説明

波長変換レーザ装置および波長変換レーザ装置の製造方法

【課題】環境温度の変化に対する出力の変動を小さくする。
【解決手段】動作温度範囲内での温度変動に対する出力変動が最小となるように光ファイバの出射端(2a)の光軸回りの角度位置(φ)を調整する。
【効果】環境温度の変化に対する出力変動を最小限に抑えることが出来る。光ノイズおよび波長変動に関しても安定にできる。光ファイバの温度制御機構が不要になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換レーザ装置および波長変換レーザ装置の製造方法に関し、さらに詳しくは、環境温度の変化に対する出力光のパワーの変化を小さくすることが出来る波長変換レーザ装置および波長変換レーザ装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体レーザと、半導体レーザが出射する光を一端から入射して他端から波長変換素子へと出射する光ファイバと、光ファイバの少なくとも一部を光軸回りに調整可能に回転させる回転操作部とを備え、波長変換素子からハイパワーな出力光が得られるように、回転操作部により光ファイバの角度を調整して、光ファイバから出射する光の偏光角度および偏光消光比を調整するレーザ発光装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−352053号公報(請求項2、[0019]、[0025])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のレーザ発光装置では、波長変換素子からハイパワーな出力光が得られるように光ファイバの角度位置を調整していた。
しかし、或る光ファイバ温度で波長変換素子からハイパワーな出力光が得られるように光ファイバの角度位置を調整した場合、環境温度の変化によって光ファイバ温度が変化すると、出力光のパワー変動率が大きくなってしまうことが分かっている。このとき、パワーが最小となる温度条件では規定の値以下になることもあり、過渡的には、光ノイズや波長不安定性が生じるといった問題点があった。
そこで、本発明の目的は、環境温度の変化に対する出力光のパワーの変化を小さくすることが出来る波長変換レーザ装置および波長変換レーザ装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の観点では、本発明は、基本波光を発振する半導体レーザと、前記半導体レーザの出射端で光結合された光ファイバと、前記光ファイバの出射端の後部に配置され前記基本波光を波長変換する波長変換素子とを具備し、動作温度範囲内での温度変動に対する出力変動が最小となるように前記光ファイバの出射端の光軸回りの角度位置を調整したことを特徴とする波長変換レーザ装置を提供する。
上記第1の観点による波長変換レーザ装置では、動作温度範囲内における温度変動に対する出力変動が最小となるように波長変換素子の偏光方向に対する光ファイバの出射端の光軸回りの角度位置(光軸を回転軸とした回転角度位置)を調整したため、環境温度の変化によって光ファイバ温度が変化しても、出力光のパワー変動を小さく抑えることが出来る。また、光ノイズを抑制できると共に波長安定性を向上できる。さらに、光ファイバの温度制御機構を省略可能となる。
【0006】
第2の観点では、本発明は、前記第1の観点による波長変換レーザ装置において、前記光ファイバの出射端と前記波長変換素子の間に、波長選択性を有する光学素子を配置したことを特徴とする波長変換レーザ装置を提供する。
上記第2の観点による波長変換レーザ装置では、光ファイバの出射端と波長変換素子の間に波長選択性を有する光学素子を配置したため、波長安定性を向上できる。
【0007】
第3の観点では、本発明は、基本波光を発振する半導体レーザと、前記半導体レーザの出射端で光結合された光ファイバと、前記光ファイバの出射端の後部に配置され前記基本波光を波長変換する波長変換素子とを具備した波長変換レーザ装置の製造方法であって、前記光ファイバの出射端の後部にポラライザおよび光センサを配置し、前記ポラライザの光軸回りの回転角度をパラメータとして前記光ファイバの温度を変化させながら前記光センサにて出力変動を測定することを繰り返し、前記出力変動が最小となるような波長変換素子の偏光方向に対する回転角度を求め、前記ポラライザの回転方向と反対方向に前記出力変動が最小となる回転角度だけ前記光ファイバの出射端を回転させて固定することを特徴とする波長変換レーザ装置の製造方法を提供する。
上記第3の観点による波長変換レーザ装置の製造方法では、出力変動が最小となるように光ファイバの出射端の光軸回りの回転角度(光軸を回転軸とした回転角度位置)を調整するため、環境温度の変化によって光ファイバ温度が変化しても、出力光のパワー変動を小さく抑えることが出来る。また、光ノイズを抑制できると共に波長安定性を向上できる。さらに、光ファイバの温度制御機構を省略可能となる。
【0008】
第4の観点では、本発明は、基本波光を発振する半導体レーザと、前記半導体レーザの出射端で光結合された光ファイバと、前記光ファイバの出射端の後部に配置され前記基本波光を波長変換する波長変換素子とを具備した波長変換レーザ装置の製造方法であって、前記光ファイバの出射端の後部に波長変換素子および光センサを配置し、前記光ファイバの出射端の光軸回りの回転角度をパラメータとして前記光ファイバの温度を変化させながら前記光センサにて出力変動を測定することを繰り返し、前記出力変動が最小となるような波長変換素子の偏光方向に対する回転角度を求め、当該回転角度だけ前記光ファイバの出射端を回転させて固定することを特徴とする波長変換レーザ装置の製造方法を提供する。
上記第4の観点による波長変換レーザ装置の製造方法では、出力変動が最小となるように光ファイバの出射端の光軸回りの回転角度(光軸を回転軸とした回転角度位置)を調整するため、環境温度の変化によって光ファイバ温度が変化しても、出力光のパワー変動を小さく抑えることが出来る。また、光ノイズを抑制できると共に波長安定性を向上できる。さらに、光ファイバの温度制御機構を省略可能となる。
【0009】
第5の観点では、本発明は、前記第3または第4の観点による波長変換レーザ装置の製造方法において、前記光ファイバの出射端と前記波長変換素子の間に、波長選択性を有する光学素子が配置されることを特徴とする波長変換レーザ装置の製造方法を提供する。
上記第5の観点による波長変換レーザ装置の製造方法では、光ファイバの出射端と波長変換素子の間に波長選択性を有する光学素子を配置するため、波長安定性を向上した波長変換レーザ装置を製造できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の波長変換レーザ装置および波長変換レーザ装置の製造方法によれば、環境温度の変化によって光ファイバ温度が変化しても、出力光のパワー変動を小さく抑えることが出来る。また、光ノイズを抑制できると共に波長安定性を向上できる。さらに、光ファイバの温度制御機構を省略可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1に係る波長変換レーザ装置を示す構成説明図である。
【図2】実施例1に係る波長変換レーザ装置の環境温度変化に対する出力変動を示すグラフである。
【図3】実施例1に係る波長変換レーザ装置の製造における調整工程での構成を示す構成説明図である。
【図4】実施例1に係る波長変換レーザ装置の製造における調整工程での処理手順を示すフロー図である。
【図5】調整工程での光ファイバ温度の変化に対する光センサの出力変動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図に示す実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【0013】
−実施例1−
図1は、実施例1に係る波長変換レーザ装置100を示す説明図である。なお、調整角φは、紙面に直交する面内での回転であるが、そのままでは図1に図示できないので、図示できるように傾けて表記している。
この波長変換レーザ装置100において、半導体レーザ1を出射した光は、偏波面保存ファイバ2の一端に入射する。
【0014】
偏波面保存ファイバ2の光ファイバ終端部2aを出射した光は、レンズ3aによって所望のビームに変換され、波長選択素子4に導かれる。
【0015】
半導体レーザ1と偏波面保存ファイバ2とレンズ3aとは、基本波モジュール3を構成している。
【0016】
波長選択素子4は、例えばバルク形状のボリューム・ホログラフィック・グレーティングであり、所定波長の光の一部を選択的に反射し、これが再び偏波面保存ファイバ2を通って半導体レーザ1に帰還される。
この帰還によって、半導体レーザ1は波長選択素子4の反射中心波長の近傍で発振を開始する。
基本波モジュール3は、所定のスペクトル特性およびビーム特性を持った基本波光13を出射する。
【0017】
波長選択素子4を出射した光は、レンズ5で波長変換素子6のモードフィールドに整合するビームに変換され、波長変換素子6の入射端に入射する。
【0018】
波長変換素子6は、波長変換光14および基本波光を出射する。
フィルタ9は、基本波光を除去し、波長変換光14のみを透過させる。
【0019】
ビームスプリッタ10は、フィルタ9を透過した波長変換光14を2つの波長変換光に分割する。一方の波長変換光は、出力光15として出力される。他方の波長変換光は、光センサ8で受光される。
【0020】
APC(AutoPowerControl)部12は、光センサ8から得た強度信号Pが一定になるように、半導体レーザ1の駆動電流Iをフィードバック制御する。
【0021】
半導体レーザ1の温度は、温度制御器11にて駆動されるサーモモジュール7aにより所定の半導体レーザ温度Taに制御される。
波長変換素子6の温度は、温度制御器11にて駆動されるサーモモジュール7cにより所定の半導体レーザ温度Taに制御される。
【0022】
光ファイバ終端部2aの光軸回りの角度位置(光軸を回転軸とした回転角度位置)は、動作温度範囲内における環境温度変動に対する出力変動が最も小さくなるような調整角φに調整されている。この調整角φの調整工程については、後で詳述する。
【0023】
図2は、環境温度Tsの変化に対する基本波モジュール偏光出力の変動を示す特性図である。
動作温度範囲内における環境温度Tsの変動に対する出力変動幅Sが最小になるように調整角φが設定されている。
【0024】
なお、波長変換レーザ装置100は、例えばAPC部12による駆動電流制御や温度制御器11による温度制御や光学素子の選択により、出力変動の最小出力が最大出力の70%以上になるように、また、光の直流成分に対する交流成分の実効値の割合が1%以下となるように、また、波長変換光14の波長変動幅が1nm以下となるように、調整されている。このように、出力変動の最小出力と、光の直流成分に対する交流成分の実効値の割と、波長変換光14の波長変動幅とが、所望の特性になることを確保した上で、動作温度範囲内における環境温度Tsの変動に対する出力変動幅Sが最小になるように調整角φが設定されている。
【0025】
図3は、波長変換レーザ装置100の製造における調整工程での構成を示す構成説明図である。なお、測定角θは、紙面に直交する面内での回転であるが、そのままでは図3に図示できないので、図示できるように傾けて表記している。
偏波面保存ファイバ2にサーモモジュール7bを付設し、そのサーモモジュール7bを温度制御器11にて駆動する。また、光ファイバ終端部2aとレンズ3aの間に、光軸の回りに回転操作可能(光軸を回転軸とした回転角度位置を操作により変更可能)にポラライザ23を設ける。また、レンズ3aの後に光センサ24を設ける。
光ファイバ終端部2aに図示する矢印は、角度位置調整前の角度位置である(図1にも図示してある)。
【0026】
図4は、波長変換レーザ装置100の製造における調整工程での処理手順を示すフロー図である。
ステップS1では、インデックス番号iを「1」に初期化する。
ステップS2では、波長変換素子6の偏光方向(図3の黒頭矢印)にポラライザ23の偏光方向(図3の黒頭矢印)が一致するようにポラライザ23の角度位置を初期設定し、この角度位置を測定角θi=0°とする。
【0027】
ステップS3では、動作温度範囲の最低温度から最高温度まで光ファイバ温度Tbを変化させ、光センサ24の最小出力と最大出力の差を出力変動幅Siとして記憶する。
図5に、光ファイバ温度Tbの変化に対する光センサ24の出力変動を例示する。
【0028】
ステップS4では、インデックス番号iをインクリメントする。
ステップS5では、測定角θiをステップ幅Δθ(例えば1°)だけ増加させる。つまり、ポラライザ23の角度位置を前回の角度位置からΔθだけ光軸の回りに回転させた角度位置とする。
ステップS6では、測定角θiが90°を越えていなかったらステップS3に戻り、越えていたらステップS7へ進む。
ステップS7では、記憶した出力変動幅Siが最も小さくなったときの測定角θiを検出角Θとする。
【0029】
ステップS8では、検出角Θと反対方向にΘだけ光ファイバ終端部2aを光軸の回りに回転させ、その角度位置で固定する。すなわち、調整角φ=−Θとする。
この後、サーモモジュール7b、ポラライザ23、光センサ24を除去し、図1の構成にする。
【0030】
実施例1の波長変換レーザ装置100によれば次の効果が得られる。
(1)環境温度Tsの変化によって光ファイバ2の温度が変化しても、出力光のパワー変動を小さく抑えることが出来る。また、光ノイズを抑制できると共に波長安定性を向上できる。
(2)光ファイバ2の温度制御機構を省略可能となる。
【0031】
−実施例2−
波長選択素子4およびレンズ5を省略した構成としてもよい。
【0032】
−実施例3−
ポラライザ23を用いず、光ファイバ終端部2aを光軸の回りに回転させて調整角φを求めてもよい。その際、光センサ8を利用して出力変動を測定すれば、光センサ24も不要になる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の波長変換レーザ装置は、バイオエンジニアリング分野や計測分野で利用できる。
【符号の説明】
【0034】
1 半導体レーザ
2 偏波面保存ファイバ
4 波長選択素子
6 波長変換素子
7a,7b,7c サーモモジュール
8 光センサ
9 フィルタ
10 ビームスプリッタ
11 温度制御器
12 APC部
23 ポラライザ
24 光センサ
100 波長変換レーザ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本波光を発振する半導体レーザと、前記半導体レーザの出射端で光結合された光ファイバと、前記光ファイバの出射端の後部に配置され前記基本波光を波長変換する波長変換素子とを具備し、動作温度範囲内での温度変動に対する出力変動が最小となるように前記光ファイバの出射端の光軸回りの角度位置を調整したことを特徴とする波長変換レーザ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の波長変換レーザ装置において、前記光ファイバの出射端と前記波長変換素子の間に、波長選択性を有する光学素子を配置したことを特徴とする波長変換レーザ装置。
【請求項3】
基本波光を発振する半導体レーザと、前記半導体レーザの出射端で光結合された光ファイバと、前記光ファイバの出射端の後部に配置され前記基本波光を波長変換する波長変換素子とを具備した波長変換レーザ装置の製造方法であって、前記光ファイバの出射端の後部にポラライザおよび光センサを配置し、前記ポラライザの光軸回りの回転角度をパラメータとして前記光ファイバの温度を変化させながら前記光センサにて出力変動を測定することを繰り返し、前記出力変動が最小となるような波長変換素子の偏光方向に対する回転角度を求め、前記ポラライザの回転方向と反対方向に前記出力変動が最小となる回転角度だけ前記光ファイバの出射端を回転させて固定することを特徴とする波長変換レーザ装置の製造方法。
【請求項4】
基本波光を発振する半導体レーザと、前記半導体レーザの出射端で光結合された光ファイバと、前記光ファイバの出射端の後部に配置され前記基本波光を波長変換する波長変換素子とを具備した波長変換レーザ装置の製造方法であって、前記光ファイバの出射端の後部に波長変換素子および光センサを配置し、前記光ファイバの出射端の光軸回りの回転角度をパラメータとして前記光ファイバの温度を変化させながら前記光センサにて出力変動を測定することを繰り返し、前記出力変動が最小となるような波長変換素子の偏光方向に対する回転角度を求め、当該回転角度だけ前記光ファイバの出射端を回転させて固定することを特徴とする波長変換レーザ装置の製造方法。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の波長変換レーザ装置の製造方法において、前記光ファイバの出射端と前記波長変換素子の間に、波長選択性を有する光学素子が配置されることを特徴とする波長変換レーザ装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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