説明

波長変換フィルター

【課題】光源の交換または追加が不要であり、しかも成長を阻害する光の有効利用が可能なため、植物の育成技術として有用性が極めて大きい波長変換フィルターを提供すること。
【解決手段】本発明の波長変換フィルターは、照射光の短波長成分を長波長成分に変換する波長変換フィルターであって、短波長成分を長波長成分に変換して発光する蛍光体を有し、励起極大が600nm以下で、蛍光極大が500〜720nmである蛍光体を少なくとも1種以上を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光及び人工光源を使用して植物を育成する際に用いられる、波長変換フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、安定な量及び価格の食料供給、安全性の高い食料生産、植物の高速生産及び栽培面積の縮小化などを目的とする生産システムとして、工場施設内の照明、空調、養液供給等の環境を、植物の生長に応じて人工的に制御する、いわゆる植物工場での植物栽培が行われている。
植物工場の形態としては、ハウスや温室等で太陽光を利用し、人工照明による光の補充や夏季の高温抑制技術等を用いて栽培する「太陽光利用型」や、閉鎖環境で太陽光を用いずに人工照明を用いて栽培する「完全人工光型」がある。
一般に、植物工場の照明としては、太陽光の他に、蛍光ランプ、発光ダイオード(LED)、高圧ナトリウムランプ、キセノンランプ、白熱電球等の人工光源が使用されている(特許文献1,2,3)。かかる人工光源は、各々特定の波長帯域を有しており、植物に1つまたは複数個併設した光源からの光を照射し、植物の育成に必要な所望の波長帯域の光を照射することができる。植物の育成には、植物の発芽を促進する450nm前後の光、光合成に寄与する400〜770nmの光、光合成、発芽、開花を促進する660nm前後の光が必要であり、照射のタイミングや照射エネルギー量を制御しながら、各波長領域の光を植物に照射する。中でも発光ダイオード(LED)は、植物の発芽を促進する450nm前後の光を発光する青色ダイオードや、光合成、発芽、開花を促進する660nm前後の光を発光する赤色ダイオードを照射したい植物の栽培面積に応じて複数併設することで、低消費電力で高効率に植物の育成を促進できる(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−22号公報
【特許文献2】特開平11−266703号公報
【特許文献3】特開2002−272271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1〜3に開示されているような人工光源を使用すると、所望のタイミングで所望の波長帯域の光を照射する際に、照射したい植物の栽培面積に応じて設置した複数の光源を交換しなければならず、交換作業が煩雑で時間がかかる、という問題があった。また、発光ダイオードは高価なため、植物の栽培面積が広くなると、使用できるのは栽培した一部の植物の生産に限られるので、植物工場内の植物を均一に生長させるためには、定期的に所望の光照射を必要とする植物の栽培場所に光源を移動させて設置する必要があるという問題があった。さらに、蛍光ランプ、高圧ナトリウムランプ、キセノンランプ及び白熱電球などの光源は、400nmより短波長の紫外光を発光しており、当該波長域の紫外光は植物の細胞を破壊して生長を阻害するという問題があった。
【0005】
本発明は上記のような問題に点に着目してなされたもので、その目的とするところは、人工光源を使用した場合であっても、光源の交換が不要であり、しかも生長を阻害する光の有効利用が可能な波長変換フィルターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、短波長成分を長波長成分に変換して発光する蛍光体を少なくとも1種以上含む波長変換フィルターにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
具体的には、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0008】
(1) 照射光の短波長成分を長波長成分に変換する波長変換フィルターであって、短波長成分を長波長成分に変換して発光する蛍光体を有し、励起極大が600nm以下で、蛍光極大が500〜720nmである蛍光体を少なくとも1種以上含む、波長変換フィルター。
(2) 前記波長変換フィルターにおいて、励起極大における蛍光強度に対する蛍光極大における蛍光強度の比で表される相対強度が2倍以上であって、且つ前記波長変換フィルターの蛍光スペクトルの積分面積が、前記波長変換フィルターの励起スペクトルの積分面積の2倍以上である、(1)に記載の波長変換フィルター。
(3) 前記蛍光体が、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)及びユーロピウム(Eu)の元素を少なくとも1つ以上含む蛍光体である、(1)〜(2)に記載の波長変換フィルター。
(4)前記蛍光体が、透明シートに含有及び/または積層されていることを特 徴とす
る、(1)〜(3)のいずれかに記載の波長変換フィルター。
(5)前記蛍光体が、網目形状または点形状上に形成されている、(4)に記 載の波長
変換フィルター。
【発明の効果】
【0009】
本発明の波長変換フィルターは、光源の交換または追加が不要であり、しかも生長を阻害する光の有効利用が可能なため、植物の育成技術として有用性が極めて大きい。
【0010】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
<波長変換フィルター>
本発明の波長変換フィルターは、照射光の短波長成分を長波長成分に変換する波長変換フィルターであって、短波長成分を長波長成分に変換して発光する蛍光体を有し、励起極大が600nm以下で、蛍光極大が500〜720nmである蛍光体を少なくとも1種以上含む、ことを特徴とする。
植物工場の照明として、太陽光の他に、発光ダイオード(LED)や蛍光ランプ、高圧ナトリウムランプ、キセノンランプ及び白熱電球等の人工光源を複数併設して使用し、植物の育成に必要な波長帯域の光を、野菜、果物、花木等に照射する。植物の育成には、植物の発芽を促進する450nm前後の光、光合成に寄与する400〜770nmの光、光合成、発芽、開花を促進する660nm前後の光が必要であり、植物種によっても必要な波長が異なる。光は、照射のタイミングや照射エネルギー量などを制御しながら植物に照射する。上記光源は、照射範囲が狭いため、所望のタイミングで所望の波長帯域の光を照射する際には、複数の上記光源を組み合わせ、交換または追加しなければならず、交換作業が煩雑で時間を要する。近年、多用されている発光ダイオードは、消費電力が少なく、寿命が長い利点がある。しかし、個々の照射範囲が狭く、植物の栽培面積が広くなると多数設置する必要があるが、高価なため使用できるのは栽培した一部の植物の生産に限られる。蛍光ランプも、照射範囲が狭いため、植物の栽培面積が広い植物工場内では、一定の領域の植物に均一の光を照射するためにはかなり複数の光源を設置する必要がある。さらに、高圧ナトリウムランプやキセノンランプは、400nmより短波長の紫外光も含んで発光しており、当該紫外光は植物の細胞を破壊して生長を阻害する。そして、白熱電球は、遠赤外光成分を多く含み、直接植物に照射すると、ダメージを与えるなどの要因となる。本発明の波長変換フィルターは、植物と光源の間に設置することにより、光源の交換または追加が不要であり、光の照射面積が広く安価に得られ、しかも生長を阻害する光をも植物の生長に必要な波長帯域の光に変換して光の有効利用を可能にするために、光源からの照射された短波長成分を長波長成分に変換して発光する蛍光体を有し、励起極大が600nm以下で、発光極大が500〜720nmである蛍光体を少なくとも1種以上含有している。
【0011】
本発明の波長変換フィルターは、光源から照射された短波長成分の光を吸収し、長波長成分の光に変換して発光する機能を有する。すなわち、600nm以下の短波長成分を吸収して励起するときの励起極大が600nm以下にあって、短波長成分の光を720nm以下の長波長成分に変換して発光するときの蛍光極大が500〜720nmである蛍光体を用いる。ここで、励起極大とは、励起スペクトルで蛍光強度の最も大きい波長であり、蛍光極大とは、蛍光スペクトルで蛍光強度の最も大きい波長のことである。また、励起スペクトルとは、蛍光強度の励起波長依存性を示し、蛍光スペクトルは、蛍光強度の蛍光波長依存性を示す。励起極大は600nm以下が好ましく、特に450nm前後より短波長であることが好ましい。450nm前後よりも短波長では、人工光源から発光される400nmより短波長の紫外光や、青色ダイオードから発光される450nm前後の発光波長の光によって蛍光体が励起し、植物の生育に必要な蛍光極大が500〜720nmの光を発光するからである。また、蛍光極大は500〜720nmが好ましく、特に600〜700nmが好ましい。植物の光合成には、600〜700nmの光が特に有効で、植物の生長に寄与するからである。720nm以上になると、遠赤外光のため温度上昇が生じ、フィルターの熱変形や蛍光体の劣化及び植物にダメージを与えるなどの要因となる。
本発明の波長変換フィルターは、励起極大における蛍光強度に対する蛍光極大における蛍光強度の比で表される相対強度が2倍以上であって、且つ蛍光スペクトルの積分面積が、励起スペクトルの積分面積の2倍以上となる機能を有する。ここで、励起スペクトル及び蛍光スペクトルの積分面積は、各スペクトルの近似曲線から得た関数を公知の定積分の公式によって計算した値である。さらに、励起スペクトルの積分面積に対する、蛍光スペクトルの積分面積の大きさの関係は、波長変換の程度(効率)を表す。励起極大における蛍光強度に対する蛍光極大における蛍光強度の比で表される相対強度は、2倍以上が好ましい。励起スペクトルの積分面積に対する蛍光スペクトルの積分面積は2倍以上が好ましく、さらに10倍以上が好ましく、特に100倍以上が好ましい。相対強度が2倍以上で、且つ励起スペクトルの積分面積に対する蛍光スペクトルの積分面積が2倍以上となる場合は、特定の波長の光を有する人工光源の光を、植物の生長に寄与するより広い波長帯域にわたって、より強いエネルギーで変換することができるので、光源を交換する作業が不要となり且つ光の照射量を減らすことができ、容易且つ低消費エネルギーで植物の成長の育成効率が向上する。
【0012】
波長と光の強度の関係は、市販の蛍光分光光度計、例えば、日立社製のF− 7000を
用いて測定(JIS−K0120準拠)することができ、スペクトルの積分面 積は、波
長と光の強度からなる曲線の関数を算出し、公知の定積分公式を用いて計算す ることによ
り求められる。
【0013】
本発明の波長変換フィルターに使用する上記蛍光体は、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)、ユーロピウム(Eu)の元素を少なくとも1つ以上含むことを特徴とする。これらの蛍光体を用いることで、耐光性や耐熱性が良好で、蛍光強度が高く且つ蛍光波長帯域が広くなり、植物の生長に有用な光の変換効率が高い波長変換フィルターを、低コストで得られる。
【0014】
上記蛍光体の他に、蛍光体を1種以上用いることができる。蛍光体は特に限定されるものではなく、無機系材料及び/又は有機系材料からなる群から選択される。例えば、無機材料としては、マグネシウム(Mg)、バリウム(Ba)、ケイ素(Si)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、ZnS:Ag、(ZnCd)S:Cu、(ZnCd)S:Ag、Zn2SiO4:Mn、Cd225:Mn、(SrMg)3(PO42:Mn、YVO3:En,CaWO4等の公知の材料が挙げられる。例えば、有機材料としては、シアニン類、キノール系、オキサゾール系、ローダミン類、オキサゾール系、フェナジン系、アゾーヒドラゾン系、ビオラントロン系、ビラントロン系、フラバントロン系、フルオレセイン類、キサンテン系、ピレン類、ナフタルイミド系、アントラキノン系、チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系等の公知の材料が挙げられる。本発明において、これらの蛍光体を組み合わせることで、植物の種類毎の生長に有用な蛍光波長帯域を調整できる。
本発明の波長変換フィルターは、前記蛍光体が、透明シートに含有及び/または積層されていることを特徴とする。
【0015】
透明シートは、特に限定はされるものではないが、ガラスまたは高分子フィルムからなる群から選択される。ガラスの種類としては、例えば、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダライムガラス等が挙げられ、熱膨張率が小さく、寸法安定性、作業性に優れるものが好ましい。高分子フィルムは光が透過すれば特に限定されるものではなく、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、スチレン系樹脂、セルロース系樹脂、イミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ゴム系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルフォン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂等の公知の樹脂から形成されるシートが挙げられる。なお、これらの樹脂は、単独又は2種以上の混合樹脂として用いることができる。本発明の透明シートは、ポリオレフィン樹脂から形成される高分子フィルムが好ましい。これらの樹脂は、透明性、耐久性、生産性、材料コストパフォーマンスに優れるからである。
前記蛍光体が透明シートに含有される場合は、例えば、透明シートに高分子フィルムを用いる際は、その製造法に制約は無く、樹脂の溶媒特性や上記蛍光体の熱特性に応じて、1種類以上の上記透明シートの材料と、前記蛍光体と、後述する添加剤等とを混練し、押し出し法、Tダイ法、インフレーション法、多層形成法、カレンダー法等の従来公知の製膜加工によって製造してもよい。または、1種類以上の上記透明シートの材料と、前記蛍光体を、多層共押出し法によって同時にシート状に製造しても良い。前記蛍光体が透明シートに積層される場合は、例えば、上記透明シートがガラス又は高分子フィルムの場合、その製造法に制約は無く、高分子フィルムは上記方法等によりあらかじめフィルム状に製膜された市販のシートを用いても良い。そして、透明シートの少なくとも片面に、前記蛍光体と後述する添加剤等とを溶解・分散させたコーティング液を、ダイコート法、スピンコート法、ディップ法等によりコーティングしてもよい。コーティング液を調製する際には、あらかじめ前記蛍光体を良溶媒に溶解または分散する必要がある。なお、前記蛍光体が、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)、ユーロピウム(Eu)の何れかの場合、良溶媒として、例えば、トルエン、メチルエチルケトンとの混合溶媒等を好適に用いることができる。後述する添加剤等を添加する場合は、上記透明シートの材料に予め添加しても良いし、前記蛍光体を溶解・分散させたコーティング液に分散して、透明シート上にコーティングしても良い。また、透明シートには、コロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理、フレーム処理、プライマー処理、予熱処理、除塵埃処理、蒸着処理、アルカリ処理等の公知の易接着処理を施して後に、上記コーティング液をコーティングしても良い。さらに、上記製造方法により、前記蛍光体を透明シートに含有した波長変換フィルターと、前記蛍光体を積層した波長変換フィルターを、熱プレス法または接着剤を介して組み合わせても良い。
【0016】
本発明の波長変換フィルターにおいて、上記透明シートの材料に含有及び/または積層されている前記蛍光体の濃度は、特に限定されるものではないが、本発明のフィルターの光透過性や蛍光体の変換効率の観点から、2〜20重量%の範囲内であることが好ましく、特に5〜10重量%であることがより好ましい。上記範囲であれば、光源からの光から植物の成長を促進する光をより効率的に変換することができる。2重量%以下になると、光の波長変換効率が低下し、植物の成長に必要な光が十分得られない。20重量%以上になると、植物の成長に必要な光が遮断され光の透過率が低下し、植物の成長の促進が得られない。
また、波長変換フィルターの厚さは5μm〜300μm、好ましくは10μm〜200μmであることが好ましい。上記範囲であれば、良好な機械的強度が得られ、反り、弛み、破断等が生じ難く、且つ作業性が良好であり、長期に渡って繰り返し使用が可能になる。5μm以下であると機械的強度が低く、劣化しやすい。300μm以上であると光の透過率が低下し、植物の成長の促進が得られない。
本発明の波長変換フィルターでは、その他、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じて、シランカップリング剤、酸化防止剤、界面活性剤、難燃剤、可塑剤、耐電防止剤、防腐剤、消泡剤、ぬれ性調整剤等の各種添加剤を配合してもよい。
シランカップリング剤としては、特に限定されるものではないが、分子内にアルコキシシリル基を少なくとも1つ以上有する有機ケイ素化合物であって、上記樹脂との相溶性が良好なものが好適である。例えば、テトラエトキシシラン、トリメトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、アミノシラン、クロロシラン、ジクロロシラン等が挙げられ、樹脂の種類等を勘案し、適宜選択するとよい。なお、これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、本発明の波長変換フィルターは、上記の添加剤の中でも光学特性の低下を防止するという観点において、紫外線吸収剤及び/又は酸化防止剤を含有することが好ましい。
紫外線吸収剤及び/又は酸化防止剤は、上記基材が長時間光や熱に曝されることに起因する劣化を抑制することができる。紫外線吸収剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、ベンゾトリアゾール系、アントラキノン系、ベンゾフェノン系等のものを用いることができる。酸化防止剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、フェノ−ル系、アミン系、リン酸系等のものを用いることができる。
紫外線吸収剤及び/又は酸化防止剤は、上記基材が長時間光や熱に曝されることに起因する劣化を抑制することができる。紫外線吸収剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、ベンゾトリアゾール系、アントラキノン系、ベンゾフェノン系等のものを用いることができる。酸化防止剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、フェノ−ル系、アミン系、リン酸系等のものを用いることができる。
本発明の波長変換フィルターは、上記蛍光体が、網目形状または点形状上に形成されていることを特徴とする。網目形状または点形状の蛍光体パターンを形成することで、上記コーティングの場合よりもさらに光の透過率が向上し、波長変換した光以外の光源が有している植物の成長に有用な光をも利用することができる。
上記網目形状は、その製造法に制約は無く、例えば、スクリーン印刷法、グラビア印刷
法、ディスペンス法、インクジェット法等を用いて、上記ガラスまたは高分子フィルム上に上記蛍光体を溶解または分散した上記コーティング液を、網目形状または点形状に形成しても良いし、あるいは、上記透明シート材料と蛍光体を混練したものを、フラットダイ(Tダイ)法、インフレーション法、多層形成法、カレンダー法等の押出し成形加工によってフィルム状に成形し、型抜き加工やフォトリソ加工によって、網目形状に形成しても良い。上記網目形状は、任意で特に限定されないが、正三角形等の三角形、正方形、長方形、菱形、台形等の四角形、六角形、等の多角形、或いは、円形、楕円形等が挙げられる。これら形状からなる複数の開口部を有し、開口部は通常、均一幅の上記形状を形成するライン部に囲まれ、開口部及び開口部間は通常、全面で同一形状同一サイズである。上記点形状は、任意で特に限定されないが、円形、楕円形等が挙げられ、通常、全面で同一形状同一サイズである。具体的サイズを例示すれば、波長変換フィルター面積に対する開口部面積の割合を示す開口率は、65%以上であることが好ましい。開口率が上記範囲である場合、波長変換した波長以外にも存在する植物の成長に必要な光の透過性が向上する。
本発明の波長変換フィルターは、ロールツーロール法によって製造されてもよい。ロー
ルツーロール法を用いることで、波長変換フィルターを連続的かつ高速に大量生産することができる。
【0017】
本発明の波長変換フィルターは、光源からの照射光と植物の間に設置され、その設置方法についての制約は無く、光源を包み込むように設置しても良いし、光源の照射光を受光可能な範囲で設置できれば良い。
【実施例】
【0018】
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0019】
<実施例1>
高圧法低密度ポリエチレン(商品名:スミカセン,住友化学社製,融点:108〜122℃)100重量部に対して、蛍光体(蛍光顔料化学式:(Ca,Sr)S:Eu,根本特殊化学社製)5重量部を、180℃のラボプラストミル内にて溶融混練し、速度10m/minのTダイ(スリット幅200μm)にて押出し、巻き取って厚み約150μmの波長分散フィルターを得た。
【0020】
<実施例2>
高圧法低密度ポリエチレン(商品名:スミカセン,住友化学社製,融点:108〜122℃)100重量部に対して、蛍光体(蛍光顔料化学式:(Ca,Sr)S:Eu,根本特殊化学社製)10重量部を用い、実施例1と同様の方法にて、厚み約厚み約150μmの波長分散フィルターを得た。
【0021】
<比較例1>
高圧法低密度ポリエチレン(商品名:スミカセン,住友化学社製,融点:108〜122℃)100重量部に対して、蛍光体(蛍光顔料化学式:(Ca,Sr)S:Eu,根本特殊化学社製)1重量部を用い、実施例1と同様の方法にて、厚み約厚み約150μmの波長分散フィルターを得た。
【0022】
<比較例2>
高圧法低密度ポリエチレン(商品名:スミカセン,住友化学社製,融点:108〜122℃)100重量部に対して、蛍光体(商品名:ZQ−15,AirBrown社)1.5重量部を用い、実施例1と同様の方法にて、厚み約厚み約150μmの波長分散フィルターを得た。
【0023】
[蛍光強度測定]
上記実施例1,2、比較例1,2の波長変換フィルターの試験片を、蛍光分光 光度計(
商品名:F−7000,光源:キセノンランプ、日立社製)に設置して、波長400nm〜800nmの範囲における光の強度を測定し(JIS−K0120準拠)、励起スペクトル及び蛍光スペクトルを得た。励起極大における蛍光強度と蛍光極大における蛍光強度は、励起スペクトルと蛍光スペクトルにおいて、各々の蛍光強度が最も大きい波長のときの蛍光強度から得た。さらに、励起極大における蛍光強度に対する蛍光極大における蛍光強度の比から相対強度を得た。励起スペクトル及び蛍光スペクトルの各々の積分面積は、励起スペクトル及び蛍光スペクトルの近似曲線から得た関数を公知の定積分の公式によって計算し、励起スペクトルに対する蛍光スペクトルの積分面積の比を算出した。尚、積分面積を計算する際、ばらつきの大きい強度10以下の波長範囲は、除外した。
【0024】
励起スペクトルの励起極大、励起極大における蛍光強度、蛍光スペクトルの 蛍光極大、
蛍光極大における蛍光強度、励起スペクトル及び蛍光スペクトルを積分した波 長範囲と積
分面積、相対強度、励起スペクトルに対する蛍光スペクトルの面積比を表1に 示す。
【0025】
【表1】

表1に示すように、透明シートに対する濃度を調整すること(実施例1、実施例2)で、励起極大が600nm以下で、蛍光極大が500〜720nmであり、励起極大における蛍光強度に対する蛍光極大における蛍光強度の比で表される相対強度の2倍で、且つ蛍光スペクトルの積分面積が、前記波長変換フィルターの励起スペクトルの積分面積の2倍以上となる、波長変換フィルターを得た。
【0026】
以上の結果より、励起極大が600nm以下で、蛍光極大が500〜720nmである蛍光体を少なくとも1種以上含むことで、植物の成長に寄与する広い波長帯域にわたって、高い変換効率の波長変換フィルターを得られることがわかった。本フィルターは、光源と植物の間に設置することで、光源の交換または追加が不要であり、しかも成長を阻害する光の有効利用が可能なため、植物の育成技術として有用性が極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施例1の形態に係る波長変換フィルターの、励起スペクトルと、キセノンランプを光源とする光を照射した際の蛍光スペクトルを示す線図である。
【図2】本発明の実施例2の形態に係る波長変換フィルターの、励起スペクトルと、キセノンランプを光源とする光を照射した際の蛍光スペクトルを示す線図である。
【図3】本発明の比較例1の形態に係る波長変換フィルターの、励起スペクトルと、キセノンランプを光源とする光を照射した際の蛍光スペクトルを示す線図である。
【図4】本発明の比較例2の形態に係る波長変換フィルターの、励起スペクトルと、キセノンランプを光源とする光を照射した際の蛍光スペクトルを示す線図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射光の短波長成分を長波長成分に変換する波長変換フィルターであって、
短波長成分を長波長成分に変換して発光する蛍光体を有し、
励起極大が600nm以下で、蛍光極大が500〜720nmである蛍光体を少なくとも1種以上を含有することを特徴とする波長変換フィルター。
【請求項2】
前記波長変換フィルターにおいて、
励起極大における蛍光強度対する蛍光極大における蛍光強度の比で表される相対強度が2倍以上であって、
且つ前記波長変換フィルターの蛍光スペクトルの積分面積が、前記波長変換フィルターの励起スペクトルの積分面積の2倍以上である、請求項1に記載の波長変換フィルター。
【請求項3】
前記蛍光体が、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)及びユーロピウム(Eu)の元素を少なくとも1つ以上含む蛍光体である、請求項1〜2に記載の波長変換フィルター。
【請求項4】
前記蛍光体が、透明シートに含有及び/または積層されていることを特徴とする、請求
項1〜3のいずれかに記載の波長変換フィルター。
【請求項5】
前記蛍光体が、網目形状または点形状上に形成されている、請求項4に記載の波長変換
フィルター。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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