説明

波長変換部材および光源装置

【課題】人間の目に対する安全性を確保するとともに発光色の混色性を改善することができる波長変換部材およびこの波長変換部材を用いた光源装置を提供する。
【解決手段】波長変換部材20は、レーザダイオード10が発するレーザ光を導入し、レーザ光の波長とは異なる波長の光を放射する。波長変換部材は、レーザ光を導入し得るレーザ入射面を有し且つ層内に蛍光体を含有する蛍光体層22と、蛍光体層のレーザ入射面と対向する面に接合され且つ蛍光体層の屈折率よりも高い屈折率を有する高屈折率層26と、を有する。高屈折率層は、蛍光体層との接合面および接合面と対向する光取り出し面の少なくとも一方に、凹凸を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザを用いた光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザは、発光ダイオードと比較して電気−光変換効率が高く、高出力化が可能であるため、プロジェクタ用の光源や自動車用のヘッドライトなど高輝度な白色光源としての利用が期待されている。半導体レーザを用いて白色光を得る方法としては青色半導体レーザと蛍光体を含む波長変換部材とを組み合わせる方法がある。すなわち、青色レーザを蛍光体層に照射することにより、蛍光体によって長波長側に波長変換された光と、波長変換されずに蛍光体層を透過した光を混色させることにより白色光を得るというものである。
【0003】
特許文献1にはレーザダイオードから出射されたレーザ光を蛍光体に集光し、蛍光体からインコヒーレントな自然放出光を得るようにした光源装置が開示されている。特許文献2には蛍光体焼結体である所謂蛍光体セラミックを波長変換部材として用いた発光装置が開示されている。特許文献3にはガラス中に蛍光体を分散させた所謂蛍光体ガラスにより構成される波長変換部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4054594号公報
【特許文献2】特開2010−24278号公報
【特許文献3】特許第4158012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蛍光体を用いた波長変換部材としては蛍光体粒子を樹脂バインダーに分散させたものが一般的である。しかしながら、樹脂バインダーを用いた蛍光体層に高出力のレーザ光を照射すると、樹脂バインダーが焼損してしまうといった問題が生じる。従って、高出力のレーザ光源を用いる場合、上記特許文献2および3に記載されているような無機材料を母材とする蛍光体セラミックまたは蛍光体ガラスを波長変換部材として用いることが好ましい。
【0006】
一方、レーザ光は出力が高く且つスポットサイズが小さいため、光エネルギー密度が高い。このため、レーザ光は人間の目にダメージを与える危険性を有する。スポットサイズが小さい通常の半導体レーザからの光は、網膜上で微小スポットに集光されて網膜上の局部的な発熱を引き起こす。なお可視光レーザの場合、眼球や網膜組織と生化学反応を引き起こすおそれもある。従ってトータルの光パワーが小さくても網膜損傷につながる可能性がある。
【0007】
ここで、図1は、レーザ光源110と、蛍光体ガラスまたは蛍光体セラミックスからなる波長変換部材120と、からなる光源装置100の構成を示す図である。レーザ光源110から出射されたレーザ光は波長変換部材120に照射される。波長変換部材120の光取り出し面からは、波長変換された黄色光YLと、波長変換されることなく波長変換部材120を透過した青色光BLとが混色されて白色光が放射される。
【0008】
波長変換部材120を蛍光体ガラスで構成した場合、蛍光体粒子とガラスとの屈折率差が0.3〜0.35程度と小さい故、光散乱が促進されず、波長変換部材120を直進する光の成分が大きくなる。このため、光取り出し面からは波面が揃ったコヒーレント光が放射され、これを光学系で集光した場合にはレーザ出射口のスポットサイズに絞られる可能性があり、目に対する安全性が問題となる。
【0009】
一方、波長変換部材を蛍光体セラミックで構成した場合、蛍光体粒界における屈折率変化が小さく、レーザ光は大きな散乱を受けることなく波長変換部材120の内部を伝搬する。このため蛍光体ガラスの場合と同様、目に対する安全性が問題となる。
【0010】
また、図1に示される光源装置100の構成では、黄色光YLと青色光BLを完全に混色させることは困難である。すなわち、蛍光体から放射される黄色光YLは回折の作用によって全方位に放射される一方、波長変換部材120を透過した青色光BLは、レーザ光の発散角に相当する範囲でのみ放射される。このため、波長変換部材120から取り出される光は、中央部と周縁部で色度の異なるものとなっていた。
【0011】
本発明は、上記した点に鑑みてなされたものであり、人間の目に対する安全性を確保するとともに発光色の混色性を改善することができる波長変換部材およびこの波長変換部材を用いた光源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る波長変換部材は、レーザ光を導入し、前記レーザ光の波長とは異なる波長の光を放射する波長変換部材であって、レーザ光を導入し得るレーザ入射面を有し且つ層内に蛍光体を含有する蛍光体層と、前記蛍光体層の前記レーザ入射面と対向する面に接合され且つ前記蛍光体層の屈折率よりも高い屈折率を有する高屈折率層と、を有し、前記高屈折率層は、前記蛍光体層との接合面および前記接合面と対向する光取り出し面の少なくとも一方に、凹凸を有することを特徴としている。
【0013】
また、本発明に係る光源装置は、上記の波長変換部材を有する光源装置であって、前記レーザ入射面にレーザ光を照射する半導体レーザを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る波長変換部材および光源装置によれば、目に対する安全性を確保するとともに発光色の混色性を改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】蛍光体ガラスまたは蛍光体セラミックスからなる波長変換部を含む光源装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施例1に係る光源装置の構成を示す図である。
【図3】図3(a)および図3(b)は、それぞれ本発明の実施例に係る高屈折率層の光取り出し面における光散乱および回折の様子を示す図である。
【図4】図4(a)〜(d)は本発明の実施例1に係る波長変換部材の製造方法を示す図である。
【図5】本発明の実施例2に係る波長変換部を含む光源装置の構成を示す図である。
【図6】図6(a)〜(d)は本発明の実施例2に係る波長変換部材の製造方法を示す図である。
【図7】図7(a)〜(d)は本発明の実施例に係る波長変換部材の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施例について図面を参照しつつ説明する。尚、各図において、実質的に同一又は等価な構成要素、部分には同一の参照符を付している。
【実施例1】
【0017】
図2は、本発明の実施例1に係る光源装置1の構成を示す断面図である。光源装置1は、レーザ光を出射する半導体レーザ10と、レーザ光を受けてレーザ光の波長よりも長波長の光を放射する波長変換部材20と、により構成される。
【0018】
半導体レーザ10は、例えば多重量子井戸構造を有するGaN系の窒化物系半導体層を含み、波長450nm前後の青色光を放射する発光素子である。尚、半導体レーザ10の発光波長、材料および層構造は、これに限定されるものではなく、用途に応じて適宜好適なものを選択することが可能である。
【0019】
波長変換部材20は、半導体レーザ10から出射されるレーザ光を受光する。波長変換部材20は、蛍光体層22、接着層24、高屈折率層26を積層した積層構造体である。波長変換部材20は、蛍光体層22が半導体レーザ10側に向くように配置され、光散乱層26の表面が光取り出し面となる。尚、半導体レーザ10と波長変換部材20との間にレンズ等の光学系を設け、光学系によって収斂したレーザ光を波長変換部材20に照射することとしてもよい。
【0020】
蛍光体層22は、半導体レーザ10から出射されるレーザ光によって焼損しない程度の耐熱性を有する材料からなり、例えば蛍光体ガラスにより構成される。蛍光体ガラスは、ガラス中に蛍光体を分散させたものであり、より具体的にはガラス粉末と蛍光体粉末との焼結体である。好適なガラスとしてはB−SiO系ガラス、BaO−B−SiO系ガラス等が挙げられる。蛍光体は、YAG:Ce蛍光体であり、半導体レーザ10から出射される波長450nm程度の青色光を吸収してこれを例えば波長560nm前後に発光ピークを持つ黄色光に変換する。蛍光体により波長変換された黄色光と、波長変換されずに蛍光体層22を透過した青色光が混ざることにより、波長変換部材20の光取り出し面からは、白色光が得られるようになっている。尚、蛍光体ガラスの屈折率は、1.45〜1.65程度であり、空気の屈折率(=1)との差が小さい。また、蛍光体ガラスの熱伝導率は1W/m・Kと非常に低い。このため、仮に波長変換部材を蛍光体ガラス単体で構成した場合には、蛍光体ガラスを透過して放射される青色光の放射角度範囲は比較的小さくまた波面のゆらぎも小さいため、色ムラが生じ、また目に対する安全性の確保が困難である。また、蛍光体から発せられる熱を効率よく外部に放出することができず、温度上昇が過大となる。このような問題は後述する高屈折率層26を蛍光体層22上に積層することにより解消される。尚、蛍光体層22は、蛍光体焼結体である蛍光体セラミックにより構成されていてもよい。蛍光体セラミックは、例えば酸化イットリウム、酸化アルミニウム、酸化セリウムなどの酸化物をアルコール溶媒とともの混合して造粒粉を作製し、これを成形して脱脂した後真空雰囲気中で焼成することにより得ることができる。
【0021】
接着層24は、蛍光体層22と高屈折率層26とを接合するための接合材を含む層である。接着層24は、例えばSOG(spin on glass)により構成される。接着層24にSOGを用いることにより、蛍光体層22を構成する蛍光体ガラスとの屈折率差が小さくなるため、接着層24が光反射面となることを防止することができる。
【0022】
高屈折率層26は、蛍光体層22を構成する蛍光体ガラスの屈折率よりも高い屈折率を有し且つ半導体レーザ10からの出射光を透過させることができる材料からなる層である。高屈折率層26は、空気との屈折率差が1以上であることが好ましい。高屈折率層26の材料として例えばGaN、AlGaN、InGaN等の窒化物半導体結晶が好適である。これらの窒化物半導体結晶は、屈折率が2.5程度であり、波長400nm以上の光に対して透過性を有する。高屈折率層26の厚さは0.5μm以上20μm以下であることが好ましい。光取り出し面となる高屈折率層26の表面には、光散乱および回折を促進させるための複数の突起が全面に亘って形成されており高屈折率層26の表面は凹凸面となっている。すなわち、高屈折率層26の表面は、複数の突起により構成される光散乱・回折構造面となっている。複数の突起は、窒化物半導体結晶の結晶構造に由来する六角錐形状を有し且つ大きさがランダムであることが好ましい。そのような突起は、マイクロコーンと称され、窒化物半導体結晶のC−面をアルカリ溶液でウェットエッチングすることにより容易に形成することが可能である。必要十分な光散乱効果を得るために、六角錐状突起の底面のサイズ(径)および高さは90nm以上5μm以下であることが好ましい。これらの寸法はエッチング時間及びエッチャント温度により制御することが可能である。尚、半導体レーザ10に赤色レーザを用いる場合、高屈折率層26の材料として、GaP等の燐化物半導体結晶を用いることも可能である。GaPは、屈折率が3.2と非常に大きく、赤色レーザ光を透過することができる。また、窒化物半導体結晶と同様にウェットエッチングによる錐状突起物を形成することができるため粗面化処理も可能である。
【0023】
図3(a)および(b)は、それぞれ、粗面化された高屈折率層26の光取り出し面から放出される光の散乱および回折の様子を示す図である。高屈折率層26に導入された光は、粗面化された光取り出し面において散乱および回折して大気中に放出される。
【0024】
図3(a)は、光取り出し面である高屈折率層26の表面において散乱を伴って放出される光の様子が示されている。半導体レーザ10からの光は、例えば、発散光または光学系によって収斂された絞り光の状態で波長変換部材20に導入される。この場合、高屈折率層26の光取り出し面には様々な方向から光が照射され、複数の突起によって様々な方向に向けて大気中に光が放射される。高屈折率層26と空気との屈折率差は比較的大きいため、大気中に放射される光の放射角度範囲を大きくすることが可能となる。すなわち、高屈折率層26が高い屈折率を有するが故に、光散乱を効果的に生じさせることが可能となる。光散乱が促進されることにより目に対する安全性が向上するとともに、発光色の混色性をも改善することが可能である。すなわち、本実施例に係る光源装置によれば、波長変換部材20の光取り出し面から放射される青色光の放射角度範囲が拡大されることから、図2に示すように、黄色光YLと青色光BLをほぼ完全に混色させることが可能となる。
【0025】
図3(b)は、光取り出し面である高屈折率層26の表面において回折を伴って放出される光が示されている。高屈折率層26の表面に形成された突起の径および高さが高屈折率層26内における光の波長の約10倍以下である場合、光は突起に衝突したときに回折を生じ、これにより新たな波面を生じさせる。突起において回折を生じた光は、いかなる光学系をもってしても半導体レーザ10から出射されたレーザ光のスポット径に復元することは不可能となる。つまり、ビームスポットサイズは波長変換部材20の光取り出し面のサイズに拡大される。ビームスポットサイズが十分に大きい場合には、人間の目に対する危険性は排除され、アイセーフ化が達成される。
【0026】
尚、半導体レーザ10からの光が平行光の状態で波長変換部材20に導入される場合には、高屈折率層26の表面の突起のサイズを比較的小さくすることが好ましい。これにより、光取り出し面における光散乱が抑制され、回折が支配的となる。マイクロコーンは特定の結晶面が表出した六角錐状突起であるところ、平行光を導入した場合において、マイクロコーンのサイズが大きい場合には、光放出が特定の方向に集中してしまうおそれがある。マイクロコーンのサイズを小さくして光取り出し面において回折が支配的に生じるようにすることによりそのような問題を回避することが可能となる。具体的には、突起の底面の径および高さを、高屈折率層26内におけるレーザ波長の0.5倍以上5倍以下の範囲に設定することが好ましい。例えば、GaN系青色レーザを使用した場合であって、高屈折率層26がGaNにより構成される場合、突起サイズは径が90nm以上500nm以下であることが好ましく、より好ましくは150nm以上300nm以下である。
【0027】
一方、高屈折率層26と空気との屈折率差が大きい故、これらの界面において多重反射される光成分が多くなる。これにより、波長変換部材20内部で青色光と黄色光とを均一に混ぜることが可能となり、色ムラのない白色光を得ることが可能となる。すなわち、波長変換部材20は光ミキサーとしての機能も有する。また、高屈折率層26の表面に多数の六角錐状の突起を形成することにより、ほぼ理想に近い光取り出し効率を実現することが可能となる。また、レーザ入射面に屈折率の低い層(蛍光体層22)を配置し、光取り出し面側に屈折率の高い層(高屈折率層26)を配置する層構成も光取り出し効率向上に寄与する。
【0028】
また、高屈折率層26を構成する窒化物半導体の熱伝導率は150〜250W/m・Kと比較的良好であり、また表面に複数の突起が設けられているため蛍光体層22において生じた熱を効果的に大気中に放出することが可能となる。尚、高屈折率層26の表面に六角錐状の突起を細密に形成した場合、表面積は平坦面の場合のおよそ2倍となる。
【0029】
次に、上記した構成を有する波長変換部材20の製造方法を図4(a)〜(d)を参照しつつ説明する。
【0030】
はじめに、GaN系窒化物半導体結晶を成長可能なC面サファイア基板30を用意する。続いて、有機金属気相成長法(MOCVD: Metal Organic Chemical Vapor Deposition)により成長用基板10上にGaNからなる厚さ10μm程度の高屈折率層26を形成する(図4(a))。
【0031】
次に、蛍光体層22を構成する蛍光体ガラスを用意しておく。蛍光体ガラスは、ガラス粉末と蛍光体粉末との焼結体である。次に、接合層24の材料であるSOG溶剤をスピンコート法により高屈折率層26の表面に塗布する。尚、SOC溶剤は、シラノール(Si(OH))をアルコールに溶かしたものである。蛍光体層22と高屈折率層26とを貼り合せた状態で押圧を加える。プレス圧力は例えば5kg/cm、プレス時間は例えば10分である。続いて、蛍光体層22と高屈折率層26とを貼り合せたものに450℃、30分間の熱処理を施してSOGの溶媒成分を揮発させ、シラノールを脱水重合反応させる。これにより蛍光体層22と高屈折率層26とが接着層24を介して接合される(図4(b))。
【0032】
次に、レーザリフトオフ法などによりサファイア基板30を剥離する。レーザ光源としてエキシマレーザを使用することができる。サファイア基板30の裏面側から照射されたレーザは、高屈折率層26に達し、サファイア基板30との界面近傍におけるGaNを金属GaとNガスに分解する。これにより、サファイア基板30と高屈折率層26との間に空隙が形成され、サファイア基板30が高屈折率層26から剥離する。サファイア基板30を剥離することにより高屈折率層26の表面が露出する(図4(c))。
【0033】
次に、サファイア基板30を剥離することにより露出した高屈折率層26の表面をTHAH(テトラ・メチルアンモニア溶液)等でエッチングして高屈折率層26の表面にGaNの結晶構造に由来する複数の六角錐状突起(マイクロコーン)を形成する(図4(d))。以上の各工程を経ることにより波長変換部材20が完成する。
【0034】
以上の説明から明らかなように、本実施例に係る波長変換部材20は、半導体レーザ側に配置された蛍光体層22と、蛍光体層22のレーザ入射面と対向する面に接合され且つ蛍光体層22の屈折率よりも高い屈折率を有する高屈折率層26と、を有し、高屈折率層は光取り出し面に多数の六角錐状突起を有する。このような波長変換部材20の構成によれば、光取り出し面において光散乱・回折構造が形成され、蛍光体層22を透過したレーザ光は、高屈折率層26の光取り出し面において散乱および回折して大気中に放出される。高屈折率層26と空気との屈折率差は比較的大きい故、上記散乱および回折の程度も大きくなり、レーザ光の波面に大きなゆらぎを与えることができる。すなわち、本実施例に係る波長変換部材20によれば、レーザ光をインコヒーレント光として取り出すことができ、目に対する安全性および混色性を改善することが可能となる。また、高屈折率層26を蛍光体層22よりも熱伝導率の高い材料で構成することにより、蛍光体がレーザ光の波長変換を行う際に発する熱を効果的に大気中に放出させることが可能となる。
【実施例2】
【0035】
図5は、本発明の実施例2に係る光源装置2の構成を示す図である。光源装置2は、波長変換部材の構成が上記した実施例1のものと異なる。波長変換部材20aは、レーザ入射面の一部と、光取り出し面の全面を除く表面に光反射膜28を有する。すなわち、光反射膜28は、波長変換部材20aの側面と、レーザ入射面である蛍光体層22の底面の一部を覆う。レーザ入射面において光反射膜28が形成されていない部分は波長変換部材20aにレーザ光を導入するためのレーザ入射口29である。光反射膜28は、光反射性を有する金属で構成され、例えば、Ag/Ti/Pt/Auを順次積層した多層膜により構成される。このように、波長変換部材20aの表面を光反射膜28で覆うことにより、波長変換部材20aの側面から出ようとする光は光反射膜28によって波長変換部材20aの内部側に反射されることにより、光取り出し面から取り出すことのできる光の量を増大させることが可能となり、光取り出し効率を向上させることが可能となる。また、波長変換部材20aの側面においては、光散乱および回折が生じにくいことから、側面から光を外部に放出することは危険である。本実施例のように波長変換部材20aの表面に光反射膜28を設けることにより、そのような危険な光放出がなくなり、目に対する安全性が確保される。
【0036】
図6(a)〜(d)は、実施例2に係る波長変換部材20aの製造方法を示す図である。はじめに、図4に示された各工程を経ることにより得られる蛍光体層22上に高屈折率層26を積層したウエハ21を用意する。その一方、ウエハ21を一時的に支持するための支持基板40を用意する。支持基板40は、後述するウエハのダイシング工程において破壊しない程度の機械的強度とUV光に対して透過性を有するものであればよく、例えばサファイア基板を用いることができる。次に、支持基板40上に粘着シート42を介して複数の突起が形成された高屈折率層26の表面が接着面となるようにウエハ21を貼り付ける。粘着シート42は所定エネルギーのUV光を照射することにより剥離することができるUV剥離型粘着シートである(図6(a))。
【0037】
次に、ダイシング法またはレーザスクライブ法等により所定の分割ラインに沿ってウエハ21を分割する。分割溝50は、粘着シート42に達しているが、支持基板40にまでは達しない深さで形成される。分割溝50の形状は下方に向かうにつれて溝幅がしだいに狭くなるV字型であることが好ましい。すなわち、分割された各個片がテーパ形状となるように分割溝50を形成することが好ましい(図6(b))。
【0038】
次に、蛍光体層22のレーザ入射口29に対応する部分を覆うレジストマスク(図示せず)を形成した後、蒸着法等によりウエハ20の上面および分割溝50を形成することにより表出した側面を覆うようにAg(厚さ250nm)/Ti(厚さ100nm)/Pt(厚さ200nm)/Au(厚さ200nm)を順次堆積させ、光反射膜28を成膜する。続いて、上記レジストマスクを除去することにより上記金属をリフトオフしてレーザ入射口29を形成する(図6(c))。
【0039】
次に、支持基板40の裏面側から所定エネルギーのUV光を照射して粘着シート42を支持基板40と共に剥離する(図6(d))。以上の各工程を経ることにより波長変換部材20aが完成する。
【0040】
このように、本実施例に係る波長変換部材およびこれを用いた光源装置によれば、上記した実施例1に係るものと同様の効果を得ることができる。また、光取り出し効率および目に対する安全性を更に向上させることが可能となる。
【0041】
図7(a)〜(d)は、それぞれ、上記した波長変換部材20aの構成を改変した変形例である。
【0042】
図7(a)に示されている波長変換部材20bは、蛍光体ガラスからなる蛍光体層22と窒化物半導体からなる高屈折率層26とが接着層を介さずに直接接合されている。これにより、蛍光体層22において発生した熱が高屈折率層26に伝わりやすくなり放熱性が改善される。このような積層構造は、例えば以下のようにして得ることができる。高屈折率層26を構成する窒化物半導体の結晶成長を行った後に、窒化物半導体の表面に蛍光体ガラスの原材料を散布して約950℃にてこれを一旦溶融させた後、硬化させる。図4(c)に示すようにサファイア基板30を剥離して、これによって表出した窒化物半導体の表出面に図4(d)に示すようにウェットエッチングにより凹凸を形成する。その後、図6(a)〜(d)に示すように粘着シート42を用いて支持基板40を貼り合わせ、窒化物半導体を分割し、光反射膜28を設ける。波長変換部材20bがその側面およびレーザ入射面の一部を覆う光反射膜28を有する点は、上記した波長変換部材20aと同様である。
【0043】
図7(b)に示される波長変換部材20cにおいて、高屈折率層26は、蛍光体層22との接合面および光取り出し面の両面に凹凸を有する。蛍光体層22は、高屈折率層26の凹凸面に密着して接合されている。このように、高屈折率層26の両面に光散乱・回折構造面を形成することによりレーザ光を回折・散乱させる効果をより高めることができる。また、蛍光体層22と高屈折率層26との接触面積が増加するため放熱性をより高めることが可能となる。例えば、高屈折率層26を構成する窒化物半導体の結晶成長を行った後に、ドライエッチングにより窒化物半導体の表面に凹凸を形成し、この凹凸面に蛍光体ガラスの原材料を散布して約950℃にてこれを溶融させて凹凸面に密着させることにより、蛍光体層22と高屈折率層26との接合面を凹凸にすることができる。凹凸の形状および寸法は、光散乱・回折効果が得られるように適宜定めることができる。例えば、凹凸面は、ストライプ状の溝によって構成することができる。一方、光取り出し面側の凹凸は、上記した実施例1の場合と同様にサファイア基板の剥離後のウェットエッチングにより形成することができる。更に、図6(a)〜(d)に示すように粘着シート42を用いて支持基板40を貼り合わせ、窒化物半導体を分割し、光反射膜28を設ける。波長変換部材20cが、その側面およびレーザ入射面の一部を覆う光反射膜28を有する点は、上記した波長変換部材20aと同様である。
【0044】
図7(c)に示される波長変換部材20dにおいて、高屈折率層26は、蛍光体層22との接合面に六角錐状の突起(マイクロコーン)を有する。蛍光体層22は、かかる凹凸面に密着して接合されている。すなわち、波長変換部材20dは、高屈折率層26と蛍光体層22との接合面において光散乱・回折構造を有する。このような構成によっても、上記各実施例に係る波長変換部材と同様の光散乱・回折効果を得ることができる。また、蛍光体層22と高屈折率層26との接触面積が増加するため放熱性をより高めることが可能となる。尚、高屈折率層26の光取り出し面は、図7(c)に示すように平坦であってもよいし、凹凸を有していてもよい。
【0045】
このような積層構造は、例えば以下のようにして得ることができる。サファイア基板上に高屈折率層26を構成する窒化物半導体の結晶成長を行った後に、窒化物半導体の表面に支持基板を貼り付ける。次に、レーザリフトオフ法などによりサファイア基板を剥離する。サファイア基板を剥離することにより表出した窒化物半導体の表面(C−面)をウェットエッチングして六角錐状突起(マイクロコーン)を形成する。六角錐状突起が形成された窒化物半導体の表面に蛍光体ガラスの原材料を散布して約950℃にてこれを溶融させて、凹凸面に密着させた後、硬化させる。窒化物半導体を分割し、光反射膜28を形成した後、支持基板を除去する。波長変換部材20dが、その側面およびレーザ入射面の一部を覆う光反射膜28を有する点は、上記した波長変換部材20aと同様である。
【0046】
図7(d)に示される波長変換部材20eは、レーザ入射口が反射防止膜(ARフィルム)32で覆われている。反射防止膜32は、例えば屈折率が互いに異なる2種類の層を交互に繰り返して積層した多層膜である。高屈折率層の材料としては、例えばTiO、Taなどが挙げられる。低屈折率層の材料としては、例えばSiOなどが挙げられる。このような材料からなる高屈折率層と低屈折率層を交互に積層することにより反射防止膜32が形成される。また、高屈折率層と低屈折率層の中間の屈折率を持つ中間屈折率層をこれらの間に挿入してもよい。中間屈折率層の材料としては、例えばAlなどが挙げられる。
【0047】
蛍光体層22のレーザ入射口に反射防止膜32を設けることにより、レーザ入射面における光反射が減少し、波長変換部材20eへのレーザ光の導入効率を向上させることが可能となる。
【符号の説明】
【0048】
10 レーザダイオード
20、20a、20b、20c、20d、20e 波長変換部材
22 蛍光体層
24 接着層
26 高屈折率層
28 光反射膜
29 レーザ入射口
30 サファイア基板
32 反射防止膜
40 支持基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を導入し、前記レーザ光の波長とは異なる波長の光を放射する波長変換部材であって、
レーザ光を導入し得るレーザ入射面を有し且つ層内に蛍光体を含有する蛍光体層と、
前記蛍光体層の前記レーザ入射面と対向する面に接合され且つ前記蛍光体層の屈折率よりも高い屈折率を有する高屈折率層と、を有し、
前記高屈折率層は、前記蛍光体層との接合面および前記接合面と対向する光取り出し面の少なくとも一方に、凹凸を有することを特徴とする波長変換部材。
【請求項2】
前記蛍光体層および前記高屈折率層の表出面を部分的に覆う光反射膜を更に有することを特徴とする請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項3】
前記高屈折率層は、窒化物半導体または燐化物半導体からなることを特徴とする請求項1または2に記載の波長変換部材。
【請求項4】
前記高屈折率層は、窒化ガリウム系半導体からなることを特徴とする請求項3に記載の波長変換部材。
【請求項5】
前記凹凸は、前記窒化物半導体または前記燐化物半導体の結晶構造に由来する錐状突起により構成されることを特徴とする請求項3に記載の波長変換部材。
【請求項6】
前記蛍光体層は、蛍光体ガラスまたは蛍光体セラミックであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1つに記載の波長変換部材。
【請求項7】
前記高屈折率層は、前記蛍光体層の接合面と前記光取り出し面の両面に凹凸を有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載の波長変換部材。
【請求項8】
前記蛍光体層の前記レーザ入射面に設けられた反射防止膜を更に有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載の波長変換部材。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1つに記載の波長変換部材を有する光源装置であって、
前記レーザ入射面にレーザ光を照射する半導体レーザを有することを特徴とする光源装置。
【請求項10】
前記凹凸を構成する突起の1つの径および高さは、前記レーザ光の前記高屈折率層の内部における波長の10倍以下であることを特徴とする請求項9に記載の光源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−182376(P2012−182376A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45309(P2011−45309)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】