説明

波長板及びこれを用いた光ピックアップ装置

【課題】波長板を2枚貼り合わせた1/2波長板において、位相差の温度依存性を小さくした波長板を提供する。
【解決手段】位相差τ1(deg)、光学軸方位角θ1(deg)を有する第1の波長板と位相差τ2(deg)、光学軸方位角θ2(deg)を有する第2の波長板とを2枚貼り合わせてなる波長板において、第1の波長板の位相差τ1(deg)及び第2の波長板の位相差τ2(deg)をτ1=τ2=360n+180(n=0,1,2…)とし、且つ、入射光と出射光との偏光面のなす角度をθ(deg)とすると、θ1=(90+θ/2)/2,θ2=θ1+90+θ/2を満足するように第1の波長板と第2の波長板を貼り合わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ピックアップ装置に使われる波長板に関し、特に位相差の温度依存性を補償する波長板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マルチメディアの普及に伴い、文字から画像まで各種の情報を大量に、且つ、高速に処理する必要が生じ、形状がコンパクトでありながら従来の磁器記録媒体と比較して記憶容量が格段に大きく、且つ、高速の読み書きが可能なCDやDVD等の光ディスクの需要が急速に拡大している。この光ディスクに書き込まれている音声や映像などのデジタル信号を読み取る装置として光ピックアップ装置が使われる。該装置は、光ディスクの面上にレーザービームを当ててその反射光を拾うことにより、面上に凹凸(ビット)として作りこまれている記録媒体を読み取る構造となっている。この光ピックアップ装置の光学部品として用いられる波長板は、光の偏光状態を変化させる働きをもっており、位相差を90(deg)ずらして直線偏光を円偏光に、または円偏光を直線偏光に変換させる1/4波長板、あるいは位相差を180(deg)ずらして直線偏光の偏光面を回転させる1/2波長板などがある。図5は1/2波長板の構造を示したものであり、直線偏光が1/2波長板11に入射し、その入射偏光面と基板の光学軸とのなす角をθとしたとき、出射光は入射偏光面に対して2θ回転した直線偏光となる。
【0003】
水晶のような結晶材料で構成した1/2波長板においては、前述した単板で1/2波長板を構成した以外に波長板を2枚貼り合わせて1/2波長板を構成したものがある。これは、2枚の波長板を貼り合わせることで位相差を180(deg)としたもので、単板構造と比較してコストは高くなるものの、入射角依存性に優れた1/2波長板を実現できる。図6は波長板を2枚貼り合わせた1/2波長板の構造を示したものである。波長板Aの位相差1080(deg)、光学軸方位角15(deg)とし、波長板Bの位相差900(deg)、光学軸方位角105(deg)として波長板Aと波長板Bの光学軸のなす角を直角になるよう貼り合わせることで出射光偏光面を30(deg)回転させている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記波長板の温度依存性について検討を行った。図7は、前記波長板の位相差の温度依存性を示した図である。同図より室温25℃の条件下においては波長板の位相差は180(deg)となっているが、室温より温度が変化すると位相差は180(deg)から変化してしまうことが分かる。このように波長板の位相差の温度依存性が高いと出射光の位相差が温度により変化してしまい、この現象は光ピックアップ装置において好ましくない。本発明は、以上の問題を解決したものであって、2枚の波長板を貼り合わせた波長板において、位相差の温度依存性が小さい波長板及びそれを用いた光ピックアップ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために本発明に係る波長板の請求項1記載の発明は、位相差τ1(deg)、光学軸方位角θ1(deg)を有する第1の波長板と位相差τ2(deg)、光学軸方位角θ2(deg)を有する第2の波長板とを2枚貼り合わせてなる波長板において、第1の波長板の位相差τ1(deg)及び第2の波長板の位相差τ2(deg)をτ1=τ2=360n+180(n=0,1,2…)とし、且つ、入射光と出射光との偏光面のなす角度をθ(deg)とすると、θ1=(90+θ/2)/2,θ2=θ1+90+θ/2を満足するように第1の波長板と第2の波長板を貼り合わせたことを特徴とする波長板である。請求項2記載の発明は、請求項1記載の波長板において、第1の波長板と第2の波長板は水晶基板からなることを特徴とする波長板である。請求項3記載の発明は、請求項1及び2のいずれか一項に記載の波長板を有する光ピックアップ装置である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】本発明に係る光ピックアップ装置の模式図を示す。
【図2】本発明に係る波長板の構造を示した図であり、(a)に平面図、(b)に側面図を示す。
【図3】本発明に係る波長板の機能を表したポアンカレ球のS1−S2平面図を示す。
【図4】本発明に係る波長板の位相差温度依存性の関係を示す。
【図5】従来の単板構造の波長板の構造を示した図である。
【図6】従来の貼り合わせ型波長板の構造を示した図であり、(a)に平面図、(b)に側面図を示す。
【図7】従来の貼り合わせ型波長板の位相差温度依存性の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を図面に図示した実施の形態例に基づいて詳細に説明する。図1は本発明に係る光ピックアップ装置の模式図を示したものである。半導体レーザ1から出射した光は、コリメートレンズ2により平行な光とされ、1/2波長板3により偏光面を回転させる。1/2波長板3を通過した光はS偏光を殆ど反射させ、P偏光を殆ど透過させる偏光ビームスプリッタ4に入射し、該偏光ビームスプリッタ4により反射したS偏光は対物レンズ5により収束され光ディスク6に照射される。また偏光ビームスプリッタ4を透過したP偏光は光量モニタ7に受光される。また、コリメートレンズ2は偏光ビームスプリッタ4の後に配置する場合もある。
【0008】
前記光ピックアップ装置において、1/2波長板は入射した直線偏光を回転させ、位相差を180(deg)ずらして光を出射させる働きを持っている。従来の波長板においては、位相差の温度依存性が高いため温度変化により位相差がずれてしまい、光ピックアップ装置において悪影響を与えていた。この問題を解決すべく本発明では、位相差の温度依存性を小さくした波長板を提案する。
【0009】
ここで、本発明に係る波長板について詳細に説明する。図2は本発明に係る波長板の平面図と側面図を示しており、波長板を2枚貼り合わせることで1/2波長板を構成している。ここで、波長板A(第1の波長板)の光学軸方位角をθ1、波長板B(第2の波長板)の光学軸方位角をθ2、入射光と出射光との偏光面のなす角をθとし、波長板Aと波長板Bの位相差τ1、τ2(deg)を光の波長に対してτ1=τ2=360×n+180(n=0、1,2…)となるように設定している。
【0010】
前記波長板の機能をポアンカレ球のS1−S2平面図で表記したものを図3に示す。なお、波長板Aの光学軸方位角をθ1、波長板Bの光学軸方位角をθ2、入射光と出射光との偏光面のなす角をθとし、ポアンカレ球上において実際の角度を2倍にして考えている。また、S1軸から2θ1、2θ2回転させた位置に回転軸R1、R2をとり、それぞれ位相差τ1、τ2の角度だけ回転させ、止まった位置が出射光の偏光状態を表している。入射光の偏光状態であるP0から波長板Aを通過すると回転軸R1によりP1の偏光状態に変化し、続いて波長板Bを通過すると回転軸R2によりP2へと位相が変化する様子が表されている。
【0011】
温度変化による波長板の位相差変化をそれぞれΔTτ1、ΔTτ2とすると、波長板Aと波長板Bの位相差は等しく設定しているのでΔTτ1=ΔTτ2となる。また、温度変化により回転軸R1、R2の回転角度もそれぞれΔTτ1、ΔTτ2変化するのでポアンカレ球上においてはcosΔTτ1、cosΔTτ2となる。ここで、温度による位相差変化をP01及びP12の長さに換算した値をそれぞれΔk1、Δk2とすると、Δk1=P01/2×(1−cosΔTτ1),Δk2=P12/2×(1−cosΔTτ2)と表される。
【0012】
本発明の課題である温度依存性は、温度により複屈折材料の屈折率が変化するために生じ、Δk1=Δk2であれば温度依存性が波長板A、Bで相殺される。従って、Δk1=Δk2とするにはP01=P12となるように回転軸R1、R2を位置させる、即ち波長板Aと波長板Bの光学軸方位角θ1、θ2を設定する必要がある。そこで、本願発明者は、波長板Aの光学軸方位角θ1(deg)をθ1=(90+θ/2)/2、波長板Bの光学軸方位角θ2(deg)をθ2=θ1+90+θ/2とすることにより、P01=P12、即ち、Δk1=Δk2となることを見出し、位相差の温度依存性を相殺できるのではないかと考えた。
【0013】
図4は、本発明に係る波長板を2枚貼り合わせた1/2波長板における位相差の温度依存性を示した図である。波長板の設計条件は、波長板Aの位相差τ1と波長板Bの位相差τ2を900(deg)と等しくし、入射光と出射光との偏光面のなす角θ=30(deg)なるように、波長板Aの光学軸方位角θ1をθ1=(90+θ/2)/2から52.5(deg)とし、波長板Bの光学軸方位角θ2をθ2=θ1+90+θ/2から157.5(deg)と設定した。図4から、室温25℃から温度が変化しても波長板の位相差がほとんど変化しないことが分かり、位相差の温度依存性が小さい波長板を実現することができる。
【0014】
以上のように、本発明は波長板を2枚貼り合わせた1/2波長板において、波長板Aの位相差τ1(deg)と波長板Bの位相差τ2(deg)をτ1=τ2=360×n+180(n=0、1,2…)とし、且つ、波長板Aの光学軸方位角θ1(deg)をθ1=(90+θ/2)/2、波長板Bの光学軸方位角θ2(deg)をθ2=θ1+90+θ/2とすれば、位相差の温度依存性を小さくすることができ、温度によらない安定した位相差が得られる。
【0015】
(発明の効果)
以上、説明したように本発明によれば、波長板を2枚貼り合わせた波長板において位相差の温度依存性を小さくしたので、出射光の位相差が温度によらず安定し、光ピックアップ装置や光通信系機器において優れた効果を奏する。
【符号の説明】
【0016】
1…半導体レーザ2…コリメートレンズ3…1/2波長板4…偏光ビームスプリッタ5…対物レンズ6…光ディスク7…光量モニタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位相差τ1(deg)、光学軸方位角θ1(deg)を有する第1の波長板と位相差τ2(deg)、光学軸方位角θ2(deg)を有する第2の波長板とを2枚貼り合わせてなる波長板において、
第1の波長板の位相差τ1(deg)及び第2の波長板の位相差τ2(deg)をτ1=τ2=360n+180(n=0,1,2…)とし、且つ、入射光と出射光との偏光面のなす角度をθ(deg)とすると、θ1=(90+θ/2)/2,θ2=θ1+90+θ/2を満足するように第1の波長板と第2の波長板を貼り合わせたことを特徴とする波長板。
【請求項2】
請求項1記載の波長板において、第1の波長板と第2の波長板は水晶基板からなることを特徴とする波長板。
【請求項3】
請求項1及び2のいずれか一項に記載の波長板を有する光ピックアップ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−65175(P2011−65175A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246107(P2010−246107)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【分割の表示】特願2003−119915(P2003−119915)の分割
【原出願日】平成15年4月24日(2003.4.24)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】