治療用義歯
【課題】調整作業の困難性や頻度を低減して患者及び施術者の負担を軽減し、顎関節の矯正治療効果の高い治療用義歯を提供する。
【解決手段】治療用義歯1の上顎用義歯2を構成するすべての臼歯部人工歯34、35、36、37は陶歯である。一方、下顎用義歯4を構成する臼歯部人工歯のうち、第1小臼歯に対応する人工歯54は陶歯であり、第2小臼歯以奥に対応する人工歯55、56,57(被削歯)はアクリルレジン歯である。治療用義歯1を装着して咀嚼を繰り返すことで、相対的に硬度の低い人工歯55、56,57が選択的に、かつ、自動的に磨耗して行く。これに伴い、下顎頭91が下顎窩81の最上部81aへと誘導される。
【解決手段】治療用義歯1の上顎用義歯2を構成するすべての臼歯部人工歯34、35、36、37は陶歯である。一方、下顎用義歯4を構成する臼歯部人工歯のうち、第1小臼歯に対応する人工歯54は陶歯であり、第2小臼歯以奥に対応する人工歯55、56,57(被削歯)はアクリルレジン歯である。治療用義歯1を装着して咀嚼を繰り返すことで、相対的に硬度の低い人工歯55、56,57が選択的に、かつ、自動的に磨耗して行く。これに伴い、下顎頭91が下顎窩81の最上部81aへと誘導される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は義歯に関し、とくに、最終義歯作成に先立って患者に装着される治療用義歯に関する。
【背景技術】
【0002】
長期使用を目的とする通常の義歯すなわち最終義歯をいきなり作成する所謂一回法に代えて、最終義歯作成の前にまず治療用義歯を作成し、これを患者に装着する方法が提案されている。
【0003】
すなわち、最終義歯作成に先だってまず治療用義歯を作成し、その治療用義歯を患者に使用してもらいながら様々な調整を加えて行くことで、より機能的な形態をつくりだし、患者、施術者ともに満足できる状態になった時点で、その治療用義歯を最終義歯に置き換えるのである。
【0004】
このように、治療用義歯を用いることで、たとえば、長年適合の悪い義歯を装着していた患者のように通常の咬合採得では正常な顎位を導き出すことができない場合であっても、治療用義歯に、順次、調整を加えて行くことで、より機能的な形態の義歯を得ることが可能となる(特許文献1の「従来の技術」第「0002」〜「0008」欄参照)。
【0005】
しかしながら、従来の治療用義歯を用いる方法には、次のような問題がある。たとえば上述のように、長年適合の悪い義歯を装着していた等の理由により、咬合時の顎の関節が最適位置(下顎頭が下顎窩最上部に位置する状態)にない患者の場合、とりあえず、その時点における咬合採得により得られた顎位に基づいて、咬み合わせを決定し、上下の治療用義歯を作成する。
【0006】
患者がその治療用義歯を使用して食物を咀嚼していると、咬筋等の作用により顎の関節が徐々に最適位置に近づいて行くのであるが、顎の関節が最適位置に近づいて行くにつれ、最初に得られた顎位に基づいて決定された咬み合わせに、部分的な不具合(主に上下の臼歯部人工歯の干渉)が生じてくる。
【0007】
この不具合を放置すると、歯肉の部分的な圧迫によって咀嚼時に痛みを感じたり、義歯が歯肉から外れたりして、それ以上食物を咀嚼することができなくなる。食物を咀嚼することができなくなると、せっかく最適位置に近づいていた顎の関節が、それ以上改善されなかったり、最悪の場合、元に戻ってしまったりする。
【0008】
したがって、治療用義歯を用いて顎関節を最適位置に誘導するためには、不具合が生ずる都度、この不具合を解消すべく、人工歯の干渉部分を削る等の調整を加えて行く必要がある。
【0009】
しかし、この調整作業は、複数箇所にわたる干渉部位(削るべき部位)と干渉の程度(削るべき深さ)をそれぞれ特定して行う必要があり、適切に行うためには高度の熟練が必要となる困難な作業である。
【0010】
しかも、顎の関節が最適位置でない患者の場合、治療用義歯を用いても、顎の関節が最適位置になるまでに4ヶ月ないし6ヶ月を要することが多い。この間、2〜3日に一度、状況によっては毎日のように、人工歯を削る等の調整作業が必要になる。つまり、頻繁に調整作業を行う必要がある。
【0011】
すなわち、従来の治療用義歯を用いる方法は、とりわけ顎の関節の矯正治療(あるいはリハビリ)を有効に行うためには、患者および施術者の負担が極めて大きい、という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平10−287522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
この発明は、このような従来技術における問題を解決し、調整作業の困難性や頻度を低減して患者及び施術者の負担を軽減し、顎関節の矯正治療効果の高い治療用義歯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明による治療用義歯は、最終義歯作成に先だって患者に装着される治療用義歯であって、義歯床に人工歯を植立した上顎用義歯及び/又は下顎用義歯を備え、前記上顎用義歯又は下顎用義歯のいずれかを構成する人工歯であって顎関節が最適位置に近づくと対合歯との間で干渉を生ずる可能性のある人工歯を、咀嚼行為に伴う摩耗量が対合歯に比して大きくなるよう設定された人工歯である被削歯とし、咀嚼行為に伴い前記被削歯を摩耗させることで顎関節を最適位置に誘導するよう構成したこと、を特徴とする。
【0015】
本発明の特徴は、上記のように広く示すことができるが、その構成や内容は、目的および特徴とともに、図面を考慮に入れた上で、以下の開示によりさらに明らかになるであろう。
【発明の効果】
【0016】
本願の第1発明による治療用義歯は、最終義歯作成に先だって患者に装着される治療用義歯であって、義歯床に人工歯を植立した上顎用義歯及び/又は下顎用義歯を備え、前記上顎用義歯又は下顎用義歯のいずれかを構成する人工歯であって顎関節が最適位置に近づくと対合歯との間で干渉を生ずる可能性のある人工歯を、咀嚼行為に伴う摩耗量が対合歯に比して大きくなるよう設定された人工歯である被削歯とし、咀嚼行為に伴い前記被削歯を摩耗させることで顎関節を最適位置に誘導するよう構成したこと、を特徴とする。
【0017】
顎の関節が最適位置でない患者の場合、患者が治療用義歯を使用して食物を咀嚼していると、咬筋等の作用により顎の関節が徐々に最適位置に近づいて行くが、これに伴い、最初に得られた顎位に基づいて決定された咬み合わせに不具合が生じてくる。すなわち、一部の対合歯間で干渉が生ずるのであるが、顎関節をさらに最適位置に近づけるためには、この干渉を除去し、顎関節の矯正治療を継続する必要がある。
【0018】
そこで、このような対合歯の一方を被削歯とし、咀嚼行為に伴う摩耗量が対合歯に比して大きくなるよう設定しておくことで、咀嚼行為に伴い被削歯を自動的にかつ選択的に磨耗させ、もって顎関節を最適位置に誘導することができる。
【0019】
すなわち、この治療用義歯を用いれば、調整作業がある程度自動化されることで施術者による義歯の調整作業の困難性や頻度が低減され、患者及び施術者の負担が軽減される。その結果、とくに高度な熟練を要することなく、顎関節の矯正治療効果を高めることができる。
【0020】
本願の第2発明による治療用義歯は、本願の第1発明による治療用義歯において被削歯における対合歯との接触部分の硬度が、当該対合歯のそれに比して低くなるよう構成したこと、を特徴とする。
【0021】
被削歯における対合歯との接触部分の硬度が、当該対合歯のそれに比して低くなるよう構成することで、容易に、被削歯の咀嚼行為に伴う摩耗量が対合歯に比して大きくなるよう設定することができる。
【0022】
本願の第3発明による治療用義歯は、本願の第2発明による治療用義歯において、被削歯は、対合歯との接触部分が合成樹脂により構成され、被削歯の対合歯は、ブレードを備えた人工歯であること、を特徴とする。
【0023】
したがって、被削歯の合成樹脂部分と、相対的に硬度が高い上に被削歯との接触面積が小さい(したがって接触圧の高い)ブレードと、を咬み合わせることで、ブレードと接触する合成樹脂部分を、より速やかに磨耗させることが可能となる。また、ブレードの硬度、対合歯との接触面積、形状、表面粗さ等を選択する自由度が高いことから、患者の顎の症状や咬合力に対応させて、研削歯の研削能力を適正に設定するのが容易である。
【0024】
本願の第4発明による治療用義歯は、本願の第3発明による治療用義歯において、ブレードを備えた人工歯は、顎関節の矯正治療中にブレードが取替え可能に構成されていること、を特徴とする。
【0025】
したがって、顎関節の矯正治療の進行状況等に応じて、適宜、ブレードを取替えることができる。このため、顎関節の矯正治療の進行状況をみながら、最適な研削能力を有する研削歯を適宜選択することができる。すなわち、患者の顎の症状の変化や咬合力の変化等に基づいて、さらにきめ細かく、患者に適した顎関節の矯正治療を行うことができる。
【0026】
本願の第5発明による治療用義歯は、本願の第1ないし第4のいずれかの発明による治療用義歯において、被削歯は、第2小臼歯以奥の人工歯であること、を特徴とする。
【0027】
患者が治療用義歯の使用を継続し、咀嚼運動の繰り返しによる矯正治療効果として、顎の関節が最適位置でない状態から最適位置へと移動して行く(換言すれば、下顎骨の下顎頭が側頭骨の下顎窩最上部へと移動して行く)と、臼歯部の人工歯のうち、より奥に位置する人工歯により大きい不具合(より大きい干渉)が生ずる傾向がある。
【0028】
このことから、下顎頭を下顎窩最上部に速やかに誘導するために、第1小臼歯をあえて磨耗させず、これを矯正治療による下顎骨の移動の支点(固定点)とみなし、第2小臼歯以奥の人工歯のみを積極的に磨耗させるのが合理的である。
【0029】
すなわち、第2小臼歯以奥の人工歯のみを積極的に磨耗させることで、顎関節の矯正治療をより効率的に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1Aは、治療用義歯1を構成する上顎用義歯2の平面図である。図1Bは、治療用義歯1を構成する下顎用義歯4の平面図である。
【図2】図2は、治療用義歯1を患者に装着した初期の咬合状態を概念的に示す側面図である。
【図3】図3は、治療用義歯1装着後、所定期間経過したときの咬合状態を概念的に示す側面図である。
【図4】図4は、図3における治療用義歯1の部分を拡大した図面である。
【図5】図5は、治療用義歯1に換えて最終義歯7を患者に装着した状態を概念的に示す側面図である。
【図6】図6Aは、治療用義歯101を構成する上顎用義歯102の平面図である。図6Bは、治療用義歯101を構成する下顎用義歯104の平面図である。
【図7】図7Aは、治療用義歯201を構成する上顎用義歯202の平面図である。図7Bは、治療用義歯201を構成する下顎用義歯204の平面図である。
【図8】図8Aは、治療用義歯301を構成する上顎用義歯302の平面図である。図8Bは、治療用義歯301を構成する下顎用義歯304の平面図である。
【図9】図9Aは、治療用義歯401を構成する上顎用義歯402の平面図である。図9Bは、治療用義歯401を構成する下顎用義歯404の平面図である。
【図10】図10は、図9Aに示す上顎用義歯402の第1大臼歯に相当する人工歯436のX−X断面を概念的に示す図面である。
【図11】図11は、治療用義歯501を構成する上顎用義歯の第1大臼歯に相当する人工歯536の適部断面を概念的に示す図面である。
【図12】図12は、この発明の第7の実施形態による治療用義歯601を構成する下顎用義歯604の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
総義歯の場合を例に、この発明の第1の実施形態による治療用義歯1について説明する。
【0032】
図1Aは、治療用義歯1を構成する上顎用義歯2の平面図である。図1Bは、治療用義歯1を構成する下顎用義歯4の平面図である。
【0033】
図2は、治療用義歯1を患者に装着した初期の咬合状態を概念的に示す側面図であって、説明のため、咬筋や、下顎頭91と下顎窩81との間にある関節円板等は省略し、治療用義歯1並びに側頭骨8及び下顎骨9を抜粋記載した図面である。
【0034】
図1A、図1B及び図2に示すように、治療用義歯1は、最終義歯7(図5参照)の作成に先立って患者に装着される義歯であって、上顎用義歯2及び下顎用義歯4を備えている。
【0035】
上顎用義歯2は、一般的な義歯と同様に、義歯床21に多数の人工歯3を排列した構造を備えている。下顎用義歯4も、一般的な義歯と同様に、義歯床41に多数の人工歯5を排列した構造を備えている。義歯床21及び41の構成は、とくに限定されるものではなく、たとえば、一般的な義歯床材料であるアクリルレジン等の床用レジンのみで構成したり、アクリルレジンと軟質レジンとを併用した義歯床としたり、所謂金属床を用いたりすることができる。
【0036】
上顎用義歯2を構成するすべての臼歯部人工歯34、35、36、37は陶歯である。
【0037】
一方、下顎用義歯4を構成する臼歯部人工歯のうち、第1小臼歯に対応する人工歯54は、対合する上顎用義歯2の人工歯3と同程度の硬度を有する陶歯である。
【0038】
そして、下顎用義歯4を構成する臼歯部人工歯のうち第2小臼歯以奥に対応する人工歯55、56,57は、対合する上顎用義歯2の人工歯3に対して相対的に硬度の低いアクリルレジン歯を用いている。
【0039】
つまり、この実施形態では、対合する人工歯間において相対的に硬度の低い人工歯55、56,57が、被削歯に該当する。なお、被削歯に対合する歯を研削歯と呼ぶ。この例では、被削歯である人工歯55、56,57に対合する上顎用義歯2の人工歯35、36、37が研削歯に該当する。
【0040】
なお、咀嚼行為に伴う単位時間あたりの被削歯の磨耗量は、研削歯との硬度差・接触面積、研削歯の接触部の形状・表面粗さ、咀嚼力(咬合力)、咀嚼頻度、咀嚼時における対合歯間の滑り距離、咀嚼対象となる食物等により影響を受け、定量的に評価するのは必ずしも容易ではないが、経験上、硬度差に依存する度合いが大きいと考えられる。すなわち、他の条件が同じであれば、研削歯との硬度差が大きいほど被削歯の磨耗量も大きいと考えられる。そこで、咀嚼行為に伴う単位時間あたりの被削歯の磨耗量の指標として、研削歯との硬度差を用いることができる。
【0041】
さて、上述のように、この実施形態においては、研削歯として陶歯を用い、被削歯としてアクリルレジン歯を用いた場合を例に説明しているが、この発明はこれに限定されるものではない。
【0042】
解剖学的人工歯として、たとえば、陶歯(460〜500Hv)の他、ポリサルフォンレジン歯、ポリカーボネートレジン歯、硬質レジン歯(20〜47Hv)、アクリルレジン歯(18〜20Hv)等のレジン歯が用いられているが、これらのうち、相対的に硬度の高いものを、研削歯として用い、相対的に硬度の低いものを、被削歯として用いることができる。
【0043】
もっとも、対合歯間における硬度の違いが大きいほど磨耗量も大きいことから、顎関節の矯正治療期間を短くする必要がある場合は、研削歯と被削歯の組み合わせとして、上述の例のように、硬度の差が大きい陶歯とアクリルレジン歯とを組合わせることが好ましい。
【0044】
また、被削歯として、上述のアクリルレジン歯よりさらに硬度の低い合成樹脂製の人工歯(好ましくは10〜17Hv、より好ましくは10〜15Hv、さらに好ましくは10〜14Hv、さらにより好ましくは12.5〜13.5Hv。以下、これらを便宜上「低重合レジン歯」と呼ぶ。)を用いることができる。このような低重合レジン歯の構成や製造方法はとくに限定されるものではないが、たとえば、アクリルレジン歯と同様の主成分を有する構成において、重合度等を制御することにより得ることができる。
【0045】
このように、被削歯としては、とくに限定されるものではないが、たとえば、低重合レジン歯又はレジン歯を用いることができ、好ましくは低重合レジン歯又はアクリルレジン歯、より好ましくは低重合レジン歯、さらに好ましくは硬度が10〜15Hv程度の低重合レジン歯、さらにより好ましくは硬度が10〜14Hv程度の低重合レジン歯、最も好ましくは硬度が12.5〜13.5Hv程度の低重合レジン歯である。
【0046】
これを、硬度(ビッカース硬さ)の観点からみれば、次のように表現できる。すなわち、被削歯として用いることができる人工歯の硬度は、とくに限定されるものではないが、たとえば、10〜47Hv程度、好ましくは10〜20Hv程度、より好ましくは10〜17Hv程度、さらに好ましくは10〜15Hv程度、さらにより好ましくは10〜14Hv程度、最も好ましくは12.5〜13.5Hv程度である。
【0047】
一方、研削歯としては、とくに限定されるものではないが、たとえば、上述の陶歯や後述の各種ブレード人工歯を用いることができ、好ましくは陶歯、又は、ダイアモンド粒子や炭化ケイ素粒子を固着したブレード、セラミック製ブレード若しくは硬度100Hv程度以上の金属製ブレードを有するブレード人工歯、より好ましくは、陶歯、又は、ダイアモンド粒子や炭化ケイ素粒子を固着したブレード、セラミック製ブレード若しくは硬度200Hv程度以上の金属製ブレードを有するブレード人工歯、さらに好ましくは、陶歯、又は、ダイアモンド粒子や炭化ケイ素粒子を固着したブレード、セラミック製ブレード若しくは硬度290Hv程度以上の金属製ブレードを有するブレード人工歯である。
【0048】
これを、硬度(ビッカース硬さ)の観点からみれば、次のように表現できる。すなわち、研削歯として用いることができる人工歯の硬度は、とくに限定されるものではないが、たとえば、好ましくは100〜9000Hv程度、より好ましくは200〜9000Hv程度、さらに好ましくは290〜9000Hv程度である。
【0049】
なお、研削歯と被削歯との硬度差(ビッカース硬さHvの差)は、とくに限定されるものではないが、たとえば、80〜8990程度(たとえば、被削歯として低重合レジン歯又はアクリルレジン歯を用い、研削歯として陶歯、又は、接触部の硬度が100Hv程度以上のブレードを有するブレード人工歯を用いた場合)、好ましくは83〜8990程度(たとえば、被削歯として低重合レジン歯を用い、研削歯として陶歯、又は、接触部の硬度が100Hv程度以上のブレードを有するブレード人工歯を用いた場合)、より好ましくは86〜8990程度(たとえば、被削歯として硬度が10〜14Hv程度の低重合レジン歯を用い、研削歯として陶歯、又は、接触部の硬度が100Hv程度以上のブレードを有するブレード人工歯を用いた場合)、さらに好ましくは186〜8990程度(たとえば、被削歯として硬度が10〜14Hv程度の低重合レジン歯を用い、研削歯として陶歯、又は、接触部の硬度が200Hv程度以上のブレードを有するブレード人工歯を用いた場合)、さらにより好ましくは276〜8990程度(たとえば、被削歯として硬度が10〜14Hv程度の低重合レジン歯を用い、研削歯として陶歯、又は、接触部の硬度が290Hv程度以上のブレードを有するブレード人工歯を用いた場合)、最も好ましくは276.5〜8987.5程度(たとえば、被削歯として硬度が12.5〜13.5Hv程度の低重合レジン歯を用い、研削歯として陶歯、又は、接触部の硬度が290Hv程度以上のブレードを有するブレード人工歯を用いた場合)である。
【0050】
また、患者により咬合力が異なることを考慮し、患者ごとに、被削歯と研削歯との硬度差を異ならせるようにしてもよい。つまり、実際に患者の咬合力を測定したり、統計値(たとえば、体重、体格(たとえば、体重に占める筋肉の重さの割合)、性別、年齢等による咬合力の目安)に基づいて推定したりするなどして、患者の咬合力を把握し、把握した咬合力値に応じて、被削歯と研削歯との硬度差を設定する。
【0051】
たとえば、咬合力の小さい患者には、被削歯と研削歯との硬度差が大きくなるよう構成し、逆に、咬合力の大きい患者には、被削歯と研削歯との硬度差が小さくなるよう構成することができる。
【0052】
また、患者の顎の症状(咬合時における顎関節の状態)等を考慮し、症状ごとに、被削歯と研削歯との硬度差を異ならせるようにしてもよい。つまり、顎関節の現在の状態(たとえば、治療前において、咬合時の顎関節が最適位置からどの程度ずれているか)を、レントゲン撮影等により実測したり統計値に基づいて推定したりするなどして把握し、把握した顎関節の現状に応じて、被削歯と研削歯との硬度差を設定する。
【0053】
たとえば、咬合時の顎関節が最適位置から大きくずれている患者には、被削歯と研削歯との硬度差が大きくなるよう構成し、逆に、咬合時の顎関節が最適位置からあまりずれていない患者には、被削歯と研削歯との硬度差が小さくなるよう構成することができる。
【0054】
これにより、患者の顎の症状等に応じて、被削歯(上述の例では、下顎用の臼歯部人工歯55、56,57)の単位時間あたりの磨耗量を調整することができる。このため、患者の顎の症状等に応じて、治療用義歯装着による顎関節の矯正治療期間を調整することができる。すなわち、患者の顎の症状等に応じた最適な矯正治療期間で、無理なく、顎関節を矯正することができる。
【0055】
もちろん、患者の顎の症状等と、前述の患者の咬合力の大小とを併せて考慮して、被削歯と研削歯との硬度差を設定することもできる。このように構成すれば、患者の顎の症状と咬合力に基づいて、さらにきめ細かく、患者に適した矯正治療期間を設定することができる。
【0056】
また、上述の実施形態においては、研削歯である上顎用の臼歯部人工歯35、36、37を、ともに同一の硬度を有する人工歯(上述の例では、すべて陶歯)とするとともに、被削歯である下顎用の臼歯部人工歯55、56、57も、ともに同一の硬度を有する人工歯(上述の例では、すべてアクリルレジン歯)としている。つまり、対合する3組の研削歯及び被削歯の硬度差を、すべて同一としているが、この発明は、これに限定されるものではない。
【0057】
対合する3組の研削歯及び被削歯の硬度差を、異なるよう構成することもできる。
【0058】
たとえば、隣接する任意の2組の研削歯及び被削歯において、奥側の1組の研削歯及び被削歯の硬度差が、手前側の1組の研削歯及び被削歯の硬度差に比し、大きくなるよう構成することができる。
【0059】
具体的には、たとえば、上顎用の臼歯部人工歯35、36、37を、ともに同一の硬度を有する陶歯とするとともに、下顎用の臼歯部人工歯55、56、57のうち、臼歯部人工歯55をアクリルレジン歯(18〜20Hv)とし、臼歯部人工歯56,57を、より硬度の低い同一硬度の低重合レジン歯(10〜17Hv)とするのである。
【0060】
さらに、対合する3組の研削歯及び被削歯の硬度差がすべて異なるよう構成することもできる。
【0061】
具体的には、たとえば、上顎用の臼歯部人工歯35、36、37を、ともに同一の硬度を有する陶歯とするとともに、下顎用の臼歯部人工歯55、56、57のうち、臼歯部人工歯55をアクリルレジン歯(18〜20Hv)とし、臼歯部人工歯56を、より硬度の低い低重合レジン歯(15〜17Hv)とし、臼歯部人工歯57を、さらに硬度の低い低重合レジン歯(10〜14Hv)とするのである。
【0062】
この場合、実際に患者の咬合力を測定したり統計値に基づいて推定したりするなどして、当該患者における各臼歯部人工歯の咬合力を把握し、把握した各咬合力値に応じて、各組の研削歯及び被削歯の硬度差を設定するようにしてもよい。
【0063】
上述のように、下顎骨9の下顎頭91が側頭骨8の下顎窩81の最上部81aへと移動して行くと、臼歯部の人工歯のうち、より奥に位置する人工歯により大きい不具合(より大きい干渉)が生ずる傾向があることから、より大きい干渉の生ずる位置に排列された人工歯(被削歯)が、より磨耗しやすくなるよう構成することで、下顎頭91が下顎窩81の最上部81aに無理なく誘導され、顎関節の矯正治療効果がいっそう高くなる。
【0064】
なお、上述の各例においては、下顎用の臼歯部人工歯のうち第2小臼歯に対応する人工歯以奥のすべての人工歯についてのみ、被削歯とするよう構成する場合を例示したが、より一般化して、次のように構成することもできる。
【0065】
すなわち、下顎用の臼歯部人工歯のうち第2小臼歯に対応する人工歯以奥の任意の人工歯以奥のすべての人工歯についてのみ、被削歯とするよう構成することもできる。
【0066】
このような構成の具体例としては、上述の各例のほか、上顎用の臼歯部人工歯34、35、36、37を、ともに同一の硬度を有する陶歯とするとともに、下顎用の臼歯部人工歯のうち、最奥の人工歯57(又は、奥から2番目までの人工歯56及び57)のみを、当該陶歯に比し硬度の低いアクリルレジン歯とし、その余の下顎用の臼歯部人工歯54、55、56(又は、人工歯54及び55)を、対合する上顎用の人工歯と同程度の硬度を有する陶歯とする場合が含まれる。
【0067】
このように、下顎用の臼歯部人工歯のうち第2小臼歯に対応する人工歯以奥の任意の人工歯以奥のすべての人工歯についてのみ、被削歯とするよう構成する場合、当該任意の人工歯の前方向に隣接する人工歯は、その対合歯と同等の硬度を有することとなるから、当該隣接する人工歯は、患者の咀嚼行為によっても、ほとんど磨耗しない。
【0068】
このため、当該隣接する人工歯が、顎関節の矯正治療による下顎骨の移動の支点(固定点)となり、前記任意の人工歯以奥の人工歯(被削歯)の磨耗をいっそう促進させ、下顎頭を下顎窩最上部に速やかに誘導することが可能となる。
【0069】
さらに、この発明は、下顎用の臼歯部人工歯のうち第2小臼歯に対応する人工歯以奥の任意の人工歯以奥のすべての人工歯についてのみ、被削歯とするよう構成する場合に限定されるものではない。
【0070】
たとえば、下顎用の第1小臼歯に相当する人工歯54についても被削歯とするよう構成することもできる。患者の顎関節の状況等によっては、第1小臼歯に相当する人工歯34、54についても、その一方(たとえば人工歯54)を磨耗させるほうが、顎関節の矯正治療効果を高めることができる場合もあるからである。
【0071】
このように、この発明においては、下顎用の第1小臼歯以奥の臼歯部人工歯すべてについて、被削歯とするよう構成することもできるし、より一般的に、すべての下顎用の臼歯部人工歯のうち、いずれか1以上の人工歯についてのみ被削歯とするよう構成することもできる。
【0072】
なお、上述の実施形態においては、被削歯を下顎用義歯4にのみ用いた場合を例に説明したが、この発明はこれに限定されるものではない。逆に、被削歯を上顎用義歯2にのみ用いてもよいし、被削歯が下顎用義歯4及び上顎用義歯2に混在するよう構成することもできる。
【0073】
ただし、被削歯を下顎用義歯4又は上顎用義歯2の一方にのみ用いると、咬合平面の再構築等が容易になるため、好都合である。
【0074】
なお、前歯部人工歯は、総義歯の通法にしたがい、咬合調整に際して前歯部人工歯が強く当たらないよう排列されている。したがって、上顎用義歯2を構成する前歯部人工歯31、32、33、並びに、下顎用義歯4を構成する前歯部人工歯51、52、53については、対合歯との咬み合わせによる磨耗をあまり考慮する必要はなく、適当な材料の人工歯を使用すればよい。
【0075】
そこで、前歯部人工歯のいずれかが対合歯と接触しても大きく磨耗しないよう、前歯部人工歯に関しては、対合歯と同等程度の硬度を有するよう構成することができる。具体的には、この例では、上顎用義歯2を構成する前歯部人工歯31、32、33、並びに、下顎用義歯4を構成する前歯部人工歯51、52、53として、いずれも陶歯を用いている。
【0076】
ただし、前歯部人工歯についても咬合調整を行う方が良いような場合には、前歯部人工歯についても、臼歯部人工歯と同様に、上顎用義歯2を構成する前歯部人工歯31、32、33の全部又は一部と、これに対合する下顎用義歯4を構成する前歯部人工歯51、52、53の全部又は一部との間に、硬度差を設けるようにしてもよい。すなわち、前歯部人工歯31、32、33の全部又は一部、あるいは、前歯部人工歯51、52、53の全部又は一部を被削歯としてもよい。
【0077】
このように、この発明においては、臼歯部人工歯のみならず前歯部人工歯をも含めた全ての人工歯が被削歯の対象となる。そして、任意の人工歯以奥の全部又は一部の人工歯を被削歯とすることができるが、とりわけ、任意の人工歯以奥の全ての人工歯を被削歯とし、当該任意の人工歯の前方向に隣接する歯(補綴された歯(義歯の人工歯を含む)、又は、天然歯(修復歯を含む))を、その対合歯と同等の硬度を有する歯とすることで、当該隣接する歯が、顎関節の矯正治療による下顎骨の移動の支点(固定点)となり、前記任意の人工歯以奥の人工歯(被削歯)の磨耗をいっそう促進させ、下顎頭を下顎窩最上部に速やかに誘導することが可能となる。
【0078】
なお、この実施形態においては、治療用義歯1の右側の人工歯を例に説明しているが、この発明は、もちろん、これに限定されるものではない。この発明は、治療用義歯1の左側の人工歯にも適用できるし、左右両側の人工歯に適用することもできる。左右両側の人工歯に適用する場合、左右対称の構成にすることもできるし、左右非対称の構成にすることもできる。
【0079】
左右非対称の構成にする場合、たとえば、実測したり統計値に基づいて推定したりするなどして、当該患者の左右の顎の症状、及び/又は、患者の左右の咬合力の大きさ、等を把握し、これらに基づいて、左右それぞれの人工歯における上下歯の硬度差を設定することもできる。このように構成すれば、患者の顎の症状や咬合力等が左右非対称であっても、さらにきめ細かく、患者に適した矯正治療期間を設定することができる。
【0080】
なお、この実施形態においては、対合する人工歯間において、相対的に硬度の低い人工歯を被削歯とし、その対合歯を研削歯としているが、この発明はこれに限定されるものではない。
【0081】
たとえば、対合する人工歯間において、対合歯との接触部分の硬度が相対的に高く、かつ、対合歯との接触部分の面積が通常の人工歯に比し小さい(好ましくは1/7ないし1/5程度)人工歯を研削歯として用い、当該対合歯を被削歯として用いることができる。
【0082】
また、対合する人工歯間において、対合歯との接触部分の硬度が相対的に高く、かつ、対合歯との接触部分の表面粗さが相対的に粗い人工歯を研削歯として用い、当該対合歯を被削歯として用いることができる。研削歯の前記表面粗さを粗くするには、たとえば、アルミナ(たとえば、粒径100〜200マイクロメートル程度)によるサンドブラスト処理を行えばよい。
【0083】
また、対合する人工歯間において、対合歯との接触部分の硬度が相対的に高く、かつ、対合歯との接触部分に1又は複数の鋭利なエッジを備えた人工歯を研削歯として用い、当該対合歯を被削歯として用いることができる。鋭利なエッジとしては、エッジの成す角度が90度以下であり、かつ、エッジの最小半径が0.1mm以下のものが例示できる。
【0084】
要は、咀嚼行為に伴う摩耗量が対合歯に比して大きくなるよう設定された人工歯を被削歯とし、その対合歯を研削歯とすればよい。
【0085】
また、上述の実施形態においては、顎関節の最適な矯正治療を行うために、患者の顎の症状や患者の咬合力等に応じて、被削歯と研削歯との間の硬度差を適宜、設定・変更するよう構成した例を説明しているが、この発明はこれに限定されるものではない。患者の顎の症状や患者の咬合力等に応じて、被削歯と研削歯との間の硬度差の他に、たとえば、研削歯における対合歯との接触部分の面積・表面粗さ・形状(エッジの有無、エッジの個数、エッジの鋭さの程度(エッジのなす角度・最小半径)など)等を設定・変更するようにしてもよい。顎関節の最適な矯正治療を行うためには、要は、患者の顎の症状や患者の咬合力等に応じて、咀嚼行為に伴う被削歯の摩耗量、換言すれば、咀嚼行為における研削歯の研削能力、を適宜、設定・変更すればよい。
【0086】
なお、この実施形態においては、総義歯の場合を例に説明しているが、この発明はこれに限定されるものではない。たとえば、部分義歯にも、この発明を適用することができる。さらに、研削歯は人工歯に限られるものではなく、たとえば、人工歯以外の補綴された歯や、天然歯(修復歯を含む)も研削歯たり得る。
【0087】
なお、第1の実施形態における上記各種バリエーションは、その性質上組合わせ不能なものを除き、任意に組合わせて実施することができる。
【0088】
つぎに、図1及び図2に示す治療用義歯1の動作について説明する。
【0089】
図3は、治療用義歯1装着後、所定期間経過したとき、すなわち、顎関節の矯正治療がほぼ完了した時点における咬合状態を概念的に示す側面図である。
【0090】
図4は、図3における治療用義歯1の部分を拡大した図面である。
【0091】
図5は、治療用義歯1に換えて最終義歯7を患者に装着した状態を概念的に示す側面図である。
【0092】
図2に示すように、治療用義歯1を患者に装着した初期の咬合状態においては、上顎用義歯2と下顎用義歯4との咬み合い自体は、なんら不都合はない。しかし、下顎骨9の下顎頭91が側頭骨8の下顎窩81の最上部81aから離れた位置にあるため、顎の関節の状態としては良くない。
【0093】
上述のように、顎の関節の最適位置は、咬合状態において下顎頭91が下顎窩81の中でそれ以上、上方向に移動しない位置、すなわち、下顎頭91が下顎窩81の最上部81aに位置する状態と考えられるからである。
【0094】
図2に示す状態で咀嚼を行うと、主に咬筋(図示せず)の作用により上顎用義歯2と下顎用義歯4とが咬合状態となり、咬筋に近い上下の臼歯部人工歯35、36、37と、55、56、57との間に、大きい押圧力が作用する。したがって、咀嚼を繰り返すことで、これらの押圧力に起因する臼歯部人工歯の磨耗が生ずる。
【0095】
この例では、磨耗は、相対的に硬度の低い下顎用義歯4の臼歯部人工歯55,56,57(被削歯)に生ずる。臼歯部人工歯55,56,57に磨耗が生ずると、その分だけ、咬合状態における下顎頭91の位置が下顎窩81の中で、上方向に移動する。
【0096】
このように、咀嚼を繰り返すことで、下顎用義歯4の臼歯部人工歯55,56,57(被削歯)に選択的に磨耗が生ずるので、調整作業がある程度自動化され、施術者による調整作業の困難性や頻度が低減される。たとえば、従来、2〜3日に一度、状況によっては毎日のように必要であった、施術者による調整作業が、1ヶ月に1回程度で済むようになる。
【0097】
これを繰り返すうち、咬合状態における下顎頭91の位置が下顎窩81の最上部81aに至る。この状態が、図3に示す状態である。
【0098】
この状態になれば、咬合時に、下顎窩81の中で下顎頭91がこれ以上うえに移動することがないため、下顎窩81の最上部81aを支点とするテコの原理により、咬筋による咬合力が、上下の人工歯間に、最も効率的に作用する。つまり、この状態が、顎の関節が最適位置にきた状態である。この状態になれば、治療用義歯1による顎関節の矯正治療は終了する。
【0099】
図4に、図3における人工歯の状態を拡大して示す。図中、2点鎖線で示す部分は、咀嚼に伴う磨耗(又は、咀嚼に伴う磨耗及び施術者による補助的な調整作業)により消滅した部分である。被削歯である臼歯部人工歯55,56,57の一部が磨耗等により消滅しているが、その余の人工歯には変化がない。また、臼歯部人工歯55,56,57のうち、より奥にある被削歯のほうが磨耗量が大きい。
【0100】
治療用義歯1を用いた顎関節の矯正治療が終了すると、その状態(すなわち、顎の関節が最適位置にきた状態)における咬合採得を行い、これにより得られた顎位に基づいて、咬合平面の再構築、人工歯の再排列等を行い、図7に示す最終義歯7を作成するのである。
【0101】
つぎに、この発明の第2の実施形態による治療用義歯101について説明する。第1の実施形態においては、上顎用義歯2の臼歯部人工歯、つまり研削歯として解剖学的人工歯を用いた場合を例に説明したが、この発明はこれに限定されるものではない。研削歯として機能的人工歯を用いることもできる。また、研削歯として、解剖学的人工歯と機能的人工歯とを混用することもできる。
【0102】
図6Aは、治療用義歯101を構成する上顎用義歯102の平面図である。図6Bは、治療用義歯101を構成する下顎用義歯104の平面図である。
【0103】
図6Aに示すように、上顎用義歯102の臼歯部人工歯のうち、第2小臼歯以奥に対応する人工歯135、136,137は、機能的人工歯の一種であるブレード人工歯(ブレード106を備えた人工歯)である。
【0104】
この例は、咬合様式としてリンガライズドオクリュージョン(舌側化咬合)を採用した場合の例であり、したがって、人工歯135、136,137の咬頭部(歯冠咬合面の突起)のうち舌側咬頭部が、それぞれブレード106で構成されている。要は、咬合様式に応じて、対合歯の干渉部分を磨耗させやすいと思われる咬頭部をブレード106で構成すればよい。
【0105】
人工歯135、136,137として、既成のブレード人工歯を用いることもできるが、既成のブレード人工歯の場合、第1大臼歯に相当する人工歯136については、2個の舌側咬頭部のうち第2小臼歯側(前側)の咬頭部のみブレード106で構成され、第2大臼歯側(奥側)の咬頭部は、ブレードではなく、人工歯本体の一部として、対合歯(被削歯)と同程度の硬度を有する材料(たとえば硬質レジン)により構成されているのが一般的である。このため、咀嚼時に、人工歯136の第2大臼歯側(奥側)の咬頭部と対合歯が当接してしまい、それ以上対合歯が磨耗せず、本願発明の機能が十分発揮できないことがある。
【0106】
そこで、図6Aに示すように、この例では、第1大臼歯に相当する人工歯136については、2個の舌側咬頭部のいずれも(すなわち、第2小臼歯側の咬頭部及び第2大臼歯側の咬頭部のいずれも)ブレード106で構成している。
【0107】
ブレード106の材質に関しては、対合歯(被削歯)に対して相対的に硬度が高いものであれば、とくに限定されるものではないが、たとえば、硬質レジン製(20〜47Hv)、金属製(100〜365Hv)、セラミック製(460〜500Hv)、対合歯との接触面にダイアモンド粒子(9000Hv)や炭化ケイ素粒子(2150〜2200Hv)を固着したもの等を用いることができる。この例では、ブレード106の材質として、比較的硬度の高いコバルトクロム合金系(290〜365Hv)を用いている。
【0108】
ブレード106ひとつあたりの咬合時における対合歯との接触面積は、とくに限定されるものではないが、一般的な人工歯(陶歯や硬質レジン歯等の通常の人工歯)のそれの1/5ないし1/7程度が好ましい。
【0109】
たとえば、通常の人工歯における対合歯と接触する咬頭部の直径が0.2〜0.5mmとすると、その面積の1/7程度が好ましいとすれば、0.00448〜0.027mm2となり、その面積の1/5程度が好ましいとすれば、0.00628〜0.039mm2となる。したがって、ブレード106ひとつあたりの咬合時における対合歯との接触面積は、好ましくは、0.00448〜0.039mm2である。
【0110】
このように、研削歯としてブレード人工歯を用いることで、高い硬度が得られると同時に、被削歯である対合歯との接触面積を小さくできることから接触圧をあげることができ、矯正治療期間中における対合歯の単位時間あたりの磨耗量を大きくすることが可能となる。
【0111】
なお、ブレードの形状はとくに限定されるものではないが、この実施形態においては、歯冠咬合面から対合歯に向けて十字状の刃が突設されたブレード106を用いている。このような形状のブレードを用いることで、咀嚼時における対合歯の前後左右の動きに対応して、効果的に対合歯を磨耗させることができる。
【0112】
また、ブレード人工歯の形態については、上述のように、硬質レジン等により構成された人工歯本体にブレードを埋め込んだ形態のものでも良いし、たとえば、複数のブレードどうしを同種又は異種の材料(たとえば金属)で連結してなる形態(この場合は、上述の人工歯本体は存在しない)のものであってもよく、とくに限定されるものではない。
【0113】
なお、治療用義歯101のその余の構成及び動作は、治療用義歯1の場合と同様である。また、治療用義歯1におけるバリエーションは、その性質上治療用義歯101に適用できないものを除き、治療用義歯101にも適用される。
【0114】
つぎに、この発明の第3の実施形態による治療用義歯201について説明する。図7Aは、治療用義歯201を構成する上顎用義歯202の平面図である。図7Bは、治療用義歯201を構成する下顎用義歯204の平面図である。
【0115】
前述の第2の実施形態における治療用義歯101(図6A参照)においては、上顎用義歯102の第1大臼歯に相当する人工歯136については、2個の舌側咬頭部のいずれも(すなわち、第2小臼歯側の咬頭部及び第2大臼歯側の咬頭部のいずれも)ブレード106で構成しているが、図7Aに示す治療用義歯201における上顎用義歯202の第1大臼歯に相当する人工歯236の構成は、これと異なる。
【0116】
図7Aに示すように、人工歯236については、2個の舌側咬頭部のうち第2小臼歯側(前側)の咬頭部がブレード106で構成されている点は、治療用義歯101や既成のブレード人工歯の場合と同様であるが、第2大臼歯側(奥側)の咬頭部に対応する部分236aは、通常の咬頭部の高さよりも低くなるよう形成されている点で、治療用義歯101の場合と異なるし、既成のブレード人工歯の場合とも異なる。
【0117】
すなわち、人工歯236の第2大臼歯側(奥側)の咬頭部に対応する部分236aは、上顎用義歯202と下顎用義歯204との咬合時に、対合歯と接触しないよう低めに構成されている。このため、咀嚼時に、当該人工歯の第2大臼歯側(奥側)の咬頭部と対合歯が当接してしまってそれ以上対合歯が磨耗しない、といった不都合がない。
【0118】
したがって、たとえば、既成のブレード人工歯の第2大臼歯側(奥側)の咬頭部を削りとるだけで、対合歯を磨耗させる機能を十分発揮することができる。
【0119】
なお、図7Aにおいては、人工歯236の2個の舌側咬頭部のうち第2小臼歯側(前側)の咬頭部をブレード106で構成し、第2大臼歯側(奥側)の咬頭部に対応する部分236aを、通常の咬頭部の高さよりも低くなるよう形成したが、この逆、つまり、第2大臼歯側(奥側)の咬頭部をブレード106で構成し、第2小臼歯側(前側)の咬頭部に対応する部分を、通常の咬頭部の高さよりも低くなるよう形成してもよい。
【0120】
要するに、人工歯236の2個の舌側咬頭部のうち一方の咬頭部をブレード106で構成し、他方の咬頭部に対応する部分を、上顎用義歯202と下顎用義歯204との咬合時に、対合歯と接触しないように、通常の咬頭部の高さよりも低くなるよう形成すればよい。
【0121】
治療用義歯201のその余の構成及び動作は、治療用義歯101の場合と同様である。また、上述の各実施形態におけるバリエーションは、その性質上治療用義歯201に適用できないものを除き、治療用義歯201にも適用される。
【0122】
つぎに、この発明の第4の実施形態による治療用義歯301について説明する。図8Aは、治療用義歯301を構成する上顎用義歯302の平面図である。図8Bは、治療用義歯301を構成する下顎用義歯304の平面図である。
【0123】
図8Aに示す治療用義歯301と前述の治療用義歯201(図7A参照)とは、いずれも、上顎用義歯の第1大臼歯に相当する人工歯336(図8A)、236(図7A)が、1つのブレード106を備えている点で共通するが、治療用義歯201においては、人工歯236の2個の舌側咬頭部のうち第2小臼歯側(前側)の咬頭部がブレード106で構成され、第2大臼歯側(奥側)の咬頭部に対応する部分236aは、通常の咬頭部の高さよりも低くなるよう形成されているところ、治療用義歯301においては、人工歯336の2個の舌側咬頭部に対応する部分336a、336bは、いずれも通常の咬頭部の高さよりも低くなるよう形成され、これらの部分336a、336bの間に、通常の咬頭部の高さと同等程度の高さを有するブレード106が植立されている点で、異なる。
【0124】
すなわち、人工歯336の2個の舌側咬頭部に対応する部分336a、336bは、いずれも、上顎用義歯302と下顎用義歯304との咬合時に、対合歯と接触しないよう低めに構成されている。このため、咀嚼時に、当該人工歯の2つの咬頭部と対合歯が当接してしまってそれ以上対合歯が磨耗しない、といった不都合がない。
【0125】
このように、人工歯336の2個の舌側咬頭部に対応する部分336a、336bの中間位置にブレード106を配置することで、効率的に対合歯を磨耗させることができる。
【0126】
治療用義歯301のその余の構成及び動作は、治療用義歯201の場合と同様である。また、上述の各実施形態におけるバリエーションは、その性質上治療用義歯301に適用できないものを除き、治療用義歯301にも適用される。
【0127】
なお、上記第2ないし第4の実施形態に記載された発明のうち上顎用義歯の第1大臼歯に相当する人工歯については、次のように把握することもできる。
【0128】
すなわち、上顎用義歯の第1大臼歯に相当する人工歯について、2個の舌側咬頭部(第2小臼歯側の咬頭部及び第2大臼歯側の咬頭部)の少なくとも一方の咬頭部をブレードで構成し、又は、両咬頭部の中間位置に通常の咬頭部の高さと同等程度の高さを有するブレードを植立し、かつ、ブレードで構成されていない咬頭部に対応する部分を、上顎用義歯と下顎用義歯との咬合時に、対合歯と接触しないように、通常の咬頭部の高さよりも低くなるよう形成している。
【0129】
つぎに、この発明の第5の実施形態による治療用義歯401について説明する。図9Aは、治療用義歯401を構成する上顎用義歯402の平面図である。図9Bは、治療用義歯401を構成する下顎用義歯404の平面図である。
【0130】
治療用義歯401においては、人工歯に取付けられたブレード406が、顎関節の矯正治療中に取替え可能に構成されている点で、ブレード106を取替えることが想定されていない治療用義歯301(図8A参照)等の場合と異なる。
【0131】
図10は、図9Aに示す上顎用義歯402の第1大臼歯に相当する人工歯436のX−X断面を概念的に示す図面である。図10に示すように、人工歯436の本体436cの適部には、ブレード406を保持するためのブレード保持枠407が埋め込まれて固着されている。
【0132】
ブレード保持枠407の形状及び構造はとくに限定されるものではないが、この例では、大径部407aと、これに続く小径部407bとを有する2段の段付き有底円筒状に形成され、小径部407bの内側には雌ねじが形成されている。ブレード保持枠407の材料はとくに限定されるものではないが、たとえば、チタン等の歯科用の金属を使用することができ、好ましくは、後述するブレード406の基部406bを構成する材料と同一の材料である。
【0133】
ブレード保持枠407と人工歯436の本体436cとの結合方法は、とくに限定されるものではないが、たとえば、嵌合や圧入などの機械的結合、接着による結合、化学的結合等がある。接着方法として、たとえば、4−META/MMA−TBB接着性レジンを用いることができる。
【0134】
ブレード406は、ブレード部406aと、これに続く基部406bとを備えている。基部406bは、略円柱状の雄ねじ部406cと、これに続く円板部406dとを備えている。ブレード406の雄ねじ部406cをブレード保持枠407の小径部407bにねじ込むことによって、ブレード406の円板部406dのネジ側の端面とブレード保持枠407の段部とが当接する。これによって、ブレード406が人工歯436に固定される。
【0135】
ブレード部406aと基部406bとは、同一材料を用いて一体的に形成してもよいが、別々に形成し、両者を結合するようにしてもよい。ブレード部406aと基部406bとを結合する場合、その方法はとくに限定されるものではないが、たとえば、嵌合や圧入などの機械的結合、接着による結合、化学的結合等がある。
【0136】
図10に示す例においては、ブレード部406aは、上述のブレード106と同様の形状、すなわち、咬合面から対合歯に向けて十字状の刃が突設された形状を備え、ブレード106と同様の材料により構成されている。そして、この実施形態においては、研削能力の異なる(例えば、対合歯との接触部分の硬度差・面積・表面粗さ・形状(エッジの有無、エッジの個数、エッジの鋭さの程度(エッジのなす角度・最小半径)等の異なる)ブレード部406aを有する複数のブレード406を用意しておき、顎関節の矯正治療の進行状況等に応じて、適宜、ブレード406を取替えることができるようにしてある。
【0137】
たとえば、コバルトクローム合金製のブレード部406aを有するブレード406を取り付けた人工歯436を備えた治療用義歯401を用いて顎関節の矯正治療中に、人工歯436の対合歯の磨耗量が少なすぎると判断した場合は、研削能力のより高い(例えば、硬度のより高い)ブレード部(たとえば、セラミック製のブレード部)を有するブレードに取り替えるのである。
【0138】
逆に、人工歯436の対合歯の磨耗量が多すぎると判断した場合は、研削能力のより低い(例えば、硬度のより低い)ブレード部(たとえば、硬度100Hv程度の金属製ブレード部や硬質レジン製のブレード部)を有するブレードに取り替えるのである。
【0139】
このように構成することで、顎関節の矯正治療の進行状況をみながら、対合歯をまったく研削しないよう設定する場合も含め、最適な研削能力を有する研削歯を適宜選択することができる。このため、患者の顎の症状の変化や咬合力の変化等に基づいて、さらにきめ細かく、患者に適した顎関節の矯正治療を行うことができる。
【0140】
ここでは、人工歯436における例について説明したが、ブレードを有する他の人工歯435、437等にも、この発明を適用することができる。もちろん、ブレードを有する全ての人工歯に、この発明を適用しても良いし、ブレードを有する人工歯のうち一部の人工歯にのみこの発明を適用することもできる。
【0141】
治療用義歯401のその余の構成及び動作は、治療用義歯301の場合と同様である。また、上述の各実施形態におけるバリエーションは、その性質上治療用義歯401に適用できないものを除き、治療用義歯401にも適用される。さらに、上述の治療用義歯101、201にも、この発明を適用することができる。
【0142】
なお、人工歯に取付けられたブレードを取替え可能に構成する例として、ネジ結合によりブレードと人工歯の本体とを結合する場合について説明したが(図10参照)、ブレード取替えの態様は、これに限定されるものではない。
【0143】
図11は、この発明の第6の実施形態による治療用義歯501、すなわち、人工歯に取付けられたブレードを取替え可能に構成する別の例に関する図面であって、図10と同様に、治療用義歯501を構成する上顎用義歯の第1大臼歯に相当する人工歯536の適部断面を概念的に示す図面である。
【0144】
図11に示すように、この実施形態におけるブレード506は、ブレード部506aと、これに続く基部506bとを備ている。基部506bは、略円柱状の円柱部506cと、これに続く円板部506dとを備えている。
【0145】
人工歯536の本体536cの咬合面側にブレード装着用凹部536dが穿設されている。このブレード装着用凹部536dに、接着剤やレジン(たとえば上述の低重合レジン)等の固着用介そう物507を介して、ブレード506の基部506bを挿入して固定するのである。人工歯536からブレード506を取り外すには、たとえば、既知の方法(加熱、溶媒付与、切削等)により固着用介そう物507を除去すればよい。
【0146】
治療用義歯501のその余の構成及び動作は、治療用義歯401の場合と同様である。また、上述の各実施形態におけるバリエーションは、その性質上治療用義歯501に適用できないものを除き、治療用義歯501にも適用される。
【0147】
上述の各実施形態においては、たとえば図1Bに示すように、被削歯に相当する人工歯55,56,57の咬合面の形態として、咬合面に小窩裂溝(咬頭部間の溝)が形成されたものを例示しているが、この発明はこれに限定されるものではない。
【0148】
図12は、この発明の第7の実施形態による治療用義歯601を構成する下顎用義歯604の平面図である。下顎用義歯604を構成する被削歯に相当する人工歯655,656,657の咬合面はフラット(咬合面が平らで咬合面に小窩裂溝のない形態)になっている。
【0149】
被削歯の咬合面の形態をフラットにすることで、対合歯間の引掛かりが抑制され、下顎頭が下顎窩最上部に誘導される際の上顎に対する下顎の位置移動を妨げず、下顎の移動がスムーズに行われるからである。その結果、より効率的に、顎関節の矯正治療を行うことができる。もっとも、下顎の滑動がスムーズに行われる範囲であれば、被削歯の咬合面に小窩裂溝の形態を付与したものであっても、なんら問題ない。
【0150】
また、被削歯に相当する人工歯のうち一部の人工歯についてのみ、咬合面の形態をフラットにしたり、下顎の滑動がスムーズに行われる範囲内で被削歯の咬合面に小窩裂溝の形態を付与したりすることもできる。
【0151】
治療用義歯601のその余の構成及び動作は、治療用義歯1の場合と同様である。また、上述の各実施形態におけるバリエーションは、その性質上治療用義歯601に適用できないものを除き、治療用義歯601にも適用される。
【0152】
上記においては、本発明を好ましい実施形態として説明したが、各用語は、限定のために用いたのではなく、説明のために用いたものであって、本発明の範囲および精神を逸脱することなく、添付のクレームの範囲において、変更することができるものである。また、上記においては、本発明のいくつかの典型的な実施形態についてのみ詳細に記述したが、当業者であれば、本発明の新規な教示および利点を逸脱することなしに上記典型的な実施形態において多くの変更が可能であることを、容易に認識するであろう。したがって、そのような変更はすべて、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0153】
1:治療用義歯
2:上顎用義歯
4:下顎用義歯
34:上顎用の臼歯部人工歯
35:上顎用の臼歯部人工歯
36:上顎用の臼歯部人工歯
37:上顎用の臼歯部人工歯
54:下顎用の臼歯部人工歯
55:下顎用の臼歯部人工歯
56:下顎用の臼歯部人工歯
57:下顎用の臼歯部人工歯
81:下顎窩
81a:下顎窩の最上部
91:下顎頭
特許出願人 大前 太美雄
出願人代理人 弁理士 田川 幸一
【技術分野】
【0001】
この発明は義歯に関し、とくに、最終義歯作成に先立って患者に装着される治療用義歯に関する。
【背景技術】
【0002】
長期使用を目的とする通常の義歯すなわち最終義歯をいきなり作成する所謂一回法に代えて、最終義歯作成の前にまず治療用義歯を作成し、これを患者に装着する方法が提案されている。
【0003】
すなわち、最終義歯作成に先だってまず治療用義歯を作成し、その治療用義歯を患者に使用してもらいながら様々な調整を加えて行くことで、より機能的な形態をつくりだし、患者、施術者ともに満足できる状態になった時点で、その治療用義歯を最終義歯に置き換えるのである。
【0004】
このように、治療用義歯を用いることで、たとえば、長年適合の悪い義歯を装着していた患者のように通常の咬合採得では正常な顎位を導き出すことができない場合であっても、治療用義歯に、順次、調整を加えて行くことで、より機能的な形態の義歯を得ることが可能となる(特許文献1の「従来の技術」第「0002」〜「0008」欄参照)。
【0005】
しかしながら、従来の治療用義歯を用いる方法には、次のような問題がある。たとえば上述のように、長年適合の悪い義歯を装着していた等の理由により、咬合時の顎の関節が最適位置(下顎頭が下顎窩最上部に位置する状態)にない患者の場合、とりあえず、その時点における咬合採得により得られた顎位に基づいて、咬み合わせを決定し、上下の治療用義歯を作成する。
【0006】
患者がその治療用義歯を使用して食物を咀嚼していると、咬筋等の作用により顎の関節が徐々に最適位置に近づいて行くのであるが、顎の関節が最適位置に近づいて行くにつれ、最初に得られた顎位に基づいて決定された咬み合わせに、部分的な不具合(主に上下の臼歯部人工歯の干渉)が生じてくる。
【0007】
この不具合を放置すると、歯肉の部分的な圧迫によって咀嚼時に痛みを感じたり、義歯が歯肉から外れたりして、それ以上食物を咀嚼することができなくなる。食物を咀嚼することができなくなると、せっかく最適位置に近づいていた顎の関節が、それ以上改善されなかったり、最悪の場合、元に戻ってしまったりする。
【0008】
したがって、治療用義歯を用いて顎関節を最適位置に誘導するためには、不具合が生ずる都度、この不具合を解消すべく、人工歯の干渉部分を削る等の調整を加えて行く必要がある。
【0009】
しかし、この調整作業は、複数箇所にわたる干渉部位(削るべき部位)と干渉の程度(削るべき深さ)をそれぞれ特定して行う必要があり、適切に行うためには高度の熟練が必要となる困難な作業である。
【0010】
しかも、顎の関節が最適位置でない患者の場合、治療用義歯を用いても、顎の関節が最適位置になるまでに4ヶ月ないし6ヶ月を要することが多い。この間、2〜3日に一度、状況によっては毎日のように、人工歯を削る等の調整作業が必要になる。つまり、頻繁に調整作業を行う必要がある。
【0011】
すなわち、従来の治療用義歯を用いる方法は、とりわけ顎の関節の矯正治療(あるいはリハビリ)を有効に行うためには、患者および施術者の負担が極めて大きい、という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平10−287522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
この発明は、このような従来技術における問題を解決し、調整作業の困難性や頻度を低減して患者及び施術者の負担を軽減し、顎関節の矯正治療効果の高い治療用義歯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明による治療用義歯は、最終義歯作成に先だって患者に装着される治療用義歯であって、義歯床に人工歯を植立した上顎用義歯及び/又は下顎用義歯を備え、前記上顎用義歯又は下顎用義歯のいずれかを構成する人工歯であって顎関節が最適位置に近づくと対合歯との間で干渉を生ずる可能性のある人工歯を、咀嚼行為に伴う摩耗量が対合歯に比して大きくなるよう設定された人工歯である被削歯とし、咀嚼行為に伴い前記被削歯を摩耗させることで顎関節を最適位置に誘導するよう構成したこと、を特徴とする。
【0015】
本発明の特徴は、上記のように広く示すことができるが、その構成や内容は、目的および特徴とともに、図面を考慮に入れた上で、以下の開示によりさらに明らかになるであろう。
【発明の効果】
【0016】
本願の第1発明による治療用義歯は、最終義歯作成に先だって患者に装着される治療用義歯であって、義歯床に人工歯を植立した上顎用義歯及び/又は下顎用義歯を備え、前記上顎用義歯又は下顎用義歯のいずれかを構成する人工歯であって顎関節が最適位置に近づくと対合歯との間で干渉を生ずる可能性のある人工歯を、咀嚼行為に伴う摩耗量が対合歯に比して大きくなるよう設定された人工歯である被削歯とし、咀嚼行為に伴い前記被削歯を摩耗させることで顎関節を最適位置に誘導するよう構成したこと、を特徴とする。
【0017】
顎の関節が最適位置でない患者の場合、患者が治療用義歯を使用して食物を咀嚼していると、咬筋等の作用により顎の関節が徐々に最適位置に近づいて行くが、これに伴い、最初に得られた顎位に基づいて決定された咬み合わせに不具合が生じてくる。すなわち、一部の対合歯間で干渉が生ずるのであるが、顎関節をさらに最適位置に近づけるためには、この干渉を除去し、顎関節の矯正治療を継続する必要がある。
【0018】
そこで、このような対合歯の一方を被削歯とし、咀嚼行為に伴う摩耗量が対合歯に比して大きくなるよう設定しておくことで、咀嚼行為に伴い被削歯を自動的にかつ選択的に磨耗させ、もって顎関節を最適位置に誘導することができる。
【0019】
すなわち、この治療用義歯を用いれば、調整作業がある程度自動化されることで施術者による義歯の調整作業の困難性や頻度が低減され、患者及び施術者の負担が軽減される。その結果、とくに高度な熟練を要することなく、顎関節の矯正治療効果を高めることができる。
【0020】
本願の第2発明による治療用義歯は、本願の第1発明による治療用義歯において被削歯における対合歯との接触部分の硬度が、当該対合歯のそれに比して低くなるよう構成したこと、を特徴とする。
【0021】
被削歯における対合歯との接触部分の硬度が、当該対合歯のそれに比して低くなるよう構成することで、容易に、被削歯の咀嚼行為に伴う摩耗量が対合歯に比して大きくなるよう設定することができる。
【0022】
本願の第3発明による治療用義歯は、本願の第2発明による治療用義歯において、被削歯は、対合歯との接触部分が合成樹脂により構成され、被削歯の対合歯は、ブレードを備えた人工歯であること、を特徴とする。
【0023】
したがって、被削歯の合成樹脂部分と、相対的に硬度が高い上に被削歯との接触面積が小さい(したがって接触圧の高い)ブレードと、を咬み合わせることで、ブレードと接触する合成樹脂部分を、より速やかに磨耗させることが可能となる。また、ブレードの硬度、対合歯との接触面積、形状、表面粗さ等を選択する自由度が高いことから、患者の顎の症状や咬合力に対応させて、研削歯の研削能力を適正に設定するのが容易である。
【0024】
本願の第4発明による治療用義歯は、本願の第3発明による治療用義歯において、ブレードを備えた人工歯は、顎関節の矯正治療中にブレードが取替え可能に構成されていること、を特徴とする。
【0025】
したがって、顎関節の矯正治療の進行状況等に応じて、適宜、ブレードを取替えることができる。このため、顎関節の矯正治療の進行状況をみながら、最適な研削能力を有する研削歯を適宜選択することができる。すなわち、患者の顎の症状の変化や咬合力の変化等に基づいて、さらにきめ細かく、患者に適した顎関節の矯正治療を行うことができる。
【0026】
本願の第5発明による治療用義歯は、本願の第1ないし第4のいずれかの発明による治療用義歯において、被削歯は、第2小臼歯以奥の人工歯であること、を特徴とする。
【0027】
患者が治療用義歯の使用を継続し、咀嚼運動の繰り返しによる矯正治療効果として、顎の関節が最適位置でない状態から最適位置へと移動して行く(換言すれば、下顎骨の下顎頭が側頭骨の下顎窩最上部へと移動して行く)と、臼歯部の人工歯のうち、より奥に位置する人工歯により大きい不具合(より大きい干渉)が生ずる傾向がある。
【0028】
このことから、下顎頭を下顎窩最上部に速やかに誘導するために、第1小臼歯をあえて磨耗させず、これを矯正治療による下顎骨の移動の支点(固定点)とみなし、第2小臼歯以奥の人工歯のみを積極的に磨耗させるのが合理的である。
【0029】
すなわち、第2小臼歯以奥の人工歯のみを積極的に磨耗させることで、顎関節の矯正治療をより効率的に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1Aは、治療用義歯1を構成する上顎用義歯2の平面図である。図1Bは、治療用義歯1を構成する下顎用義歯4の平面図である。
【図2】図2は、治療用義歯1を患者に装着した初期の咬合状態を概念的に示す側面図である。
【図3】図3は、治療用義歯1装着後、所定期間経過したときの咬合状態を概念的に示す側面図である。
【図4】図4は、図3における治療用義歯1の部分を拡大した図面である。
【図5】図5は、治療用義歯1に換えて最終義歯7を患者に装着した状態を概念的に示す側面図である。
【図6】図6Aは、治療用義歯101を構成する上顎用義歯102の平面図である。図6Bは、治療用義歯101を構成する下顎用義歯104の平面図である。
【図7】図7Aは、治療用義歯201を構成する上顎用義歯202の平面図である。図7Bは、治療用義歯201を構成する下顎用義歯204の平面図である。
【図8】図8Aは、治療用義歯301を構成する上顎用義歯302の平面図である。図8Bは、治療用義歯301を構成する下顎用義歯304の平面図である。
【図9】図9Aは、治療用義歯401を構成する上顎用義歯402の平面図である。図9Bは、治療用義歯401を構成する下顎用義歯404の平面図である。
【図10】図10は、図9Aに示す上顎用義歯402の第1大臼歯に相当する人工歯436のX−X断面を概念的に示す図面である。
【図11】図11は、治療用義歯501を構成する上顎用義歯の第1大臼歯に相当する人工歯536の適部断面を概念的に示す図面である。
【図12】図12は、この発明の第7の実施形態による治療用義歯601を構成する下顎用義歯604の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
総義歯の場合を例に、この発明の第1の実施形態による治療用義歯1について説明する。
【0032】
図1Aは、治療用義歯1を構成する上顎用義歯2の平面図である。図1Bは、治療用義歯1を構成する下顎用義歯4の平面図である。
【0033】
図2は、治療用義歯1を患者に装着した初期の咬合状態を概念的に示す側面図であって、説明のため、咬筋や、下顎頭91と下顎窩81との間にある関節円板等は省略し、治療用義歯1並びに側頭骨8及び下顎骨9を抜粋記載した図面である。
【0034】
図1A、図1B及び図2に示すように、治療用義歯1は、最終義歯7(図5参照)の作成に先立って患者に装着される義歯であって、上顎用義歯2及び下顎用義歯4を備えている。
【0035】
上顎用義歯2は、一般的な義歯と同様に、義歯床21に多数の人工歯3を排列した構造を備えている。下顎用義歯4も、一般的な義歯と同様に、義歯床41に多数の人工歯5を排列した構造を備えている。義歯床21及び41の構成は、とくに限定されるものではなく、たとえば、一般的な義歯床材料であるアクリルレジン等の床用レジンのみで構成したり、アクリルレジンと軟質レジンとを併用した義歯床としたり、所謂金属床を用いたりすることができる。
【0036】
上顎用義歯2を構成するすべての臼歯部人工歯34、35、36、37は陶歯である。
【0037】
一方、下顎用義歯4を構成する臼歯部人工歯のうち、第1小臼歯に対応する人工歯54は、対合する上顎用義歯2の人工歯3と同程度の硬度を有する陶歯である。
【0038】
そして、下顎用義歯4を構成する臼歯部人工歯のうち第2小臼歯以奥に対応する人工歯55、56,57は、対合する上顎用義歯2の人工歯3に対して相対的に硬度の低いアクリルレジン歯を用いている。
【0039】
つまり、この実施形態では、対合する人工歯間において相対的に硬度の低い人工歯55、56,57が、被削歯に該当する。なお、被削歯に対合する歯を研削歯と呼ぶ。この例では、被削歯である人工歯55、56,57に対合する上顎用義歯2の人工歯35、36、37が研削歯に該当する。
【0040】
なお、咀嚼行為に伴う単位時間あたりの被削歯の磨耗量は、研削歯との硬度差・接触面積、研削歯の接触部の形状・表面粗さ、咀嚼力(咬合力)、咀嚼頻度、咀嚼時における対合歯間の滑り距離、咀嚼対象となる食物等により影響を受け、定量的に評価するのは必ずしも容易ではないが、経験上、硬度差に依存する度合いが大きいと考えられる。すなわち、他の条件が同じであれば、研削歯との硬度差が大きいほど被削歯の磨耗量も大きいと考えられる。そこで、咀嚼行為に伴う単位時間あたりの被削歯の磨耗量の指標として、研削歯との硬度差を用いることができる。
【0041】
さて、上述のように、この実施形態においては、研削歯として陶歯を用い、被削歯としてアクリルレジン歯を用いた場合を例に説明しているが、この発明はこれに限定されるものではない。
【0042】
解剖学的人工歯として、たとえば、陶歯(460〜500Hv)の他、ポリサルフォンレジン歯、ポリカーボネートレジン歯、硬質レジン歯(20〜47Hv)、アクリルレジン歯(18〜20Hv)等のレジン歯が用いられているが、これらのうち、相対的に硬度の高いものを、研削歯として用い、相対的に硬度の低いものを、被削歯として用いることができる。
【0043】
もっとも、対合歯間における硬度の違いが大きいほど磨耗量も大きいことから、顎関節の矯正治療期間を短くする必要がある場合は、研削歯と被削歯の組み合わせとして、上述の例のように、硬度の差が大きい陶歯とアクリルレジン歯とを組合わせることが好ましい。
【0044】
また、被削歯として、上述のアクリルレジン歯よりさらに硬度の低い合成樹脂製の人工歯(好ましくは10〜17Hv、より好ましくは10〜15Hv、さらに好ましくは10〜14Hv、さらにより好ましくは12.5〜13.5Hv。以下、これらを便宜上「低重合レジン歯」と呼ぶ。)を用いることができる。このような低重合レジン歯の構成や製造方法はとくに限定されるものではないが、たとえば、アクリルレジン歯と同様の主成分を有する構成において、重合度等を制御することにより得ることができる。
【0045】
このように、被削歯としては、とくに限定されるものではないが、たとえば、低重合レジン歯又はレジン歯を用いることができ、好ましくは低重合レジン歯又はアクリルレジン歯、より好ましくは低重合レジン歯、さらに好ましくは硬度が10〜15Hv程度の低重合レジン歯、さらにより好ましくは硬度が10〜14Hv程度の低重合レジン歯、最も好ましくは硬度が12.5〜13.5Hv程度の低重合レジン歯である。
【0046】
これを、硬度(ビッカース硬さ)の観点からみれば、次のように表現できる。すなわち、被削歯として用いることができる人工歯の硬度は、とくに限定されるものではないが、たとえば、10〜47Hv程度、好ましくは10〜20Hv程度、より好ましくは10〜17Hv程度、さらに好ましくは10〜15Hv程度、さらにより好ましくは10〜14Hv程度、最も好ましくは12.5〜13.5Hv程度である。
【0047】
一方、研削歯としては、とくに限定されるものではないが、たとえば、上述の陶歯や後述の各種ブレード人工歯を用いることができ、好ましくは陶歯、又は、ダイアモンド粒子や炭化ケイ素粒子を固着したブレード、セラミック製ブレード若しくは硬度100Hv程度以上の金属製ブレードを有するブレード人工歯、より好ましくは、陶歯、又は、ダイアモンド粒子や炭化ケイ素粒子を固着したブレード、セラミック製ブレード若しくは硬度200Hv程度以上の金属製ブレードを有するブレード人工歯、さらに好ましくは、陶歯、又は、ダイアモンド粒子や炭化ケイ素粒子を固着したブレード、セラミック製ブレード若しくは硬度290Hv程度以上の金属製ブレードを有するブレード人工歯である。
【0048】
これを、硬度(ビッカース硬さ)の観点からみれば、次のように表現できる。すなわち、研削歯として用いることができる人工歯の硬度は、とくに限定されるものではないが、たとえば、好ましくは100〜9000Hv程度、より好ましくは200〜9000Hv程度、さらに好ましくは290〜9000Hv程度である。
【0049】
なお、研削歯と被削歯との硬度差(ビッカース硬さHvの差)は、とくに限定されるものではないが、たとえば、80〜8990程度(たとえば、被削歯として低重合レジン歯又はアクリルレジン歯を用い、研削歯として陶歯、又は、接触部の硬度が100Hv程度以上のブレードを有するブレード人工歯を用いた場合)、好ましくは83〜8990程度(たとえば、被削歯として低重合レジン歯を用い、研削歯として陶歯、又は、接触部の硬度が100Hv程度以上のブレードを有するブレード人工歯を用いた場合)、より好ましくは86〜8990程度(たとえば、被削歯として硬度が10〜14Hv程度の低重合レジン歯を用い、研削歯として陶歯、又は、接触部の硬度が100Hv程度以上のブレードを有するブレード人工歯を用いた場合)、さらに好ましくは186〜8990程度(たとえば、被削歯として硬度が10〜14Hv程度の低重合レジン歯を用い、研削歯として陶歯、又は、接触部の硬度が200Hv程度以上のブレードを有するブレード人工歯を用いた場合)、さらにより好ましくは276〜8990程度(たとえば、被削歯として硬度が10〜14Hv程度の低重合レジン歯を用い、研削歯として陶歯、又は、接触部の硬度が290Hv程度以上のブレードを有するブレード人工歯を用いた場合)、最も好ましくは276.5〜8987.5程度(たとえば、被削歯として硬度が12.5〜13.5Hv程度の低重合レジン歯を用い、研削歯として陶歯、又は、接触部の硬度が290Hv程度以上のブレードを有するブレード人工歯を用いた場合)である。
【0050】
また、患者により咬合力が異なることを考慮し、患者ごとに、被削歯と研削歯との硬度差を異ならせるようにしてもよい。つまり、実際に患者の咬合力を測定したり、統計値(たとえば、体重、体格(たとえば、体重に占める筋肉の重さの割合)、性別、年齢等による咬合力の目安)に基づいて推定したりするなどして、患者の咬合力を把握し、把握した咬合力値に応じて、被削歯と研削歯との硬度差を設定する。
【0051】
たとえば、咬合力の小さい患者には、被削歯と研削歯との硬度差が大きくなるよう構成し、逆に、咬合力の大きい患者には、被削歯と研削歯との硬度差が小さくなるよう構成することができる。
【0052】
また、患者の顎の症状(咬合時における顎関節の状態)等を考慮し、症状ごとに、被削歯と研削歯との硬度差を異ならせるようにしてもよい。つまり、顎関節の現在の状態(たとえば、治療前において、咬合時の顎関節が最適位置からどの程度ずれているか)を、レントゲン撮影等により実測したり統計値に基づいて推定したりするなどして把握し、把握した顎関節の現状に応じて、被削歯と研削歯との硬度差を設定する。
【0053】
たとえば、咬合時の顎関節が最適位置から大きくずれている患者には、被削歯と研削歯との硬度差が大きくなるよう構成し、逆に、咬合時の顎関節が最適位置からあまりずれていない患者には、被削歯と研削歯との硬度差が小さくなるよう構成することができる。
【0054】
これにより、患者の顎の症状等に応じて、被削歯(上述の例では、下顎用の臼歯部人工歯55、56,57)の単位時間あたりの磨耗量を調整することができる。このため、患者の顎の症状等に応じて、治療用義歯装着による顎関節の矯正治療期間を調整することができる。すなわち、患者の顎の症状等に応じた最適な矯正治療期間で、無理なく、顎関節を矯正することができる。
【0055】
もちろん、患者の顎の症状等と、前述の患者の咬合力の大小とを併せて考慮して、被削歯と研削歯との硬度差を設定することもできる。このように構成すれば、患者の顎の症状と咬合力に基づいて、さらにきめ細かく、患者に適した矯正治療期間を設定することができる。
【0056】
また、上述の実施形態においては、研削歯である上顎用の臼歯部人工歯35、36、37を、ともに同一の硬度を有する人工歯(上述の例では、すべて陶歯)とするとともに、被削歯である下顎用の臼歯部人工歯55、56、57も、ともに同一の硬度を有する人工歯(上述の例では、すべてアクリルレジン歯)としている。つまり、対合する3組の研削歯及び被削歯の硬度差を、すべて同一としているが、この発明は、これに限定されるものではない。
【0057】
対合する3組の研削歯及び被削歯の硬度差を、異なるよう構成することもできる。
【0058】
たとえば、隣接する任意の2組の研削歯及び被削歯において、奥側の1組の研削歯及び被削歯の硬度差が、手前側の1組の研削歯及び被削歯の硬度差に比し、大きくなるよう構成することができる。
【0059】
具体的には、たとえば、上顎用の臼歯部人工歯35、36、37を、ともに同一の硬度を有する陶歯とするとともに、下顎用の臼歯部人工歯55、56、57のうち、臼歯部人工歯55をアクリルレジン歯(18〜20Hv)とし、臼歯部人工歯56,57を、より硬度の低い同一硬度の低重合レジン歯(10〜17Hv)とするのである。
【0060】
さらに、対合する3組の研削歯及び被削歯の硬度差がすべて異なるよう構成することもできる。
【0061】
具体的には、たとえば、上顎用の臼歯部人工歯35、36、37を、ともに同一の硬度を有する陶歯とするとともに、下顎用の臼歯部人工歯55、56、57のうち、臼歯部人工歯55をアクリルレジン歯(18〜20Hv)とし、臼歯部人工歯56を、より硬度の低い低重合レジン歯(15〜17Hv)とし、臼歯部人工歯57を、さらに硬度の低い低重合レジン歯(10〜14Hv)とするのである。
【0062】
この場合、実際に患者の咬合力を測定したり統計値に基づいて推定したりするなどして、当該患者における各臼歯部人工歯の咬合力を把握し、把握した各咬合力値に応じて、各組の研削歯及び被削歯の硬度差を設定するようにしてもよい。
【0063】
上述のように、下顎骨9の下顎頭91が側頭骨8の下顎窩81の最上部81aへと移動して行くと、臼歯部の人工歯のうち、より奥に位置する人工歯により大きい不具合(より大きい干渉)が生ずる傾向があることから、より大きい干渉の生ずる位置に排列された人工歯(被削歯)が、より磨耗しやすくなるよう構成することで、下顎頭91が下顎窩81の最上部81aに無理なく誘導され、顎関節の矯正治療効果がいっそう高くなる。
【0064】
なお、上述の各例においては、下顎用の臼歯部人工歯のうち第2小臼歯に対応する人工歯以奥のすべての人工歯についてのみ、被削歯とするよう構成する場合を例示したが、より一般化して、次のように構成することもできる。
【0065】
すなわち、下顎用の臼歯部人工歯のうち第2小臼歯に対応する人工歯以奥の任意の人工歯以奥のすべての人工歯についてのみ、被削歯とするよう構成することもできる。
【0066】
このような構成の具体例としては、上述の各例のほか、上顎用の臼歯部人工歯34、35、36、37を、ともに同一の硬度を有する陶歯とするとともに、下顎用の臼歯部人工歯のうち、最奥の人工歯57(又は、奥から2番目までの人工歯56及び57)のみを、当該陶歯に比し硬度の低いアクリルレジン歯とし、その余の下顎用の臼歯部人工歯54、55、56(又は、人工歯54及び55)を、対合する上顎用の人工歯と同程度の硬度を有する陶歯とする場合が含まれる。
【0067】
このように、下顎用の臼歯部人工歯のうち第2小臼歯に対応する人工歯以奥の任意の人工歯以奥のすべての人工歯についてのみ、被削歯とするよう構成する場合、当該任意の人工歯の前方向に隣接する人工歯は、その対合歯と同等の硬度を有することとなるから、当該隣接する人工歯は、患者の咀嚼行為によっても、ほとんど磨耗しない。
【0068】
このため、当該隣接する人工歯が、顎関節の矯正治療による下顎骨の移動の支点(固定点)となり、前記任意の人工歯以奥の人工歯(被削歯)の磨耗をいっそう促進させ、下顎頭を下顎窩最上部に速やかに誘導することが可能となる。
【0069】
さらに、この発明は、下顎用の臼歯部人工歯のうち第2小臼歯に対応する人工歯以奥の任意の人工歯以奥のすべての人工歯についてのみ、被削歯とするよう構成する場合に限定されるものではない。
【0070】
たとえば、下顎用の第1小臼歯に相当する人工歯54についても被削歯とするよう構成することもできる。患者の顎関節の状況等によっては、第1小臼歯に相当する人工歯34、54についても、その一方(たとえば人工歯54)を磨耗させるほうが、顎関節の矯正治療効果を高めることができる場合もあるからである。
【0071】
このように、この発明においては、下顎用の第1小臼歯以奥の臼歯部人工歯すべてについて、被削歯とするよう構成することもできるし、より一般的に、すべての下顎用の臼歯部人工歯のうち、いずれか1以上の人工歯についてのみ被削歯とするよう構成することもできる。
【0072】
なお、上述の実施形態においては、被削歯を下顎用義歯4にのみ用いた場合を例に説明したが、この発明はこれに限定されるものではない。逆に、被削歯を上顎用義歯2にのみ用いてもよいし、被削歯が下顎用義歯4及び上顎用義歯2に混在するよう構成することもできる。
【0073】
ただし、被削歯を下顎用義歯4又は上顎用義歯2の一方にのみ用いると、咬合平面の再構築等が容易になるため、好都合である。
【0074】
なお、前歯部人工歯は、総義歯の通法にしたがい、咬合調整に際して前歯部人工歯が強く当たらないよう排列されている。したがって、上顎用義歯2を構成する前歯部人工歯31、32、33、並びに、下顎用義歯4を構成する前歯部人工歯51、52、53については、対合歯との咬み合わせによる磨耗をあまり考慮する必要はなく、適当な材料の人工歯を使用すればよい。
【0075】
そこで、前歯部人工歯のいずれかが対合歯と接触しても大きく磨耗しないよう、前歯部人工歯に関しては、対合歯と同等程度の硬度を有するよう構成することができる。具体的には、この例では、上顎用義歯2を構成する前歯部人工歯31、32、33、並びに、下顎用義歯4を構成する前歯部人工歯51、52、53として、いずれも陶歯を用いている。
【0076】
ただし、前歯部人工歯についても咬合調整を行う方が良いような場合には、前歯部人工歯についても、臼歯部人工歯と同様に、上顎用義歯2を構成する前歯部人工歯31、32、33の全部又は一部と、これに対合する下顎用義歯4を構成する前歯部人工歯51、52、53の全部又は一部との間に、硬度差を設けるようにしてもよい。すなわち、前歯部人工歯31、32、33の全部又は一部、あるいは、前歯部人工歯51、52、53の全部又は一部を被削歯としてもよい。
【0077】
このように、この発明においては、臼歯部人工歯のみならず前歯部人工歯をも含めた全ての人工歯が被削歯の対象となる。そして、任意の人工歯以奥の全部又は一部の人工歯を被削歯とすることができるが、とりわけ、任意の人工歯以奥の全ての人工歯を被削歯とし、当該任意の人工歯の前方向に隣接する歯(補綴された歯(義歯の人工歯を含む)、又は、天然歯(修復歯を含む))を、その対合歯と同等の硬度を有する歯とすることで、当該隣接する歯が、顎関節の矯正治療による下顎骨の移動の支点(固定点)となり、前記任意の人工歯以奥の人工歯(被削歯)の磨耗をいっそう促進させ、下顎頭を下顎窩最上部に速やかに誘導することが可能となる。
【0078】
なお、この実施形態においては、治療用義歯1の右側の人工歯を例に説明しているが、この発明は、もちろん、これに限定されるものではない。この発明は、治療用義歯1の左側の人工歯にも適用できるし、左右両側の人工歯に適用することもできる。左右両側の人工歯に適用する場合、左右対称の構成にすることもできるし、左右非対称の構成にすることもできる。
【0079】
左右非対称の構成にする場合、たとえば、実測したり統計値に基づいて推定したりするなどして、当該患者の左右の顎の症状、及び/又は、患者の左右の咬合力の大きさ、等を把握し、これらに基づいて、左右それぞれの人工歯における上下歯の硬度差を設定することもできる。このように構成すれば、患者の顎の症状や咬合力等が左右非対称であっても、さらにきめ細かく、患者に適した矯正治療期間を設定することができる。
【0080】
なお、この実施形態においては、対合する人工歯間において、相対的に硬度の低い人工歯を被削歯とし、その対合歯を研削歯としているが、この発明はこれに限定されるものではない。
【0081】
たとえば、対合する人工歯間において、対合歯との接触部分の硬度が相対的に高く、かつ、対合歯との接触部分の面積が通常の人工歯に比し小さい(好ましくは1/7ないし1/5程度)人工歯を研削歯として用い、当該対合歯を被削歯として用いることができる。
【0082】
また、対合する人工歯間において、対合歯との接触部分の硬度が相対的に高く、かつ、対合歯との接触部分の表面粗さが相対的に粗い人工歯を研削歯として用い、当該対合歯を被削歯として用いることができる。研削歯の前記表面粗さを粗くするには、たとえば、アルミナ(たとえば、粒径100〜200マイクロメートル程度)によるサンドブラスト処理を行えばよい。
【0083】
また、対合する人工歯間において、対合歯との接触部分の硬度が相対的に高く、かつ、対合歯との接触部分に1又は複数の鋭利なエッジを備えた人工歯を研削歯として用い、当該対合歯を被削歯として用いることができる。鋭利なエッジとしては、エッジの成す角度が90度以下であり、かつ、エッジの最小半径が0.1mm以下のものが例示できる。
【0084】
要は、咀嚼行為に伴う摩耗量が対合歯に比して大きくなるよう設定された人工歯を被削歯とし、その対合歯を研削歯とすればよい。
【0085】
また、上述の実施形態においては、顎関節の最適な矯正治療を行うために、患者の顎の症状や患者の咬合力等に応じて、被削歯と研削歯との間の硬度差を適宜、設定・変更するよう構成した例を説明しているが、この発明はこれに限定されるものではない。患者の顎の症状や患者の咬合力等に応じて、被削歯と研削歯との間の硬度差の他に、たとえば、研削歯における対合歯との接触部分の面積・表面粗さ・形状(エッジの有無、エッジの個数、エッジの鋭さの程度(エッジのなす角度・最小半径)など)等を設定・変更するようにしてもよい。顎関節の最適な矯正治療を行うためには、要は、患者の顎の症状や患者の咬合力等に応じて、咀嚼行為に伴う被削歯の摩耗量、換言すれば、咀嚼行為における研削歯の研削能力、を適宜、設定・変更すればよい。
【0086】
なお、この実施形態においては、総義歯の場合を例に説明しているが、この発明はこれに限定されるものではない。たとえば、部分義歯にも、この発明を適用することができる。さらに、研削歯は人工歯に限られるものではなく、たとえば、人工歯以外の補綴された歯や、天然歯(修復歯を含む)も研削歯たり得る。
【0087】
なお、第1の実施形態における上記各種バリエーションは、その性質上組合わせ不能なものを除き、任意に組合わせて実施することができる。
【0088】
つぎに、図1及び図2に示す治療用義歯1の動作について説明する。
【0089】
図3は、治療用義歯1装着後、所定期間経過したとき、すなわち、顎関節の矯正治療がほぼ完了した時点における咬合状態を概念的に示す側面図である。
【0090】
図4は、図3における治療用義歯1の部分を拡大した図面である。
【0091】
図5は、治療用義歯1に換えて最終義歯7を患者に装着した状態を概念的に示す側面図である。
【0092】
図2に示すように、治療用義歯1を患者に装着した初期の咬合状態においては、上顎用義歯2と下顎用義歯4との咬み合い自体は、なんら不都合はない。しかし、下顎骨9の下顎頭91が側頭骨8の下顎窩81の最上部81aから離れた位置にあるため、顎の関節の状態としては良くない。
【0093】
上述のように、顎の関節の最適位置は、咬合状態において下顎頭91が下顎窩81の中でそれ以上、上方向に移動しない位置、すなわち、下顎頭91が下顎窩81の最上部81aに位置する状態と考えられるからである。
【0094】
図2に示す状態で咀嚼を行うと、主に咬筋(図示せず)の作用により上顎用義歯2と下顎用義歯4とが咬合状態となり、咬筋に近い上下の臼歯部人工歯35、36、37と、55、56、57との間に、大きい押圧力が作用する。したがって、咀嚼を繰り返すことで、これらの押圧力に起因する臼歯部人工歯の磨耗が生ずる。
【0095】
この例では、磨耗は、相対的に硬度の低い下顎用義歯4の臼歯部人工歯55,56,57(被削歯)に生ずる。臼歯部人工歯55,56,57に磨耗が生ずると、その分だけ、咬合状態における下顎頭91の位置が下顎窩81の中で、上方向に移動する。
【0096】
このように、咀嚼を繰り返すことで、下顎用義歯4の臼歯部人工歯55,56,57(被削歯)に選択的に磨耗が生ずるので、調整作業がある程度自動化され、施術者による調整作業の困難性や頻度が低減される。たとえば、従来、2〜3日に一度、状況によっては毎日のように必要であった、施術者による調整作業が、1ヶ月に1回程度で済むようになる。
【0097】
これを繰り返すうち、咬合状態における下顎頭91の位置が下顎窩81の最上部81aに至る。この状態が、図3に示す状態である。
【0098】
この状態になれば、咬合時に、下顎窩81の中で下顎頭91がこれ以上うえに移動することがないため、下顎窩81の最上部81aを支点とするテコの原理により、咬筋による咬合力が、上下の人工歯間に、最も効率的に作用する。つまり、この状態が、顎の関節が最適位置にきた状態である。この状態になれば、治療用義歯1による顎関節の矯正治療は終了する。
【0099】
図4に、図3における人工歯の状態を拡大して示す。図中、2点鎖線で示す部分は、咀嚼に伴う磨耗(又は、咀嚼に伴う磨耗及び施術者による補助的な調整作業)により消滅した部分である。被削歯である臼歯部人工歯55,56,57の一部が磨耗等により消滅しているが、その余の人工歯には変化がない。また、臼歯部人工歯55,56,57のうち、より奥にある被削歯のほうが磨耗量が大きい。
【0100】
治療用義歯1を用いた顎関節の矯正治療が終了すると、その状態(すなわち、顎の関節が最適位置にきた状態)における咬合採得を行い、これにより得られた顎位に基づいて、咬合平面の再構築、人工歯の再排列等を行い、図7に示す最終義歯7を作成するのである。
【0101】
つぎに、この発明の第2の実施形態による治療用義歯101について説明する。第1の実施形態においては、上顎用義歯2の臼歯部人工歯、つまり研削歯として解剖学的人工歯を用いた場合を例に説明したが、この発明はこれに限定されるものではない。研削歯として機能的人工歯を用いることもできる。また、研削歯として、解剖学的人工歯と機能的人工歯とを混用することもできる。
【0102】
図6Aは、治療用義歯101を構成する上顎用義歯102の平面図である。図6Bは、治療用義歯101を構成する下顎用義歯104の平面図である。
【0103】
図6Aに示すように、上顎用義歯102の臼歯部人工歯のうち、第2小臼歯以奥に対応する人工歯135、136,137は、機能的人工歯の一種であるブレード人工歯(ブレード106を備えた人工歯)である。
【0104】
この例は、咬合様式としてリンガライズドオクリュージョン(舌側化咬合)を採用した場合の例であり、したがって、人工歯135、136,137の咬頭部(歯冠咬合面の突起)のうち舌側咬頭部が、それぞれブレード106で構成されている。要は、咬合様式に応じて、対合歯の干渉部分を磨耗させやすいと思われる咬頭部をブレード106で構成すればよい。
【0105】
人工歯135、136,137として、既成のブレード人工歯を用いることもできるが、既成のブレード人工歯の場合、第1大臼歯に相当する人工歯136については、2個の舌側咬頭部のうち第2小臼歯側(前側)の咬頭部のみブレード106で構成され、第2大臼歯側(奥側)の咬頭部は、ブレードではなく、人工歯本体の一部として、対合歯(被削歯)と同程度の硬度を有する材料(たとえば硬質レジン)により構成されているのが一般的である。このため、咀嚼時に、人工歯136の第2大臼歯側(奥側)の咬頭部と対合歯が当接してしまい、それ以上対合歯が磨耗せず、本願発明の機能が十分発揮できないことがある。
【0106】
そこで、図6Aに示すように、この例では、第1大臼歯に相当する人工歯136については、2個の舌側咬頭部のいずれも(すなわち、第2小臼歯側の咬頭部及び第2大臼歯側の咬頭部のいずれも)ブレード106で構成している。
【0107】
ブレード106の材質に関しては、対合歯(被削歯)に対して相対的に硬度が高いものであれば、とくに限定されるものではないが、たとえば、硬質レジン製(20〜47Hv)、金属製(100〜365Hv)、セラミック製(460〜500Hv)、対合歯との接触面にダイアモンド粒子(9000Hv)や炭化ケイ素粒子(2150〜2200Hv)を固着したもの等を用いることができる。この例では、ブレード106の材質として、比較的硬度の高いコバルトクロム合金系(290〜365Hv)を用いている。
【0108】
ブレード106ひとつあたりの咬合時における対合歯との接触面積は、とくに限定されるものではないが、一般的な人工歯(陶歯や硬質レジン歯等の通常の人工歯)のそれの1/5ないし1/7程度が好ましい。
【0109】
たとえば、通常の人工歯における対合歯と接触する咬頭部の直径が0.2〜0.5mmとすると、その面積の1/7程度が好ましいとすれば、0.00448〜0.027mm2となり、その面積の1/5程度が好ましいとすれば、0.00628〜0.039mm2となる。したがって、ブレード106ひとつあたりの咬合時における対合歯との接触面積は、好ましくは、0.00448〜0.039mm2である。
【0110】
このように、研削歯としてブレード人工歯を用いることで、高い硬度が得られると同時に、被削歯である対合歯との接触面積を小さくできることから接触圧をあげることができ、矯正治療期間中における対合歯の単位時間あたりの磨耗量を大きくすることが可能となる。
【0111】
なお、ブレードの形状はとくに限定されるものではないが、この実施形態においては、歯冠咬合面から対合歯に向けて十字状の刃が突設されたブレード106を用いている。このような形状のブレードを用いることで、咀嚼時における対合歯の前後左右の動きに対応して、効果的に対合歯を磨耗させることができる。
【0112】
また、ブレード人工歯の形態については、上述のように、硬質レジン等により構成された人工歯本体にブレードを埋め込んだ形態のものでも良いし、たとえば、複数のブレードどうしを同種又は異種の材料(たとえば金属)で連結してなる形態(この場合は、上述の人工歯本体は存在しない)のものであってもよく、とくに限定されるものではない。
【0113】
なお、治療用義歯101のその余の構成及び動作は、治療用義歯1の場合と同様である。また、治療用義歯1におけるバリエーションは、その性質上治療用義歯101に適用できないものを除き、治療用義歯101にも適用される。
【0114】
つぎに、この発明の第3の実施形態による治療用義歯201について説明する。図7Aは、治療用義歯201を構成する上顎用義歯202の平面図である。図7Bは、治療用義歯201を構成する下顎用義歯204の平面図である。
【0115】
前述の第2の実施形態における治療用義歯101(図6A参照)においては、上顎用義歯102の第1大臼歯に相当する人工歯136については、2個の舌側咬頭部のいずれも(すなわち、第2小臼歯側の咬頭部及び第2大臼歯側の咬頭部のいずれも)ブレード106で構成しているが、図7Aに示す治療用義歯201における上顎用義歯202の第1大臼歯に相当する人工歯236の構成は、これと異なる。
【0116】
図7Aに示すように、人工歯236については、2個の舌側咬頭部のうち第2小臼歯側(前側)の咬頭部がブレード106で構成されている点は、治療用義歯101や既成のブレード人工歯の場合と同様であるが、第2大臼歯側(奥側)の咬頭部に対応する部分236aは、通常の咬頭部の高さよりも低くなるよう形成されている点で、治療用義歯101の場合と異なるし、既成のブレード人工歯の場合とも異なる。
【0117】
すなわち、人工歯236の第2大臼歯側(奥側)の咬頭部に対応する部分236aは、上顎用義歯202と下顎用義歯204との咬合時に、対合歯と接触しないよう低めに構成されている。このため、咀嚼時に、当該人工歯の第2大臼歯側(奥側)の咬頭部と対合歯が当接してしまってそれ以上対合歯が磨耗しない、といった不都合がない。
【0118】
したがって、たとえば、既成のブレード人工歯の第2大臼歯側(奥側)の咬頭部を削りとるだけで、対合歯を磨耗させる機能を十分発揮することができる。
【0119】
なお、図7Aにおいては、人工歯236の2個の舌側咬頭部のうち第2小臼歯側(前側)の咬頭部をブレード106で構成し、第2大臼歯側(奥側)の咬頭部に対応する部分236aを、通常の咬頭部の高さよりも低くなるよう形成したが、この逆、つまり、第2大臼歯側(奥側)の咬頭部をブレード106で構成し、第2小臼歯側(前側)の咬頭部に対応する部分を、通常の咬頭部の高さよりも低くなるよう形成してもよい。
【0120】
要するに、人工歯236の2個の舌側咬頭部のうち一方の咬頭部をブレード106で構成し、他方の咬頭部に対応する部分を、上顎用義歯202と下顎用義歯204との咬合時に、対合歯と接触しないように、通常の咬頭部の高さよりも低くなるよう形成すればよい。
【0121】
治療用義歯201のその余の構成及び動作は、治療用義歯101の場合と同様である。また、上述の各実施形態におけるバリエーションは、その性質上治療用義歯201に適用できないものを除き、治療用義歯201にも適用される。
【0122】
つぎに、この発明の第4の実施形態による治療用義歯301について説明する。図8Aは、治療用義歯301を構成する上顎用義歯302の平面図である。図8Bは、治療用義歯301を構成する下顎用義歯304の平面図である。
【0123】
図8Aに示す治療用義歯301と前述の治療用義歯201(図7A参照)とは、いずれも、上顎用義歯の第1大臼歯に相当する人工歯336(図8A)、236(図7A)が、1つのブレード106を備えている点で共通するが、治療用義歯201においては、人工歯236の2個の舌側咬頭部のうち第2小臼歯側(前側)の咬頭部がブレード106で構成され、第2大臼歯側(奥側)の咬頭部に対応する部分236aは、通常の咬頭部の高さよりも低くなるよう形成されているところ、治療用義歯301においては、人工歯336の2個の舌側咬頭部に対応する部分336a、336bは、いずれも通常の咬頭部の高さよりも低くなるよう形成され、これらの部分336a、336bの間に、通常の咬頭部の高さと同等程度の高さを有するブレード106が植立されている点で、異なる。
【0124】
すなわち、人工歯336の2個の舌側咬頭部に対応する部分336a、336bは、いずれも、上顎用義歯302と下顎用義歯304との咬合時に、対合歯と接触しないよう低めに構成されている。このため、咀嚼時に、当該人工歯の2つの咬頭部と対合歯が当接してしまってそれ以上対合歯が磨耗しない、といった不都合がない。
【0125】
このように、人工歯336の2個の舌側咬頭部に対応する部分336a、336bの中間位置にブレード106を配置することで、効率的に対合歯を磨耗させることができる。
【0126】
治療用義歯301のその余の構成及び動作は、治療用義歯201の場合と同様である。また、上述の各実施形態におけるバリエーションは、その性質上治療用義歯301に適用できないものを除き、治療用義歯301にも適用される。
【0127】
なお、上記第2ないし第4の実施形態に記載された発明のうち上顎用義歯の第1大臼歯に相当する人工歯については、次のように把握することもできる。
【0128】
すなわち、上顎用義歯の第1大臼歯に相当する人工歯について、2個の舌側咬頭部(第2小臼歯側の咬頭部及び第2大臼歯側の咬頭部)の少なくとも一方の咬頭部をブレードで構成し、又は、両咬頭部の中間位置に通常の咬頭部の高さと同等程度の高さを有するブレードを植立し、かつ、ブレードで構成されていない咬頭部に対応する部分を、上顎用義歯と下顎用義歯との咬合時に、対合歯と接触しないように、通常の咬頭部の高さよりも低くなるよう形成している。
【0129】
つぎに、この発明の第5の実施形態による治療用義歯401について説明する。図9Aは、治療用義歯401を構成する上顎用義歯402の平面図である。図9Bは、治療用義歯401を構成する下顎用義歯404の平面図である。
【0130】
治療用義歯401においては、人工歯に取付けられたブレード406が、顎関節の矯正治療中に取替え可能に構成されている点で、ブレード106を取替えることが想定されていない治療用義歯301(図8A参照)等の場合と異なる。
【0131】
図10は、図9Aに示す上顎用義歯402の第1大臼歯に相当する人工歯436のX−X断面を概念的に示す図面である。図10に示すように、人工歯436の本体436cの適部には、ブレード406を保持するためのブレード保持枠407が埋め込まれて固着されている。
【0132】
ブレード保持枠407の形状及び構造はとくに限定されるものではないが、この例では、大径部407aと、これに続く小径部407bとを有する2段の段付き有底円筒状に形成され、小径部407bの内側には雌ねじが形成されている。ブレード保持枠407の材料はとくに限定されるものではないが、たとえば、チタン等の歯科用の金属を使用することができ、好ましくは、後述するブレード406の基部406bを構成する材料と同一の材料である。
【0133】
ブレード保持枠407と人工歯436の本体436cとの結合方法は、とくに限定されるものではないが、たとえば、嵌合や圧入などの機械的結合、接着による結合、化学的結合等がある。接着方法として、たとえば、4−META/MMA−TBB接着性レジンを用いることができる。
【0134】
ブレード406は、ブレード部406aと、これに続く基部406bとを備えている。基部406bは、略円柱状の雄ねじ部406cと、これに続く円板部406dとを備えている。ブレード406の雄ねじ部406cをブレード保持枠407の小径部407bにねじ込むことによって、ブレード406の円板部406dのネジ側の端面とブレード保持枠407の段部とが当接する。これによって、ブレード406が人工歯436に固定される。
【0135】
ブレード部406aと基部406bとは、同一材料を用いて一体的に形成してもよいが、別々に形成し、両者を結合するようにしてもよい。ブレード部406aと基部406bとを結合する場合、その方法はとくに限定されるものではないが、たとえば、嵌合や圧入などの機械的結合、接着による結合、化学的結合等がある。
【0136】
図10に示す例においては、ブレード部406aは、上述のブレード106と同様の形状、すなわち、咬合面から対合歯に向けて十字状の刃が突設された形状を備え、ブレード106と同様の材料により構成されている。そして、この実施形態においては、研削能力の異なる(例えば、対合歯との接触部分の硬度差・面積・表面粗さ・形状(エッジの有無、エッジの個数、エッジの鋭さの程度(エッジのなす角度・最小半径)等の異なる)ブレード部406aを有する複数のブレード406を用意しておき、顎関節の矯正治療の進行状況等に応じて、適宜、ブレード406を取替えることができるようにしてある。
【0137】
たとえば、コバルトクローム合金製のブレード部406aを有するブレード406を取り付けた人工歯436を備えた治療用義歯401を用いて顎関節の矯正治療中に、人工歯436の対合歯の磨耗量が少なすぎると判断した場合は、研削能力のより高い(例えば、硬度のより高い)ブレード部(たとえば、セラミック製のブレード部)を有するブレードに取り替えるのである。
【0138】
逆に、人工歯436の対合歯の磨耗量が多すぎると判断した場合は、研削能力のより低い(例えば、硬度のより低い)ブレード部(たとえば、硬度100Hv程度の金属製ブレード部や硬質レジン製のブレード部)を有するブレードに取り替えるのである。
【0139】
このように構成することで、顎関節の矯正治療の進行状況をみながら、対合歯をまったく研削しないよう設定する場合も含め、最適な研削能力を有する研削歯を適宜選択することができる。このため、患者の顎の症状の変化や咬合力の変化等に基づいて、さらにきめ細かく、患者に適した顎関節の矯正治療を行うことができる。
【0140】
ここでは、人工歯436における例について説明したが、ブレードを有する他の人工歯435、437等にも、この発明を適用することができる。もちろん、ブレードを有する全ての人工歯に、この発明を適用しても良いし、ブレードを有する人工歯のうち一部の人工歯にのみこの発明を適用することもできる。
【0141】
治療用義歯401のその余の構成及び動作は、治療用義歯301の場合と同様である。また、上述の各実施形態におけるバリエーションは、その性質上治療用義歯401に適用できないものを除き、治療用義歯401にも適用される。さらに、上述の治療用義歯101、201にも、この発明を適用することができる。
【0142】
なお、人工歯に取付けられたブレードを取替え可能に構成する例として、ネジ結合によりブレードと人工歯の本体とを結合する場合について説明したが(図10参照)、ブレード取替えの態様は、これに限定されるものではない。
【0143】
図11は、この発明の第6の実施形態による治療用義歯501、すなわち、人工歯に取付けられたブレードを取替え可能に構成する別の例に関する図面であって、図10と同様に、治療用義歯501を構成する上顎用義歯の第1大臼歯に相当する人工歯536の適部断面を概念的に示す図面である。
【0144】
図11に示すように、この実施形態におけるブレード506は、ブレード部506aと、これに続く基部506bとを備ている。基部506bは、略円柱状の円柱部506cと、これに続く円板部506dとを備えている。
【0145】
人工歯536の本体536cの咬合面側にブレード装着用凹部536dが穿設されている。このブレード装着用凹部536dに、接着剤やレジン(たとえば上述の低重合レジン)等の固着用介そう物507を介して、ブレード506の基部506bを挿入して固定するのである。人工歯536からブレード506を取り外すには、たとえば、既知の方法(加熱、溶媒付与、切削等)により固着用介そう物507を除去すればよい。
【0146】
治療用義歯501のその余の構成及び動作は、治療用義歯401の場合と同様である。また、上述の各実施形態におけるバリエーションは、その性質上治療用義歯501に適用できないものを除き、治療用義歯501にも適用される。
【0147】
上述の各実施形態においては、たとえば図1Bに示すように、被削歯に相当する人工歯55,56,57の咬合面の形態として、咬合面に小窩裂溝(咬頭部間の溝)が形成されたものを例示しているが、この発明はこれに限定されるものではない。
【0148】
図12は、この発明の第7の実施形態による治療用義歯601を構成する下顎用義歯604の平面図である。下顎用義歯604を構成する被削歯に相当する人工歯655,656,657の咬合面はフラット(咬合面が平らで咬合面に小窩裂溝のない形態)になっている。
【0149】
被削歯の咬合面の形態をフラットにすることで、対合歯間の引掛かりが抑制され、下顎頭が下顎窩最上部に誘導される際の上顎に対する下顎の位置移動を妨げず、下顎の移動がスムーズに行われるからである。その結果、より効率的に、顎関節の矯正治療を行うことができる。もっとも、下顎の滑動がスムーズに行われる範囲であれば、被削歯の咬合面に小窩裂溝の形態を付与したものであっても、なんら問題ない。
【0150】
また、被削歯に相当する人工歯のうち一部の人工歯についてのみ、咬合面の形態をフラットにしたり、下顎の滑動がスムーズに行われる範囲内で被削歯の咬合面に小窩裂溝の形態を付与したりすることもできる。
【0151】
治療用義歯601のその余の構成及び動作は、治療用義歯1の場合と同様である。また、上述の各実施形態におけるバリエーションは、その性質上治療用義歯601に適用できないものを除き、治療用義歯601にも適用される。
【0152】
上記においては、本発明を好ましい実施形態として説明したが、各用語は、限定のために用いたのではなく、説明のために用いたものであって、本発明の範囲および精神を逸脱することなく、添付のクレームの範囲において、変更することができるものである。また、上記においては、本発明のいくつかの典型的な実施形態についてのみ詳細に記述したが、当業者であれば、本発明の新規な教示および利点を逸脱することなしに上記典型的な実施形態において多くの変更が可能であることを、容易に認識するであろう。したがって、そのような変更はすべて、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0153】
1:治療用義歯
2:上顎用義歯
4:下顎用義歯
34:上顎用の臼歯部人工歯
35:上顎用の臼歯部人工歯
36:上顎用の臼歯部人工歯
37:上顎用の臼歯部人工歯
54:下顎用の臼歯部人工歯
55:下顎用の臼歯部人工歯
56:下顎用の臼歯部人工歯
57:下顎用の臼歯部人工歯
81:下顎窩
81a:下顎窩の最上部
91:下顎頭
特許出願人 大前 太美雄
出願人代理人 弁理士 田川 幸一
【特許請求の範囲】
【請求項1】
最終義歯作成に先だって患者に装着される治療用義歯であって、
義歯床に人工歯を植立した上顎用義歯及び/又は下顎用義歯を備え、
前記上顎用義歯又は下顎用義歯のいずれかを構成する人工歯であって顎関節が最適位置に近づくと対合歯との間で干渉を生ずる可能性のある人工歯を、咀嚼行為に伴う摩耗量が対合歯に比して大きくなるよう設定された人工歯である被削歯とし、
咀嚼行為に伴い前記被削歯を摩耗させることで顎関節を最適位置に誘導するよう構成したこと、
を特徴とする治療用義歯。
【請求項2】
請求項1の治療用義歯において、
前記被削歯における対合歯との接触部分の硬度が、当該対合歯のそれに比して低くなるよう構成したこと、
を特徴とするもの。
【請求項3】
請求項2の治療用義歯において、
前記被削歯は、対合歯との接触部分が合成樹脂により構成され、
前記被削歯の対合歯は、ブレードを備えた人工歯であること、
を特徴とするもの。
【請求項4】
請求項3の治療用義歯において、
前記ブレードを備えた人工歯は、顎関節の矯正治療中にブレードが取替え可能に構成されていること、
を特徴とするもの。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかの治療用義歯において、
前記被削歯は、第2小臼歯以奥の人工歯であること、
を特徴とするもの。
【請求項1】
最終義歯作成に先だって患者に装着される治療用義歯であって、
義歯床に人工歯を植立した上顎用義歯及び/又は下顎用義歯を備え、
前記上顎用義歯又は下顎用義歯のいずれかを構成する人工歯であって顎関節が最適位置に近づくと対合歯との間で干渉を生ずる可能性のある人工歯を、咀嚼行為に伴う摩耗量が対合歯に比して大きくなるよう設定された人工歯である被削歯とし、
咀嚼行為に伴い前記被削歯を摩耗させることで顎関節を最適位置に誘導するよう構成したこと、
を特徴とする治療用義歯。
【請求項2】
請求項1の治療用義歯において、
前記被削歯における対合歯との接触部分の硬度が、当該対合歯のそれに比して低くなるよう構成したこと、
を特徴とするもの。
【請求項3】
請求項2の治療用義歯において、
前記被削歯は、対合歯との接触部分が合成樹脂により構成され、
前記被削歯の対合歯は、ブレードを備えた人工歯であること、
を特徴とするもの。
【請求項4】
請求項3の治療用義歯において、
前記ブレードを備えた人工歯は、顎関節の矯正治療中にブレードが取替え可能に構成されていること、
を特徴とするもの。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかの治療用義歯において、
前記被削歯は、第2小臼歯以奥の人工歯であること、
を特徴とするもの。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−24904(P2011−24904A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175749(P2009−175749)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(502253906)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(502253906)
【Fターム(参考)】
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