説明

法面作業用命綱の係留具

【課題】小段および排水溝を有する法面における作業を、安全に行うことのできる法面作業用命綱の係留具を提供する。
【解決手段】法面20,21の途中に小段22が形成され、小段22に排水溝10が設けられた傾斜面での作業における命綱の係留具であって、排水溝10の一方の内壁10aに接触する垂直板部1aと、内壁10aに続く水平面10cに接触する水平板部1bとを有する基枠1と、基枠1の垂直板部1aの中途部に基端部が固着され、水平板部1aとは反対方向に垂直に立設されたネジ棒2と、ネジ棒2の先端部にネジ棒2の長手方向に沿って移動可能に取り付けられ、垂直板部1aとほぼ平行な可動板3と、ネジ棒2に螺合して可動板3を排水溝10の他方の内壁10bに圧着させるハンドル4と、基枠1に固定され命綱6の端部のフック部7を係留する係留部5とを備えることにより、作業をより安全に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山間部や海岸線に敷設される道路の片側または両側の法面における作業の安全を確保する命綱の先端を留める係留具に関する。
【背景技術】
【0002】
山や崖を切り開いて高速道路やバイパス等の自動車用道路を敷設する場合、道路の片側または両側に、法面が形成されることが多い。法面には落石や崩壊を防ぐために、擁壁ブロックを組んだり、モルタルで塗装したり、金網を張ったりして、法面の保護をしている。
【0003】
長大な法面の下部では表面水の流量・流速が増加するために、単一勾配ではなく途中に小段を設けることが推奨されている。その小段には、表面水を法面の外へ排水することを目的として、排水溝が設けられる。この小段や排水溝には、気象や災害によって法面上部の折れた樹木や、崩落した岩が溜まる場合がある。また、秋には枯れ葉なども溜まる。そこで、法面途中の小段で清掃作業を行う必要がある。
【0004】
ところが、小段の幅は1.5m程度であり、清掃の方法によっては排水溝の外側を足場とする場合があり、踏み外すと数m下に落下するので危険である。そのため、命綱を安全ベルトにつなぎ、先端をどこか適当な場所に係留して作業をする必要があるが、必ずしも適当な係留箇所が法面にあるとは限らない。
【0005】
このような高所での作業に、命綱を係留する装置や器具が色々提案されている。
特許文献1には、鉄道レールに容易に設置でき、且つ命綱の固定場所を容易に変更することを可能とするために、レールの長手方向に対して直交方向にレールのベース部の外側に嵌め込まれる嵌め込み部を有する挟持部本体と、該挟持部本体に離接近自在に連結固定され、レールのベース部の下方を通ってその内側に引掛ける引掛部を有する移動挟持部と、前記挟持部本体に上方へ突出するように設けられた支持棒と、該支持棒に上方から差し込み引抜き自在で且つ外側に命綱取付部を有する中空鋼管からなる命棒とを備えた命綱取付具が記載されている。
【0006】
特許文献2には、ゴンドラの設置されていない建物の高所で働く作業者が装着する安全ベルトを、安全確実且つ簡便に結合固定できる、落下防止用安全装置を提供することを目的とする安全装置が記載されている。これは、“コの字型”に形成され、建物ごとに異なっている窓枠の腰壁の厚さに応じて螺旋状ネジ等を使い、窓枠の腰壁に固定できるようにした、取り付け調整機構を備えたフレームであって、前記フレームの一端に、フック取り付け用孔を有したプレートが溶接されていて、高所作業者が落下防止のために装着する安全ベルトのロープ先端のフックを、前記フック取り付け用孔を有したプレートに結合することにより、高所作業者が装着している安全ベルトを窓枠の腰壁に結合固定して、落下防止をする機構となっている。
【0007】
特許文献3には、建物の建設現場等において柱等の安全ロープを結束する部材がない個所にも安全ロープを自由に張ることを目的として、保持具本体と、保持具本体の下端部に形成され鉄骨等の固定された部材に嵌合する嵌合部と、前記嵌合部に備えられ締めることによって先端部が鉄骨等の固定された部材に圧接する固定ボルトと、前記保持具本体に設けられ安全ロープを保持するロープ保持部とを具備する高所作業用の安全ロープ保持具において、前記ロープ保持部は、前記安全ロープを所定方向側から接触させる少なくとも2個所に設けられたロープ接触部と、前記少なくとも2個所に設けられたロープ接触部の間に設けられたピンとによって構成されている高所作業用の安全ロープ保持具が記載されている。
【0008】
【特許文献1】特開2004−215960号公報
【特許文献2】実開平6−66713号公報
【特許文献3】特開平8−257151号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前掲の特許文献1に記載された命綱取付具では、鉄道レールという特定の構造物が存在することを前提としており、道路側部の法面には適用できない。
また、特許文献2に記載された安全装置では、窓枠の腰壁というコの字型のフレームを引っ掛けることのできる箇所を有することが必要であり、法面には適用できない。
さらに、特許文献3に記載された安全ロープ保持具は、鉄骨等の構造物に取り付けるものであり、そのような構造物がない法面には取り付けることができない。
そこで本発明は、小段および排水溝を有する法面における作業を、安全に行うことのできる法面作業用命綱の係留具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明の法面作業用命綱の係留具は、法面の途中に小段が形成され、前記小段に排水溝が設けられた傾斜面での作業のためのものである。その機構は、前記排水溝の一方の内壁に接触する垂直板部と、前記内壁に続く水平面に接触する水平板部とを有する基枠と、前記基枠の前記垂直板部の中途部に基端部が固着され前記水平板部とは反対方向に垂直に立設されたネジ棒と、前記ネジ棒の先端部にネジ棒の長手方向に沿って移動可能に取り付けられ、前記垂直板部とほぼ平行な可動板と、前記ネジ棒に螺合して前記可動板を前記排水溝の他方の内壁に圧着させるハンドルと、前記基枠に固定され、前記命綱の端部を係留する係留部とを備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明においては、法面で作業する場合、ハンドルを操作して垂直板部と可動板との間隔を排水溝の幅よりも短くしておき、基枠の垂直板部と水平板部が排水溝の内壁とそれに続く水平面の肩部に位置するようにセットする。次いでハンドルを回して、ネジ棒の先端の可動板が排水溝の他方の内壁に接するように移動させ、ハンドルを強く回して、可動板が内壁に強く圧着するようにする。これにより、係留具は排水溝に固定されることになる。作業者は、安全ベルトに取り付けた命綱の先端金具を、係留部につないで作業をする。これにより、作業者は安全に法面での作業を行うことができる。万一、作業者が小段から足を踏み外しても、命綱の端部が係留具の係留部に固定されているため、命綱の長さで落下が防止され、更に下方に落下する事故を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、法面の途中に小段が形成され、前記小段に排水溝が設けられた傾斜面での作業における命綱の係留具であって、排水溝の一方の内壁に接触する垂直板部と内壁に続く水平面に接触する水平板部とを有する基枠と、基枠の垂直板部の中途部に基端部が固着され水平板部とは反対方向に垂直に立設されたネジ棒と、ネジ棒の先端部にネジ棒の長手方向に沿って移動可能に取り付けられた垂直板部とほぼ平行な可動板と、ネジ棒に螺合して可動板を排水溝の他方の内壁に圧着させるハンドルと、基枠に固定され命綱の端部を係留する係留部とを備えたことにより、小段および排水溝を有する法面における作業を安全に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。図1は本発明の実施の形態に係る法面作業用命綱の係留具を示す斜視図、図2はその使用状態を示す側面図である。
図1および図2において、本実施の形態に係る法面作業用命綱の係留具(以下、単に「係留具」という。)は、排水溝10の一方の内壁10aに接触する垂直板部1aと内壁10aに続く水平面10cに接触する水平板部1bとを有する基枠1と、基枠1の垂直板部1aの中途部に基端部が固着され水平板部1bとは反対方向に垂直に立設されたネジ棒2と、ネジ棒2の先端部にネジ棒2の長手方向に沿って移動可能に取り付けられた垂直板部1aとほぼ平行な可動板3と、ネジ棒2に螺合して可動板3を排水溝10の他方の内壁10bに圧着させるハンドル4と、基枠1に連設された固定板1cに固定され、命綱6の端部のフック部7を係留する係留部5とを有している。
【0014】
本実施の形態の係留具は、鉄またはアルミニウム合金などの強度の大きい材料で作られ、垂直板部1aと水平板部1bは一枚の板材の折り曲げ加工、または溶接でL字状に形成される。水平板部1bと固定板1cとは溶接等で固定され、さらに固定板1cに、溶接等で係留部5が固定される。垂直板部1aとネジ棒2の基端部とは溶接で固定され、ネジ棒2の他端部に、筒部3aを有する可動板3を嵌合している。ネジ棒2と筒部3aは、ネジ棒2の長手方向に移動自在である。ネジ棒2には、雌ネジを内周に有するリング4aがねじ込んであり、リング4aの外周に取り付けられたハンドル4を回すことにより、ハンドル4はネジ棒2の長手方向に移動できる。ハンドル4を回して、リング4aが可動板3の筒部3aを外側に押すようにすることによって、可動板3は排水溝10の他方の内壁10bを押し付けるとともに、その反作用によって垂直板部1aも内壁10aを押し付け、その摩擦抵抗により係留具は排水溝10に固定される。
【0015】
図2に示すように、排水溝10は、上部の法面20と下部の法面21との間に形成された小段22に設けられている。この小段22や排水溝10に落ちた土砂や石、枝、枯葉等を清掃する作業を行う際、作業員は排水溝10に係留具を取り付け、係留部5に安全ベルトにつないだ命綱6の先端のフック部7を係留して作業をすることにより、小段22や排水溝10の縁を足場とする作業の安全性を確保することができる。
【0016】
ここで、排水溝10の上部法面20側ではなく、下部法面21側の肩部に、基枠1の垂直板部1aと水平板部1bの内側が面するように、係留具を固定する。この向きで係留具を固定することにより、作業員が下部法面21側に落下したとき、命綱6のフック部7に掛かる重量が固定板1cを引っ張る方向に掛かり、その力を排水溝10の肩部が支えることになる。基枠1を排水溝10の反対側に取り付けると、作業員が下部法面21側に落下したとき、命綱6のフック部7に掛かる重量が固定板1cを垂直板部1a側に掛かり、その力は排水溝10の肩部から引き離す方向に作用するので、安全性が低下する。
【0017】
なお、本実施の形態では、命綱6の先端のフック部7を係留する係留部5を、水平板部1bに固着した固定板1cに固定した例を示したが、これに限らず、水平板部1bに突起と穴を形成してその穴にフック部7を係留する等、他の構成とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は、小段および排水溝を有する法面における作業を安全に行うことのできる法面作業用命綱の係留具であり、高速道路等の法面のメンテナンス作業等に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係る法面作業用命綱の係留具を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る法面作業用命綱の使用状態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0020】
1 基枠
1a 垂直板部
1b 水平板部
1c 固定板
2 ネジ棒
3 可動板
3a 筒部
4 ハンドル
4aリング
5 係留部
6 命綱
7 フック部
10 排水溝
10a,10b 内壁
10c 水平面
20 上部法面
21 下部法面
22 小段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
法面の途中に小段が形成され、前記小段に排水溝が設けられた傾斜面での作業における命綱の係留具であって、前記排水溝の一方の内壁に接触する垂直板部と前記内壁に続く水平面に接触する水平板部とを有する基枠と、前記基枠の前記垂直板部の中途部に基端部が固着され、前記水平板部とは反対方向に垂直に立設されたネジ棒と、前記ネジ棒の先端部にネジ棒の長手方向に沿って移動可能に取り付けられた前記垂直板部とほぼ平行な可動板と、前記ネジ棒に螺合して前記可動板を前記排水溝の他方の内壁に圧着させるハンドルと、前記基枠に固定され前記命綱の端部を係留する係留部とを備えたことを特徴とする、法面作業用命綱の係留具。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−153852(P2009−153852A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−337580(P2007−337580)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(508001431)西日本高速道路メンテナンス九州株式会社 (7)
【Fターム(参考)】