説明

波形等化装置、情報再生装置、波形等化方法、波形等化プログラムおよび記録媒体

【課題】 演算量を抑え、より広い領域の入力信号列に対して重み付け加算演算等の演算を行い、より適切な等化特性の適応化を行うことが可能な波形等化装置を提供する。
【解決手段】 本発明の波形等装置は、入力信号列を波形等化しつつ、その等化特性を適応化する波形等化装置であって、前記入力信号列に対して前記波形等化を行うことで等化後信号列を生成するFIRフィルタ4と、連続して流れる入力信号列から一定の間隔で検出して得られる入力信号列を用いた所定の演算を行い、この演算結果に基づいて前記FIRフィルタ4のタップ係数c(k)を適応化する等化適応化部12とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生信号系において、再生信号を最適な状態に波形等化する波形等化装置、波形等化方法、波形等化プログラム、及び波形等化プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高密度記録媒体への情報の記録再生を行う情報記録再生装置において、PRML(Partial Response Maximum Likelihood)識別方式が用いられている。
【0003】
PRMLにおいては、記録媒体からの再生信号波形をPR(Partial Response)クラスで想定する理想的な周波数特性に近づけるために波形等化を行う必要がある。すなわち入力信号波形列に対してFIR(Finite Impulse Response)フィルタのタップ係数との畳み込みを行うことで等化後波形列を生成し、信号波形を理想波形に近づける必要がある。
【0004】
この波形等化を行う際には、再生信号に含まれる記録媒体ごとの特性のばらつき、ディスクチルト、サーボオフセット等の再生特性の変動に対応して最適な等化を行うために、上記FIRフィルタのような等化後波形列(等化後信号列)を生成する等化手段の等化特性を適応化する必要がある。適応化を行わずに固定のタップ係数を用いて等化を行うとチルト等の再生特性の変動に対するマージンが極端に小さくなってしまう。
【0005】
そこで、適応化の方法の一つとして、等化後の波形と理想波形の差が最も速やかに減少する方向に、タップ係数を少しずつ変化させながら収束計算を行い、タップ係数を求める方法がある。しかしながら、この方法は、情報に記録されたデータを知らなくても等化ができるという利点がある反面、ノイズ等に弱く、収束計算が収束せずに発散してしまうという問題があった。特に、記録媒体において、記録密度が高く、かつ再生信号品質が低い場合には、この問題が顕著となっていた。
【0006】
それに対して、例えば、特許文献1(特開2004−327017号公報)には、一定数以上の波形データから再生信号をサンプリングし、最小二乗法によりタップ係数の算出を行うという方法が開示されている。
【0007】
以下に、特許文献1に開示された方法の概要を説明する。ビットレート(クロック時間単位)のパーシャルレスポンス波形をh(添え字のiは時刻に対応)とし、光ディスクに記録された2値データをaとすると、等化するべき目標波形は「Σak−i×h」で表される。この式において、添え字の「i」についての和はパーシャルレスポンスの拘束長に依存するが、例えば、拘束長5のパーシャルレスポンス波形であれば、「i」の和は1から5までをとればよい。FIRフィルタのタップ係数をwとすると、FIRフィルタからの出力波形は、FIRフィルタへの入力信号をyとすると「Σyk−i×w」で表される。ここで、二乗誤差εをε=Σ(Σyk−i×w−Σak−i×hとし、出力波形と目標波形の差が最小になるwを最小二乗法により求める。すなわち、εについてwに対する変分δεをとり、δε=0となる方程式を解くことで、wを求めることができる。
【0008】
この方法によれば、上記の再生特性の変動が発生した場合であっても、また、ノイズ等の外乱の影響があっても、再生信号を理想波形に安定して等化できる。更に、高密度再生時であっても低いエラーレートで情報を再生することが可能となる。
【特許文献1】特開2004−327017号公報(2004年11月18日公開)
【非特許文献1】T.Perkins,"A Window Margin Like Procedure for Evaluating PRML Channel Performance"、IEEE Transactions on Magnetics,Vol.31,No2,1995,p1109−1114
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、前記背景技術においては、一定領域の波形データから特定パターンを検出し、前記の所定の演算課程でタップ係数の計算が行われる。そして、計算されたタップ係数は、計算に使用した領域に対して最適なタップ係数となる。すなわち、エラーレートを最も低減することができる波形等化方法は、一度、入力信号列から最適タップ係数を導出し、次に同一領域に対してその最適タップ係数を用いて等化を行うという方法である。しかしながら、この方法では、2度再生することになるため、復号結果を得るまでに時間がかかり、また計算量も非常に多くなる。
【0010】
そこで、入力信号列の先頭の一定領域を使用してタップ係数を導出し、その後の部分を導出したタップ係数で等化する方法が考えられるが、以下のような問題が生じる。
【0011】
タップ係数を得るまでの時間と計算量を少なくするために、タップ係数の導出に使用する領域を小さくすることが要求されるが、小さくしすぎると入力信号列全体(その後の部分)を最適に等化可能なタップ係数を得ることができない。これは局所的な状態を反映し、先頭の一定領域についてのみ最適なタップ係数となるためである。そのため入力信号全体を最適に等化可能なタップ係数を得るためには、ある程度長さの入力信号列中の領域が必要となる。この場合、入力信号の平均情報を用いてタップ係数を導出するため入力信号全てを使用することなく全体に対して最適なタップ係数を得ることができエラーレート低減することが可能となる。
【0012】
また、最適なタップ係数を得るのに十分な入力信号領域は、再生信号が最適状態とずれている場合に大きくなる。十分な入力信号領域とは、入力信号全体の平均情報を推定可能であり、導出したタップ係数が入力信号全体に対して最適になるために十分な領域ということを意味する。例えば、再生環境がチルト等に代表される特性の変動を発生している場合、より広い領域から特定パターンを検出しデータを蓄積することが局所的な状態を反映することを防ぐために必要となる。しかし、広い領域が必要であるということは、適応化のための演算量が増加することを意味し、消費電力や回路規模が増加してしまう。
【0013】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたもので、その目的は、演算量を抑え、より広い領域の入力信号列に対して重み付け加算演算等の演算を行い、より適切な等化特性の適応化を行うことが可能な波形等化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、入力信号列を用いた重み付け演算等の所定の演算結果に基づいて等化手段の等化特性の適応化を行う場合、入力信号列が連続していなくても十分に等化手段の等化特性の適応化を行うことができることを見出した。
【0015】
本発明に係る波形等化装置は、上記課題を解決するために、入力信号列を波形等化しつつ、その等化特性を適応化する波形等化装置において、前記入力信号列に対して前記波形等化を行うことで等化後信号列を生成する等化手段と、連続して流れる入力信号列から一定の間隔で検出して得られる入力信号列を用いた所定の演算を行い、この演算結果に基づいて前記等化手段の等化特性を適応化する等化適応化手段とを備えていることを特徴としている。
【0016】
上記の構成によれば、等化適応化手段によって行われる等化特性の適応化が、連続して流れる入力信号列から一定の間隔で検出して得られる入力信号列を用いた所定の演算の演算結果に基づいて行われるので、連続して入力される入力信号列を用いた場合に比べて演算量を低減することができる。
【0017】
これにより、演算量を抑えながら、等化手段の等化特性をより適切に適応化することが可能となる。
【0018】
しかも、適応化が連続して流れる入力信号列から一定の間隔で検出して得られる入力信号列を用いて行われるので、演算量を抑えてより広範囲の入力信号列に基づいた等化特性の適応化が可能となる。
【0019】
従って、等化特性のより適切な適応化を、より少ない演算で行うことが可能であるので、有効な等化適応化能力を維持しながら波形等化装置の低消費電力化、回路規模の縮小が可能となる。
【0020】
本発明に係る波形等化装置は、上記課題を解決するために、入力信号列を波形等化しつつ、その等化特性を適応化する波形等化装置において、前記入力信号列に対して前記波形等化を行うことで等化後信号列を生成する等化手段と、前記入力信号列に基づいて前記等化手段の等化特性を適応化する等化適応化手段とを備え、前記等化適応化手段は、連続して流れる入力信号列から一定の間隔で検出して得られる入力信号列を用いて所定の演算を行うと共に、この演算結果を蓄積し、蓄積結果に基づいて前記適応化を行うことを特徴としている。
【0021】
前記の構成によれば、前記入力信号に対する適応化を、連続ではなく間隔を置いて行うことによって、処理毎に発生する演算を増やすことなく、広い検出範囲に対する等化適応化が可能である。これにより有効な等化適応化能力を維持しながら低消費電力化、回路規模の縮小が可能となる。
【0022】
前記等化適応化手段は、前記等化後信号列に対するビタビ復号過程における正解パスと誤りパスとのパスメトリック差を検出するパスメトリック差検出手段を備え、前記パスメトリック差検出手段によって、ビタビ復号過程の進展に伴い順次計算されるパスメトリック差を用いて前記適応化を行うようにしてもよい。
【0023】
これにより、パスメトリック差を用いて等化適応化を行うことができ、適応化に対してエラーレートを考慮にいれることができ、復号により発生するエラーを良好に低減することが可能となる。
【0024】
また、前記等化適応化手段は、ビタビ復号過程の進展に伴い順次計算されるパスメトリック差のうち、ビタビ復号にとって理想的な波形を構成する理想波形信号を想定した場合のパスメトリック差が予め定められた特定値となるようなビット列である特定パターンを検出する特定パターン検出手段を備え、前記特定パターン検出手段によって検出された特定パターンのうち、連続して検出された特定パターンから一定の間隔で検出した当該特定パターンに対応する入力信号列のパスメトリック差を用いて前記適応化を行うようにしてもよい。
【0025】
この場合、理想波形信号列に基づくパスメトリック差が特定値となるような特定パターンについて等化適応化を行うことにより、ビタビ復号過程においてエラーを起こしやすいパターンについて等化特性を最適化することができる。
【0026】
さらに、前記等化適応化手段は、前記入力信号列に対する所定の演算の演算数及び演算範囲に応じて、前記演算および演算結果の蓄積の間隔を可変とすることが望ましい。
【0027】
これにより、等化適応化に必要な検出数や検出範囲に応じて検出間隔を制御でき、回路規模や再生特性の変動に応じて、より効果的な等化適応化が可能となる。
【0028】
本発明に係る波形等化装置は、上記課題を解決するために、入力信号列を波形等化しつつ、その等化特性を適応化する波形等化装置において、前記入力信号列に対して前記波形等化を行うことで等化後信号列を生成する等化手段と、前記入力信号列に基づいて前記等化手段の等化特性を適応化する等化適応化手段と、前記等化後信号列に対するビタビ復号過程における正解パスと誤りパスとのパスメトリック差を検出するパスメトリック差検出手段と、ビタビ復号過程の進展に伴って順次計算されるパスメトリック差のうち、前記パスメトリック差検出手段によって連続して流れる入力信号列から一定の間隔で検出して得られる入力信号列の特定パターンにおける、パスメトリック差の所定の目標値に対する誤差に基づいて、前記各等化特性を逐次更新する等化特性更新手段とを備えていることを特徴としている。
【0029】
上記の構成によれば、等化特性更新手段による逐次更新による等化適応化において演算量を減らすことができ、消費電力の低減が可能となる。また、更新量を小さくする代わりに間隔をあけることにより、更新量を小さくしながら同時に演算量の低減も可能となる。さらに、パスメトリック差を用いることにより等化適応化に対してエラーレートを考慮に入れることができ、復号によるエラーを良好に低減することができる。
【0030】
本発明の情報再生装置は、上記構成の波形等化装置に加えて、情報記録媒体から前記入力信号列を再生する再生手段を備えていることを特徴としている。
【0031】
上記の構成によれば、情報記録媒体に記録された情報を再生する際に、再生する情報毎に等化特性を適応化することができるので、再生情報の品位を向上させることができる。
【0032】
本発明の波形等化方法は、入力信号列を波形等化しつつ、その等化特性を適応化する波形等化方法において、前記入力信号列に対して前記波形等化を行うことで等化後信号列を生成する等化ステップと、連続して流れる入力信号列から一定の間隔で検出して得られる入力信号列を用いた所定の演算を行い、この演算結果に基づいて前記等化特性を適応化する等化適応化ステップとを含むことを特徴としている。
【0033】
上記の構成によれば、等化適応化ステップによって行われる等化特性の適応化が、連続して流れる入力信号列から一定の間隔で検出して得られる入力信号列を用いた所定の演算の演算結果に基づいて行われるので、連続して入力される入力信号列を用いた場合に比べて演算量を低減することができる。
【0034】
これにより、演算量を抑えながら、等化特性をより適切に適応化することが可能となる。
【0035】
しかも、適応化が連続して流れる入力信号列から一定の間隔で検出して得られる入力信号列を用いて行われるので、演算量を抑えてより広範囲の入力信号列に基づいた等化特性の適応化が可能となる。
【0036】
従って、等化特性のより適切な適応化を、より少ない演算で行うことが可能であるので、有効な等化適応化能力を維持しながら波形等化装置の低消費電力化、回路規模の縮小が可能となる。
【0037】
本発明の波形等化方法は、入力信号列を波形等化しつつ、その等化特性を適応化する波形等化方法において、前記入力信号列に対して前記波形等化を行うことで等化後信号列を生成する等化ステップと、前記入力信号列に基づいて前記等化ステップの等化特性を適応化する等化適応化ステップとを含み、前記等化適応化ステップは、連続して流れる入力信号列から一定の間隔で検出して得られる前記入力信号列を用いて所定の演算を行うと共に、この演算結果を蓄積し、蓄積結果に基づいて前記適応化を行うことを特徴としている。
【0038】
前記の構成によれば、等化適応化ステップは、前記入力信号に対する適応化を、連続ではなく間隔を置いて行うことによって、処理毎に発生する演算を増やすことなく、広い検出範囲に対する等化適応化を可能としている。これにより有効な等化適応化能力を維持しながら低消費電力化、回路規模の縮小が可能となる。
【0039】
本発明の波形等化方法は、入力信号列を波形等化しつつ、その等化特性を適応化する波形等化方法において、前記入力信号列に対して前記波形等化を行うことで等化後信号列を生成する等化ステップと、前記入力信号列に基づいて前記等化ステップの等化特性を適応化する等化適応化ステップと、前記等化後信号列に対するビタビ復号過程における正解パスと誤りパスとのパスメトリック差を検出するパスメトリック差検出ステップと、ビタビ復号過程の進展に伴って順次計算されるパスメトリック差のうち、前記パスメトリック差検出ステップによって連続して流れる入力信号列から一定の間隔で検出して得られる入力信号列の特定パターンにおける、パスメトリック差の所定の目標値に対する誤差に基づいて、前記各等化特性を逐次更新する等化特性更新ステップとを含んでいることを特徴としている。
【0040】
上記の構成によれば、等化特性更新ステップにおける等化特性の逐次更新による等化適応化において演算量を減らすことができ、消費電力の低減が可能となる。また、更新量を小さくする代わりに間隔をあけることにより、更新量を小さくしながら同時に演算量の低減も可能となる。さらに、パスメトリック差を用いることにより等化適応化に対してエラーレートを考慮に入れることができ、復号によるエラーを良好に低減することができる。
【0041】
本発明の波形等化プログラムは、上記構成の波形等化装置を動作させる波形等化プログラムであって、コンピュータを前記各手段として機能させるための波形等化プログラムである。
【0042】
上記の構成により、コンピュータで上記波形等化装置の各手段を実現することによって、上記波形等化装置を実現することができる。したがって、前述したように適正に波形等化を実行できる波形等化装置をコンピュータ上で実現することができる。
【0043】
本発明の波形等化プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、コンピュータを前記各手段として機能させるためのプログラムを記録している。
【0044】
上記の構成により、上記記録媒体から読み出された波形等化プログラムによって、上記波形等化装置を汎用のコンピュータ上で実現することができる。
【発明の効果】
【0045】
本発明に係る波形等化装置は、以上のように、入力信号列に対して波形等化を行うことで等化後信号列を生成する等化手段と、連続して流れる入力信号列から一定の間隔で検出して得られる前記入力信号列を用いた所定の演算を行い、この演算結果に基づいて前記等化手段の等化特性を適応化する等化適応化手段とを備えているので、適応化処理を連続ではなく間隔をあけて行うことが可能となり、演算量を抑えながら、効果的に広い範囲の入力信号情報を得ることができる。その結果、少ない演算量で入力信号全体の等化特性を最適化が可能であり、等化適応化能力を維持しながら回路規模の縮小、消費電力の低減を図ることが可能であるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
〔実施の形態1〕
本発明の一実施形態について説明すれば、以下の通りである。なお、本実施の形態では、本発明に係わる波形等化装置を光ディスク再生装置に適用した場合について説明するが、後述するようにそれにとらわれるものではない。
【0047】
図1は、本実施の形態に係わる光ディスク再生装置20の構成を表すブロック図である。前記光ディスク再生装置20は、光ディスク1に書き込まれている情報を再生する装置であり、光学ピックアップ2、A/D変換器3、FIRフィルタ4、ビタビ復号回路5、パスメモリ長遅延素子6、特定パターン検出回路7、時間T(Tは再生信号の1チャネルビットを表す)の遅延素子8、再生信号引き込みスイッチ9、重み付け加算蓄積回路10、正規方程式演算回路11を備えている。
【0048】
そして、前記パスメモリ長遅延素子6、特定パターン検出回路7、時間Tの遅延素子8、再生信号引き込みスイッチ9、重み付け加算蓄積回路10、正規方程式演算回路11によって、等化適応化部(等化適応化手段)12を構成している。この等化適応化部12は、連続して流れる入力信号列から一定の間隔で検出して得られる入力信号列を用いた重み付け演算を基に、「重み付け加算の相関関数」と「重み付け加算と目標値の積」の計算結果を蓄積し、所定数を蓄積した後、平均演算を行い、この演算結果、すなわち「重み付け加算の相関関数の平均値」と「重み付け加算と目標値の積の平均値」から正規方程式を作成、解であるタップ係数の組を導出し、前記等化手段であるFIRフィルタ4のタップ係数を更新することによって等化特性を適応化するようになっている。
【0049】
前記光ディスク1には、(1,7)RLL(Run Length Limited)符号のようなd=1なるランレングス制限符号、すなわち最短マーク長が2Tであるような変調方式の記録マークが記録されている。
【0050】
前記光学ピックアップ2は、図示しない半導体レーザや各種光学部品、フォトダイオードからなっており、半導体レーザから射出されたレーザ光を光ディスク1上に集光し、反射光をフォトダイオードで電気信号に変換することによってアナログ再生波形(以下、単に再生波形)を出力する。
【0051】
再生波形は(1,7)RLL変調、PR(1,2,1)特性を持ち、理想サンプルレベルを±1に正規化したものを扱う。
【0052】
前記A/D変換器3は、チャネル周波数クロックのタイミングで、光学ピックアップ2の出力した再生波形のA/D変換を行う。そして、A/D変換器3は、再生波形がA/D変換されたディジタル再生信号(以下、単に再生信号)を出力する。
【0053】
前記FIRフィルタ4(等化手段)は、再生信号列に基づいて波形等化を行うことで等化後信号列を生成する。FIRフィルタ4は、時間Tの遅延素子を2個、ゲイン可変の増幅器を3個(ゲインはそれぞれc(0)、c(1)、c(2))、加算器を1個備えたディジタルフィルタである。ここで、ゲインc(0)、c(1)、c(2)はタップ係数(等化係数)であり、この値を変化させることによってFIRフィルタ4は等化特性を変化させる。
【0054】
FIRフィルタ4に再生信号が入力されると、FIRフィルタ4により波形等化処理が施されて等化後信号y(i−1,n)が出力される。等化後信号y(i−1,n)は、再生信号u(i−1,n)に対応する等化後信号である。等化後信号y(i−1,n)は、タップ係数c(k,m)と再生信号列u(i−k,n)との畳み込み演算(以下の(1)式)により表される。
【0055】
【数1】

【0056】
つまり、FIRフィルタ4は、複数のタップ係数c(k,m)(k=0,1,2)に対して、再生信号列u(i−k、n)の各再生信号を各タップ係数に順次対応づけつつ、各タップ係数と、各タップ係数に対応づけられた各入力信号との畳み込み演算を行うことで等化後信号列y(i−1,n)を生成する。
【0057】
なお、タップ係数の数を3タップとしているのは、説明の簡略化のためであり、再生信号特性に合わせてタップ数を増やすことにより波形等化能力を上げることは可能である。
【0058】
前記ビタビ復号回路5(パスメトリック差検出手段)は、波形干渉幅が3TであるPR(1,2,1)特性に基づいて、FIRフィルタ4の出力した等化後信号y(i−1、n)のビタビ復号を行い、光ディスク1に記録されていた記録マークの復号ビット列b(i)を出力する。
【0059】
前記パスメモリ長遅延素子6は、ビタビ復号回路5におけるパスメモリ長の時間Lに対応する遅延素子である。
前記特定パターン検出回路7は、ビタビ復号回路5により復号された復号ビット列b(i−4)、b(i−3)、・・・、b(i)が、特定パターン「00111」、「00011」、「11000」、「11100」のいずれかと一致するか否かを判定する。
【0060】
前記再生信号引き込みスイッチ9は、特定パターン検出回路7が前記特定パターンを検出した中から所定の間隔を置いて蓄積対称とする特定パターン選択し、特定パターンに対応する再生信号列を重み付け加算蓄積回路10へ通す。重み付け加算蓄積回路10では、特定パターンに対応する再生信号列を用いて重み付け加算演算を行い、「重み付け加算の相関関数」と「重み付け加算と目標値の積」の計算を行い、計算結果を蓄積する。そして、特定パターンの検出回数が予定の回数に至ったところで、重み付け加算蓄積回路10から、蓄積結果を正規方程式演算回路11に送る。正規方程式演算回路11においては、蓄積数を基に平均演算を行い、重み付け加算の相関関数の平均値行列R、入力信号列の重み付け加算と目標値の積の平均値行列pを計算し、これらR、pとタップ係数行列h0を変数とする正規方程式を解くことにより、最適タップ係数c(k)(kはタップ係数の番号を表すk=0〜2)を求めFIRフィルタ4に設定する。
【0061】
次に、ビタビ復号回路5による復号方法について、図13及び図14を用いて説明する。
【0062】
PR(1,2,1)特性に従う再生波形であって、ひずみ及びノイズのない理想的な1Tマークの再生波形は、図13(a)〜図13(c)に示すように、チャネルクロック毎のサンプルレベルが1:2:1になる。2Tでは、1:3:3:1、3Tでは、1:3:4:3:1になり、4Tでは、1:3:4:4:3:1となり、1Tマークの再生波形の重ね合わせによって求められる。
【0063】
このように、任意のビット列について理想的な再生波形を想定することができる。理想的なサンプルレベル(理想サンプルレベル)としては、0、1、2、3、4の5つのレベルをとることになる。ここで、便宜上、サンプルレベルの最大振幅が±1になるようにサンプルレベルを正規化すると、理想サンプルレベルは、−1、−0.5、0、+0.5、+1の5つのレベルとなる。
【0064】
図14は、PRML方式によるデータ検出を実現するためのビタビ復号を表すトレリス線図である。図14において、S(00)、S(01)、S(10)、S(11)はそれぞれ状態を表し、例えば状態S(01)は、前ビットが0で現在ビットが1であることを示している。状態と状態とを結ぶ線は「ブランチ」と呼ばれ、このブランチは遷移状態を表すことができる。例えば、S(00)→S(01)のブランチによって「001」なるビット列を表すことができる。各ブランチの横に附した数値は、各遷移状態において期待される理想サンプルレベルを表す。例えば、S(00)→S(00)のブランチは「000」なるビット列を表すので、−1(正規化前のサンプルレベルは0)が理想サンプルレベルである。なお、S(01)→S(10)及び、S(10)→S(01)なるブランチが存在しないのは、d=1のランレングス制限により「010」及び「101」なるビット列がありえないことを反映している。
【0065】
トレリス線図において、ブランチが連続するように各時刻の状態を1つずつ通っていく経路は「パス」と呼ばれる。任意の状態から任意の状態を経て生成される全てのパスを考えることは、全てのありうるビット列を考えることに相当する。よって、全てのパスについて期待される理想波形と、実際に光ディスクから再生した再生波形とを比べて、再生波形に最も近い、すなわちユークリッド距離が最も小さい理想波形を有するパスを探索すれば、最も確からしい最尤パスを正解パスとして決定することができる。これがビタビ復号の原理である。
【0066】
具体的にトレリス線図を用いたビタビ復号の手順を説明する。任意の時間において、状態S(01)及びS(10)には1本のパスが接続されている。2本のパスが合流する状態S(00)及びS(11)について、合流する各パスの理想波形と再生波形とのユークリッド距離が小さい方を生き残りパスとして残すことにすれば、任意の時刻において、4つの各状態に至るパスがそれぞれ1本ずつ、合計4本のパスが残っていることになる。
【0067】
パスの理想波形と再生波形のユークリッド距離の二乗は、「パスメトリック」と呼ばれ、ブランチの理想サンプルレベルと再生波形のサンプルレベルとの差の二乗として求められるブランチメトリックを、パスを構成する全ブランチについて累積することによって計算される。
【0068】
こうして再生波形のサンプル値、つまり再生信号が入力される毎に、同じ状態に合流する2本のパスのパスメトリックの大小を比較して生き残りパスを比較する手順を繰り返していくと、パスメトリックの大きなパスが淘汰されていくため、生き残りパスはパスメトリックが最小となる1本のパスに収束していく。これを正解パスとすることにより、光ディスクに記録されたデータビット列が正しく再生されることになる。
【0069】
なお、再生信号の入力時刻に対して、正解パスを決定して復号ビット列を出力する時刻までの状態遷移数を「パスメモリ長」と呼ぶ。一般にパスメモリ長は、生き残りパスが一本に収束するのに十分な長さを持たせている。
【0070】
ここで、ビタビ復号が正しく行われている条件を考えると、最終的に1本に収束していくパスが正解パスとなるためには、各時刻において生き残りパスを決定する過程で、正解パスのパスメトリックが、誤りパスであるもう一つのパスのパスメトリックよりも小さくなければならない。そこで、生き残りを賭けて対決する2本のパスの差であるパスメトリック差を見れば、そのパスがどの程度エラーを起こしそうであるかを判定することができる。このパスメトリック差がSAM(Sequenced Amplitude Margin)の定義である。このSAMは、例えば「T.Perkins,"A Window Margin Like Procedure for Evaluating PRML Channel Performance"、IEEE Transactions on Magnetics,Vol.31,No2,1995,p1109−1114」(非特許文献1)等の文献によって周知となっている。
【0071】
ビタビ復号においてエラーが発生しないためには、誤りパスのパスメトリックから正解パスのパスメトリックを引いたパスメトリック差が0より大きくなる必要があり、また上記パスメトリック差が大きいほどエラーを起こしにくいことになる。
【0072】
すなわち、
復号過程において誤ったパスが生き残りパス(正解パス)であると決定されてしまう危険性がどの程度含まれているか、つまり復号におけるエラーの発生する度合いを示している。
【0073】
パスメトリック差の特徴として、所定のパスに対しては、理想的なパスメトリック差が定まること、及び実際に検出されるパスメトリック差はこの理想的なパスメトリック差に対してばらつきを有していることが挙げられる。
【0074】
この特徴に着目し、まず理想的なパスメトリック差に当たるパスメトリック差の目標値を設定し、実際に検出されたパスメトリック差と目標値との誤差の平均二乗である平均二乗誤差が最小となるように等化特性を適応化することで、復号によるエラーレートをより良好に低減することができる。
【0075】
さらに、特定パターンとして、パスメトリック差が予め定められた特定値となるようなビット列パターンを想定する。この特定パターンが検出されたときに、等化後信号列における特定パターンに対応する信号列から検出されたパスメトリック差の誤差に基づいて最適等化を行う。これによって、ビタビ復号過程においてエラーを起こしやすいパターンに特化して等化特性を適応化することができる。
【0076】
上述したように、パスメトリック差は、そのパスメトリック差の検出の元となった等化後信号列が、復号過程において誤ったパスを生き残りパスとして決定してしまう危険性をどの程度はらんでいるものであるか、つまり復号におけるエラーの発生する度合いを示している。そこで、誤差信号e(n)を次のように定める。
【0077】
e(n)=s(n)−ds ・・・ (2)
s(n)はパスメトリック差(SAM値)、dsは所定のパスについて定まる理想的なパスメトリック差をそれぞれ表す。
【0078】
特定パターンに一致するn番目のビットパターンとして、「00111」が検出されたとする。この場合、図15に示すように、ビタビ復号のトレリス線図では、正解パスは「・・・→S(00)→S(01)→S(11)→S(11)」であり、この正解パスと最後の状態S(11)(図中右端のS(11))で合流する誤りパスは、この正解パスと理想波形が最も近い「・・・→S(00)→S(00)→S(01)→S(11)」である場合がほとんどである。
【0079】
この場合、それぞれのパスの理想波形におけるサンプルレベルは、正解パスが(−0.5、+0.5、+1)であり、誤りパスが(−1、−0.5、+0.5)である。したがって、これらに対応する等化後信号y(−3,n)、y(−2,n)、y(−1,n)を用いて、この場合のパスメトリック差s(n)は、次式
s(n)={y(−3,n)−(−1)}+{y(−2,n)−(−0.5)}+{y(−1,n)−(+0.5)}−{y(−3,n)−(−0.5)}−{y(−2,n)−(+0.5)}−{y(−1,n)−(+1)}
=y(−3,n)+2y(−2,n)+y(−1,n) ・・・ (3)
のように実際にパスメトリック差を計算しなくても簡易的に求めることができる。等化後信号が完全に正解パターンに一致するときのs(n)は、
s(n)=−0.5+2(0.5)+1=1.5・・・(4)
となり、これがこの特定パターンに対応するパスメトリック差の理想値である。そして、この値を目標値dsとして設定する。
【0080】
一方、(1)式を用いることにより、s(n)は次式のように表すことができる。
【0081】
【数2】

【0082】
すると、目標値ds(=1.5)に対するパスメトリック差s(n)の誤差e(n)=s(n)−dsの平均二乗(平均二乗誤差)ε=E[e(n)]は、次式のようになる。
【0083】
【数3】

【0084】
よって、(3)式と同じ形に表現できるため、同様の方法で正規方程式(以下の(7)式)を導出することができる。
【0085】
【数4】

【0086】
ただし、p(k)、r(m,k)は以下の通りである。
【0087】
r(m,k)=E[{u(−2−k)+2u(−1−k)+u(−k)}{u(−2−m)+2u(−1−m)+u(−m)}]、m,k=0,1,2 ・・・ (8)

p(k)=E[ds{u(−2−k)+2u(−1−k)+u(−k)}]、k=0,1,2 ・・・ (9)
ここで、p(k)重み付け加算の極性について示す。E[]内の計算を以下のようにPinとすると
特定パターン「00111」、「11100」が検出された場合には、
Pin=ds{u(−2−k)+2u(−1−k)+u(−k)}・・・(10)
となるが、「00011」、「11000」が検出された場合にはE[]内の計算が
Pin=−ds{u(−2−k)+2u(−1−k)+u(−k)}・・・(11)
となることに注意が必要である。
【0088】
具体的には、目標値ds=1.5であり、相関関数行列の作成開始後n番目の、特定パターンに一致するビット列「00111」が検出された場合、対応する再生信号列をu(−4,n)、(−3,n)、(−2,n)、(−1,n)、(0,n)(図16(a)〜(c)参照)とすると、上記の(8)式の行列Rに対して、各要素は次のように計算される。表記は、1行1列目、1行2列目、・・・、3行3列目のように表記している。
【0089】
r(0,0):E[{u(−2)+2u(−1)+u(0)}{u(−2)+2u(−1)+u(0)}]
r(0,1):E[{u(−3)+2u(−2)+u(−1)}{u(−2)+2u(−1)+u(0)}]
r(0,2):E[{u(−4)+2u(−3)+u(−2)}{u(−2)+2u(−1)+u(0)}]
r(1,0):E[{u(−2)+2u(−1)+u(0)}{u(−3)+2u(−2)+u(−1)}]
r(1,1):E[{u(−3)+2u(−2)+u(−1)}{u(−3)+2u(−2)+u(−1)}]
r(1,2):E[{u(−4)+2u(−3)+u(−2)}{u(−3)+2u(−2)+u(−1)}]
r(2,0):E[{u(−2)+2u(−1)+u(0)}{u(−4)+2u(−3)+u(−2)}]
r(2,1):E[{u(−3)+2u(−2)+u(−1)}{u(−4)+2u(−3)+u(−2)}]
r(2,2):E[{u(−4)+2u(−3)+u(−2)}{u(−4)+2u(−3)+u(−2)}]
また、目標値と重み付け加算の積である(h)式の行列pの各要素は、
p(0):E[1.5×{u(−2)+2u(−1)+u(0)}]
p(1):E[1.5×{u(−3)+2u(−2)+u(−1)}]
p(2):E[1.5×{u(−4)+2u(−3)+u(−2)}]
以上のように計算される。
【0090】
特定パターンが検出されるたびに、{}内の計算が行われ各行列要素のそれぞれにおいて加算されていく。そしてある一定量の特定パターンを検出した時点で、各要素において加算した総数で割り、期待値の計算を行う。上記したようにパスメトリック差の理想値が1.5の場合のパスメトリック差を求める計算は、(3)式にて表現されるので({}内の計算は(3)式から導出した)、特定パターンに対応するパスメトリック差がdsに近づくような(E[{s(n)−ds}]を最小とする)タップ係数hがRh=pの正規方程式を解くことによって導出される。正規方程式においては、上記入力信号列の重み付け加算の相関関数の平均値と、上記入力信号列の重み付け加算と目標値との積の平均値とから前記係数と定数とが決定されることにより、局所的な入力信号の変動の影響を最小限にとどめて入力信号列全体の等化特性を適応化することができる。
【0091】
ここで、正規方程式演算回路11を用いた波形等化装置における、復号、最適タップ係数導出、タップ係数の更新の基本動作について説明すれば、以下の通りである。
【0092】
上記構成の光ディスク再生装置20において、ビタビ復号回路5は、復号ビット列b(i)を計算出力するものである。
【0093】
光ディスク1には、(1,7)RLL符号のようなd=1なるランレングス制限符号が記録されており、PRML識別方式のPR特性としてPR(1,2,1)を用いた例により説明する。
【0094】
光学ピックアップ2から出力された信号波形は、A/D変換器3により再生信号列u(i,n)に変換される。FIRフィルタ4に再生信号が入力されると、波形等化処理が施され等化後信号y(i−1,n)を出力する。y(i−1,n)は、タップ係数c(k,n)と再生信号列u(i−k,n)の畳み込み演算により上記(1)式のように表される。
【0095】
重み付け加算蓄積回路10は、復号ビット列b(i−4)、b(i−3)、…、b(i)が特定パターンである「00111」、「00011」、「11000」、「11100」のいずれかを特定パターン検出回路7が検出する毎に出力する検出信号に対して連続ではなく、所定の間隔を開けて通過させる再生信号引き込みスイッチ9からの特定パターンに対応する信号波形の重み付け加算を行い、重み付け加算は検出された特定パターンに対応するそれぞれの入力信号のビット列において、以下の(12)式で示すように相関をとり、
【0096】
【数5】

【0097】
m、kの組み合わせのそれぞれで演算し、重み付け加算の相関関数を蓄積していく。
【0098】
最適なタップ係数を求めるのに十分な数の特定パターンを入力信号列の一定領域から検出した後、特定パターンの検出数nで割り、重み付け加算の相関関数の平均値を算出し、上記(8)式に基づいて(13)式に示す3行3列の相関関数行列Rを作成する。なお、E[ ]は期待値演算子を表す。
【0099】
【数6】

【0100】
そして、重み付け加算蓄積回路10は同時に、重み付け加算と目標値ds(図示せず)の積を蓄積し、同じく最適なタップ係数を求めるのに十分な数の特定パターンを蓄積する。蓄積後、正規方程式演算回路11では、上記(9)式である目標値と重み付け加算の積の平均値を求める。
【0101】
そして、(9)式に基づいて3行1列の行列pとして以下の(14)式を作成する。
【0102】
【数7】

【0103】
タップ係数をh0とし、以下の(15)式に示すような3行1列の行列を作成する。
【0104】
【数8】

【0105】
上述した(13)、(14)、(15)式の各行列で構成された、タップ係数行列h0を変数とする以下の(16)式により表される正規方程式を解くことにより、タップ係数h0を求めFIRフィルタ4のタップ係数c(k)を更新する(c(k)=h0(k))。ここで導かれたタップ係数は、FIRフィルタ4で等化した等化後信号のパスメトリック差s(n)の目標値dsに対する平均二乗誤差E[{s(n)−ds}]を最小とし、このとき、ビタビ復号で復号される復号ビットのエラーレートは最良となることが理論的に証明されている。
【0106】
【数9】

【0107】
前記正規方程式は、特定パターンに基づく信号波形の重み付け加算の平均値によって、作成される。すなわち解として求められるタップ係数は、特定パターンを検出した入力信号列の領域に対して最適なものとなり、局所的な欠陥の影響を最小限にとどめ、入力信号列の平均的な波形特性に基づいた等化最適化を行うことができる。
【0108】
以下、前記等化適応化部12を用いた波形等化装置の動作について詳細に説明する。一例として、図2に示すような過程で波形データの先頭部分から最適なタップ係数を導出し、等化最適化を行う方法を説明するがこれに限ることはなく、例えば多段階でタップ係数を導出するような過程を用いた場合にも有効な手段である。
【0109】
まず、タップ係数導出動作が開始されると予め用意していた初期値をFIRフィルタ4のタップ係数として設定する(S1)。
【0110】
そして、初期値による等化が行われている状態で特定パターン検出回路7により特定パターンの検出を行う(S2)。ここで、特定パターン検出回路7は、特定パターンが検出されれば、検出信号を再生信号引き込みスイッチ9に送る。
【0111】
次に、再生信号引き込みスイッチ9は、検出信号をカウントし、設定されている間隔を置いて重み付け加算蓄積回路10へ検出された特定パターンに対応する再生信号列を通す(S3)。この再生信号の通過は検出信号全てに対応し連続でおこなわれるのではなく間隔をおいて行われる。すなわち、間隔の間は繰り返し特定パターンの検出が行われるが、重み付け加算蓄積回路10へは通らない。
【0112】
続いて、信号を受け取った重み付け加算蓄積回路10は、入力された再生信号列を用いて重み付け加算演算を行い重み付け加算の相関関数と重み付け加算と目標値の積の演算結果を蓄積していく(S4)。
【0113】
ここで、間を置く間隔は、例えば2間隔や8間隔のように、システムや再生媒体に応じて適切な間隔に設定することが可能である。重み付け加算の演算は、正解パスと誤りパスのパスメトリック差の値を求める要素を含むものである。これによりパスメトリック差を用いて等化適応化を行い、適応化に対してエラーレートを考慮にいれることができ、復号により発生するエラーを良好に低減することが可能となる。ここでは、特にビタビ復号にとって理想的な波形を構成する理想波形信号を想定した場合のパスメトリック差が予め定められた特定値となるようなビット列である特定パターンを検出し、ビタビ復号過程においてエラーを起こしやすいパターンについて等化特性の最適化を行っている。例えば上記した4つのパターンがこれに該当する。
【0114】
前記重み付け加算の相関関数と重み付け加算と目標値の積の蓄積は、予定していた回数に達するまで繰り返される(S5)。予定数を蓄積したところで、蓄積した値を正規方程式演算回路11に送り、平均演算を行い、正規方程式を作成する。正規方式を解くことによりタップ係数を導出する(S6)。導出したタップ係数でFIRフィルタ4のタップ係数を更新する(S7)。以上のような過程より等化係数の最適化を行う。
【0115】
特定パターンの検出数と検出間隔は、検出範囲やシステム設計に応じて決定することが可能である。例えば最適なタップ係数を導出するためには、10000ビット分の再生信号(検出範囲)が必要であるとする。この中に特定パターンが1000個あり、均等に分散しているとすると、1000個全てを重み付け加算の対象にすると重み付け演算が1000回必要であり、また、蓄積結果の数値も大きい値となる。しかし、これを2回に1回の演算にすると500回の重み付け加算演算で済み、その結果、演算量の低減や回路規模の縮小が可能となる。
【0116】
通常、タップ係数を得るまでの時間と計算量を少なくするために、タップ係数の導出に使用する領域を小さくすることが要求されるが、小さくしすぎると入力信号列全体(その後の部分)を最適に等化可能なタップ係数を得ることができない。これは局所的な状態を反映し一定領域についてのみ最適なタップ係数となるためである。そのため入力信号全体を最適に等化可能なタップ係数を得るためには、ある程度の長さの入力信号列中の領域が必要となる。つまり、入力信号の平均情報を用いてタップ係数を導出するため入力信号全てを使用することなく全体に対して最適なタップ係数を得ることができエラーレート低減することを可能とする。
【0117】
最適なタップ係数を得るのに十分な入力信号領域は、再生信号が最適状態とずれている場合に大きくなる。十分な入力信号領域とは、入力信号全体の平均情報を推定可能であり、導出したタップ係数が入力信号全体に対して最適になるために十分な領域ということを意味する。例えば、再生環境がチルト等に代表される特性の変動を発生している場合、より広い領域から特定パターンを検出しデータを蓄積することが局所的な状態を反映することを防ぐために必要となる。
【0118】
しかし、広い領域が必要であるということは、適応化のための演算量が増加することを意味し、消費電力や回路規模が増加してしまう。また、最適なタップ係数を導出するために必要な特定パターンの検出数は多ければ多いほどよい。しかしながら、このことは単に演算量の増加を招くだけでありこのましくない。
【0119】
本明細書において間隔を開けて検出する方法を明示しているが、これにより削減される検出数は、予め最適タップ係数が導出可能な削減数以下に抑えておく必要がある。
【0120】
また、検出数や検出数の範囲は、対象とするシステムによって変化すると考えられるが、必要となる検出範囲をまず設定し、その中の検出対象となるパターンをどれだけ間隔を開けて検出するかを決定するか、あるいはどれだけの間隔で何個のパターンを検出すればよいかという観点から検出範囲を設定すればよい。
【0121】
検出数・検出間隔は最適なタップ係数を導出可能であることが前提であるが、具体的な数値はシステムによって最適な数値を設定すればよい。後述する実験結果は、演算量を9分の1にしても最適なタップ係数の導出が可能であることを示している。また、チルトやサーボオフセット等の再生条件の変動に応じて検出間隔や検出数を可変とする構成にしておけば、次のようなことが可能となる。
【0122】
(1)最大の変動が発生した場合にも最適化が可能な検出範囲を設定しておき安定な再生状態では、検出間隔を拡大し検出数を減らす、再生特性に変動が加わっている場合には、検出間隔を狭め、検出数を増加させる。これにより変動が発生している場合には、より多くの特定パターンを検出することで再生信号の変動状態を正確に反映した等化最適化が可能となる。
【0123】
(2)検出間隔をある程度小さい値に設定しておき、安定な再生状態では検出数を減らし、逆に変動が発生している場合には検出数を増やすことで検出範囲を増やすことができる。これにより変動が発生している場合には局所的な変化のみを最適化に反映するのではなく、広い範囲からタップ係数を検出することにより再生信号の平均特性を反映した等化係数の最適化が可能となる。
【0124】
上記(1)(2)により最適タップ係数を導出する過程について図3〜図5を参照しながら以下に説明する。
【0125】
図3に示す光ディスク再生装置21は、図1に示す光ディスク再生装置20にコントローラ13を加えたものである。
【0126】
コントローラ13は、図4に示すように、初期値設定部13a、再生条件変動監視部13b、検出数・検出間隔決定部13cを備えた構成となっている。初期値設定部13aは、設定値記憶部14に予め記憶された初期値を再生信号引き込みスイッチ9、重み付け加算蓄積回路10に設定するものである。また、再生条件変動監視部13bは、再生条件検知部15によって検出された再生条件(チルトやサーボオフセット等)の変動を監視するものである。後段の検出数・検出間隔決定部13cは、再生条件が変動した場合に、変動量に応じて検出数・検出間隔を決定し、これらの値を再生信号引き込みスイッチ9、重み付け加算蓄積回路10に設定するものである。
【0127】
すなわち、コントローラ13は、別の手段である再生条件検知部15によって検出されたチルトやサーボオフセットなどの再生条件の変動に応じて、再生信号引き込みスイッチ9に対して再生信号列を通す所定の検出間隔と検出数を決定し、設定を行う。また、コントローラ13は、重み付け加算蓄積回路10に対しても検出間隔と検出数の設定を行う。再生信号引き込みスイッチ9は、設定された検出間隔に基づいて特定パターンを選定し、特定パターンに対応する再生信号列を引き込み、重み付け加算蓄積回路10に再生信号を出力する。重み付け加算蓄積回路10は、設定数の再生信号の「重み付け加算の相関関数」と「重み付け加算と目標値の積」を蓄積したところで、正規方程式演算回路11に蓄積結果を送る。
【0128】
検出間隔と検出数回数は、変動の種類と大きさに応じてテーブルを用意しておくか、係数をかけるなどの所定の演算により決定すればよい。
【0129】
また、コントローラ13は再生信号引き込みスイッチ9に対して検出間隔を、重み付け加算蓄積回路10に対して検出回数を設定するものであってもよい。この構成であっても、再生信号引き込みスイッチが所定の間隔で重み付け加算蓄積回路に再生信号を出力することが連続して行われ、所定の検出数を蓄積したところで正規方程式演算回路11へ蓄積結果を送ることは可能である。
【0130】
検出数、検出間隔が設定される過程を図5に基づいて説明する。
【0131】
まず、信号の再生がスタートすると(S11)、タップ係数導出動作が開始され予め用意しておいた初期検出数・検出間隔をコントローラ13に設定する(S12)。
【0132】
次いで、コントローラ13はこの値を再生信号引き込みスイッチ9、重み付け加算蓄積回路10に設定する。次に、再生条件変動を監視し(S13)、変動があれば変動の種類や大きさに応じて検出数と検出間隔を決定する(S14)。
【0133】
そして、コントローラ13に検出数・検出間隔を設定し(S15)、検出数と検出間隔が再生信号引き込みスイッチ9と重み付け加算蓄積回路10に反映される。
【0134】
再生が終了するまでこの監視が継続して行われる(S16)。
【0135】
設定値の一例を示すと、タンジェンシャルチルトが1.0(deg)と大きくかかっている状態においては、検出数を500個、検出間隔を9間隔とする。フォーカスオフセットが0.28(μm)と大きくかかっている状態においては、検出数を50個、検出間隔を9間隔とする。両変動の場合それぞれに対応して検出範囲は、4500個と450個とその範囲が変化しているが以下の実験結果において示すように最適タップ係数が導出されており等化適応化が可能となっている。このように等化適応化に必要な検出数や検出範囲に応じて検出間隔を制御すれば、回路規模を考慮に入れながら再生特性の変動に応じて、より効果的な等化適応化が可能となる。
【0136】
以下、本発明を実際の光ディスク再生装置に適用した実験結果を示す。図6に実験に用いた装置等の主要なパラメータを示す。
【0137】
波形データは、タンジェンシャルチルトが1.0(deg)、フォーカスオフセットが0.28(μm)と大きくかかっている状態において再生したものを用いた。
【0138】
FIRフィルタ4には、初期値としてタンジェンシャルチルトが0(deg)、フォーカスオフセットが0(μm)の状態において最適化したタップ係数を設定した。このタップ係数により等化している状態で、特定パターンを検出し、本発明により最適タップ係数を導出した。
【0139】
タップ係数の導出後、同じ波形データを導出タップ係数で等化し、エラー数を計測した。
【0140】
特定パターンとしては、上記と同様の4パターン「00111」、「00011」、「11000」、「11100」を用いた。約960000ビットの再生信号列に対して等化最適化を行うとし、その一部分から最適タップ係数を導出する。
【0141】
図7にタンジェンシャルチルトがかかっている波形データからの特定パターンの検出位置と検出数、それに対応するビット数を模式的に示す。間隔を開けて特定パターン検出する効果を見るために次の3つの場合を比較した。
【0142】
(1)4500個の特定パターンを連続で検出する。実際のビット数に換算すると約12000ビットとなる。これは(1、7)RLL変調符号のランダムパターンに含まれる上記特定パターンの含有割合から計算した値である。
【0143】
(2)500個の特定パターンを連続ではなく間に8個のパターンを置いて検出する。実際のビット数に換算すると9個ごとに検出していることになるため(特定パターン数で4500個分に相当)(1)と同数の約12000ビットとなる。
【0144】
(3)500個の特定パターンを連続で検出する。実際のビット数に換算すると約1350ビットとなる。
【0145】
フォーカスオフセットにおいては、
(1)450個の特定パターンを連続で検出する。実際のビット数に換算すると1200ビットであり、検出数がタンジェンシャルチルトと比較して10分の1であるため実際のビット数も10分の1となる。
【0146】
(2)50個の特定パターンを間に8個のパターンを置いて検出する(9個ごとに検出する)。実際のビット数に換算すると(1)と同様に1200ビットとなる。
【0147】
(3)50個の特定パターンを検出する。実際のビット数は135ビットとなる。これら3種類の検出方法で特定パターンを検出し、導出したタップ係数の比較結果を図8(タンジェンシャルチルト)、図9(フォーカスオフセット)に示す。
【0148】
タンジェンシャルチルトにおける結果のタップ係数の形状を比較すると(1)の4500個(連続)検出と(2)の500個(9間隔)検出はほぼ同様の形状であった。(1)(2)とも12000ビットの領域の波形データの特性を反映したタップ係数を導出することができている。すなわち、検出数を9分の1にしたとしても当該領域から所望の最適化が可能であることを示している。一方、(3)の500個(連続)検出においては、タップ係数の形状が大きく異なっている。同様に図9においても(1)(2)においてはタップ係数の形状が等しく、(3)では大きく異なっている。タップ係数の形状は、各タップ係数で波形等化を行う場合のFIRフィルタの周波数特性を示すため、係数の形状が等しいということは、同様の周波数特性を保持していると言える。
【0149】
次に、導出した各タップ係数を用いて再生信号列(960000ビット)を等化した結果を次に列挙すると、エラー数は、タンジェンシャルチルトにおいては、(1)1個、(2)2個、(3)20個であり、フォーカスオフセットにおいては、(1)1個、(2)0個、(3)29個であった。エラー数の結果からも(1)(2)では、再生信号列全体に対して最適なタップ係数を導出することができていることが確認できる。
【0150】
よって、(2)では、特定パターンの検出数の大幅な削減が実現できている。一方で(3)ではエラー数が増加している。これは、特定パターンの検出数を(2)と同様の数に設定しているが、再生信号列中の検出の対象領域が小さく最適なタップ係数を導出するために十分な領域になっていないことを示している。
【0151】
このように前記再生信号に対する適応化を連続ではなく間隔を置いて行うことによって、処理毎に発生する演算を増やすことなく、広い検出範囲に対する等化適応化が可能である。これにより有効な等化適応化能力を維持しながら低消費電力化、回路規模の縮小が可能となる。
【0152】
本発明を適用すれば、再生条件の変動、すなわちディスクの交換時や、環境温度変化、ディスクチルトやサーボオフセット等の変動、同一ディスク面内で記録密度が変化する、再生速度が変化するなどの変化、または多層ディスクにおいての層間移動等による再生波形信号の変化に対して常に最適なタップ係数を設定することができる。
【0153】
また、本発明は最小二乗アルゴリズムに基づいて、一定量のデータを蓄積し、最小二乗問題を解く解を導出する構成をもつ装置及び方法において広く効果を奏する。
【0154】
例えば、再生波形をサンプリング、蓄積し、再生波形と目標波形の最小二乗誤差が最小にするタップ係数を正規方程式により導出するような構成であっても同様の効果を奏する。この構成においては、「再生波形の相関関数の平均値」と「再生波形と目標波形の積の平均値」を基に正規方程式が作成されるが、各平均値は再生信号をサンプリングし、蓄積した結果を用いており、サンプリングを連続ではなく間隔を開けて行えば、等化適応化能力を維持しながら低消費電力化、回路規模の縮小が可能となる。
【0155】
〔実施の形態2〕
本発明の他の実施形態について説明すれば、以下の通りである。なお、本実施の形態において、前記実施の形態1において説明した構成要素と同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付記してその説明を省略する。
【0156】
図10は本実施の形態に係わる光ディスク再生装置22の構成を表すブロック図である。前記光ディスク再生装置22は、実施の形態1に示した光ディスク再生装置20と同様に、光ディスク1に書き込まれている情報を再生する装置であり、光学ピックアップ2、A/D変換器3、FIRフィルタ4、ビタビ復号回路16、パスメモリ長遅延素子6、特定パターン検出回路7、時間Tの遅延素子8、再生信号引き込みスイッチ17を備え、さらにタップ係数更新回路18を備えている。
【0157】
再生波形は(1,7)RLL変調、PR(1,2,1)特性を持ち、理想サンプルレベルを±1に正規化したものを扱い説明を行う。
【0158】
光ディスク再生装置20との差異点を説明する。
【0159】
前記ビタビ復号回路16は、光ディスクに記録された記録マークの復号ビット列b(i)を出力すると同時に、ビタビ復号過程において合流する2本のパスメトリック差s(n)を計算し、出力するものである。このため、ビタビ復号回路16と再生信号引き込みスイッチ17との間には、記録マークの復号ビット列b(i)が入力される特定パターン検出回路7の他に、パスメトリック差s(n)が入力されるパスメモリ長遅延素子6が設けられている。
【0160】
前記再生信号引き込みスイッチ17は、特定パターン検出回路7が前記特定パターンを検出した中から所定の間隔を置いて特定パターンに対応する再生信号列とパスメトリック差s(n)をタップ係数更新回路18へ通す。タップ係数更新回路18は、以下の(17)式により新しいタップ係数c(k、n+1)を導出、FIRフィルタ4のタップ係数を逐次更新する。
【0161】
【数10】

【0162】
nは特定パターンの検出回数に相当し、検出されたn番目の特定パターンにおいて更新されたタップ係数を表す。dsは目標値、μはタップ係数の更新ゲインである。
【0163】
逐次更新によってエラー数が最小になる方向に向かってタップ係数を更新するような等化適応化においても連続ではなく間隔を開けることによって、ゲインを小さくする代わりに適応動作の応答性を下げることができる。このとき同時に演算量を減らすことができ、消費電力の低減が可能となる。また、パスメトリック差を用いることにより等化適応化に対してエラーレートを考慮に入れることができ、復号によるエラーを良好に低減することができる。
【0164】
以下、本発明を実際の光ディスク再生装置に適用した実験結果を示す。
【0165】
実験に用いた装置等の主要なパラメータは前記実施の形態1と同様であるが、タップ係数の数が5となっている点で異なる。
【0166】
波形データは、タンジェンシャルチルトが0.83(deg)、フォーカスオフセットが0.28(μm)と大きくかかっている状態において再生したものを用いた。
【0167】
FIRフィルタ4は、初期値として{0,0,1,0,0}を設定し、本発明により適応等化を行った。すなわち、特定パターン「00111」、「00011」、「11000」、「11100」を検出し間隔を開けて逐次更新により適応化を行う。
【0168】
間隔を開けて逐次更新により適応等化を行った場合の効果を見るために次の3つの場合を比較した。(1)更新ゲインμ:0.00004(連続検出)、(2)更新ゲインμ:0.00004(3間隔)、(3)更新ゲインμ:0.000013(連続検出)。各パターンとも適応処理に用いた再生信号のデータ量は同じである。
【0169】
(1)、(2)、(3)の各場合におけるタンジェンシャルチルトがかかっている波形データにおけるタップ係数の収束状況(適応化状況)を図11(a)〜図11(c)に示す。
【0170】
(1)と(2)を比較すると、(2)は、特定パターンを3個検出する毎に一回タップ係数を更新しているため、収束の速度が(1)の3分の1となっている。また、(1)と(3)を比較した場合、更新ゲインが(3)では3分の1となっているので、収束速度が3分の1となっている。(2)と(3)の収束状況は等しくなっている。すなわち、ゲインを3分の1にすることと、更新間隔を3回検出する毎に1回とすることは同等の動作をしているといえる。
【0171】
よって、ゲインを小さくすることとタップ係数の間隔を開けることは、係数の適応化速度についてみると同様の結果が得られることになる。
【0172】
フォーカスオフセットのかかっている波形データについても図12(a)〜図12(c)に示とおり同様の結果が得られている。
【0173】
すなわち、ゲインを大きく設定し、間隔を開けることで更新速度を調整すれば、小さいゲインで連続してタップ係数を更新する場合と比較して演算量が低減できる。上記の場合(2)と(3)の適応速度は同じであるが、(3)と比較して(2)の演算量は3分の1となる。また、逆に(2)のゲインを3倍にすれば、(1)と同じ収束速度で演算量が3分の1という動作を実現できる。ゲインを大きくしすぎる、すなわち、応答速度を速くしすぎるとタップ係数の発散を誘発する可能性がある。よって係数の収束状況や、再生特性の変動に応じて、ゲインを変化させる代わりに間隔の大きさを制御し、演算量を減らしながら応答性を低下させ、発散を防止するという効果を得ることも可能である。
【0174】
このように逐次型の等化適応化を行う場合、連続ではなく間隔を開けて適応化を行うことで、ゲインを小さくし発散を防ぐこと、演算量を低減し消費電力や回路規模を縮小することが可能である。
【0175】
以上のように、前記実施の形態1及び2では、波形等化装置の例として光ディスク再生装置について説明したが、本発明はこれに限らず、再生波形特性の適応化を用いる装置、特にPRML方式の信号再生を行う装置において等しくその効果を発揮することが可能である。すなわち、ハードディスク再生装置や磁気テープ装置などの磁気記録再生装置はもちろん、通信データ受信装置などの通信装置にも本発明を適用することができる。
【0176】
また、前記実施の形態1及び2で説明した波形等化装置の各ブロック図は、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにコンピュータを用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0177】
すなわち、波形等化装置(図1、図3、図10の光ディスク再生装置)から光ディスク1、光学ピックアップ2、及びA/D変換器3を除いた装置)は、この装置の各機能を実現する波形等化プログラムの命令を実行するCPU(central processing unit)、前記プログラムを格納したROM(read only memory)、前記プログラムを展開するRAM(random access memory)、前記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記録媒体)などを備えたコンピュータによって実現することもできる。つまり、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアである波形等化プログラムのプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースコードプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、コンピュータに供給し、そのコンピュータが記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成可能である。この場合、記録媒体から読み出されたプログラムコード自体が上述した機能を実現することになり、そのプログラムコードを記録した記録媒体は本発明を構成することになる。
【0178】
このように、本明細書において、手段とは必ずしも物理的手段を意味するものではなく、各手段の機能がソフトウェアによって実現される場合も包含する。さらに、一つの手段の機能が、二つ以上の物理的手段により実現されても、もしくは、二つ以上の手段の機能が、一つの物理的手段により実現されてもよい。
【0179】
また、何れの場合でも、格納されているプログラムは、マイクロプロセッサがアクセスして実行される構成であることが好ましい。さらに、プログラムを読み出し、読み出されたプログラムは、マイクロコンピュータのプログラム記憶エリアにダウンロードされて、そのプログラムが実行される方式であることが好ましい。なお、このダウンロード用のプログラムは予め本体装置に格納されているものとする。
【0180】
また、インターネットを含む通信ネットワークを接続可能なシステム構成であれば、通信ネットワークからプログラムをダウンロードするように流動的にプログラムを担持する記録媒体であることが好ましい。
【0181】
さらに、このように通信ネットワークからプログラムをダウンロードする場合には、そのダウンロード用のプログラムは予め本体装置に格納しておくか、あるいは別な記録媒体からインストールされるものであることが好ましい。
【0182】
本発明は上述した各実施の形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0183】
本発明は、再生信号波形を理想的な周波数特性に近づけることができるので、特に高密度記録再生のように再生信号の波形特性に影響を受けやすい装置、例えばDVDやHD DVD、Blu−ray Disc記録再生装置に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0184】
【図1】本発明の一実施の形態に係る光ディスク再生装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す光ディスク再生装置における波形等化処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】本発明の他の実施の形態に係る光ディスク再生装置の構成を示すブロック図である。
【図4】図3に示す光ディスク再生装置に備えられたコントローラの概略構成を示すブロック図である。
【図5】図4に示すコントローラにおける検出数・検出間隔の設定処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】本発明の光ディスク再生装置の適用実験における主要パラメータを示す図である。
【図7】本発明の光ディスク再生装置の適用実験における特定パターンの検出範囲を説明する図である。
【図8】本発明の光ディスク再生装置の適用実験におけるタップ係数の収束結果(タンジェンシャルチルト)を示す図である。
【図9】本発明の光ディスク再生装置の適用実験におけるタップ係数の収束結果(フォーカスオフセット)を示す図である。
【図10】本発明の他の実施の形態に係る光ディスク再生装置の構成を示すブロック図である。
【図11】(a)〜(b)は、図10に示す光ディスク再生装置におけるタップ係数更新動作を比較した結果を示すグラフである。
【図12】(a)〜(b)は、図10に示す光ディスク再生装置におけるタップ係数更新動作を比較した結果を示すグラフである。
【図13】(a)〜(c)は、PR(1,2,1)特性に従う再生信号波形とそのサンプルレベル、及び対応する記録マークと復号ビット列の関係を示す模式図である。
【図14】トレリス線図を示す模式図である。
【図15】ビット列「00111」に対応するビタビ復号のトレリス線図を示す模式図である。
【図16】(a)〜(c)は、復号ビット列「00111」と対応する記録マークと再生信号波形、サンプルレベルの関係を示す模式図である。
【符号の説明】
【0185】
1 光ディスク(情報記録媒体)
2 光学ピックアップ(再生手段)
3 A/D変換器
4 FIRフィルタ(等化手段)
5 ビタビ復号回路(パスメトリック差検出手段)
6 パスメモリ長遅延素子
7 特定パターン検出回路(特定パターン検出手段)
8 遅延素子
9 再生信号引き込みスイッチ
10 重み付け加算蓄積回路
11 正規方程式演算回路
12 等化適応化部(等化適応化手段)
13 コントローラ
13a 初期値設定部
13b 再生条件変動監視部
13c 検出数・検出間隔決定部
14 設定値記憶部
15 再生条件検知部
16 ビタビ復号回路(パスメトリック差検出手段)
17 再生信号引き込みスイッチ
18 タップ係数更新回路
20 光ディスク再生装置(情報再生装置)
21 光ディスク再生装置(情報再生装置)
22 光ディスク再生装置(情報再生装置)
b 復号ビット列
c タップ係数(等化係数)
s パスメトリック差
u 再生信号列(入力信号列)
y 等化後信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号列を波形等化しつつ、その等化特性を適応化する波形等化装置において、
前記入力信号列に対して前記波形等化を行うことで等化後信号列を生成する等化手段と、
連続して流れる入力信号列から一定の間隔で検出して得られる入力信号列を用いた所定の演算を行い、この演算結果に基づいて前記等化手段の等化特性を適応化する等化適応化手段とを備えていることを特徴とする波形等化装置。
【請求項2】
入力信号列を波形等化しつつ、その等化特性を適応化する波形等化装置において、
前記入力信号列に対して前記波形等化を行うことで等化後信号列を生成する等化手段と、
前記入力信号列に基づいて前記等化手段の等化特性を適応化する等化適応化手段とを備え、
前記等化適応化手段は、連続して流れる入力信号列から一定の間隔で検出して得られる入力信号列を用いて所定の演算を行うと共に、この演算結果を蓄積し、蓄積結果に基づいて前記適応化を行うことを特徴とする波形等化装置。
【請求項3】
前記等化適応化手段は、
前記等化後信号列に対するビタビ復号過程における正解パスと誤りパスとのパスメトリック差を検出するパスメトリック差検出手段を備え、
前記パスメトリック差検出手段によって、ビタビ復号過程の進展に伴い順次計算されるパスメトリック差を用いて前記適応化を行うことを特徴とする請求項2に記載の波形等化装置。
【請求項4】
前記等化適応化手段は、
ビタビ復号過程の進展に伴い順次計算されるパスメトリック差のうち、ビタビ復号にとって理想的な波形を構成する理想波形信号を想定した場合のパスメトリック差が予め定められた特定値となるようなビット列である特定パターンを検出する特定パターン検出手段を備え、
前記特定パターン検出手段によって検出された特定パターンのうち、連続して検出された特定パターンから一定の間隔で検出した当該特定パターンに対応する入力信号列のパスメトリック差を用いて前記適応化を行うことを特徴とする請求項3に記載の波形等化装置。
【請求項5】
前記等化適応化手段は、前記入力信号列に対する所定の演算の演算数及び演算範囲に応じて、前記演算および演算結果の蓄積の間隔を可変とすることを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載の波形等化装置。
【請求項6】
入力信号列を波形等化しつつ、その等化特性を適応化する波形等化装置において、
前記入力信号列に対して前記波形等化を行うことで等化後信号列を生成する等化手段と、
前記入力信号列に基づいて前記等化手段の等化特性を適応化する等化適応化手段と、
前記等化後信号列に対するビタビ復号過程における正解パスと誤りパスとのパスメトリック差を検出するパスメトリック差検出手段と、
ビタビ復号過程の進展に伴って順次計算されるパスメトリック差のうち、前記パスメトリック差検出手段によって連続して流れる入力信号列を任意の間隔で検出された入力信号列の特定パターンにおけるパスメトリック差の所定の目標値に対する誤差に基づいて、前記各等化特性を逐次更新する等化特性更新手段とを備えていることを特徴とする波形等化装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の波形等化装置に加えて、
情報記録媒体から前記入力信号列を再生する再生手段を備えていることを特徴とする情報再生装置。
【請求項8】
入力信号列を波形等化しつつ、その等化特性を適応化する波形等化方法において、
前記入力信号列に対して前記波形等化を行うことで等化後信号列を生成する等化ステップと、
連続して流れる入力信号列を任意の間隔で検出した入力信号列を用いた所定の演算を行い、この演算結果に基づいて前記等化特性を適応化する等化適応化ステップとを含むことを特徴とする波形等化方法。
【請求項9】
入力信号列を波形等化しつつ、その等化特性を適応化する波形等化方法において、
前記入力信号列に対して前記波形等化を行うことで等化後信号列を生成する等化ステップと、
前記入力信号列に基づいて前記等化ステップの等化特性を適応化する等化適応化ステップとを含み、
前記等化適応化ステップは、連続して流れる入力信号列を任意の間隔で検出した入力信号列を用いて所定の演算を行うと共に、この演算結果を蓄積し、蓄積結果に基づいて前記適応化を行うことを特徴とする波形等化方法。
【請求項10】
入力信号列を波形等化しつつ、その等化特性を適応化する波形等化方法において、
前記入力信号列に対して前記波形等化を行うことで等化後信号列を生成する等化ステップと、
前記入力信号列に基づいて前記等化ステップの等化特性を適応化する等化適応化ステップと、
前記等化後信号列に対するビタビ復号過程における正解パスと誤りパスとのパスメトリック差を検出するパスメトリック差検出ステップと、
ビタビ復号過程の進展に伴って順次計算されるパスメトリック差のうち、前記パスメトリック差検出ステップによって連続して流れる入力信号列から任意の間隔で検出された入力信号列の特定パターンにおけるパスメトリック差の所定の目標値に対する誤差に基づいて、前記各等化特性を逐次更新する等化特性更新ステップとを含んでいることを特徴とする波形等化方法。
【請求項11】
請求項1から6の何れか1項に記載の波形等化装置を動作させる波形等化プログラムであって、コンピュータを前記各手段として機能させるための波形等化プログラム。
【請求項12】
請求項11に記載の波形等化プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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