説明

治療薬剤の標的部位への集積及び放出を追跡可能な治療薬剤含有リポソームおよびその製造方法

【課題】治療薬剤の標的への集積及び放出を追跡可能な治療薬剤内含リポソームおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は治療薬剤、放射性核種及び還元剤を内含するリポソームおよびその製造方法であり、従来の方法とは逆に、あらかじめ還元剤を内含したリポソームに放射性核種を封入することにより先に放射性核種含有リポソームを調製し、そこに治療薬剤を封入することによって、高い封入効率を示す放射性核種と治療薬剤を共に含有するリポソームを得ることを可能にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は治療薬剤の標的への集積及び放出を追跡可能な治療薬剤内含リポソームおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リポソームは、数十〜数百nm程度の粒径を持つ閉鎖小胞体で、リン脂質などからなる脂質二重膜で構成され、様々な物質を封入することができる。近年、DDS技術分野において、生体由来のリン脂質を用いて作成したリポソームに抗癌剤や治療用遺伝子等を封入し、リポソームを薬物輸送のキャリアとして薬剤を標的部位に目的の量、目的のタイミングで送達させる為の様々な研究が行われている。(非特許文献1)。
【0003】
リポソームはその表面や脂質組成により様々な機能修飾をすることができ、たとえばリポソーム表面をポリエチレングリコール(PEG)修飾することにより細網内皮系(RES)による捕捉を回避し、血中滞留性、血中安定性を向上させることができる。また標的組織に特異的な相互作用をするリガンド(抗体、ペプチド、糖)を結合させれば標的指向性を付与することが可能となり、粘膜付着性を付与することで組織滞留性を向上させることができる。さらにリポソームを構成する膜の成分により、温度、光、pH等に依存して崩壊、つまりは薬剤の標的部位における放出をコントロールすることができる(非特許文献1)。
【0004】
上記のようなリポソームを用いたDDSにより、標的部位に特異的に薬剤を送達することができれば、全体として薬剤の使用量を低減することができる。これは例えば重篤な全身性の副作用を有する為使用が制限される抗癌剤を用いた治療において特に有用である。
【0005】
抗癌剤のひとつであるドキソルビシン(アドリアマイシンともいう)はアントラサイクリン系抗腫瘍薬の代表的薬剤で1960年代から臨床において広く使用されてきた抗腫瘍性薬剤の一つである。ドキソルビシンの抗腫瘍スペクトルは非常に広く有用である。しかしアントラサイクリン系抗腫瘍薬は一般に強い心臓毒性を有し、中でもドキソルビシンは投与量に依存した心筋障害を起こし、重篤な鬱血性の心不全を発症させるため使用頻度は厳しく制限されている(非特許文献2)。
【0006】
現在、ドキソルビシン塩酸塩をPEG化リポソームに封入した製剤が、ドキシル(登録商標)と言う商品名で国内でも市販されている(ヤンセンファーマ株式会社)。所定の大きさのPEG化リポソームを利用することにより、血中滞留性、血中安定性、腫瘍滞留性が増加し、ドキソルビシン塩酸塩に比べて副作用が軽減されている。
【0007】
このような薬剤内含リポソームの体内動態を核医学的手法等により追跡することができれば、リポソームからの薬物放出のタイミングをはかる機能と組み合わせ、より効果的な治療を行うことができる。
【0008】
リポソームの体内動態を核医学的手法でイメージングする方法として、非特許文献3にはリポソームの構成成分である脂質の膜外部分を放射性核種で標識した物を用いることが開示されている。しかしながらこの場合は体内においてその標識が外れた場合、遊離した放射性核種と標識されたリポソームの両方の動態を測定することになり、目的とするリポソームの患部への集積を正確に測定することができないという問題がある。また作製するリポソームごとに、異なる脂質を個々に放射性核種で標識可能なように改変する必要があるため、手間と費用がかかるという不利益が存在する。
【0009】
また非特許文献4においては薬剤を内含するリポソームとほぼ同じ大きさのリポソームを放射性核種で標識し、同時投与することで核医学的手法を用いて薬剤含有リポソームの体内動態を予測する方法が記載されている。しかしこの方法は正確には目的とする薬剤を内含するリポソーム自体の動態を測定している訳ではない。また脂質投与量の増加により毒性の増加が懸念される。
【0010】
ところで、リポソームへ放射性核種を搭載する場合には、上記のようにリポソームの構成成分である脂質の膜外部分を放射性核種で標識する場合とは別に、リポソームに放射性核種を内含させる方法(以下アクティブローディング法:active loading methodという)がある。
【0011】
アクティブローディング法は、リポソーム溶液に放射性核種を膜通過性の脂溶性の形態で加えることで放射性核種をリポソーム内相に送達し、あらかじめ内包されている化学物質または内相と外相のpHの違い等により放射性核種を内部の親水性領域に封入する方法である。このうち、あらかじめ還元剤を内包させたリポソーム溶液に、放射性核種を膜通過性の脂溶性錯体の形態で加えることで封入する方法がある。この方法において、放射性核種はリポソーム内部において還元剤により錯体構造を維持できなくなる。イオンもしくは新たな錯体の形態になった放射性核種は再び膜を通過することができずに内部の親水性領域にトラップされ、内部に放射性核種を封入したリポソームを調製することができる。例えば非特許文献5、6には放射性核種の錯体としてTc-99mHMPAOを用いグルタチオンを還元剤として用いた方法が開示されている。
【0012】
アクティブローディング法はリポソームの種類を問わずに行うことが可能である。膜外表面を放射性核種で標識する場合とは異なり、あらかじめ個別の脂質を改変する必要がないことから、時間的、費用的負担が少ない。また短時間で調製可能であるため、短半減期の放射性核種を用いる場合にも調製から投与まで短時間で行うことができ、有益である。
【0013】
しかしながら、これまで報告されているアクティブローディング法による放射性核種内含リポソームは、炎症組織への集積などリポソーム自体の動態を見る目的で使用されているもののみである。アクティブローディング法を用いて抗がん剤などの治療薬物と放射性核種を共に内含するリポソームを調製した報告は今までされていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Utoguchi N., (2008) Frontier Study of the Liposomes on DDS, Yakugaku Zasshi, 128, 185−186
【非特許文献2】Ogura M, がんと化学療法28,1331-1338(2001)
【非特許文献3】Kleiter M.M., Yu D., Mohammadian L.A., Niehaus N., Spasojevic I., Sanders L., Viglianti B.L., Yarmolenko P.S., Hauck M., Petry N.A., Wong T.Z., Dewhirst M.W., Thrall D.E., (2006) A Tracer Dose of Technetium-99m Labeled Liposomes Can Estimate the Effect of Hyperthermia on Intratumoral Doxil Extravasation, Clinical Cancer Research, 12, 6800−6807
【非特許文献4】Koukourakis M.I., Koukouraki S., Giatromanolaki A., Archimandritis S.C., Skarlatos J., Beroukas K., Bizakis J.G.,Retalis G., Karkavitsas N., Helidonis E.S. (1999) Liposomal Doxorubicin and Conventionally Fractionated Radiotherapy in the Treatment of Locally Advanced Non-Small-Cell Lung Cancer and Head and Neck Cancer, Journal of Clinical Oncology, 17, 3512−3521
【非特許文献5】Phillips WT, Rudolph AS, Goins B, Timmons JH, Klipper R, Blumhardt R.( 1992) A simple method for producing a technetium-99m-labeled liposome which is stable in vivo.Int J Rad Appl Instrum B., 19(5):539-47.
【非特許文献6】Carmo VA, Ferrari CS, Reis EC, Ramaldes GA, Pereira MA, De Oliveira MC, Cardoso VN. (2008) Biodistribution study and identification of inflammation sites using 99mTc-labelled stealth pH-sensitive liposomes. Nucl Med Commun., 29(1):33-8.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
医療分野において治療薬剤等を内含するリポソームによる、より効果的な治療には、次のような特性を有することが望ましい。
(1)標的組織への集積の追跡が可能である(放射性核種、蛍光物質等)。
(2)標的組織における薬剤の放出の程度が測定可能である(常磁性体等)。
(3)標的組織への集積制御機能(粒径の調整、融合膜タンパク、特異的リガンドによる修飾)を有する。
(4)薬剤等の放出制御機能(温度、光、pH依存性)を有する。
(5)その他細網内皮系の回避(PEG修飾)、膜融合、粘膜付着性を有する。
公知の治療薬剤内含リポソームにおいては、(1)を目的とする、放射性核種と共に内含されたリポソームが報告されていなかった。
そのため治療薬剤含有リポソームの正確な標的組織への集積を追跡することが困難であり、より効果的な治療の為にはさらなる開発が必要であった。
【0016】
放射性核種を用いた核医学的診断の技術分野においては、短半減期核種の放射能の減衰を考慮し、診断用薬剤において放射性核種を用いる標識工程を最後または使用直前に行うことが技術常識である。従って、放射性核種と治療薬剤と共に内含するリポソームを作製しようとする場合、当業者であれば、まず薬剤含有リポソームを作製し、その後そのリポソーム内に放射性核種を封入すると考えるのが一般的である。
しかしながら、本明細書の比較実施例においても示すように、この方法によるとリポソームへの封入効率が非常に低くなるという技術的困難性を有していた。
【0017】
この現象がおこる機構は必ずしも明確ではないが、アクティブローディング法においてはリポソーム内部にあらかじめ内含させた還元剤により放射性核種を封入させるところ、治療薬剤と還元剤との何らかの相互作用により還元剤が機能しなくなることが封入効率の低い一因であると推測される。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、鋭意検討の結果、放射性核種を治療薬剤と共にリポソームに封入する方法を見出し、本発明を完成した。
すなわち、従来の方法とは逆に、あらかじめ還元剤を内含したリポソームに放射性核種を封入することにより先に放射性核種含有リポソームを調製し、そこに治療薬剤を封入することによって、高い封入効率を示す放射性核種と治療薬剤を共に含有するリポソームを得ることを可能にした。
本発明は治療薬剤、放射性核種及び還元剤を内含するリポソームおよびその製造方法であって、あらかじめ還元剤を内含したリポソームに放射性核種を封入し、その後治療薬剤を封入することを特徴とする前記製造方法に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明において放射性核種と治療薬剤を共に内含するリポソームを得ることが可能になり、本発明のリポソームを使用することにより、治療薬剤含有リポソームの正確な標的組織への集積を追跡することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】分子篩カラムから溶出されるフラクションの放射能の割合(%)を示す。
【図2】投与18時間後における蛍光および放射能の腫瘍集積を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は治療薬剤、放射性核種及び還元剤を内含するリポソーム及びその製造方法であってあらかじめ還元剤を内含したリポソームに放射性核種を封入し、その後治療薬剤を封入することを特徴とする、前記製造方法に関する。本明細書において内含とはリポソームの中(内部の水相+膜内)に物質が存在するという状態、封入とはリポソームの中に物質を入れるという動作のことをいう。本発明においてリポソームに内含する治療薬剤、放射性核種及び還元剤はいずれも主に内部の水相に存在すると推測される。
【0022】
当該方法において使用することができる還元剤としてはグルタチオン、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドもしくはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸が挙げられ、一般的にはグルタチオンが使用される。
【0023】
本発明において使用される放射性核種としては、例えばF−18、Tc−99m、In−111、I−123、I−124、I−131、Y−90、Bi−213、At−211、Cu−61、Cu−62、Cu−67、Br−76、Cl−34m、Sc−47、Ga−67、Rh−105、Pr−142、Nd−147、Pm−151、Sm−153、Ho−166、Gd−159、Tb−161、Eu−152、Er−171、Re−186及びRe−188が挙げられる。特に、Tc−99m、Cu−61、Cu−62、Cu−67が好ましい。
本発明において使用される錯体化合物としては、上記放射性核種と膜通過性の錯体を形成し、還元反応により錯体から放射性核種が遊離されるものであれば特に限定されないが、例えばヘキサメチルプロピレンアミンオキシムやピルブアルデヒド-ビス(N4-メチルチオセミカルバゾン)が挙げられる。
【0024】
本発明のリポソームに内含される治療薬剤はフリーラジカルを発生する抗がん剤である場合には、特に本発明の製造方法により有利に製造できるため好ましい。
【0025】
フリーラジカルを発生する抗がん剤の例としては、抗腫瘍性抗生物質(ドキソルビシン、イダルビシン、ピラルビシン、ダウノマイシン、アクラルビシン、エピルビシンのようなアントラサイクリン系抗がん剤、ブレオマイシン、マイトマイシンC)、アルキル化剤(メルファラン、シクロホスファミド、イホスファミド及びブスルファンのようなマスタード類、ニムスチン、ラニムスチンなどのニトロソ尿素類、メトトレキサートのような葉酸拮抗薬、フルオロウラシル、テガフール、ドキシフルリジン、カペシタビンのようなフッ化ピリミジン類ならびにシタラビン、シタラビンオクホスファート、エノシタビン、ゲムシタビンのようなシトシンアラビノシド系化合物のようなピリミジン代謝拮抗薬、メルカプトプリン、フルダラビンのようなプリン代謝拮抗薬、ヒドロキシカルバミド、L-アスパラギナーゼのようなその他の代謝拮抗薬)、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチンなどの白金複合体及びそれらの塩が挙げられる。好ましくは、治療薬剤はドキソルビシン、イダルビシン、ピラルビシン、ダウノマイシン、アクラルビシン、エピルビシンのようなアントラサイクリン系抗がん剤及びそれらの塩であることが好ましい。
【0026】
本発明のリポソームは、特に種類を制限されることなく公知のリポソームの製造方法で製造することができる。
公知のリポソームの製造方法としては、バンガム法[ J. Mol . Biol . , 13 , 238 (1965)]、エタノール注入法[ J. Cell. Biol. , 66, 621 (1975)]、フレンチプレス法[FEBS Lett. , 99, 210 (1979)] 、凍結融解法[Arch. Biochem. Biophys. , 212, 186 (1981)]、逆相蒸発法[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75, 4194 (1978)]などが挙げられる。
【0027】
本発明のリポソームにおいて、リポソーム膜構成脂質としては、リポソームの膜脂質として通常用いられる両親媒性の脂質を用いることができる。このような脂質としては、例えばホスファチジン酸、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、大豆ホスファチジルコリン、卵黄ホスファチジルコリンなどのリン脂質が挙げられる。これらのリン脂質の構成脂肪酸としては、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキドン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などが挙げられる。これらは単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。特に、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミンが好ましい。
【0028】
リポソーム膜構成脂質には、安定化を目的としてコレステロール、ラノステロール、エルゴステロールなどのステロールが含まれていてもよい。
【0029】
本発明のリポソームの粒径は、使用目的に応じて種々の粒径とすることができ、一般的には50〜500nm程度である。例えば、抗癌剤をリポソームに保持させて、癌細胞に送達するための薬剤放出システムとして用いる場合には、通常50nm〜200nm程度、特に50〜100nm
程度の粒径であることが好ましい。
【0030】
本発明のリポソームは、細網内皮系回避性、標的指向性、膜融合性、温度感受性、pH感受性、光感受性、粘膜付着性から選択される1以上の性質を有していても良い。
上記性質を有するリポソームは公知の方法で製造することができる。(例えば、寺田 弘、吉村 哲郎 著、ライフサイエンスにおけるリポソーム・実験マニュアル(1992)参照)
【0031】
細網内皮系回避性とは体内に投与されたリポソームが細網内皮系(RES)に貪食することを防いで血中安定性、滞留性を向上させる性質であり、一般的にはリポソームをPEGで修飾することにより付与することができる。
【0032】
標的指向性とは標的組織に特異的な相互作用を利用して標的組織へ特異的に指向させる性質であり、標的組織に特異的なリガンド(ペプチド、葉酸、糖、トランスフェリン、抗体)等でリポソームを修飾することにより付与することができる。
【0033】
膜融合性とはリポソーム内の物質をエンドサイトーシス経路ではなく、直接細胞質内に送達させるための性質であり、リポソームを膜融合ペプチドやHIVウィルスの融合タンパク修飾を行うことにより付与することができる。
【0034】
温度感受性とは目的とする温度でリポソームが崩壊する性質であり、標的部位の温度を調節することにより薬物放出を制御することができる。リポソームの膜に使用する脂質の相転移温度を利用し、その比率を調節することにより付与でき、例えば特開2003−212755号公報、特開2006−306794号公報に記載された方法によって付与することができる。
【0035】
pH感受性とは目的とするpHでリポソームが崩壊する性質であり、標的組織や病巣におけるpHの違いを利用して崩壊を制御する機能である。この性質はpH感受性膜融合能を持つ高分子(サクシニル化ポリグリシドール(SucPG)やポリ乳酸グリコール酸(PLGA))を使用することにより付与することができる。
【0036】
光感受性とは光によりリポソーム形態を制御することができる性質であり、光異性化反応により分子形状(トランス体-シス体)が変化する光感受性脂質、脂質への光重合性基の導入、光増感剤を使用することで付与することができる。
【0037】
粘膜付着性とは組織滞留性を向上させる性質であり、カルボキシビニルポリマー、キトサンで修飾することにより付与できる。
【0038】
本発明のリポソームは、感熱応答性部分および疎水性部分を有する高分子化合物と、ポリエチレングリコールとが、リポソーム膜に担持されてなる細網内皮系回避性及び温度感受性リポソームであってもよい。
【0039】
前記細網内皮系回避性及び温度感受性リポソームはリポソーム膜構成脂質と、感熱応答性部分および疎水性部分を有する高分子化合物と、ポリエチレングリコールとから構成されてなり、PEGの水和層が十分リポソーム表面を覆うことができる組成としてリポソーム膜構成脂質:高分子化合物:ポリエチレングリコールのモル比が1:0.003〜0.2:0.001〜0.2の割合であることが望ましい。
【0040】
本発明のリポソームはさらに膜成分に蛍光色素を担持していてもよい。蛍光色素には例えばローダミン等が挙げられる。
【0041】
本発明のリポソームはさらに常磁性体を内含していても良い。リポソームが崩壊した際に放出する常磁性体の量をNMRで測定することにより標的部位における薬物の放出の程度のを定量することができる。本発明において常磁性体はCr3+、Mn2+、Fe2+、Fe3+及びGd3+から成る群から選択され、特にMn2+が好ましい。
本発明において常磁性体は公知の方法で封入される(例えば、Ponce A.M., Viglianti B.L., Yu D., Yarmolenko P.S., Michelich C.R., Woo J., Bally M.B., Dewhirst M.W. (2007) Magnetic Resonance Imaging of Temperature-Sensitive Liposome Release: Drug Dose Painting and Antitumor Effects, Journal of the National Cancer Institute, 99, 53−63参照)。
【0042】
なお、アクティブローディング法による放射性核種の封入は、あらかじめ常磁性体が封入されたリポソームに対し行なう。
【0043】
本発明のリポソームは、錠剤、粉末などの固形製剤の形態であってもよいが、注射製剤のような液体製剤の形態で用いることが好ましい。
【0044】
上記のリポソームを液体製剤として用いる場合、医薬添加剤は、担体(例えば生理食塩水、滅菌水、緩衝液など)、膜安定剤(例えばコレステロールなど)、等張化剤(例えば塩化ナトリウム、グルコース、グリセリンなど)、還元剤(例えばトコフェロール、アスコルビン酸、グルタチオンなど)、防腐剤(例えばクロルブタノール、パラベンなど)などを含み得る。上記の担体は、温度感受性リポソームを製造する際に用いる溶媒であり得る。
【0045】
上記のリポソームを固形製剤として用いる場合、医薬添加剤は、賦形剤(例えば乳糖、ショ糖のような糖類、トウモロコシデンプンのようなデンプン類、結晶セルロースのようなセルロース類、アラビアゴム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、リン酸カルシウムなど)、滑沢剤(例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコールなど)、結合剤(例えばマンニトール、ショ糖のような糖類、結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなど)、崩壊剤(例えば馬鈴薯澱粉のようなデンプン類、カルボキシメチルセルロースのようなセルロース類、架橋ポリビニルピロリドンなど)、着色剤、矯味矯臭剤などを含み得る。
【0046】
上記のリポソームは、上記の薬剤を含むリポソームをそのまま、または凍結乾燥させて、上記の医薬添加剤と混合することにより製造することができる。薬剤を含むリポソームを凍結乾燥する場合、凍結乾燥する前に適当な賦形剤を添加しておくことが好ましい。
【0047】
上記のリポソームは、非経口および経口経路のいずれによっても投与することができる。例えば薬剤として抗癌剤を用いる場合は、非経口経路、特に静脈注射による投与が好ましい。
【0048】
上記のリポソームの投与量は、対象の重篤度およびリポソームに含有される薬剤の量に応じて適宜選択することができる。
【0049】
本発明の、治療薬剤、放射性核種及び還元剤を内含するリポソームの製造方法は、
a) 還元剤を内含するリポソーム溶液を調製する工程
b) 工程a)で得られた還元剤を内含するリポソームに放射性核種を封入する工程、及び
c) 工程b)で得られた還元剤及び放射性核種を内含するリポソーム溶液に治療薬剤を封入する工程
を含む。
上記a)〜c)の工程はこの順番で、すなわちあらかじめ還元剤を内含したリポソームに放射性核種を封入し、その後で治療薬剤を封入しなければならない。
【0050】
上記工程a)は公知の方法により行うことができ、例えば乾燥脂質薄膜を調製し、50〜500mMの還元剤を含む溶液に前記脂質薄膜を超音波などで分散させることにより行うことができる。
上記工程a)においては、還元剤の酸化を防ぐために窒素やアルゴンガスなどの不活性気体雰囲気下で行なうことが望ましい。
【0051】
上記工程a)においては、エクストルーダー等によりリポソームの粒径を揃え、カラムクロマトグラフィーによりサイズ分画を行うこともできる。
上記工程a)においては、内相と外相の浸透圧の差によるリポソーム膜の崩壊を防ぐために、スクロース又はNaCl等の等張剤を添加することにより内相と外相の浸透圧をほぼ等しく調製することが好ましい。
【0052】
上記工程b)は、工程a)で得られたリポソーム溶液に、10〜740MBqの放射活性を有する放射性核種標識錯体溶液を0.5〜2倍の体積で加えて30分〜1時間、室温で放置することにより行っても良い。
上記工程b)は、リポソームに封入したい物質をあらかじめ作製したリポソームの溶液に加えることで封入するアクティブローディング法、すなわちあらかじめ還元剤を内包させたリポソーム溶液に、放射性核種を膜通過性の脂溶性錯体の形態で加えることで封入する方法によるものである。錯体の形態でリポソームに内含された放射性核種はリポソーム内部において還元剤により錯体構造を維持できなくなる。イオンもしくは新たな錯体の形態になった放射性核種は再び膜を通過することができずに内部の親水性領域に保持され、内部に放射性核種を内含したリポソームを調製することができる。
【0053】
上記工程c)は、調製後のリポソームに治療薬剤を封入する公知の方法で行われる。例えば、pH勾配法や内相にグルコン酸銅(例えばAwa Dicko et al., International Journal of Pharmaceutics 337,219−228(2007)を参照のこと)を封入した方法が挙げられる。
好ましくはpH勾配法が使用され、リポソーム溶液の外相を治療薬剤が非イオン型となるpHとし、リポソームの内相を治療薬剤がイオン型となるpHとすることで、リポソーム溶液の外相に加えた治療薬剤は非イオン型(脂溶性)となることでリポソーム膜を通過し、内相に到達した治療薬剤はリポソーム膜を通過し難いイオン型(水溶性)となり、リポソームに内封される。
【0054】
pH勾配法を用いる場合は、工程a)においてリポソームをpH5.0〜6.0で調製し、工程c)において溶液のpHをNa2HPO4水溶液を用いて7.1〜7.4に調整した後、治療薬剤10〜100g/mol(脂質)を添加して約30℃で約1時間放置することにより行っても良い。
【0055】
本発明のリポソームの調製方法において、リポソームに封入されなかった治療薬剤および放射性核種標識錯体を除去するためにさらに分子篩カラムを用いたゲルろ過による精製を行っても良く、また100,000×g、30分程度の遠心分離によりリポソームを沈殿させ、上清を除去することで精製および濃度調整を行っても良い。
【実施例】
【0056】
本発明を、以下の実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0057】
実施例1: 99mTcを内含するリポソームへのドキソルビシンの封入
(グルタチオンを含むリポソームの調製及び99mTcの封入)
卵黄ホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、コレステロール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール結合ホスファチジルエタノールアミン、ローダミン結合ホスファチジルエタノールアミンが24.1/56.5/14.8/2/4/0.6の組成で構成される真空乾燥した後の脂質薄膜(卵黄ホスファチジルコリン 4mg)に、スクロース水溶液を生体と等張の300 mMで加え、一晩凍結乾燥した後、200mMグルタチオン、150 mM硫酸アンモニウム、および150 mM硫酸マンガン水溶液(pH 5.3)を0.5〜1mL加え、アルゴン雰囲気下で超音波により分散した。エクストルーダーにより約0.1ミクロン粒径を揃え、スクロース及びNaClを加えることにより浸透圧を調製し、pH5.3に調整したPBS中でSepharose4Bカラムを通して精製し、グルタチオンを含むリポソーム溶液を得た。
得られたグルタチオンを含むリポソーム溶液1mLに、20MBqのTc−99m標識エキサメタジウムテクネシウムを含む生理食塩水1mLを加え室温にて30分放置した。
(グルタチオンを内含するリポソームへの99mTc及びドキソルビシンの封入)
続いて、上記反応混合物溶液のpHをNa2HPO4水溶液にて7.1〜7.4に調製し、ドキソルビシン水溶液(10g/L)を脂質1molあたりドキソビルシンが57gとなるよう添加して30℃で1時間放置した。これをカラム(Sephadex (登録商標) G-25 prepacked column (PD−10)、GE社製)に付し、約800 mOsmの塩化ナトリウム水溶液にて溶出した。溶出液は0.5 mLごとに30フラクションを連続採取し、ドーズキャリブレータ(キュリーメータ IGC−7、アロカ社製)にて各フラクションおよびカラムの放射能を測定した。その結果、採取したフラクションのリポソーム画分に存在する放射能は全体の90%であり、この方法により治療薬剤、放射性核種、蛍光物質および常磁性体の全てを含有し、かつ細網内皮系回避性および温度感受性の性質を持つ、粒子径が0.1ミクロンのリポソームを得ることが出来た。
【0058】
比較例1:ドキソルビシンを内含するリポソームへの99mTcの封入
(グルタチオンを含むリポソームの調製及びドキソビルシンの封入)
グルタチオン200mMおよび硫酸マンガン300mMを実施例1と同じ方法により内封した、卵黄ホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、コレステロール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール結合ホスファチジルエタノールアミンが24.3/56.7/15/2/4の組成で構成される0.1ミクロンに調整したリポソーム溶液に、実施例1と同様、ドキソルビシン57g/mol(脂質)を封入した。
(ドキソルビシン及びグルタチオンを内含するリポソームへの99mTcの封入)
続いて、得られたドキソルビシン及びグルタチオンを内含するリポソーム溶液1mLに20MBqのTc−99m標識エキサメタジウムテクネシウム1mLを加え30分放置した。得られた溶液2 mLをカラム(Sephadex (登録商標) G-25 prepacked column (PD−10)、GE社製)に付し、約800 mOsmの塩化ナトリウム水溶液にて溶出した。リポソーム画分に存在する放射能は全体の5%以下であった。
【0059】
このことから、従来の方法の通り、ドキソルビシンを内封するリポソームに対して最終段階においてTc−99m標識エキサメタジウムテクネシウムを用いてTc−99mを封入することは出来ないということが示された(図1)。図1において、“○”はドキソルビシンをあらかじめ内封したリポソーム溶液にTc−99m標識エキサメタジウムテクネシウム溶液を添加した場合の分子篩カラムから溶出されるフラクションの放射能の割合(%)を表し、“□”はドキソルビシンを内封していないリポソーム溶液にTc−99m標識エキサメタジウムテクネシウム溶液を添加した場合の分子篩カラムから溶出されるフラクションの放射能の割合(%)を表す。
【0060】
実施例2: ドキソルビシン、Tc−99m、ローダミンおよびマンガンの全てを含有し、かつ細網内皮系回避性および温度感受性の性質を持つ粒子径が0.1ミクロンのリポソームの体内動態
上記実施例1と同様にして得た、グルタチオン200mM、硫酸マンガン300mM、ドキソルビシン(57g/mol(脂質))およびTc−99m(111 MBq)を内封した、卵黄ホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、コレステロール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール結合ホスファチジルエタノールアミン、ローダミン結合ホスファチジルエタノールアミンが24.3/54.6/15/2/4/1の組成で構成される0.1ミクロンに調整したリポソームの溶液中の放射活性濃度を、生理食塩水を加えることで3.7MBq/mLに希釈調整した。この溶液をColon 26細胞を下肢に移植して9日目のヌードマウス(各時点、n=5)に1匹あたり100μLを尾静脈から投与し、投与3、6、18時間後に屠殺し、腫瘍、筋肉および血液を採取し、それぞれの臓器中の放射活性を計測することで腫瘍集積性を調べた。その結果、腫瘍と血液の放射能の比(腫瘍/血液)は投与後3、6、18時間において0.04、0.07、0.26と上昇し、腫瘍と正常組織である筋肉の放射能の比(腫瘍/筋肉)は投与後3、6、18時間において2.05、3.25、5.57と上昇した。腫瘍/血液比が腫瘍/筋肉比と比較して低い値を示すのは、本発明のリポソームが血液滞留性に優れていることによる結果と考えられる。また、上記リポソーム注射溶液を200μLあたりドキソルビシン2mgおよびTc−99m 33.3MBqを含むように遠心分離(100,000×g、30分)により濃縮調製した溶液をColon 26細胞を下肢に移植して9日目のヌードマウスに尾静脈投与し単光子撮像を行なうと、この正常組織と比較しての高い比率での放射能の取り込みは単光子断層撮像に表れ、明瞭な腫瘍の局在を描出した。さらに放射能と同様の蛍光の明瞭な腫瘍集積は、放射能の局在がリポソームの局在を反映したものであることを示した(図2)。図2において、矢印は腫瘍部位を表す。図2の左は投与18時間後における蛍光の腫瘍集積を示し、図2の右は投与18時間後における放射能の腫瘍集積の断層像を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療薬剤、放射性核種及び還元剤を内含するリポソーム。
【請求項2】
治療薬剤がフリーラジカルを発生する抗がん剤であることを特徴とする請求項1記載のリポソーム。
【請求項3】
放射性核種がTc−99m、Cu−61、Cu−62、Cu−67から成る群より選択される請求項1又は2いずれか1項記載のリポソーム。
【請求項4】
還元剤がグルタチオン、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド及びニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸からなる群より選択される請求項1〜3いずれか1項記載のリポソーム。
【請求項5】
更に常磁性体及び蛍光物質からなる群より選択される1以上の標識物質を含む、請求項1〜4いずれか1項記載のリポソーム。
【請求項6】
粒子径が50〜500 nmである、請求項1〜5いずれか1項記載のリポソーム。
【請求項7】
細網内皮系回避性、標的指向性、膜融合性、温度感受性、pH感受性、光感受性及び粘膜付着性からなる群から選択される1以上の性質を持つ、請求項1〜6いずれか1項記載のリポソーム。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか1項記載のリポソームの製造方法であって、あらかじめ還元剤を内含したリポソームに放射性核種を封入し、その後治療薬剤を封入することを特徴とする前記製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−235464(P2010−235464A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82869(P2009−82869)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(301032942)独立行政法人放射線医学総合研究所 (149)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】