説明

注射用医薬製剤

【課題】溶液または懸濁液を調製する際に生じ得る泡立ちを抑制するための手段、詳細には、何らかの不都合を招くおそれのある、溶液または懸濁液調製時における泡立ちが抑制されている医薬を提供する。
【解決手段】有効成分が式(I):


で示される化合物の製薬上許容される塩またはその溶媒和物であり、該有効成分および塩基性物質を含有し、溶液状態でのpHが8.5以上である、注射用医薬製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液または懸濁液を調製する際に生じ得る泡立ちを抑制するための手段に関する。詳細には、何らかの不都合を招くおそれのある、溶液または懸濁液調製時における泡立ちが抑制されている医薬、食品等に関する。
【背景技術】
【0002】
式:
【化1】

で示される化合物(化合物1)は、脳出血、脳梗塞、クモ膜下出血等、急性期の脳血管障害薬であり、その関連化合物とともに製造方法等が特開平7−53484号(特許文献1)に記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開平7−53484号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記化合物1は点滴静注での投与が想定され、この場合バイアル等に密封された凍結乾燥製剤を注射用水または輸液等にバイアル中等にて一旦溶解または懸濁し、さらに輸液(だいたい100〜500ml、pH6〜7程度のもの)に混ぜて使用する。しかし、バイアル中等で溶解/懸濁する際に勢いよく混ぜると泡立ちが生じ、輸液に混ぜる際に有効成分を全て移すことが困難になってしまい、投与量に誤差が生じる、また仮に300mg程度まで本化合物の用量を増やすと泡立ちが再溶解を妨げるなどの問題点が認められた。攪拌の際には机の上等で静かに攪拌することもできるが、実際の医療現場においてそのような使用は困難と予想され、泡立ち抑制が課題となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本化合物の解離定数に基づき、塩基性物質を用いてpHを調整することにより、泡立ちが抑制されることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
特開平9−124481には、シリコンコーティングしたバイアルを製剤容器として用いることにより、再溶解時に発生する泡のバイアル内面への付着を防止し、速やかに澄明となる凍結乾燥製剤が開示されているが、医薬品分野においては消泡に関する報告はほとんどなされていない。医薬品以外の工業分野では、シリコーンやアルコール添加による消泡、機械的な破泡等の方法がとられている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
即ち、本発明は、第1の態様として、有効成分が以下の条件:
1)フェノール性水酸基を有し、
2)解離定数(pKa値)が8以上であり、そして
3)Wilhelmy法(溶媒は水、測定温度は25℃)により測定される表面張力が、有効成分濃度30〜40mMの場合に60mN/m以下である、
を満たし、該有効成分および塩基性物質を含有し、溶液または懸濁液状態でのpHが8.5以上である、注射用医薬製剤; 好ましくは有効成分が式(I):
【化2】

[式中、R1は水素または代謝性エステル残基を表し、R2は水素または−R3−R4(ここにR3は、−SO3−、−CH2COO−、−COCOO−または−COR5COO−(ここにR5は、炭素数1〜6のアルキレンまたは炭素数2〜6のアルケニレンを表す)を表し、R4は水素または炭素数1〜6のアルキルを表す)である]
で示される化合物もしくはその製薬上許容される塩またはそれらの溶媒和物である医薬製剤に関し;および
第2の態様として、本発明はフェノール性水酸基を有する化合物を水性溶媒により溶解または懸濁する際、該フェノール性水酸基を解離させることによりその溶解または懸濁時における泡立ちを抑制する方法; 好ましくは該化合物が以下の条件:
1)解離定数(pKa値)が8以上であり、そして
2)Wilhelmy法(溶媒は水、測定温度は25℃)により測定される表面張力が、化合物濃度30〜40mMの場合に60mN/m以下である、
を満たす泡立ち抑制方法であり、より好ましくは解離手段が塩基性物質を使用することであり、さらに好ましくは塩基性物質が、溶液または懸濁液状態でのpHを8.5以上とする泡立ち抑制方法、さらに好ましくは該化合物が上記式(I)で示される化合物もしくはその製薬上許容される塩またはそれらの溶媒和物である泡立ち抑制方法、に関する。
【0008】
好ましい一態様では、本発明は、有効成分100mgに対して塩基性物質0.5〜20mgを含有する、上記第1の態様の医薬製剤に関する。さらに好ましくは、本発明は、式(I)で示される化合物またはその溶媒和物100mgに対して塩基性物質5〜20mgを添加することにより得られる、上記第1の態様の医薬製剤に関する。また別の好ましい態様では、本発明は、上記第2の態様の泡立ち抑制方法であって、該化合物が式(I)で示される化合物もしくはその製薬上許容される塩またはそれらの溶媒和物であり、該化合物100mgに対して塩基性物質0.5mg〜20mgを添加することによる方法に関する。
【0009】
本発明は、解離定数(pKa値)が8以上である有効成分に適用できる。有効成分の解離定数は電位差滴定法など、当業者に周知の手法により測定できる。本発明において好ましい有効成分のpKa値は8〜10、より好ましくは8.5〜9.5である。pKa値が高すぎる場合にはフェノール性水酸基を解離させるためにpHを高くする必要があり、投与前にpHを再調整する必要が生じるため実用性が低い。一方、pKa値が低すぎる場合には溶解または懸濁時に泡立ちが見られないため、本発明を用いる意味がない。
【0010】
本発明における「Wilhelmy法により測定される表面張力」とは、有効成分単独を水に溶解または懸濁して有効成分濃度30〜40mMの水溶液または懸濁液とし、25℃の条件下、Wilhelmy法により測定した表面張力を意味する。こうして測定した表面張力が60mN/m以下、好ましくは50〜60mN/mである有効成分を本発明に用いることができる。表面張力が高すぎる場合には泡立ちが生じにくく、問題は発生せず、低すぎる場合には泡立ちが生じやすく、本法で十分実用的な程度に抑制できない可能性がある。
【0011】
Wilhelmy法とは、表面張力を測定するための周知の方法である(物性物理化学(南江堂)、K122 Determination of Surface Tension, CMC and Synergic Effects Users Manual (Kruess)。ここでは、一般に清浄なガラスまたは薄い金属板の末端を液体に垂直につるし、この薄板が下方に引かれる力を測定する。
【0012】
本発明において好ましい有効成分は上記のように、式(I)で示される化合物もしくはその製薬上許容される塩またはそれらの溶媒和物である。
【0013】
式中、代謝性エステル残基とは、化学的または代謝的に分解され、生体内において薬学的に活性な化合物を与えるエステル残基を意味する。元の化合物が有している酸性基から誘導される単純な脂肪族のまたは芳香族のエステルは好ましいエステル残基である。さらに好ましくは、酸性基のC1−C6アルキルエステル(例えば、メチルエステル、エチルエステル)である。場合によっては、(アシルオキシ)アルキルエステルまたは((アルコキシカルボニル)オキシ)アルキルエステルのような二重エステル型プロドラッグを製造することもできる。
【0014】
炭素数1〜6のアルキレンとは、炭素原子1〜6個を有する直鎖または分枝鎖状のアルキレンであり、例えば、メチレン、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン、ヘキサメチレン等を挙げることができる。
【0015】
炭素数2〜6のアルケニレンとは、炭素原子2〜6個を有する直鎖または分枝鎖状のアルケニレンであり、好ましくは−(CH=CH)m−(mは1〜3の整数を表す。)で表される基である。
【0016】
炭素数1〜6のアルキルとは、炭素原子1〜6個を有する直鎖状または分枝鎖状アルキル基であり、例えばメチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、i−ペンチル、ネオペンチル、s−ペンチル、t−ペンチル、n−ヘキシル、ネオヘキシル、i−ヘキシル、s−ヘキシル、およびt−ヘキシルが挙げられる。
【0017】
また、有効成分における化合物の「製薬上許容される塩」とは適当な有機または無機酸や有機または無機塩基と反応させて得られる塩である。無機酸との塩としては塩酸、フッ化水素酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸、過塩素酸、ヨウ化水素酸などとの塩が挙げられる。有機酸との塩としては、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、マンデル酸、アスコルビン酸、乳酸などとの塩が挙げられる。有機塩基としては、トリエチルアミン、ピリジン等が例示される。無機塩基としては、アルカリ金属(例、Na、K)、アルカリ土類金属(例、Ca、Mg)が例示される。溶媒和物としては、有機溶媒および/または水との溶媒和物を包含し、有効成分である化合物の1分子に対し、任意の数の溶媒分子が配位していてもよい。
【0018】
本発明において、塩基性物質とは有効成分の溶液または懸濁液pHを8.5以上にできるものであれば、特に制限されないが、特に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。塩基性物質の量は、有効成分100mgに対して0.5〜20mgを含有するものが好ましい。塩基性物質を含有する有効成分の溶液または懸濁液状態のpHは8.5以上、好ましくはpH9〜9.8である。
【0019】
本発明の医薬製剤が「含有する」塩基性物質の量は、該医薬製剤を調製する際に、有効成分100mgに対して添加する塩基性物質の量に基づいて表し、その後の、例えばフェノール性水酸基との塩形成によるその量の変化を考慮しないものとする。
【0020】
「溶液または懸濁液状態」とは、有効成分が適当な水性溶媒中に溶解または懸濁された状態であればいずれの状態をも包含する。好ましくは、有効成分10〜500mg、さらに好ましくは100〜400mg、最も好ましくは250〜350mgあたり、水性溶媒1〜500ml、好ましくは1〜50ml、さらに好ましくは5〜20mlを用いて溶解または懸濁した状態である。水性溶媒は好ましくは注射用水、輸液(生理食塩水、アミノ酸含有輸液等)、緩衝液(リン酸緩衝液等)であり、さらに好ましくはpH5〜6程度の注射用水または輸液である。
【0021】
例えば、目的とする医薬製剤の有効成分が前記式(I)で示される化合物もしくはその製薬上許容される塩またはそれらの溶媒和物(好ましくは化合物1)である場合には、
(A)該化合物(I)もしくはその製薬上許容される塩またはそれらの溶媒和物(好ましくは化合物1)100mgに対して塩基性物質0.5〜5mg、好ましくは1〜3mg、さらに好ましくは1.5〜2.5mgを添加する、
(B)該化合物(I)またはその溶媒和物(好ましくは化合物1の2個のCOONa基がCOOH基である遊離酸(化合物2))100mgに対して塩基性物質5〜20mg、好ましくは10〜20mg、さらに好ましくは12〜18mgを添加する、
のいずれかの方法により、pH8.5以上の溶液または懸濁液を得ることができる。なお、上記方法(A)および方法(B)により調製される医薬製剤はいずれも、「有効成分100mgに対して塩基性物質0.5〜20mgを含有する医薬製剤」に包含される。
【0022】
上記のように、本発明の医薬製剤を調製する際には、目的とする有効成分の化合物に塩基性物質を添加する方法に加えて、該化合物の、塩形成の状態が異なっている化合物(遊離状態の化合物(例えば遊離酸)を含む)に対して、その塩形成の状態に応じた量の塩基性物質を添加することにより、種々の方法で同一の医薬製剤を調製することができる。
【0023】
点滴静注で投与する場合には、バイアル中等で一旦「溶液または懸濁液状態」にした後、その液体を輸液バッグ等に移し替えて投与することができるが、輸液バッグ中でのpHが8.5以下となった場合であっても、本発明の目的は既に達成されているため支障はない。
【0024】
本発明において、医薬製剤とはあらゆる形態であることができ、溶液または懸濁液状態におけるpHが8.5以上であればよい。よって、本発明の医薬製剤には溶液、懸濁液、凍結乾燥製剤(ダブルバッグ製剤等の点滴用キット製剤を含む)が包含される。
【0025】
本発明は、さらに糖(例えばグルコース、マルトース、ラクトース、シュークロース、フルクトース、マンニトール、好ましくはマンニトール)またはアミノ酸(好ましくは中性アミノ酸、好ましくはグリシン、アラニン、さらに好ましくはアラニン)を含有している医薬製剤を提供する。糖またはアミノ酸は有効成分の25%(w/w)以上が好ましく、より好ましくは40%〜60%(w/w)、最も好ましくは50%(w/w)である。これにより、有効成分の分解が抑制される。有効成分の分解抑制の目的達成の為には糖またはアミノ酸の添加量に上限はないが、糖またはアミノ酸の量が多すぎる場合は有効成分と糖またはアミノ酸とが反応して新たな副生成物が生じる場合がある。
【0026】
本発明の泡立ち抑制方法は、医薬のみならず、食品や一般化学の分野においても、泡立ちが不都合であるあらゆる場合に利用可能である。即ち、本発明は、1)フェノール性水酸基を有し、2)解離定数(pKa値)が8以上であり、そして3)Wilhelmy法(溶媒は水、測定温度は25℃)により測定される表面張力が、化合物濃度30〜40mMの場合に60mN/m以下である化合物を含有する検体において、それを水性溶媒により溶解または懸濁する際、その溶解または懸濁時における泡立ちを抑制するあらゆる場合に利用できる。
【0027】
本発明における水性溶媒とは典型的には水、輸液(例、生理食塩水、アミノ酸含有輸液等)、緩衝液、注射用水であり、好ましくは注射用水または輸液である。
【0028】
本態様に基づき、本発明は、フェノール性水酸基を解離させることを特徴とする、溶液または懸濁液の保存時における泡立ち抑制方法をも提供する。好ましい解離手段は塩基性物質、好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムを使用することである。
【0029】
発明を実施するための最良の形態
1)Whilhelmy法
以下のWhilhelmy手法により、本発明に適用できる成分を選別することができる。
【0030】
測定検体の調製
測定対象とする化合物を秤量し、一定量の蒸留水に溶解または懸濁する。このようにして、何種類かの濃度の水溶液検体をそれぞれ50mlずつ準備する。
【0031】
測定装置の準備
表面張力計(Kruess社 K12型)および測定制御・解析用パソコンを起動し、表面張力測定ソフト(Kruess社 K122)を開く。表面張力計の測定部位には恒温水槽から水を循環させて温度を25℃一定に保つ。測定検体を入れるガラス製ベッセル(直径65mm,高さ40mm)は水でよく洗浄し、最後にアセトンで洗浄して乾燥させておく。
【0032】
測定用プレートの準備
測定に使用するプレートは幅19mm、高さ10mmの長方形で、厚さ0.2mmの白金製が通常である。本プレート表面への付着残留物を除去するため、測定開始前にプレートをガスバーナーで炙る。また、各検体の測定毎に蒸留水およびアセトンでプレートを洗浄して乾燥させる。
【0033】
ブランク測定
洗浄済みのベッセルに蒸留水40mlをいれ、表面張力計に設置する。表面張力計の表面自動検出機能を用いて、プレートの先端を水表面から深さ2mmの所まで浸ける。この状態で表面張力を測定する。パソコンにおいて表面張力の時間に対するグラフが表示されるが、測定1分後に表面張力値がほぼ安定していれば、その値を記録して測定を停止する。
【0034】
検体測定
ブランク測定後、洗浄済みのベッセルに検体水溶液40mlを入れ、表面張力計に設置した。表面張力計の表面自動検出機能を用いて、プレートの先端を溶液表面から深さ2mmの所まで浸ける。この状態で表面張力測定を実施する。パソコンにおいて表面張力の時間に対するグラフが表示されるが、測定1分後に表面張力値がほぼ安定していれば、その値を記録して、測定を停止する。表面張力値が安定せず、増減が認められる場合は、値が安定化するまで測定を継続し、安定化した値を記録する。
【0035】
2) 医薬製剤
本発明医薬製剤は、剤形に応じて常法により製造することができる。注射剤を製造する場合には例えば以下の方法で製造すればよい。
【0036】
製造において使用する用具および材料等は、非滅菌物の形態、耐熱性、耐圧性等を考慮して、常法(例えば高圧蒸気滅菌、乾熱滅菌、γ線滅菌等)により予め滅菌しておく。
【0037】
有効成分および必要であれば糖を秤量し、溶解用容器に入れ、適当量の溶媒(例えば注射用水)を加えて撹拌しながら溶解または懸濁する。溶液または懸濁液の濃度は、溶媒の種類および有効成分の溶媒に対する溶解度および再溶解時の濃度を考慮して決定すればよい。さらに塩基性物質(例えば0.1〜10mol/L水溶液、好ましくは1mol/L水溶液を用いる。)を添加してpHを8.5以上に調整する。
【0038】
こうして得られた溶液または懸濁液を常法により、無菌濾過する。必要に応じて無菌濾過の前に分解物、汚染物質等の除去を目的とした粗濾過を行ってもよい。
【0039】
無菌濾過液を適宜バイアル等に分注し、常法により凍結乾燥すれば目的とする注射剤が得られる。
【実施例】
【0040】
本発明を以下の実施例および試験例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
試験例1
化合物1の表面張力測定
化合物1の泡立ちは化合物1のもつ界面活性に起因するところが大きいと思われたため、化合物1水溶液の表面張力をWilhelmy法(つり板法)(物性物理化学(南江堂)、K122 Determination of Surface Tension, CMC and Synergic Effects Users Manual (Kruess))によって測定した。
【0041】
化合物1を蒸留水に溶かし、種々の濃度の水溶液50mlを調製した。
表面張力計(Kruess社 K12型)および測定制御・解析用パソコンを起動し、表面張力測定ソフト(Kruess社 K122)を開いた。表面張力計の測定部位には恒温水槽から水を循環させて温度を25℃一定に保った。測定検体を入れるガラス製ベッセル(直径65mm,高さ40mm)は水でよく洗浄し、最後にアセトンで洗浄して乾燥させておいた。
測定用プレートは幅19mm、高さ10mmの長方形で、厚さ0.2mmの白金製を用いた。本プレート表面への付着残留物を除去するため、測定開始前にプレートをガスバーナーで炙った。また、各検体の測定毎に蒸留水およびアセトンでプレートを洗浄して乾燥させた。
【0042】
まず、ブランク測定を行った。洗浄済みのベッセルに蒸留水40mlをいれ、表面張力計に設置した。表面張力計の表面自動検出機能を用いて、プレートの先端を水表面から深さ2mmの所まで浸けた。この状態で表面張力測定を実施した。パソコンにおいて表面張力の時間に対するグラフが表示されるが、測定1分後に表面張力値はほぼ安定していたので、その値を記録して測定を停止した。この測定操作を2回繰り返し、値の平均値を求めた。
【0043】
次いで、検体測定を行った。洗浄済みのベッセルに種々の濃度の検体水溶液(化合物1水溶液,pH7〜7.5)40mlをいれ、表面張力計に設置した。表面張力計の表面自動検出機能を用いて、プレートの先端を溶液表面から深さ2mmの所まで浸けた。この状態で表面張力測定を実施した。パソコンにおいて表面張力の時間に対するグラフが表示されるが、測定1分後に表面張力値がほぼ安定していれば、その値を記録して、測定を停止した。表面張力値が安定せず、増減が認められる場合は、値が安定化するまで測定を継続(約1〜2分後)し、安定化した値を記録した。この測定操作を2回繰り返し、値の平均値を求めた。
【0044】
測定結果については、各濃度での表面張力平均値(n=2)を濃度(対数)に対してプロットした。
【0045】
また、水酸化ナトリウムによりpH9.5に調整した、化合物1の種々の濃度の水溶液を用いて表面張力を測定した。pH7〜7.5とpH9.5の場合における表面張力と化合物1濃度の関係を図1に示す。
表面張力の測定の結果、pH9.5の場合はpH7〜7.5の場合に比べて表面張力の低下が抑制されていることが分かった。
尚、濃度37.6mM、温度25℃における化合物1の表面張力値は53.9±0.2mN/mであった。
【0046】
実施例1
特開平7−53484号記載の製造方法に従い製造した化合物1原薬100.7g(化合物1含量換算で90.0g)およびD-マンニトール45.0gに注射用水1500gを加えて溶解し、溶液が淡黄色透明になるまで十分に攪拌した。溶解後、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を少量ずつ加えながら、pHを測定した。溶液のpHが9.5になった時点で水酸化ナトリウム水溶液の添加を止め(水溶液としての実績添加量55g)、注射用水を加えて溶液全重量を1800.0gとした。この調製液を0.45μmのフィルターで粗ろ過し、さらに0.22μmのフィルターで無菌ろ過した。この無菌ろ過液を1バイアルあたり6.0g(±1%以内)分注し、凍結乾燥した。凍結乾燥は-40℃で液を予備凍結させたあと、-5℃、10Paで24時間以上一次乾燥し、さらに60℃、2Paで5時間二次乾燥した。凍結乾燥終了後、バイアルにキャップを巻き締め、注射用製剤とした。
【0047】
実施例2
化合物2 3.81g(化合物1含量換算4.00g)に2.00gのd−マンニトールおよび0.16mol/L水酸化ナトリウム水溶液64gを加えて溶解した。これに1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を加えて溶液のpHを9.5に調整(水溶液としての実績添加量4.79g)した。全量が80.0gとなるように注射用水を加え、溶液濃度を50.0mg/gに調整した。調製液を無菌濾過した後、2.00gずつ分注し、凍結乾燥した。得られた凍結乾燥製剤には化合物1(2Na塩含量換算)が100mg含まれる。
【0048】
試験例2
泡立ちの比較
実施例1または2にて調製した製剤に注射用水10mlを加えて振とうして溶解させ、その時の泡立ちを外観検査した。また、比較製剤として化合物100mgに注射用水10mlを加えて溶解したもの(pH7.5)を用い、両者を比較した。
結果を以下の表に示す。
【表1】

【0049】
試験例3
マンニトール非添加の高pH製剤の泡立ち
マンニトールを加えない以外は実施例1記載の処方に従い調製した製剤に、注射用水10mlを加えて振とうして溶解させ、その時の泡立ちを外観検査した。振とうによってわずかに泡立ちが生じたが、この泡立ちは1分以内に消失した。泡立ちの程度はマンニトールを添加した実施例1の製剤と同様であった。
【0050】
試験例4
泡立ちとpHとの関係
化合物1を注射用水に溶かし(0.1%w/w)、Ross-Miles泡立ち試験法で泡立ちを定量的に測定した。Ross-Miles泡立ち試験法は、測定温度を25℃に設定した以外は、International Standard ISO 696-1975に規定されている方法に準じて行った。本試験によって生じた泡立ちの量とpHの関係を図2に示す。pH上昇とともに、泡立ちが抑制されていく事が分かる。
【0051】
実施例3
マンニトール添加による分解物生成抑制の効果
実施例1にて調製した製剤を50℃で2ヶ月保存した後、液体クロマトグラフィーを用いて、加水分解によって生じる分解物生成量の比較検討を行なった。代表的な分解物は次の通りである。
【化3】

【0052】
製剤の保存前と50℃2ヶ月保存後について、化合物1含量、分解物量と製剤中のD-マンニトール添加量の関係を表2に示す。測定には高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用した。 HPLC測定条件を以下に示す。
装置 : Waters 600E,484,712 wisp,741,FD20A
カラム:J'sphere ODS-L80, S-4μm, 80A 150×4.6 mmφ
移動相:水/アセトニトリル/酢酸 = 100/100/1
流速 :1.0 ml/min
注入量:20 μL(不純物測定時) : 10 μL (化合物1定量時)
検出波長: 275 nm
検出感度(AUFS) :0.64 (不純物測定時)
: 0.20 (化合物1定量時)
検体希釈用溶媒:水/アセトニトリル/酢酸- = 100/100/1
検体濃度
1mg/ml(不純物測定用)
60.0μg/ml(化合物1測定用)
【表2】

表2から、D-マンニトールの添加によって分解生成物である化合物Aの生成が抑制されることが示された。またこのことから化合物1の含量低下が抑制されることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の泡立ち抑制方法は、食品や医薬品の溶液または懸濁液調製時に利用でき、円滑な食品の製造、加工や、正確な医薬品投与等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】pH7〜7.5とpH9.5における化合物1濃度と表面張力の関係を示すグラフである。
【図2】Ross-Miles泡立ち試験法による、生じた泡立ちの量とpHの関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分が式(I):
【化1】

で示される化合物の製薬上許容される塩またはその溶媒和物であり、該有効成分および塩基性物質を含有し、溶液状態でのpHが8.5以上である、注射用医薬製剤。
【請求項2】
凍結乾燥されている、請求項1記載の医薬製剤。
【請求項3】
請求項2記載の医薬製剤を注射用水または輸液に溶解させて調製される、請求項1記載の医薬製剤。
【請求項4】
溶解を注射用水または輸液5〜20mlにより行う、請求項3記載の医薬製剤。
【請求項5】
塩基性物質が水酸化ナトリウムである、請求項1〜4のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項6】
溶液状態でのpHが9〜9.8である、請求項1〜5のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項7】
有効成分100mgに対して塩基性物質0.5〜20mgを含有する、請求項1〜6のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項8】
有効成分100mgに対して塩基性物質5〜20mgを添加することにより得られる、請求項1〜7のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項9】
溶解時の泡立ちが抑制されている、請求項1〜8のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項10】
請求項1記載の式(I)で示される化合物の製薬上許容される塩またはその溶媒和物を水性溶媒により溶解する際、塩基性物質を共存させておくことにより溶液状態でのpHを8.5以上に調整し、その溶解時における泡立ちを抑制する方法。
【請求項11】
請求項1記載の式(I)で示される化合物の製薬上許容される塩またはその溶媒和物100mgに対して塩基性物質0.5〜20mgを共存させておくことによる、請求項10記載の泡立ちを抑制する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−217438(P2007−217438A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−150248(P2007−150248)
【出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【分割の表示】特願2003−513573(P2003−513573)の分割
【原出願日】平成14年7月16日(2002.7.16)
【出願人】(000001926)塩野義製薬株式会社 (229)
【Fターム(参考)】