説明

波長変換素子用薄膜基板及び波長変換素子用導波路

【課題】本発明は、ダイシングソー用の位置合わせマークを不要とし、プロセスが簡易で低コストで波長変換素子を作製できるQPMパタンの周期分極反転構造を持つ波長変換素子用薄膜基板及びこれを切断した波長変換素子用導波路を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る波長変換素子用薄膜基板は、周囲の分極領域の分極方向と逆向きに分極する、長手方向が前記分極領域に収まる長さ且つ所定の幅の線分状の分極反転領域を長手方向である行方向には同一直線上にあるように配列し、幅方向である列方向には平行且つ等間隔で周期的に配列した周期分極構造の擬似位相整合パタンを備える波長変換素子用薄膜基板であって、前記擬似位相整合パタンは、行方向に隣り合う前記分極反転領域間に前記分極領域である隙間があり、前記隙間が行毎に一方向へ一定長づつシフトするように前記分極反転領域が配列されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非線形光学媒質中で生じる差周波発生効果を用いて信号光の波長を別の波長に変換する波長変換素子用薄膜基板及び波長変換素子用導波路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
波長変換光源モジュールの作製において、信号光波長および制御光波長の和または差周波数の変換光を作り出すために、波長変換素子用薄膜基板(LiNbO)上に擬似位相整合(QPM:Quasi−Phase Matching)パタンと呼ばれる周期的な分極反転領域を形成する必要がある。分極反転領域の形成方法は、例えば、特許文献1や特許文献2に記載されている。
【特許文献1】特開平02−187735号公報
【特許文献2】特開2003−140214号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
図1は、レジストパタンと液体電極を用いた電界印加法で波長変換素子用薄膜基板上に分極反転構造を形成する製法を説明する図である。図1の電界印加法は、基板の厚み方向に予め一様に分極させた波長変換素子用薄膜基板11a上に線分パタンを並列に並べた多数のレジストパタン12をマスクとして形成した後、表面を塩化リチウム水溶液等の液体電極13で浸し、電荷印加手段16で電界を印加してレジストパタン12が存在しない領域の分極を強制的に反転させる。レジストパタン12の配列を調整することによって、波長変換素子用薄膜基板11bの分極の周期性を実現し、波長変換素子用薄膜基板11b上にQPMパタンを形成できる。なお、図1において矢印14は分極の方向を示している。
【0004】
図1の電界印加法により基板全面に渡って分極反転現象を確実に起こすためには、レジストパタン12の長さをある程度の値(例えば、1mm長の線分パタン)よりも短くする必要がある。その理由は、電界集中により分極反転のトリガーとなるレジストパタン12の両端が離れ過ぎると、分極反転現象を完了しない領域が生じ、その領域での歩留まりが低下するからである。これを避けるため、例えば、図2のようなQPMパタン20が設計されている。QPMパタン20は、線分パタン23の長手方向の長さが1mmであり、長手方向の線分パタン23間に10〜20μm程度の隙間を設けている。
【0005】
波長変換素子用薄膜基板30上にQPMパタン20をレジストパタンで形成して電解印加法を行った場合、波長変換素子用薄膜基板30に形成される周期分極反転構造は図3のようになる。波長変換素子のクラッド部となるリッジ導波路(長さ50mm)は、図3のような波長変換素子用薄膜基板30を線分パタン23に対して直交するようにダイシングソーで切断して形成される。図3では、ダイシングソーで切断される領域を波長変換素子用導波路形成領域A1〜A4として示している。ところが、図3のようなQPMパタン20の周期分極反転構造には隙間31の領域があるため、ダイシングソーでの切断箇所によっては、リッジ導波路に隙間31の領域が含まれ擬似位相整合しない波長変換素子が作製されるというおそれがあった。図3では、波長変換素子用導波路形成領域A3及びA4が相当する。リッジ導波路に隙間31の領域が含まれないようにするため、ダイシングソー用の位置合わせマーク25を予めフォト・エッチング法により形成する必要があり、従来のQPMパタンの周期分極反転構造には、プロセスの煩雑およびそれに伴うコスト高という課題があった。波長変換素子用薄膜基板からリッジ導波路を切り出す場合で説明したが、基板から導波路チップデバイスを切り出す場合においても同様の課題を生ずる。なお、以下の説明においてリッジ導波路を波長変換素子用導波路として説明する。
【0006】
そこで、前記課題を解決するため、本発明は、ダイシングソー用の位置合わせマークを不要とし、プロセスが簡易で低コストで波長変換素子を作製できるQPMパタンの周期分極反転構造を持つ波長変換素子用薄膜基板及びこれを切断した波長変換素子用導波路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る波長変換素子用薄膜基板は、QPMパタンの隙間を斜めにレイアウトするシフト並列配置を採用することとした。
【0008】
具体的には、本発明に係る波長変換素子用薄膜基板は、厚み方向に分極する分極領域と、 周囲の前記分極領域の分極方向と逆向きに分極する分極反転領域と、が擬似位相整合パタンで周期的に配列された周期分極構造を備える波長変換素子用薄膜基板であって、前記擬似位相整合パタンは、長手方向が前記分極領域に収まる長さ且つ所定の幅の線分パタンを、長手方向である行方向には同一直線上にあるように且つ所定の隙間を介して等間隔になるように配列し、幅方向である列方向には平行且つ等間隔になるように配列し、さらに前記隙間が行毎に一方向へ一定長づつシフトするように周期的に配列されており、前記周期分極構造は、前記擬似位相整合パタンの前記線分パタンを前記分極反転領域としていることを特徴とする。
【0009】
分極反転のトリガーとなる線分パタンのエッジがウエハ面内に均一に分布するようになり、長い線分パタンを有する分極反転構造を波長変換素子用薄膜基板に作製することが可能となる。このため、波長変換素子用薄膜基板を切断して波長変換素子用導波路を形成する際は、オリフラなどで簡単にダイシングソーの位置合わせすることにより連続的に切断できる。このため、1つの波長変換素子用薄膜基板から得られる波長変換素子用導波路の数である収率を向上できる。また、基板に導波路チップデバイスを形成した後、導波路チップデバイスを切り出す場合も同様の効果を得ることができる。
【0010】
従って、本発明は、ダイシングソー用の位置合わせマークを不要とし、プロセスが簡易で低コストで波長変換素子を作製できるQPMパタンの周期分極反転構造を持つ波長変換素子用薄膜基板を提供することができる。
【0011】
本発明に係る波長変換素子用導波路は、前記波長変換素子用薄膜基板を切断して作製される。具体的には、本発明に係る波長変換素子用導波路は、光の伝搬方向に対して垂直な方向に一様に分極し、光の伝搬方向に一定の長さをもつ分極区間と、前記分極区間の分極方向と逆向きに分極している分極反転領域を含み、光の伝搬方向に一定の幅をもつ分極反転区間と、が光の伝搬方向に交互に存在する周期分極構造を備える波長変換素子用導波路であって、前記分極反転区間は、全て前記分極反転領域である第1タイプ、前記分極反転領域が光の伝搬方向及び分極方向と垂直な方向の一端にあり、他の領域が前記分極区間の分極方向と同じ方向に分極している第2タイプ、前記分極反転領域が光の伝搬方向及び分極方向と垂直な方向の両端にあり、他の領域が前記分極区間の分極方向と同じ方向に分極している第3タイプ、及び、前記分極反転領域が光の伝搬方向及び分極方向と垂直な方向の他端にあり、他の領域が前記分極区間の分極方向と同じ方向に分極している第4タイプ、があり、光の伝搬方向に、少なくとも1つの前記第1タイプ、少なくとも1つの前記第2タイプ、少なくとも1つの前記第3タイプ、少なくとも1つの前記第4タイプの順で配列されていることを特徴とする。
【0012】
波長変換素子用導波路を前記波長変換素子用薄膜基板から切り出す際は、オリフラなどで簡単にダイシングソーの位置合わせすることにより連続的に切断できる。従って、本発明は、ダイシングソー用の位置合わせマークを不要とし、プロセスが簡易で低コストで波長変換素子を作製できる波長変換素子用導波路を提供することができる。
【0013】
なお、作製した波長変換素子用導波路には複数のQPMパタンの隙間部分が含まれる場合があるが、当該部分は波長変換素子用導波路の光路長の微小部分であり変換波長のずれは生じず、また変換後の光パワーの低下も無視できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ダイシングソー用の位置合わせマークを不要とし、プロセスが簡易で低コストで波長変換素子を作製できるQPMパタンの周期分極反転構造を持つ波長変換素子用薄膜基板及びこれを切断した波長変換素子用導波路を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0016】
(実施の形態1)
図4は、本実施形態の波長変換素子用薄膜基板に形成されるQPMパタン40を示す図である。 QPMパタン40は、長手方向が図5の波長変換素子用薄膜基板50に収まる長さ且つ所定の幅の線分状の線分パタン53を複数配列したパタンである。QPMパタン40は、長手方向である行方向には同一直線上にあるように配列し、幅方向である列方向には平行且つ等間隔で周期的に配列している。さらに、QPMパタン40は、行方向に隣り合う線分パタン53間に隙間31があり、隙間31が行毎に一方向へ一定長づつシフトするように線分パタン53が配列されている。すなわち、隙間31の領域は、線分パタン53に対して斜めに配置されている。
【0017】
また、図5は、図4のQPMパタン40の周期分極構造を備える本実施形態の波長変換素子用薄膜基板50の説明する図である。波長変換素子用薄膜基板50は、厚み方向に分極する分極領域と、周囲の前記分極領域の分極方向と逆向きに分極する分極反転領域と、がQPMパタン40で周期的に配列された周期分極構造を備える。また、前記周期分極構造は、QPMパタン40の線分パタン53を分極反転領域とし、線分パタン53の周囲を分極領域55としている。詳細には、分極領域55は、波長変換素子用薄膜基板50内且つ線分パタン53以外の領域である。
【0018】
波長変換素子用薄膜基板50は、例えば、図1で説明した電界印加法でQPMパタン40の周期分極構造が形成される。波長変換素子用薄膜基板50から波長変換素子用導波路形成領域A1〜A4を切り出すことで、以下に説明する波長変換素子用導波路を得ることができる。また、波長変換素子用薄膜基板50に導波路チップデバイスを形成した後、導波路チップデバイスを切り出す場合も同様である。
【0019】
(実施の形態2)
図6は、本実施形態の波長変換素子用導波路60を示す図である。本実施形態の波長変換素子用導波路60は、光の伝搬方向Lに対して垂直な方向Eに一様に分極し、光の伝搬方向Lに一定の長さをもつ分極区間62と、分極区間62の分極方向と逆向きに分極している分極反転領域63aを含み、光の伝搬方向Lに一定の幅をもつ分極反転区間63と、が光の伝搬方向Lに交互に存在する周期分極構造を備える波長変換素子用導波路60であって、分極反転区間63は、全て分極反転領域63aである第1タイプ63−1、分極反転領域63aが光の伝搬方向L及び分極方向Eと垂直な方向Tの一端にあり、他の領域が分極区間62の分極方向と同じ方向に分極している第2タイプ63−2、分極反転領域63aが光の伝搬方向L及び分極方向Eと垂直な方向Tの両端にあり、他の領域が分極区間62の分極方向と同じ方向に分極している第3タイプ63−3、及び、分極反転領域63aが光の伝搬方向L及び分極方向Eと垂直な方向Lの他端にあり、他の領域が分極区間62の分極方向と同じ方向に分極している第4タイプ63−4、があり、光の伝搬方向Lに、少なくとも1つの第1タイプ63−1、少なくとも1つの第2タイプ63−2、少なくとも1つの第3タイプ63−3、少なくとも1つの第4タイプ63−4の順で配列されている。
【0020】
波長変換素子用導波路60は、光の伝搬方向Lに分極区間62と分極反転区間63とが交互に存在する導波路である。波長変換素子用導波路60のうち分極区間62は、垂直な方向Eに一様に分極している。波長変換素子用導波路60のうち分極反転区間63は、分極区間62の分極方向と逆向きに分極している分極反転領域63aをもつ。また、分極反転区間63は4つのタイプに分かれる。第1タイプ63−1は、分極反転区間63の全てが分極反転領域63aであるタイプである。第2タイプ63−2は、光の伝搬方向Lから見て分極反転領域63aが光の伝搬方向と分極している方向Eとに垂直な方向Tの一方の側のみにあるタイプである。第3タイプ63−3は、光の伝搬方向Lから見て分極反転領域63aが光の伝搬方向と分極している方向Eとに垂直な方向Tの両側にあるタイプである。第4タイプ63−4は、分極反転領域63aが第2タイプ63−2と逆側のみにあるタイプである。また、第2タイプ63−2から第4タイプ63−4は、分極反転領域63a以外の領域が分極区間62の分極方向と同じ方向に分極している。
【0021】
分極区間62は図5の分極領域55であり、分極反転区間63は図5の線分パタン53である。分極反転区間63の分極反転領域63aは図5の線分パタン53であり、分極反転区間63の他の領域は図5の隙間31である。すなわち、分極反転区間63の第1タイプ63−1は、図5の線分パタン53の中央付近の部分である。分極反転区間63の第2タイプ63−2から第4タイプ63−4は、図5の隙間31が含まれる部分である。
【0022】
波長変換素子用導波路60は、QPMパタン40の隙間31の傾きや波長変換素子用薄膜基板50から波長変換素子用導波路形成領域の切り出し方によって、図6のように隙間31を含むことがある。しかし、波長変換素子用導波路60の全体に対して隙間31が含まれる部分が少ないため、変換波長のずれは生じず、また変換後の光パワーの低下も無視できる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の波長変換素子用薄膜基板及び波長変換素子用導波路の構造は、本明細書で説明したLiNbOの基板に限らず、非線形光学効果を有するKNbO、LiTaO、LiNb(x)Ta(1−x)(0≦x≦1)又はKTiOPO、或いは、それらにMg、Zn、Sc、Inからなる群から選ばれた少なくとも一種を添加物として含有している化合物の基板にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】レジストパタンと液体電極を用いた電界印加法を説明する図である。(a)は、波長変換素子用薄膜基板上に線分パタンを並列に並べた多数のレジストパタンをマスクとして形成した後の断面を示した図である。(b)は、液体電極に電圧を印加してレジストパタンが存在しない領域の分極を強制的に反転させた後の断面を示した図である。
【図2】従来の波長変換素子用薄膜基板に形成される周期分極反転構造のパタンを説明する図である。
【図3】従来の波長変換素子用薄膜基板を説明する図である。
【図4】本発明に係る波長変換素子用薄膜基板に形成される周期分極反転構造のパタンを説明する図である。
【図5】本発明に係る波長変換素子用薄膜基板を説明する図である。
【図6】本発明に係る波長変換素子用導波路を説明する図である。
【符号の説明】
【0025】
11a:波長変換素子用薄膜基板
11b:波長変換素子用薄膜基板
12:レジストパタン
13:液体電極
14:矢印
15:裏面電極
16:電界印加手段
20、40:擬似位相整合(QPM)パタン
23、53:線分パタン
25:位置合わせマーク
30、50:波長変換素子用薄膜基板
31:隙間
55:分極領域
60:波長変換素子用導波路
62:分極区間
63:分極反転区間
63a:分極反転領域
63−1:分極反転区間の第1タイプ
63−2:分極反転区間の第2タイプ
63−3:分極反転区間の第3タイプ
63−4:分極反転区間の第4タイプ
A1〜A4:波長変換素子用導波路形成領域
L:光の伝搬方向
E:方向
T:光の伝搬方向と分極している方向とに垂直な方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向に分極する分極領域と、
周囲の前記分極領域の分極方向と逆向きに分極する分極反転領域と、
が擬似位相整合パタンで周期的に配列された周期分極構造を備える波長変換素子用薄膜基板であって、
前記擬似位相整合パタンは、
長手方向が前記分極領域に収まる長さ且つ所定の幅の線分パタンを、長手方向である行方向には同一直線上にあるように且つ所定の隙間を介して等間隔になるように配列し、幅方向である列方向には平行且つ等間隔になるように配列し、さらに前記隙間が行毎に一方向へ一定長づつシフトするように周期的に配列されており、
前記周期分極構造は、
前記擬似位相整合パタンの前記線分パタンを前記分極反転領域としていることを特徴とする波長変換素子用薄膜基板。
【請求項2】
光の伝搬方向に対して垂直な方向に一様に分極し、光の伝搬方向に一定の長さをもつ分極区間と、
前記分極区間の分極方向と逆向きに分極している分極反転領域を含み、光の伝搬方向に一定の幅をもつ分極反転区間と、
が光の伝搬方向に交互に存在する周期分極構造を備える波長変換素子用導波路であって、
前記分極反転区間は、
全て前記分極反転領域である第1タイプ、
前記分極反転領域が光の伝搬方向及び分極方向と垂直な方向の一端にあり、他の領域が前記分極区間の分極方向と同じ方向に分極している第2タイプ、
前記分極反転領域が光の伝搬方向及び分極方向と垂直な方向の両端にあり、他の領域が前記分極区間の分極方向と同じ方向に分極している第3タイプ、
及び、
前記分極反転領域が光の伝搬方向及び分極方向と垂直な方向の他端にあり、他の領域が前記分極区間の分極方向と同じ方向に分極している第4タイプ、
があり、
光の伝搬方向に、少なくとも1つの前記第1タイプ、少なくとも1つの前記第2タイプ、少なくとも1つの前記第3タイプ、少なくとも1つの前記第4タイプの順で配列されていることを特徴とする波長変換素子用導波路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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