説明

波長変換材料を有する封止材シートおよびこれを用いた太陽電池

【課題】太陽電池の光電変換効率を向上する。
【解決手段】前面ガラス2、封止材3、太陽電池セル4及びバックシート5を有する太陽電池モジュールにおいて、封止材3には、近紫外光〜青色光で励起されることにより緑色光〜近赤外光を発光する蛍光体7が混入されており、蛍光体7は300nm以上に励起帯が存在し、長波長側の励起端波長が410nm以上600nm以下に存在する。蛍光体7は母体材料がMMgAl1017:Eu、Mnで表される化合物であり、MはBa、Sr、Caの中から選ばれるいずれか1種または複数種の元素である。この構成は、波長変換の効率が高いため、太陽電池の光電変換効率を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換材料の技術に関し、特に、蛍光体に近紫外光〜青色光を照射して励起し、発光を起こして波長変換を行い、太陽電池の効率を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池の量子効率は、一般に紫外光〜青色光の領域では緑色光〜近赤外光の領域に比べて低い。従って、太陽電池に到達する光の波長成分のうち、紫外光〜青色光の波長の光を緑色光〜近赤外光の光に波長変換することによって、太陽電池の量子効率の高い波長領域の光を増加させて、太陽電池の効率を向上することができる。従来から太陽電池に光が到達する経路中に波長変換膜を設置することにより、太陽電池の効率が向上することが知られている。
【0003】
例えば、[特許文献1]では、蛍光着色剤を波長変換材料として用いている。また、[特許文献2]では、希土類錯体含有ORMOSIL複合体を用いている。また、[非特許文献1]では、有機金属錯体を用いている。しかしながら、上記の蛍光着色剤及び有機金属錯体では耐久性が不充分であるため、長期間にわたる太陽電池用波長変換材料としての機能の保持が困難である。また、有機金属錯体の波長変換量子効率は0.6程度と低いことも課題である[非特許文献1]。また、[特許文献3]では蛍光体を用いた太陽電池用波長変換材料が記載されているが、[特許文献3]では具体的な効率向上量の数値が記載されておらず、[特許文献4]でも発電効率の向上の効果は十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−7377号公報
【特許文献2】特開2000−327715号公報
【特許文献3】特開2003−218379号公報
【特許文献4】特開平7−202243号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】第58回錯体化学討論会予稿集1PF−011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
太陽電池用の波長変換材料に有機金属錯体を用いる場合には、その耐久性を向上することが課題である。また、有機金属錯体の波長変換の量子効率が0.6程度と低いことも課題である。そのため、無機系化合物である蛍光体を太陽電池用波長変換材料として用いる取組みがなされている。しかしながら、従来の波長変換材料の波長変換効率では太陽電池の光電変換効率を十分向上するには至っておらず、光電変換効率をさらに向上することが求められている。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、波長変換材料の波長変換効率を向上し、太陽電池の光電変換効率を向上することができる構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0009】
すなわち、本発明の一つの実施の形態における太陽電池モジュールは、前面ガラス、透明樹脂、太陽電池セル及びバックシートを有している。また、前記前面ガラスは太陽電池用の半強化ガラスであり、反射防止膜を有している場合がある。前記透明樹脂には、近紫外光〜青色光で励起されることにより可視光〜近赤外光を発光する蛍光体が混入されており、前記蛍光体は母体材料がMMgAl1017で表される化合物であり、MはBa、Sr、Caの中から選ばれるいずれか1種または複数種の元素であり、発光中心としてEu、Mnのいずれか一種または複数種の元素が添加されており、波長変換の効率が高い。すなわち、上述のような蛍光体を太陽電池用波長変換蛍光体として用いることによって、光電変換効率の高い太陽電池モジュールを作製することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明では波長変換材料の効率が高いため、太陽電池の光電変換効率を向上することができる。また、本発明では、波長変換材料として蛍光体を使用するが、蛍光体は、安定性に優れているので、信頼性の高い太陽電池モジュールを実現することができる。
【0011】
また、封止材シートに波長変換材材料である蛍光体を混入させることによって、生産性の優れた、光電変換効率の高い太陽電池モジュールを実現することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】封止材に波長変換材料を混合した場合の太陽電池モジュールの模式図である。
【図2】封止材と太陽電池素子の間に波長変換層を形成した場合の太陽電池モジュールの模式図である。
【図3】反射防止膜に波長変換材料を混合した場合の太陽電池モジュールの模式図である。
【図4】反射防止膜と前面ガラスの間に波長変換層を形成した場合の太陽電池モジュールの模式図である。
【図5】太陽電池モジュールを集光型太陽電池に取り込んだ場合の集光型太陽光発電装置の模式図である。
【図6】太陽電池の発電電力増加分の波長変換材料励起端波長依存性を示すグラフである。
【図7】光散乱強度の粒径依存性を示すグラフである。
【図8】本発明の波長変換材料の励起スペクトル及び発光スペクトルである。
【図9】本発明の波長変換材料の発光強度の添加濃度依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<太陽電池モジュールの構造>
本発明の太陽電池モジュールの構造を図1に示す。太陽電池モジュール1は太陽光が入射する側に設置する前面ガラス2、封止材(透明樹脂)3、太陽電池セル(太陽電池素子)4、及びバックシート5からなり、前面ガラス2の太陽光が入射する側には反射防止膜6が形成されている。反射防止膜はあることが望ましいが、なくてもよい。
【0014】
前面ガラス2はその成分がガラスのほか、ポリカーボネート、アクリル、ポリエステル、フッ化ポリエチレンなど太陽光の入射を妨げないよう透明であれば、これらの材料のものを用いることもできる。また、封止材3は保護材としての役割があり、光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池セル4を覆うように配置されている。また、封止材としては、EVA(エチレン−ビニル酢酸共重合体)のほか、シリコンのポッテイング材、ポリビニルブチラールなどを用いることもできる。
【0015】
太陽電池セル4としては、単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、薄膜化合物半導体太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池等の様々な太陽電池素子を用いることができる。この太陽電池セル4は太陽電池モジュール1内に1つ乃至複数配置されており、複数配置される場合は電気的にインターコネクタで接続されている。また、バックシート5としては耐候性、高絶縁性、及び強度を持たせるため、金属層及びプラスチックフィルム層を含有することができる。
【0016】
波長変換材料7は図1に示すように封止材3に混合して用いることができる。この場合には、封止材3が近紫外〜青色光を吸収して、緑色〜近赤外光を放出する波長変換層を構成している。また、波長変換膜を封止材3といっしょに太陽電池モジュールを作製するため、製造工程が簡素化できる。
【0017】
また、前記波長変換層は、少なくとも太陽光が太陽電池セル4に入射する間に存在していればよく、少なくとも前面ガラス2の受光表面及び前面ガラス2と太陽電池セル4との間のいずれかにあればよい。また、波長変換層は太陽電池セルに入射する光のみ吸収できればよいので、少なくとも太陽電池セル4への太陽光の入射部に変換された光を供給することができる位置に存在していればよく、太陽電池モジュール1の表面積と同じ面積で均一に存在しなくともよい。
【0018】
従って、太陽電池モジュールの構造としては、図1に示す構成のほか、図2に示すように封止材3の太陽電池セル側に波長変換層8を形成することができる。この場合には波長変換材料から放出された光の太陽電池素子までの距離が短く、光の拡散を抑えることができる。
【0019】
また、図3に示すように反射防止膜6を設ける場合は、波長変換材料7を反射防止膜6に混練して用いることができる。この場合には、反射防止膜6といっしょに波長変換膜を作製するため製造工程を簡素化できる。また、前面ガラス2による紫外光の吸収がない前面ガラスの表面に波長変換膜を形成するため、紫外光を可視光〜近赤外光に波長変換することができる。
【0020】
また、図4に示すように反射防止膜6と前面ガラス2の間に波長変換膜8を形成することができる。この場合には前面ガラス2による紫外光の吸収がない表面に波長変換膜8を形成するため、紫外光を可視光〜近赤外に波長変換することができる。
【0021】
また、上記の構成に集光レンズ9、支持枠10、基板11などを用いて図5のように集光型太陽電池として使用することもできる。波長変換材料によってエネルギーの高い短波長の光をエネルギーの低い長波長の光に変換し、太陽電池素子のバンドギャップ以上の過剰なエネルギーが減少するため、集光型太陽電池として用いても太陽電池素子の温度上昇 抑えることができる。
【0022】
以上のように光が太陽電池に到達するまでの経路中に、蛍光体を含む材料を設置した構造である太陽電池としては、前面ガラス2や封止材3の材料に混合する方法、適当な溶媒に波長変換材料7を配合して所望の箇所に塗布する方法などが考えられ、太陽電池セル4における太陽光の吸収を妨げず、波長変換材料7の機能を損なわない形態であれば、いずれの方法であってもよい。その中でも、図1に示す波長変換材料7を封止材3に混練して用いる方法は製造方法が簡素化でき、波長変換材料7を設置する方法として優れている。
【0023】
<波長変換材料としての励起端波長、粒径、添加濃度>
太陽電池の量子効率は一般に青色光から近紫外光になり、入射する光の波長が短波長になるにつれて低下する。一方、波長変換材料としては蛍光体の量子効率は0.7〜0.9程度のものが用いられる。ここでいう量子効率は、蛍光体への入射光に対する蛍光体からの出射光の割合で、量子効率測定装置によって測定することが出来る。また、蛍光体の発光は等方的であり、太陽電池セルに向かわない後方発光の成分がある。
【0024】
このため、太陽電池の量子効率の低下と蛍光体の量子効率及び後方発光の割合がトレードオフになる励起帯の波長が存在する。太陽光スペクトル強度のある300nm以上に励起帯がある蛍光体の長波長側の励起端波長を変化させた場合の発電電力増加分を試算した結果を図6に示す。ここで、励起端波長とは励起スペクトルにおける長波長側の励起強度が立ち上がる波長のことであり、励起スペクトルのピーク強度の10%となる波長を示すこととする。
【0025】
波長変換による発電電力の増加は量子効率0.6〜0.9では励起端波長が350〜670nmで見られる。発電電力の増加は励起端波長が430〜500nmの時に最も大きい。すなわち、波長変換材料の量子効率が0.6〜0.9であれば、励起端波長が430〜500nmの範囲の波長変換材料を用いることで、太陽電池の発電電力を最大限向上することができ、量子効率が0.7〜0.9であれば、励起端波長が450〜500nmの範囲の波長変換材料を用いることで、太陽電池の発電電力を最大限向上することができる。また、波長変換材料の量子効率が0.7以上の場合には、励起端波長がさらに410〜600nmのものを用いても、従来の有機錯体(量子効率0.6程度)を用いた波長変換の場合より太陽電池の発電電力を向上することができる。
【0026】
一方、蛍光体では上記の後方発光による損失の他に、光学散乱による損失もあり、その程度は粒径と添加濃度に関係する。波長変換材料の粒径と光散乱強度の関係は、太陽光の波長を500nmとすると、光散乱強度はミー散乱によりその半分の250nmの粒径で最大となる。光散乱強度と粒径の関係を図7に示す。250nmより小さい粒径では散乱強度はレイリー散乱に支配され粒径が小さいほど散乱強度は減少し、また250nmより大きい粒径では幾何光学散乱に支配され、粒径が大きいほど光散乱強度は低下する。粒径が小さいと光散乱強度は低下するが、蛍光体の発光強度が低下するため、また、粒径が大きすぎると添加濃度を多くする必要があり、封止材の機能を損ねる。粒径の設定にはこれらのことを考慮する必要があるが、10nm〜20μmの粒径範囲が適当である。
【0027】
次に、波長変換材料の封止材中への添加濃度としては、太陽光が入射する側において、入射してきた光子が太陽電池セルに達するまでに少なくとも1個の蛍光体粒子が存在し、封止材中に混合された蛍光体に太陽光がまんべんなく当たることが望ましい。
【0028】
添加濃度が過剰だと光学散乱が増加し、また添加濃度が過少だと波長変換されず素通りする光が増加する。そのため、平均粒径2.3μmの蛍光体の場合の添加濃度は2重量%となる。また、平均粒径が5.8μmの蛍光体の場合の添加濃度は5重量%となる。また、平均粒径が1.2μmの蛍光体の場合には添加濃度は1重量%となる。従って、蛍光体の平均粒径が1〜5μmの場合には、添加濃度は1〜5重量%となる。つまり、粒径の大きな蛍光体を並べると、蛍光体の重量%は大きくなるということである。ただし、ここでは蛍光体の必要量を計算した結果であり、この量の前後で最適濃度が存在する。
【0029】
従って、蛍光体の平均粒径をA(μm)とすれば、最適濃度範囲であるB(重量%)は最適濃度2A/2.3の1/200倍程度から効果が現れ始め、10倍程度まで効果が見られる。従って、蛍光体の濃度は0.004A≦B≦8.7Aの範囲で良好であり、光のストッピング及び光散乱を考慮すれば、より好ましくは最適濃度2A/2.3の1/100倍程度から5倍程度の範囲で波長変換の効果が高い。従って、蛍光体の濃度は0.008A≦B≦4.3Aの範囲で最適になる。
【0030】
<波長変換材料の作製>
波長変換材料としては、500nm以下の近紫外光〜青色光を500nm〜1100nmの緑色光〜近赤外光に光変換して太陽電池セルに入射させることのできる材料が好ましい。これを可能にする蛍光体はMMgAl10O17で表される化合物であり、MはBa、Sr,Caの中から選ばれるいずれか1種または複数種の元素である。
【0031】
太陽光スペクトル強度のある300nm以上に励起帯があり、量子効率が0.7以上あり、励起端波長が410〜600nmにある材料が好ましい。特に励起端波長が430〜500nmにある材料が最も好ましい。さらに、輝度寿命及び耐湿性の点から、各種ディスプレイ、ランプ、及び白色LED等に用いられる無機蛍光体材料が好ましい。ただし、励起帯が近紫外光〜青色光に分布しているものに限る。本発明では、このような観点から励起帯が近紫外光〜青色光に存在し、さらに光変換効率の高い蛍光体材料組成を選定した。
【0032】
波長変換材料としてユウロピウムとマンガンを添加した平均粒径5μmの(Ba、Ca)MgAl1017:Eu、Mn蛍光体を用いた。次に、本発明に使用する(Ba、Ca)MgAl1017:Eu、Mn緑色発光蛍光体の製造方法について述べる。蛍光体原料はBaCO3、CaCO3、MgCO3、Al2O3、Eu2O3、及びMnCO3を用いた。また、フラックスとしてAlF3を用いた。各原料の混合量は以下の通りである。

BaCO3・・・0.814g
CaCO3・・・0.013g
MgCO3・・・0.274g
Al2O3・・・2.549g
Eu2O3・・・0.132g
MnCO3・・・0.201g
AlF3・・・0.004g
【0033】
BaCO3は、Ca及びEuがBaを置換するものとして、Ca及びEuの分量だけ少ない量とした。また、Eu濃度は15mol%、Mn濃度は35mol%とした。原料を乳鉢にて乾式混合した後にアルミナルツボに原料を充填して管状炉にて1450℃、N−H還元雰囲気(H濃度2%)にて3時間、焼成を行った。得られた焼成物をほぐして、目的とする(Ba、Ca)MgAl1017:Eu、Mn緑色発光蛍光体([Ca]=2.6mol%)を得た。
【0034】
この蛍光体の励起スペクトル及び発光スペクトルを図8に示す。励起スペクトルを見ると、300nm〜460nmにかけて、幅広い領域に励起帯が広がっている。このように励起帯が広いのはEuが添加されているためである。また、発光スペクトルを見ると、515nmに発光のピークがあり、半値幅が狭くシャープな発光を示している。この発光はMnによるものであり、EuからMnへのエネルギー移動が起きている。太陽電池における300nm〜460nmの領域の量子効率は一般に緑色515nmにおける量子効率よりも低いため、(Ba、Ca)MgAl1017:Eu、Mn蛍光体を用いて波長変換することによって、太陽電池の光電変換効率を向上することができる。
【0035】
(Ba、Ca)MgAl1017:Eu、Mn蛍光体において、Ca濃度を変化させた試料の365nm励起の発光ピーク強度(515nm)の相対値を図9に示す。(Ba、Ca)MgAl1017:Eu、Mn蛍光体の発光ピーク強度はCaを添加することによってBaMgAl1017:Eu、Mn蛍光体よりも増加した。Caは0.01mol%程度の極微量の添加によって効果を生ずる。
【0036】
図9より、Ca濃度は7mol%より小さい範囲において、相対輝度が100を超えている。したがって、Ca濃度は0.01mol%より大きく9mol%より小さい範囲が適当であり、より好ましくは0.8mol%より大きく4mol%以下の範囲が適当である。Ca濃度を1mol%とすることによって、相対発光ピーク強度はBaMgAl1017:Eu、Mn蛍光体に比べて6%向上した。
【0037】
また、(Ba、Sr)MgAl1017:Eu、Mn蛍光体を作製し、365nm励起の発光ピーク強度を測定した。Srは0.01mol%程度の極微量の添加によって効果を生ずる。図9より、Sr濃度は9mol%より小さい範囲において、相対輝度が100を超えている。したがって、Sr濃度は0.01mol%より大きく9mol%より小さい範囲が適当であり、より好ましくは0.8mol%より大きく4mol%以下の範囲が適当である。
【0038】
図9、において、Srの量をさらに増加して、16mol%〜18mol%において、相対輝度は100を超える。したがって、この範囲のSrの量を使用しても効果を上げることが出来る。Sr濃度を1mol%とすることによって、相対発光ピーク強度はBaMgAl1017:Eu、Mn蛍光体に比べて4%向上した。
【0039】
また、同様にして(Ba、Sr、Ca)MgAl1017:Eu、Mn蛍光体を作製し、365nm励起の発光ピーク強度を測定した。図9に示すように、Ca濃度は2.6mol%に固定し、Srの濃度を変化させて相対輝度を評価した。この場合、図9より、Srの量が8mol%よりも低い領域において、相対輝度が100を超えており、効果が出ている。Srの濃度をさらに増加すると、Srの濃度が14mol%〜21mol%の範囲において、相対輝度が100を超える。また、図9に示すように、Ca濃度を2.6mol%とし、Sr濃度を1mol%とすることによって、相対発光ピーク強度はBaMgAl1017:Eu、Mn蛍光体に比べて7%向上させることが出来る。
【0040】
このように、(Ba、Sr)MgAl1017:Eu、Mn、(Ba、Ca)MgAl1017:Eu、Mn、及び(Ba、Sr,Ca)MgAl1017:Eu、Mnの蛍光体を波長変換材料として太陽電池パネルに設置することによって、太陽電池の光電変換効率を向上することができる。
【0041】
以上のように本発明で用いる蛍光体は、励起波長帯が300nm以上に存在し、かつ励起端波長が430〜600nmの範囲に存在し、かつ量子効率は0.7以上と高い。したがって太陽電池の発電効率を向上させることが可能である。
【0042】
また、本発明に用いられる蛍光体の平均粒径は10nm〜20μmである。ここで、蛍光体の平均粒径は、以下のように規定することができる。粒子(蛍光体粒子)の平均粒径を調べる方法としては、粒度分布測定装置で測定する方法及び電子顕微鏡で直接観察する方法などがある。電子顕微鏡で調べる場合を例にとると、平均粒径は以下のように算出することができる。
【0043】
粒子の粒径の変量(・・・、0.8〜1.2μm、1.3〜1.7μm、1.8〜2.2μm、・・・、6.8〜7.2μm、7.3〜7.7μm、7.8〜8.2μm、・・・など)の各区間を階級値(・・・、1.0μm、1.5μm、2.0μm、・・・、7.0μm、7.5μm、8.0μm、・・・)で表し、これをxとする。そして、電子顕微鏡で観察された各変量の度数をfで示すことにすれば、平均値Aは次のように表される。
【0044】
A=Σx/Σf=Σx/N
ただし、Σf=Nである。本発明の蛍光体では励起帯波長が波長変換材料として適合しているため、太陽電池用波長変換材料として優れた効果を得ることができる。
【0045】
<太陽電池モジュールの作製>
次に、前記波長変換材料を用いて太陽電池モジュールを作製した。透明樹脂(EVA)に有機過酸化物、架橋助剤及び接着向上材を少量添加し、0.1重量%の割合で平均粒径6μmの(Ba,Ca,Sr)MgAl1017:Eu,Mn蛍光体を混合して、80℃に加熱したロールミルを用いて混練した後、2枚のポリエチレンテレフタレート間にプレスを用いて挟んで、厚さ0.5mmのEVAを主成分とした封止材3を作製した。また、前記蛍光体組成は1種または複数種の組成を混合して用いてもよい。
【0046】
次に、この封止材3を室温まで放冷し、ポリエチレンテレフタレートフィルムを剥がして、前面ガラス2、太陽電池セル4、バックシート5と共に図1のように積層して、150℃に設定した真空ラミネータで予備圧着した。予備圧着された積層物を155℃のオーブンで30分間加熱し、架橋及び接着を行って太陽電池パネル1を作製した。本発明では波長変換材料として励起帯の適合した蛍光体を用いており、さらに光変換効率の高い波長変換材料を用いているため、太陽電池パネルの電流量が大きく、波長変換材料を用いない場合に比べて電流量が5%増加した。また、蛍光体の輝度寿命は有機金属錯体を用いた場合に比べて向上した。
【0047】
次に、波長変換材料として平均粒径10nm〜100nmの(Ba,Ca,Sr)MgAl1017:Eu,Mn蛍光体を用いて、前記太陽電池モジュールと同様に作製し、その電流量を測定した。本発明では波長変換材料として励起帯の適合した蛍光体を用いており、さらに光変換効率の高い波長変換材料を用いているため、太陽電池モジュールの電流量が大きく、波長変換材料を用いない場合に比べて電流量が5%増加した。蛍光体の平均粒径が10nm〜100nmと小さいために、蛍光体の輝度は低いが、散乱も低いので、電流量を5%増加させることが出来る。
【0048】
次に、波長変換材料として平均粒径50nm〜250nmの(Ba,Ca,Sr)MgAl1017:Eu,Mn蛍光体を用いて、前記太陽電池モジュールと同様に作製し、その電流量を測定した。本発明では波長変換材料として励起帯の適合した蛍光体を用いており、さらに光変換効率の高い波長変換材料を用いているため、太陽電池モジュールの電流量が大きく、波長変換材料を用いない場合に比べて電流量が6%増加した。
【0049】
次に、波長変換材料として平均粒径200nm〜500nmの(Ba,Ca,Sr)MgAl1017:Eu,Mn蛍光体を用いて、前記太陽電池モジュールと同様に作製し、その電流量を測定した。本発明では波長変換材料として励起帯の適合した蛍光体を用いており、さらに光変換効率の高い波長変換材料を用いているため、太陽電池モジュールの電流量が大きく、波長変換材料を用いない場合に比べて電流量が4%増加した。蛍光体の平均粒径200nm〜500nmのようにさらに大きくなっているので、輝度は向上するが、図7に示すように、散乱も増加するので、増加する電流量は4%程度となっている。
【0050】
次に、波長変換材料として平均粒径400nm〜1μmの(Ba,Ca,Sr)MgAl1017:Eu,Mn蛍光体を用いて、前記太陽電池モジュールと同様に作製し、その電流量を測定した。本発明では波長変換材料として励起帯の適合した蛍光体を用いており、さらに光変換効率の高い波長変換材料を用いているため、太陽電池モジュールの電流量が大きく、波長変換材料を用いない場合に比べて電流量が4%増加した。蛍光体の平均粒径400nm〜1μmのようにさらに大きくなっているので、輝度は向上するが、図7に示すように、散乱も増加するので、増加する電流量は4%程度となっている。
【0051】
次に、波長変換材料として平均粒径0.8μm〜2μmの(Ba,Ca,Sr)MgAl1017:Eu,Mn蛍光体を用いて、前記太陽電池モジュールと同様に作製し、その電流量を測定した。本発明では波長変換材料として励起帯の適合した蛍光体を用いており、さらに光変換効率の高い波長変換材料を用いているため、太陽電池モジュールの電流量が大きく、波長変換材料を用いない場合に比べて電流量が5%増加した。蛍光体の平均粒径0.8μm〜2μmのようにさらに大きくなっているので、輝度が向上し、また、図7に示すように、散乱は減少に転ずるので、電流量を5%増加させることが出来る。
【0052】
次に、波長変換材料として平均粒径1μm〜5μmの(Ba,Ca,Sr)MgAl1017:Eu,Mn蛍光体を用いて、前記太陽電池モジュールと同様に作製し、その電流量を測定した。本発明では波長変換材料として励起帯の適合した蛍光体を用いており、さらに光変換効率の高い波長変換材料を用いているため、太陽電池モジュールの電流量が大きく、波長変換材料を用いない場合に比べて電流量が5%増加した。蛍光体の平均粒径1μm〜5μmのようにさらに大きくなっているので、輝度が向上し、また、図7に示すように、散乱は減少に転ずるので、電流量を5%増加させることが出来る。
【0053】
次に、波長変換材料として平均粒径3μm〜20μmの(Ba,Ca,Sr)MgAl1017:Eu,Mn蛍光体を用いて、前記太陽電池モジュールと同様に作製し、その電流量を測定した。本発明では波長変換材料として励起帯の適合した蛍光体を用いており、さらに光変換効率の高い波長変換材料を用いているため、太陽電池モジュールの電流量が大きく、波長変換材料を用いない場合に比べて電流量が5%増加した。蛍光体の平均粒径3μm〜20μmのようにさらに大きくなっているので、輝度が向上し、また、図7に示すように、散乱は減少に転ずるので、電流量を5%増加させることが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、薄膜多結晶シリコン太陽電池、薄膜化合物半導体太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池などの太陽電池モジュールに利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 太陽電池モジュール
2 前面ガラス
3 封止材
4 太陽電池素子
5 バックシート
6 反射防止膜
7 波長変換材料
8 波長変換膜
9 集光レンズ
10 支持枠
11 基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池を保護する封止材で構成される封止材シートであって、
前記封止材には蛍光体が混合されており、
前記蛍光体は母体材料がMMgAl1017:Eu、Mnで表される化合物であり、MはBa、Sr、Caの中から選ばれるいずれか1種または複数種の元素であることを特徴とする封止材シート。
【請求項2】
請求項1に記載の封止材シートであって、
前記封止材がエチレンー酢酸ビニル共重合体(EVA)を主成分とすることを特徴とする太陽電池に用いる封止材シート。
【請求項3】
請求項1または2に記載の封止材シートであって、
前記封止材が有機過酸化物、架橋助剤及び接着向上材のいずれか一種または複数種の添加剤を混合しものであることを特徴とする封止材シート。
【請求項4】
太陽電池を保護する封止材で構成される封止材シートであって、
前記封止材には蛍光体が混合されており、
前記蛍光体は母体材料が(Ba、Ca)MgAl1017:Eu、Mnで表される化合物で、Ca濃度が0.01mol%より大きく、7mol%より小さいことを特徴とする封止材シート。
【請求項5】
請求項4に記載の封止材シートであって、
前記蛍光体の母体材料が(Ba、Ca)MgAl1017:Eu、Mnで表される化合物で、Ca濃度が0.8mol%より大きく、4mol%以下であることを特徴とする封止材シート。
【請求項6】
太陽電池を保護する封止材で構成される封止材シートであって、
前記封止材には蛍光体が混合されており、
前記蛍光体は母体材料が(Ba、Ca、Sr)MgAl1017:Eu、Mnで表される化合物で、Ca濃度が2.6mol%とした場合、Sr濃度が0.01mol%〜9mol%の範囲、あるいは、14mol%〜21mol%の範囲であることを特徴とする封止材シート。
【請求項7】
太陽電池を保護する封止材で構成される封止材シートであって、
前記封止材には蛍光体が混合されており、
前記蛍光体は母体材料が(Ba、Sr)MgAl1017:Eu、Mnで表される化合物で、Sr濃度が0.01mol%〜9mol%の範囲、あるいは、16mol%〜18mol%の範囲であることを特徴とする封止材シート。
【請求項8】
請求項7に記載の封止材シートであって、
前記蛍光体は母体材料が(Ba、Sr)MgAl1017:Eu、Mnで表される化合物で、Sr濃度が0.8mol%〜4mol%の範囲であることを特徴とする封止材シート。
【請求項9】
請求項8に記載の封止材シートであって、
前記蛍光体のMn濃度が35mol%であることを特徴とする封止材シート。
【請求項10】
請求項1〜9に記載の封止材シートであって、
前記蛍光体の平均粒径が10nm以上、20μm以下であることを特徴とする封止材シート。
【請求項11】
請求項1〜10に記載の封止材シートであって、
蛍光体の平均粒径をA(μm)とし、前記蛍光体の前記封止材シートへの添加量をB(重量%)としたとき、0.004A≦B≦8.7Aであることを特徴とする封止材シート。
【請求項12】
請求項1〜10に記載の封止材シートであって、
蛍光体の平均粒径をA(μm)とし、前記蛍光体の前記封止材シートへの添加量をB(重量%)としたとき、0.008A≦B≦4.3Aであることを特徴とする封止材シート。
【請求項13】
透明基板と封止材と太陽電池セルとバックシートを有する太陽電池モジュールであって、
光が太陽電池セルに到達するまでの経路中に蛍光体を含み
前記蛍光体は母体材料がMMgAl1017:Eu、Mnで表される化合物であり、MはBa、Sr、Caの中から選ばれるいずれか1種または複数種の元素であることを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項14】
透明基板と封止材と太陽電池セルとバックシートを有する太陽電池モジュールであって、
光が太陽電池セルに到達するまでの経路中に蛍光体を含み
前記蛍光体は母体材料が(Ba、Ca)MgAl1017:Eu、Mnで表される化合物で、Ca濃度が0.01mol%より大きく、7mol%より小さいことを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項15】
請求項14に記載の太陽電池モジュールであって、
前記蛍光体の母体材料が(Ba、Ca)MgAl1017:Eu、Mnで表される化合物で、Ca濃度が0.8mol%より大きく、4mol%以下であることを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項16】
透明基板と封止材と太陽電池セルとバックシートを有する太陽電池モジュールであって、
光が太陽電池セルに到達するまでの経路中に蛍光体を含み
前記蛍光体は母体材料が(Ba、Ca、Sr)MgAl1017:Eu、Mnで表される化合物で、Ca濃度が2.6mol%とした場合、Sr濃度が0.01mol%〜9mol%の範囲、あるいは、14mol%〜21mol%の範囲であることを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項17】
透明基板と封止材と太陽電池セルとバックシートを有する太陽電池モジュールであって、
光が太陽電池セルに到達するまでの経路中に蛍光体を含み
前記蛍光体は母体材料が(Ba、Sr)MgAl1017:Eu、Mnで表される化合物で、Sr濃度が0.01mol%〜9mol%の範囲、あるいは、16mol%〜18mol%の範囲であることを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項18】
請求項17に記載の太陽電池モジュールであって、
前記蛍光体は母体材料が(Ba、Sr)MgAl1017で表される化合物で、Sr濃度が0.8mol%〜4mol%の範囲であることを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項19】
請求項18に記載の太陽電池モジュールであって、
前記蛍光体のMn濃度が35mol%であることを特徴とする封止材シート。
【請求項20】
請求項13〜19に記載の太陽電池モジュールであって、
前記蛍光体の平均粒径が10nm以上、20μm以下であることを特徴とする太陽電池モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−181814(P2011−181814A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46489(P2010−46489)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】