説明

波形コイルばね

【課題】 容易に製作でき、しかも周方向のすべり(座屈)を防止して良好な耐荷重性能を維持できる波形コイルばねを提供する。
【解決手段】 帯状のばね材料を山部Aと谷部Bとを有する波形形状に加工するとともに螺旋状に巻回して構成されたばね本体1からなる。山部Aの頂部付近には、谷部Bより幅の狭い凹部12が形成してある。そして、ばね本体1が圧縮荷重を受けて軸方向へ縮んだとき、n巻目(nは自然数)の段に形成された凹部12に、n+1巻目の段にある谷部Bの対向する底部10が入り込んで当接するよう構成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、自動車部品である自動変速機のクラッチ装置等に組み込まれる波形コイルばねに関する。
【背景技術】
【0002】
波形コイルばねは、帯状のばね材料を波形に加工するとともに螺旋状に巻回して構成され、自動変速機のクラッチ装置に内蔵された油圧ピストンのリターン用スプリングとして、あるいは、各種機器類における緩衝用のスプリングとして広く一般に使用されている。この種の波形コイルばねとしては、例えば、特許文献1に開示されたものがある。
【0003】
図9は、従来の波形コイルばねの課題を説明するための図である。同図では、波形コイルばねにおいて上下に隣接するn巻目の段とn+1巻目の段とを直線的に展開し模式的に示している。そして、同図(a)は圧縮荷重が作用していない状態を示し、同図(b)は圧縮荷重が作用する状態を示している。
同図(a)に示すように、波形コイルばねは、波形加工によって山部101,201と谷部102,202とが交互に形成され、n巻目の段(下段)の山部101とn+1巻目の段(上段)の谷部202とが、頂部Tにおいて接触又は対向している。そして、軸方向に圧縮荷重が加えられると、本来であれば、山部101と谷部202の頂部Tにその圧縮荷重Pが作用して、山部101と谷部202が頂部Tを中心として均等にたわみ変形する。
【0004】
しかしながら、加工誤差や組付け誤差、あるいは軸方向以外の方向からの外力作用などによって、隣接するn巻目の段とn+1巻目の段の当接部にずれが生じた場合、同図(b)に示すように、n巻目の段とn+1巻目の段の当接部が一方向へスライドして、山部101と谷部202の中腹部に圧縮荷重Pが作用することがあった。
【0005】
この場合、圧縮荷重Pの接線方向分力Phが各当接部で同じ方向を向くため、これら接線方向分力Phが各当接部に作用する摩擦力より大きくなったとき、周方向にすべり(座屈)を生じてしまい、波形コイルばねの耐荷重性能が急激に低下してしまうおそれがあった。
【0006】
このようなすべり(座屈)を防止するため、特許文献2のウエーブコイルスプリングは、山部と谷部の頂部(当接部)に凹部と凸部からなる係止機構を形成し、これら凹部と凸部の係合によってすべり(座屈)を防止する構成となっている。
また、特許文献3のウエーブコイルばねは、山部と谷部の頂部(当接部)に緩衝用部材を装着し、この緩衝用部材で当接部を固定してすべり(座屈)を防止する構成となっている。
【特許文献1】特開平2002−174282号公報
【特許文献2】実開平5−67836号公報
【特許文献3】特開2002−276706号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2のウエーブコイルスプリングにあっては、当接部の凹部と凸部からなる係止機構を設けなければならず、また特許文献3のウエーブコイルばねにあっては、当接部に緩衝用部材を装着しなければならないため、作業工数が多く、製作が煩雑となる課題があった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、容易に製作でき、しかも周方向のすべり(座屈)を防止して良好な耐荷重性能を維持できる波形コイルばねの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、帯状のばね材料を山部と谷部とを有する波形形状に加工するとともに螺旋状に巻回して構成されたばね本体からなる波形コイルばねにおいて、
前記山部の頂部付近に前記谷部より幅の狭い凹部を有し、
少なくとも前記ばね本体が圧縮荷重を受けて軸方向へ縮んだとき、n巻目(nは自然数)の段に形成された前記凹部に、n+1巻目の段にある谷部の対向する底部が入り込んで当接するよう構成してあることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2の発明は、請求項1を前提として、前記山部の頂部付近に形成された凹部が、これに当接する谷部の底部よりも大きい曲率半径を有していることを特徴とする。
一方、請求項3の発明は、請求項1を前提として、前記山部の頂部付近に形成された凹部が、これに当接する谷部の底部よりも小さい曲率半径を有していることを特徴とする。
【0011】
さらに、請求項4の発明は、請求項1乃至3を前提として、前記凹部を、すべての山部の頂部付近に形成したことを特徴とする。
【0012】
請求項1の発明によれば、幅の狭い凹部に、対向する次の段に形成された谷部の底部が入り込んで当接するため、この底部裏面が凹部内の両斜面に支えられて周方向へのすべり移動が抑止される。しかも、本発明の波形コイルばねは、山部の頂部付近に凹部を形成するだけで、従来の製造工程を大幅に変更することなく容易に製造することができる。
【0013】
ここで、請求項2のごとく、山部の頂部付近に形成された凹部が、これに当接する谷部の底部よりも大きい曲率半径を有する構成とすれば、凹部の奥底まで谷部の底部が入り込むことが可能となるため、強固な噛み合い状態が形成されて確実に周方向へのすべりを防止することができる。
【0014】
一方、請求項3のごとく、山部の頂部付近に形成された凹部が、これに当接する谷部の底部よりも小さい曲率半径を有する構成とすれば、谷部の底部が凹部内の両側壁に当接して両側から支持されるので、凹部内での僅かな位置ずれも抑制することができる。
【0015】
凹部は、すべての山部の頂部付近に形成する必要はなく、一つおき、二つおき等、任意に選択した山部の頂部付近に形成すればよい。もっとも、請求項4のように、すべての山部の頂部付近に凹部を形成すれば、相互に当接する山部と谷部のすべてにおいて周方向へのすべり移動が抑制されるため、ばね本体の周方向のすべりを高精度に抑制するにはこの構成が好ましい。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、容易に製作でき、しかも周方向のすべり(座屈)を防止して良好な耐荷重性能を維持できる波形コイルばねを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は本実施形態に係る波形コイルばねの全体構成を示す斜視図であり、図2は当該波形コイルばねにおいて、上下に隣接するn巻目の段とn+1巻目の段とを直線的に展開し模式的に示した図、図3は図2に示した波形コイルばねの一部を拡大して示す図である。
図1に示すように、波形コイルばねは、帯状のばね材料を波形に加工するとともに螺旋状に巻回してばね本体1を構成している。このばね本体1は、図2に示すように、波形加工によって山部Aと谷部Bとを交互に形成してある。
ここで、山部Aとは、谷部Bの底部10からはじまり、頂部11を経て隣接する谷部Bの底部10に至る領域をいう(図3参照)。また、谷部Bとは、山部の頂部11からはじまり、底部10を経て隣接する山部Aの頂部11に至る領域をいう。したがって、山部Aと谷部Bとはそれぞれ重なり合っている。
【0018】
図3に拡大して示すように、山部Aの頂部11付近には、凹部12が形成してある。この凹部12は、谷部Bより幅が狭く、更に本実施形態では谷部Bよりも浅く形成してある。また、n巻目の段(下段)にある山部Aの凹部12は、n+1巻目の段(上段)にある谷部Bの底部10と対向するように相互の位置が調整してある。なお、本明細書において、nは自然数を示している(図2参照)。
【0019】
このように対向する凹部12と谷部Bの底部10とは、ばね本体1に軸方向の圧縮荷重が作用していない状態においては、図4に示すように離間していてもよい。ただし、ばね本体1に軸方向(図2,図4の上下方向)の圧縮荷重が作用し、当該ばね本体1が軸方向に縮んだときは、山部Aの凹部12に対向する谷部Bの底部10が当接する。
【0020】
さて、図5に示すように、山部Aに形成した凹部12の中央に、谷部Bの底部10が当接する状態にあっては、ばね本体1に周方向の外力又は分力が作用しても、凹部12内の両斜面が壁となって底部10の周方向(図5の左右方向)の移動を阻止する。したがって、ばね本体1の周方向へのすべりが抑制される。
【0021】
ここで、図5に示すように、山部Aの頂部付近に形成された凹部12が、これに当接する谷部Bの底部10よりも大きい曲率半径を有する構成とすれば、凹部12の奥底まで谷部Bの底部10が入り込むことが可能となるため、強固な噛み合い状態が形成されて確実に周方向へのすべりを防止することができる。
【0022】
また、図6に示すように、谷部Bの底部10が山部Aに形成した凹部12の斜面に当接したときは、ばね本体1に作用する圧縮荷重の斜面方向の分力により、谷部Bの底部10が凹部12の中央(最深部)に向かって斜面を移動しようとする。しかし、この場合にあっても、凹部12は谷部に比べ充分に幅狭に形成されているため、当該移動に伴う周方向のすべり量Lは図9に示した従来の波形コイルばねよりも少なく、よって充分に座屈を抑止する効果がある。
【0023】
図7は、本実施形態に係る波形コイルばねの圧縮荷重とたわみの関係を示したグラフである。コイルばね本体1に軸方向の圧縮荷重を作用させたとき、図9に示したような従来の波形コイルばねでは、周方向へのすべり(座屈)に伴い耐荷重が破線で示すように低下していく。一方、本実施形態の波形コイルばねは、周方向へのすべり(座屈)が極めて少ないため、実線で示すように良好な耐荷重性能が維持される。
【0024】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。
例えば、図1および図2に示すばね本体を上下逆転させれば、山部Aが谷部に、谷部Bが山部になって、凹部12は谷部の底部に形成された凸部となり、下段の山部が上段の凸部に当接する構成となるが、形式的な姿勢の違いにかかわらずそのような構成も本発明の技術的範囲に含まれることは勿論である。
【0025】
また、図8に示すように、山部Aの頂部付近に形成された凹部12が、これに当接する谷部Bの底部10よりも小さい曲率半径を有する構成とすれば、谷部Bの底部10が凹部12内の両側壁12a,12bに当接して両側から支持されるので、凹部12内での僅かな位置ずれも抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係る波形コイルばねの全体構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る波形コイルばねにおいて、上下に隣接するn巻目の段とn+1巻目の段とを直線的に展開し模式的に示した図である。
【図3】図2に示した波形コイルばねの一部を拡大して示す模式図である。
【図4】本発明の実施形態に係る波形コイルばねの構造を説明するための模式図である。
【図5】本発明の実施形態に係る波形コイルばねの作用を説明するための模式図である。
【図6】本発明の実施形態に係る波形コイルばねの作用を説明するための模式図である。
【図7】本発明の実施形態に係る波形コイルばねの圧縮荷重とたわみの関係を示したグラフである。
【図8】本発明の変形例に係る波形コイルばねの構造を説明するための模式図である。
【図9】従来の波形コイルばねの課題を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0027】
1:ばね本体、A:山部、B:谷部、10:底部、11:頂部、12:凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状のばね材料を山部と谷部とを有する波形形状に加工するとともに螺旋状に巻回して構成されたばね本体からなる波形コイルばねにおいて、
前記山部の頂部付近に前記谷部より幅の狭い凹部を有し、
少なくとも前記ばね本体が圧縮荷重を受けて軸方向へ縮んだとき、n巻目(nは自然数)の段に形成された前記凹部に、n+1巻目の段にある谷部の対向する底部が入り込んで当接するよう構成してあることを特徴とする波形コイルばね。
【請求項2】
前記山部の頂部付近に形成された凹部は、これに当接する谷部の底部よりも大きい曲率半径を有していることを特徴とする請求項1の波形コイルばね。
【請求項3】
前記山部の頂部付近に形成された凹部は、これに当接する谷部の底部よりも小さい曲率半径を有していることを特徴とする請求項1の波形コイルばね。
【請求項4】
前記凹部を、すべての山部の頂部付近に形成したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載した波形コイルばね。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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