説明

治療用電極体及び除細動器

【課題】生体組織の炎症、過度の線維化など、好ましくない生体反応を抑制可能な治療用電極体及びこれを備えた除細動器を提供する。
【解決手段】治療対象の生体組織の表面に装着して、生体組織に電気エネルギーを印加するための治療用電極体Bを、電気エネルギーを放出する電極2、3と、非導電性材料を用いて形成され、治療対象の生体組織の表面に向けて配される電極2、3の一面2a、3aのみを一面4a側に露出させて電極2、3を保持する電極保持部4と、基材と薬剤の混合物として形成されるとともに電極保持部4に保持され、薬剤を電極2、3の一面2a、3a側に放出する薬剤放出部5とを備えて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療対象の生体組織の表面に装着して、生体組織に電気パルスを印加するための治療用電極体及びこれを備えた除細動器に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓に心室頻拍(VT)や心室細動(VF)等の不整脈が発生した場合、心臓に電気的な刺激を与える電気的除細動や、抗不整脈薬を投与する薬物的除細動によって治療が行われる。また、電気的除細動では、体外から心臓に電気的な刺激を与える体外式除細動器や、電極を心臓内部、心臓または心嚢膜表面あるいは皮下に埋植して、心臓に直接的に電気的な刺激を与える植え込み型除細動器が用いられている。
【0003】
さらに、植え込み型除細動器は、電池とマイクロコンピュータを搭載した除細動器本体(パルス発生器)と、除細動器本体にリード線を介して接続して体内に埋植される電極(治療用電極体)とを備えて構成されている。
【0004】
特許文献1には、このような植え込み型除細動器の電極体(治療用電極体、除細動/細動除去電極組立体)が開示されている。この電極体は、平面の導電電極部分とリード線とからなり、導電電極部分が、電気的に絶縁性を有し、全体的に弾性を有する裏打ち素子と、この裏打ち素子に保持されたワイヤ線網状体構造の導電素子(電極)とを備えて形成されている。また、体内に埋植した状態で導電素子の心臓側に配される一面(放電面、作用面)のみが露出するように、導電素子が裏打ち素子で被覆して保持されている。これにより、導電素子から発せられる電気パルス(電気エネルギー)は、治療対象の心臓側にのみ放出(印加)され、治療対象ではない胸腔側に漏出することが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−277299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、体内埋植用の医療機器は、生体組織に対する毒性がなく、組織に対する刺激性の低い材料を用いて製作されているが、それでも、生体組織が体内に埋め込んだ機器を異物として捉え、線維芽細胞がその外周を取り囲んでカプセル化し、体内の正常な組織から隔離する反応が生じる。
【0007】
そして、体内埋植機器に対するこのような反応は、1カ月前後で安定することが一般的であるが、上記従来の電極体を体内に埋植した場合には、治療のために送られる電気エネルギーの刺激などによって、生体組織の過度な線維化あるいは炎症を伴う線維化が発生する場合があった。
【0008】
また、電極体を心嚢膜表面に設置すると、心臓の内部に設置する場合と比較し、心臓の拍動を妨げることなく、より広い接触面積(放電面、作用面の面積)を確保でき、低い電気エネルギー密度で除細動を行うことが可能になる。一方で、過度な生体組織の線維化が電極と心嚢膜との間で進行すると、除細動の閾値が上昇し、この閾値の上昇に伴って除細動に必要な電気エネルギー量が増加する。このため、電極体を心嚢膜表面に設置した場合であっても、生体組織の線維化の進行によって、効果的に電気エネルギー密度を低くすることができず、心臓への負担や患者の苦痛の増加、さらに電池寿命の短命化を招くことになる。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、生体組織の炎症、過度の線維化など、好ましくない生体反応を抑制可能な治療用電極体及びこれを備えた除細動器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0011】
本発明の治療用電極体は、治療対象の生体組織の表面に装着して、前記生体組織に電気エネルギーを印加するための治療用電極体であって、電気エネルギーを放出する電極と、非導電性材料を用いて形成され、前記治療対象の生体組織の表面に向けて配される前記電極の一面のみを一面側に露出させて前記電極を保持する電極保持部と、基材と薬剤の混合物として形成されるとともに前記電極保持部に保持され、前記薬剤を前記電極の一面側に放出する薬剤放出部とを備えて構成されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の治療用電極体においては、前記電極保持部の一面から外側に突設され、且つ前記電極保持部の一面に露出した前記電極と前記薬剤放出部を囲むように環状に延設された薬剤漏出防止部を備えていることが望ましい。
【0013】
また、本発明の治療用電極体においては、前記薬剤漏出防止部が複数設けられていることが望ましい。
【0014】
さらに、本発明の治療用電極体においては、前記薬剤放出部の体液が接触する一面内に前記電極の一面が配されるように形成されていることがより望ましい。
【0015】
また、本発明の治療用電極体においては、前記電極保持部に、前記治療対象の生体組織の表面に固定するための縫合穴が設けられていることがさらに望ましい。
【0016】
さらに、本発明の治療用電極体においては、前記薬剤がステロイド剤または免疫抑制剤であることが望ましい。
【0017】
本発明の除細動器は、心嚢膜表面に電極体を装着し、パルス発生器で生成した電気パルスを該電極体から心臓に印加することによって前記心臓の機能を回復させる除細動器において、前記電極体が上記のいずれかの治療用電極体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の治療用電極体及び除細動器においては、治療対象の生体組織の表面に、電極保持部の一面側から露出した電極の一面を向けて体内に装着(埋植)することにより、電極から発せられた電気エネルギーが、非導電性材料の電極保持部によって治療対象の生体組織の反対側に漏出することがなく、電極の一面から治療対象の生体組織にのみ電気エネルギーを印加する(放出させる)ことが可能になる。
【0019】
また、薬剤放出部を備え、この薬剤放出部内の薬剤を電極の一面側に溶出(放出)させることができる。このため、治療用電極体を体内に埋設することにより、生体組織の炎症、過度な線維化など、好ましくない生体反応を薬剤によって抑制することが可能になる。
【0020】
さらに、電極保持部の一面側に露出した電極と薬剤放出部を囲むように薬剤漏出防止部が設けられているため、薬剤放出部から放出された薬剤(薬剤が混ざった体液)が薬剤漏出防止部によって電極の一面側に留まり、治療用電極体の設置範囲から外側に拡散することを抑制(防止)することが可能になる。
【0021】
これにより、本発明の治療用電極体を植え込み型除細動器の電極体として用い、この治療用電極体を心嚢膜表面に埋植した場合であっても、生体組織の炎症や過度な線維化を抑制でき、除細動の閾値の上昇に伴う電気エネルギー量の増加を抑制することが可能になる。よって、放電面積を大きく確保することが可能になるとともに、心臓への負担や患者が受ける苦痛を軽減することが可能になる。また、除細動器(パルス発生器)に内蔵された電池寿命を長期化することが可能になる。
【0022】
また、薬剤漏出防止部を備えることで、薬剤が無駄になることがなく、長期間の埋植使用においても閾値上昇のおそれのない治療用電極体を提供することが可能になる。すなわち、信頼性の高い治療用電極体及び除細動器を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】除細動器の電極体を心臓に設置する概念図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る治療用電極体(除細動器の電極体)を示す斜視図である。
【図3】図2のX1−X1線矢視図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る治療用電極体の変形例を示す斜視図である。
【図5】図4のX1−X1線矢視図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る治療用電極体の変形例を示す斜視図である。
【図7】図6のX1−X1線矢視図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る治療用電極体の変形例(複数の薬剤漏出防止部を備えた治療用電極体)を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図1から図3を参照し、本発明の一実施形態に係る治療用電極体及び除細動器について説明する。
【0025】
本実施形態の除細動器Aは、例えば図1に示すように、不整脈が発生した心臓1に電気的な刺激を与えて、心臓1の機能を正常な状態に回復させるための植え込み型除細動器であり、電池とマイクロコンピュータを搭載したパルス発生器(不図示)と、リード線を介してパルス発生器に接続され、心臓1の心嚢膜表面1aに装着(体内に埋植)される一対の電極体Bとを備えて構成されている。
【0026】
また、本実施形態の電極体(治療用電極体B)は、図2及び図3に示すように、一対の電極2、3と、電極保持部4と、薬剤放出部5と、薬剤漏出防止部6を備えて形成されている。
【0027】
一対の電極2、3は、パルス発生器で生成した電気パルス(電気エネルギー)を放出させるためのものであり、それぞれ、生体への溶出が少なく、耐食性に優れた白金イリジウムなどの合金を例えばプレス加工して、環状、且つ薄板状又は箔状に形成されている。また、これら一対の電極2、3はそれぞれ、リード線7の導線7aに接続して設けられている。なお、電極2、3は、線材やより線を用いて形成されていてもよい。また、電気エネルギーの伝達効率を上げる目的で、電極2、3の表面に窒化チタン、白金黒、酸化イリジウムなどをコーティングして、微細凹凸加工を施して形成されていてもよい。
【0028】
電極保持部4は、略平板状に形成されるとともに、電極2、3の平面形状を維持し、心嚢膜1aの形状や心臓1の拍動に伴う変形に対して柔軟に追従可能で、且つ生体適合性に優れ、電気的に絶縁性を備えるシリコンゴム(非導電性材料)を用いて形成されている。例えばDow Corning社のMDX−4−4210やSilastic Q7−4840などのシリコンゴムなどが使用可能であり、また、Applied Silcon Incや、NuSil Technology LLCなどが製造する医療用グレードのシリコンゴムも使用可能である。
【0029】
また、この電極保持部4は、短絡が生じないように間隔をあけた状態で一対の電極2、3を保持するように形成されている。このとき、電極保持部4は、その一面4aに、一対の電極2、3の電気パルスを放出する一面2a、3a(放出面、作用面)を露出させ、各電極2、3の他の表面を被覆して保持するように形成されている。これにより、各電極2、3から発せられる電気パルス(電気エネルギー)は、電極保持部4の一面4a側(各電極2、3の一面2a、3a側)にのみ放出され、他の表面から漏出することがない。
【0030】
薬剤放出部5は、硬化前の非導電性のエラストマー(基材)と薬剤とを混練りした薬剤混合物(薬剤除放体)として成形されている。また、この薬剤放出部(薬剤除放体)5は、微細な連続孔を有する多孔状に形成されている。そして、連続した微細孔が内部から表面に多数形成可能な材料、例えばNuSil Technology社のDDU−4340のように薬剤放出用グレードの材料を用いて形成されることが好ましい。なお、Dow Corning社のメディカルグレード MDX−4−4210に薬物を混合した後、硬化処理した成形体が薬物放出機能を備えることが特開2001−199879号公報に開示されており、必ずしも特定のグレードの選択をせずとも、所望の薬剤放出機能を得ることが可能である。
【0031】
また、薬剤放出部5に混合される薬剤には、粉体のステロイド剤、免疫抑制剤などが用いられる。この他、トレハロースを主成分とする抗癒着剤も利用可能である。
【0032】
ステロイド剤としては、例えば、デキサメタゾン、プロピオン酸デキサメタゾン、酢酸デキサメタゾン、ベタメタゾン、吉草酸ベタメタゾン、酪酸プロピオン酸ベタメタゾン、安息香酸ベタメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、プロピオン酸ベタメタゾン、酢酸パラメタゾン、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、フルオロシノロンアセトニド、フルオロメトロン、ハルシノニド、デスオキシメタゾン、酢酸ジフロラゾン、酪酸クロベタゾン、ジフロラゾン、ゲンタマイシン、硫酸ゲンタマイシンなどが挙げられる。
【0033】
免疫抑制剤としては、ラパマイシン、シロリムス、タクロリムス水和物、シクロスポリン、アザチオプリン、塩酸グスペリウム、ミゾリビンなどが挙げられる。
【0034】
そして、これら粉体の薬剤をシリコン系エラストマーと混合して硬化してなる本実施形態の薬剤放出部(薬剤徐放体)5は円板状に形成され、複数の薬剤放出部5が環状の各電極2、3の内側や、一対の電極2、3の間に所定の間隔をあけて分散配置されている。また、各薬剤放出部5は、その一面5aを電極保持部4の一面4a側に露出させた状態で保持されている。
【0035】
薬剤漏出防止部6は、電極保持部4と同一の材料で形成され、電極保持部4の外周縁側に電極保持部4と一体に設けられている。また、この薬剤漏出防止部6は、電極保持部4の一面4aから外側に突設され、且つ電極保持部4の一面4aに露出した電極2、3と薬剤放出部5を取り囲むように環状に延設されている。すなわち、環状で壁状の薬剤漏出防止部6が電極保持部4の外周縁側に設けられている。
【0036】
また、電極保持部4には、この薬剤漏出防止部6よりも外側(本実施形態では電極保持部の4つの角部)に縫合穴8が設けられている。
【0037】
そして、上記構成からなる本実施形態の治療用電極体Bを製作する場合には、キャビティー内に一対の電極2、3及び薬剤放出部(薬剤除放体)5を配置して金型を型締めし、この金型のキャビティー内に電極保持部4を形成するための溶融シリコンゴムを充填する。充填したシリコンゴムが硬化し、金型を取り外すと、シリコンゴムの電極保持部4に一対の電極2、3と複数の薬剤放出部5が一体に保持され、且つ電極保持部4の一面4aに各電極2、3の一面2a、3a及び薬剤放出部5の一面5aが露出した治療用電極体Bが得られる。
【0038】
また、このように製作した治療用電極体Bを患者の体内に埋植する。このとき、一対の治療用電極体Bは、一対の電極2、3、電極保持部4、薬剤放出部5の各一面2a、3a、4a、5aを心嚢膜表面1a側に向け、薬剤漏出防止部6の先端を心嚢膜表面1aに当接させて装着される。このとき、本実施形態の治療用電極体Bは、電極保持部4に縫合穴8が設けられているため、この縫合穴8に縫合糸を通して、治療用電極体Bが心嚢膜表面1aに容易且つ確実に固定して装着される。
【0039】
このように一対の治療用電極体Bを装着した後に、リード線7をパルス発生器に接続し、このパルス発生器で生成した電気パルスを心臓1に放電させる(放電可能な状態にする)。このとき、本実施形態の治療用電極体B及び除細動器Aにおいては、電極2、3の露出した一面2a、3aを心嚢膜表面1a側に配し、電極2、3の他の表面が非導電性の電極保持部4で被覆されているため、胸腔側などに電気パルスが漏出することがない。
【0040】
一方、本実施形態の治療用電極体Bにおいても、従来の電極体と同様に、生体組織が体内に埋植した治療用電極体Bを異物として捉え、線維芽細胞がその外周を取り囲んでカプセル化し、体内の正常な組織から隔離する反応が生じる。また、治療のために送られる電気パルス(電気エネルギー)の刺激などによって、生体組織の線維化あるいは炎症を伴う線維化の発生を招くおそれがある。
【0041】
これに対し、本実施形態においては、治療用電極体Bが多孔化したシリコン系ポリマーを用いた薬剤放出部5を備えている。そして、埋植後の薬剤放出部5に体液が接触すると、薬剤が体液に溶解し、薬剤放出部5の一面5aから拡散溶出して、生体組織に放出される。このため、薬剤によって生体組織の炎症や過度な線維化が抑制される。また、薬剤放出部5が多孔体を用いて形成されているため、電極2、3の一面2a、3a側に、順次溶出した適量薬剤が放出される。
【0042】
さらに、本実施形態の治療用電極体Bには、電極保持部4の外周縁側に、且つ電極2、3と薬剤放出部5を取り囲むようにして、環状の薬剤漏出部6が設けられている。このため、薬剤放出部5から放出された薬剤(薬剤が混ざった体液)が薬剤漏出防止部6によって電極2、3の一面2a、3a側に留まり、治療用電極体Bの設置範囲から外側に拡散することが抑制(防止)される。これにより、薬剤が無駄になることがなく、長期にわたり、除細動の閾値上昇が薬剤作用によって抑制される。
【0043】
ここで、薬剤放出部5から放出される薬剤がステロイド剤である場合には、生体組織の炎症などが抑制される。また、薬剤が免疫抑制剤である場合には、生体組織の炎症などが抑制されるとともに、体内に治療用電極体Bを埋植することによる拒絶反応が抑制される。
【0044】
したがって、本実施形態の治療用電極体B及び除細動器Aにおいては、心臓1の表面1a(治療対象の生体組織の表面)に、電極保持部4の一面4a側から露出した電極2、3の一面2a、3aを向けて治療用電極体Bを装着(埋植)することにより、電極2、3から発せられた電気エネルギー(電気パルス)が、非導電性材料の電極保持部4によって心臓1の反対側(胸腔側)に漏出することがなく、電極2、3の一面2a、3aから心臓1にのみ電気エネルギーを印加する(放出させる)ことが可能になる。
【0045】
また、薬剤放出部5を備え、体内に埋植して体液が接触するとともに、この薬剤放出部5内の薬剤を電極2、3の一面2a、3a側に溶出(放出)させることができる。このため、治療用電極体Bを体内に埋植することにより、生体組織の炎症、過度な線維化など、好ましくない生体反応を薬剤によって抑制することが可能になる。
【0046】
さらに、電極保持部4の一面4a側に露出した電極2、3と薬剤放出部5を囲むように薬剤漏出防止部6が設けられているため、薬剤放出部5から放出された薬剤(薬剤が混ざった体液)が薬剤漏出防止部6によって電極2、3の一面2a、3a側に留まり、治療用電極体Bの設置範囲から外側に拡散することを抑制(防止)することが可能になる。
【0047】
また、電極保持部4に縫合穴8が設けられているため、この縫合穴8に縫合糸を通して、治療用電極体Bを生体組織に容易且つ確実に固定して装着することが可能になる。
【0048】
さらに、薬剤としてステロイド剤を用いることにより、確実に生体組織の炎症などを抑制することが可能になる。また、薬剤として免疫抑制剤を用いることにより、生体組織の炎症などを抑制することが可能になるとともに、体内に治療用電極体Bを埋植することによる拒絶反応を抑制することが可能になる。
【0049】
これにより、本実施形態の治療用電極体Bを植え込み型除細動器の電極体として用い、この治療用電極体Bを心嚢膜表面1aに埋植した場合であっても、生体組織の炎症や過度な線維化を抑制でき、除細動の閾値の上昇に伴う電気エネルギー量の増加を抑制することが可能になる。よって、放電面積を大きく確保することが可能になるとともに、心臓1への負担や患者が受ける苦痛を軽減することが可能になる。また、パルス発生器に内蔵された電池寿命を長期化することが可能になる。
【0050】
また、薬剤漏出防止部6を備えることで、薬剤が無駄になることがなく、長期間の埋植使用においても閾値上昇のおそれのない治療用電極体Bを提供することが可能になる。すなわち、信頼性の高い治療用電極体B及び除細動器Aを提供することが可能になる。
【0051】
以上、本発明に係る治療用電極体及びこれを備えた除細動器の一実施形態について説明したが、本発明は上記の第1実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、電極保持部4、薬剤放出部5、薬剤漏出防止部6がシリコンゴムを用いて形成されているものとしたが、生体組織に対する毒性がなく、組織に対する刺激性が低い材料であれば、必ずしもシリコンゴムを用いることに限定しなくてもよい。
【0052】
また、本実施形態では、円板状の薬剤放出部5が電極保持部4の一面4aに分散配置して保持されているものとしたが、薬剤放出部5の形状、数、配置を限定する必要はない。例えば図4及び図5に示すように、薬剤放出部5の体液が接触する一面5a内に電極2、3の一面2a、3aが配されるように(例えば薬剤放出部5と電極2、3を重ねたり、薬剤放出部5と電極2、3を交差させるなどして)、治療用電極体Bが形成されていてもよい。このように構成した場合には、電極2、3の近傍に薬剤が放出されることになるため、生体組織の過度な線維化、炎症などの好ましくない生体反応をより効果的に抑制することが可能になる。すなわち、電極2、3から放出される電気エネルギーが、生体組織の線維化、炎症の原因である場合には、電極2、3近傍から薬剤が溶出することによって、刺激の影響を確実に軽減することが可能になる。
【0053】
さらに、図6及び図7に示すように、電極2、3の一面2a、3aを露出させつつ、環状の薬剤漏出防止部6の内側全面に薬剤放出部5を設けるようにしてもよく、このように構成した場合においても、電極2、3の近傍に薬剤が放出されることになるため、生体組織の過度な線維化、炎症などの好ましくない生体反応をより効果的に抑制することが可能になる。なお、図4及び図5、図6及び図7に示す治療用電極体Bにおいては、電極2、3が薬剤放出部5を介して間接的に電極保持部4に保持されている。
【0054】
また、一対の環状の電極2、3を備えて治療用電極体Bが構成されているものとしたが、電極2、3の数、形状を特に限定する必要はない。
【0055】
さらに、薬剤漏出防止部6は、図8に示すように、複数設けられていてもよい。この場合には、複数の薬剤漏出防止部6によって、より確実に薬剤放出部5から放出された薬剤を電極2、3の一面2a、3a側に留め、治療用電極体Bの設置範囲から外側に拡散することを抑制(防止)できる。
【符号の説明】
【0056】
1 心臓(生体組織)
1a 心嚢膜
2 電極
2a 一面(表面)
3 電極
3a 一面(表面)
4 電極保持部
4a 一面
5 薬剤放出部
5a 一面
6 薬剤漏出防止部
7 リード線
7a 導線
8 縫合穴
A 除細動器
B 治療用電極体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療対象の生体組織の表面に装着して、前記生体組織に電気エネルギーを印加するための治療用電極体であって、
電気エネルギーを放出する電極と、
非導電性材料を用いて形成され、前記治療対象の生体組織の表面に向けて配される前記電極の一面のみを一面側に露出させて前記電極を保持する電極保持部と、
基材と薬剤の混合物として形成されるとともに前記電極保持部に保持され、前記薬剤を前記電極の一面側に放出する薬剤放出部とを備えて構成されていることを特徴とする治療用電極体。
【請求項2】
請求項1記載の治療用電極体において、
前記電極保持部の一面から外側に突設され、且つ前記電極保持部の一面に露出した前記電極と前記薬剤放出部を囲むように環状に延設された薬剤漏出防止部を備えていることを特徴とする治療用電極体。
【請求項3】
請求項2記載の治療用電極体において、
前記薬剤漏出防止部が複数設けられていることを特徴とする治療用電極体。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の治療用電極体において、
前記薬剤放出部の体液が接触する一面内に前記電極の一面が配されるように形成されていることを特徴とする治療用電極体。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の治療用電極体において、
前記電極保持部に、前記治療対象の生体組織の表面に固定するための縫合穴が設けられていることを特徴とする治療用電極体。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の治療用電極体において、
前記薬剤がステロイド剤または免疫抑制剤であることを特徴とする治療用電極体。
【請求項7】
心嚢膜表面に電極体を装着し、パルス発生器で生成した電気パルスを該電極体から心臓に印加することによって前記心臓の機能を回復させる除細動器において、
前記電極体が請求項1から請求項6のいずれかに記載の治療用電極体であることを特徴とする除細動器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate