説明

油脂食品

【課題】植物ステロール類が配合されている油脂食品であっても、適度な固さを有し、なめらかで口溶けのよい油脂食品を提供する。
【解決手段】植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比が、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部である複合体が、製品に対し0.01〜10%配合されていることを特徴とする油脂食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物ステロール類が配合されている油脂食品に関する。詳しくは、植物ステロール類が配合されている油脂食品であっても、適度な固さを有し、なめらかで口溶けのよい油脂食品に関する。
【背景技術】
【0002】
植物ステロール及びその飽和型である植物スタノール等の植物ステロール類は、血中の総コレステロール濃度及び低密度リポ蛋白質−コレステロール濃度を低下させることが知られており、また、食品としての安全性も有する。植物ステロールは、植物油脂、大豆、小麦等に含まれているのでヒトは日常的に摂取していることになるが、その摂取量は僅かであることから、近年、植物ステロールを食品原料として利用することへの期待が高まっている。
【0003】
上記のような食品の1つとして、トーストスプレッド、ショートニング、ピーナツバター、チョコレート、マーガリン、バター等の油脂食品が挙げられる。しかし、植物ステロールの粉体を単に各種食品に添加しただけでは均一に分散せず、また食品の舌触りがざらつくという問題があった。
【0004】
このような中で、特開昭57−206336号には、植物ステロールを0.5〜30重量%含有した食用油脂が開示されている。そこで、植物ステロールを食用油脂に溶解した後油脂食品に用いることを試みた。しかし、植物ステロールは常温で固体(融点140℃前後)であることから常温での食用油脂への溶解は僅かであり、油脂食品に利用するのは困難であった。
【0005】
ここで、本発明者等は、植物ステロールを食用油脂に混合した後加熱し、植物ステロールの食用油脂への溶解度を高めることにより、油脂食品への利用を試みた。その結果、期待通り植物ステロールの食用油脂への溶解度が高まり、油脂食品への利用が可能であった。しかしながら、得られた油脂食品は固く、口溶けのよいものではなかった。
【特許文献1】特開昭57−206336号
【特許文献2】WO2005/041692
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、植物ステロール類が配合されている油脂食品であっても、適度な固さを有し、なめらかで口溶けのよい油脂食品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成すべく使用原料等、様々な諸条件について鋭意研究を重ねた結果、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を配合することにより、意外にも植物ステロール類が配合されている油脂食品であっても固くなることなく、なめらかで口溶けのよい油脂食品が得られることを見出し本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は
(1)植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体が配合されている油脂食品、
(2)前記複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比が、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部である(1)の油脂食品、
(3)前記複合体の配合量が、製品に対し0.01〜10%である(1)又は(2)の油脂食品、
である。
【0009】
なお、本出願人は、既に植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を出願している(WO2005/041692:特許文献2)。しかしながら、当該出願には、前記複合体を油脂食品に添加することはいっさい検討されていない。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、植物ステロール類が配合されている油脂食品であっても、適度な固さを有し、なめらかで口溶けのよい油脂食品を提供でき、植物ステロール類の食品への更なる用途拡大が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ意味する。
【0012】
本発明の油脂食品は、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体が配合されていることを特徴とし、これにより、油脂食品に植物ステロール類を配合した場合、固くなり、口溶けがよいものではないという課題を改善し、適度な固さを有し、なめらかで口溶けのよい油脂食品を得ることができる。本発明の油脂食品としては、水分含量が20%未満の精製した動植物油脂、硬化油、エステル交換油等の食用油脂を主原料とした食品であって、例えば、トーストスプレッド、ショートニング、ピーナツバター、チョコレート、マーガリン、バター等が挙げられる。また、食品の形状としては、室温で流動状のものでも固形状のものでも、含気してあるものでも特に限定はない。
【0013】
本発明に配合する植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体のうち、卵黄リポ蛋白質は、卵黄蛋白質と、親水部分及び疎水部分を有するリン脂質、並びにトリアシルグリセロール、コレステロール等の中性脂質とからなる複合体である。当該複合体は、蛋白質やリン脂質の親水部分を外側にし、疎水部分を内側にして、中性脂質を包んだ構造をしている。卵黄リポ蛋白質は、卵黄の主成分であって、卵黄固形分中の約80%を占める。したがって、本発明の卵黄リポ蛋白質としては、当該成分を主成分とした卵黄を用いるとよく、食用として一般的に用いている卵黄であれば特に限定するものではない。例えば、鶏卵を割卵し卵白液と分離して得られた生卵黄をはじめ、当該生卵黄に殺菌処理、冷凍処理、スプレードライ又はフリーズドライ等の乾燥処理、ホスフォリパーゼA、ホスフォリパーゼA、ホスフォリパーゼC、ホスフォリパーゼD又はプロテアーゼ等による酵素処理、酵母又はグルコースオキシダーゼ等による脱糖処理、超臨界二酸化炭素処理等の脱コレステロール処理、食塩又は糖類等の混合処理等の1種又は2種以上の処理を施したもの等が挙げられる。また、本発明では、鶏卵を割卵して得られる全卵、あるいは卵黄と卵白とを任意の割合で混合したもの、あるいはこれらに上記処理を施したもの等を用いてもよい。
【0014】
一方、本発明の植物ステロール類とは、コレステロール又は当該飽和型であるコレスタノールに類似した構造をもつ植物の脂溶性画分より得られる植物ステロール又は植物スタノール、あるいはこれらの構成成分のことであり、植物ステロール類は、植物の脂溶性画分に合計で数%存在する。また、市販の植物ステロール又は植物スタノールは、融点が約140℃前後で、常温で固体であり、これらの主な構成成分としては、例えば、β−シトステロール、β−シトスタノール、スチグマステロール、スチグマスタノール、カンペステロール、カンペスタノール、ブラシカステロール、ブラシカスタノール等が挙げられる。また、植物スタノールについては、天然物の他、植物ステロールを水素添加により飽和させたものも使用することができる。
【0015】
本発明に用いる植物ステロール類は、市販されている粉体あるいはフレーク状のものを用いることができるが、平均粒子径が50μm以下、特に10μm以下の粉体を使用することが好ましい。平均粒子径が50μmを超える粉体あるいはフレーク状の植物ステロール類を用いる場合には、卵黄と攪拌混合して複合体を製造する際に、均質機(T.K.マイコロイダー:プライミクス(株)製)等を用いて植物ステロール類の粒子を小さくしつつ攪拌混合を行うことが好ましい。これにより、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体が形成され易くなり、当該複合体を油脂食品に配合したとき、ざらつき感が生じ難い口当たりの良いものが得られる。
【0016】
本発明の油脂食品に配合する植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体は、上述した植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質を主成分とする卵黄とを、好ましくは10μm以下の粉体状の植物ステロール類と卵黄を水系中で攪拌混合することにより得られる。具体的には、工業的規模での攪拌混合し易さを考慮し、卵黄リポ蛋白質として、卵黄を水系媒体で適宜希釈した卵黄希釈液を使用し、当該卵黄希釈液と植物ステロール類とを攪拌混合して製造することが好ましい。前記水系媒体としては、水分が90%以上のものが好ましく、代表的には、清水等が挙げられる。また、前記卵黄希釈液の濃度としては、その後、添加する植物ステロール類の配合量にもよるが、卵黄固形分として0.01〜50%の濃度が好ましく、攪拌混合時の温度は、常温(20℃)でもよいが、45〜55℃に加温しておくと複合体と攪拌混合し易く好ましい。攪拌混合は、例えば、ホモミキサー、コロイドミル、高圧ホモゲナイザー、T.K.マイコロイダー(プライミクス(株)製)等の均質機を用いて、全体が均一になるまで行うとよい。また、上述の方法で得られたものは、複合体が水系媒体に分散したものであるが、本発明が油脂食品であることから、噴霧乾燥、凍結乾燥等の乾燥処理を施した乾燥複合体を用いることが好ましい。また、本発明の効果を損なわない範囲で、複合体に他の原料を配合してもよい。
【0017】
本発明で用いる複合体は、当該原料である植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比が、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部であることが好ましく、当該構成比は、卵黄固形分中に卵黄リポ蛋白質は約8割存在するから、卵黄固形分1部に対して植物ステロール類4〜185部に相当する。後述に示すとおり複合体は、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類が前記範囲で形成していることから、植物ステロールが前記範囲より少ないと複合体を形成できなかった卵黄リポ蛋白質が残存して食品の風味が卵黄風味により損なわれる場合があり、一方、前記範囲より多いと植物ステロール類が水分散性を有した複合体を形成し難くなり、複合体の親水性が低下するためか、本発明の効果である適度な固さを有し、なめらかで口溶けのよい油脂食品が得られ難くなり好ましくない。
【0018】
本発明は、複合体が油脂食品全体に均一に配合されていれば特に限定するものではないが、例えば、乾燥複合体を予め食用油脂に添加した後、油脂食品に用いる方法、あるいは、製造工程中の油脂食品に添加混合する方法等が挙げられる。前記食用油脂としては、食品に供される油脂であればいずれのものでも特に限定するものではなく、例えば、菜種油、コーン油、綿実油、サフラワー油、オリーブ油、紅花油、大豆油、パーム油、魚油、卵黄油等動植物油又はこれらの精製油(サラダ油)、MCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド、硬化油、エステル交換油脂等のような化学的あるいは酵素処理等を旋して得られる油脂、または各種スパイスオイル等が挙げられる。
【0019】
また、油脂食品への複合体の配合量は、植物ステロールの1日の摂取量が1g以上であれば血中のコレステロール濃度が低下することや油脂食品の1食分の摂取量等を考慮して決定すればよいが、あまり多すぎても血中のコレステロール濃度を低下させる効果がそれに比例して増大するわけではなく、油脂食品の美味しさが損なわれることから、製品に対し好ましくは0.01〜10%、より好ましくは0.1〜5%配合するとよい。
【0020】
本発明の油脂食品は、本発明の効果を損なわない範囲で食材、調味料及び添加剤等の各種原料を適宜選択し配合することができる。例えば、アーモンド、クルミ、ゴマ等の種実類、パセリ、ほうれん草、ピーマン等の野菜類、バジル、オレガノ、ローズマリー等の香草類、卵黄、ホスフォリパーゼA処理卵黄、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、リゾレシチン、オクテニルコハク酸処理澱粉等の乳化材、異性化液糖、果糖、ブドウ糖、麦芽糖、水飴、蜂蜜、乳糖、シロップ、オリゴ糖、糖アルコール、デキストリン、サイクロデキストリン、スクラロース、ステビア、アスパルテーム等の甘味料あるいは糖類、無機鉄、ヘム鉄、カルシウム、カリウム、マグネシウム、亜鉛、銅、セレン、マンガン、コバルト、ヨウ素等のミネラル類、アスコルビン酸又はその塩、ビタミンE等の酸化防止剤、難消化性デキストリン、結晶セルロース、アップルファイバー等の食物繊維、フルーツフレーバー、バニラフレーバー等の香料、着色料、等が挙げられる。
【0021】
次に、本発明の油脂食品の代表的な製造方法について説明するが、上述した植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体が油脂食品全体に均一に配合されていれば特に限定するものではない。例えば、二重釜に複合体、食用油脂及び必要に応じて配合するその他の具材を投入し、加熱しながら全体を撹拌混合し均一とする。次いで冷媒で冷却し、可撓性チューブ等の容器に充填する方法が挙げられる。
【0022】
以下、本発明で用いる植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体及びこれを用いた油脂食品について実施例等に基づき具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定するものではない。
【実施例】
【0023】
[調製例1]複合体の構成成分の解析及び複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比
まず、卵黄液5g(卵黄固形分2.5g、卵黄固形分中の卵黄リポ蛋白質約2g)に清水95gを加え、攪拌機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpmで1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した。次に5000rpmで攪拌しながら植物ステロール(遊離体97.8%、エステル体2.2%、平均粒子径約3μm)2.5gを添加し、さらに10000rpmで5分間攪拌し、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質とから形成された複合体の分散液を得た(調製例1−1)。
【0024】
得られた分散液1gを取り、0.9%食塩水4gを加え、真空乾燥機(東京理科器械社製、VOS−450D)で真空度を10mmHgにして1分間脱気し、遠心分離器(国産遠心分離器社製、モデルH−108ND)で3000rpmで15分間遠心分離を行い、沈澱と上澄みとを分離した。この上澄みを0.45μmのフィルターで濾過し、さらに0.2μmのフィルターで濾過し、複合体と、複合体を形成していない植物ステロールとを除去した。
【0025】
この濾液の吸光度(O.D.)を、分光光度計(日立製作所製、U−2010)を用いて、0.9%食塩水を対照とし、280nm(蛋白質中の芳香環をもつアミノ酸の吸収)で測定し、濾液中の蛋白質の量を測定した。
【0026】
植物ステロールの添加量を表1のように変え、同様に吸光度を測定した(調製例1−2〜調製例1−8)。この結果を表1に示す。
【0027】
また、調製例1−1の濾液と、調製例1−6の濾液については、更に440nmの吸光度を測定した。ここで、440nmは、卵黄リポ蛋白質中に含まれる油溶性の色素(カロチン)の吸収波長である。この結果を表2に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部以下であると、表1より、植物ステロールの割合が増えるに伴い、濾液中の蛋白質あるいはアミノ酸の含量の指標となる280nmの吸光度が小さくなっており、蛋白質あるいはアミノ酸の含量が減少することが分かる。また、表2より、濾液中の油脂含量の指標となる440nmの吸光度において、調製例1−1の濾液は調製例1−6に比べ吸光度が優位に高く、油脂含量が明らかに多いことが分かる。一方、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部以上であると、表1より、濾液中の蛋白質あるいはアミノ酸の含量の指標となる280nmの吸光度は略一定を示し、表2より、濾液中の油脂含量の指標となる440nmの吸光度において、調製例1−6の濾液は調製例1−1に比べ吸光度が優位に低く、油脂含量が明らかに少ないことが分かる。
【0031】
以上の結果より、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部以上であるものの分散液には、複合体以外に、卵黄リポ蛋白質でない遊離の蛋白質あるいはアミノ酸が存在し、一方、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部より少ないものの分散液には、前記遊離の蛋白質あるいはアミノ酸に加え、複合体を形成しなかった卵黄リポ蛋白質が存在しているものと推定される。したがって、卵黄リポ蛋白質1部を余すことなく複合体の形成に使用するためには、植物ステロール類が5部以上必要であることが分かる。
【0032】
[調製例2]複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比
鶏卵を工業的に割卵して得られた卵黄液(固形分45%)と清水の量と植物ステロールの量を表3の通りに変更して、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液を調製し、この分散液の分散性から、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との好ましい構成比を検討した。
【0033】
すなわち、鶏卵を割卵して取り出した卵黄液(固形分45%)に清水を加え、攪拌機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpm、1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した後、45℃に加温し、次に5000rpmで攪拌しながら植物ステロール(調製例1と同じもの)を除々に添加し、添加し終えたところで、さらに10000rpmで攪拌して植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液を得た。
【0034】
また、分散液の分散性に関しては、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液0.5gを試験管(内径1.6cm、高さ17.5cm)にとり、0.9%食塩水10mLで希釈し、試験管ミキサー(IWAKI GLASS MODEL−TM−151)で10秒間撹拌することにより振盪し、その後1時間室温で静置し、さらに真空乾燥機(東京理化器械社製、VOS−450D)に入れ、真空度を10mmHg以下にして室温(20℃)で脱気を行い、脱気後に浮上物が見られない場合を○、浮上物が見られた場合を×と判定した。これらの結果を表3に示す。
【0035】
なお、植物ステロールを加熱溶解し、冷却し、比重の異なるエタノール液に浸けて浮き沈みによりその比重を求めたところ、0.98であったことから、上述の分散性の試験での浮上物は植物ステロールであると考えられる。
【0036】
【表3】

【0037】
表3より、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが232部以下であると、複合体に良好な水分散性を付与できることが分かる。
【0038】
調製例1及び調製例2の結果より、複合体が良好な水分散性を有し、しかも卵黄リポ蛋白質1部を余すことなく複合体の形成に使用するためには、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部の範囲であることが分かる。
【0039】
[調製例3]
清水17.5kgに殺菌卵黄(固形分45%、キユーピー(株)製)0.5kgを加え、攪拌機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpm、1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した後、50℃に加温し、次に5000rpmで攪拌及び真空度350mmHgで脱気しながら植物ステロール(調製例1と同じもの)2kgを除々に添加し、添加し終えたところで、さらに同回転数で30分間攪拌して植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液を得た。得られた複合体の分散液を噴霧乾燥機を用いて、送風温度170℃、排風温度70〜75℃の条件で乾燥し、複合体を得た。なお、得られた乾燥状の複合体の構成比は、卵黄固形分1部に対し植物ステロール8.9部であり、卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロール11.1である。
【0040】
[調製例4]
清水17.5kgに殺菌卵黄(固形分45%、キユーピー(株)製)0.5kgを加え、攪拌機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpm、1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した後、50℃に加温し、次に5000rpmで攪拌及び真空度350mmHgで脱気しながら植物ステロール(調製例1と同じもの)0.45kgを除々に添加し、添加し終えたところで、さらに同回転数で30分間攪拌して植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液を得た。得られた複合体の分散液を噴霧乾燥機を用いて、送風温度170℃、排風温度70〜75℃の条件で乾燥し、複合体を得た。なお、得られた乾燥状の複合体の構成比は、卵黄固形分1部に対し植物ステロール2部であり、卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロール2.5部である。
【0041】
[調製例5]
清水17.5kgに殺菌卵黄(固形分45%、キユーピー(株)製)0.02kgを加え、攪拌機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpm、1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した後、50℃に加温し、次に5000rpmで攪拌及び真空度350mmHgで脱気しながら植物ステロール(調製例1と同じもの)2.7kgを除々に添加し、添加し終えたところで、さらに同回転数で30分間攪拌して植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液を得た。得られた複合体の分散液を噴霧乾燥機を用いて、送風温度170℃、排風温度70〜75℃の条件で乾燥し、複合体を得た。なお、得られた乾燥状の複合体の構成比は、卵黄固形分1部に対し植物ステロール300部であり、卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロール375部である。
【0042】
[実施例1]
下記の配合のピーナツホイップクリームを製した。つまり、調製例3で得られた複合体、菜種油、ピーナツペースト、砂糖、乳糖、卵カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、大豆レシチンを二重釜に投入し、90度に達温後さらに10分間撹拌する。次いで脱気し、冷却水で40℃以下に冷却した後、加圧しながら窒素ガスを含気させ、可撓性チューブに充填し、25℃で24時間保管しピーナツホイップクリームを製した。
【0043】
<配合割合>
ピーナツペースト 50kg
砂糖 13kg
乳糖 10kg
卵カルシウム 1kg
ショ糖脂肪酸エステル(HLB16) 0.5kg
大豆レシチン 0.5kg
複合体(調製例3) 1kg
菜種油 残余
――――――――――――――――――――――――――
合計 101kg

【0044】
[実施例2]
実施例1のピーナツホイップクリームで使用した調製例3の複合体に換えて、調製例4の複合体を用いた以外は実施例1と同様の方法でピーナツホイップクリームを製した。なお、複合体中の植物ステロールの配合量を実施例1と合わせるため、調製例4の複合体を1.35kg配合した。
【0045】
[実施例3]
実施例1のピーナツホイップクリームで使用した調製例3の複合体に換えて調製例5の複合体を配合した以外は実施例1と同様の方法でピーナツホイップクリームを製した。なお、複合体中の植物ステロールの配合量を実施例1と合わせるため、調製例5の複合体を0.92kg配合した。
【0046】
[比較例1]
実施例1のピーナツホイップクリームにおいて、複合体1kgに換えて複合体の原料である植物ステロール(調製例1と同じもの)を配合した以外は同様の方法でピーナツホイップクリームを製した。なお、植物ステロールの配合量を実施例1と合わせるため、植物ステロールを0.92kg配合した。
【0047】
[試験例1]
実施例1、2及び3、並びに比較例1で得られたピーナツホイップクリームを皿に搾り出し、固さの違い及び食した時の口溶けについて評価を行った。
【0048】
【表4】

【0049】
表4より、複合体の原料である植物ステロールを配合した比較例1のピーナツホイップクリームは、固くなり口溶けがよいものではなかったのに対し、本発明の複合体を配合したものは固さ及び口溶けが改善されていることが理解される。特に、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類が232部以下である実施例1及び実施例2のピーナツホイップクリームは、適度な固さを有し、なめらかで大変口溶けのよいものであった。なお、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類が5部より少ないものを用いた実施例2のピーナツホイップクリームは、やや卵黄の風味が強いように感じられた。また、水分含量をカールフィッシャー法で測定したところいずれのピーナツホイップクリームも数%であった。ここでは示していないが、複合体の原料である植物ステロールを植物スタノールに変更した場合も同様な結果となった。
【0050】
[実施例4]
下記の配合のガーリックトースト用スプレッドを製した。つまり、調製例3で得られた複合体、菜種油、ショ糖脂肪酸エステル、ガーリックオイル、粉糖、粉塩、ガーリックパウダー、乾燥パセリ、バターフレーバーを撹拌機付き二重釜に投入し加熱混合し、80℃に達温後さらに10分間攪拌した後冷却し、蓋付可撓性チューブに充填し、シール後25℃で24時間保管し製造した。得られたガーリックトースト用スプレッドは適度な固さを有し、なめらかで口溶けのよいものであった。なお、水分含量をカールフィッシャー法で測定したところ数%であった。
【0051】
<配合割合>
菜種油 90kg
ショ糖脂肪酸エステル(HLB16) 2kg
ガーリックオイル
1kg
粉糖 1kg
粉塩 1kg
ガーリックパウダー
1kg
乾燥パセリ 0.5kg
バターフレーバー 1kg
複合体(調製例3) 5kg
――――――――――――――――――――――――――
102.5kg

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体が配合されていることを特徴とする油脂食品。
【請求項2】
前記複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比が、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部である請求項1に記載の油脂食品。
【請求項3】
前記複合体の配合量が、製品に対し0.01〜10%である請求項1又は2に記載の油脂食品。

【公開番号】特開2007−259765(P2007−259765A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−89787(P2006−89787)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】