説明

油脂組成物

【課題】 独特の濃厚な風味を持つが粗大結晶を生成しやすいという問題を有する豚脂を多く含有しながら、口溶けが良好で、白色化(ファットブルーム)や風味の低下が防止され、長期保管が可能である油脂組成物を提供すること。
【解決手段】 豚脂を50質量%以上含有し、且つ、油相中に豚脂1質量部に対しパームステアリンを0.01〜0.6質量部の比率で含有することを特徴とする油脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂組成物に関するもので、詳しくは、独特の濃厚な風味を持つが粗大結晶を生成しやすいという欠点を有する豚脂を多く含有しながら、白色化(ファットブルーム)や風味の低下が防止され、長期保管が可能である油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
豚脂は、独特の濃厚な風味を持つ油脂として、フライ用や炒め物用等の調理用油脂や、製菓・製パン練り込み用等のベーカリー用油脂等に広く使用されている。
【0003】
しかし、豚脂はSPO(1−ステアリル−2−パルミトリル−3−オレイン)を主とするトリグリセリドを多く含有するため、急冷可塑化を行わない未練り方式で製造した場合や、保管状況が適切でない(溶解・結晶化を繰り返す)場合等の徐冷条件下では、粗大油脂結晶が成長し、ざらついた油脂組成物になったり、固液分離を起こしたり、可塑性を失ってしまったり、あるいは、油脂表面が白色化し、商品価値を著しく低下させてしまう。
【0004】
このような性質を有する豚脂を主成分とし、その他の油脂や食品添加物を配合した油脂組成物として、調製ラードがある。この調製ラードの結晶安定性を高め、ざらつき、固液分離、可塑性の消失、油脂表面の白色化等を防止するために、過去から各種の検討が行なわれ、様々な提案がなされている。
【0005】
例えば、乳化剤を使用する方法や、極度硬化油脂を使用する方法(例えば特許文献1参照)、あるいは、豚脂に高融点油脂を添加した油脂配合物をランダムエステル交換する方法(例えば特許文献2及び3参照)により、粗大結晶生成を防止し、ざらつき、固液分離や表面白色化を防止することが提案されている。しかし、乳化剤を使用する方法は、豚脂の濃厚な風味が阻害されることに加え、結晶防止効果を示すような大量の乳化剤を添加すると、口溶けがワキシーで極めて悪くなるという問題があった。また、特許文献1に記載の方法は、豚脂の風味が阻害されることはないものの、口溶けがワキシーで極めて悪くなるという問題があった。また、引用文献2及び3に記載の方法も、融点が高く、口溶けが悪くなるという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開2001−8619号公報
【特許文献2】特開昭55−23974号公報
【特許文献3】特開平11−289976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、独特の濃厚な風味を持つ豚脂を多く含有しながら、口溶けが良好で、結晶安定性が高い油脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、従来、独特の風味を有し可塑性油脂用としては硬くて使用し難いためほとんど使用されることのなかったパームステアリンを、豚脂に対し特定比率配合することにより、上記問題を解決可能であることを知見した。
【0009】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、豚脂を50質量%以上含有し、且つ、油相中に豚脂1質量部に対しパームステアリンを0.01〜0.6質量部の比率で含有することを特徴とする油脂組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、独特の濃厚な風味を持つ豚脂を多く含有しながら、徐冷条件下であっても、ざらつきの発生、固液分離、可塑性の消失あるいは油脂表面白色化等の長期保管時の粗大油脂結晶成長による商品価値の低下が抑制され、風味が良好であり、可塑性やクリーミング性に優れた油脂組成物を提供することができる。また、該油脂組成物を用いて食品を作成すると、該食品も、風味が良好であり、油脂結晶粗大化による白色化(ファットブルーム)が防止され、長期保管が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の油脂組成物について詳述する。
本発明の油脂組成物は、豚脂を50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上含有する油脂組成物であり、豚脂の独特の濃厚な風味を強く呈するものである。尚、本発明の油脂組成物中における豚脂含有量の上限は、好ましくは95質量%である。
【0012】
本発明の油脂組成物に使用する上記豚脂は、高融点部分を除去した分別豚脂、あるいはさらに液状部分を除いた豚脂分別中部油であってもよいが、濃厚な香味を有すること及び最も可塑性に優れることから、豚脂(未分別豚脂)を用いるのが好ましい。
なお、本発明の油脂組成物において、上記豚脂は、精製されたものであっても、未精製のものであってもよい。
【0013】
本発明の油脂組成物に使用するパームステアリンは、パーム油からパームオレインを分別採取する際の副生物として得られるものであり、ヨウ素価が20〜50、好ましくは20〜48のものである。本発明では、上記パームステアリンとして、上昇融点が44〜58℃、特に48〜56℃のものを使用することが好ましい。
また、上記パームステアリンは、パームオレインを分別採取する際の副生物に、更に分別及び/又はエステル交換処理を施したものであってもよい。
【0014】
本発明の油脂組成物は、油相中に上記豚脂1質量部に対し上記パームステアリンを0.01〜0.6質量部、好ましくは0.03〜0.4質量部の比率で含有する。
豚脂1質量部に対しパームステアリンが0.01質量部未満であると、徐冷条件下で経日的に粗大結晶を形成し、油脂組成物がざらついた物性となり、固液分離を起こしたり、油脂表面が白色化するおそれがある。また、豚脂1質量部に対しパームステアリンが0.6質量部を超えると、硬くなりすぎて、口溶けが悪く、また油脂組成物としての好ましい可塑性が得られなくなるおそれがある。尚、本発明の油脂組成物中における上記パームステアリンの含有量は、5〜35質量%であることが好ましい。
【0015】
本発明の油脂組成物における油相含量は、好ましくは70〜100質量%、より好ましくは75〜100質量%である。70質量%未満であると、豚脂の独特の濃厚な風味が感じられ難いことに加え、常温での可塑性に乏しい油脂組成物になってしまうおそれがある。
【0016】
本発明の油脂組成物には、必要に応じ、上記豚脂及び上記パームステアリン以外のその他の油脂を使用することができる。その他の油脂の使用量は、本発明の油脂組成物の油相中、好ましくは20質量%以下である。
【0017】
ここで用いられるその他の油脂としては、特に限定されないが、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂及び動物油脂、並びにこれらに水素添加、分別及びエステル交換から選択される一又は二以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。本発明においては、これらの油脂を単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0018】
また、本発明の油脂組成物は、実質的にトランス脂肪酸を含まないことが好ましい。水素添加は、油脂の融点を上昇させる典型的な方法であるが、水素添加油脂は、完全水素添加油脂を除いて、通常、構成脂肪酸中にトランス脂肪酸が10〜50質量%程度含まれている。一方、天然油脂中にはトランス脂肪酸が殆ど存在せず、反芻動物由来の油脂に10質量%未満含まれているにすぎない。近年、化学的な処理、特に水素添加に付されていない油脂組成物、即ち実質的にトランス脂肪酸を含まない油脂組成物であって、適切なコンシステンシーを有するものも要求されている。本発明においては、上記パームステアリンにも上記豚脂にも実質的にトランス脂肪酸は含まれていないため、必要に応じて加えるその他の油脂として水素添加油脂を使用しないことにより、トランス脂肪酸を含まずとも適切なコンステンシーを有する油脂組成物とすることができる。なお、ここでいう「実質的にトランス脂肪酸を含まない」とは、トランス脂肪酸の含有量が、本発明の油脂組成物の全構成脂肪酸中、好ましくは10質量%未満、さらに好ましくは5質量%以下、最も好ましくは2質量%以下であることを意味する。
【0019】
本発明の油脂組成物においては、油相のSFC(固体脂含量)を、10℃で好ましくは20〜60%、より好ましくは20〜50%、且つ、20℃で好ましくは10〜40%、より好ましくは10〜30%とする。SFCが10℃で20%未満又は20℃で10%未満であると、十分な硬さが得られず、広い温度範囲での良好な可塑性が得られ難い。一方、SFCが10℃で60%を超える又は20℃で40%を超えると、油脂組成物が硬すぎて、広い温度範囲での良好な可塑性を得難い。
【0020】
なお、上記のSFCは、次のようにして測定する。即ち、油相を60℃に30分保持して完全に融解した後、0℃に30分保持して固化させる。次いで、25℃に30分保持し、テンパリングを行ない、その後、0℃に30分保持する。これを各測定温度に順次30分保持した後、SFCを測定する。
【0021】
本発明の油脂組成物には、油脂以外の成分を含有させることができる。油脂以外の成分としては、例えば、水、乳化剤、増粘安定剤、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、クエン酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、デキストリン類、糖類や糖アルコール類、ステビア、アスパルテーム等の甘味料、β−カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、卵及び各種卵加工品、着香料、乳や乳製品、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0022】
本発明の油脂組成物において、油脂以外の成分の使用量は、それらの成分の使用目的等に応じて適宜選択することができ、特に制限されるものではないが、好ましくは合計で40質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、最も好ましくは1質量%以下である。
【0023】
上記乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、植物ステロール、植物ステロール脂肪酸エステル、乳脂肪球被膜、サポニン類等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。上記乳化剤の配合量は、特に制限はないが、本発明の油脂組成物中、好ましくは0〜3質量%、さらに好ましくは0〜1質量%である。
【0024】
上記増粘安定剤としては、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉、化工澱粉等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。上記増粘安定剤の配合量は、特に制限はないが、本発明の油脂組成物中、好ましくは0〜10質量%、より好ましくは0〜5質量%、さらに好ましくは0〜1質量%である。
【0025】
なお、本発明の油脂組成物が乳化物の形態である場合には、油相と水相との比率(前者:後者、質量基準)は、好ましくは60:40〜95:5である。
【0026】
次に、本発明の油脂組成物の好ましい製造方法を説明する。
本発明の油脂組成物は、油脂組成物中の豚脂含量が50質量%以上となる量の豚脂、豚脂1質量部に対し0.01〜0.6質量部の比率となるパームステアリン、及び必要によりその他の成分を含有する油相を融解した後、必要により水相やその他の成分を乳化混合する。
そして、次に殺菌処理するのが望ましい。殺菌方法は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でも構わない。次に、冷却、結晶化する。本発明において、冷却条件は好ましくは−0.5℃/分以上、さらに好ましくは−5℃/分以上である。この際、徐冷却より急速冷却の方が好ましいが、徐冷却であっても、可塑性範囲が広く、低温での伸展性に優れ、経日的にも硬さが変化せず安定した本発明の油脂組成物を得ることができる。冷却に用いる機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えば、ボテーター、コンビネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターとの組み合わせ等も挙げられる。
【0027】
また、本発明の油脂組成物を製造する際のいずれかの製造工程で、窒素、空気等を含気させても、させなくても構わない。
また、本発明の油脂組成物は、乳化物とする場合、その乳化形態は、油中水型、水中油型及び二重乳化型のいずれでも構わない。
【0028】
次に、本発明の油脂組成物の用途について説明する。
本発明の油脂組成物は、ベーカリー製品、菓子製品、惣菜製品等の各種食品に、練り込み用油脂組成物、ロールイン用油脂組成物、フィリング用油脂組成物、サンド用油脂組成物、トッピング用油脂組成物、スプレッド用油脂組成物、スプレー用油脂組成物、コーティング用油脂組成物、フライ用油脂組成物、クリーム用油脂組成物等として用いることができる。
【0029】
本発明の油脂組成物は、広い温度域でクリーミング性や練り込み適性に優れること及び得られるベーカリー製品が独特の濃厚な風味を有することから、これらの用途のなかでも、食パン、菓子パン、デニッシュ、パイ、シュー、ドーナツ、バターケーキ、スポンジケーキ、クッキー、ハードビスケット、ワッフル、スコーン等のベーカリー製品に用いる練り込み用油脂組成物として特に好適である。
【0030】
なお、上記用途における本発明の油脂組成物の使用量は、使用用途により異なるものであり、特に限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例等によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例等により何等制限されるものではない。
【0032】
〔実施例1〕
豚脂(ヨウ素価=65、トランス脂肪酸含量=1.6質量%)80質量部、パームステアリン(ヨウ素価=33、トランス脂肪酸含量=0.4質量%)10質量部、大豆液状油10質量部及びトコフェロール0.03質量部を混合溶解した後、急冷可塑化工程(冷却速度−20℃/分以上)にかけ、豚脂を80質量%含有し、油相中に、豚脂1質量部に対しパームステアリンを0.13質量部含有し、油相のSFCが10℃で33%、20℃で24%、トランス脂肪酸含量が1.3質量%である油脂組成物を得た。
【0033】
〔実施例2〕
豚脂(ヨウ素価=65、トランス脂肪酸含量=1.6質量%)80質量部、パームステアリン(ヨウ素価=33、トランス脂肪酸含量=0.4質量%)20質量部及びトコフェロール0.03質量部を混合溶解した後、急冷可塑化工程(冷却速度−20℃/分以上)にかけ、豚脂を80質量%含有し、油相中に、豚脂1質量部に対しパームステアリンを0.2質量部含有し、油相のSFCが10℃で41%、20℃で30%、トランス脂肪酸含量が1.3質量%である油脂組成物を得た。
【0034】
〔実施例3〕
豚脂(ヨウ素価=65、トランス脂肪酸含量=1.6質量%)80質量部、パームステアリン(ヨウ素価=33、トランス脂肪酸含量=0.4質量%)20質量部、乳化剤としてステアリン酸モノグリセリド0.4質量部及びレシチン0.1質量部、並びにトコフェロール0.03質量部を混合溶解した油相81質量%と、水16質量%、食塩1質量%及び脱脂粉乳2質量%を混合溶解した水相とを、常法により油中水型の乳化物とし、急冷可塑化工程(冷却速度−20℃/分以上)にかけ、豚脂を65質量%含有し、油相中に、豚脂1質量部に対しパームステアリンを0.2質量部含有し、油相のSFCが10℃で41%、20℃で30%、トランス脂肪酸含量が1.3質量%である油脂組成物を得た。
【0035】
〔比較例1〕
豚脂(ヨウ素価=65、トランス脂肪酸含量=1.6質量%)100質量部及びトコフェロール0.03質量部を溶解した後、急冷可塑化工程(冷却速度−20℃/分以上)にかけ、豚脂含量が100質量%であり、油相中にパームステアリンを含有せず、油相のSFCが10℃で32%、20℃で22%、トランス脂肪酸含量が1.6質量%である油脂組成物を得た。
【0036】
〔比較例2〕
実施例2で使用したパームステアリンをパーム油(ヨウ素価=51、トランス脂肪酸含量=1.6質量%)に変更した以外は、実施例2と同様にして、油脂組成物を得た。該油脂組成物は、豚脂を80質量%含有し、油相中にパームステアリンを含有せず、油相のSFCが10℃で36%、20℃で22%、トランス脂肪酸含量が1.3質量%であった。
【0037】
〔比較例3〕
実施例2で使用した豚脂を80質量部から50質量部に、パームステアリンを20質量部から50質量部に変更した以外は、実施例2と同様にして、油脂組成物を得た。該油脂組成物は、豚脂を50質量%含有し、油相中に、豚脂1質量部に対しパームステアリンを1質量部含有し、油相のSFCが10℃で55%、20℃で43%、トランス脂肪酸含量が1.0質量%であった。
【0038】
〔比較例4〕
実施例3で使用したパームステアリンを豚脂に変更して、油相に使用する油脂を100%豚脂とした以外は、実施例3と同様にして、油脂組成物を得た。該油脂組成物は、豚脂含量が81質量%であり、油相中にパームステアリンを含有せず、油相のSFCが10℃で32%、20℃で22%、トランス脂肪酸含量が1.6質量%であった。
【0039】
〔比較例5〕
実施例3で使用したパームステアリンをパーム油に変更した以外は、実施例3と同様にして、油脂組成物を得た。該油脂組成物は、豚脂含量が65質量%であり、油相中にパームステアリンを含有せず、油相のSFCが10℃で36%、20℃で22%、トランス脂肪酸含量が1.3質量%であった。
【0040】
〔比較例6〕
実施例3で使用した豚脂を80質量部から50質量部に、パームステアリンを20質量部から50質量部に変更した以外は、実施例3と同様にして、油脂組成物を得た。該油脂組成物は、豚脂を41質量%含有し、油相中に、豚脂1質量部に対しパームステアリンを1質量部含有し、油相のSFCが10℃で55%、20℃で43%、トランス脂肪酸含量が1.0質量%であった。
【0041】
<油脂組成物の保存試験>
実施例1〜3及び比較例1〜6それぞれで得られた油脂組成物について、20℃にて保存試験を行った。保存試験においては、製造直後及び4週間後に、油脂組成物の風味、口溶け及び表面状態(ブルーム)について、下記評価基準に従って4段階で評価した。それらの結果を表1に示した。
【0042】
(評価基準)
・風味
◎:良好な豚脂の風味を感じる。
○:豚脂の風味を感じるもの、ややコク味に欠ける。
△:豚脂の風味が弱い。
×:豚脂の風味が感じられない。
・口溶け
◎:極めて良好である。
○:良好である。
△:ワキシー感を感じ、やや悪い。
×:ワキシーであり、極めて悪い。
・ブルーム
◎:全くみられない。
○:やや艶がない。
△:艶がなく、ややざらついている。
×:白色化し、ざらつきがある。
【0043】
【表1】

【0044】
表1から分かるように、実施例1〜3それぞれの本発明の油脂組成物は、製造直後及び製造から4週間後のいずれおいても、豚脂風味及び口溶けが良好であり、ブルームの発生もみられなかった。これに対し、パームステアリンを含有しない比較例1、2、4及び5それぞれの油脂組成物は、製造直後の表面状態は良好であるが、4週間後にはブルームが発生していた。また、油相中に豚脂1質量部に対しパームステアリンを0.6質量部を超えて含有する比較例3及び6それぞれの油脂組成物は、ブルームの発生はみられないものの、豚脂の風味が弱く、口溶けも劣っていた。
【0045】
<クッキー焼成試験>
実施例1〜2及び比較例1〜3それぞれで得られた油脂組成物を用いて、下記に示す配合及び製法によりクッキー(ワイヤーカットクッキー)を製造し、クリーミング性並びに得られたクッキーの食感(ショートネス性及び口溶け)について、下記評価基準に従って4段階で評価した。また、得られたクッキーについて、20℃にて放置テストを行った。放置テストにおいては、製造直後及び4週間後に、クッキーの表面の状態(ブルーム)について、下記評価基準に従って4段階で評価した。それらの結果を表2に示した。
【0046】
(配合)
薄力粉100質量部、砂糖40質量部、全卵15質量部、食塩1質量部、重炭安1質量部、重曹1質量部、水10質量部、油脂組成物55質量部
(製法)
卓上ミキサー(ケンウッドミキサー)に油脂組成物及び砂糖を投入し、ビーターを使用し、軽く混合した後、最高速で、比重が0.6になるまでクリーミングした。次いで、あらかじめ全卵、水、食塩及び重炭安を混合した水相を少量づつ加えて攪拌・混合し、さらに薄力粉及び重曹を加えた後、低速で1分混合してワイヤーカットクッキー生地を得た。ここで得られたワイヤーカットクッキー生地を、厚さ7ミリ、直径4センチの丸型にワイヤーカット成型した。成型したクッキー生地をオーブン(フジサワ社製)で180℃にて10分焼成後、25℃にて40分冷却し、ワイヤーカットクッキーを得た。
【0047】
(評価基準)
・クリーミング性(比重が0.6になるまでの時間)
◎:2分未満
○:2分以上3分未満
△:3分以上4分未満
×:4分以上
・クッキーの食感(ショートネス性)
◎:極めて良好
○:良好
△:やや悪い
×:悪い
・クッキーの食感(口溶け)
◎:極めて良好
○:良好
△:やや悪い
×:悪い
・クッキーのブルーム
◎:全くみられない
○:やや艶がない
△:艶がなく、ややざらついている
×:白色化し、ざらつきがある
【0048】
【表2】

【0049】
表2から分かるように、実施例1及び2それぞれの本発明の油脂組成物を用いてワイヤーカットクッキーを製造した場合、クリーミング性及び食感が共に良好で、ブルームの発生もみられない。これに対し、パームステアリンを含有しない比較例1及び2それぞれの油脂組成物を用いてワイヤーカットクッキーを製造した場合、クリーミング性及び食感は良好であるが、4週間後にはブルームが発生していた。また、油相中に豚脂1質量部に対しパームステアリンを0.6質量部を超えて含有する比較例3の油脂組成物を用いてワイヤーカットクッキーを製造した場合は、ブルームの発生はみられないものの、クリーミング性及び食感が劣り、また豚脂の風味も弱いものであった。
【0050】
<製パン試験>
実施例3及び比較例4〜6それぞれで得られた油脂組成物を用いて、下記に示す配合及び製法により焼成品(ワンローフ型食パン)を製造し、製造時の油脂組成物の練り込み適性並びに得られた食パンの食感(歯切れ及び口溶け)について、下記評価基準に従って4段階で評価した。それらの結果を表3に示した。
【0051】
(中種配合)
強力粉70質量部、生イースト2質量部、イーストフード0.1質量部、水42質量部
(本種配合)
強力粉30質量部、食塩1.8質量部、上白糖8質量部、水23質量部、油脂組成物10質量部
(製法)
中種原料をミキサーボウルに投入し、フックを使用し、低速で2分、中速で2分混合して中種生地を得た後、得られた中種生地を生地ボックスに入れ、温度28℃、相対湿度85%の恒温室で、4時間中種醗酵を行った(終点温度は29℃)。
この中種醗酵の終了した生地を再びミキサーボウルに投入し、さらに、油脂組成物以外の本種原料を添加し、フックを使用し、低速で3分、中速で3分ミキシングした。ここで油脂組成物を投入し低速で油脂組成物が完全に練りこまれるまで混合した後(ただし最長5分)、中速で2分、高速で1分ミキシングを行い、食パン生地を得た(捏ね上げ温度は28℃)。
ここで、フロアタイムを30分とった後、380gに分割・丸目を行なった。次いで、ベンチタイムを20分とった後、モルダーを使用してワンローフ成形し、ワンローフ型に入れ、38℃、相対湿度85%で40分ホイロをとった。その後、200℃に設定した固定窯に入れ40分焼成した後、25℃にて60分冷却してワンローフ型食パンを得た。
【0052】
(評価基準)
・練り込み適性(油脂組成物を投入後、完全に練り込まれるまでの時間)
◎:2分未満
○:2分以上3分未満
△:3分以上4分未満
×:4分以上
・焼成品食感(歯切れ)
◎:極めて良好
○:良好
△:やや悪い
×:悪い
・焼成品食感(口溶け)
◎:極めて良好
○:良好
△:やや悪い
×:悪い
【0053】
【表3】

【0054】
表3から分かるように、実施例3の本発明の油脂組成物を用いてワンローフ型食パンを製造した場合、練り込み適性が極めて良好で、食感も極めて良好であった。これに対し、比較例4及び5それぞれの油脂組成物を用いてワンローフ型食パンを製造した場合、食感は良好であるものの、練り込み適性が劣るものであった。また、油相中に豚脂1質量部に対しパームステアリンを0.6質量部を超えて含有する比較例6の油脂組成物を用いてワンローフ型食パンを製造した場合は、練り込み適性及び食感ともに不良であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
豚脂を50質量%以上含有し、且つ、油相中に豚脂1質量部に対しパームステアリンを0.01〜0.6質量部の比率で含有することを特徴とする油脂組成物。
【請求項2】
油相のSFC(固体脂含量)が、10℃で20〜60%、20℃で10〜40%であることを特徴とする請求項1記載の油脂組成物。
【請求項3】
実質的にトランス脂肪酸を含まないことを特徴とする請求項1又は2記載の油脂組成物。
【請求項4】
ベーカリー製品練り込み用であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の油脂組成物。

【公開番号】特開2006−136213(P2006−136213A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−326421(P2004−326421)
【出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(000000387)旭電化工業株式会社 (987)
【Fターム(参考)】