説明

波長選択光スイッチ

【課題】光軸調整が必要となる要素を極力省き、高精度で動作が安定な波長選択光スイッチを提供する。
【解決手段】この波長選択光スイッチ1は、光分波器10と集光光学系20とミラーアレイ30とを有する。光分波器10は、1つの入力ポートPin及び複数の出力ポートPort1〜PortNを有する入出力導波路11と、入出力導波路11と接続された第1スラブ導波路12と、集光光学系20と空間結合する第2スラブ導波路13と、第1スラブ導波路12と第2スラブ導波路13とを接続しているアレイ導波路グレーティング14とを同一基板上に形成してなる平面光波回路である。そして、入力ポートPin及び各出力ポートPort1〜PortNに光ファイバ16-0〜16-Nがそれぞれ直接接続されている。光軸調整が必要となるのは、光分波器10と集光光学系20間及び集光光学系20とミラーアレイ30間のみである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長多重光を分光素子で波長毎に分離した後にレンズを用いて集光して可動ミラーで反射させることにより各波長の光の経路の切り替えを行う波長選択光スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の波長選択光スイッチの構成例を図3に示す。この波長選択光スイッチ50は、入力ポートPinおよび出力ポートPort1〜Port3を有する入出力光学系51と、光分波器52と、集光レンズ53と、複数の可動ミラーを配置したミラーアレイ54と、これらの光学部品が載置されたベース55と、を有している。この波長選択光スイッチ50では、入力ポートPinに入力された波長多重光(Wavelength Division MultiPlexing:WDM)光が、光分波器52で各波長の光に分離された後、集光レンズ53によってミラーアレイ54の各波長に対応した可動ミラーにそれぞれ集光され、各々の可動ミラーの反射面の角度が制御されることにより各波長の反射光が任意の出力ポートPort1〜Port3に導かれ、各波長の光の経路の切り替えが行われる。
【0003】
従来のこの種の波長選択光スイッチ50では、光分波器52として、一般的に回折格子が利用される。回折格子は、ガラス基板上に、平行な多数の溝を周期的に刻んだ光学素子であり、光の回折現象を利用して、一定の角度で入射される複数の波長の光を波長毎に異なる角度で出射することにより分光するものである。このため、入出力光学系51と光分波器52との間に、入力信号光の光束断面形状を回折格子による分光効果が得られやすい所望の形状に変形させるビームエキスパンダ(ビーム変更ユニット)56が設けられている。ビームエキスパンダ56には、一般的にアナモルフィック・プリズムペアが用いられる。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−148429号公報(図7A)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した従来の波長選択光スイッチ50は、光分波器52として回折格子を用いているためビームエキスパンダ56を必要とし、ビームエキスパンダ56と光分波器52は空間を介して配置されているため、光軸調整が難しく、精度が低下する、動作が不安定になるといった問題がある。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、光軸調整が必要となる要素を極力省き、高精度で動作が安定な波長選択光スイッチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の波長選択光スイッチは、少なくとも1つの入力ポートと、複数の出力ポートと、前記入力ポートに入力された波長多重光を波長に応じて分離する光分波器と、前記光分波器で分離された各波長の光を波長ごとに異なる位置に集光させる集光光学系と、前記集光光学系で集光された各波長の光の集光位置に配置された複数の可動ミラーを有し、それぞれの可動ミラーで反射された各波長の光が、前記集光光学系および前記光分波器を介して、前記複数の出力ポートのうちの当該波長の出力先に設定された出力ポートに導かれるように、各可動ミラーの角度が制御されるミラーアレイと、を備えた波長選択光スイッチにおいて、前記光分波器が、前記入力ポート及び前記複数の出力ポートとを有する入出力導波路と、前記入出力導波路と接続された第1スラブ導波路と、前記集光光学系と空間結合する第2スラブ導波路と、前記第1スラブ導波路と前記第2スラブ導波路とを接続しているアレイ導波路グレーティングとを同一基板上に形成してなる平面光波回路である、ことを特徴とする。
【0008】
上記のように構成された本発明の波長選択光スイッチでは、光分波器の入力ポートに入力された波長多重光は、入出力導波路を通って第1スラブ導波路に導かれ、第1スラブ導波路内で回折することにより拡がってアレイ導波路グレーティングに入射する。アレイ導波路グレーティングに入射した波長多重光は、アレイ導波路グレーティング内を伝播するに従って波長成分ごとに位相ずれを生じて第2スラブ導波路に至る。第2スラブ導波路内に入射した各波長成分の光は、位相ずれ量に応じてそれぞれ異なる向きに伝播する。その結果、各波長成分の光が互いに分離されて第2スラブ導波路から出射される。第2スラブ導波路から出射された各波長成分の光は、集光光学系によってミラーアレイの各波長に対応した可動ミラーにそれぞれ集光される。そして、各々の可動ミラーの反射面の角度が制御されることにより各波長の反射光が任意の出力ポートに導かれるように、各波長の光の経路の切り替えが行われる。
【0009】
光分波器として、入力ポート及び出力ポートとを有する入出力導波路と、第1スラブ導波路と、第2スラブ導波路と、アレイ導波路グレーティングとを同一基板上に形成してなる平面光波回路を用いているので、入力ポートと光分波器との間に従来設けられていたビームエキスパンダが不要となる。光分波器の入力ポート及び各出力ポートのそれぞれに光ファイバを直接接続した構成を採用することにより、光分波器と空間結合される部品を集光光学系のみとすることができる。光分波器の集光光学系との空間結合は、光分波器となる平面光波回路を第2スラブ導波路の部分で切断することにより形成された切断面と集光光学系とを互いに光軸調整して対向させることにより実現できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光分波器として、アレイ導波路グレーティングを有する平面光波回路を用いたので、光軸調整が必要となる要素を最小限にとどめ、高精度で動作が安定な波長選択光スイッチを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明にかかる波長選択光スイッチの構成例を示す斜視図
【図2】図1の波長選択光スイッチが備える光分波器の製造方法を示す平面図
【図3】従来の波長選択光スイッチの構成例を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の波長選択光スイッチを実施するための最良の形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1は、本発明にかかる波長選択光スイッチの構成例を示す斜視図である。
【0014】
この波長選択光スイッチ1は、光分波器10と、集光光学系20と、ミラーアレイ30と、を有している。
【0015】
光分波器10は、1つの入力ポートPin及び複数の出力ポートPort1〜PortNを有する入出力導波路11と、入出力導波路11と接続された第1スラブ導波路12と、集光光学系20と空間結合する第2スラブ導波路13と、第1スラブ導波路12と第2スラブ導波路13とを接続しているアレイ導波路グレーティング14とを同一基板上に形成してなる平面光波回路である。この光分波器10は、図2に例示する光分波器17を第2スラブ導波路18の部分で切断することにより製造されたものである。図中の一点鎖線は切断線を示しており、この例では、第2スラブ導波路18の先端部とこれに接続された入出力導波路19を基板15の一部と共に切除することにより光分波器10が得られる。
【0016】
光分波器10の入力ポートPin及び各出力ポートPort1〜PortNには、光ファイバ16-0〜16-Nがそれぞれ直接接続されている。
【0017】
集光光学系20は、光分波器10の第2スラブ導波路13の入出射面(切断面)13aとミラーアレイ30との間に光軸調整して設けられており、光分波器10により分光された各波長(λ1〜λN)の光を、ミラーアレイ30の波長(λ1〜λN)ごとに異なる位置に集光させる働きをする。
【0018】
ミラーアレイ30は、光分波器10による分光方向に配列されたMEMS構造の複数の可動ミラー31-1〜31-Nを有し、それぞれの可動ミラー31-1〜31-Nで反射された各波長(λ1〜λN)の光が、集光光学系30および光分波器10を介して、当該波長(λ1〜λN)の出力先に設定された任意の出力ポートPort1〜PortNに導かれるように、各可動ミラー31-1〜31-Nの角度が制御される。
【0019】
上記のように構成された波長選択光スイッチ1では、光分波器10の入力ポートPinに入力された波長多重光は、入出力導波路11を通って第1スラブ導波路12に導かれ、第1スラブ導波路12内で回折することにより拡がってアレイ導波路グレーティング14に入射する。アレイ導波路グレーティング14に入射した波長多重光は、アレイ導波路グレーティング14内を伝播するに従って波長成分ごとに位相ずれを生じて第2スラブ導波路13に至る。第2スラブ導波路13内に入射した各波長成分の光は、位相ずれ量に応じてそれぞれ異なる向きに伝播する。その結果、各波長成分の光が互いに分離されて第2スラブ導波路13から出射される。第2スラブ導波路13から出射された各波長成分の光は、集光光学系20によってミラーアレイ30の各波長(λ1〜λN)に対応した可動ミラー31-1〜31-Nにそれぞれ集光される。そして、各々の可動ミラー31-1〜31-Nの反射面の角度が制御されることにより各波長(λ1〜λN)の反射光が任意の出力ポートPort1〜PortNに導かれるように、各波長(λ1〜λN)の光の経路の切り替えが行われる。
【0020】
この波長選択光スイッチ1によれば、光分波器10として、入力ポートPin及び出力ポートPort1〜PortNとを有する入出力導波路11と、第1スラブ導波路12と、第2スラブ導波路13と、アレイ導波路グレーティング14とを同一基板15上に形成してなる平面光波回路を用いたことにより、入力ポートと光分波器の間に従来設けられていたビームエキスパンダ56(図3)が不要となる。そして、光分波器10の入力ポートPin及び各出力ポートPort1〜PortNのそれぞれに光ファイバPort1〜PortNを直接接続した構成を採用したことにより、光分波器10と空間結合される部品を集光光学系20のみとすることができる。これにより、運用時に光軸調整が必要となる要素を極力省いた(この例では、光分波器10と集光光学系20間及び集光光学系20とミラーアレイ30間の光軸調整のみ)、高精度で動作が安定な波長選択光スイッチを実現することができる。
【0021】
なお、上記の例では、図2に例示する光分波器17を第2スラブ導波路18の部分で切断することにより得られた光分波器10を用いているが、第2スラブ導波路18の入出射面13aが基板15の端面から当初から露出している新規な構造の光分波器を製造し、それを光分波器10に用いてもよい。
【符号の説明】
【0022】
1 波長選択光スイッチ
10 光分波器
11 入出力導波路
12 第1スラブ導波路
13 第2スラブ導波路
13a 入出射面(切断面)
14 アレイ導波路グレーティング
20 集光光学系
30 ミラーアレイ
31-1〜31-N 可動ミラー
Pin 入力ポート
Port1〜PortN 出力ポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの入力ポートと、
複数の出力ポートと、
前記入力ポートに入力された波長多重光を波長に応じて分離する光分波器と、
前記光分波器で分離された各波長の光を波長ごとに異なる位置に集光させる集光光学系と、
前記集光光学系で集光された各波長の光の集光位置に配置された複数の可動ミラーを有し、それぞれの可動ミラーで反射された各波長の光が、前記集光光学系および前記光分波器を介して、前記複数の出力ポートのうちの当該波長の出力先に設定された出力ポートに導かれるように、各可動ミラーの角度が制御されるミラーアレイと、を有する波長選択光スイッチにおいて、
前記光分波器が、前記入力ポート及び前記複数の出力ポートを有する入出力導波路と、前記入出力導波路と接続された第1スラブ導波路と、前記集光光学系と空間結合する第2スラブ導波路と、前記第1スラブ導波路と前記第2スラブ導波路とを接続しているアレイ導波路グレーティングとを同一基板上に形成してなる平面光波回路である、ことを特徴とする波長選択光スイッチ。
【請求項2】
前記入力ポート及び前記複数の出力ポートのそれぞれに光ファイバが接続される、請求項1の波長選択光スイッチ。
【請求項3】
前記第2スラブ導波路の前記集光光学系との対向面は、前記平面光波回路を前記第2スラブ導波路の部分で切断することにより形成された切断面である、請求項1または2の波長選択光スイッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−3104(P2012−3104A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138988(P2010−138988)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】