説明

注入器具

【課題】 1回の穿刺で一部位に2種類の流動性物質を別々に所望量を注入可能であり、かつ眉間に手を置いて安定した形で手術できる器具を提供すること。
【解決手段】 複数の流動性物質を注入する注入器具であって、第一の流動性物質を供給する第一のシリンジと、第二の流動性物質を供給する第二のシリンジと、前記第一のシリンジ及び前記第二のシリンジの先端部をそれぞれ接続可能である第一接続部及び第二の接続部を有するハウジングと、ハウジングから突出するダブルルーメンの穿刺部とを含み、前記ハウジング内には、前記第一の接続部及び前記第二の接続部の先端に設けられた第一の流路及び第二の流路が設けられ、該第一の流路及び該第二の流路は、穿刺部の各々のルーメンと連通し、前記穿刺部の長さは、15〜40mmであることを特徴とする注入器具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注入器具に関する。より詳しくは、白内障手術に用いることに好適な注入器具である。
【背景技術】
【0002】
白内障とは、眼球の中にある水晶体が、灰白色や茶褐色に濁り、ものが霞んだりぼやけて見えづらくなる病気であり、最終的には失明をすることもある。白内障の発症により、一旦混濁してしまった水晶体は元に戻ることはない。
【0003】
混濁が軽度の場合は点眼等による薬物療法により白内障の進行を遅延させる療法もあるが、生活に支障を来す場合、視力を回復させるため、混濁した水晶体を取り除き、水晶体の代わりに人工のレンズを入れる手術を行われることが一般的である。近年では手術時間の短縮や術後視力予後の改善期間が短くなってきていること、QOLの意味からも、手術を行うことが多い。
【0004】
上記白内障の手術では、混濁した水晶体を除去する際に使用する超音波水晶体乳化吸引装置から発振される超音波振動、細かく散らばった水晶体片の接触などにより、角膜を透明に維持するために重要な働きをしている角膜内皮細胞に障害を与える恐れがある。そのため、手術中の角膜内皮細胞保護の目的でするために前房内に粘弾性物質を補充する。粘弾性物質には前房形成保持能力に優れる高分子量のものと角膜内皮細胞保護作用に優れる低分子量のものがあるが、前者は手術中に容易に吸引除去されやすく、後者は吸引除去されにくい性質がある。角膜内皮細胞側に吸引除去されにくい低分子量を注入後に高分子量を注入して貝殻の様に粘弾性物質の2重層で前房を形成して、角膜内皮細胞保護しながら水晶体除去手術を容易にする方法がある。この方法をソフトシェル法という。
【0005】
ソフトシェル法を行う際には、前房内に、まず最初に角膜内皮細胞を保護作用に優れる低分子量粘弾性物質を注入した後角膜内皮細胞側に注入した低分子量粘弾性物質を押しつけるように高分子量粘弾性物質を注入して前房を形成する。その後、水晶体前嚢を切開して、超音波水晶体乳化吸引装置で水晶体を粉砕吸引し、人工レンズを挿入する。粘弾性物質は人工レンズを挿入後に前房内より吸引除去する必要があるが、低分子量粘弾性物質は角膜内皮保護作用が優れる反面、術後に吸引除去しづらい欠点がある。そのため、低分子量粘弾性物質の使用量をなるべく減らすために、吸引除去されやすい高分子量粘弾性物質を前房形成に併用するのである。
【0006】
水晶体除去をする際の超音波水晶体乳化吸引時間が長くなるほど、角膜内皮細胞に対する障害は強くなる。上記の2種類の粘弾性物質を使用するソフトシェル法は、超音波水晶体乳化吸引時間が長くなる水晶体硬度の高い症例ではよく使用されるが、初心者にも容易に行えることから、手術が未熟な初心者では特に奨励される。しかしながら、2種類の粘弾性物質を前房内に注入することから、眼球に2回針を穿刺する必要があることが煩雑であるという問題がある。
【0007】
ここで、2種類の物質を投与する器具としては、例えば特許文献1のような器具があげられる。このものは、主に生体接着剤用の投与具である。生体接着剤とは、2種類の液剤を混合(反応)させて使用されるものであるため、2種類の液剤を同時に噴霧する形状となっており、ノズル先端は2液が混合された状態で噴霧されるよう、1つの噴霧口となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−76245号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ソフトシェル法については、前房のふくらみ形成をするにあたり、粘弾性物質の適量があり、さら詳しく言えば、低分子量粘弾性物質と高分子量粘弾性物質それぞれに適量がある。特許文献1のものを採用すると、低分子量粘弾性物質を注入し、次いで、高分子量粘弾性物質を注入する際、高分子量粘弾性物質を注入する前に、ノズルに残留した低分子量粘弾性物質を押し出すことが必須となる。そのため、低分子量粘弾性物質は結果的に余剰量を押し出すことになってしまう。
【0010】
そこで、眼球への穿刺が1回で済むとともに、複数の液体を適量投与可能であり、さらには、手術のしやすい形状である構造が必要である。
【0011】
本発明の目的は、眼球への穿刺が1回で済むとともに、複数の液体を適量投与可能であり、さらには、手術のしやすい形状である注入器具を提供することである。
【0012】
そこで、本発明者らは、流動性物質を注入する注入器具であって、第一の流動性物質を供給する第一のシリンジと、第二の流動性物質を供給する第二のシリンジと、前記第一のシリンジ及び前記第二のシリンジの先端部をそれぞれ接続可能である第一接続部及び第二の接続部を有するハウジングと、ハウジングから突出するダブルルーメンの穿刺部とを含み、前記ハウジング内には、前記第一の接続部及び前記第二の接続部の先端に設けられた第一の流路及び第二の流路が設けられ、該第一の流路及び該第二の流路は、穿刺部の各々のルーメンと連通し、前記穿刺部の長さは、15〜40mmであることを特徴とする注入器具、を用いることにより、1回の穿刺で一部位に2種類の流動性物質を別々に所望量を注入することが可能であることを見いだし、本願発明に至った。
【0013】
また、穿刺部の先端部を10°〜90°で屈曲させてもよく、好ましくは10〜50°で屈曲させることが好ましい。穿刺部の先端部を屈曲させることによって、穿刺部を前房に穿刺後、手は眉間等に楽な状態でおくことができる位置となるため、安定した姿勢で手術を続けることが可能であるためである。
【0014】
第一のシリンジと第二のシリンジは、各々のシリンジの基端が揃わないように平行に設けてもよいし、第一の接続部と第二の接続部は、各々の接続部の基端が揃わないように平行に設けられていてもよい。第一の流動性物質と第二の流動性物質とは別々に注入されるものであり、基端をずらすことによって、例えば、先に注入される流動性物質がどちらであるかを把握しやすくできる。その結果、2種類の流動性物質の注入操作を迅速に行うことができる。また、接続部の基端が揃わないようにすれば、第一のシリンジ及び第二のシリンジが、たとえ指掛け部が全円周方向に張り出しているシリンジであったとしても、互いに干渉することなく接続が可能である。
【0015】
さらに、前記第一のシリンジと前記第二のシリンジとを平行に固定する固定器具を設けてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の注入器具は、1回の穿刺で一部位に2種類の流動性物質を別々に所望量を注入可能であり、穿刺部の長さが15〜40mmであることから、眉間に手を置いて安定した形で手術できるため、医療に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のシリンジを接続していない注入器具の縦断面図である。
【図2】本発明の注入器具の正面図である。
【図3】本発明の穿刺部の先端部を屈曲させた注入器具の側面図である。
【図4】本発明の注入器具に固定器具を設けた正面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の注入器具について、図1を用いて説明する。ハウジング1の先端には、ダブルルーメンの穿刺部2が設けられており、ハウジング1の基端には、第一の接続部13及び第二の接続部14が設けられている。第一の接続部13はハウジング内に設けられた第一の流路11を通じて、第二の接続部14はハウジング内に設けられた第二の流路12を通じて、それぞれ、穿刺部2のダブルルーメンと連通している。第一の接続部13には第一の流動性物質を供給する第一のシリンジ3が、第二の接続部14には第二の流動性物質を供給する第二のシリンジ4が、それぞれ接続されている。手術の際に、安定して手術ができる体勢となるよう、穿刺部の長さは15〜40mmとなっている。また、15〜40mmとすることにより、摺動抵抗も低く抑えることができる。
【0019】
図1の注入器具は、第一接続部の基端と第二接続部が平行に設けられており、かつ各々の接続部の基端及び各々のシリンジの基端が揃わないように、穿刺部を軸として非対称になっている。このように配置することによって、各々のシリンジの指掛け部が全周方向に突出するものであっても互いに干渉しないように接続できるとともに、個々のシリンジ内に充填されている流動性物質を、別々に注入しやすいようになっている。
【0020】
また、図2に示すように、第一のシリンジと第二のシリンジとを平行に連結して固定できるような固定器具を設けてもよい。固定器具によって、各々の接続部に接続されているシリンジが固定されて安定性が増す。
【0021】
穿刺部2は先端部を屈曲させてもよい。図1に示される注入器具は、穿刺部を人差し指と中指で挟み込むようにして、ハウジングを握りこんで使用される。ここで、図3に示すように穿刺部2の先端部を屈曲させることによって、穿刺部を前房に穿刺後、手は眉間等に楽な状態でおくことができる位置となるため、安定した姿勢で手術を続けることが可能であり好ましい。屈曲させる角度は10°〜90°であることが好ましく、更に望ましい角度は10〜50°である。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の注入器具は、上述のように、1回の穿刺で一部位に2種類の流動性物質を別々に所望量を注入可能であり、穿刺部の長さが15〜40mmであることから、眉間に手を置いて安定した形で手術できるため、医療に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0023】
1 ハウジング
11 第一の流路
12 第二の流路
13 第一の接続部
14 第二の接続部
2 穿刺部
3 第一のシリンジ
4 第二のシリンジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の流動性物質を注入する注入器具であって、
第一の流動性物質を供給する第一のシリンジと、
第二の流動性物質を供給する第二のシリンジと、
前記第一のシリンジ及び前記第二のシリンジの先端部をそれぞれ接続可能である第一接続部及び第二の接続部を有するハウジングと、
ハウジングから突出するダブルルーメンの穿刺部とを含み、
前記ハウジング内には、前記第一の接続部及び前記第二の接続部の先端に設けられた第一の流路及び第二の流路が設けられ、
該第一の流路及び該第二の流路は、穿刺部の各々のルーメンと連通し、
前記穿刺部の長さは、15〜40mmであることを特徴とする
注入器具。
【請求項2】
前記穿刺部は、先端部が10°〜90°に屈曲されてなる、請求項1に記載の注入器具。
【請求項3】
前記穿刺部は、先端部が10°〜50°に屈曲されてなる、請求項1または2に記載の注入器具。
【請求項4】
前記第一のシリンジと第二のシリンジは、各々のシリンジの基端が揃わないように平行に設けられてなる請求項1から3のいずれかに記載の注入器具。
【請求項5】
前記第一の接続部と第二の接続部は、各々の接続部の基端が揃わないように平行に設けられてなる請求項1から4のいずれかに記載の注入器具。
【請求項6】
さらに、前記第一のシリンジと前記第二のシリンジとを平行に固定する固定器具を有する、請求項1から5のいずれかに記載の注入器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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