説明

油脂用還元剤

【課題】大掛かりな設備や手間をかけずに、油脂の劣化を防止ないし抑制することができる油脂用還元剤を提供する。
【解決手段】揚げ物などに用いられる食用油の劣化を防止ないし抑制する場合、純水ないし蒸留水に、前記深層海水の精製濃縮液に加え、更に、食品添加用の酸として液状のリン酸を所定量加えて混合し、食用油用還元剤を得る。このときの配合割合は、食用油用還元剤1000cc中、(1)深層海水の精製濃縮液:5〜800cc,(2)リン酸:2〜200ccの割合とする。このような油脂用還元剤を、油1リットルに対して0.1cc程度添加した後に油を熱し、揚げ物調理を行うと、油の劣化を抑制ないし防止できるため、絶えず新しい油で揚げたような感じを得ることができる。また、油の交換頻度が減るため、廃油量を削減できるという効果が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂(油及び脂肪)の劣化を防止ないし抑制したり、あるいは油脂を再生するための油脂用還元剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
料理の一つとして、天ぷら鍋などで高温に熱した油で食品を揚げる揚げ物がある。揚げ物では大量の油を使用するため、一回の調理ごとに廃棄すると無駄が多いことから、繰り返し使用されることがある。しかしながら、同じ油を繰り返し(あるいは長時間)使用すると、酸化や、水分による乳化などによって油が劣化し、揚げ物の油切れ,歯ごたえ,風味,見た目(色)などが低下してしまう。このような油の劣化を防止する手段として、以下の特許文献1には、高圧交流静電位発生装置より発生する高圧交流静電位を電気絶縁ガラス又は樹脂で包接した電子放射電極に接続し、これを油中に設置して食用油の酸化防止を行う食用油酸化防止法が開示されている。また、特許文献2には、金属製の網からなる収納容器に、天然ゼオライトと天然サンゴを混合した粒状の酸化防止剤を収納し、前記収納容器を食用油中に吊り下げるようにした食用油の劣化防止具が開示されている。
【特許文献1】特開平9−100489号公報
【特許文献2】登録実用新案第3127064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記特許文献1に記載の技術では、設備が大掛かりになってしまうという不都合がある。また、特許文献2の劣化防止具では、使用後のフライヤーの油中に劣化防止具を投入して放置し、翌日調理を始める際に、該劣化防止具を取り出して食用油を熱する。このため、調理の前後に劣化防止具の投入と取出を繰り返さなければならないという手間がかかる。
【0004】
本発明は、以上の点に着目したもので、大掛かりな設備や手間をかけずに、油脂の劣化(酸化や風味低下など)の防止や抑制,あるいは再生を行うことができる油脂用還元剤を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、本発明は、油脂の劣化防止,劣化抑制,又は再生を行う油脂用還元剤であって、水,ミネラル,酸を含むことを特徴とする。主要な形態の一つは、前記水として、純水,蒸留水,水道水,もしくは海水を用いたことを特徴とする。他の形態の一つは、前記ミネラルが、深層海水又は岩塩に含まれるものであることを特徴とする。更に他の形態の一つは、前記水及びミネラルとして、深層海水又はその精製濃縮液を付加したことを特徴とする。更に他の形態としては、前記油脂が食用の油脂であり、前記酸がリン酸その他の食品添加用酸であることを特徴とする。更に他の形態としては、グリセリンを添加したことを特徴とする。本発明の前記及び他の目的,特徴,利点は、以下の詳細な説明及び添付図面から明瞭になろう。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、水,ミネラル,酸を含む油脂用還元剤を油に添加することで、油の劣化を防止ないし抑制でき、更には再生することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0008】
本発明は、(1)水,(2)ミネラル,(3)酸,を混合したものである。前記水としては、純水,蒸留水,水道水,もしくは海水が用いられる。前記ミネラルとしては、例えば深層海水(海洋深層水)又は岩塩に含まれるものが好適である。なお、深層海水は、一般に、水深が200メートル以下の深層に分布する海水で、表層と異なる物理的・化学的特徴を持つ海水のことである。前記深層海水を、公知の方法で精製して塩分を除去し、その後公知の方法で濃縮することでミネラル成分が得られる。深層海水の精製濃縮液は、一般ににがりと呼ばれるもので、70余種類のミネラル成分が含まれている。岩塩を用いる場合は、それを水に溶かし、深層海水と同様の方法で精製・濃縮することで、ミネラル成分を抽出する。なお、深層海水又はその精製濃縮液は、水分を含んでいるので、これを、前記(1)水及び(2)ミネラルとして使用してもよい。前記酸としては、本発明を食用油に適用する場合、食品添加用の酸を用いる。
【0009】
揚げ物などに用いられる食用油の劣化を防止ないし抑制する場合の具体例を示すと、純水ないし蒸留水に、前記深層海水の精製濃縮液を加え、更に、食品添加用の酸として液状のリン酸を所定量加えて混合し、食用油用還元剤を得る。このときの配合割合の一例を示すと、食用油用還元剤1000cc中、
(1)深層海水の精製濃縮液:5〜800cc(体積割合で0.5〜80%),
(2)リン酸:2〜200cc(体積割合で0.2〜20%)
が好適である。従って、最も水分が多い場合、体積比で、水:深層海水の精製濃縮液:リン酸=93:5:2となる。また、最も水分が少ない場合、体積比で、深層海水の精製濃縮物:リン酸=4:1となる。深層海水の精製濃縮液については、その濃縮程度に応じて添加量を適宜調整するとよい。
【0010】
深層海水の精製濃縮液が5cc以下の場合、ないし、リン酸が2cc以下の場合は、濃度が薄すぎて、良好な還元作用が得られない。逆に、深層海水の精製濃縮液が800cc以上の場合、ないし、リン酸が200cc以上の場合は、食用油の酸化が早まるようになって好ましくない。
【0011】
本実施例の食用油用還元剤を使用する場合は、調理をする前に、油1リットルに対して、前記食用油用還元剤を、例えば0.1cc前後(スポイトで2滴程度)加える。そして、食用油用還元剤を加えた油を加熱して、揚げ物調理を行う。すると、油の劣化が抑制(ないし防止)され、2回目以降の揚げ物においても、油切れや食感,風味,色などが低下することがない。また、調理が終了したら、油をそのまま冷まして放置し、再度利用する前には、あらためて食用油用還元剤を、上述した量と同程度加えてから使用すると、油が再生され、たえず新しい油で揚げたような感じが得られる。加えて、飲食店などで油を繰り返し使用する場合、その酸価や過酸化物価が法律上の規定値内となるという利点もある。
【0012】
<実験例1>・・・次に、本実施例の実験例1について説明する。表1には、本発明に関連して行った酸価及び過酸化物価の試験結果が示されている。試験品は、前記一例として示した水:深層海水の精製濃縮液:リン酸=93:5:2の体積比で混合した食用油用還元剤0.15ccを、3年間使用したサラダ油1リットルに加えたものである。この試験品について、基準油脂分析試験法により酸価及び過酸化物価を測定したところ、表1に示すように、酸価=0.4,過酸化物価=1.6meq/kgとなった。
【0013】
一般的に、酸価が2未満であれば油の劣化はほとんどみられず、過酸化物価が10未満であればほとんど酸化していないと考えられていることから、本実施例の食用油用還元剤が極めて有効であることが分かった。
【表1】

【0014】
<実験例2>・・・次に、本実施例の実験例2について説明する。試験品として、上述した食用油用還元剤を使用し、揚げ物調理に応用した。調理への応用実験では、まず、サラダ油(菜種油と大豆油の調合油)1.8リットルを鉄製の天ぷら鍋に入れ、前記試験品をスポイトで2滴(約0.1cc)を加えた後加熱する。油温が165℃に達したところで、ささみと豆腐の揚げ物調理をそれぞれ約2時間行い、ささみのチーズフライと揚げ出し豆腐をつくった。また、比較例として、前記食用油用還元剤を無添加とした油を用いて調理した場合についても同様の実験を行い対照とした。そして、それぞれの調理品について、嗜好調査を行った。嗜好調査は、食物栄養学科の学生49名をパネラーとして、色,油切れ,歯ごたえ,味について、5段階評点法(嫌い(1)、やや嫌い(2)、普通(3)、やや好き(4)、好き(5))により嗜好評価を行い、Mann-Whitney U-test(マンホイットニーのU検定)を用いて解析を行った。
【0015】
図1(A)には、ささみのチーズフライについての嗜好調査結果が示されており、図1(B)には、揚げ出し豆腐についての嗜好調査結果が示されている。図中、白丸が本実施例の食用油用還元剤入りの油(試験品)を用いた場合の結果、黒丸が比較例の還元剤未使用の油(対照品)を用いた場合の結果である。図1(A)及び(B)に示すように、揚げ物調理において、深層海水及びリン酸の添加は、色,油切れ,歯ごたえ,味において、好ましい方向に作用することが確認された。その作用については、深層海水成分の添加による油の性状変化が関与していると考えられる。また、p値(有意確率)は0.05未満であり、試験品と対照品の間には有意差があることが確認された。
【0016】
このように、実施例1によれば、純水ないし蒸留水,深層海水成分,リン酸を所定の割合で混合した食用油用還元剤を、調理前の油に添加することで、油の劣化を防止ないし抑制することができる。また、使用後の油からカスをろ過する必要はあるが、油自体の交換は不要となり、廃油量の削減を図ることができる。
【0017】
なお、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることができる。例えば、以下のものも含まれる。
(1)前記実施例で示した水,ミネラル,酸の配合比は一例であり、必要に応じて適宜変更してよい。また、還元剤の油への添加量も一例であり、必要に応じて適宜変更してよい。
(2)前記実施例では、還元剤を調理前に油に添加したが、調理中も必要に応じて添加してよい。
(3)更に、前記実験例のささみ及び豆腐の調理例も一例であり、本発明の食用油用還元剤は、他の公知の各種の揚げ物や油を使用する調理全般に適用可能である。
(4)本発明を食用油に適用する場合、風味付けなどを行う添加物を更に加えるようにしてもよい。例えば、グリセリンを添加すると、甘味を付加することができる。
(5)前記実施例は、本発明の還元剤を食用油に適用した例であるが、食用以外の油も含めて、油脂一般に適用可能である。油脂の動物性,植物性も問わない。油脂以外の飲料水やその他の食品に添加することを妨げるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明によれば、水,ミネラル,酸を所定の割合で混合した還元剤であり、油の劣化を防止,抑制,あるいは再生するための油脂用還元剤の用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例1の実験例の嗜好調査の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂の劣化防止,劣化抑制,又は再生を行う油脂用還元剤であって、
水,ミネラル,酸を含むことを特徴とする油脂用還元剤。
【請求項2】
前記水として、純水,蒸留水,水道水,もしくは海水を用いたことを特徴とする請求項1記載の油脂用還元剤。
【請求項3】
前記ミネラルが、深層海水又は岩塩に含まれるものであることを特徴とする請求項1又は2記載の油脂用還元剤。
【請求項4】
前記水及びミネラルとして、深層海水又はその精製濃縮液を付加したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の油脂用還元剤。
【請求項5】
前記油脂が食用の油脂であり、前記酸がリン酸その他の食品添加用酸であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の油脂用還元剤。
【請求項6】
グリセリンを添加したことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の油脂用還元剤。

【図1】
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【公開番号】特開2008−274147(P2008−274147A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−120363(P2007−120363)
【出願日】平成19年4月28日(2007.4.28)
【出願人】(396015219)
【Fターム(参考)】