説明

法面緑化工法及び法面緑化用の吹付け装置

【課題】装置の大型化や吹付け材の増量等を原因とするコストの増加が生じることのない法面緑化工法とする。
【解決手段】生育基盤材F2を空気圧送路L4に供給し、この空気圧送路L4を通して圧送される生育基盤材F2を法面1に吹き付けて下側層2を造成し、生育基盤材F2とは別に種子F1も空気圧送路L4に供給し、この空気圧送路L4を通して圧送される生育基盤材F2及び種子F1を下側層2に吹き付けて上側層3を造成する。この際、種子F1の供給は生育基盤材F2の供給よりも上流で行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、法面緑化工法及び法面緑化用の吹付け装置に関するものである。より詳しくは、生育基盤材を法面に吹き付けて下側層を造成し、種子を含む生育基盤材を下側層に吹き付けて上側層を造成する法面緑化工法、及び、法面緑化工法において用いる吹付け装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、法面緑化工法は、種子を含む生育基盤材を、法面に吹き付けるのが一般的であった。具体的には、例えば、ピートモス、バーク堆肥等の有機質を主材料とした生育基盤材に、種子、肥料、土壌改良材等と、少量の水とを混ぜ、これを空気圧送路に供給し、この空気圧送路内を流れる圧縮空気で輸送し、空気圧送路の先端部に備わるノズルから吹き付ける方法や、粘性土、砂質土等の土壌を主材料とした生育基盤材に、種子、堆肥、土壌改良材、侵食防止剤等と、多量の水とを混ぜ、これをスラリー状に撹拌してポンプで吹き付ける方法などがあった。
しかしながら、以上の方法によると、吹付層全体が種子を含むことになる。にもかかわらず、当該吹付層の下層部に含まれる種子は、発芽しないことが多く、無駄となり、結果、コスト高につながった。
そこで、現在では、法面に種子を含まない生育基盤材を吹き付けて下側層を造成し、その後、当該下側層に種子を含む生育基盤材を吹き付けて上側層を造成する、いわゆる「2層吹付け工法」が注目されている。この工法によると、吹付け層の下層部となる下側層には種子が含まれないため、種子の無駄が防止される。
【0003】
もっとも、2層吹付け工法においては、下側層造成後、上側層造成までに、下側層表面が乾燥してしまい、上側層が下側層から崩落するおそれがある。そこで、上側層造成前に下側層表面に散水し、あるいは樹脂や金属等からなる網を配設し、もって上側層の崩落を防止することもある。もっとも、これらの方法は、新たな作業を要するものであるため、結局、コスト高につながる。また、上側層の崩落を防止する方法としては、上側層造成のための種子を含む生育基盤材をスラリー状として吹き付ける方法もある。しかしながら、この方法は、上側層が多量の水分を含むことになるため、上側層の耐侵食性が低下するとの問題を有している。しかも、上側層造成のための吹付け材と下側層造成のための吹付け材とで物性が全く異なることになるため、それぞれ別の吹付け装置を用意しなければならず、結局、コスト高につながる。
そこで、下側層表面が乾燥する前に上側層の造成を行うことができないか、さまざまな検討がなされてきた。ここで、そもそも、従来の2層吹付け工法において、下側層表面が乾燥してしまうのは、従来の工法が、施工の対象となる法面全体に下側層を造成してから、吹付け材を、種子を含まない生育基盤材から種子を含む生育基盤材に換え、その後、上側層を造成するものであり、下側層造成後、上側層造成までに時間がかかるためであった。
このような知見をもとに、更に種子を含まない生育基盤材の収容タンクと、種子を含む生育基盤材の収容タンクと、当該種子を含まない生育基盤材の供給と種子を含む生育基盤材の供給とを切り換える切換手段と、が備わる吹付け装置を用いて、吹付けを行う方法が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。当該吹付け装置を用いると、切換手段による切り換えのみで、下側層造成から上側層造成に、あるいは上側層造成から下側層造成に作業を変化させることができる。したがって、一度に施工する範囲を、施工の対象となる法面の一部として、下側層造成後、上側層造成までの時間を短縮することができる。なお、切換手段による切り換えは、吹付け材の量や吹付け時間をファクターとして自動で行う場合も、手動で行う場合もある。
【0004】
しかしながら、この方法においては、2つの収容タンクが必要で、しかもいずれも生育基盤材が収容される大きなものとなるため、吹付け装置が全体として大型化し、装置設置のための広いスペースが必要になってしまう。
そこで、利用する吹付け装置の小型化を図った法面緑化工法が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。この法面緑化工法は、以下の吹付け装置を用いるものである。
すなわち、図5に示すように、当該吹付け装置100は、生育基盤材F2を収容せず種子F1を収容する種子収容タンク101と、種子F1を収容せず生育基盤材F2を収容する基盤材収容タンク102と、内部を圧縮空気Aが流れる空気圧送路103とが備えられ、この空気圧送路103に生育基盤材収容タンク102から生育基盤材F2が供給され、この下流で種子収容タンク101から種子F1が供給される構成とされている。また、当該吹付け装置100には、種子F1の供給状態と種子F1の供給停止状態とを切り換える切換手段が、種子収容タンク101と空気圧送路103に形成された種子F1の供給口104Aとの間に備えられている。さらに、当該吹付け装置100には、空気圧送路103及び基盤材収容タンク102のほかに、種子収容タンク101にも圧縮空気Aを圧送する空気圧縮手段105と、種子収容タンク101及び空気圧送路103を連通する種子導入管104とが備えられ、この種子導入管104の内部には、図示しない螺旋状のスクリューコンベヤが備えられている。そして、先の切換手段を利用して当該スクリューコンベヤを駆動すると、種子F1が種子収容タンク101から空気圧送路103内に供給される。一方、この空気圧送路103は、圧縮空気Aにかかる抵抗を小さくするために、空気圧送路103の生育基盤材F2が供給される位置より下流の部位103Bにおける口径が大きくなっている。具体的には、通常、生育基盤材F2が供給される位置より上流の部位103Aにおける口径が2.5〜3.8cm(1〜1.5インチ)であるの対し、下流の部位103Bにおける口径が3.8〜7.6cm(1.5〜3インチ)である。また、生育基盤材F2に比べて種子F1が極めて少量であることからすれば、種子F1の供給口104Aの口径(種子導入管104の口径)は小さいことが望まれるが、小径とすると供給口104Aに生育基盤材F2が付着し目詰まりを起こす可能性が高くなるため、供給口104Aの口径は下流の部位103Bにおける口径と同程度とされている。
【0005】
しかしながら、この吹付け装置100やこれを利用した法面緑化工法には、次のような問題がある。
すなわち、まず、当該吹付け装置100は、種子F1を空気圧送路103内に供給するためにスクリューコンベヤが備わる。種子F1を供給する際の空気圧送路103内には圧縮空気Aのほかに生育基盤材F2も流通しているため、種子F1を強制的に押し出す必要があるためである。したがって、スクリューコンベヤを使用して大径の種子導入管104を通して少量の種子F1を供給しなければならないことになるため、種子F1のみでは定量供給するのが難しく、多量の増量材を使用することになる。増量材の多用は、当然、コストの増加につながる。また、当該吹付け装置100においては、空気圧縮手段105から種子収容タンク101に圧縮空気Aを送り、内部を加圧しておく必要がある。内部を加圧しておかないと、生育基盤材F2が種子収容タンク101内に流入してしまうおそれがあるからである。このように種子収容タンク101にも圧縮空気Aを送ることから、空気圧縮手段105が大型化し、結果、吹付け装置100全体も大型化する。結果、装置設置のために広いスペースが必要になり、この点、コストの増加につながる。また、種子収容タンク101内の圧力調節も難しく、複雑な圧力調節機構が必要になり、この点でも、コストの増加につながる。さらに、種子F1の供給をスクリューコンベヤで行うと、供回り現象等によって定量供給されないおそれがあり、また、スクリューとの接触によって種子F1が損傷するおそれがある。このようなことから、種子F1が多めに供給されるように設定しておかなければならず、コストの増加につながる。
【特許文献1】特開平8−41887号公報
【特許文献2】特開平8−41888号公報
【特許文献3】特許3159376号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする主たる課題は、装置の大型化や吹付け材の増量等を原因とするコストの増加が生じることのない、法面緑化工法及び法面緑化用の吹付け装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決した本発明は、次のとおりである。
〔請求項1記載の発明〕
生育基盤材を空気圧送路に供給し、この空気圧送路を通して圧送される生育基盤材を法面に吹き付けて下側層を造成し、前記生育基盤材とは別に種子も前記空気圧送路に供給し、この空気圧送路を通して圧送される前記生育基盤材及び前記種子を前記下側層に吹き付けて上側層を造成する、法面緑化工法であって、
前記種子の供給は前記生育基盤材の供給よりも上流で行う、ことを特徴とする法面緑化工法。
【0008】
〔請求項2記載の発明〕
供給された吹付け材を圧送する空気圧送路と、この空気圧送路を通して圧送された吹付け材を吹き出すノズルと、前記空気圧送路に生育基盤材を供給する手段と、前記空気圧送路に種子を供給する手段と、前記種子の供給状態と供給停止状態とを切り換える手段とが、が備わる、法面緑化用の吹付け装置であって、
前記種子供給手段は前記生育基盤材供給手段によりも上流に備わる、ことを特徴とする法面緑化用の吹付け装置。
【0009】
〔請求項3記載の発明〕
空気圧縮手段が備わり、この空気圧縮手段からの圧縮空気が、前記空気圧送路及び前記生育基盤材供給手段に送られるが、前記種子供給手段には送られない、請求項2記載の法面緑化用の吹付け装置。
【0010】
〔請求項4記載の発明〕
前記空気圧送路の前記生育基盤材が供給される位置の口径 > 前記空気圧送路の前記種子が供給される位置の口径、かつ、
前記空気圧送路の前記生育基盤材が供給される位置の口径 > 前記空気圧送路に形成された前記種子の供給口の口径、
とされている、請求項2又は請求項3記載の法面緑化用の吹付け装置。
【0011】
〔請求項5記載の発明〕
前記種子供給手段は、
密閉可能な前記種子の収容タンクと、この種子収容タンク内から自由落下してきた種子を前記空気圧送路内に定量的に自由落下させる定量供給装置とを有する、請求項2〜4のいずれか1項に記載の法面緑化用の吹付け装置。
【0012】
〔請求項6記載の発明〕
前記定量供給装置がロータリーバルブである、請求項5記載の法面緑化用の吹付け装置。
【0013】
〔請求項7記載の発明〕
前記種子が複数種である場合において、
一の種子の供給が他の種子の供給よりも上流で行われるように構成する、請求項2〜6のいずれか1項に記載の法面緑化用の吹付け装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、装置の大型化や吹付け材の増量等を原因とするコストの増加が生じることのない、法面緑化工法及び法面緑化用の吹付け装置となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態を説明する。
〔吹付け装置〕
図1〜3に、本実施の形態に係る法面緑化用の吹付け装置の設備フロー図を示した。本吹付け装置は、生育基盤材F2のミキサー11、生育基盤材F2の供給手段13、種子F1の供給手段14、水タンク15、本装置の動力源となる発電機16、及び、空気圧縮手段たるコンプレッサー17が、設置面4上に設置されて、主になる。
【0016】
本吹付け装置においては、生育基盤材F2が、いったんミキサー11に供給される。ここで、生育基盤材F2とは、種子F1以外の材料であり、例えば、ピートモス、バーク堆肥、土壌類(肥沃土、砂質土類)、肥料、土壌活性剤、侵食防止剤、その他添加物等を、適宜含んだものである。生育基盤材F2としては、肥料等の種子F1の生育に直接的に寄与する有機組成物を主材料とするものや、土壌を主材料とするもの等を、緑化目的に応じて適宜含ませることができる。生育基盤材F2が複数の材料からなる場合は、ミキサー11で混合されて、性状が均一化される。
【0017】
ミキサー11で混合されるなどした生育基盤材F2は、ベルトコンベヤ12によって生育基盤材F2の供給手段13まで搬送される。この供給手段13は、図3に示すように、上下2段の上側生育基盤材収容タンク13a及び下側生育基盤材収容タンク13bと、上側生育基盤材収容タンク13aの上側に備わるホッパー13hと、を主に有する。ミキサー11から搬送されてきた生育基盤材F2は、ホッパー13hを通して、まず、上側生育基盤材収容タンク13a内に供給される。この上側生育基盤材収容タンク13a内には、撹拌翼Sが備わり、この撹拌翼Sによって、供給された生育基盤材F2が撹拌され、性状の均一化が進められる。上側生育基盤材収容タンク13a内において撹拌された生育基盤材F2は、その下方に備わる下側生育基盤材収容タンク13b内に自由落下等によって移動する。この下側生育基盤材収容タンク13b内にも、撹拌翼Sが備わり、この撹拌翼Sによって、供給された生育基盤材F2が撹拌され、更に性状の均一化が進められる。
【0018】
他方、種子F1は、単独で、あるいは増量材などとともに、種子F1の供給手段14に適宜の方法によって送られる。なお、増量材は、後述するように従来と比較して少量でも足りる。また、増量材としては、無機質系資材のゼオライトや発泡ガラス廃材が有用であることを確認している。
【0019】
本形態において、種子F1の供給手段14は、種子F1の投入口14hを有する種子収容タンク14aと、この下方において連通する定量供給装置たる切出槽14bと、この下方において連通する空気圧送路L4の一部を構成する連通管14cと、を主に有する。種子F1は、投入口14hを通して、種子収容タンク14a内に投入される。種子F1は、生育基盤材F2と比較して少容量であるため、当該種子収容タンク14aも、生育基盤材収容タンク13a,13bと比較して少容量とすることができる。したがって、吹付け装置全体を小型化することができる。
【0020】
本形態においては、種子収容タンク14a内にも、撹拌翼Sが備わる。この撹拌翼Sによる撹拌によって、例えば、種子F1が複数種である場合においては、性状の均一化を進めることができる。種子収容タンク14a内において撹拌されるなどした種子F1は、その下方に備わる切出槽14b内に自由落下する。この切出槽14b内には、ロータリー式のバルブRが備わる。このロータリーバルブRによって、種子F1は、自由落下を利用して連通管14c内に定量的に切り出される(定量供給)。この連通管14c内には、コンプレッサー17から圧送管L1を通して圧縮空気Aが圧送される。この圧縮空気Aの圧力によって、連通管14c内に切り出された種子F1は、空気圧送路たる圧送ホースL4内を、法面1等に向けて圧送される。なお、圧縮空気Aの圧力は、例えば、圧送管L1に備わるバルブV1の開度を調節することによって、調節することができる。
【0021】
他方、本形態においては、先の上側生育基盤材収容タンク13a及び下側生育基盤材収容タンク13b内にも、コンプレッサー17から圧送管L2を通して圧縮空気Aが圧送される。この圧縮空気Aの圧力によって、生育基盤材F2が、上側生育基盤材収容タンク13a及び下側生育基盤材収容タンク13b内から直接(図3参照)、あるいは適宜輸送ホースL5などを通されて(図1参照)、空気圧送路L4の途中に送り込まれる。なお、本形態では、圧送管L2が上側生育基盤材収容タンク13a内と連通するL2a及び下側生育基盤材収容タンク13b内と連通するL2bに分岐しており、それぞれにバルブV2又はV3が備わる。このバルブV2又はV3の開度を調節することによって、上側生育基盤材収容タンク13a及び下側生育基盤材収容タンク13b内に圧送する圧縮空気Aの量を調節することができる。
【0022】
以上から明らかなように、本形態においては、種子供給手段14が生育基盤材供給手段13よりも上流に備わり、種子F1の供給が生育基盤材F2の供給よりも上流で行われるようになっている。したがって、空気圧送管に形成された種子F1の供給口(切出槽14bと連通管14cの連通部)に生育基盤材F2が付着し詰まるおそれがない。結果、種子F1の供給口を適宜の大きさとすることができ、増量材を使用せず、あるいは少量としても、定量供給することができ、コストの増加を抑えることができる。なお、このことは、「空気圧送路L4の生育基盤材F2が供給される位置の口径 > 空気圧送路L4に形成された種子F1の供給口の口径」ということを意味する。また、本形態では、抵抗軽減という観点から、「空気圧送路L4の生育基盤材F2が供給される位置の口径 > 空気圧送路L4(連通管14c)の種子F1が供給される位置の口径」となっている。
【0023】
また、種子F1の供給が生育基盤材F2の供給よりも上流で行われるようになっていると、種子収容タンク14a内を加圧しておかなくても、種子F1の供給口を通して種子収容タンク14a内に流入するのは圧縮空気Aのみであり、生育基盤材F2が流入することはない。したがって、コンプレッサー17から種子収容タンク14a内に圧縮空気Aを送る必要はなく、コンプレッサー17を小型化することができる。また、種子収容タンク14a内を加圧しなくてもよいと、種子収容タンク14aに種子F1を投入した後、ただちに処理を開始することができ、作業効率も向上する。さらに、種子収容タンク14aを、投入口14hを図示例のように閉じることもできるようにするなどして密閉可能としておけば、自然に種子収容タンク14a内と連通管14c内とが等圧となるため、複雑な圧力調節機構を設ける必要がない。このほか、生育基盤材F2の圧力によって相対的に比重の軽い種子F1が逆流するといったおそれもない。したがって、種子F1を強制的に送り出すためのスクリューコンベヤも必要とならず、この点でも、吹付け装置が全体として小型化する。また、スクリュー等によって種子F1が損傷するといったおそれもない。
【0024】
ところで、本形態においては、空気圧送管L4の途中にト字状の合流管18が設けられている。この合流管18は、図3に示すように、両端部開口が空気圧送管L4内と連通する直線状部18aと、この直線状部18aの例えば中央部に側方から一方端部が連通し、かつ他方端部が輸送ホースL5や(図1参照)生育基盤材F2の供給手段13と連通する接続部18bと、から主になる。この合流管18を有すると、他の輸送路は輸送ホース等の可撓性を有する素材で形成されていても、種子F1や生育基盤材F2の逆流防止効果が確実に得られるので、各設備の設置、配置変更等が容易となる。したがって、設置面4を有効利用することができ、吹付け装置が全体として小型化するのと同様となる。
【0025】
ところで、種子F1を複数種とする場合においては、前述したように、複数種の種子F1を全て1つの種子収容タンク14a内に投入し、この種子収容タンク14a内に備わる撹拌翼Sによって撹拌して性状を均一化し、利用することができる。ただし、形状、粒径等が大きく異なる複数種の種子F1を混合する場合においては、以下の方法を推奨する。なお、以下では、種子F1がF1a,F1b及びF1cの3種類である場合を例に説明する。
【0026】
本推奨形態においては、図4に示すように、まず、種子F1の供給手段14を、種子F1aを供給する手段14A、種子F1bを供給する手段14B及び種子F1cを供給する手段14Cの3台用意する。そして、手段14Aの連通管14cは、一端部をコンプレッサー17につながる圧送管L1と連通させ、他端部を空気圧送路L4と連通させる。また、この空気圧送路L4の途中に、手段14Bの連通管14c及び手段14Cの連通管14cを、順に連通させる(種子F1の供給手段14を直列方向に3台設置した状態)。
【0027】
この形態によると、手段14Aの連通管14c内にコンプレッサー17から圧送管L1を通して圧縮空気Aが圧送され、この圧縮空気Aの圧力によって、手段14Aの連通管14c内に供給された種子F1aが、空気圧送路L4内を、法面1等に向けて圧送される。また、当該種子F1a及び圧縮空気Aは、空気圧送路L4を通して手段14Bの連通管14c内に圧送され、手段14Bの連通管14c内に供給された種子F1bとともに、空気圧送路L4内を、更に法面1等に向けて圧送される。さらに、当該種子F1a,F1b及び圧縮空気Aは、空気圧送路L4を通して手段14Cの連通管14c内に圧送され、手段14Cの連通管14c内に供給された種子F1cとともに、空気圧送路L4内を、更に法面1等に向けて圧送される。つまり、本形態は、一の種子F1aを、空気圧送路L4を通して圧送しつつ、当該空気圧送路L4途中に他の種子F1b,F1cを供給し、この下流側で生育基盤材F2を供給するものである。この形態によると、圧縮空気A中において分散状態にある種子F1aに他の種子F1bが混入され、さらに、圧縮空気A中において分散状態にある種子F1a,F1bに他の種子F1cが混入されることになるため、種子F1a,F1b,F1cがきわめて均一に混合される(性状の均一化)。しかも、この混合は、スクリューコンベヤや撹拌翼等によるものではないため、種子F1a,F1b,F1cが損傷するおそれもない。
【0028】
ここで、本発明者らは、試験によって、種子や増量材の混合性(性状の均一化)や定量供給性には、比重や粒径分布が大きく関与する傾向があることを確認した。これは、比重や粒径分布が異なる種子や増量材を全て混合してしまうと、特に定量供給性を確保することが困難になるということを意味する。そこで、こうした特性のもとでも定量供給性の安定化を図るために、直列方向に複数台の種子供給手段を設置し、もって種子の特性に応じた混合を図る形態を導き出したものである。
【0029】
もっとも、種子供給手段が1台であっても、内部が複数の部屋に分かれており、それぞれの部屋に各種種子が供給される形態、つまり複数の種子供給手段が一体化された形態であっても、当然、同様の効果が得られる。ただし、その場合もロータリーバルブなどの定量供給手段は、部屋ごとに備わるのが好ましい。
【0030】
〔法面緑化工法〕
次に、以上の吹付け装置を利用した法面の緑化工法について、説明する。
図1及び図3に示すように、本吹付け装置を用いて法面1を緑化するにあたっては、法面1に種子F1を含まない生育基盤材F2を吹き付けて下側層2を造成し、この下側層2に種子F1を含む生育基盤材F2を吹き付けて上側層3を造成する。そして、上側層3を造成するにあたっては、まず、種子F1を空気圧送路L4に供給し、その後、生育基盤材F2を空気圧送路L4に供給する。他方、下側層2を造成するにあたっては、種子F1の空気圧送路L4への供給は行わずに、生育基盤材F2を空気圧送路L4に供給する。このような種子F1の供給状態(上側層3の造成時)と供給停止状態(下側層2の造成時)との切り換えは、例えば、空気圧送路L4の先端部に備わるノズルNに切換手段たる切換スイッチなどを設け、この切換スイッチを吹付け作業員等が操作すると種子供給手段14に備わるバルブRの回転が調節されて、連通管14cに供給される種子F1の有無・量が調節されるようにするとよい。
【0031】
一方、本形態においては、吹付け装置に水タンク15を備え、この水タンク15内の水Wを、ポンプ15aによって輸送ホースL3内をノズルNまで輸送するようになっている。ノズルNまで輸送された水Wは、生育基盤材F2などとともに法面1に吹き付けられる。この水Wの吹き付けによって、法面1に吹き付けられる生育基盤材F2が柔らかくなるため、種子F1の跳ね返りが防止される。なお、水Wはあらかじめ生育基盤材F2に混合して空気輸送路L4を通して圧送することもでき、通常このようにされるが、生育基盤材F2に混合する水Wの量が多くなると圧送性が低下するため、水Wを輸送する別経路を設ける方が好ましい。
【0032】
〔その他〕
○ 本形態においては、下側層2及び上側層3を、それぞれ1層としたが、これに限定する趣旨ではない。例えば、最初に種子F1を含まない生育基盤材F2を吹き付けて下側層2を造成し、次に、種子F1を少量含む生育基盤材F2を吹き付けて第1の上側層(3)を造成し、最後に、種子F1を相対的に多く含む生育基盤材F2を吹き付けて第2の上側層(3)を造成する、3層構造などとすることもできる。
【0033】
○ 種子F1には、増量材のほか、例えば、界面活性剤、保水資材、忌避剤、短繊維、着色剤、酸素供給剤等のなかから1種又は複数種を、適宜配合することもできる。
【0034】
○ 本形態においては、種子F1の定量供給装置としてロータリーバルブRを使用したがこれに限定する趣旨ではなく、例えば、ピストンによる押し出し方式、回転受け皿方式、リボルバー方式なども使用することができる。ただし、ロータリーバルブRによると、種子F1を損傷することなく定量供給することができ好ましい。
【実施例1】
【0035】
次に、本発明による効果を明らかにするための、実施例について説明する。
〔サンプリング〕
(実施例)
まず、5種類の種子(ヌルデ、ノイバラ、ススキ、メドハギ、センダン)及び増量材を種子収容タンク内に投入し、種子収容タンク内に備わる撹拌翼によって撹拌して吹付け材を得た。この吹付け材をロータリーバルブによって圧送ホース内に定量供給し、圧送ホースの先端部に向けて空気圧送した。圧送ホースの先端部から排出された吹付け材は、土のう袋で収集し、これをサンプルとした。このサンプルの収集は、種子収容タンク内の吹付け材の残容量を基準に、初期、中期、終期の三段階に分けて行った。これは、吹付け材の残容量の変化に伴う定量供給性の変動を配慮したものである。
以上の作業を5回行い、合計15個のサンプルを得た。
【0036】
(比較例)
まず、生育基盤材を圧送ホース内に供給し、圧送ホースの先端部に向けて空気圧送した。他方、5種類の種子(ヌルデ、ノイバラ、ススキ、メドハギ、センダン)及び増量材を種子収容タンク内に投入し、種子収容タンク内に備わる撹拌翼によって撹拌して種子原料を得た。この種子原料をスクリューコンベヤで圧送ホース内に定量供給し、空気圧送されている圧送ホース内の生育基盤材と強制的に混合した。圧送ホースの先端部から排出された種子原料と生育基盤材との混合物は、土のう袋で収集し、これをサンプルとした。このサンプルの収集も、種子収容タンク内における種子原料の残容量を基準に、初期、中期、終期の三段階に分けて行った。
以上の作業を5回行い、合計15個のサンプルを得た。
【0037】
〔計測方法〕
まず、各サンプルの容量を計測するとともに、各サンプル中に含まれる種子粒数を目視にてカウントした。このカウントは、種子の種類ごとに行った。
【0038】
〔評価方法〕
サンプルの容量がそれぞれ若干異なることから、まず、カウントした種子粒数をそれぞれ一定の容量当たりの種子粒数に換算した。次に、これらの種子粒数の設計値に対する百分率を算出した。さらに、これらの算出した百分率に基づいて、標準偏差を算出した。この標準偏差は、実施例と比較例とを区分したほか、2〜10mmの種子(ヌルデ、ノイバラ、ススキ、メドハギの4種類)と10mmを超える種子(センダン)とに区分して算出した。
【0039】
結果、実施例による2〜10mmの種子の標準偏差は36、10mmを超える種子の標準偏差は43、他方、比較例による2〜10mmの種子の標準偏差は58、10mmを超える種子の標準偏差は109であった。このことから、実施例による方が、種子粒数のばらつきが少なく、定量供給性(性状均一性)に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、法面に生育基盤材を吹き付けて下側層を造成し、この下側層に種子を含む生育基盤材を吹き付けて上側層を造成する形態の法面緑化工法及びこの工法において使用する吹付け装置として、適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】吹付け装置の設備フロー図(正面図)である。
【図2】吹付け装置の設備フロー図(平面図)である。
【図3】吹付け装置の供給手段部分を詳細にした図である。
【図4】種子の供給手段の変形例である。
【図5】従来の吹付け装置の設備フロー図(正面図)である。
【符号の説明】
【0042】
1…法面、2…下側層、3…上側層、4…設置面、11…ミキサー、12…ベルトコンベヤ、13…生育基盤材F2の供給手段、14…種子F1の供給手段、15…水タンク、16…発電機、17…コンプレッサー、18…合流管、A…圧縮空気、F1…種子、F2…生育基盤材、L1,L2…圧送管、L4…空気圧送管、W…水。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生育基盤材を空気圧送路に供給し、この空気圧送路を通して圧送される生育基盤材を法面に吹き付けて下側層を造成し、前記生育基盤材とは別に種子も前記空気圧送路に供給し、この空気圧送路を通して圧送される前記生育基盤材及び前記種子を前記下側層に吹き付けて上側層を造成する、法面緑化工法であって、
前記種子の供給は前記生育基盤材の供給よりも上流で行う、ことを特徴とする法面緑化工法。
【請求項2】
供給された吹付け材を圧送する空気圧送路と、この空気圧送路を通して圧送された吹付け材を吹き出すノズルと、前記空気圧送路に生育基盤材を供給する手段と、前記空気圧送路に種子を供給する手段と、前記種子の供給状態と供給停止状態とを切り換える手段とが、が備わる、法面緑化用の吹付け装置であって、
前記種子供給手段は前記生育基盤材供給手段によりも上流に備わる、ことを特徴とする法面緑化用の吹付け装置。
【請求項3】
空気圧縮手段が備わり、この空気圧縮手段からの圧縮空気が、前記空気圧送路及び前記生育基盤材供給手段に送られるが、前記種子供給手段には送られない、請求項2記載の法面緑化用の吹付け装置。
【請求項4】
前記空気圧送路の前記生育基盤材が供給される位置の口径 > 前記空気圧送路の前記種子が供給される位置の口径、かつ、
前記空気圧送路の前記生育基盤材が供給される位置の口径 > 前記空気圧送路に形成された前記種子の供給口の口径、
とされている、請求項2又は請求項3記載の法面緑化用の吹付け装置。
【請求項5】
前記種子供給手段は、
密閉可能な前記種子の収容タンクと、この種子収容タンク内から自由落下してきた種子を前記空気圧送路内に定量的に自由落下させる定量供給装置とを有する、請求項2〜4のいずれか1項に記載の法面緑化用の吹付け装置。
【請求項6】
前記定量供給装置がロータリーバルブである、請求項5記載の法面緑化用の吹付け装置。
【請求項7】
前記種子が複数種である場合において、
一の種子の供給が他の種子の供給よりも上流で行われるように構成する、請求項2〜6のいずれか1項に記載の法面緑化用の吹付け装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−41295(P2009−41295A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−208842(P2007−208842)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000115463)ライト工業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】