説明

波長変換レーザモジュール

【課題】粉塵の多い環境で長期間使用してもレーザ出力の低下を防止できる波長変換レーザモジュールを提供する。
【解決手段】レーザモジュールとそのレーザモジュールを覆う保護筐体とから成る波長変換レーザモジュールにおいて、前記保護筐体は、互いに対抗する面に一対の通気部を設け、その通気部の内部に塵埃を防止するフィルタを備え、且つ前記通気部の保護筐体内面側に互いに同方向に回転する回転ファンとを備え、前記通気孔部の内面が前記レーザモジュールから出射されたレーザの反射を防止する部材で覆われている波長変換レーザモジュール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換レーザ光源に関し、詳細には、二次高調波発生素子によって波長変換を行う波長変換モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
レーザを用いてブロジェクションテレビに代表されるディスプレイを作製する場合には、ビーム品質はもとより、ワットクラスの出力が得られる高出力のレーザモジュールが必要となる。このため、従来のレーザモジュールには、ArガスレーザやKrガスレーザ等が使用されてきた。しかし、このようなガスレーザモジュールは、エネルギー変換効率が0.1%程度と悪く、また水冷機構が必要なため、装置の小型化に限界があった。
【0003】
そこで近年、可視の短波長レーザ光源としてLD励起SHGレーザが使用され始めた。例えば波長が1064nmのLD励起ファイバーレーザを用いた532nmの緑色波長を発するレーザではガスレーザよりもエネルギー変換効率が高いものが得られている。(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
短波長化の技術としては、LD励起ファイバーレーザと擬似位相整合(QPM)方式の分極反転型デバイスを用いた第2高調波発生(SHG)がある。図5は一般的なLD励起ファイバーレーザの概略図である。このLD励起ファイバーレーザは、ファイバーレーザ101と、ポンプレーザダイオード102とからなる。
【0005】
ファイバーレーザ101は、Yb添加ダブルクラッドファイバー103内のYbイオンを励起させるように1000nmから1100nmの範囲の波長、例えば1064nmで第2のポンプ放射を生成するように構成されている。また、ファイバーレーザ101は、第1及び第2のブラッグ回折格子104と105とを含む。このブラッグ回折格子104、105は、Yb添加ダブルクラッドファイバー103の両端部にライディングされ、ファイバーレーザ101のファブリー−ペロー共振空洞部の境界を画する。
【0006】
ポンプレーザダイオード102は、Yb添加ダブルクラッドファイバー103の一端部に光学的に結合され、Yb添加ダブルクラッドファイバー103をポンピングするための励起光を生成するようになっている。Yb添加ダブルクラッドファイバー103の反対側の端部は、第2のポンプ光を出射するためのファイバー106に接合されている(特許文献2参照)。
【0007】
さらに、ファイバーレーザを高い変換効率で第二高調波に変換するために、ファブリー-ペロー共振空洞部に偏光素子、例えば、ブリュースター角石英ガラスプレートを設け、特性方向に偏光ビームを選択できる偏光素子の作用によって、LD励起ファイバーレーザを直線偏光にする方法が開示されている(特許文献3参照)。
【0008】
ファイバーレーザ101から出射したレーザ光はコリメートレンズ107で平行光になり、フォーカシングレンズ108によって分極反転デバイス109内部の分極反転領域に集光される。分極反転領域を伝播することにより、レーザ光の基本波成分が高調波に変換され、分極反転型デバイスの出射端面より出射される(特許文献4参照)。
【0009】
分極反転デバイス109の形成法としては、例えばMgO添加LiNbO3などの強誘電体基板の表面に櫛形電極、裏面には平面電極を形成し、電極に電圧を印加することで周期状の分極反転領域を形成する方法が開示されている(特許文献5参照)。
【0010】
分極反転デバイス109は、波長変換効率の高効率化のために、該分極反転デバイス109の位相整合波長許容幅が0.1nm程度と小さく設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−314920号公報
【特許文献2】特開2001−144354号公報
【特許文献3】特開2003−258341号公報
【特許文献4】特開2002−164616号公報
【特許文献5】特開2002−099009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、前記従来の構成では、波長変換レーザモジュールが多数の光学部品から構成されているので、粉塵の多い環境で長期間使用すると、レーザモジュール内部の光学部品表面に付着してレーザ出力が急速に低下するという課題を有していた。
【0013】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、粉塵の多い環境で長期間使用してもレーザ出力の低下を防止できる波長変換レーザモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記従来の課題を解決するために、本発明の波長変換レーザモジュールは、レーザモジュールとそのレーザモジュールを覆う保護筐体とから成る波長変換レーザモジュールにおいて、前記保護筐体は、互いに対抗する面に一対の通気部を設け、その通気部の内部に塵埃を防止するフィルタを備え、且つ前記通気部の保護筐体内面側に互いに同方向に回転する回転ファンとを備えたことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の波長変換レーザモジュールによれば、粉塵の多い環境で長期間使用しても出力の低下が抑えられ安定した出力を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る波長変換レーザモジュールを搭載したレーザ機器の構成を示す模式図
【図2】本発明の一実施形態に係るレーザモジュールの構成を示す模式図
【図3】図1のレーザ機器に含まれる波長変換ユニットの構成を示す模式図
【図4】本発明の一実施形態に係るレーザ出力の時間依存性を示す図
【図5】従来の波長変換レーザモジュールの構成を示す模式図
【図6】従来の波長変換レーザモジュールを搭載したレーザ機器の構成を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の波長変換レーザ装置の実施の形態を、図面とともに詳細に説明する。
【0018】
(実施の形態1)
本発明の一実施形態に係るレーザモジュール3を搭載したレーザ機器(レーザ装置)1について、図1から図4を用いて説明する。
【0019】
図1は本実施例におけるレーザ機器を模式的に示したものである。レーザ機器1は、保護筐体2と、レーザモジュール3と、冷却ファン4と波長変換ユニット5と、制御回路6と、ファン7及び8と通気孔9及び10とフォトダイオード11とフィルタ12と出射コネクタ13とファイバー14と、を備えている。保護筐体2は、その内部に、レーザモジュール3や波長変換ユニット5やファン7等を備えている。
【0020】
レーザモジュール3は、Yb添加ダブルクラッドファイバー内のYbイオンを励起させる1000nm〜1100nmの範囲内の波長、例えば、1064nmの波長で第2のポンプ放射を生成するように構成されている。
【0021】
図2に、本実施例におけるレーザモジュールを示す。レーザモジュール3は、Yb添加ダブルクラッドファイバー15と、レーザダイオード(光源部)16と、ペルチェ素子17と、サーミスタ18と、第1・第2ブラッグ回折格子19、20と、を有している。Yb添加ダブルクラッドファイバー15は、一方の端部が第2のポンプ光を出射するためのファイバ(図示せず)に接合されている。
【0022】
レーザダイオード16は、Yb添加ダブルクラッドファイバー15の先端部分に光学的に結合されており、Yb添加ダブルクラッドファイバー15をポンピングするための励起光を生成する。
【0023】
ペルチェ素子17とサーミスタ18とは、レーザダイオード16の下部に配置され、外部に設けられた制御回路(図示せず)と接続されている。サーミスタ18は、レーザモジュール3内の環境温度を検知して、環境温度を設定温度25℃となるようにペルチェ素子17が加熱体あるいは冷却体となる。これにより、環境温度をほぼ一定とし、レーザモジュール3から出射されるレーザ光の出力および波長を一定に保つことができる。
【0024】
ブラッグ回折格子19、20は、Yb添加ダブルクラッドファイバー15の両端部にライディングされ、レーザモジュール4のファブリー−ペロー共振空洞部の境界を画する。なお、このブラッグ回折格子19、20については、必ずしも設けられている必要はないが、選択的な波長の光を取り出すという観点から設けられていることがより好ましい。
【0025】
波長変換ユニット5は、レーザモジュール3と同様に保護筐体2内に設けられている。そして、波長変換ユニット5には、レーザモジュール3から出射されたレーザ光が導入され、出射コネクタ13に対して出射する。
【0026】
図3に、本実施例における波長変換ユニットを示す。波長変換ユニット5は、コリメートレンズ21、24と、集光レンズ22と、分極反転デバイス23と、反射ミラー25と、分光ミラー26と、フォトダイオード27と、シャッター28と、ファイバ結合用アライメントユニット29とからなる。
【0027】
コリメートレンズ21は、レーザモジュール4から入射されたレーザ光を平行光に変換(コリメート)する。集光レンズ22は、コリメートレンズ21において平行光に変換されたレーザ光を、分極反転デバイス23に向かって集光する。分極反転デバイス23は、集光レンズ22によってレーザ光が集光される位置に配置されており、周期的な分極反転領域を形成している。ここでは、基本波である1064nmのレーザ光を、二次高調波である532nmのレーザ光に変換する。
【0028】
コリメートレンズ24は、分極反転デバイス23において二次高調波に変換されたレーザ光を、再び平行光に変換(コリメート)する。反射ミラー25は、二次高調波である532nmのレーザ光と基本波である1064nmのレーザ光とを選択的に分離する。分光ミラー26は、反射ミラー25において分離された二次高調波である532nmのレーザ光を、5%程度抽出する。
【0029】
フォトダイオード27は、分光ミラー26において抽出された二次高調波であるレーザ光が照射され、このレーザ光を検出する。シャッター28は、所定のタイミングによって開閉することで、分光ミラー26から送られる二次高調波のレーザ光が、ファイバ結合用アライメントユニット29に入射するタイミングを調整する。ファイバ結合用アライメントユニット29は、フォトダイオード27において検出されたレーザ光の出力量に基づいて、シャッター28によって入射してくる二次高調波のレーザ光の出力が調整される。
【0030】
保護筐体2には、通気孔9と通気孔10とが設けられており、ファン8によって外部の空気を保護筐体2の内部に導入し、ファン7によって保護筐体2の内部の空気を外部に排出する。この通気孔9と10はクランク状となるように形成されており、内部は酸薬品による黒色処理が行われている。通気孔9及び10がクランク状となるように形成されているのは、保護筐体2の内部のレーザ光が直接外部に出ることを防止するためである。また、黒色処理は、通気孔内部に迷い込んだレーザ光を吸収するために設けている。
【0031】
フィルタ10は、通気孔9及び10内部に設けられており、外部の粉塵を保護筐体2の内部への混入を防止する。フォトダイオード11は、通気孔9及び10に設けられたクランク部の保護筐体2の出口側に設けられており、通気孔9及び10に迷い込んだレーザ光出力を検出する。制御回路6は、フォトダイオード11からの信号検出があれば、通気孔9または10に迷い込んだレーザ光出力がありと判断し、レーザモジュールの出力を停止させる。
【0032】
本実施形態では、以上のような構成を備えたレーザ機器1の保護筐体2内において、レーザモジュール3からレーザ光が出射される。そして、レーザモジュール3から放射されたレーザ光は、波長変換ユニット5に導入された後、波長変換ユニット5から保護筐体2の外部に繋がれた出射コネクタ13を介して、ファイバー14から出射される。
【0033】
図4は、出射コネクタ13を介して、ファイバー14から出射されるレーザ出力を示したものである。横軸はレーザの点灯時間、縦軸はレーザ出力である。図中の(a)は、本発明の実施の形態を採用したもので、(b)は、従来の構成である保護筐体に通気孔を設けず、内部の気流を制御も行わない構成にしたものである。
【0034】
図4の(a)と(b)とを比較すると、本発明の実施の形態を採用すると、従来の構成で見られたレーザ出力の変動が少なく、且つレーザ出力の低下が見られない。これは、外気を筐体内部に取り込み、外部に排出することで、筐体内部に混入した粉塵が保護筐体内部から排出され、コリメートレンズや反射ミラーや分極反転デバイスといった光学部品への付着が抑制されたためである。このため、点灯時間がT1を越えても、パーティクルの光学部品への付着の影響が少なく、急激な出力低下の発生もなく、長期間に渡ってビーム品質の乱れがなく安定した出力を維持することができる。
【0035】
本実施例では、1064nmの波長を532nmに変換する波長変換レーザ光源として説明したが、波長変換レーザ光源の波長を限定するものではなく、本発明の効果はあらゆる波長の波長変換レーザ光現に適用できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明にかかる波長変換レーザモジュールは、外気を筐体内部に取り込み、外部に排出することで、長期間に渡ってビーム品質の低下を防止することが出来る。従って、カラーディスプレイなどで使用する高出力なレーザ光源等としての有用である。
【符号の説明】
【0037】
1、110 レーザ機器
2、111 保護筐体
3、101、112 レーザモジュール
4、113 冷却ファン
5、114 波長変換ユニット
6、115 制御回路
7、8 ファン
9、10 通気孔
11 フォトダイオード
12 フィルタ
13、116 出射コネクタ
14、106、117 ファイバー
15、103 Yb添加ダブルクラッドファイバー
16 レーザダイオード
17 ペルチェ素子
18 サーミスタ
19、104 第1のブラッグ回折格子
20、105 第2のブラッグ回折格子
21、24、107 コリメートレンズ
22、108 集光レンズ
23、109 分極反転デバイス
25 反射ミラー
26 分光ミラー
27 フォトダイオード
28 シャッター
29 アライメントユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザモジュールとそのレーザモジュールを覆う保護筐体とから成る波長変換レーザモジュールにおいて、
前記保護筐体は、互いに対抗する面に一対の通気部を設け、その通気部の内部に塵埃を防止するフィルタを備え、且つ前記通気部の保護筐体内面側に互いに同方向に回転する回転ファンとを備えた波長変換レーザモジュール。
【請求項2】
前記通気孔部が、クランク状に形成されている請求項1に記載の波長変換レーザモジュール。
【請求項3】
前記通気孔部の内面が、前記レーザモジュールから出射されたレーザの反射を防止する部材で覆われている請求項1に記載の波長変換レーザモジュール。
【請求項4】
前記各通気孔部内部に前記レーザモジュールから出射されたレーザ光を検知するための検知部を備え、
かつ前記検知部からの出力があればレーザモジュールの出力を停止する制御部を前記保護筐体内部に設けた請求項1に記載の波長変換レーザモジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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