説明

油脂組成物の長期のブルームの抑制方法

【課題】多量の添加物を使用することなく、シャープな口溶けを有し、且つ、長期にわたるブルーム耐性を有する油脂組成物を提供すること。
【解決手段】油相中に、SUS型トリグリセリドを15〜80質量%(油相基準)含有し、且つ、HLBが3以下のショ糖脂肪酸エステルと、HLBが5以下のポリグリセリン脂肪酸エステルとを、1:9〜9:1の質量比率(前者:後者)で含有することを特徴とする油脂組成物。
ただし、上記S及びUは、それぞれ下記の脂肪酸を示す。
S:炭素数16〜18の飽和脂肪酸
U:炭素数16〜18のシス型モノエンの不飽和脂肪酸

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多量の添加物を使用することなく、シャープな口溶けを有し、且つ、長期にわたるブルーム耐性を有する油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
1、3飽和、2不飽和のトリグリセリドは対称型トリグリセリドといわれ、このトリグリセリドを多く含有する油脂組成物は大変シャープな口溶けを示す。
そのため、チョコレート等の油脂性菓子や、バタークリーム、シュガークリーム、ディップクリーム等のクリーム状食品等の油脂を多く含有する食品に、この対称型トリグリセリドを多く配合することで、それらの食品の口溶けを極めてシャープなものにすることができる。
【0003】
しかし、この対称型トリグリセリドは、結晶性が高く、また他の油脂との相溶性が悪いため、経日的にブルームを起こす問題があった。
特に、2−オレオ−1,3−ステアリルグリセリド(以下、StOStグリセリドと言う)、2−オレオ−1,3−ジパルミトグリセリド(以下、POPグリセリドと言う)、2−オレオ−1,3−パルミトステアリルグリセリド(以下、POSグリセリドと言う)等の炭素数16〜18の脂肪酸からなるトリグリセリド(以下、SUS型トリグリセリドと言う)は、結晶性が高く、ブルームを起こしやすい。
【0004】
そのため、これらの対称型トリグリセリドに各種の乳化剤を添加することで、油脂結晶化を抑制する方法が各種検討されてきたが、モノグリセリドやレシチンを配合するだけではほとんど効果がみられず、効果がみられるくらいに乳化剤を添加すると、口溶けが悪化する問題があった。
【0005】
そこで、口溶けを悪化させない程度の少量添加でも効果のある乳化剤を用いる方法が検討され、特定のショ糖脂肪酸エステルを使用する方法(例えば特許文献1参照)がまず行なわれたが、特許文献1の実施例にあるように、パーム油100重量部に対し1重量部添加しても、20℃で7〜50日程度しか効果がなく、油脂結晶抑制作用は大変弱いものであった。
【0006】
次いで、特定のポリグリセリン脂肪酸エステルを使用する方法(例えば特許文献2〜4参照)が行なわれた。これらの方法は、ショ糖脂肪酸エステルを使用する方法に比して結晶化抑制作用は大きい。しかし、これらの方法は、結晶成長抑制によりパーム系油脂のクリーミング性や吸水性を改善するための発明であるため、その結晶化抑制効果は十分ではなく、長期にわたってブルーム発生を防止するほどの強力な効果が得られるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−205738号公報
【特許文献2】特開平5−199838号公報
【特許文献3】特開平8−47373号公報
【特許文献4】特開平9−176680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、多量の添加物を使用することなく、長期にわたるブルーム耐性及びシャープな口溶けを有する対称型トリグリセリドを多く含有する油脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、対称型トリグリセリドを多く含有する油脂に対し、従来使用されてきたポリグリセリン脂肪酸エステルに加え、意外にも、従来ブルーム耐性が極めて弱いと言われていたショ糖脂肪酸エステルを併用することで、少量の乳化剤添加量でありながら、著しいブルーム耐性の向上を示すことを知見した。
【0010】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、油相中に、SUS型トリグリセリドを15〜80質量%(油相基準)含有し、且つ、HLBが3以下のショ糖脂肪酸エステルと、HLBが5以下のポリグリセリン脂肪酸エステルとを、1:9〜9:1の質量比率(前者:後者)で含有することを特徴とする油脂組成物を提供するものである。
ただし、上記S及びUは、それぞれ下記の脂肪酸を示す。
S:炭素数16〜18の飽和脂肪酸
U:炭素数16〜18のシス型モノエンの不飽和脂肪酸
【発明の効果】
【0011】
本発明の油脂組成物は、シャープな口溶けと、長期にわたるブルーム耐性とを有する。また、該油脂組成物を使用した油脂性菓子やクリーム状食品等も、シャープな口溶けと、長期にわたるブルーム耐性とを有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の油脂組成物について詳述する
本発明の油脂組成物は、油相中に、SUS型トリグリセリドを15〜80質量%(油相基準)、好ましくは20〜70質量%(油相基準)、より好ましくは20〜50質量%(油相基準)含有する。
油相中のSUS型トリグリセリドが、15質量%未満であると、シャープな口溶けを有する油脂組成物が得られず、80質量%を超えると、ブルーム発生防止が困難である。
【0013】
本発明の油脂組成物においては、油相に上記のようなトリグリセリド組成の範囲でSUS型トリグリセリドを含有させるために、「SUS型トリグリセリドそのもの」を使用してもよいが、実質的には、「SUS型トリグリセリドを多く含有する油脂」を使用することが好ましい。
【0014】
上記の「SUS型トリグリセリドを多く含有する油脂」としては、例えば、パーム油、カカオ脂、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、コクム脂、デュパー脂、モーラー脂、フルクラ脂、チャイニーズタロー等の各種植物油脂、牛脂等の動物油脂、これらの各種動植物油脂を分別した加工油脂、並びに下記エステル交換油、及び該エステル交換油を分別した加工油脂を用いることができる。本発明では、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いる。
【0015】
上記のエステル交換油としては、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、魚油、鯨油等の各種動植物油脂、並びにこれらの各種動植物油脂を水素添加及び/又は分別した後に得られる加工油脂から選択される1種以上の油脂を用い、さらに必要に応じて脂肪酸及び/又は脂肪酸低級アルコールエステルを用いて製造したエステル交換油が挙げられる。
【0016】
本発明の油脂組成物は、油相中のSUS型トリグリセリド含量が上記範囲である限りにおいて、上記「SUS型トリグリセリドそのもの」や、上記「SUS型トリグリセリドを多く含有する油脂」に加え、その他のトリグリセリドやその他の油脂を使用することができる。
【0017】
その他のトリグリセリドとしては、例えば、1、2飽和、3不飽和のトリグリセリド、1飽和、2、3不飽和のトリグリセリド、1、3不飽和、2飽和のトリグリセリド、三飽和トリグリセリド、三不飽和のトリグリセリド、1,2飽和−3不飽和型トリグリセリドであって、脂肪酸の1つ以上が炭素数14未満又は18超であるトリグリセリド等が挙げられる。ただし、本発明の油脂組成物では、三飽和トリグリセリドを用いると口溶けが悪くなりやすいため、三飽和トリグリセリドを使用する場合には、その含有量は油相中10質量%未満とすることが好ましい。
【0018】
上記のその他の油脂としては、食用に適する油脂であればよく、その代表例としては、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ひまわり油等の常温で液体の油脂が挙げられるが、その他に、パーム核油、ヤシ油、乳脂、牛脂、豚脂、魚油、鯨油等の常温で固体の油脂も用いることができ、更に、これらの食用油脂に水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂を使用することもできる。本発明においては、これらの油脂を単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0019】
本発明の油脂組成物において、上記のその他のトリグリセリド及びその他の油脂の配合量は、合計で好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0020】
また、本発明の油脂組成物においては、上記SUS型トリグリセリド中のPOPグリセリ
ドの割合が40質量%以上、特に60質量%以上であると、さらに高いブルーム耐性及びよりシャープな口溶けが得られるため好ましい。
これは、SUS型トリグリセリドの中でも、POPグリセリドが、最も結晶性が低く、且
つ、融点が低いためと考えられる。
そのため、SUS型トリグリセリド中のPOPグリセリドの割合が40質量%未満である
と、結晶化抑制作用が十分に発揮されず、油脂組成物及び該油脂組成物を使用した食品に比較的短期間にブルームが発生してしまうおそれがあり、また、口溶けがシャープなものでなくなるおそれもある。
尚、SUS型トリグリセリド中のPOPグリセリドの割合の上限は、好ましくは90質量
%である。
【0021】
上記SUS型トリグリセリド中のPOPグリセリドの割合を40質量%以上とする方法としては、特に限定されないが、精製されたPOPグリセリドを使用する方法や、POPグリセリドを多く含有する油脂を使用する方法、あるいは、分別やエステル交換によりPOPグリセリド含量を高めた油脂を使用する方法等が挙げられ、これらの方法によって、SUS型トリグリセリド中のPOPグリセリド含量を調整すればよい。
【0022】
「SUS型トリグリセリドを多く含有する油脂」として先に例示した油脂の中でも、パーム油及びパーム分別脂は、特にSUS型トリグリセリド中におけるPOPグリセリドが高い。そのため、パーム油及び/又はパーム分別脂を使用することが、SUS型トリグリセリド中のPOPグリセリドの割合を40質量%以上とすることができる点で好ましい。また、パーム油及びパーム分別脂は、簡単に入手可能である点でも好ましい。
【0023】
また、本発明の油脂組成物は、油相中に、HLBが3以下のショ糖脂肪酸エステルと、HLBが3以下のポリグリセリン脂肪酸エステルとを1:9〜9:1、好ましくは2:8〜8:2、より好ましくは2:8〜6:4の質量比率(前者:後者)で含有する。
両者の比率がこの範囲外であると、長期保管時のブルーム耐性が得られない。
【0024】
上記ショ糖脂肪酸エステルは、乳化剤として使用されるものであり、HLBが3以下であれば特に制限されるものではないが、好ましくは、構成脂肪酸の80%以上が炭素数12〜22の飽和脂肪酸からなるショ糖脂肪酸エステルを用いる。なお、上記の炭素数12〜22の飽和脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘニン酸等が挙げられる。
また、上記ショ糖脂肪酸エステルのHLBは、2以下であることが好ましい。尚、上記ショ糖脂肪酸エステルのHLBの下限は、好ましくは0である。
また、本発明の油脂組成物において、上記ショ糖脂肪酸エステルの含有量は、油相基準で0.05〜0.5質量%であることが好ましい。
【0025】
また、上記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、乳化剤として使用されるものであり、HLBが5以下であれば特に制限されるものではないが、好ましくは、構成脂肪酸の80%以上が炭素数12〜22の飽和脂肪酸からなるポリグリセリン脂肪酸エステルを用いる。なお、上記の炭素数12〜22の飽和脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘニン酸等が挙げられる。
また、上記ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBは、4以下であることが好ましい。尚、上記ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBの下限は、好ましくは2である。
また、本発明の油脂組成物において、上記ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、油相基準で0.05〜0.5質量%であることが好ましい。
【0026】
本発明の油脂組成物は、HLBが3以下の上記ショ糖脂肪酸エステル及びHLBが5以下の上記ポリグリセリン脂肪酸エステルを合計して、油相中に好ましくは0.1〜1質量%、より好ましくは0.2〜1質量%含む。
0.1質量%未満であると、保管状況によっては長期保管時のブルーム耐性が得られないおそれがあり、1質量%を超えると油脂組成物の口溶けが悪化するおそれがある。
【0027】
本発明の油脂組成物は、本発明の効果を損ねない範囲において、上記のショ糖脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステル以外のその他の乳化剤を含有することができる。
上記その他の乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、HLBが3を超えるショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、HLBが5を超えるポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド、大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄、サポニン、植物ステロール類、乳脂肪球皮膜等が挙げられる。
上記その他の乳化剤の配合量は好ましくは0〜1質量%、より好ましくは0〜0.2質量%である。
【0028】
本発明の油脂組成物における油相には、油溶性成分を含有させてもよい。該油溶性成分としては、その他の乳化剤として例示した上記乳化剤や、後述のその他の成分のうち、β−カロチン等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、着香料等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0029】
また、本発明の油脂組成物の油相含量は、好ましくは80〜100質量%、より好ましくは90〜100質量%である。

すなわち、本発明の油脂組成物における水相含量は、好ましくは20質量%未満、より好ましくは10%未満である。
【0030】
本発明の油脂組成物は、上記以外のその他の成分を含有することができる。該その他の成分としては、例えば、ローカストビーンガム、カラギーナン、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉、化工澱粉等の増粘安定剤、食塩、塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、糖類や糖アルコール類、ステビア、アスパルテーム等の甘味料、β−カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、卵及び各種卵加工品、着香料、乳製品、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、ココアマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0031】
次に、本発明の油脂組成物の好ましい製造方法について説明する。
先ず、上記SUS型トリグリセリドを15〜80%(油相基準)含有し、且つ、HLBが3以下のショ糖脂肪酸エステルと、HLBが5以下のポリグリセリン脂肪酸エステルとを、1:9〜9:1の質量比率で含有する油相を溶解し、必要により水相を混合乳化する。そして、次に殺菌処理するのが望ましい。殺菌方法は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でも構わない。
【0032】
次に、冷却し、結晶化させる。好ましくは冷却可塑化する。冷却条件は、好ましくは−0.5℃/分以上、さらに好ましくは−5℃/分以上とする。この際、徐冷却より、急速冷却の方が好ましい。冷却する機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えば、ボテーター、コンピネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターとの組み合わせも挙げられる。
【0033】
また、本発明の油脂組成物を製造する際のいずれかの工程で、窒素、空気等を含気させてもよいが、本発明の油脂組成物は、気相を含有することにより粘度が高くなり、特に低温度域での流動性が失われるおそれがあることから、気相は含有させないことが好ましい。
【0034】
次に、本発明の油脂組成物の用途について説明する。
本発明の油脂組成物は、製菓・製パン・冷菓・惣菜等の練込用、カレールウ用、フライ用、スプレー用、コーティング用、サンド用、トッピング用、クリーム状食品用、油脂性菓子用等に広く使用可能であるが、なかでも、口溶けが良好であること、高いブルーム耐性を有すること、及び長期保存が可能であることが必要とされる用途、例えば、ノーテンパーチョコ、チョコクリーム、チョコチップ、冷菓用チョコレート等の油脂性菓子用、あるいは、ディップクリーム、シュガークリーム、バタークリーム、焼き残りクリーム等のクリーム状食品練込用に、特に好適に使用することができる。
【0035】
本発明の油脂組成物を使用した油脂性菓子は、口溶けが良好で、高いブルーム耐性を持つことに加え、30〜35℃の環境温度における耐熱保型性も良好であるという特徴を有する。
油脂性菓子における本発明の油脂組成物の使用量は、好ましくは5〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%である。
【0036】
また、本発明の油脂組成物を使用したクリーム状食品は、口溶けが良好で、高いブルーム耐性を持つことに加え、クリーミング性や包水性、包蜜性も良好であるという特徴を有する。
クリーム状食品における本発明の油脂組成物の使用量は、好ましくは5〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%である。
【実施例】
【0037】
〔実施例1〜7及び比較例1〜9〕
以下に示す油脂及び乳化剤を用い下記〔表1〕に示す配合に従って調製した油相を、溶解、急冷練り合わせした後、25℃で24時間テンパリングし、油脂組成物(ショートニング)を得た。得られたショートニングのSUS型トリグリセリド含量、POPグリセリド含量、及びPOPグリセリド含量/SUS型トリグリセリド含量を〔表2〕に記した。
(油脂及び乳化剤)
パーム油:SUS型トリグリセリド含量=32質量%、POPグリセリド含量=28質量
%、SUS型トリグリセリドに占めるPOPグリセリドの割合=87質量%
パーム中部油:SUS型トリグリセリド含量=73質量%、POPグリセリド含量=60
質量%、SUS型トリグリセリドに占めるPOPグリセリドの割合=83質量%
カカオ脂:SUS型トリグリセリド含量=85質量%、POPグリセリド含量=17質量
%、SUS型トリグリセリドに占めるPOPグリセリドの割合=21質量%
ショ糖脂肪酸エステル:HLB=1
ポリグリセリン脂肪酸エステル:HLB=4
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
<油脂組成物の口溶け評価及び保存試験>
実施例1〜7及び比較例1〜9それぞれで得られた油脂組成物について、製造直後に口溶け評価を行ない、且つ20℃にて保存試験を行った。口溶けは、下記評価基準に従って4段階で評価した。保存試験においては、0.5ヶ月後、1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後及び12ヶ月後に、油脂組成物の表面状態(ブルーム)について、下記評価基準に従って4段階で評価した。それらの結果を表3に示した。
(評価基準)
・口溶け
◎:極めて良好である。
○:良好である。
△:ワキシー感を感じ、やや悪い。
×:ワキシーであり、極めて悪い。
・ブルーム
◎:ブルームの発生が見られず、艶があり良好な表面状態である。
○:ブルームの発生は見られないが、やや艶がない表面状態である。
△:若干のブルームが発生し、ややざらついた表面状態である。
×:ブルームが発生し、白色化し、ざらついた表面状態である。
【0041】
【表3】

【0042】
表3からわかるとおり、乳化剤を含有しない比較例1の油脂組成物は、口溶けは良好であるものの、0.5ヶ月目にはブルームが発生していた。
ショ糖脂肪酸エステルのみを使用した比較例2、3、8の油脂組成物は、1〜3ヶ月目にはブルームが発生してしまった。また、ブルーム発生を抑制するためにショ糖脂肪酸エステルの添加量を1.5質量%まで増やした比較例4の油脂組成物は、ブルーム耐性は向上するものの、口溶けが悪化してしまった。
ポリグリセリン脂肪酸エステルのみを使用した比較例5、6、9の油脂組成物は、ショ糖脂肪酸エステルのみを使用した油脂組成物に比べ、ブルーム耐性は向上したものの、3〜6ヶ月後にはブルームが発生してしまった。また、ブルーム発生を抑制するためにポリグリセリン脂肪酸エステルの添加量を1.5質量%まで増やした比較例7の油脂組成物は、ブルーム耐性は向上するものの、口溶けが悪化してしまった。
これに対し、実施例1〜7で得られた油脂組成物は、口溶けが良好で且つ12ヶ月後でもブルームの発生が見られなかった。特に、SUS型トリグリセリド中のPOPグリセリドが少ない実施例7の油脂組成物よりも、SUS型トリグリセリド中のPOPグリセリドの多い実施例1〜6の油脂組成物は、より良好なブルーム耐性を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油相中に、SUS型トリグリセリドを15〜80質量%(油相基準)含有し、且つ、HLBが3以下のショ糖脂肪酸エステルと、HLBが5以下のポリグリセリン脂肪酸エステルとを、1:9〜9:1の質量比率(前者:後者)で含有することを特徴とする油脂組成物。
ただし、上記S及びUは、それぞれ下記の脂肪酸を示す。
S:炭素数16〜18の飽和脂肪酸
U:炭素数16〜18のシス型モノエンの不飽和脂肪酸
【請求項2】
油相中に、HLBが3以下の上記ショ糖脂肪酸エステル及びHLBが5以下の上記ポリグリセリン脂肪酸エステルを、合計して0.1〜1質量%(油相基準)含むことを特徴とする請求項1記載の油脂組成物。
【請求項3】
上記SUS型トリグリセリド中の2−オレオ−1,3−ジパルミトグリセリドの割合が、40質量%以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の油脂組成物。
【請求項4】
上記2−オレオ−1,3−ジパルミトグリセリドが、パーム油及び/又はパーム分別油由来であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の油脂組成物。

【公開番号】特開2013−36047(P2013−36047A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−220910(P2012−220910)
【出願日】平成24年10月3日(2012.10.3)
【分割の表示】特願2005−42616(P2005−42616)の分割
【原出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】