説明

波長変換装置

【課題】光通信システムにおいて、光信号の波長変換に適する、小型で集積可能であり、ASE光の混入や光フィルタによるS/N劣化の少ない波長変換装置を提供する。
【解決手段】サブバンド間遷移により屈折率が変化するサブバンド間遷移光半導体素子を備える装置であって、サブバンド間遷移吸収を生じるTM偏波を有する入力信号光と、第一の励起光とを、サブバンド間遷移光半導体素子15に入射して吸収させるとともに、サブバンド間遷移吸収を生じないTE偏波を有する第二の励起光をサブバンド間遷移光半導体素子15に伝搬させ、サブバンド間遷移光半導体素子15の出力端から波長の変換された出力信号光を取り出す。出力信号光は、入力信号光の強度情報と位相情報を有する。また、マッハツェンダー干渉計のそれぞれのアームにサブバンド間遷移光半導体素子を配置することにより励起光と波長変換された出力信号光とを分離することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信システムにおいて.光信号の波長を変換する波長変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高精細画像等による通信需要の増大さらには通信サービスの多様化に加え、地球環境問題の顕在化により、通信ネットワークを支えるフォトニックネットワークシステムに対しても、一層の大容量化、多様な信号を通せるトランスペアレンシー化、さらには、省エネルギー化が必要とされている。将来のフォトニックネットワークにおいては、従来進展してきた波長多重化(WDM)に加えて、位相多値変調の利用により大容量化が図られ、さらに、光信号を電気信号に変換せずに処理をおこなう、Reconfigurable Optical Add−Drop Multiplexer(ROADM)や光パススイッチのような光信号処理により、トランスペアレンシーと省エネルギー化が図られようとしている。
【0003】
このような光信号処理においては、一つのパスから、別のパスに光信号を乗せ換えた場合に、波長の衝突を回避するための波長変換が必要となっている。波長変換においては、最近の位相多値変調信号の導入により、光の強度情報だけでなく、位相情報も保持した状態で波長変換を行うコヒーレントな波長変換を実現する必要がある。
光通信帯のコヒーレントな波長変換としては、LiNbOの光導波路を用いた差周波発生を用いたもの(非特許文献1)、光ファイバの四光波混合を使ったもの(非特許文献2)、半導体光増幅器等の四光波混合を用いたもの(非特許文献3)が知られている。
【0004】
本発明者らは、サブバンド間遷移(Inter Sub−Band Transition)光半導体素子(以下ISBT素子とも呼ぶ)について研究を進め、n型にドープされたInGaAs/AlGaSb量子井戸をコアとし、InPをクラッドとした光導波路構造について提案している(非特許文献4)。また、本発明者らは、TEの光を伝搬させた状態で、TM光を入射しサブバンド間吸収を生じさせると、TEモードに対する屈折率分散が変化し、TEの光に位相変調が生じることを報告している(非特許文献4)。
【0005】
また、従来例として、フォトネットワークに用いられる、InGaAs/AlAsSb量子井戸でのサブバンド間遷移現象を利用した光ゲートスイッチがある(特許文献1)。この従来例を利用して、入力信号光により異なる波長の光をオンオフすることによって、波長変換が実現できるが、コヒーレントな波長変換は実現できない。また、従来例として、進行波型半導体レーザ増幅器の四光波混合を波長変換に利用した半導体波長変換素子がある(特許文献2)。この方法では、誘導放出により増幅される自然放出光(Amplified Spontaneous Emission ASE)による雑音(ASE雑音)が、出力信号光に負荷されるため、高いS/Nを得ることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】再公表2008−020621号公報
【特許文献2】特開平8−240820号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Y.Wong他,“Analysis of ultrafast all-optical OTDM de-multiplexing based on cascaded wavelength conversion in PPLN waveguides,” IEEE Photon Technol.Lett.,19,495-497,2007.
【非特許文献2】S.Watanabe他,“Optical Signal Processing Using NonlinearFibers,” Proceedings of 28th European Conference on Optical Communication(ECOC 2002),Vol.3 pp1-2,2002.
【非特許文献3】R.Ludwig他,“BER measurement of frequency converted signals using four-wave mixing in a semiconductor laser amplifier at 1,2.5,5and 10Gbit/s,” Electron.,Lett.,30,338-339,1994.
【非特許文献4】R.Akimoto他,“All-optical demultiplexing of 160-10Gbit/s signales with Mach-Zehnder interferometric switch utilizing intersubband transition in InGaAs/AlAs/AlAsSb quantum well”,Appl.Phys.Lett.,91,pp221115,2007.
【非特許文献5】H.Kuwatsuka他,“Observation of Four-Wave Mixing Signals from an AlAsSb/InGaAs ISBT(Inter Sub-Band Transition)Optical Waveguide,” Proc. of Photonics in Switching 2009,FrI2-3,(2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のコヒーレントな波長変換の中で、LiNbO光導波路を用いたものや光ファイバを用いたものは、相互作用長を長く取る必要があり(LiNbOで数cm、光ファイバで数m以上)、素子の集積化が難しく、装置が大型化するという問題があった。半導体光増幅器は、比較的短い数mm程度の相互作用長で変換でき、また、波長可変レーザや光カプラとの集積も可能である。しかしながら、利得媒質を非線形媒質として用いるため、ASE(Amplified Spontaneous Emission)光が混入し、S/Nが劣化するという欠点があった。
【0009】
さらに、上述のコヒーレント波長変換はすべて、波長を変換した出力信号光と同時に、励起光や入力信号光も同時に抜けてくる。出力信号光を取りだすために、波長フィルタが必要となる。波長フィルタの使用は、S/Nを劣化させる要因となるという問題があった。
【0010】
本発明は,これらの問題を解決しようとするものであり、小型で集積可能であり、さらに、ASE光の混入や光フィルタによるS/N劣化の少ない波長変換装置を提供することを目的とする.
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の波長変換装置は、サブバンド間遷移光半導体素子を用い、該素子を、例えばマッハツェンダー干渉計に組み入れた構成を取ることにより、小型で集積可能で、さらに、ASE光の混入や光フィルタによるS/N劣化の少ない波長変換装置を実現するものである。
【0012】
本発明に用いるサブバンド間遷移光半導体素子についてその原理を説明する。図1と図2に、サブバンド間遷移光半導体素子の1例を示す。図1は、n型にドープされたInGaAs/AlAsSb多層量子井戸1をコアとし、InPをクラッドとした光導波路構造を示す図である。この光導波路に、波長が1.55μm帯のTM偏光の光を入射すると、InGaAs/AlAsSb多層量子井戸1に形成されたサブバンド間の遷移を引き起こし、光が吸収される。一方、TE偏光の光を入射しても、サブバンド間遷移を起こさず、さらに、この量子井戸はバンド間遷移波長が、1.55μm帯より高エネルギー側にあるため、バンド間遷移吸収も生じない。TE偏光の光は、光導波路を損失少なく伝搬していく。TE偏光の光2を伝搬させた状態で、TM偏光の励起光3を入射しサブバンド間吸収を生じさせると、TEモードに対する屈折率分散が変化し、TEの光に位相変調が生じる。図1に、模式的に、入力光(TE偏光)1、励起光(TM偏光)3、位相変調を受けた出力光(TE偏光)4を図示した。
【0013】
図2は、ISBT素子のInGaAs/AlAsSb多層量子井戸のバンド構造を示す図である。AlAsSbとInGaAsの間の伝導帯バンド不連続は比較的大きいため、波長1.55μm帯のTM偏光の光を吸収して、サブバンド準位n=1からn=4のサブバンド間遷移を生じる。励起された電子は、TM光がなくなると、サブピコ秒から数ピコ秒で高速に緩和することができる。TEモードの光を入射すると、サブバンド間遷移を起こさず、さらに、この量子井戸はバンド間遷移波長が、1.55μm帯より高エネルギー側にあるため、バンド間遷移吸収も生じない。TM光の入射により、サブバンド間で電子が励起されると、伝導帯のn=1の電子数が変化し、その結果、TE光の屈折率分散が変化する。その結果、TM光が入射すると、TE光に位相変調がかかる。
【0014】
サブバンド間遷移光半導体素子において、TEの光を伝搬させた状態で、TM光を入射しサブバンド間吸収を生じさせると、TEモードに対する屈折率分散が変化し、TEの光に位相変調が生じる現象は、非特許文献4に示されている。また、この現象を用い、数10μmの非常に短い相互作用長で、四光波混合が生じることを、本発明者らは既に示している(非特許文献5参照)。二つの波長の異なるTM光と、TE光とをISBT素子に入射すると、TM光の差周波に相当する周波数でサブバンド間遷移の振動が生じる。この結果、TE光に差周波の周波数で変調がかかり、TE光から、差周波だけ離れた周波数のところに光が生じることになる。ここで、図3を参照してサブバンド間遷移光半導体素子の四光波混合の原理を説明する。図3の横軸は各光の波長、横軸は光強度(dBm)である。二つのTM光(周波数fp1とfp2)とTE光(周波数fp3)をサブバンド間遷移光半導体素子に入射すると、TM光の差周波(fp1−fp2)に相当する周波数でサブバンド間遷移の振動が生じる。この結果、TE光に差周波の周波数で変調がかかり、TE光(周波数fp3)から、差周波だけ離れた周波数のところ(fp3+fp1−fp2及びfp3−fp1+fp2)に光が生じることになる。
【0015】
本発明は、サブバンド間遷移光半導体素子に着目し、四光波混合の原理を利用し、かつ、二つのTM光のうち、どちらかに、変調信号が重畳されていた場合、TE光の隣に生じた光には、変調信号の強度信号成分・位相信号成分とも、重畳されることを見出し、入力TM信号から出力TE信号へのコヒーレントな波長変換を実現するものである。
【0016】
また、本発明は、サブバンド間遷移光半導体素子でマッハツェンダー干渉計を構成したものであり、マッハツェンダー干渉計の位相を調整することにより、励起光と変換光を光フィルタなく分離可能とするものである。
【0017】
以上のように、本発明は、上記目的を達成するために、以下の特徴を有するものである。
【0018】
本発明の装置は、波長変換装置であって、サブバンド間遷移により屈折率が変化するサブバンド間遷移光半導体素子を備えることを特徴とする。本発明の装置は、サブバンド間遷移吸収を生じる偏波を有する入力信号光と、第一の励起光とを、前記サブバンド間遷移光半導体素子に入射して吸収させるとともに、サブバンド間遷移吸収を生じない偏波を有する第二の励起光を前記サブバンド間遷移光半導体素子に伝搬させて、入力信号光の強度情報と位相情報を有し、入力信号光とは波長の異なった出力信号光を生成することを特徴とする。サブバンド間遷移吸収を生じる偏波は、例えばTM偏光である。サブバンド間遷移吸収を生じる偏波を有する入力信号光は、TM偏光、又はTM偏光とTE偏光とを含む光である。第一の励起光は、TM偏光、又はTM偏光とTE偏光とを含む光を用いる。サブバンド間遷移吸収を生じない偏波は、例えばTE偏光である。サブバンド間遷移吸収を生じない偏波を有する光は、TE偏光、又はTE偏光とTM偏光とを含む光である。
【0019】
出力信号光は、入力信号光の周波数f(s)と、第一の励起光の周波数f(1)、第二の励起光の周波数f(2)の場合、f(s)+f(2)−f(1)の周波数に変換される。波長に換算すると、入力信号光の波長をλ(s)、第一の励起光の波長をλ(1)、第二の励起光の波長をλ(2)、変換された出力光の波長をλ(out)、光の速度をcとすると、c/λ(out)=c/λ(s)+c/λ(2)−c/λ(1)の関係になる。光の周波数が、200THzの領域にあるのに対し、入力信号光と第一の励起光の周波数の差は、数100GHz程度と小さいので、λ(out)〜λ(2)+λ(s)−λ(1)とほぼ近似できる。即ち、入力信号光は、第一の励起光と入力信号光の差を第二の励起光に加えた光に波長変換される。
【0020】
本発明の装置は、マッハツェンダー干渉計の構造を採用することができる。サブバンド間遷移光半導体素子をマッハツェンダー干渉計のそれぞれのアームに配置することが好ましい。マッハツェンダー干渉計の第一の入力ポートから前記入力信号光を入力し、第二の入力ポートから前記第一及び第二の励起光を入力し、第一の出力ポートから前記励起光の出力を取り出し、第二の出力ポートから前記出力信号光を取り出すことを特徴とする。これにより、出力信号において波長変換された出力信号光と励起光を分離することができる。
【0021】
本発明の装置は、入力信号光を直交する二つの偏波成分に分離する構造を、設けることができる。その場合、サブバンド間遷移吸収を生じる偏波を有する成分を、前記サブバンド間遷移光半導体素子の第一の入出力端から入射し、波長が変換された出力信号光を反対側の第二の入出力端から取り出すようにし、また、サブバンド間遷移吸収を生じない偏波を有する成分は、偏波を90度回転したのちに、前記サブバンド間遷移光半導体素子の前記第二の入出力端から入射し、波長が変換された出力信号光を前記第一の入出力端から取り出すようにするとよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、波長変換装置にサブバンド間遷移光半導体素子を用いることにより、数10μmという非常に短い相互作用長で四光波混合信号を生じることができ、光ファイバやLiNbO、光半導体増幅器を用いた場合に比べて、大幅に小型化できる。さらに、本発明では、サブバンド間遷移光半導体素子としてInGaAs/AlAsSb多層量子井戸を用いることができることから、InPに格子整合するため、通信帯波長で発信する励起用半導体レーザとのモノリシック集積が可能となる。従来のように光ファイバやLiNbO光半導体増幅器を用いた場合は、入力信号や励起光が、変換光と一緒に出てきてしまうので光フィルタで分離する必要があるのに対して、本発明では、サブバンド間遷移光半導体素子を用いるので、TMの偏光を有する入力信号光や励起光は、サブバンド間遷移により吸収されてしまい、分離が極めて容易になる。
【0023】
また、本発明では、サブバンド間遷移光半導体素子を用いるので、従来の光半導体増幅器と異なり、利得を有さないことから、ASE雑音の付加がないという効果がある。さらに、サブバンド間遷移光半導体素子でマッハツェンダー干渉計を構成することにより、励起光と変換光を分離することができ、S/Nの劣化が減少する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明で用いるサブバンド間遷移光半導体素子の原理を示す図。
【図2】本発明で用いるサブバンド間遷移光半導体素子の量子井戸のバンド構造を示す図。
【図3】本発明で用いるサブバンド間遷移光半導体素子の四光波混合の原理を示す図。
【図4】本発明の第1実施形態の装置を示す図。
【図5】マッハツェンダー干渉計にサブバンド間遷移光半導体素子を配置した波長変換の原理を示す図。
【図6】本発明の第2実施形態の装置を示す図。
【図7】本発明の第3実施形態の装置を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明を実施するための形態を説明する。
【0026】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態を図4を参照して説明する。図4の波長変換装置は、二つの励起光源用半導体レーザ(半導体レーザ1(11)と半導体レーザ2(12))と、偏光ビームスプリッタ(PBS)13と、光カプラ14と、サブバンド間遷移光半導体素子(ISBT素子)15と、光フィルタ16とを備える。二つの励起光源用半導体レーザ1(例えば発振波長1550nm)と、励起光源用半導体レーザ2(例えば発振波長1560nm)からの光を、レーザ1の光はTM偏光にし、レーザ2の光はTE偏光にして、偏光ビームスプリッタ(PBS)13で合波する。合波された光と、入力信号光(波長1552nm、TM偏光)の光を、光カプラ14で合波し、ISBT素子に入射する。ISBT素子内の四光波混合により、発生した波長1562nmの光を、波長パスフィルタである光フィルタ16で切り出して取り出す。これにより、1552nmの入力信号光を、1562nmの光に波長変換できる。
【0027】
図3の四波混合原理に対応させて説明すれば、図3の周波数(fp2)のTM信号の情報(強度信号成分・位相信号成分)を、周波数(fp3−fp1+fp2)がレプリカ情報(fp2)として持つことと対応している。本装置では、入力信号(波長1552nm、TM偏光)から出力変換光(波長1562nm、TE光)へ波長変換が実現できる。
【0028】
半導体レーザ1や半導体レーザ2については、固定波長の例で説明したが、固定波長でなく、波長可変レーザを用いてもよい。波長可変レーザを用いる場合は、半導体レーザ1と2の波長を設定することにより、任意波長の入力信号光を、任意の波長の出力信号光に変換できる。例えば、入力信号光の波長が1560nmで、波長1540nmの出力光を得たい場合、半導体レーザ1の波長を1558nmに設定し、半導体レーザ2の波長を1538nmに設定すれば、波長1560nmの入力信号光を、1540nmの光に変換できる。
【0029】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態を図5と図6を参照して説明する。第2の実施形態の装置は、マッハツェンダー干渉計にサブバンド間遷移光半導体素子を配置した構造を基本構造として備える。
【0030】
該基本構造について、図5を参照してその波長変換の原理を説明する。基本構造は、図5のように、2つの入力ポート1、2と、2つの出力ポート1、2と、光カプラ24、26(分岐比50:50)と、サブバンド間遷移光半導体素子(ISBT素子)25、29と、位相制御部28と、反射ミラーとから構成される。位相制御部28は、例えば、ピエゾ素子にミラーを付けたものであり、光路長を調整する。第1の入力ポートである入力ポート1から入力信号光を、第2の入力ポートである入力ポート2から励起光を入力し、第1の出力ポートである出力ポート1から励起光を、第2の出力ポートである出力ポート2から変換光(出力変換光とも呼ぶ)を取り出すよう、マッハツェンダー干渉計の位相を調整する。マッハツェンダー干渉計は、出力ポート1からは、変換光は出てこないため、励起光と変換光を光フィルタなしで分離できる。
【0031】
図6に第2実施形態の波長変換装置を示す。本実施形態の波長変換装置は、二つの励起光源用半導体レーザ(半導体レーザ1(21)と半導体レーザ2(22))と、偏光ビームスプリッタ(PBS)23と、光カプラ1(24)と、光カプラ2(26)と、サブバンド間遷移光半導体素子(ISBT素子)25、29と、反射ミラー27、30と、位相制御部28とを備える。二つの励起光源用半導体レーザ1(21)(発振波長1550nm)と、励起光源用半導体レーザ2(22)(発振波長1560nm)からの光を、レーザ1の光はTM偏光にし、レーザ2の光はTE偏光にして、偏光ビームスプリッタ(PBS)で合波する。合波された光と、入力信号光(波長1552nm、TM偏光)の光を、光カプラ1(24)で合波する。光カプラ1(24)の一つの出力はISBT25に入力され、もう一方の出力は反射ミラー27で反射され位相制御部28を介してISBT29に入力される。ISBT素子25と、反射ミラー30で反射されたISBT素子29の出力は、光カプラ2(26)で合波される。光カプラ1(24)の入力ポートの励起光側から入射された励起光が、光カプラ2(26)の出力ポートのアイドルポート(空いているポート)に出力されるように、干渉計の位相調整を行うと、ISBT素子内の四光波混合により発生した波長1562nmの光は、アイドルポートと反対側の出力ポートに出力(図の出力変換光(TE))される。これにより、1552nmの入力信号光(TM偏光)を、1562nmの出力変換光(TE偏光)に波長変換できる。
【0032】
半導体レーザ1や半導体レーザ2は、固定波長の例で説明したが、固定波長でなく、波長可変レーザを用いてもよい。波長可変レーザを用いる場合は、半導体レーザ1と2の波長を設定することにより、任意波長の入力信号光を、任意の波長の出力信号光に変換できる。
【0033】
(第3実施形態)
第1実施形態及び第2実施形態では、入力信号光としてTM偏光の例を示したが、入力信号光は、TM偏光に限らない。本発明の第3実施形態を図7を参照して説明する。第3実施形態の装置は、マッハツェンダー干渉計にサブバンド間遷移光半導体素子を配置した構造を基本構造として備える。
【0034】
図7に第3実施形態の波長変換装置を示す。本実施形態の波長変換装置は、二つの励起光源用半導体レーザ(半導体レーザ1(31)と半導体レーザ2(32))と、光カプラ1(33)と、偏光ビームスプリッタ(PBS)34と、光カプラ2(35)と、光カプラ3(37)と、サブバンド間遷移光半導体素子(ISBT素子)36、39と、反射ミラー41と、反射ミラー(符号を付与していない)と、位相制御部38と、90°回転子40とを備える。
【0035】
入力信号光(波長1552nm)の光fは、半導体レーザ1(31)(波長1550nm、TM:TE=1:1)の光fとともに、光カプラ1(33)により合波される。合波されたfとfは、PBS(偏光ビームスプリッタ)34に入射され、TM偏光とTE偏光に分けられる。
【0036】
PBS34により90°曲げられたTM偏光の入力信号光fsTMと励起光(レーザ光1)f1TMは、光カプラ2(35)により、半導体レーザ2(32)(波長1560nm、TE偏光)の光fと合波される。光カプラ2(35)の二つの出力は、それぞれ二つのISBT36、39に入射され、ISBT素子36、39の出力は、光カプラ3(37)により、合波される。位相制御領域を調整することにより、半導体レーザ2からの光fは、反射ミラー41の方へ出力される。一方、ISBTの素子内の四光波混合により発生した波長1562nmの光fcTEは、光カプラ3(37)のもう一つのポートに出力される。出力光は、TE偏光であり、90°回転子40により偏光が回転されてTM偏光fcTMとなり、PBS34に戻されると、90°曲げられ、入力信号光と反対のポート(図の「f出力変換光」)に出力される。
【0037】
一方、PBS34を直進したTE偏光の入力信号光fsTEと励起光(レーザー光1)f1TEは、90°回転子40により偏光が回転されTM偏光(fsTM、f1TM)となり、光カプラ3(37)により、反射ミラー41からもどってきたレーザ2の光f2rと合波される。光カプラ3(37)の二つの出力は、それぞれ二つのISBT素子36、39に入射され、ISBT素子36、39の出力は、光カプラ2(35)により、合波される。位相制御領域を調整することにより、ISBTの素子内の四光波混合により発生した波長1562nmの光は、光カプラ2(35)のレーザ2の光f2rのポートとは反対のポートに、出力光fcTEとして出力される。出力光fcTEは、TE偏光であり、PBS34に戻されると、真っすぐ出力される。
【0038】
以上のように、1552nmの任意の偏光を有する入力信号光を、1562nmの光に、TE偏光成分はTE偏光として、TM偏光成分はTM偏光成分として波長変換できる。
【0039】
半導体レーザ1や半導体レーザ2は、固定波長の例で説明したが、固定波長でなく、波長可変レーザを用いてもよい。波長可変レーザを用いる場合は、半導体レーザ1と2の波長を設定することにより、任意波長の入力信号光を、任意の波長の出力信号光に変換できる。
【0040】
第3実施形態では、マッハツェンダー干渉計にサブバンド間遷移光半導体素子を配置した構造を基本構造とする例において、入力信号光がTM偏光のみに限らないことを説明したが、第1実施形態の装置においても、第3実施形態と同様に、光カプラ、PBS、90°回転子等を用いることにより、TM偏光のみに限らない入力信号光を信号光として用いることができる。
【0041】
上記実施形態で示した例は、発明を理解しやすくするために記載したものであり、この形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は,光通信ネットワークにおける光伝送経路時の波長資源の有効利用に有用である。
【符号の説明】
【0043】
1 多層量子井戸
2 入力光(TE偏光)
3 励起光(TM偏光)
4 位相変調を受けた出力光(TE偏光)
11、12、21、22、31、32 半導体レーザ
13、23、34 偏光ビームスプリッタ
14、24、26、33、35、37 光カプラ
15、25、29、36、39 サブバンド間遷移光半導体素子
16 光フィルタ
27、30、41 反射ミラー
28、38 位相制御部
40 90°回転子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サブバンド間遷移により屈折率が変化するサブバンド間遷移光半導体素子を備え、
サブバンド間遷移吸収を生じる偏波を有する入力信号光と、第一の励起光とを、前記サブバンド間遷移光半導体素子に入射して吸収させるとともに、サブバンド間遷移吸収を生じない偏波を有する第二の励起光を前記サブバンド間遷移光半導体素子に伝搬させて、入力信号光の強度情報と位相情報を有し、入力信号光とは波長の異なった出力信号光を生成することを特徴とする波長変換装置。
【請求項2】
前記サブバンド間遷移光半導体素子はマッハツェンダー干渉計のそれぞれのアームに配置され、
前記マッハツェンダー干渉計の第一の入力ポートから前記入力信号光を入力し、第二の入力ポートから前記第一及び第二の励起光を入力し、第一の出力ポートから前記励起光の出力を取り出し、第二の出力ポートから前記出力信号光を取り出すことを特徴とする請求項1記載の波長変換装置。
【請求項3】
前記入力信号光を直交する二つの偏波成分に分離し、
サブバンド間遷移吸収を生じる偏波を有する成分を、前記サブバンド間遷移光半導体素子の第一の入出力端から入射し、波長が変換された出力信号光を反対側の第二の入出力端から取り出し、
サブバンド間遷移吸収を生じない偏波を有する成分は、偏波を90度回転したのちに、前記サブバンド間遷移光半導体素子の前記第二の入出力端から入射し、波長が変換された出力信号光を前記第一の入出力端から取り出すことを特徴とする請求項1又は2記載の波長変換装置。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−208162(P2012−208162A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71614(P2011−71614)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度総務省委託研究「サブバンド間遷移素子を用いた多値位相変調光信号処理の研究開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】