーズ様の油脂含有水溶性組成物
実施例1で調製した酒粕乳化剤1.0g、大豆油24ml、米酢3.0ml、水3.0mlをポリトロンホモジナイザー(KINEMATICA PT10/35、KINEMATICA社製)で混合しマヨネーズ様調味料を作製したところマヨネーズ様の油脂含有水溶性組成物が作製可能であり、一般的な市販マヨネーズと異なり卵原料を使用せずにマヨネーズが作製できることが示された。この油脂含有水溶性組成物のpHは4.0であった。また、この油脂含有水溶性組成物を−30℃で2日間及び7日間冷凍保存し、30℃で解凍したところ、冷凍前とまったく変化無く、乳化状態も良好であった。後述するように、市販マヨネーズでは冷凍保存すると乳化が壊れ、油と水が分離するので、実施例6で作製したマヨネーズは、市販のマヨネーズと比較して耐冷凍性に優れることが判明した。
【0082】
このマヨネーズ様油脂含有水溶性組成物を試験管に入れ、30℃、60℃、80℃、100℃の範囲の所定温度条件下で15分間加熱処理し、10,000rpm、5秒間遠心分離し、その後、試験管中で上層に液層が生じるか否かをチェックした。その結果、マヨネーズ様油脂含有水溶性組成物に油の分離は見られなかった。
【0083】
(比較例4)油脂含有水溶性組成物
実施例1で作製した酒粕乳化剤に代えて、市販大豆レシチンを使用した以外は実施例6と同様の操作を行った。この油脂含有水溶性組成物では、良好なマヨネーズ様調味料は作製できなかった。また、市販マヨネーズ(キューピー社製)を−30℃で2日間及び7日間冷凍保存し、30℃で解凍したところ、乳化が壊れ、油と水が分離していた。
【0084】
(実施例7)油脂含有水溶性組成物
水3容量部に大豆油7容量部及び実施例1で作製した酒粕乳化剤に水を加えて2.5重量%液にしたものを最終濃度0.05重量%になるように添加した。最大設定にしたボルテックスミキサー(Scientific Industries社製)上で1分間混合し油脂含有水溶性組成物を作製した後、30℃、60℃、80℃で4時間保持した。この油脂含有水溶性組成物について、目視で乳化状態を確認したところ、高温でも良好に乳化状態を維持していた。
【0085】
(比較例5)油脂含有水溶性組成物
実施例1で作製した酒粕乳化剤に代えて、市販のショ糖脂肪酸エステル(リョートーシュガーエステルP−1570、三菱化学フーズ社製)を使用した以外は、実施例7と同様の操作を行った。この油脂含有水溶性組成物について、目視で乳化状態を確認したところ、温度が上昇すると共に急激な乳化の崩壊が見られた。
【0086】
(実施例8)アルコール含有油脂含有水溶性組成物
アルコール濃度が20v/v%のアルコール水溶液3容量部に大豆油7容量部及び実施例1で作製した酒粕乳化剤に水を加えて2.5重量%液にしたものを最終濃度0.05重量%になるように添加した。油脂含有水溶性組成物中のアルコール濃度は6v/v%であった。最大設定にしたボルテックスミキサー(Scientific Industries社製)上で1分間混合し、室温で24時間静置した。この油脂含有水溶性組成物では、室温で24時間静置した後も乳化状態が保持されていた。また、市販の焼酎(アルコール度数25度)をアルコール水溶液の代わりに用いた際も、同様に乳化状態が保持されていた。
【0087】
(試験例1)気泡力
実施例1の酒粕乳化剤、ポリグリセリン脂肪酸エステル(ポエムJ−0081HV、理研ビタミン社製)、ショ糖脂肪酸エステル(リョートーシュガーエステルP−1570、三菱化学フーズ社製)又は大豆レシチン(SLP−ホワイト、辻製油製)の、それぞれ1重量%水溶液を作製した。直径28mm×高さ250mmのメスシリンダーに各100ml入れ、すぐに密閉した。30秒間に約30回上下反転して混合した後、試験管立てに静置した。5分後、泡上面の数値を読み取った。
【0088】
試験例1の結果を表4に示す。この結果から、酒粕乳化剤は市販の乳化剤よりも気泡力に優れていることが判明した。
【0089】
【表4】

【0090】
(試験例2)加熱殺菌処理後の安定性
酒粕乳化剤1gに対して水99mlを添加して100倍希釈した希釈乳化剤液を調製した。この希釈液20mlをスクリューキャップ付耐圧試験管に入れ、100℃の恒温槽で2時間加熱殺菌処理を行った。その後、室温にて空冷した希釈乳化剤液3容量部にケロシンを7容量部になるように添加した。最大設定にしたボルテックスミキサー(Scientific Industries社製)上で1分間混合し油脂含有水溶性組成物を作製し、24時間後に観察したところ、乳化はまったく崩壊していなかった。
【0091】
(試験例3)水への溶解性
実施例1の酒粕乳化剤1gを用い、水10mlへ直接添加した際の溶解性を測定した。その結果、酒粕乳化剤は手を加えなくても瞬時に溶解した。
【0092】
一方、実施例1で作製した酒粕乳化剤に代えて、ポリグリセリン脂肪酸エステル(ポエムJ−0081HV、理研ビタミン社製)、ショ糖脂肪酸エステル(リョートーシュガーエステルP−1570、三菱化学フーズ社製)又は大豆レシチン(SLP−ホワイト、辻製油製)の粉体を使用した以外は、上記と同様の操作を行い、水への溶解性を測定した。その結果、ポリグリセリン脂肪酸エステルとショ糖脂肪酸エステルは60℃で加熱することによって溶解が可能であった。大豆レシチンは水に溶けやすいが、酒粕乳化剤に比べ時間を必要とした。この結果から、本発明の酒粕乳化剤は市販の乳化剤に比べ、水溶性が高いことが判明した。
【0093】
(実施例9)飲料(ミルクコーヒー)
焙煎したコーヒー豆40gを95℃の脱塩水400gで抽出して得たコーヒー抽出液に生クリーム2g、砂糖40g及び実施例1の酒粕乳化剤を0.01重量%、0.1重量%になるよう加えた。これに重曹を添加してpHを6.3に調整した。得られたミルクコーヒー液を145℃で5秒間加熱し、ペットボトルに無菌下で充填した。20℃で1ケ月間静置保存した後のオイルの分離状態の観察とペットボトルに充填した後の風味に関して官能評価を行った。結果を表5に示す。なお、添加量の「−」は酒粕乳化剤を添加していないサンプルを示す。
【0094】
【表5】

【0095】
表5において、オイルの分離・凝集とは、コーヒー豆から抽出されるコーヒーオイルが表面に浮く状態、または、オイルが固体状に固まり容器の内壁に沿って析出し、攪拌しても粗い固体状で系内に分散し、外観上、白い物体(多くの場合、針状の白い物体)が浮遊している状態を称する。表5中の「オイル 分離・凝集」の記号◎はオイル分離無し、〇は液表面にオイル分離が見られるが凝集はしていない、×は、液表面にオイル分離が見られ且つ分離したオイルが凝集していることを表す。官能評価の記号〇はコーヒーの香りが強く且つ苦味が残らないこと、×はコーヒーの香りが弱く且つ苦味が残ることを表す。この結果より、酒粕乳化剤を添加したものは殺菌後もオイル分離が見られず、かつ香りを保つことができることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酒粕由来の成分を有効成分として含有する乳化剤、及び脂溶性物質を含む、油脂含有水溶性組成物。
【請求項2】
アルコール含有飲食品用の、請求項1に記載の油脂含有水溶性組成物。
【請求項3】
塩含有飲食品用の、請求項1に記載の油脂含有水溶性組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の油脂含有水溶性組成物を含む飲食品。

【公開番号】特開2012−228228(P2012−228228A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99924(P2011−99924)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000204686)大関株式会社 (9)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】