説明

注型用エポキシ樹脂組成物、及びコイル部品

【課題】熱サイクルや機械的応力によるクラックの発生を防止し、絶縁破壊特性及び耐熱性に優れた注型用樹脂組成物、及びこの注形用樹脂組成物を用いたコイル部品を提供する。
【解決方法】(A)非可とう性のエポキシ樹脂、及び(B)シリカ粒子を含む主剤成分と、(C)可とう性エポキシ樹脂、(D)硬化剤、及び(E)硬化促進剤を含む硬化剤成分とからなることを特徴とする、2液性注形用エポキシ樹脂組成物を調整する。コイル部品は、前記注型用エポキシ樹脂組成物を注入成形して得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注型用エポキシ樹脂組成物、及びコイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の各種機器に使用されるコイル、特にイグニッションコイルは、周囲に対して電気的絶縁性を確保しなければならないという観点から、樹脂組成物で注型封止して用いるのが常識となっている。このような樹脂組成物に対しては、高含浸性、高絶縁性が要求され、このような観点から上記樹脂組成物としては、従来エポキシ樹脂組成物が汎用されている。
【0003】
しかしながら、上述のようなコイル部品には高電圧が印加されるため、単に通常のエポキシ樹脂組成物を用いたのみでは、絶縁性が不十分であって絶縁破壊等が生じたり、封止樹脂硬化物の熱サイクルに起因した熱応力や機械的応力によって、封止樹脂にクラックが生じたりしてしまう場合があった。封止樹脂にクラックが生じると、コイルに電流を流した際に、前記クラック部分で異常放電等が発生することになり、上記コイル部品を正常に動作させることができない。
【0004】
クラックの発生は、エポキシ樹脂組成物に対して可とう性のエポキシ樹脂を配合することによってある程度抑制することができるものの、ガラス転移温度が低下して耐熱性が低下しまい、上述のような高温環境下で使用されるイグニッションコイルなどの封止樹脂として用いることができない。
【0005】
このような問題に鑑み、特許文献1においては、エポキシ樹脂組成物に対して特定範囲の粒径からなるシリカ粒子を所定量含有させることによってトリー経路を形成しにくくし、エポキシ樹脂組成物の絶縁破壊電圧を低下させ、コイル部品に高電圧が印加された場合においても絶縁破壊が生じないような試みがなされている。
【0006】
また、特許文献2においては、特定粒径の球状シリカを酸無水物と硬化促進剤からなるA剤と、エポキシ樹脂をB剤としたエポキシ樹脂組成物を得、線膨張率を低減させることによって耐熱サイクル性を向上させ、上述した熱応力によるクラックの発生を防止する試みがなされている。
【0007】
しかしながら、上述したような従来技術においても、注型封止した樹脂組成物の絶縁破壊や熱サイクルや機械的応力によるクラックの発生を十分に防止することができず、さらなる改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−195782号
【特許文献2】特開平11−71503号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、熱サイクルや機械的応力によるクラックの発生を防止し、絶縁破壊特性及び耐熱性に優れた注型用樹脂組成物、及びこの注形用樹脂組成物を用いたコイル部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成すべく、本発明は、
(A)非可とう性のエポキシ樹脂、及び(B)シリカ粒子を含む主剤成分と、(C)可とう性エポキシ樹脂、(D)硬化剤、及び(E)硬化促進剤を含む硬化剤成分とからなることを特徴とする、2液性注形用エポキシ樹脂組成物に関する。
【0011】
また、本発明は、上記注型用エポキシ樹脂組成物によって注型されたことを特徴とする、コイル部品に関する。
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべき鋭意検討を実施した。その結果、コイルの絶縁分野で現在封止樹脂としてエポキシ樹脂が汎用されていることに着目し、このエポキシ樹脂に種々の工夫を加えることで上記課題の解決を試みた。その結果、エポキシ樹脂組成物を、非可とう性のエポキシ樹脂等を含む主剤成分と、この主剤に対する硬化剤成分との2液性のエポキシ樹脂組成物とし、可とう性のエポキシ樹脂を硬化剤成分中に配合することにより上記課題を解決できることを見出した。
【0013】
すなわち、最終的に得るエポキシ樹脂組成物において、同様の低弾性及び曲げ伸びを得て、熱サイクルや機械的応力によるクラックの発生を防止しようとした場合、可とう性のエポキシ樹脂を主剤成分中よりも硬化剤成分中に配合した方が配合量を低減することができる。したがって、可とう性エポキシ樹脂を多量に含有することによる、エポキシ樹脂組成物のガラス転移温度の低下による耐熱性の劣化を抑制することができる。
【0014】
結果として、本発明のエポキシ樹脂組成物によれば、エポキシ樹脂自体が高い絶縁特性を示すとともに、エポキシ樹脂組成物中にその耐熱性を劣化させない程度に可とう性エポキシ樹脂組成物を含有するので、熱サイクルや機械的応力によるクラックの発生を防止することができる。この結果、エポキシ樹脂組成物の絶縁破壊特性を十分に担保することができる。
【0015】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物は、シリカ粒子をも含んでいるので、トリー経路を形成しにくくなり、この点からも上記エポキシ樹脂組成物の絶縁破壊特性を十分に担保することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上より、本発明によれば、熱サイクルや機械的応力によるクラックの発生を防止し、絶縁破壊特性及び耐熱性に優れた注型用樹脂組成物、及びこの注形用樹脂組成物を用いたコイル部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態におけるイグニッションコイルの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のその他の特徴及び利点について、発明を実施するための形態に基づいて詳細に説明する。
【0019】
(注形用樹脂組成物)
本発明に用いる(A)非可とう性エポキシ樹脂は、本発明のエポキシ樹脂組成物の母材をなすものであって、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば、分子量、分子構造等に制限されることなく一般的に用いられているものを用いることができ、例えば、ビスフェノール型、ノボラック型、ビフェニル型等の芳香族系エポキシ樹脂、ポリカルボン酸のグリシジルエーテル、シクロヘキサン誘導体等のエポキシ化によって得られる脂環族系エポキシ樹脂等が挙げられ、これらは単独又は2種以上混合して使用することができる。
【0020】
また、(A)エポキシ樹脂は、注形性等を考慮することにより、液状のモノエポキシ樹脂を併用とすることもできる。
【0021】
(A)非可とう性エポキシ樹脂は、脂環式エポキシ樹脂を10〜50質量%の割合で含むことが好ましい。脂環式エポキシ樹脂を含有することにより、エポキシ樹脂の低粘度化を図ることができ、最終的に得られたエポキシ樹脂組成物の注形性を向上させることができる。また、ガラス転移温度を向上させることができるので、上記エポキシ樹脂組成物の耐熱性を向上させることができる。さらに、脂環式エポキシ樹脂は、他の希釈剤と比べその沸点が高いことから、高温での真空成型時に揮発しにくい等の特徴を有している。
【0022】
なお、脂環式エポキシ樹脂の含有割合が10質量%以下であると、上述した作用効果を十分に得ることができない場合があり、脂環式エポキシ樹脂の含有割合が50質量%を超えると、機械特性である曲げ弾性率が大きくなり、伸びの低下が見られるとともに、靭性が劣り、脆くなる傾向がある。
【0023】
本発明に用いる(B)シリカは、上述したように、トリー経路を形成しにくくし、その結果、本発明のエポキシ樹脂組成物の絶縁破壊特性を向上させる作用効果を奏するものである。また、最終的に得るエポキシ樹脂組成物の強度を向上させる作用効果をも奏する。
【0024】
このような(B)シリカとしては、結晶シリカ、溶融シリカ及び、溶融球状シリカが好ましく用いることができる。例えば、クリスタライトA-A、クリスタライトC、ヒューズレックスRD-8、ヒューズレックスRD-120、ヒューズレックスE-1、ヒューズレックスE-2 MSR-15、MSR-3500(以上、株式会社龍森製、商品名)等が挙げられ、これらは単独又は2種以上混合して使用することができる。
【0025】
この(B)シリカは、(A)非可とう性エポキシ樹脂100質量部に対して、200〜250質量部の範囲で含有することが好ましい。含有量が200質量部未満では強度向上の作用効果を十分に得ることができず、250質量部を超えると、粘度が上昇し、作業性が低下してしまう場合がある。
【0026】
なお、シリカ粒子は、熱硬化性樹脂との密着性を向上させる観点から表面処理することができる。表面処理剤としては、例えば有機シラン化合物、有機チタネート化合物、または有機アルミネート化合物が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上混合して用いることができる。
【0027】
有機シラン化合物としては、例えばビニルトリエトキシシラン、ビニル−トリス−(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタアクリロキシプロピルメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上混合して用いることができる。
【0028】
有機チタネート化合物としては、例えばテトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラステアリルチタネート、トリエタノールアミンチタネート、チタニウムアセチルアセトネート、チタニウムラクチート、オクチレングリコールチタネート、イソプロピル(N−アミノエチルアミノエチル)チタネート等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上混合して用いることができる。また、有機アルミネート化合物としては、例えばアセトアルコキシアルミニウムジイソプロピネート等が挙げられる。
【0029】
本発明に用いる(D)硬化剤としては、(A)非可とう性エポキシ樹脂と反応し硬化可能なものであれば、いかなるものでも使用することができ、たとえばメチルヘキサヒドロフタル酸無水物、ノボラックフェノール樹脂、クレゾールノボラックフェノール樹脂、無水フタル酸誘導体、ジシアンジアミド、アルミニウムキレート、BF3 のようなルイス酸のアミン錯体等が挙げられる。これらの硬化剤は、単独であるいは硬化を阻害しない範囲において2種以上を混合して使用することができる。
【0030】
なお、これらの硬化剤の含有割合は、(A)非可とう性エポキシ樹脂及び以下に説明する可とう性エポキシ樹脂の量に応じて適宜に設定する。
【0031】
また、本発明に用いる(E)硬化促進剤としては、(A)非可とう性エポキシ樹脂及び以下に説明する可とう性エポキシ樹脂と(D)硬化剤との反応を促進する作用を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、2−エチル−4−エチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−エチルイミダゾール等のイミダゾール類、ベンジルジメチルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBU)及びそのオクチル塩等の3級アミン類、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン等が挙げられ、これらは単独又は2種類以上を混合して使用することができる。
【0032】
なお、これらの硬化促進剤の含有割合は、(A)エポキシ樹脂及び以下に説明する可とう性エポキシ樹脂、(D)硬化剤の量に応じて適宜に設定する。
【0033】
本発明では、(D)硬化剤及び(E)硬化促進剤を含む硬化剤成分中に(C)可とう性のエポキシ樹脂を配合させる。これは上述したように、最終的に得るエポキシ樹脂組成物において、同様の低弾性及び曲げ伸びを得て、熱サイクルや機械的応力によるクラックの発生を防止しようとした場合、可とう性のエポキシ樹脂を主剤中よりも硬化剤中に配合した方が配合量を低減することができ、可とう性エポキシ樹脂を多量に含有することによる、エポキシ樹脂組成物のガラス転移温度の低下による耐熱性の劣化を抑制することができるためである。
【0034】
この場合、最終的に得るエポキシ樹脂組成物の熱サイクルや機械的応力によるクラックの発生を防止することができるので、エポキシ樹脂組成物の絶縁破壊特性を十分に担保することができる。
【0035】
(C)可とう性エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂、ビスクレゾールフルオレン型エポキシ樹脂、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、ハロゲン化ビスフェノール型エポキシ樹脂、ハロゲン化クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、水素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート、環状アルキレン尿素のN,N’−ジグリシジル誘導体、フタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ダイマー酸ジグリシジルエステル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペートなどを挙げることが出来る。
【0036】
特に下記一般式に示す構造を含むものが好ましく、たとえば、EP4000、EP4005(以上、旭電化工業株式会社製、商品名)等がある。
【化1】

[式中、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を意味し、Rは水素原子またはメチル基を意味し、mおよびnは、mとnとの和が1〜3となる0〜2の数であり、pは0〜1の数である。]
【0037】
なお、(C)可とう性エポキシ樹脂の含有量は、(A)エポキシ樹脂100質量部に対して3〜20質量部であることが好ましい。含有量が3質量部未満であると、可とう性エポキシ樹脂の低弾性及び曲げ伸びによる機械的応力に起因したクラックの発生を防止することができず、エポキシ樹脂組成物の絶縁破壊特性を十分に担保することができない場合がある。また、20質量部を超えると、ガラス転移温度が低下してしまうので、耐熱性が劣化し、イグニッションコイルなどの高温環境下での使用が困難となる場合がある。
【0038】
本発明の注形用エポキシ樹脂組成物には、以上の各成分の他に、本発明の効果を阻害しない範囲で、この種の組成物に一般に配合される、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、チタンホワイト、クレー、ベンガラ、炭素粉等の無機充填剤、カップリング剤、消泡剤、顔料その他添加剤及び難燃助剤として三酸化アンチモン等を必要に応じて配合することができる。但し、コイルへの含浸性から、繊維質充填剤を含まないことが好ましい。
【0039】
本発明のエポキシ樹脂組成物を、注形材料として調整するにあたっては、(A)非可とう性エポキシ樹脂、及び(B)シリカを含む主剤成分、(C)可とう性エポキシ樹脂、(D)硬化剤、及び(E)硬化促進剤を含む硬化剤成分、並びに上述したような必要に応じて配合される成分を充分混合して均一に混合することにより製造することができる。本発明のエポキシ樹脂組成物は樹脂粘度が0.1〜12Pa・s(60℃)、DSCの初期発熱温度が70〜100℃、最大発熱量が40〜100J/gであることがさらに好ましい。さらに硬化後の曲げ弾性率が12500N/mm2以下であることが好ましい。
【0040】
このようにして得られた注形用エポキシ樹脂組成物は、電気機器部品、特にイグニッションコイルの封止、被覆、絶縁等に適用すれば優れた特性と信頼性を付与することができる。これらの用途に適用するためには、本発明のエポキシ樹脂組成物から得られる硬化物の特性が低弾性であり、機械的強度として曲げ強さが125(N/mm2)以上を有することが好ましい。
【0041】
(イグニッションコイル)
次に、上述した注形用エポキシ樹脂組成物を注形するコイル部品の一例としてイグニッションコイルについて説明する。
【0042】
図1は、本実施形態におけるコイル部品としてのイグニッションコイルの構成を示す断面図である。
【0043】
イグニッションコイルは、磁性体の中心コア1、外部コア2、一次ボビン3、一次コイル4、二次ボビン5、二次コイル6、端子7などで構成されている。一次コイルは、例えば直径0.5mm程度のエナメル線を約200回、二次コイルは、例えば直径0.05mm程度のエナメル細線を20000回程度ボビンに巻線されている。一次コイルはバッテリーに接続され直流電流が流れるが、点火タイミング調整電子回路部品8および図示しないパワースイッチにより電流を断続させて磁束を変化させ、自己誘導作用により一次電圧を得る。この一次電圧を一次コイルと二次コイルの相互誘導作用により20〜40KVの高電圧とし、端子に接続した点火プラグに火花放電を起こさせる。
【0044】
なお、点火タイミング調整電子回路部品8は、電子部品81がエポキシ樹脂82によって封止されたような形態を採る。
【0045】
上述した中心コア1等は、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)からなるケース9中に収納され、ケース9と中心コア1等との空隙は、上述した注形用樹脂組成物10によって封止されている。
【0046】
図1に示すイグニッションコイルは、上述したように、点火タイミング調整電子回路部品8および図示しないパワースイッチにより生じた一次電圧が、一次コイル4及び二次コイル6に印加されるようになるので、瞬時に高電圧の一次電圧が印加され、電流の流入及び停止を頻繁に繰り返す場合がある。
【0047】
このように高電圧が瞬時に印加されると、イグニッションコイルを封止している樹脂組成物10にも瞬時に高電圧が印加されるが、樹脂組成物10は、上述のように絶縁破壊特性に優れた注形用エポキシ樹脂組成物からなるので、樹脂組成物10は絶縁破壊を引き起こすことなく、イグニッションコイルに対する絶縁性を担保することができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0049】
注形用エポキシ樹脂組成物の製造
(実施例1)
最初に、ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としてEP4100E(旭電化工業株式会社製、商品名)100質量部、球状シリカ としてMSR−15(株式会社龍森製) 230質量部、消泡剤としてTSA720(モメンティブ社製 商品名)0.1質量部、およびシランカップリング剤としてA−187(日本ユニカー社製 商品名)0.5質量部を、1時間真空混合を行って主剤成分を製造した。
【0050】
次いで、酸無水物としてHN7000(日立化成株式会社製、商品名)100質量部、可とう性エポキシ樹脂としてEP4000(旭電化工業株式会社製、商品名)5質量部、硬化促進剤としてU−CAT2313(サンアプロ株式会社製、商品名)1.0質量部、球状シリカ としてMSR−15(株式会社龍森製) 300質量部を、1時間真空混合して硬化剤成分を製造した。
【0051】
上記主剤成分100質量部に対して上記硬化剤成分を105質量部混合したものを注形用エポキシ樹脂組成物とした。
【0052】
(実施例2)
硬化剤成分の主剤成分に対する配合比率を、主剤成分100質量部に対して硬化剤成分を110質量部とした以外は実施例1と同様にして注形用エポキシ樹脂組成物を得た。
【0053】
(実施例3)
硬化剤成分の主剤成分に対する配合比率を、主剤成分100質量部に対して硬化剤成分を115質量部とした以外は実施例1と同様にして注形用エポキシ樹脂組成物を得た。
【0054】
(実施例4)
主剤成分を、ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としてEP4100E(旭電化工業株式会社製、商品名)80質量部、脂環式エポキシ樹脂としてERL4221(ダウケミカル株式会社製)20質量部、球状シリカ としてMSR−15(株式会社龍森製) 230質量部、消泡剤としてTSA720(モメンティブ社製 商品名)0.1質量部、およびシランカップリング剤としてA−187(日本ユニカー社製 商品名)0.5質量部とし、硬化剤成分の主剤成分に対する配合比率を、主剤成分100質量部に対して硬化剤成分を125質量部とした以外は実施例1と同様にして注形用エポキシ樹脂組成物を得た。
【0055】
(実施例5)
主剤成分を、ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としてEP4100E(旭電化工業株式会社製、商品名)60質量部、脂環式エポキシ樹脂としてERL4221(ダウケミカル株式会社製)40質量部、球状シリカ としてMSR−15(株式会社龍森製) 230質量部、消泡剤としてTSA720(モメンティブ社製 商品名)0.1質量部、およびシランカップリング剤としてA−187(日本ユニカー社製 商品名)0.5質量部とし、硬化剤成分の主剤成分に対する配合比率を、主剤成分100質量部に対して硬化剤成分を130質量部とした以外は実施例1と同様にして注形用エポキシ樹脂組成物を得た。
【0056】
(実施例6)
硬化剤成分中の可とう性エポキシ樹脂EP4000(旭電化工業株式会社製、商品名)の含有量を10質量部とし、主剤成分100質量部に対して硬化剤成分を130質量部とした以外は実施例1と同様にして注形用エポキシ樹脂組成物を得た。
【0057】
(比較例1)
硬化剤成分中に、可とう性エポキシ樹脂を含有させなかった以外は、実施例1と同様にして注形用エポキシ樹脂組成物を得た。
【0058】
(比較例2)
硬化剤成分中に、可とう性エポキシ樹脂を含有させず、主剤成分を、ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としてEP4100E(旭電化工業株式会社製、商品名)60質量部、脂環式エポキシ樹脂としてERL4221(ダウケミカル株式会社製)20質量部、可とう性エポキシ樹脂EP4000(旭電化工業株式会社製、商品名)20質量部、球状シリカ としてMSR−15(株式会社龍森製) 230質量部、消泡剤としてTSA720(モメンティブ社製 商品名)0.1質量部、およびシランカップリング剤としてA−187(日本ユニカー社製 商品名)0.5質量部とした以外は、実施例1と同様にして注形用エポキシ樹脂組成物を得た。
【0059】
(比較例3)
硬化剤成分中に、可とう性エポキシ樹脂を含有させず、主剤成分を、ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としてEP4100E(旭電化工業株式会社製、商品名)50質量部、脂環式エポキシ樹脂としてERL4221(ダウケミカル株式会社製)20質量部、可とう性エポキシ樹脂EP4000(旭電化工業株式会社製、商品名)30質量部、球状シリカ としてMSR−15(株式会社龍森製) 230質量部、消泡剤としてTSA720(モメンティブ社製 商品名)0.1質量部、およびシランカップリング剤としてA−187(日本ユニカー社製 商品名)0.5質量部とし、主剤成分100質量部に対して硬化剤成分を106質量部とした以外は実施例1と同様にして注形用エポキシ樹脂組成物を得た。
【0060】
(比較例4)
硬化剤成分中に、可とう性エポキシ樹脂を含有させず、主剤成分を、ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としてEP4100E(旭電化工業株式会社製、商品名)40質量部、脂環式エポキシ樹脂としてERL4221(ダウケミカル株式会社製)20質量部、可とう性エポキシ樹脂EP4000(旭電化工業株式会社製、商品名)40質量部、球状シリカ としてMSR−15(株式会社龍森製) 230質量部、消泡剤としてTSA720(モメンティブ社製 商品名)0.1質量部、およびシランカップリング剤としてA−187(日本ユニカー社製 商品名)0.5質量部とし、主剤成分100質量部に対して硬化剤成分を102質量部とした以外は実施例1と同様にして注形用エポキシ樹脂組成物を得た。
【0061】
(比較例5)
硬化剤成分中に、可とう性エポキシ樹脂を含有させず、主剤成分を、ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としてEP4100E(旭電化工業株式会社製、商品名)30質量部、脂環式エポキシ樹脂としてERL4221(ダウケミカル株式会社製)20質量部、可とう性エポキシ樹脂EP4000(旭電化工業株式会社製、商品名)50質量部、球状シリカ としてMSR−15(株式会社龍森製) 230質量部、消泡剤としてTSA720(モメンティブ社製 商品名)0.1質量部、およびシランカップリング剤としてA−187(日本ユニカー社製 商品名)0.5質量部とし、主剤成分100質量部に対して硬化剤成分を92質量部とした以外は実施例1と同様にして注形用エポキシ樹脂組成物を得た。
【0062】
(比較例6)
硬化剤成分を、酸無水物としてHN7000(日立化成株式会社製、商品名)95質量部、可とう性酸無水物としてHT−08(新日本理化株式会社製、商品名)5質量部、硬化促進剤としてU−CAT2313(サンアプロ株式会社製、商品名)1.0質量部、球状シリカ としてMSR−15(株式会社龍森製) 300質量部とし、主剤成分100質量部に対して硬化剤成分を104質量部とした以外は実施例1と同様にして注形用エポキシ樹脂組成物を得た。
【0063】
(比較例7)
硬化剤成分を、酸無水物としてHN7000(日立化成株式会社製、商品名)90質量部、可とう性酸無水物としてHT−08(新日本理化株式会社製、商品名)10質量部、硬化促進剤としてU−CAT2313(サンアプロ株式会社製、商品名)1.0質量部、球状シリカ としてMSR−15(株式会社龍森製) 300質量部とし、主剤成分100質量部に対して硬化剤成分を99質量部とした以外は実施例1と同様にして注形用エポキシ樹脂組成物を得た。
【0064】
(比較例8)
硬化剤成分を、酸無水物としてHN7000(日立化成株式会社製、商品名)85質量部、可とう性酸無水物としてHT−08(新日本理化株式会社製、商品名)15質量部、硬化促進剤としてU−CAT2313(サンアプロ株式会社製、商品名)1.0質量部、球状シリカ としてMSR−15(株式会社龍森製) 300質量部とし、主剤成分100質量部に対して硬化剤成分を93質量部とした以外は実施例1と同様にして注形用エポキシ樹脂組成物を得た。
【0065】
評価
次いで、上述のようにして得た注型用エポキシ樹脂組成物に対して、曲げ強さ、曲げ弾性率、曲げ伸び、ガラス転移温度、及び耐クラック性試験を行うことにより、上記注型用エポキシ樹脂組成物の実用特性を評価した。
【0066】
・曲げ強さ、曲げ弾性率:樹脂組成物を100℃/3h+150℃/3h硬化させてサンプル片(w10mm、h4mm、L 80mm)を作製し、JIS K 6911に準じ、温度25℃において測定した。
・曲げ伸び:樹脂組成物を100℃/3h+150℃/3h硬化させてJIS K 6911に記載のサンプル片(w10mm、h4mm、L 80mm)を作製し、JIS K 6911の試験法でサンプルが破断するまでの変位を求めた。
・ガラス転移温度:樹脂組成物を100℃/3h+150℃/3h硬化後、TMA法により、昇温速度15℃/minとして室温から250℃まで昇温させて測定した。
・耐クラック性試験:PPE板のスプール材(w40mm×h20mm×t1.5mm)に平角銅線(w40mm×h5mm×t2mm)を載せ両端を銅線(0.2mm径)で接続した後、樹脂で覆い100℃/3h+150℃/3h硬化させ厚さ10mmの樹脂付き板とした。このサンプルに以下に示すような冷熱サイクルを行って評価した。
【0067】
以上、注型用エポキシ樹脂組成物の評価結果及び冷熱のサイクルを、それぞれ表1、2及び表3に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【0071】
表1及び2から明らかなように、本発明に従った実施例における注形用エポキシ樹脂組成物においては、曲げ弾性率及び曲げ強さの劣化がほとんど見られない状態で、曲げ伸び、ガラス転移温度、及び耐クラック性試験に優れ、熱サイクルや機械的応力によるクラックの発生を防止し、絶縁破壊特性及び耐熱性に優れることが分かる。
【0072】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいて、あらゆる変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0073】
1 中心コア
2 外部コア
3 1次ボビン
4 1次コイル
5 2次ボビン
6 2次コイル
7 端子
8 点火タイミング制御回路部品
9 ケース
10 樹脂組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)非可とう性のエポキシ樹脂、及び(B)シリカ粒子を含む主剤成分と、(C)可とう性エポキシ樹脂、(D)硬化剤、及び(E)硬化促進剤を含む硬化剤成分とからなることを特徴とする、2液性注形用エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
エポキシ樹脂が液状エポキシ樹脂であることを特徴とする、請求項1に記載の2液性注形用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記可とう性エポキシ樹脂は、下記一般式に示される構造を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の注形用エポキシ樹脂組成物
【化1】

[式中、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を意味し、Rは水素原子またはメチル基を意味し、mおよびnは、mとnとの和が1〜3となる0〜2の数であり、pは0〜1の数である。]。
【請求項4】
(A)エポキシ樹脂は、脂環式エポキシ樹脂を10〜50質量%の割合で含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の注形用エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
エポキシ樹脂組成物の硬化後の曲げ弾性率が12500N/mm2以下であり、曲げ伸びが2.0mm以上であることを特徴とする、請求項1〜4いずれか一に記載の注形用エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一に記載の注形用エポキシ樹脂組成物で注形されたことを特徴とする、コイル部品。
【請求項7】
前記コイル部品は、自動車用のイグニッションコイルであることを特徴とする、請求項6に記載のコイル部品。

【図1】
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【公開番号】特開2012−201711(P2012−201711A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64975(P2011−64975)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【Fターム(参考)】