説明

治療支援装置及び制御プログラム

【課題】てんかん焦点を有した疾患部の治療に好適な施術法の提案
【解決手段】治療支援装置100は、患者の頭部領域において予め収集されたボリュームデータに基づいて脳画像データを生成する脳画像データ生成部14と、少なくとも前記脳画像データと前記頭部領域において予め計測されたてんかん焦点の位置情報と予め収集あるいは作成された標準的な脳機能マップデータとに基づいて術式選択用データを生成するデータ合成部17と、前記術式選択用データを用いて前記てんかん焦点を有する疾患部の治療に好適な施術法を選択する術式選択部18と、この選択情報に基づいて施術法提案コメントを作成する提案コメント作成部19と、前記施術法提案コメントを表示する表示部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、てんかん焦点等の疾患部に対する治療の支援を目的とした治療支援装置及び制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
医用画像診断は、近年のコンピュータ技術の発展に伴って実用化されたX線CT装置やMRI装置等によって急速な進歩を遂げ、今日の医療において必要不可欠なものとなっている。特に、X線CT装置やMRI装置では、生体情報の検出ユニットや演算処理ユニットの高速化及び高性能化により画像データのリアルタイム表示が可能となり、更に、3次元的な画像情報(ボリュームデータ)の収集やこのボリュームデータを用いた3次元画像データの生成/表示が容易となったため、疾患部の検出のみならずこの疾患部に対する治療方針の決定等に有効な医療情報の提供が可能となった。
【0003】
そして、MRI装置等の医用画像診断装置は、頭部領域に発生するてんかんの診断や治療においても使用されている。てんかんの診断は、通常、上述の医用画像診断装置によって収集された頭部領域の画像情報の他に脳波計測装置や生体光計測装置等を用いて前記頭部領域から計測された脳波形や生体透過光に基づいて行なわれ、薬物治療の効果が低いてんかんに対しては開頭による外科的治療が行なわれる。この場合、患者の頭部表面にて計測されたてんかん焦点の位置情報は外科的治療の術式決定において極めて重要な医療情報となっている。
【0004】
即ち、てんかん焦点が脳表面に存在する言語野、運動野、感覚野のように切除により重度の障害が発生する領域(切除不可能領域)に存在している場合には専用の術具を用いたMST法(軟膜下皮質多切術法)が選択される。又、てんかん焦点が腫瘍領域、あるいは、重度の障害を残さずに安全に切除することが可能な領域(切除可能領域)に存在している場合には切除法が選択され、てんかん焦点位置の特定が不可能な場合には脳梁離断法が選択される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−205493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、従来の外科的なてんかん治療における術式の選択は、脳波形や生体透過光に基づくてんかん焦点の位置情報と医用画像診断装置によって収集された脳画像データに基づいて行なわれてきたが、これらの医療情報や関連した他の医療情報を総合的に用いててんかん治療に対する術式の選択や施術を支援する治療支援装置は存在しなかった。
【0007】
特に、脳画像データを用いててんかん焦点の位置を判定する場合、脳画像データにおける切除可能領域と切除不可能領域の判定は困難であったため、当該疾患部の治療に好適な術式(施術法)を正確に選択することができない場合があった。又、MST法を適用して疾患部に対する施術を行なう場合、脳表面近傍を走行する脳血管を損傷させることなく術具の刺入や術具による施術(遮断手術)を行なわなくてはならないが、脳血管の走行方向と刺入位置あるいは施術位置との関係を正確に把握することが不可能であったため、てんかん焦点あるいはその周辺の疾患部に対して安全な施術を行なうことができないという問題点を有していた。
【0008】
本開示は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、患者の頭部にて計測された疾患部の位置情報と予め収集された標準脳の領域情報とに基づいて前記疾患部に好適な施術法の提案や施術支援データの表示を可能とする治療支援装置及び制御プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本実施形態の治療支援装置は、患者の頭部領域において予め収集されたボリュームデータに基づいて脳画像データを生成する脳画像データ生成手段と、少なくとも前記脳画像データと前記頭部領域において予め計測されたてんかん焦点の位置情報と予め収集あるいは作成された標準的な脳機能マップデータとに基づいて術式選択用データを生成するデータ合成手段と、前記術式選択用データを用いて前記てんかん焦点を有する疾患部の治療に好適な施術法を選択する術式選択手段と、この選択情報に基づいて施術法提案コメントを作成する提案コメント作成手段と、前記施術法提案コメントを表示する表示手段とを備えたことを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態における治療支援装置の全体構成を示すブロック図。
【図2】本実施形態の治療支援装置が備える脳画像データ生成部の具体的な構成を示すブロック図。
【図3】本実施形態の治療支援装置が備える刺入/施術候補位置設定部の具体的な構成を示すブロック図。
【図4】本実施形態においててんかん焦点が切除不可能領域に存在する場合に生成される第1の術式選択用データの具体例を示す図。
【図5】本実施形態においててんかん焦点が切除可能領域に存在する場合に生成される第2の術式選択用データの具体例を示す図。
【図6】本実施形態において生成される第1の施術支援データの具体例を示す図。
【図7】本実施形態において生成される第2の施術支援データの具体例を示す図。
【図8】本実施形態における施術法提案コメントの作成手順を示すフローチャート。
【図9】本実施形態における治療支援データの生成/表示手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本開示の実施形態を説明する。
【0012】
本実施形態の治療支援装置は、患者の頭部領域に対するMRI撮影によって予め収集された造影剤未投与時のボリュームデータに基づいて生成した脳画像データに標準的な脳機能マップデータ(第1の脳機能マップデータ)、予め計測された前記頭部領域におけるてんかん焦点の位置情報及び前記脳画像データから抽出された腫瘍領域の位置情報を重畳することによって術式選択用データを生成し、この術式選択用データに基づいて当該疾患部の治療に好適な施術法提案コメントを作成する。
【0013】
又、上述の脳画像データに前記てんかん焦点位置の位置情報、造影剤投与時及び造影剤未投与時のボリュームデータに基づいて生成した脳血管データを重畳し、更に、脳溝や脳回領域の位置情報、術具の刺入を禁止すべき刺入禁止脳溝の位置情報、推奨すべき術具の刺入候補位置や術具による施術候補位置の位置情報を付加することにより当該疾患部の治療に有効な施術支援データを生成する。
【0014】
尚、以下に述べる実施形態では、患者頭部の大脳皮質に存在するてんかん焦点に起因して発生したてんかんを治療する場合について述べるが、てんかん焦点の位置は大脳皮質に限定されない。又、MRI(磁気共鳴イメージング)装置によって収集された画像情報に基づいて脳画像データや脳血管データを生成する場合について述べるが、X線CT装置等の他の医用画像診断装置によって収集された画像情報に基づいて上述の脳画像データや脳血管データを生成しても構わない。
【0015】
(装置の構成)
以下、本実施形態における治療支援装置の全体構成につき図1のブロック図を用いて説明する。
【0016】
図1に示す本実施形態の治療支援装置100は、当該患者の頭部領域にて予め計測されたてんかん焦点の位置情報を保存するてんかん焦点位置情報記憶部11と、別途設置されたMRI装置によって収集された造影剤投与前(造影剤未投与時)及び造影剤投与直後(造影剤投与時)における当該頭部領域のボリュームデータ(3次元画像情報)を保存するボリュームデータ記憶部12と、造影剤未投与時及び造影剤投与時に収集された上述のボリュームデータに基づいて頭蓋内における3次元の脳血管データを生成する脳血管データ生成部13と、造影剤未投与時に収集された頭部領域のボリュームデータに基づいて3次元の脳画像データを生成する脳画像データ生成部14と、この脳画像データのボクセル値に対して所定の閾値を設定することにより腫瘍領域を抽出する腫瘍領域抽出部15と、予め収集あるいは作成された標準的な3次元の脳機能マップデータを保管する脳機能マップデータ保管部16を備えている。
【0017】
又、治療支援装置100は、施術法提案コメント作成モードにおいて脳画像データ生成部14から供給される脳画像データに脳機能マップデータ保管部16から読み出した第1の脳機能マップデータ、てんかん焦点位置情報記憶部11から読み出したてんかん焦点の位置情報及び腫瘍領域抽出部15から供給された腫瘍の位置情報等を重畳することにより術式選択用データを生成し、更に、施術支援データ生成/表示モードにおいて脳画像データ生成部14から供給される脳画像データに脳血管データ生成部13から供給される脳血管データ、後述の脳溝検出部31から供給される脳溝の位置情報、脳回領域形成部32から供給される脳回領域の位置情報、刺入禁止脳溝設定部33から供給される刺入禁止脳溝の位置情報、刺入/施術候補位置設定部34から供給される術具の刺入候補位置や術具による施術候補位置の位置情報を付加することにより施術支援データを生成するデータ合成部17と、施術法提案コメント作成モードにおいてデータ合成部17から供給される術式選択用データに基づいて当該疾患に好適な術式を選択する術式選択部18と、この選択結果に基づいて施術法提案コメントを作成する提案コメント作成部19と、術式選択部18から供給される術式の選択結果に基づき、施術支援データに示された腫瘍領域やてんかん焦点を囲む切除領域を設定する切除領域設定部20と、上述の施術法提案コメントあるいはこの施術法提案コメントが付加された術式選択用データや脳画像データに脳血管データ、脳溝、脳回領域、刺入禁止脳溝、刺入候補位置や施術候補位置を付加することにより生成された施術支援データを表示する表示部21を備えている。
【0018】
更に、治療支援装置100は、脳画像データ生成部14から供給される脳画像データを閾値処理することにより脳溝を検出する脳溝検出部31と、複数の脳回及び脳溝が示された脳画像データの脳表面を脳機能マップデータ保管部16から読み出した第2の脳機能マップデータに基づいて分割処理することにより複数の領域(以下では、脳回領域と呼ぶ。)を形成する脳回領域形成部32と、施術支援データ生成/表示モードにおいてデータ合成部17が生成した施術支援データに示されている脳溝の位置情報と脳血管データの位置情報とに基づいて術具(フック)の刺入が望ましくない脳溝(刺入禁止脳溝)を設定する刺入禁止脳溝設定部33と、てんかん焦点が存在する脳回領域あるいはその周辺の脳回領域に対して推奨すべき術具の刺入候補位置及びこの術具による施術(遮断手術)の候補位置を設定する刺入/施術候補位置設定部34と、施術法提案コメント作成モード及び施術支援データ生成/表示モードの選択や施術脳回領域選択指示信号をはじめとする各種指示信号の入力を行なう入力部41と、治療支援装置100が備える上述の各ユニットを統括的に制御するシステム制御部42を備えている。
【0019】
次に、治療支援装置100が備える上述の各ユニットの構成と機能につき図2乃至図7を用いて更に詳しく説明する。
【0020】
治療支援装置100が備えるてんかん焦点位置情報記憶部11には、別途設置された脳波計測装置を用いて予め計測されネットワークあるいは記憶媒体を介して供給された当該患者の頭部領域におけるてんかん焦点の位置情報が保存されている。但し、てんかん焦点の位置情報とボリュームデータは略同時に収集され、従って、てんかん焦点の位置情報は、脳画像データ生成部14が生成する脳画像データの位置情報に対応させて計測することが可能である。
【0021】
一方、ボリュームデータ記憶部12は、図示しない第1のデータ記憶部と第2のデータ記憶部を備え、第1のデータ記憶部には、造影剤未投与時の頭部領域に対するT1強調あるいはT2強調のMRI撮影によって収集されたボリュームデータが保存され、第2のデータ記憶部には、造影剤投与時の前記頭部領域に対する同様のMRI撮影によって収集されたボリュームデータが保存されている。
【0022】
脳血管データ生成部13は、図示しないサブトラクション処理部を有し、上述のボリュームデータ記憶部12が備える第1のデータ記憶部から読み出したボリュームデータと第2のデータ記憶部から読み出したボリュームデータとのサブトラクション(減算)処理により造影剤が注入されている脳血管を抽出する。次いで、入力部41からシステム制御部42を介して供給される視点及び視線方向の設定情報に基づいて上述の脳血管情報を処理することにより3次元の脳血管データを生成する。
【0023】
一方、脳画像データ生成部14は、ボリュームデータ記憶部12が備える第1のデータ記憶部から読み出した造影剤未投与時における頭部領域のボリュームデータを上述の視点及び視線方向の設定情報に基づいてレンダリング処理することにより3次元の脳画像データを生成する機能を有し、図2に示すようなボリュームデータ補正部141、不透明度・色調設定部142、レンダリング処理部143及び画像データ記憶部144を備えている。
【0024】
ボリュームデータ補正部141は、前記第1のデータ記憶部から読み出したボリュームデータのボクセル値を入力部41において設定された視線方向のベクトルと脳表面の法線ベクトルとの内積値に基づいて補正し、不透明度・色調設定部142は、補正されたボクセル値に基づいて不透明度や色調を設定する。次いで、レンダリング処理部143は、不透明度・色調設定部142によって設定された不透明度や色調に基づいて上述のボリュームデータをレンダリング処理し3次元の脳画像データを生成する、そして、得られた脳画像データは、画像データ記憶部144に保存される。
【0025】
図1へ戻って、腫瘍領域抽出部15は、脳画像データ生成部14の画像データ記憶部144から読み出した脳画像データのボクセル値に所定の閾値を設定することにより正常な脳組織領域に隣接して存在する腫瘍領域を抽出する。この場合、T1強調のMRI撮影に基づいた脳画像データにおける腫瘍領域は正常な脳組織領域より低信号となり、T2強調のMRI撮影に基づいた脳画像データにおける腫瘍領域は高信号となるため、腫瘍領域の検出に好適な閾値は、適用されるMRI撮影方法に基づいて予め設定される。
【0026】
脳機能マップデータ保管部16は、図示しない第1のマップデータ保管部と第2のマップデータ保管部を備えている。そして、第1のマップデータ保管部には、予め収集あるいは作成された、例えば、ブロードマンの脳地図のように脳表面が運動野や各種の感覚野(知覚野、視覚野、味覚野、臭覚野等)によって分割された標準的な第1の脳機能マップデータが保存されている。一方、第2のマップデータ保管部には、脳表面に存在する複数の脳回の中から隣接する脳回を連結することにより形成された標準的な脳回領域が示されている第2の脳機能マップデータが保存されている。
【0027】
次に、データ合成部17は、図示しない位置ズレ補正部と合成処理部を備え、位置ズレ補正部は、脳画像データ生成部14によって生成された脳画像データと脳機能マップデータ保管部16から読み出した標準的な第1の脳機能マップデータとの位置ズレを補正する機能を有している。具体的には、公知の技術である3D−SSP(stereotactic surface projection)法やSPM(statistical parametric mapping)法等を用いて第1の脳機能マップデータの位置や大きさ、更には、方向等を補正することにより脳画像データとの位置合わせを行なう。
【0028】
一方、合成処理部は、施術法提案コメント作成モードにおいて脳画像データ生成部14が生成した脳画像データに脳機能マップデータ保管部16の第1のマップデータ保管部から読み出され上述の位置ズレ補正部において位置ズレ補正された第1の脳機能マップデータ、てんかん焦点位置情報記憶部11から読み出されたてんかん焦点の位置情報及び腫瘍領域抽出部15において抽出された腫瘍領域の位置情報等を重畳して術式選択用データを生成する。
【0029】
更に、合成処理部は、施術支援データ生成/表示モードにおいて脳画像データ生成部14の画像データ記憶部144から読み出された脳画像データにてんかん焦点位置情報記憶部11から読み出されたてんかん焦点の位置情報及び脳血管データ生成部13において生成された脳血管データを重畳し、更に、脳溝検出部31において検出された脳溝の位置情報、脳回領域形成部32において形成された脳回領域の位置情報、刺入禁止脳溝設定部33において設定された刺入禁止脳溝の位置情報、刺入/施術候補位置設定部34において設定された刺入候補位置や施術候補位置の位置情報を付加することにより施術支援データを生成する。
【0030】
尚、上述のデータ合成部17が施術法提案コメント作成モードにおいて生成する術式選択用画像データ及び施術支援データ生成/表示モードにおいて生成する施術支援データの具体例については後述する。
【0031】
次に、術式選択部18は、施術法提案コメント作成モードにおいてデータ合成部17から供給される上述の術式選択用データを受信し、この術式選択用データに示されているてんかん焦点の位置情報とてんかん焦点が配置されている第1の脳機能マップデータの領域情報とに基づいて当該疾患に好適な術式(施術法)を選択する。
【0032】
この場合、例えば、てんかん焦点が言語野、運動野、感覚野のように切除により重度の障害が発生する領域(切除不可能領域)に存在している場合にはMST法(軟膜下皮質多切術法)が選択される。又、てんかん焦点が腫瘍領域抽出部15によって抽出された腫瘍領域に存在している場合、あるいは、重度の障害を残さずに安全に切除することが可能な領域(切除可能領域)に存在している場合には切除法が選択され、てんかん焦点位置の特定が不可能な場合には脳梁離断法が選択される。
【0033】
提案コメント作成部19は、術式選択部18による術式の選択結果に基づき、当該患者の治療に好適な術式を提案するための文言(施術法提案コメント)を作成する。一方、切除領域設定部20は、図示しない位置情報検出部と領域設定部を備えている。そして、術式選択部18によって選択された術式が切除法の場合、上述の位置情報検出部は、術式選択用データの脳画像データに重畳して示されているてんかん焦点や腫瘍領域の位置及び形状を検出し、領域設定部は、検出されたてんかん焦点や腫瘍領域に基づいて切除領域を設定する。例えば、領域設定部は、位置情報検出部によって検出されたてんかん焦点や腫瘍領域に対して3次元モルフォロジー演算を適用することによりこれらの疾患部を囲む領域を設定し、更に、この領域の輪郭情報に対してsnakes処理等の平滑化処理を行ない上述の切除領域を設定する。
【0034】
表示部21は、例えば、図示しない変換処理部とモニタを備え、施術法提案コメント作成モードにおいて提案コメント作成部19が作成した各種の施術法提案コメントや施術支援データ生成/表示モードにおいてデータ合成部17が生成した施術支援データを表示する機能を有している。又、施術法提案コメント作成モードにおいて生成された術式選択用データも必要に応じて表示することが可能である。即ち、上述の変換処理部は、データ合成部17によって生成された施術支援データ及び術式選択用データや提案コメント作成部19によって作成された施術法提案コメントに対しD/A変換やテレビフォーマット変換等の変換処理を行なって前記モニタに表示する。
【0035】
尚、施術支援データ生成/表示モードの施術支援データに示されているてんかん焦点近傍の脳血管データや刺入禁止脳溝設定部33によって設定される後述の刺入禁止脳溝は施術における脳血管の損傷を防止するために強調表示される。
【0036】
次に、脳溝検出部31は、施術支援データ生成/表示モードにおいて脳画像データ生成部14の画像データ記憶部144から読み出した3次元の脳画像データに対して所定の閾値処理を行なうことにより脳表面に分布する複数の脳溝(大脳皮質に存在する「しわ」の陥没した部分)を検出する。例えば、廣岡らによって提案された方法(廣岡誠之, 上野育子, 亀田昌志, "医療支援のための脳腫瘍患者MR画像を用いた脳溝抽出", 信学技報, IE2007-258,pp.71-76, 2008.2. 参照)等により脳溝を正確に検出することができる。
【0037】
一方、脳回領域形成部32は、データ合成部17の位置ズレ補正部と同様の機能を有した図示しない位置ズレ補正部を有している。そして、施術支援データ生成/表示モードにおいて脳画像データ生成部14の画像データ記憶部144から読み出した脳画像データに対応させて脳機能マップデータ保管部16から読み出した第2の脳機能マップデータの位置、大きさ及び方向を補正することにより脳画像データに対する位置ズレを補正する。次いで、補正された第2の脳機能マップデータに基づいて多くの脳溝や脳回(脳溝間に存在する大脳皮質の隆起した部分)が示された脳画像データの脳表面を分割処理することにより複数の脳回領域を形成する。尚、脳回領域の具体的な形成方法についてはB. Fischl らの論文(B. Fischl et al: Automatically parcellating the human cerebral cortex, Cerebral Cortex, Vol. 14, No. 1, pp. 11-22,200)に記載されているため詳細な説明は省略する。
【0038】
刺入禁止脳溝設定部33は、施術支援データ生成/表示モードにおいてデータ合成部17が生成した施術支援データに示されている脳血管データと脳溝を抽出し、これらの位置情報に基づいて脳血管から所定距離以内にある脳溝を刺入禁止脳溝として設定する。
【0039】
次に、刺入/施術候補位置設定部34の具体的な構成につき図3のブロック図を用いて説明する。この刺入/施術候補位置設定部34は、てんかん焦点が存在する脳回領域やその周辺の脳回領域に対して当該治療に好適な術具の刺入候補位置やこの術具による遮断手術の位置(施術候補位置)を設定する機能有し、図3に示すように施術脳回領域選択部341、施術基準点設定部342、施術候補位置設定部343及び刺入候補位置設定部344を備えている。
【0040】
施術脳回領域選択部341は、入力部41からシステム制御部42を介して供給される脳回領域選択指示信号に基づき、脳回領域形成部32が脳画像データの脳表面に形成した複数からなる脳回領域の中から施術を実行する脳回領域(施術脳回領域)を選択する。具体的には、先ず、てんかん焦点が存在する脳回領域を最初の施術脳回領域として選択し、この施術脳回領域に対する施術の後に行なわれる脳波計測において良好な治療効果が認められない場合には上述の施術脳回領域に隣接した脳回領域を新たな施術脳回領域として選択する。一方、施術基準点設定部342は、1つあるいは複数のてんかん焦点の位置情報を検出し、例えば、これらの位置情報に基づいて算出したてんかん焦点群の中心を施術基準点として設定する。
【0041】
施術候補位置設定部343は、施術脳回領域選択部341によって選択された施術脳回領域の中心軸に垂直な複数の施術候補位置を、施術基準点設定部342によって設定された施術基準点を基準として5mm以下の間隔で設定する。この場合、上述の施術候補位置は、選択された施術脳回領域を構成する脳回の内部にて設定され、その端部は脳溝の近傍に配置される。
【0042】
一方、刺入候補位置設定部344は、上述の施術候補位置設定部343が設定した施術候補位置と脳溝検出部31が検出した脳溝との交点に術具の刺入を行なう複数の刺入候補位置を設定する。この場合、刺入候補位置は脳回の両端部に位置する2つの脳溝の何れか一方において設定され、前記2つの脳溝の何れかが刺入禁止脳溝設定部33により刺入禁止脳溝として設定された場合、他の脳溝に対して刺入候補位置が設定される。尚、脳回領域に対する施術候補位置及び刺入候補位置の具体的な設定方法については後述する。
【0043】
図1へ戻って入力部41は、図示しないキーボード、スイッチ、選択ボタン、マウス等の各種入力デバイスや表示パネルを備え、患者情報の入力、施術法提案コメント作成モード及び施術支援データ生成/表示モードの選択、腫瘍領域の抽出や脳溝の検出に用いる閾値の設定、ボリュームデータ及び機能マップデータに対する視点及び視線方向の設定、施術脳回領域選択指示信号をはじめとする各種指示信号の入力等を行なう。
【0044】
システム制御部42は、図示しないCPUと記憶部を備え、記憶部には、入力部41において入力/選択/設定された各種情報が保存される。そして、CPUは、これらの情報に基づいて治療支援装置100の各ユニットを統括的に制御し、施術法提案コメント作成モードにおける術式選択用データの生成及び施術法提案コメントの作成や施術支援データ生成/表示モードにおける施術支援データの生成/表示を実行させる。
【0045】
次に、施術法提案コメント作成モードにおいてデータ合成部17が生成する術式選択用データの具体例につき図4及び図5を用いて説明する。
【0046】
図4は、前運動野R2、1次運動野R3、1次感覚野R4のように切除により重度の障害が発生する領域(切除不可能領域)にてんかん焦点が存在している場合に生成される第1の術式選択用データD1を示しており、図5は、障害を残さずに安全に切除することが可能な領域(切除可能領域)R1あるいは図示しない腫瘍領域にてんかん焦点が存在している場合に生成される第2の術式選択用データD2を示している。尚、ここでは、1次運動野R3や切除可能領域R1に3つのてんかん焦点が存在する場合について述べるが、てんかん焦点の数は3つに限定されない。
【0047】
即ち、図4に示した第1の術式選択用データD1では、脳画像データ生成部14によって生成された脳画像データIbに切除可能領域R1及びR5や前運動野R2、1次運動野R3、1次感覚野R4等の切除不可能領域が示された位置ズレ補正後の第1の脳機能マップデータIm1とてんかん焦点位置情報記憶部11から読み出されたてんかん焦点P11乃至P13の位置情報が重畳され、同様にして、図5に示した第2の術式選択用データD2では、上述の脳画像データIbに第1の脳機能マップデータIm1とてんかん焦点位置情報記憶部11から読み出されたてんかん焦点P21乃至P23の位置情報が重畳される。
【0048】
図4に示すように1次運動野R3等の切除不可能領域にてんかん焦点P11乃至P13が存在する第1の術式選択用データD1がデータ合成部17において生成された場合、「MST法による治療を推奨します。」等のMST法提案コメントが提案コメント作成部19において作成される。又、図5に示すように切除可能領域R1にてんかん焦点P21乃至P23が存在する第2の術式選択用データD2がデータ合成部17において生成された場合、「切除法による治療を推奨します。」等の切除法提案コメントが提案コメント作成部19において作成される。
【0049】
一方、別途設けられた脳波計測装置によるてんかん焦点の位置計測が不可能な場合には提案コメント作成部19において「脳梁離断法による治療を推奨します。」等の脳梁離断法提案コメントが作成される。
【0050】
そして、第1の術式選択用データあるいは第2の術式選択用データに基づいて作成された上述の施術法提案コメントを表示部21のモニタに表示することにより当該疾患に好適な施術法の提案が行なわれるが、このとき、これらの施術法提案コメントと共に第1の術式選択用データD1あるいは第2の術式選択用データD2を表示してもよい。施術法提案コメントと術式選択用データの重畳表示あるいは並列表示により、医療従事者は施術法提案コメントの妥当性を容易に確認することができる。
【0051】
次に、施術支援データ生成/表示モードにおいてデータ合成部17が生成する施術支援データの具体例につき図6及び図7を用いて説明する。
【0052】
図6は、脳画像データにてんかん焦点の位置情報、脳血管データ、脳溝や脳回領域の位置情報を重畳して生成された第1の施術支援データDx1を示しており、図7は、刺入禁止脳溝の位置情報、刺入候補位置及び施術候補位置の位置情報を上述の第1の施術支援データDx1に付加することによって生成された第2の施術支援データDx2を示している。
【0053】
即ち、図6に示した第1の施術支援データDx1は、脳画像データ生成部14の画像データ記憶部144から読み出された脳画像データIbにてんかん焦点位置情報記憶部11から読み出されたてんかん焦点Pa(Pa1乃至Pa3)の位置情報、脳血管データ生成部13において生成された脳血管データBv、脳溝検出部31によって検出された脳溝Fxの位置情報及び脳回領域形成部32によって形成された脳回領域Qxの位置情報を重畳することによって生成されている。尚、脳画像データIbには複数からなる脳回領域Qx(Qxa、Qxb、・・・・)の位置情報が重畳されるが、図6では、てんかん焦点Pa(Pa1乃至Pa3)が存在する脳回領域Qxaとこの脳回領域Qxaに隣接した脳回領域Qxbのみを示している。
【0054】
一方、図7に示した第2の施術支援データDx2は、脳画像データIbに脳血管データBv、脳溝Fx及び脳回領域Qxの位置情報を重畳することによって生成された上述の第1の施術支援データDx1に刺入禁止脳溝設定部33において設定された刺入禁止脳溝Fxoの位置情報、刺入/施術候補位置設定部34において設定された刺入候補位置や施術候補位置の位置情報を付加することにより生成されている。この場合、脳血管データBvから所定距離以内にある脳溝Fx(即ち、脳血管データBvに近接した脳溝Fx)が刺入禁止脳溝Fxoとして示される。
【0055】
即ち、施術脳回領域選択部341により最初の施術脳回領域として選択された脳回領域Qxaの内部には、図示しないてんかん焦点Pa1乃至Pa3の位置情報に基づいて施術基準点設定部342が設定した施術基準点Cxが示され、更に、施術候補位置設定部343が施術基準点Cxを基準として、例えば、5mm間隔で所定方向に設定した施術候補位置が示されている。又、上述の施術候補位置と脳溝検出部31が検出した脳溝との交点あるいはその近傍には、刺入候補位置設定部344が設定した術具の刺入が行なわれる複数の刺入候補位置が示されている。尚、この場合の刺入候補位置は、既に述べたように、刺入禁止脳溝Fxo以外の脳溝Fxと施術候補位置との交点あるいはその近傍において設定される。
【0056】
そして、最初の施術脳回領域として選択された脳回領域Qxaに対する施術の後に行なわれる脳波計測において良好な治療効果が認められない場合、脳回領域Qxaに隣接した脳回領域Qxbが施術脳回領域選択部341によって新たな施術脳回領域として選択され、この脳回領域Qxbに対して上述の施術候補位置設定部343及び刺入候補位置設定部344が設定した施術候補位置や刺入候補位置の位置情報が付加される。
【0057】
(施術法提案コメントの作成手順)
次に、本実施形態における施術法提案コメントの作成手順につき図8のフローチャートに沿って説明する。
【0058】
施術法提案コメントの作成に先立ち、別途設置された脳波計測装置によって予め計測されネットワークあるいは記憶媒体を介して供給された当該患者の頭部領域におけるてんかん焦点の位置情報が治療支援装置100のてんかん焦点位置情報記憶部11に保存され、同様にして、別途設置されたMRI装置によって予め収集された造影剤未投与時における頭部領域のボリュームデータ及び造影剤投与時における前記頭部領域のボリュームデータがボリュームデータ記憶部12に保存される(図8のステップS1)。
【0059】
頭部領域におけるてんかん焦点の位置情報とボリュームデータの収集が終了したならば、入力部41において「施術法提案コメント作成モード」が選択され、システム制御部42を介して上述の選択情報を受信した脳画像データ生成部14は、ボリュームデータ記憶部12から読み出した造影剤未投与時におけるボリュームデータのボクセル値を入力部41において予め設定された視線方向のベクトルと脳表面の法線ベクトルとの内積値に基づいて補正し、補正されたボクセル値に基づいて不透明度や色調を設定する。次いで、得られた不透明度や色調に基づいて上述のボリュームデータをレンダリング処理して3次元の脳画像データを生成し、得られた脳画像データを自己の画像データ記憶部144に保存する(図8のステップS2)。
【0060】
次いで、腫瘍領域抽出部15は、脳画像データ生成部14の画像データ記憶部144から読み出した脳画像データのボクセル値に所定の閾値を設定することにより正常な脳組織領域に隣接して存在する腫瘍領域を抽出する(図8のステップS3)。
【0061】
一方、データ合成部17の位置ズレ補正部は、脳機能マップデータ保管部16に設けられた第1のマップデータ保管部に予め保管されている、例えば、ブロードマンの脳地図のように脳表面が運動野や各種の感覚野(知覚野、視覚野、味覚野、臭覚野等)によって分割された標準的な第1の脳機能マップデータを読み出し(図8のステップS4)、更に、脳画像データ生成部14の画像データ記憶部144に保存されている脳画像データを読み出す。そして、3D−SSP法やSPM法等を用いて第1の脳機能マップデータの位置、大きさ、方向等を補正することにより脳画像データとの位置合わせを行なう。
【0062】
次いで、データ合成部17の合成処理部は、脳画像データ生成部14が生成した上述の脳画像データに脳機能マップデータ保管部16から読み出され上述の位置ズレ補正部において位置ズレ補正された第1の脳機能マップデータ、てんかん焦点位置情報記憶部11から読み出されたてんかん焦点の位置情報及び腫瘍領域抽出部15において抽出された腫瘍領域の位置情報を重畳して術式選択用データを生成する(図8のステップS5)。
【0063】
そして、生成された術式選択用データにおいててんかん焦点の位置が特定できない場合、術式選択部18は、当該疾患部に好適な施術法として脳梁離断法を選択し(図8のステップS6)、この選択情報を受信した提案コメント作成部19は、「脳梁離断法による治療を推奨します」等の脳梁離断法提案コメントを作成して表示部21のモニタに表示する(図8のステップS7)。
【0064】
又、上述の術式選択用データの切除可能領域にてんかん焦点が存在する場合、術式選択部18は、当該疾患部の施術法として切除法を選択する(図8のステップS8)。そして、この選択情報を受信した提案コメント作成部19は、「切除法による治療を推奨します」等の切除法提案コメントを作成して表示部21に表示する(図8のステップS9)。一方、術式選択部18から切除法の選択情報を受信した切除領域設定部20は、先ず、データ合成部17から供給された術式選択用データに示されているてんかん焦点の位置情報を検出し、検出されたてんかん焦点を囲む切除領域を設定する(図8のステップS10)。そして、このとき設定された切除領域の位置情報を受信したデータ合成部17は、上述の術式選択用データに付加して新たな術式選択用データを生成し、得られた術式選択用データは必要に応じて上述の切除法提案コメントと共に表示部21に表示される。
【0065】
一方、上述の術式選択用データに示された運動野のような切除不可能領域にてんかん焦点が存在する場合、術式選択部18は、当該疾患部の施術法としてMST(軟膜下皮質多切術法)を選択し(図8のステップS11)、この選択情報を受信した提案コメント作成部19は、「MST法による治療を推奨します」等のMST法提案コメントを作成して表示部21に表示する(図8のステップS12)。
【0066】
(施術支援データの生成/表示手順)
次に、本実施形態における施術支援データの生成/表示手順につき図9のフローチャートに沿って説明する。
【0067】
図8のステップS12においてMST法提案コメントが表示部21に表示されたならば、入力部41において「施術支援データ生成/表示モード」が選択される。そして、システム制御部42を介して上述の選択情報を受信した脳血管データ生成部13は、ボリュームデータ記憶部12から読み出した造影剤投与時のボリュームデータと造影剤未投与時のボリュームデータとのサブトラクション(減算)処理により造影剤が注入されている脳血管を抽出し、入力部41において予め設定された視点及び視線方向の設定情報に基づいて上述の脳血管情報を処理することにより3次元の脳血管データを生成する(図9のステップS21)。
【0068】
一方、脳溝検出部31は、図8のステップS2において脳画像データ生成部14の画像データ記憶部144に保存された脳画像データを読み出し(図9のステップS22)、この脳画像データに対して所定の閾値処理を行なうことにより脳表面に分布する複数の脳溝を検出する(図9のステップS23)。
【0069】
又、脳回領域形成部32は、上述の画像データ記憶部144から読み出した脳画像データに対応させて脳機能マップデータ保管部16から読み出した標準的な脳回領域を示す第2の脳機能マップデータの位置、大きさ及び方向を補正することにより脳画像データに対する位置ズレを補正する。そして、補正された第2の脳機能マップデータに基づいて多くの脳溝や脳回が示された脳画像データの脳表面を分割処理することにより複数の脳回領域を形成する(図9のステップS24)。
【0070】
そして、データ合成部17の合成処理部は、脳画像データ生成部14の画像データ記憶部144から読み出した脳画像データにてんかん焦点位置情報記憶部11から読み出したてんかん焦点の位置情報及び脳血管データ生成部13において生成された脳血管データを重畳し、更に、脳溝検出部31において検出された脳溝の位置情報、脳回領域形成部32において形成された脳回領域の位置情報を付加することにより第1の施術支援データを生成する。そして、得られた第1の施術支援データは表示部21のモニタに表示される(図9のステップS25)。
【0071】
次に、刺入禁止脳溝設定部33は、データ合成部17が生成した第1の施術支援データに示されている脳血管データと脳溝を抽出し、これらの位置情報に基づいて脳血管から所定距離以内にある脳溝を刺入禁止脳溝として設定する(図9のステップS26)。一方、刺入/施術候補位置設定部34の施術基準点設定部342は、第1の施術支援データに示された1つあるいは複数のてんかん焦点の位置情報を検出し、これらの位置情報に基づいて算出したてんかん焦点の中心を施術基準点として設定する(図9のステップS27)。
【0072】
次いで、刺入/施術候補位置設定部34は、上述の施術基準点が設定された脳回領域を第1の施術脳回領域として選択し(図9のステップS28)、この第1の施術脳回領域の中心軸に垂直な複数の施術候補位置を、前記施術基準点を基準として5mm以下の間隔で設定する。そして、得られた施術候補位置と脳溝検出部31が検出した脳溝との交点あるいはその近傍に術具の刺入を行なう複数の刺入候補位置を設定する(図9のステップS29)。
【0073】
一方、データ合成部17の合成処理部は、上述のステップS25において生成した第1の施術支援データに刺入禁止脳溝設定部33が設定した刺入禁止脳溝の位置情報や刺入/施術候補位置設定部34が設定した刺入候補位置及び施術候補位置の位置情報を付加することにより第2の施術支援データを生成し、表示部21は、前記合成処理部から供給された第2の施術支援データを自己のモニタに表示する(図9のステップS30)。
【0074】
そして、表示部21のモニタに表示された第2の施術支援データを観察した当該治療を担当する医師らの医療従事者は、てんかん焦点が存在する施術脳回領域に設定された刺入候補位置や施術候補位置の位置情報を参照しながら疾患部に対する施術を行ない(図9のステップS31)、更に、別途設置された脳波計測装置を用いて施術が終了した頭部領域に対して脳波計測を行なう(図9のステップS32)。
【0075】
このとき計測された脳波が正常の場合、当該疾患部に対する施術を終了する。一方、計測された脳波に著しい改善が見られない場合、即ち、てんかん焦点に対する施術が不十分な場合、刺入/施術候補位置設定部34は、入力部41から供給される施術脳回領域選択指示信号に基づき、施術基準点が設定された第1の施術脳回領域に隣接した脳回領域を第2の施術脳回領域として選択し、この第2の施術脳回領域に対して複数からなる刺入候補位置と施術候補位置を設定する。次いで、データ合成部17は、既に生成されている第2の施術支援データに上述の刺入候補位置及び施術候補位置の位置情報を付加することにより新たな第2の施術支援データを生成する。そして、更新された第2の施術支援データに基づいて当該疾患部に対する施術を行ない、施術が終了した頭部領域に対して脳波計測を行なう(図9のステップS28乃至ステップS32)。
【0076】
このように、正常な脳波が計測されるまでステップS28乃至ステップS32の手順が繰り返され、てんかん焦点が存在する脳回領域及びその近傍の脳回領域に対する施術が行なわれる。
【0077】
以上述べた本開示の実施形態によれば、患者の頭部領域に発生した難知性てんかんに対する施術法を選択する際、頭部にて計測されたてんかん焦点の位置情報と予め収集された標準脳の領域情報とに基づいて前記てんかん焦点を含む疾患部に好適な施術法提案コメントを作成/表示することができる。このため、医療従事者は、得られた施術法提案コメントに基づいて前記疾患部に対する施術法を短時間で選択することができ、効率のよい治療を行なうことが可能となる。
【0078】
特に、てんかん焦点が上述の標準脳に示された運動野や感覚野等の切除不可能領域に存在しているか否かが自動判定されるためMST法や切除法の選択を正確かつ容易に行なうことができる。
【0079】
又、上述の実施形態によれば、疾患部に対する治療を行なう際、頭部領域の脳画像データに脳血管データやてんかん焦点の位置情報等を重畳することによって生成された施術支援データが表示され、当該治療を担当する前記医療従事者は、得られた施術支援データを参照しながら疾患部に対する治療を行なうことができるため、治療における安全性と効率が大幅に改善される。
【0080】
特に、脳溝に術具を刺入させて施術脳回領域に対する施術を行なう際、てんかん焦点に近接した脳血管データやこの脳血管データの近傍に位置する脳溝(刺入禁止脳溝)を強調表示することにより、脳血管に対して損傷を与えることなく施術を実行することができ、術具の刺入候補位置やこの術具による施術候補位置の位置情報を上述の施術支援データに付加することにより施術における安全性と効率を更に向上させることが可能となる。
【0081】
以上、本開示の実施形態について述べてきたが、本開示は、上述の実施形態に限定されるものではなく、変形して実施することが可能である。例えば、上述の実施形態では、脳画像データにてんかん焦点の位置情報、脳血管データ、脳溝や脳回領域の位置情報を重畳して第1の施術支援データを生成し、更に、この第1の施術支援データに刺入禁止脳溝の位置情報、刺入候補位置及び施術候補位置の位置情報を付加して生成した第2の施術支援データに基づいて施術を行なう場合について述べたが、第1の施術支援データに基づいて当該疾患部に対する施術を行なってもよい。
【0082】
又、施術法提案コメント作成モードでは、提案コメント作成部19において作成された施術法提案コメントを表示部21に表示する場合について述べたが、施術法の選択に用いた術式選択用データを上述の施術法提案コメントと共に表示してもよい。施術法提案コメントと術式選択用データの重畳表示あるいは並列表示により、施術法提案コメントの妥当性を容易に確認することができる。
【0083】
更に、上述の実施形態では、患者頭部の大脳皮質に存在するてんかん焦点に起因して発生したてんかんを治療する場合について述べたが、てんかん焦点の位置は大脳皮質に限定されない。又、MRI(磁気共鳴イメージング)装置によって収集されたボリュームデータに基づいて脳画像データや脳血管データを生成する場合について述べたが、X線CT装置等の他の医用画像診断装置によって収集された画像情報に基づいて上述の脳画像データや脳血管データを生成しても構わない。
【0084】
又、脳波計測装置によって計測されたてんかん焦点の位置情報に基づいて術式選択用データや施術支援データを生成する場合について述べたが、これに限定されるものではなく、例えば、上述の特許文献1に記載されているような生体光計測装置によって計測されたてんかん焦点の位置情報を用いて術式選択用データや施術支援データの生成を行なってもよい。
【0085】
尚、本実施形態の治療支援装置100に含まれる各ユニットは、例えば、CPU、RAM、磁気記憶装置、入力装置、表示装置等で構成されるコンピュータをハードウェアとして用いることでも実現することができる。例えば、治療支援装置100のシステム制御部42は、上記のコンピュータに搭載されたCPU等のプロセッサに所定の制御プログラムを実行させることにより各種機能を実現することができる。この場合、上述の制御プログラムをコンピュータに予めインストールしてもよく、又、コンピュータ読み取りが可能な記憶媒体への保存あるいはネットワークを介して配布された制御プログラムのコンピュータへのインストールであっても構わない。
【0086】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行なうことができる。これらの実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0087】
11…てんかん焦点位置情報記憶部
12…ボリュームデータ記憶部
13…脳血管データ生成部
14…脳画像データ生成部
15…腫瘍領域抽出部
16…脳機能マップデータ保管部
17…データ合成部
18…術式選択部
19…提案コメント作成部
20…切除領域設定部
21…表示部
31…脳溝検出部
32…脳回領域形成部
33…刺入禁止脳溝設定部
34…刺入/施術候補位置設定部
341…施術脳回領域選択部
342…施術基準点設定部
343…施術候補位置設定部
344…刺入候補位置設定部
41…入力部
42…システム制御部
100…治療支援装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の頭部領域において予め収集されたボリュームデータに基づいて脳画像データを生成する脳画像データ生成手段と、
少なくとも前記脳画像データと前記頭部領域において予め計測されたてんかん焦点の位置情報と予め収集あるいは作成された標準的な脳機能マップデータとに基づいて術式選択用データを生成するデータ合成手段と、
前記術式選択用データを用いて前記てんかん焦点を有する疾患部の治療に好適な施術法を選択する術式選択手段と、
この選択情報に基づいて施術法提案コメントを作成する提案コメント作成手段と、
前記施術法提案コメントを表示する表示手段とを
備えたことを特徴とする治療支援装置。
【請求項2】
前記脳画像データに基づいて腫瘍領域を抽出する腫瘍領域抽出手段を備え、前記データ合成手段は、前記脳画像データに前記てんかん焦点の位置情報、前記脳機能マップデータ及び前記腫瘍領域の位置情報を重畳することにより前記術式選択用データを生成することを特徴とする請求項1記載の治療支援装置。
【請求項3】
前記腫瘍領域抽出手段は、前記脳画像データの画素値あるいはボクセル値に所定の閾値を設定することにより正常な脳組織領域に隣接して存在する前記腫瘍領域を抽出することを特徴とする請求項2記載の治療支援装置。
【請求項4】
前記データ合成手段は、前記脳画像データに対する前記脳機能マップデータの位置ズレを補正する位置ズレ補正手段と、補正された前記脳機能マップデータと前記脳画像データ及びてんかん焦点の位置情報に基づいて前記術式選択用データを生成する合成処理手段とを有することを特徴とする請求項1記載の治療支援装置。
【請求項5】
前記術式選択手段は、前記術式選択用データに示された脳機能マップデータにおける切除可能領域及び切除不可能領域の領域情報と前記てんかん焦点の位置情報に基づいて前記疾患部の治療に好適な施術法を選択することを特徴とする請求項1記載の治療支援装置。
【請求項6】
前記表示手段は、前記施術法提案コメントとこの施術法提案コメントの作成に用いた前記術式選択用データを重畳表示あるいは並列表示することを特徴とする請求項1記載の治療支援装置。
【請求項7】
患者の頭部領域において予め収集されたボリュームデータに基づいて脳画像データを生成する脳画像データ生成手段と、
前記ボリュームデータに基づいて脳血管データを生成する脳血管データ生成手段と、
前記脳画像データに基づいて脳溝を検出する脳溝検出手段と、
予め収集あるいは作成された標準的な脳機能マップデータに基づいて前記脳画像データに対し脳回領域を形成する脳回領域形成手段と、
前記脳画像データと前記頭部領域において予め計測されたてんかん焦点の位置情報と前記脳血管データと前記脳溝及び前記脳回領域の位置情報に基づいて第1の施術支援データを生成するデータ合成手段と、
前記第1の施術支援データを表示する表示手段とを
備えたことを特徴とする治療支援装置。
【請求項8】
前記脳溝検出手段は、前記脳画像データに対して所定の閾値処理を行なうことにより脳表面に分布する複数の脳溝を検出することを特徴とする請求項7記載の治療支援装置。
【請求項9】
前記脳回領域形成手段は、標準的な脳回領域を示す前記脳機能マップデータに基づいて多くの脳溝や脳回が示された前記脳画像データの脳表面を分割処理することにより複数の脳回領域を形成することを特徴とする請求項7記載の治療支援装置。
【請求項10】
前記表示手段は、前記脳血管データから所定距離以内にある脳溝あるいは前記てんかん焦点に近接した脳血管データの少なくとも何れかを強調表示することを特徴とする請求項7記載の治療支援装置。
【請求項11】
前記脳血管データから所定距離以内にある脳溝を刺入禁止脳溝として設定する刺入禁止脳溝設定手段と、前記脳回領域に対して術具の刺入候補位置及び施術候補位置を設定する刺入/施術候補位置設定手段を備え、前記表示手段は、前記データ合成手段が前記第1の施術支援データに前記刺入禁止脳溝の位置情報と前記刺入候補位置及び前記施術候補位置の位置情報を付加して生成した第2の施術支援データを表示することを特徴とする請求項7記載の治療支援装置。
【請求項12】
前記刺入/施術候補位置設定手段は、前記脳回領域に存在するてんかん焦点の位置情報に基づいて施術基準点を設定する施術基準点設定手段を備え、前記施術基準点を基準として前記施術候補位置を所定間隔で設定することを特徴とする請求項11記載の治療支援装置。
【請求項13】
前記刺入/施術候補位置設定手段は、前記てんかん焦点が存在する脳回領域あるいはその周辺の脳回領域を施術脳回領域として選択する施術脳回領域選択手段を備え、選択された前記施術脳回領域に対して前記刺入候補位置及び前記施術候補位置を設定することを特徴とする請求項11記載の治療支援装置。
【請求項14】
患者の頭部領域において予め収集されたボリュームデータとてんかん焦点の位置情報に基づいて前記てんかん焦点を有する疾患部の治療に好適な施術法を提案する治療支援装置に対し、
前記ボリュームデータに基づいて脳画像データを生成する脳画像データ生成機能と、
少なくとも前記脳画像データと前記てんかん焦点の位置情報と予め収集あるいは作成された標準的な脳機能マップデータとに基づいて術式選択用データを生成するデータ合成機能と、
前記術式選択用データを用いて前記好適な施術法を選択する術式選択機能と、
この選択情報に基づいて施術法提案コメントを作成する提案コメント作成機能と、
前記施術法提案コメントを表示する表示機能を
実行させることを特徴とする制御プログラム。
【請求項15】
患者の頭部領域において予め収集されたボリュームデータとてんかん焦点の位置情報に基づいて前記てんかん焦点を有する疾患部の治療に有効な施術支援データの生成と表示を行なう治療支援装置に対し、
前記ボリュームデータに基づいて脳画像データを生成する脳画像データ生成機能と、
前記ボリュームデータに基づいて脳血管データを生成する脳血管データ生成機能と、
前記脳画像データに基づいて脳溝を検出する脳溝検出機能と、
予め収集あるいは作成された標準的な脳機能マップデータに基づいて前記脳画像データに対し脳回領域を形成する脳回領域形成機能と、
前記脳画像データと前記てんかん焦点の位置情報と前記脳血管データと前記脳溝及び前記脳回領域の位置情報に基づいて施術支援データを生成するデータ合成機能と、
前記施術支援データを表示する表示機能を
実行させることを特徴とする治療支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−111422(P2013−111422A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263109(P2011−263109)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】