説明

洗浄兼さび止め油組成物

【課題】従来の金属加工工程等において、洗浄工程とさび止め工程の二つの工程を一元化することが可能になるとともに、使用油管理の負担の低減を図ることができる、洗浄性とさび止め性を兼ね備えた洗浄兼さび止め油組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の洗浄兼さび止め油組成物は、40℃における動粘度1〜18mm2/sの鉱油および/または合成油、ならびに40℃における動粘度55〜130mm2/sの鉱油および/または合成油からなる基油と、さび止め剤と、水とを含有してなる、40℃における動粘度が4〜20mm2/sの組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属加工等に利用可能な洗浄性とさび止め性を兼ね備えた洗浄兼さび止め油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製部品は通常、切削、研削、プレス加工等の金属加工工程を経て製造されるが、金属加工で使用される金属加工油は極圧剤のためさび発生因子を含有していることが多い。腐食性因子が部品表面に残存している場合、適切な洗浄油を適用し、十分な洗浄を行なわないとさび発生の原因となる。また、金属製部品の組み立てや検査を素手により行なった場合、指紋や汗等が部品に付着することからさび発生の原因となるため、やはり適切な洗浄油を適用し、十分な洗浄を行なう必要がある。
このため、従来は「JIS K2246さび止め油」に規定されるNP-0等の低粘度洗浄油によりこれらさび発生因子を洗浄・除去した後、適切なさび止め油を塗油するのが通例であった。このように金属製部品の防錆処理には、洗浄工程とさび止め工程の二つの工程が不可欠であって、処理剤として二種類が必要であった。
しかしながら、一般に工程数が多いほどコスト高であるとともに、二種類の処理剤を使用することは使用油管理面等での負担も大きいため、洗浄性とさび止め性の両方の機能を具えた処理剤が市場から求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、従来の金属加工工程等において、洗浄工程とさび止め工程の二つの工程を一元化することが可能になるとともに、使用油管理の負担の低減を図ることができる、洗浄性とさび止め性を兼ね備えた洗浄兼さび止め油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するためには、先ず洗浄により前述した腐食性因子を除去あるいは抑制することが必要であるが、洗浄性は一般的には洗浄油の粘度が低いほど良好である。これに対し、さび止め性はさび止め油の粘度が高いほど油膜が厚くなるため良好である。本発明者らは、このように相反する二つの要求を満たす解決策を鋭意研究した結果、40℃動粘度を4〜20mm2/sに保つとともに、さび止め剤および所要量の水を添加することにより、洗浄性とさび止め性を兼ね備えた組成物が得られることを見出した。
すなわち、本発明によれば、40℃における動粘度1〜18mm2/sの鉱油および/または合成油、ならびに40℃における動粘度55〜130mm2/sの鉱油および/または合成油からなる基油と、さび止め剤と、水とを含有してなる、40℃における動粘度が4〜20mm2/sの洗浄兼さび止め油組成物(以下、本発明の組成物と略記することがある)が提供される。
【発明の効果】
【0005】
本発明の組成物は、上記特定動粘度を有する鉱油および/または合成油と、さび止め剤と、水とを含み、特定の動粘度を有するので、洗浄性およびさび止め性を兼ね備え、金属加工で製造された金属製部品についての洗浄・さび止め工程を一元化できるとともに、使用油管理負担を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
本発明の組成物は、鉱油および/または合成油からなる基油を含む。
鉱油としては、例えば、原油を常圧蒸留および減圧蒸留して得られた潤滑油留分に対して、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理の1種もしくは2種以上の精製手段を適宜組み合わせて適用して得られるパラフィン系またはナフテン系の鉱油が挙げられる。
合成油としては、例えば、ポリオレフィン、アルキルベンゼンが好適に使用される。
【0007】
ポリオレフィンとしては、例えば、炭素数2〜16、好ましくは炭素数2〜12のオレフィンモノマーを単独重合または共重合したもの、ならびにこれらの重合体の水素化物が挙げられる。
ポリオレフィンが構造の異なるオレフィンモノマーの共重合体である場合、その共重合体におけるモノマー比やモノマー配列には特に制限はなく、ランダム共重合体、交互共重合体およびブロック共重合体のうちのいずれであってもよい。
前記オレフィンモノマーは、α−オレフィン、内部オレフィン、直鎖状オレフィン、分岐鎖状オレフィンのうちのいずれであってもよい。このようなオレフィンモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、ウンデセン、ドデセン、トリデセン、テトラデセン、ペンタデセン、ヘキサデセンまたはこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらのうち、ペンテン以降は直鎖状または分岐鎖状の何れでも良く、またα−オレフィン、内部オレフィンを含むものである。これらの中でも、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、炭素数5〜12のα−オレフィン又はこれらの混合物が好ましく用いられる。さらに、炭素数5〜12のα−オレフィンの中でも、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセンまたはこれらの混合物がより好ましい。
【0008】
上記ポリオレフィンは、従来公知の方法で製造することができる。例えば、無触媒による熱反応によって製造することができるほか、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物触媒;塩化アルミニウム、塩化アルミニウム−多価アルコール系、塩化アルミニウム−四塩化チタン系、塩化アルミニウム−アルキル錫ハライド系、フッ化ホウ素等のフリーデルクラフツ型触媒;有機塩化アルミニウム−四塩化チタン系、有機アルミニウム−四塩化チタン系等のチーグラー型触媒;アルミノキサン−ジルコノセン系、イオン性化合物−ジルコノセン系等のメタロセン型触媒;塩化アルミニウム−塩基系、フッ化ホウ素−塩基系等のルイス酸コンプレックス型触媒、等の公知の触媒を用いて、上記オレフィンを単独重合または共重合させることによって目的のポリオレフィンを製造することができる。
【0009】
このような方法により得られるポリオレフィンは、通常、二重結合を有しているが、本発明においてはこれらのポリオレフィン中の二重結合炭素を水素化した、いわゆるポリオレフィンの水素化物を基油として用いることが好ましい。ポリオレフィンの水素化物を用いると、得られる組成物の熱・酸化安定性が向上する傾向にある。
ポリオレフィンの水素化物は、例えば、ポリオレフィンを公知の水素化触媒の存在下で水素で水素化し、ポリオレフィン中に存在する二重結合を飽和することによって得ることができる。また、オレフィンの重合反応を行う際に、使用する触媒を選択することによって、オレフィンの重合と重合体の水素化といった2工程を経ることなく、オレフィンの重合と重合体中に存在する二重結合の水素化とを1工程で完遂させることも可能である。
【0010】
ポリオレフィンの中にあって、エチレン−プロピレン共重合体;ナフサ熱分解の際に副生する1−ブテン、2−ブテンおよびイソブテンの混合物からなるブタン−ブテン留分の重合によって得られる共重合体等のポリブテン;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、1−ドデセンオリゴマーならびにこれらの水素化物、さらにはこれらの混合物等は、熱・酸化安定性、粘度−温度特性、低温流動性に優れている点で好ましく、特にエチレン−プロピレン共重合体水素化物、ポリブテン水素化物、1−オクテンオリゴマー水素化物、1−デセンオリゴマー水素化物、1−ドデセンオリゴマー水素化物またはこれらの混合物がより好ましい。
潤滑油用基油として市販されているエチレン−プロピレン共重合体、ポリブテンおよびポリ−α−オレフィン等の合成油は、通常、その二重結合が既に水素化されているものであり、本発明においてはこれらの市販品も基油として用いることができる。
【0011】
アルキルベンゼンとしては、分子中に炭素数1〜40のアルキル基を1〜4個有するものが好ましい。ここで、炭素数1〜40のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、トリアコンチル基、ヘントリアコンチル基、ドトリアコンチル基、トリトリアコンチル基、テトラトリアコンチル基、ペンタトリアコンチル基、ヘキサトリアコンチル基、ヘプタトリアコンチル基、オクタトリアコンチル基、ノナトリアコンチル基、テトラコンチル基が挙げられ、これらのうち異性体のあるものは全ての異性体が挙げられる。
前記アルキルベンゼンのアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよいが、安定性、粘度特性等の点から分岐鎖状のアルキル基が好ましく、特に入手が容易であるという点から、プロピレン、ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーから誘導される分岐鎖状アルキル基がより好ましい。
【0012】
前記アルキルベンゼン中のアルキル基の個数は1〜4個が好ましいが、安定性、入手可能性の点から1個または2個のアルキル基を有するアルキルベンゼン、すなわちモノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、またはこれらの混合物が最も好ましい。また、アルキルベンゼンとしては、単一の構造のアルキルベンゼンだけでなく、異なる構造を有するアルキルベンゼンの混合物であっても良い。
【0013】
前記アルキルベンゼンは、例えば、芳香族化合物を原料とし、アルキル化剤およびアルキル化触媒を用いて製造することができる。ここで、原料として使用される芳香族化合物としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メチルエチルベンゼン、ジエチルベンゼンまたはこれらの混合物が挙げられる。
アルキル化剤としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、イソブチレン等の低級モノオレフィン、好ましくはプロピレンの重合によって得られる炭素数6〜40の直鎖状または分枝鎖状のオレフィン;ワックス、重質油、石油留分、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱分解によって得られる炭素数6〜40の直鎖状または分岐鎖状のオレフィン;灯油、軽油等の石油留分からn−パラフィンを分離し、これを触媒によりオレフィン化することによって得られる炭素数9〜40の直鎖状オレフィン、またはこれらの混合物が挙げられる。
アルキル化触媒としては、例えば、塩化アルミニウム、塩化亜鉛等のフリーデルクラフツ型触媒;硫酸、リン酸、ケイタングステン酸、フッ化水素酸、活性白土等の酸性触媒、等の公知の触媒が挙げられる。
【0014】
本発明に用いる鉱油および/または合成油の基油は、40℃における動粘度が1〜18mm2/s、好ましくは2〜12mm2/s、より好ましくは4〜6mm2/sの鉱油および/または合成油からなる低粘度基油と、40℃における動粘度が55〜130mm2/s、好ましくは70〜115mm2/s、より好ましくは85〜100mm2/sの鉱油および/または合成油からなる高粘度基油との混合物である。
これらの低粘度基油および高粘度基油は、それぞれが鉱油または合成油単独でも、鉱油の2種以上、合成油の2種以上、少なくとも1種の鉱油と少なくとも1種の合成油との組合せでもよい。高粘度基油の混合は、組成物の塗膜の厚膜化、持ち出し量の増加の抑制ならびに脱脂性および噴霧性の最適化に寄与する。
【0015】
本発明に用いる基油において、前記低粘度基油および高粘度基油の配合量は、本発明の組成物の40℃における動粘度が4〜20mm2/sとなるような配合量であれば特に制限はないが、組成物全量基準で、低粘度基油が好ましくは30〜90質量%、より好ましくは50〜90質量%であり、高粘度基油が好ましくは5〜70質量%、より好ましくは5〜50質量%である。
【0016】
本発明の組成物に用いるさび止め剤は、さび止め成分として、例えば、酸化ワックス塩、カルボン酸、スルホン酸塩、カルボン酸塩、エステル、ザルコシン型化合物、アミン、ホウ素化合物およびこれらの混合物等からなる群から選ばれる化合物を含む。
前記酸化ワックス塩としては、ワックスを酸化して得られる酸化ワックスと、アルカリ金属、アルカリ土類金属(但し、バリウムを除く)およびアミンから選ばれる少なくとも1種とを反応させ、酸化ワックスが有する酸性基の一部または全部を中和して塩としたものが好ましい。
酸化ワックス塩の原料として使用される酸化ワックスとしては特に制限されないが、例えば、石油留分の精製の際に得られるパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムや合成により得られるポリオレフィンワックス等のワックスを酸化することによって製造されるものが挙げられる。
酸化ワックス塩がアルカリ金属塩である場合、原料として使用されるアルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。酸化ワックス塩がアルカリ土類金属塩である場合、原料として使用されるアルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム等が挙げられる。酸化ワックス塩が重金属塩である場合、原料として使用される重金属としては、亜鉛、鉛等が挙げられる。なお、人体や生体系に対する安全性の点から、酸化ワックス塩はバリウム塩および重金属塩でないことが好ましい。
【0017】
酸化ワックス塩がアミン塩である場合、アミンとしては、モノアミン、ポリアミン、アルカノールアミン等が挙げられる。
モノアミンとしては、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、モノペンチルアミン、ジペンチルアミン、トリペンチルアミン、モノヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、モノヘプチルアミン、ジヘプチルアミン、モノオクチルアミン、ジオクチルアミン、モノノニルアミン、モノデシルアミン、モノウンデシル、モノドデシルアミン、モノトリデシルアミン、モノテトラデシルアミン、モノペンタデシルアミン、モノヘキサデシルアミン、モノヘプタデシルアミン、モノオクタデシルアミン、モノノナデシルアミン、モノイコシルアミン、モノヘンイコシルアミン、モノドコシルアミン、モノトリコシルアミン、ジメチル(エチル)アミン、ジメチル(プロピル)アミン、ジメチル(ブチル)アミン、ジメチル(ペンチル)アミン、ジメチル(ヘキシル)アミン、ジメチル(ヘプチル)アミン、ジメチル(オクチル)アミン、ジメチル(ノニル)アミン、ジメチル(デシル)アミン、ジメチル(ウンデシル)アミン、ジメチル(ドデシル)アミン、ジメチル(トリデシル)アミン、ジメチル(テトラデシル)アミン、ジメチル(ペンタデシル)アミン、ジメチル(ヘキサデシル)アミン、ジメチル(ヘプタデシル)アミン、ジメチル(オクタデシル)アミン、ジメチル(ノナデシル)アミン、ジメチル(イコシル)アミン、ジメチル(ヘンイコシル)アミン、ジメチル(トリコシル)アミン等のアルキルアミン;
【0018】
モノビニルアミン、ジビニルアミン、トリビニルアミン、モノプロペニルアミン、ジプロペニルアミン、トリプロペニルアミン、モノブテニルアミン、ジブテニルアミン、トリブテニルアミン、モノペンテニルアミン、ジペンテニルアミン、トリペンテニルアミン、モノヘキセニルアミン、ジヘキセニルアミン、モノヘプテニルアミン、ジヘプテニルアミン、モノオクテニルアミン、ジオクテニルアミン、モノノネニルアミン、モノデセニルアミン、モノウンデセニルアミン、モノドデセニルアミン、モノトリデセニルアミン、モノテトラデセニルアミン、モノペンタデセニルアミン、モノヘキサデセニルアミン、モノヘプタデセニルアミン、モノオクタデセニルアミン、モノノナデセニルアミン、モノイコセニルアミン、モノヘンイコセニルアミン、モノドコセニルアミン、モノトリコセニルアミン等のアルケニルアミン;
【0019】
ジメチル(ビニル)アミン、ジメチル(プロペニル)アミン、ジメチル(ブテニル)アミン、ジメチル(ペンテニル)アミン、ジメチル(ヘキセニル)アミン、ジメチル(ヘプテニル)アミン、ジメチル(オクテニル)アミン、ジメチル(ノネニル)アミン、ジメチル(デセニル)アミン、ジメチル(ウンデセニル)アミン、ジメチル(ドデセニル)アミン、ジメチル(トリデセニル)アミン、ジメチル(テトラデセニル)アミン、ジメチル(ペンタデセニル)アミン、ジメチル(ヘキサデセニル)アミン、ジメチル(ヘプタデセニル)アミン、ジメチル(オクタデセニル)アミン、ジメチル(ノナデセニル)アミン、ジメチル(イコセニル)アミン、ジメチル(ヘンイコセニル)アミン、ジメチル(トリコセニル)アミン等のアルキル基およびアルケニル基を有するモノアミン;
【0020】
モノベンジルアミン、(1−フェニルチル)アミン、(2−フェニルエチル)アミン(別名:モノフェネチルアミン)、ジベンジルアミン、ビス(1−フェニエチル)アミン、ビス(2−フェニルエチレン)アミン(別名:ジフェネチルアミン)等の芳香族置換アルキルアミン;モノシクロペンチルアミン、ジシクロペンチルアミン、トリシクロペンチルアミン、モノシクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、モノシクロヘプチルアミン、ジシクロヘプチルアミン等の炭素数5〜16のシクロアルキルアミン;ジメチル(シクロペンチル)アミン、ジメチル(シクロヘキシル)アミン、ジメチル(シクロヘプチル)アミン等のアルキル基およびシクロアルキル基を有するモノアミン;(メチルシクロペンチル)アミン、ビス(メチルシクロペンチル)アミン、(ジメチルシクロペンチル)アミン、ビス(ジメチルシクロペンチル)アミン、(エチルシクロペンチル)アミン、ビス(エチルシクロペンチル)アミン、(メチルエチルシクロペンチル)アミン、ビス(メチルエチルシクロペンチル)アミン、(ジエチルシクロペンチル)アミン、(メチルシクロヘキシル)アミン、ビス(メチルシクロヘキシル)アミン、(ジメチルシクロヘキシル)アミン、ビス(ジメチルシクロヘキシル)アミン、(エチルシクロヘキシル)アミン、ビス(エチルシクロヘキシル)アミン、(メチルエチルシクロヘキシル)アミン、(ジエチルシクロヘキシル)アミン、(メチルシクロヘプチル)アミン、ビス(メチルシクロヘプチル)アミン、(ジメチルシクロヘプチル)アミン、(エチルシクロヘプチルアミン、(メチルエチルシクロヘプチル)アミン、(ジエチルシクロヘプチル)アミン等のアルキルシクロアルキルアミンが挙げられ、これらモノアミンの全ての置換異性体も挙げられる。ここでいうモノアミンには、油脂から誘導される牛脂アミン等のモノアミンも含まれる。
【0021】
ポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、プロピレンジアミン、ジプロピレントリアミン、トリプロピレンテトラミン、テトラプロピレンペンタミン、ペンタプロピレンヘキサミン、ブチレンジアミン、ジブチレントリアミン、トリブチレンテトラミン、テトラブチレンペンタミン、ペンタブチレンヘキサミン等のアルキレンポリアミン;
【0022】
N−メチルエチレンジアミン、N−エチルエチレンジアミン、N−プロピルエチレンジアミン、N−ブチルエチレンジアミン、N−ペンチルエチレンジアミン、N−ヘキシルエチレンジアミン、N−ヘプチルエチレンジアミン、N−オクチルエチレンジアミン、N−ノニルエチレンジアミン、N−デシルエチレンジアミン、N−ウンデシル、N−ドデシルエチレンジアミン、N−トリデシルエチレンジアミン、N−テトラデシルエチレンジアミン、N−ペンタデシルエチレンジアミン、N−ヘキサデシルエチレンジアミン、N−ヘプタデシルエチレンジアミン、N−オクタデシルエチレンジアミン、N−ノナデシルエチレンジアミン、N−イコシルエチレンジアミン、N−ヘンイコシルエチレンジアミン、N−ドコシルエチレンジアミン、N−トリコシルエチレンジアミン等のN−アルキルエチレンジアミン;
【0023】
N−ビニルエチレンジアミン、N−プロペニルエチレンジアミン、N−ブテニルエチレンジアミン、N−ペンテニルエチレンジアミン、N−ヘキセニルエチレンジアミン、N−ヘプテニルエチレンジアミン、N−オクテニルエチレンジアミン、N−ノネニルエチレンジアミン、N−デセニルエチレンジアミン、N−ウンデセニル、N−ドデセニルエチレンジアミン、N−トリデセニルエチレンジアミン、N−テトラデセニルエチレンジアミン、N−ペンタデセニルエチレンジアミン、N−ヘキサデセニルエチレンジアミン、N−ヘプタデセニルエチレンジアミン、N−オクタデセニルエチレンジアミン、N−ノナデセニルエチレンジアミン、N−イコセニルエチレンジアミン、N−ヘンイコセニルエチレンジアミン、N−ドコセニルエチレンジアミン、N−トリコセニルエチレンジアミン等のN−アルケニルエチレンジアミン;
【0024】
N−アルキルジエチレントリアミン、N−アルケニルジエチレントリアミン、N−アルキルトリエチレンテトラミン、N−アルケニルトリエチレンテトラミン、N−アルキルテトラエチレンペンタミン、N−アルケニルテトラエチレンペンタミン、N−アルキルペンタエチレンヘキサミン、N−アルケニルペンタエチレンヘキサミン、N−アルキルプロピレンジアミン、N−アルケニルプロピレンジアミン、N−アルキルジプロピレントリアミン、N−アルケニルジプロピレントリアミン、N−アルキルトリプロピレンテトラミン、N−アルケニルトリプロピレンテトラミン、N−アルキルテトラプロピレンペンタミン、N−アルケニルテトラプロピレンペンタミン、N−アルキルペンタプロピレンヘキサミン、N−アルケニルペンタプロピレンヘキサミン、N−アルキルブチレンジアミン、N−アルケニルブチレンジアミン、N−アルキルジブチレントリアミン、N−アルケニルジブチレントリアミン、N−アルキルトリブチレンテトラミン、N−アルケニルトリブチレンテトラミン、N−アルキルテトラブチレンペンタミン、N−アルケニルテトラブチレンペンタミン、N−アルキルペンタブチレンヘキサミン、N−アルケニルペンタブチレンヘキサミン等のN−アルキルまたはN−アルケニルアルキレンポリアミンが挙げられ、これらポリアミンの全ての置換異性体も挙げられる。また、ここでいうポリアミンには油脂から誘導されるポリアミン(牛脂ポリアミン等)も含まれる。
【0025】
アルカノールアミンとしては、例えば、モノメタノールアミン、ジメタノールアミン、トリメタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノ(n−プロパノール)アミン、ジ(n−プロパノール)アミン、トリ(n−プロパノール)アミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、モノブタノールアミン、ジブタノールアミン、トリブタノールアミン、モノペンタノールアミン、ジペンタノールアミン、トリペンタノールアミン、モノヘキサノールアミン、ジヘキサノールアミン、モノヘプタノールアミン、ジヘプタノールアミン、モノオクタノールアミン、モノノナノールアミン、モノデカノールアミン、モノウンデカノールアミン、モノドデカノールアミン、モノトリデカノールアミン、モノテトラデカノールアミン、モノペンタデカノールアミン、モノヘキサデカノールアミン、ジエチルモノエタノールアミン、ジエチルモノプロパノールアミン、ジエチルモノブタノールアミン、ジエチルモノペンタノールアミン、ジプロピルモノエタノールアミン、ジプロピルモノプロパノールアミン、ジプロピルモノブタノールアミン、ジプロピルモノペンタノールアミン、ジブチルモノエタノールアミン、ジブチルモノプロパノールアミン、ジブチルモノブタノールアミン、ジブチルモノペンタノールアミン、モノエチルジエタノールアミン、モノエチルジプロパノールアミン、モノエチルジブタノールアミン、モノエチルジペンタノールアミン、モノプロピルジエタノールアミン、モノプロピルジプロパノールアミン、モノプロピルジブタノールアミン、モノプロピルジペンタノールアミン、モノブチルジエタノールアミン、モノブチルジプロパノールアミン、モノブチルジブタノールアミン、モノブチルジペンタノールアミン、モノシクロヘキシルモノエタノールアミン、モノシクロヘキシルジエタノールアミン、モノシクロヘキシルモノプロパノールアミン、モノシクロヘキシルジプロパノールアミンが挙げられ、これらアルカノールアミンの全ての置換異性体も挙げられる。
【0026】
上記アミンの中でも、モノアミンは耐ステイン性が良好であるという点で好ましく、モノアミンの中でもアルキルアミン、アルキル基およびアルケニル基を有するモノアミン、アルキル基およびシクロアルキル基を有するモノアミン、シクロアルキルアミンならびにアルキルシクロアルキルアミンがより好ましい。また、耐ステイン性が良好であるという点から、アミン分子中の合計炭素数3以上のアミンが好ましく、合計炭素数5以上のアミンがより好ましい。
酸化ワックス塩としては、さび止め性の点から、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、アルカリ土類金属塩であることがより好ましい。更に、アルカリ土類金属塩の中でも、安全性の点からカルシウム塩であることが特に好ましい。
【0027】
前記さび止め成分としてのカルボン酸としては、任意のものを使用できるが、好ましくは、脂肪酸、ジカルボン酸、ヒドロキシ脂肪酸、ナフテン酸、樹脂酸、酸化ワックス、ラノリン脂肪酸等が挙げられる。
前記脂肪酸の炭素数は特に制限されないが、好ましくは6〜24、より好ましくは10〜22である。また、該脂肪酸は、飽和脂肪酸でも不飽和脂肪酸でもよく、また直鎖状脂肪酸でも分岐鎖状脂肪酸でもよい。
このような脂肪酸としては、例えば、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、ヘンイコサン酸、ドコサン酸、トリコサン酸、テトラコサン酸等の飽和脂肪酸;ヘキセン酸、ヘプテン酸、オクテン酸、ノネン酸、デセン酸、ウンデセン酸、ドデセン酸、トリデセン酸、テトラデセン酸、ペンタデセン酸、ヘキサデセン酸、ヘプタデセン酸、オクタデセン酸、ノナデセン酸、イコセン酸、ヘンイコセン酸、ドコセン酸、トリコセン酸、テトラコセン酸等の不飽和脂肪酸;またはこれらの混合物が挙げられ、これら脂肪酸の全ての置換異性体も挙げられる。
【0028】
ジカルボン酸としては、好ましくは炭素数2〜40のジカルボン酸、より好ましくは炭素数5〜36のジカルボン酸が用いられる。これらの中でも、炭素数6〜18の不飽和脂肪酸をダイマー化したダイマー酸、アルキルまたはアルケニルコハク酸が好ましく用いられる。
ダイマー酸としては、例えば、オレイン酸のダイマー酸が挙げられる。また、アルキルまたはアルケニルコハク酸の中でも、アルケニルコハク酸が好ましく、炭素数8〜18のアルケニル基を有するアルケニルコハク酸がより好ましい。
ヒドロキシ脂肪酸としては、好ましくは炭素数6〜24のヒドロキシ脂肪酸が用いられる。また、ヒドロキシ脂肪酸が有するヒドロキシ基の個数は1個でも複数個でもよいが、1〜3個のヒドロキシ基を有するものが好ましく用いられる。このようなヒドロキシ脂肪酸としては、例えば、リシノール酸が挙げられる。
ナフテン酸とは、石油中のカルボン酸類であって、ナフテン環に−COOH基が結合したものをいう。
樹脂酸とは、天然樹脂中に遊離した状態またはエステルとして存在する有機酸をいう。
酸化ワックスとは、ワックスを酸化して得られるものである。原料として用いられるワックスは特に制限されないが、具体的には、石油留分の精製の際に得られるパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトラタムや合成により得られるポリオレフィンワックス等が挙げられる。
ラノリン脂肪酸とは、羊の毛に付着するろう状物質を、加水分解等の精製をして得られるカルボン酸である。
これらのカルボン酸の中でも、さび止め性、脱脂性および貯蔵安定性の点から、ジカルボン酸が好ましく、ダイマー酸がより好ましく、オレイン酸のダイマー酸がより好ましい。
【0029】
前記さび止め成分としてのスルホン酸塩の好ましい例としては、スルホン酸アルカリ金属塩、スルホン酸アルカリ土類金属塩またはスルホン酸アミン塩が挙げられる。スルホン酸塩はいずれも人体や生態系に対して十分に高い安全性を有するものであり、アルカリ金属、アルカリ土類金属またはアミンとスルホン酸とを反応させることにより得ることができる。
スルホン酸塩を構成するアルカリ金属およびアルカリ土類金属としては、それぞれ酸化ワックスのアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩の説明において例示されたアルカリ金属およびアルカリ土類金属が挙げられ、中でもナトリウム、カリウム、カルシウムが好ましい。
スルホン酸アミン塩を構成するアミンとしては、酸化ワックスのアミン塩の説明において例示されたアミンが挙げられる。
【0030】
前記スルホン酸は、常法によって製造された公知のものを使用することができる。具体的には、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものやホワイトオイル製造時に副生するいわゆるマホガニー酸等の石油スルホン酸、あるいは洗剤等の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生したりポリオレフィンをベンゼンにアルキル化することにより得られる、直鎖状や分岐鎖状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルホン化したものやジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルホン化したもの等の合成スルホン酸等、が挙げられる。これらのスルホン酸の分子量は特に制限はないが、好ましくは100〜1500、より好ましくは200〜700である。
【0031】
上記スルホン酸の中でも、ナフタレン環に結合する2つのアルキル基の総炭素数が14〜30であるジアルキルナフタレンスルホン酸;ベンゼン環に結合する2つのアルキル基がそれぞれ直鎖アルキル基または側鎖メチル基を1個有する分岐鎖状アルキル基であり、且つ2つのアルキル基の総炭素数が14〜30であるジアルキルベンゼンスルホン酸;およびベンゼン環に結合するアルキルの炭素数が15以上であるモノアルキルベンゼンスルホン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0032】
前記好適なジアルキルナフタレンスルホン酸である、ナフタレン環に結合する2つのアルキル基の総炭素数が14〜30のものにおいて、2つのアルキル基の総炭素数が14未満であると抗乳化性が不十分となる傾向にあり、他方30を超えると得られるさび止め油組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にある。2つのアルキル基はそれぞれ直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。また、2つのアルキル基の総炭素数が14〜30であれば各アルキル基の炭素数については特に制限はないが、各アルキル基の炭素数はそれぞれ6〜18が好ましい。
前記好適なジアルキルベンゼンスルホン酸である、ベンゼン環に結合する2つのアルキル基がそれぞれ直鎖アルキル基または側鎖メチル基を1個有する分岐鎖状アルキル基であり、且つ2つのアルキル基の総炭素数が14〜30のものが、モノアルキルベンゼンスルホン酸の場合は後述するようにアルキル基の炭素数が15以上であれば好適に使用できるが、アルキル基の炭素数が15未満のモノアルキルベンゼンスルホン酸を用いると組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にある。また、3個以上のアルキル基を有するアルキルベンゼンスルホン酸を用いた場合にも組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にある。
【0033】
ジアルキルベンゼンスルホン酸のベンゼン環に結合するアルキル基が側鎖メチル基以外の分岐構造を持つ分岐鎖状アルキル基、例えば、側鎖エチル基を有する分岐鎖状アルキル基等や2つ以上の分岐構造を有する分岐鎖状アルキル基、例えば、プロピレンのオリゴマーから誘導される分岐鎖状アルキル基等であると、人体または生態系に悪影響を及ぼす恐れがあり、また、さび止め性が不十分となる傾向にある。また、ジアルキルベンゼンスルホン酸のベンゼン環に結合する2つのアルキル基の総炭素数が14未満であると抗乳化性が低下する傾向にあり、他方、30を超えると組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にある。なお、ベンゼン環に結合する2つのアルキル基の総炭素数が14〜30であれば各アルキル基の炭素数については特に限定はないが、各アルキル基の炭素数はそれぞれ6〜18でが好ましい。
【0034】
前記好適なモノアルキルベンゼンスルホン酸は、前述の通り、ベンゼン環に結合する1つのアルキル基の炭素数が15以上のものである。ベンゼン環に結合するアルキル基の炭素数が15未満であると、得られる組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にある。また、ベンゼン環に結合するアルキル基は、その炭素数が15以上であれば直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
【0035】
上記原料を用いて得られるスルホン酸塩としては、例えば以下のものが挙げられる。
アルカリ金属の酸化物や水酸化物等のアルカリ金属の塩基;アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等のアルカリ土類金属の塩基またはアンモニア、アルキルアミンやアルカノールアミン等のアミンとスルホン酸とを反応させることにより得られる中性(正塩)スルホネート;上記中性(正塩)スルホネートと、過剰のアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基またはアミンを水の存在下で加熱することにより得られる塩基性スルホネート;炭酸ガスの存在下で上記中性(正塩)スルホネートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基またはアミンと反応させることにより得られる炭酸塩過塩基性(超塩基性)スルホネート;上記中性(正塩)スルホネートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基またはアミンならびにホウ酸または無水ホウ酸等のホウ酸化合物との反応、あるいは上記炭酸塩過塩基性(超塩基性)スルホネートとホウ酸または無水ホウ酸等のホウ酸化合物との反応によって得られるホウ酸塩過塩基性(超塩基性)スルホネート、またはこれらの混合物等が挙げられる。
【0036】
上記中性(正塩)スルホネートを製造する場合、反応促進剤として目的とするスルホン酸塩と同じアルカリ金属、アルカリ土類金属またはアミンの塩化物を添加したり、目的とするスルホネートと異なるアルカリ金属、アルカリ土類金属又アミンの中性(正塩)スルホネートを調製した後に目的とするスルホン酸塩と同じアルカリ金属アルカリ土類金属またはアミンの塩化物を添加して交換反応を行うことによっても目的のスルホン酸塩を得ることが可能である。しかし、このような方法により得られるスルホン酸塩には塩化物イオンが残存しやすいので、本発明においては、このような方法により得られるスルホン酸塩を用いないか、または、得られるスルホン酸塩に水洗等の十分な洗浄処理を行うことが好ましい。具体的には、スルホン酸塩中の塩素濃度を200質量ppm以下とすることが好ましく、100質量ppm以下とすることがより好ましく、50質量ppm以下とすることが好ましく、25質量ppm以下とすることが特に好ましい。
【0037】
また、スルホン酸塩としては、ナフタレン環に結合する2つのアルキル基の総炭素数が14〜30であるジアルキルナフタレンスルホン酸塩;ベンゼン環に結合する2つのアルキル基がそれぞれ直鎖アルキル基または側鎖メチル基を1個有する分岐鎖状アルキル基であり、且つ2つのアルキル基の総炭素数が14〜30であるジアルキルベンゼンスルホン酸塩;およびベンゼン環に結合するアルキルの炭素数が15以上であるモノアルキルベンゼンスルホン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0038】
本発明においては、上記のうち、中性、塩基性、過塩基性のアルカリ金属スルホネートおよびアルカリ土類金属スルホネートから選ばれる1種または2種以上を用いることがより好ましく;塩基価が0〜50mgKOH/g、好ましくは10〜30mgKOH/gの中性または中性に近いアルカリ金属スルホネート若しくはアルカリ土類金属スルホネートおよび/または塩基価が50〜500mgKOH/g、好ましくは200〜400mgKOH/gの(過)塩基性のアルカリ金属スルホネート若しくはアルカリ土類金属スルホネートを用いることが特に好ましい。また、上記の塩基価が0〜50mgKOH/gのアルカリ金属スルホネートまたはアルカリ土類金属スルホネートと塩基価が50〜500mgKOH/gのアルカリ金属スルホネートまたはアルカリ土類金属スルホネートとの質量比(塩基価が0〜50mgKOH/gのアルカリ金属スルホネートまたはアルカリ土類金属スルホネート/塩基価が50〜500mgKOH/gのアルカリ金属スルホネートまたはアルカリ土類金属スルホネート)は、好ましくは0.1〜30、より好ましくは1〜20、特に好ましくは1.5〜15である。
ここで、アルカリ金属としてはナトリウム、カリウム等が挙げられ、また、アルカリ土類金属としてはバリウム、カルシウム、マグネシウム等が挙げられる。ここで、塩基価とは、通常潤滑油基油等の希釈剤を30〜70質量%含む状態で、JIS K 2501「石油製品および潤滑油−中和価試験法」の6.に準拠した塩酸法により測定される塩基価を意味する。
【0039】
前記さび止め成分であるカルボン酸塩としては、前記カルボン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミン塩等が挙げられる。カルボン酸塩を構成するアルカリ金属、アルカリ土類金属およびアミンとしては、それぞれ酸化ワックス塩の説明において例示したアルカリ金属、アルカリ土類金属およびアミンが挙げられる。なお、バリウム塩は人体や生態系に対する安全性が不十分となるおそれがある。
【0040】
前記さび止め成分であるエステルとしては、多価アルコールの部分エステル、エステル化酸化ワックス、エステル化ラノリン脂肪酸、アルキルまたはアルケニルコハク酸エステル等が挙げられる。
多価アルコールの部分エステルとは、多価アルコール中の水酸基の少なくとも1個以上がエステル化されておらず水酸基のままで残っているエステルであり、その原料である多価アルコールとしては任意のものが使用可能であるが、分子中の水酸基の数は好ましくは2〜10、より好ましくは3〜6であり、且つ炭素数が2〜20、より好ましくは3〜10である多価アルコールが好適に使用される。これらの多価アルコールの中でも、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールおよびソルビタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の多価アルコールを用いることが好ましく、ペンタエリスリトールを用いることがより好ましい。
【0041】
他方、部分エステルを構成するカルボン酸としては、任意のものが用いられるが、カルボン酸の炭素数は、好ましくは2〜30、より好ましくは6〜24、更に好ましくは10〜22である。また、当該カルボン酸は、飽和カルボン酸であっても不飽和カルボン酸であってもよく、また直鎖状カルボン酸であっても分岐鎖状カルボン酸であってもよい。
このような脂肪酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、ヘンイコサン酸、ドコサン酸、トリコサン酸、テトラコサン酸、ペンタコサン酸、ヘキサコサン酸、ヘプタコサン酸、オクタコサン酸、ノナコサン酸、トリアコンタン酸等の飽和脂肪酸;プロペン酸、ブデン酸、ペンテン酸、ヘキセン酸、ヘプテン酸、オクテン酸、ノネン酸、デセン酸、ウンデセン酸、ドデセン酸、トリデセン酸、テトラデセン酸、ペンタデセン酸、ヘキサデセン酸、ヘプタデセン酸、オクタデセン酸、ノナデセン酸、イコセン酸、ヘンイコセン酸、ドコセン酸、トリコセン酸、テトラコセン酸、ペンタコセン酸、ヘキサコセン酸、ヘプタコセン酸、オクタコセン酸、ノナコセン酸、トリアコンテン酸等の不飽和脂肪酸;またはこれらの混合物が挙げられ、これら脂肪酸の全ての置換異性体も挙げられる。
【0042】
部分エステルを構成するカルボン酸として、ヒドロキシカルボン酸を用いてもよい。ヒドロキシカルボン酸は、飽和カルボン酸であっても不飽和カルボン酸であってもよいが、安定性の点から飽和カルボン酸が好ましい。また、ヒドロキシカルボン酸は、直鎖カルボン酸または分岐カルボン酸であってもよいが、直鎖カルボン酸、あるいは炭素数1または2、より好ましくは炭素数1の分岐鎖を1〜3個、より好ましくは1〜2個、特に好ましくは1個有する分岐カルボン酸が好ましい。
ヒドロキシカルボン酸の炭素数は、さび止め性と貯蔵安定性との両立の点から、2〜40が好ましく、6〜30がより好ましく、8〜24がさらに好ましい。
ヒドロキシカルボン酸が有するカルボン酸基の個数は特に制限されず、当該ヒドロキシカルボン酸一塩基酸または多塩基酸のいずれでもよいが、一塩基酸が好ましい。
ヒドロキシカルボン酸が有する水酸基の個数は特に制限されないが、安定性の点から、1〜4が好ましく、1〜3がより好ましく、1〜2が更に好ましく、1が特に好ましい。
ヒドロキシカルボン酸における水酸基の結合位置は任意であるが、カルボン酸基の結合炭素原子に水酸基が結合したカルボン酸(α-ヒドロキシ酸)、またはカルボン酸基の結合炭素原子から見て主鎖の他端の炭素原子に水酸基が結合したカルボン酸(ω-ヒドロキシ酸)であることが好ましい。
【0043】
ヒドロキシカルボン酸の好ましい例としては、例えば、式(1)で表されるα-ヒドロキシ酸、および式(2)で表されるω-ヒドロキシ酸が挙げられる。
【化1】



式中、R1は水素原子、炭素数1〜38のアルキル基または炭素数2〜38のアルケニル基を示す。またR2は水素原子、炭素数1〜38のアルキレン基または炭素数2〜38のアルケニレン基を示す。
【0044】
1で示されるアルキル基およびアルケニル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、トリアコンチル基、ヘントリアコンチル基、ドトリアコンチル基、トリトリアコンチル基、テトラトリアコンチル基、ペンタトリアコンチル基、ヘキサトリアコンチル基、ヘプタトリアコンチル基、オクタトリアコンチル基等のアルキル基;エテニル基(ビニル基)、プロペニル基(アリル基)、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基、ペンタコセニル基、ヘキサコセニル基、ヘプタコセニル基、オクタコセニル基、ノナコセニル基、トリアコンテニル基、ヘントリアコンテニル基、ドトリアコンテニル基、トリトリアコンテニル基、テトラトリアコンテニル基、ペンタトリアコンテニル基、ヘキサトリアコンテニル基、ヘプタトリアコンテニル基、オクタトリアコンテニル基等のアルケニル基が挙げられ、これらの全ての異性体も挙げられる。
【0045】
2で示されるアルキレン基およびアルケニレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、オクタデシレン基、ノナデシレン基、イコシレン基、ヘンイコシレン基、ドコシレン基、トリコシレン基、テトラコシレン基、ペンタコシレン基、ヘキサコシレン基、ヘプタコシレン基、オクタコシレン基、ノナコシレン基、トリアコンチレン基、ヘントリアコンチレン基、ドトリアコンチレン基、トリトリアコンチレン基、テトラトリアコンチレン基、ペンタトリアコンチレン基、ヘキサトリアコンチレン基、ヘプタトリアコンチレン基、オクタトリアコンチレン基等のアルキレン基;エテニレン基(ビニレン基)、プロペニル基(アリレン基)、ブテニレン基、ペンテニレン基、ヘキセニレン基、ヘプテニレン基、オクテニレン基、ノネニレン基、デセニレン基、ウンデセニレン基、ドデセニレン基、トリデセニレン基、テトラデセニレン基、ペンタデセニレン基、ヘキサデセニレン基、ヘプタデセニレン基、オクタデセニレン基、ノナデセニレン基、イコセニレン基、ヘンイコセニレン基、ドコセニレン基、トリコセニレン基、テトラコセニレン基、ペンタコセニレン基、ヘキサコセニレン基、ヘプタコセニレン基、オクタコセニレン基、ノナコセニレン基、トリアコンテニレン基、ヘントリアコンテニレン基、ドトリアコンテニレン基、トリトリアコンテニレン基、テトラトリアコンテニレン基、ペンタトリアコンテニレン基、ヘキサトリアコンテニレン基、ヘプタトリアコンテニレン基、オクタトリアコンテニレン基等のアルケニレン基が挙げられ、これらの全ての異性体も挙げられる。
【0046】
このようなヒドロキシカルボン酸を含む原料として、羊の毛に付着するろう状物質を、加水分解等により精製して得られるラノリン脂肪酸を好ましく使用することができる。
部分エステルの構成カルボン酸としてヒドロキシカルボン酸を用いる場合、水酸基を有さないカルボン酸を併用してもよい。なお、部分エステルを構成するカルボン酸がヒドロキシカルボン酸および水酸基を有さないカルボン酸の双方を含む場合、構成カルボン酸の全量に占めるヒドロキシカルボン酸の割合は5〜80質量%が好ましい。ヒドロキシカルボン酸の割合が5質量%未満であると防錆性が不十分となる傾向にある。同様の理由から、当該ヒドロキシカルボン酸の割合は、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上が更に好ましい。また、当該ヒドロキシカルボン酸の割合が80質量%を超えると、貯蔵安定性および基油に対する溶解性が不十分となる傾向にある。同様の理由から、当該ヒドロキシカルボン酸の割合は、60質量%以下がより好ましく、40質量%以下が更に好ましく、30質量%以下が一層好ましく、20質量%以下が特に好ましい。
【0047】
水酸基を有さないカルボン酸としては、飽和カルボン酸であっても不飽和カルボン酸であってもよい。水酸基を有さないカルボン酸のうち、飽和カルボン酸は直鎖カルボン酸または分岐カルボン酸のいずれでもよいが、直鎖カルボン酸、あるいは炭素数1または2、より好ましくは炭素数1の分岐鎖を1〜3、より好ましくは1〜2、更に好ましくは1の分岐カルボン酸が好ましい。
水酸基を有さない飽和カルボン酸の炭素数は、さび止め性と貯蔵安定性との両立の点から、2〜40が好ましく、6〜30がより好ましく、8〜24が更に好ましい。水酸基を有さない飽和カルボン酸におけるカルボン酸基の個数は特に制限されず、一塩基酸または多塩基酸のいずれでもよいが、一塩基酸が好ましい。
水酸基を有さない飽和カルボン酸の中でも、酸化安定性および耐ステイン性の点から、ラウリン酸、ステアリン酸等の炭素数10〜16の直鎖飽和カルボン酸が特に好ましい。
【0048】
水酸基を有さないカルボン酸のうち、不飽和カルボン酸は直鎖カルボン酸または分岐のいずれでもよいが、直鎖カルボン酸、あるいは炭素数1または2、より好ましくは炭素数1の分岐鎖を1〜3、より好ましくは1〜2、更に好ましくは1の分岐カルボン酸が好ましい。
水酸基を有さないカルボン酸のうち、不飽和カルボン酸の炭素数は、さび止め性と貯蔵安定性との両立の点から、2〜40が好ましく、6〜30がより好ましく、8〜24が更に好ましく、12〜22が特に好ましい。
【0049】
水酸基を有さない不飽和カルボン酸におけるカルボン酸基の個数は特に制限されず、一塩基酸または多塩基酸のいずれでもよいが、一塩基酸が好ましい。
水酸基を有さない不飽和カルボン酸が有する不飽和結合の個数は特に制限されないが、安定性の点から、1〜4が好ましく、1〜3がより好ましく、1〜2が更に好ましく、1が特に好ましい。
水酸基を有さない不飽和カルボン酸の中でも、さび止め性および基油に対する溶解性の点からはオレイン酸等の炭素数18〜22の直鎖不飽和カルボン酸が好ましく、また、酸化安定性、基油に対する溶解性および耐ステイン性の点からは、イソステアリン酸等の炭素数18〜22の分岐不飽和カルボン酸が好ましく、特にオレイン酸が好ましい。
【0050】
多価アルコールとカルボン酸との部分エステルにおいて、構成カルボン酸に占める不飽和カルボン酸の割合は5〜95質量%が好ましい。不飽和カルボン酸の割合を5質量%以上とすることで、さび止め性および貯蔵安定性を更に向上させることができる。同様の理由から、当該不飽和カルボン酸の割合は、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上が更に好ましく、30質量%以上が一層好ましく、35質量%以上が特に好ましい。他方、当該不飽和カルボン酸の割合が95質量%を超えると、大気暴露性および基油に対する溶解性が不十分となる傾向にある。同様の理由から、当該不飽和カルボン酸の割合は、80質量%以下がより好ましく、60質量%以下が更に好ましく、50質量%以下が特に好ましい。
【0051】
不飽和カルボン酸には、水酸基を有する不飽和カルボン酸および水酸基を有さない不飽和カルボン酸の双方が包含されるが、不飽和カルボン酸全量に占める水酸基を有さない不飽和カルボン酸の割合は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましい。
上記部分エステルが、構成カルボン酸に占める不飽和カルボン酸の割合が5〜95質量%である部分エステルである場合、当該部分エステルのヨウ素価は、5〜75が好ましく、10〜60がより好ましく、20〜45が更に好ましい。部分エステルのヨウ素価が5未満であると、さび止め性および貯蔵安定性が低下する傾向にある。また、部分エステルのヨウ素価が75を超えると、大気暴露性および基油に対する溶解性が低下する傾向にある。
本発明でいう「ヨウ素価」とは、JIS K 0070「化学製品の酸価、ケン化価、ヨウ素価、水酸基価および不ケン化物価」の指示薬滴定法により測定したヨウ素価を意味する。
【0052】
前記部分エステルの製造方法としては、例えば下記製造方法(i)、(ii)、(iii)が挙げられる。
(i)多価アルコールとヒドロキシカルボン酸との、またはヒドロキシカルボン酸と水酸基を有さない飽和カルボン酸との混合物との部分エステルと、多価アルコールと水酸基を有さない不飽和カルボン酸との、または水酸基を有さない不飽和カルボン酸と水酸基を有さない飽和カルボン酸との混合物との部分エステルとを、両者の混合物におけるカルボン酸組成が上記条件を満たすように混合する方法。
(ii)得られる部分エステルのカルボン酸組成が上記条件を満たすように、水酸基を有するカルボン酸と水酸基を有さない不飽和カルボン酸とを混合し、あるいは水酸基を有さない飽和カルボン酸を更に混合し、当該カルボン酸混合物と多価アルコールとの部分エステル化反応を行う方法。
(iii)ヒドロキシカルボン酸と水酸基を有さない不飽和カルボン酸との混合物との、あるいはこれらのカルボン酸と水酸基を有さない飽和カルボン酸との混合物との部分エステルに、カルボン酸組成が上記条件を満たすように、多価アルコールとヒドロキシカルボン酸との、もしくはヒドロキシカルボン酸と水酸基を有さない飽和カルボン酸との混合物との部分エステル、または多価アルコールと水酸基を有さない不飽和カルボン酸との、もしくは水酸基を有さない不飽和カルボン酸と水酸基を有さない飽和カルボン酸との混合物との部分エステルを混合する方法。
【0053】
上記製造方法(i)の場合、例えば、ヒドロキシカルボン酸と水酸基を有さない飽和カルボン酸との混合物としてラノリン脂肪酸を、水酸基を有さない不飽和カルボン酸としてオレイン酸等の炭素数2〜40の不飽和カルボン酸を、それぞれ好ましく用いることができる。この場合、多価アルコールとヒドロキシカルボン酸と水酸基を有さない飽和カルボン酸との混合物、好ましくはラノリン脂肪酸とで構成される部分エステル(第1の部分エステル)と、多価アルコールと水酸基を有さない不飽和カルボン酸、好ましくはオレイン酸とで構成される部分エステル(第2の部分エステル)との含有割合は、両者の混合物におけるカルボン酸組成比が上記条件を満たせば特に制限されないが、第1および第2の部分エステルの合計量に占める第1の部分エステルの割合は、20〜95質量%が好ましく、40〜80質量%がより好ましく、55〜65質量%が特に好ましい。
第1の部分エステルの割合が20質量%未満であるか、あるいは95質量%を超える場合、大気暴露性等の錆止め性が不十分となる傾向にある。また、第1の部分エステルの割合が95質量%を超えると、部分エステル全体の基油に対する溶解性が低下し、貯蔵安定性が不十分となる傾向にある。
【0054】
前記エステル化酸化ワックスとは、酸化ワックスとアルコール類とを反応させ、酸化ワックスが有する酸性基の一部または全部をエステル化させたものをいう。エステル化酸化ワックスの原料として使用される酸化ワックスとしては、上記酸化ワックス塩の説明において例示された酸化ワックス;アルコール類としては、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状の飽和1価アルコール、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状の不飽和1価アルコール、上記エステルの説明において例示された多価アルコール、ラノリンの加水分解により得られるアルコール等、がそれぞれ挙げられる。
【0055】
前記エステル化ラノリン脂肪酸とは、羊の毛に付着するろう状物質を、加水分解等の精製によって得られたラノリン脂肪酸とアルコールとを反応させて得られたものを指す。エステル化ラノリン脂肪酸の原料として使用されるアルコールとしては、上記エステル化酸化ワックスの説明において例示されたアルコールが挙げられ、中でも多価アルコールが好ましく、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ソルビタン、ペンタエリスリトール、グリセリンがより好ましい。
前記アルキルまたはアルケニルコハク酸エステルとしては、前記アルキルまたはアルケニルコハク酸と1価アルコールまたは2価以上の多価アルコールとのエステルが挙げられる。これらの中でも1価アルコールまたは2価アルコールのエステルが好ましい。
【0056】
1価アルコールは、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、また、飽和アルコールでも不飽和アルコールでもよい。また、1価アルコールの炭素数は特に制限されないが、炭素数8〜18の脂肪族アルコールが好ましい。
2価アルコールとしては、アルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコールが好ましく用いられる。アルキレングリコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール、ヘキシレングリコール、ヘプチレングリコール、オクチレングリコール、ノニレングリコール、デシレングリコールが挙げられる。
ポリオキシアルキレングリコールとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドを単独重合または共重合させたものが挙げられる。
ポリオキシアルキレングリコールにおいて、構造の異なるアルキレンオキサイドが共重合している場合、オキシアルキレン基の重合形式は特に制限されず、ランダム共重合、ブロック共重合のいずれでもよい。また、ポリオキシアルキレングリコールの重合度は特に制限されないが、2〜10が好ましく、2〜8がより好ましく、2〜6が更に好ましい。
【0057】
アルキルまたはアルケニルコハク酸エステルとしては、アルキルまたはアルケニルコハク酸の2個の−COOH基の双方がエステル化されたジエステル(完全エステル)であってもよく、あるいは−COOH基の一方のみがエステル化されたモノエステル(部分エステル)であってもよいが、よりさび止め性に優れる点から、モノエステルが好ましい。
これらのエステルの中では、水共存下でよりすぐれたさび止め性を発揮する点から、エステル化ラノリン脂肪酸の使用が特に好ましい。
【0058】
前記さび止め成分であるザルコシン型化合物としては、式(3)〜(5)のいずれかで表される化合物が好ましく用いられる。本発明の組成物に式(3)〜(5)で表される少なくとも1種のザルコシン型化合物を含有させることによって、ワックス、ペトロラタム、重質基油等の重質成分を用いずとも、さび止め性を更に向上させることができ、また、そのさび止め性を長期にわたって高水準に維持することができる。このため、さび止め性およびその長期維持性に優れると共に、持ち出し量の増加の抑制、脱脂性および噴霧性の点で有利なさび止め油組成物を得ることができる。
【0059】
3−CO−NR4−(CH2)n−COOX (3)
(R3−CO−NR4−(CH2)n−COO)mY (4)
(R3−CO−NR4−(CH2)n−COO)m−Z−(OH)m' (5)
各式中、R3は炭素数6〜30のアルキル基または炭素数6〜30のアルケニル基、R4は炭素数1〜4のアルキル基を示し、nは1〜4の整数を示す。また、式(3)中、Xは水素原子、炭素数1〜30のアルキル基または炭素数1〜30のアルケニル基を示す。式(4)中、Yはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、mはYがアルカリ金属の場合は1、アルカリ土類金属の場合は2を示す。式(5)中、Zは2価以上の多価アルコールの水酸基を除いた残基、mは1以上の整数、m'は0以上の整数、m+m'はZの価数を示す。
【0060】
式(3)〜(5)中、R3は、基油への溶解性等の点から、炭素数6以上のアルキル基またはアルケニル基であり、炭素数7以上が好ましく、炭素数8以上がより好ましい。また、貯蔵安定性等の点から、炭素数30以下のアルキル基またはアルケニル基であり、炭素数24以下が好ましく、炭素数20以下がより好ましい。
このようなアルキル基およびアルケニル基としては、例えば、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等のアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でも良い);ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基等のアルケニル基(これらアルケニル基は直鎖状でも分枝状でも良く、また二重結合の位置も任意である)等が挙げられる。
【0061】
式(3)〜(5)中、R4は炭素数1〜4のアルキル基を表す。貯蔵安定性等の点から、炭素数4以下のアルキル基であり、炭素数3以下が好ましく、炭素数2以下がより好ましい。
式(3)〜(5)中、nは、貯蔵安定性等の点から、4以下の整数であり、3以下が好ましく、2以下がより好ましい。
式(3)中、Xで表されるアルキル基またはアルケニル基は、貯蔵安定性等の点から炭素数30以下であり、炭素数20以下が好ましく、炭素数10以下がより好ましい。このようなアルキル基またはアルケニル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でも良い);エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基等のアルケニル基(これらアルケニル基は直鎖状でも分枝状でも良く、また二重結合の位置も任意である)等が挙げられる。また、よりさび止め性に優れるなどの点から、アルキル基であることが好ましい。Xとしては、よりさび止め性に優れる等の点から、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基または炭素数1〜20のアルケニル基が好ましく、水素原子または炭素数1〜20のアルキル基がより好ましく、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基がさらにより好ましい。
【0062】
式(4)中、Yで表されるアルカリ金属またはアルカリ土類金属としては、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウムが挙げられる。これらの中でも、よりさび止め性に優れる点から、アルカリ土類金属が好ましい。なお、バリウムの場合、人体や生態系に対する安全性が不十分となるおそれがある。
【0063】
式(5)中、Zで表される多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、1,8−オクタンジオール、イソプレングリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ソルバイト、カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、ダイマージオール等の2価のアルコール;グリセリン、2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、1,2,3−ブタントリオール、1,2,3−ペンタントリオール、2−メチル−1,2,3−プロパントリオール、2−メチル−2,3,4−ブタントリオール、2−エチル−1,2,3−ブタントリオール、2,3,4−ペンタントリオール、2,3,4−ヘキサントリオール、4−プロピル−3,4,5−ヘプタントリオール、2,4−ジメチル−2,3,4−ペンタントリオール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,4−ペンタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の3価アルコール;ペンタエリスリトール、エリスリトール、1,2,3,4−ペンタンテトロール、2,3,4,5−ヘキサンテトロール、1,2,4,5−ペンタンテトロール、1,3,4,5−ヘキサンテトロール、ジグリセリン、ソルビタン等の4価アルコール;アドニトール、アラビトール、キシリトール、トリグリセリン等の5価アルコール;ジペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトール、イジトール、イノシトール、ダルシトール、タロース、アロース等の6価アルコール;ポリグリセリンまたはこれらの脱水縮合物が挙げられる。
式(5)中、mおよびm'は、Zの多価アルコールの水酸基のうち、全てが置換されていても良く、その一部のみが置換されていても良いことを意味する。
【0064】
式(3)〜(5)で表されるザルコシン型化合物は、これらの中から選ばれる1種の化合物のみを単独で使用しても良く、2種以上の化合物の混合物を使用しても良い。中でも、よりさび止め性に優れる点から、式(3)および(4)の中から選ばれる少なくとも1種の化合物が好ましい。
【0065】
前記さび止め成分であるアミンとしては、上記酸化ワックス塩の説明において例示されたアミンが、また、ホウ素化合物としては、ホウ酸カルシウム等が挙げられる。
【0066】
本発明の組成物においては、上記さび止め剤のうちの1種を単独で使用しても、また同種のさび止め剤を2種以上混合して使用してもよく、さらに異種のさび止め剤を2種以上混合して使用してもよい。
本発明の組成物に用いるさび止め剤としては、水が共存する条件下でより優れたさび止め性を発揮するという点から、スルホン酸塩またはエステルが好ましく、さらにスルホン酸塩とエステルを併用することがより好ましい。
上記さび止め剤以外に、高級脂肪族アルコール等に代表されるアルコール類;リン酸モノエステル、リン酸ジエステル、亜リン酸エステル、これらのアミン塩等に代表される(亜)リン酸誘導体類等をさび止め剤として含有させることもできる。
【0067】
上記さび止め添加剤を製造するに際し、脱色を目的として塩素系漂白剤が使用されることがあるが、本発明においては、漂白剤として過酸化水素等の非塩素系化合物を用いるか、あるいは脱色処理を行わないことが好ましい。また、油脂類の加水分解等で塩酸等の塩素系化合物が使用されることがあるが、この場合も、非塩素系の酸または塩基性化合物を使用することが好ましい。更に、得られる化合物に水洗等の十分な洗浄処理を施すことが好ましい。
上記さび止め剤の塩素濃度は、本発明の組成物の特性を損なわない限りにおいて特に制限されないが、好ましくは200質量ppm以下、より好ましくは100質量ppm以下、さらに好ましくは50ppm以下、特に好ましくは25質量ppm以下である。
【0068】
本発明の組成物において、カルボン酸以外のさび止め剤を用いる場合の含有量は特に制限されないが、さび止め性の点から、組成物全量基準として、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上である。また、カルボン酸以外のさび止め剤の含有量は、脱脂性および貯蔵安定性の点から、組成物全量を基準として、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
本発明の組成物において、さび止め剤としてカルボン酸を用いる場合の含有量は特に制限されないが、さび止め性の点から、組成物全量基準として、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上である。カルボン酸の含有量が前記下限値未満であると、その添加によるさび止め性向上効果が不十分となる恐れがある。また、カルボン酸の含有量は、組成物全量を基準として、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下、更に好ましくは0.2質量%以下である。カルボン酸の含有量が前記上限値を超えると、基油に対する溶解性が不十分となり、貯蔵安定性が低下する恐れがある。
【0069】
本発明の組成物は水を必須成分として含有する。ここでいう水としては、工業用水、水道水、イオン交換水、蒸留水、活性炭または一般家庭用浄水器で処理した水等任意のものが使用可能である。
本発明の組成物において、水の含有量は組成物全量基準で、通常0.1〜20質量%である。含有量の下限値は、洗浄性の点から、0.1質量%以上であり、0.2質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、0.8質量%以上が最も好ましい。また、含有量の上限値は、本発明の組成物が二層分離等を生じないような液安定性を示す点から、20質量%以下であり、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下が最も好ましい。
【0070】
本発明の組成物の40℃における動粘度の下限値は4mm2/s以上であり、5mm2/s以上が好ましく、6mm2/s以上がより好ましい。動粘度が前記下限値未満の場合、油膜を維持することができないため、さび止め性に問題が生ずる恐れがある。また本発明の組成物の40℃における動粘度の上限値は20mm2/s以下であり、18mm2/s以下が好ましく、15mm2/s以下がより好ましい。動粘度が前記上限値を超えると、洗浄性が低下する恐れがある。
【0071】
本発明の組成物においては、必要に応じて他の添加剤を含有させてもよい。具体的には例えば、酸性雰囲気での暴露さび止め性向上効果が著しいパラフィンワックス;プレス成形性向上効果あるいは潤滑性向上効果が著しい硫化油脂、硫化エステル、長鎖アルキル亜鉛ジチオホスフェート、トリクレジルフォスフェート等のリン酸エステル、豚脂等の油脂、脂肪酸、高級アルコール、炭酸カルシウム、ホウ酸カリウム;酸化防止性能を向上させるためのフェノール系またはアミン系酸化防止剤;ベンゾトリアゾールまたはその誘導体、チアジアゾール、ベンゾチアゾール等の腐食防止性能を向上させるための腐食防止剤;ジエチレングリコールモノアルキルエーテル等の湿潤剤;アクリルポリマー、パラフィンワックス、マイクロワックス、スラックワックス、ポリオレフィンワックス、ペトロラタム等の造膜剤;メチルシリコーン、フルオロシリコーン、ポリアクリレート等の消泡剤、界面活性剤、またはこれらの混合物が挙げられる。なお、上記他の添加剤の含有量は任意であるが、これらの添加剤の含有量の総和は本発明の組成物全量基準で10質量%以下が好ましい。
【0072】
本発明の組成物においては、バリウム、亜鉛、塩素および鉛の含有量はそれぞれ元素換算で、組成物全量基準として、好ましくは1000質量ppm以下、より好ましくは500質量ppm以下、更に好ましくは100質量ppm以下、更により好ましくは50質量ppm以下、一層好ましくは10質量ppm以下、特に好ましくは5質量ppm以下、最も好ましくは1質量ppm以下である。これらの元素のうちの1つでもその含有量が1000質量ppmを超える場合には、人体あるいは生態系等の環境に対する安全性が不十分となる可能性がある。
なお、本発明における元素の含有量とは、以下の方法によって測定される値をいう。すなわち、バリウム、亜鉛および鉛の含有量とは、ASTM D 5185-95 "Standard Test Method for Determination of Additive Elements, Wear Metals, and Contaminants in Used Lubricating Oils and Determination of Selected Elements in Base Oils by Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry(ICP-AES)";塩素の含有量とは、"IP PROPOSED METHOD AK/81Determination of chlorine ? Microcoulometry oxidative method"にそれぞれ準拠して測定される組成物全量を基準とした含有量(質量ppm)を意味する。上記測定方法における各元素の検出限界は通常1質量ppmである。
【0073】
本発明の組成物の塩基価は特に制限されないが、さび止め性の点から、好ましくは1mgKOH/g以上、より好ましくは1.5mgKOH/g以上、更に好ましくは2mgKOH/g以上、特に好ましくは3mgKOH/g以上である。また、貯蔵安定性の点から、当該塩基価は、好ましくは20mgKOH/g以下、より好ましくは15mgKOH/g以下、更に好ましくは10mgKOH/g以下であり、特に好ましくは8mgKOH/gである。ここで、塩基価とは、JIS K 2501「石油製品および潤滑油−中和価試験方法」の6.に準拠した塩酸法により測定される塩基価(mgKOH/g)をいう。
【0074】
本発明の組成物は、さび止め性、脱脂性、貯蔵安定性および洗浄性の全てを高水準でバランスよく達成できるものであり、様々な金属製部材のさび止め油として好適に用いることができる。被処理体である金属製部材は特に制限されず、具体的には、自動車ボディや電気製品ボディとなる冷延鋼板、熱延鋼板、高張力鋼板、亜鉛めっき鋼板等の表面処理鋼板、ブリキ用原板、アルミニウム合金板、マグネシウム合金板等の金属製板材、更には転がり軸受、テーパー転がり軸受、ニードル軸受等の軸受部品、建築用鋼材、精密部品等が挙げられる。
このような金属製部材に対する従来のさび止め油としては、金属製部材の加工工程等の過程で用いられる中間さび止め油、出荷時のさび止めのために用いられる出荷さび止め油、プレス加工に供する前の異物除去または金属板製造メーカーにおいて出荷に先立つ異物除去のための洗浄工程で用いられる洗浄さび止め油などがあるが、本発明の洗浄兼さび止め油組成物はこれらすべての用途に使用することができる。
【0075】
本発明の組成物を被処理体に塗布する方法は特に制限されず、例えば、スプレー、滴下、フェルト材等による転写、静電塗油等の方法により金属製部材に塗布することができる。これらの塗布法の中でも、スプレー法は、微細な霧状で塗布することにより油膜厚さを均一とできるので好ましい。スプレー法を適用する場合の塗布装置としては、本発明の組成物を霧化できるものであれば特に制限されず、例えば、エアースプレータイプ、エアレススプレータイプ、ホットメルトタイプのいずれも適用可能である。
塗布工程においては、過剰の洗浄兼さび止め油組成物が塗布された後に、遠心分離器を用いたドレイン切り工程、あるいは長時間放置によるドレイン切り工程を設けることが好ましい。
【0076】
本発明の組成物を洗浄油として用いる場合には、金属製部材の表面に、大過剰量の本発明の組成物を、スプレー、シャワー、浸漬塗布等により給油することによって良好な洗浄およびその後のさびの防止を行うことができる。さらに、必要に応じて、上記金属加工工程後にロールブラシ等による表面清掃を併せて行うと、異物除去の効率を高めることができる。
本発明の組成物を用いて洗浄を行う際には、リンガーロール等による金属製部材の表面処理を併せて行い、金属製部材の表面の付着油量を調節することが好ましい。
【0077】
本発明の組成物の塗布方法が上記のいずれであっても、金属製部材上に過剰量塗布された洗浄兼さび止め油組成物を回収、循環、再使用することが好ましい。なお、本発明の組成物の循環に際しては、循環系中に混入する異物の除去を併せて行うことが好ましい。
例えば、本発明の組成物の循環経路の途中、好ましくは本発明の組成物を金属製部材に向けて噴出させる直前に、フィルターを設けて異物の除去を行うことができる。また、本発明の組成物を貯留するタンクの底部に磁石を設け、磁力により摩耗粉等の異物を吸着させて除去することもできる。
このような工程において再使用される本発明の組成物の性能は、前工程油の混入等により低下することが懸念される。したがって、本発明の組成物を再使用する際には、使用油に対して定期的に動粘度や密度の測定、銅板腐食試験、さび止め性試験等を行ってその性状を管理し、必要に応じて更油、ドレイン廃棄、タンク清掃、浄油操作等を行うことが好ましい。
【0078】
廃棄した油剤については、その油剤をそのまま、あるいは溶剤または低粘度基油で希釈し、廃棄前に使用されていたラインに比べて洗浄兼さび止め油組成物への要求性能が低いラインに使用することによって、総使用油量の低減を図ることができる。
本発明の組成物をタンクに貯留する際には、タンク内の該組成物の減少量に応じて補給することが好ましい。その場合、必ずしも初期に充填した組成物と同一の組成でなく、その時々に応じて強化したい性能を引き出すための添加剤を増量した組成物等を補給してもよい。あるいは逆に、高粘度基油の含有量を低減する等の方法により低粘度化させた組成物を補給して、洗浄兼さび止め油組成物の洗浄能力を維持してもよい。
【0079】
本発明の組成物を金属板製造メーカーにおいて出荷に先立つ異物除去のための洗浄工程に用いる場合、金属板を、洗浄工程の後に直ちにコイル状に巻き取り、あるいはシート材として重ねて出荷することが可能である。この方法によれば、異物の付着量が少なく、かつプレス加工においてプレス工程の直前に洗浄さび止め油による洗浄工程が行われた際にも容易に且つ確実に洗浄できるというメリットがある。なお、当然のことながら、鋼板製造場所において洗浄さび止め油により洗浄する工程に続いて、再度さび止め油を塗布する工程を設け、2段階でさび止め処理を行なってもよい。
【実施例】
【0080】
以下、実施例および比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
実施例1〜8、比較例1〜4
実施例1〜8および比較例1〜4においては、それぞれ以下に示す基油および添加剤を用いて、表1に示す組成を有する洗浄兼さび止め油組成物を調製した。
(基油)
基油1:40℃における動粘度が1.5mm2/sの鉱油
基油2:40℃における動粘度が6.2mm2/sの鉱油
基油3:40℃における動粘度:93.0mm2/s鉱油
(さび止め剤)
さび止め剤1:Naジノニルナフタレンスルホネート
さび止め剤2:エチレンジアミンスルホネート
さび止め剤3:ペンタエリスリトールのラノリン脂肪酸部分エステル
(水)
蒸留水
(その他の添加剤)
その他添加剤1:酸化防止剤としてのジ−t−ブチル−p−クレゾール
その他添加剤2:金属不活性化剤としてのベンゾトリアゾール
その他添加剤3:界面活性剤としてのジシクロヘキシルアミンEO付加物
【0081】
実施例1〜8および比較例1〜4の各洗浄兼さび止め油組成物について以下の評価試験を行った。結果を表1に示す。
(湿潤試験)
JIS K 2246 5.34「湿潤試験方法」に準拠した方法で行い、評価基準であるA級(さびの発生度が0%)を維持することのできた時間数で表示した。
(指紋除去性試験)
JIS K 2246 5.31「指紋除去性試験」に準拠した方法で行い、さび発生のな
い場合を○印で表示した。
(指紋抑制試験)
下記のステップで試験を行う。
(1)清浄にした試験片(湿潤試験と同じもの)について、JIS K 2246 5.31の指紋除去性試験を実施し、人工指紋液をプリントする。
(2)指紋をプリントした試験片を試料油中に浸漬塗布し、24h油切りする。
(3)湿潤試験と同じ要領で試験片を吊った状態とし、50℃、相対湿度95%に調整した高湿恒温槽内で2週間保持したときの、さび発生の有無を評価し、さび発生のない場合を○印で表示した。
(分離安定性)
さび止め油組成物を調製後、25℃に調整した恒温槽中に24h保持し、水の分離の有無を評価した。
表1の結果より、洗浄兼さび止め油組成物が水を含有しないと指紋除去性・指紋抑制性が悪く(比較例1)、粘度が低すぎると指紋除去性が悪く(比較例2)、粘度が高すぎると指紋抑制性が悪く(比較例3)、また水が多すぎると水分離を起こす(比較例4)ことがわかる。
【0082】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
40℃における動粘度1〜18mm2/sの鉱油および/または合成油、ならびに40℃における動粘度55〜130mm2/sの鉱油および/または合成油からなる基油と、さび止め剤と、水とを含有してなる、40℃における動粘度が4〜20mm2/sの洗浄兼さび止め油組成物。
【請求項2】
さび止め剤が、酸化ワックス塩、カルボン酸、スルホン酸塩、カルボン酸塩、エステル、ザルコシン型化合物、アミン及びホウ素化合物からなる群から選ばれる1種以上の化合物である請求項1記載の洗浄兼さび止め油組成物。