説明

洗濯機における溶剤の回収方法、及び同装置

【課題】洗濯機に用いられたカートリッジフィルタを交換する際、含まれている溶剤を回収する技術を改良し、小形軽量,低コストの部材を用いて、迅速かつ容易に溶剤を回収し得るようにする。
【解決手段】溶剤ポンプ4から洗濯槽1に至る鎖線(矢印b)は、通常の洗濯作業において溶剤を循環させる管路であって、その途中にカートリッジフィルタ5を通過して濾過される。この管路の途中に設けられている三方弁14を介して、高温高圧の水蒸気15をカートリッジフィルタ5に吹き込み、流通させる。水蒸気は溶剤を気化させて混合し、スチルタンク9を経てスチルコンデンサ10に導かれて冷却,液化され、水分分離器11で水分Waを分離除去されて溶剤タンク3に戻される(矢印H,I)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗濯機に用いられたカートリッジフィルタを交換する際、該カートリッジフィルタに含まれている溶剤を回収する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図2は、業務用洗濯機の従来例を単純化して模式的に描いた系統図である。
洗濯槽1の外胴1a内で回転する内胴1bの中に、洗濯物2と溶剤とが入れられる。この洗濯機における流体循環には、次に述べる3系統が有る。
鎖線で描いたのは溶剤循環系統である。溶剤ポンプ4が、溶剤タンク3の新液タンク3bから溶剤を吸入・圧送する。溶剤ポンプから吐出された溶剤は、三方弁16を経て矢印aのようにカートリッジフィルタ5に流入し、該カートリッジフィルタを流通して矢印bーb′のように洗濯槽1の外胴1a内へ供給される。洗濯槽1内で洗濯作用を済ませた溶剤は矢印cのように排出され、矢印dのようにベースタンク3aへ戻される(洗濯済みの溶剤が著しく汚れていると、ベースタンク3aへ戻さずに、後述する溶剤の蒸留浄化系統のスチルタンク9へ送られる)。
【0003】
破線で描いたのは熱風循環系統である。ファン6が送り出した風は矢印fのようにコンデンサ8を経てヒータ7を通って熱風となり、矢印hのように洗濯槽1へ送り込まれて、洗濯済みの洗濯物2を乾燥させた後、矢印iのようにファン6に吸い込まれて循環する。
この熱風に含まれている溶剤蒸気はコンデンサ8で回収される。
【0004】
点線で描いたのは溶剤の蒸留浄化系統である。前記の溶剤循環系統の途中に設けられた三方弁16から矢印jのように分流せしめられて矢印j′のようにスチルタンク9へ送り込まれる。
スチルタンク9には加熱手段が設けられていて、送り込まれた溶剤は該スチルタンク内で加熱され、気化して矢印kーk′のようにスチルコンデンサ10に導かれ、冷却されて液化する。液化した溶剤は矢印mのように水分分離器11に導かれ、水分を矢印Waのように分離排出して浄化された後、純粋な溶剤液が矢印nーn′のように溶剤タンク3へ還流する。
【特許文献1】特開平05−237289号公報
【特許文献2】特開2000−197796号公報
【特許文献3】特開平2003−245495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
洗濯機の稼働を続けていると、次第にカートリッジフィルタ5が汚れてくる。洗濯物2から発生した繊維質のゴミなどが濾別されて堆積すると、いわゆる目詰まり状態になるので、新品のカートリッジフィルタと交換しなければならない。
使用済みのカートリッジフィルタを単純に廃却すると、該カートリッジフィルタに含まれている溶剤が失われてしまう。
最も簡単で原始的な溶剤回収方法は、溶剤を含んでいるカートリッジフィルタを静置して、溶剤を滴下させることであるが、長時間を要する上に回収率が良くない。このため、溶剤を含んでいるカートリッジフィルタを捨ててしまう例も少なくない。
【0006】
溶剤は、例えば1キログラム当たり1500円というように高価な材料であり、あっさり捨ててしまうのは勿体ない。
そこで、従来技術においては熱風方式の溶剤回収が図られている。
図3は、前掲の図2に熱風方式の溶剤回収手段を記入した模式図である。
追加された構成部材は、主として供給ダクト12及び回収ダクト13、並びに、これに付属する流路切替え手段(図示省略)である。
【0007】
ファン6から送出され、ヒータ7で加熱された熱風は、供給ダクト12を通って矢印qのようにカートリッジフィルタ5へ導かれる。
カートリッジフィルタ5に吹き込まれた熱風はカートリッジフィルタ内の溶剤を気化させ、溶剤蒸気と混合し、回収ダクト13を経て矢印rのようにファン6へ吸い込まれる。
該ファン6から再び送り出された混合気体は、矢印fのようにコンデンサ8へ入り、冷却されて液化し、溶剤液として回収される。
【0008】
ところが、この図3に示した熱風式の溶剤回収には次のような不具合が有る。
イ.矢印fで示した風路、および矢印gで示した風路は、当該洗濯機に本来的に設けられている部材を利用できるが、供給ダクト12および回収ダクト13は増設しなければならない。
ロ.熱風は空気であるから、その比熱が小さい。このため、カートリッジフィルタ5内に含まれている溶剤を気化させるのに長時間を要する。この時間を短縮しようとすると、前記ダクトの断面積を大きくしなければならず、洗濯設備の全体を大型大重量化し、従って製造コストが増大する。
【0009】
本発明は以上に述べた事情に鑑みて為されたものであって、その目的とするところは、洗濯設備を大型大重量化することなく、既存の構成部材を活用して、カートリッジフィルタ内に含まれている溶剤を迅速かつ容易に回収する技術を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために創作した本発明の基本的な原理について、その1実施形態に対応する図1を参照して略述すると次の通りである。
「カートリッジフィルタ5の溶剤流出側に設けられている三方弁14を介して、高温高圧の水蒸気15を吹き込む(矢印A,B)。
上記の水蒸により、カートリッジフィルタに含まれている溶剤を気化させる。発生した溶剤蒸気と吹き込んだ水蒸気との混合気体は、スチルタンク9を経て(矢印C,矢印D)、スチルコンデンサ10に導く(矢印E、矢印F)。
溶剤蒸気と吹き込んだ水蒸気との混合気体はスチルコンデンサで冷却され、液化して溶剤と水との混合液となる。
該混合液を水分分離器11に流下させ(矢印G)、水分を分離・排出(矢印Wa)するとともに、溶剤液を溶剤タンク3の新液タンク3bに戻す(矢印H,I)。
なお、前記の「高温高圧の水蒸気」とは、いわゆる生蒸気のことである。高温とは常温以上の温度を意味し、高圧とは大気圧以上の圧力を意味している。
詳しくは、その温度圧力の下で溶剤を気化せしめ得る水蒸気を言う。ただし、紛らわしくない場合は単に「蒸気」と略称する。
【0011】
上述の基本原理において注目すべきことは、
α.弁手段の切り換えによって溶剤を回収し、主要な必要部材は総べて既存の部材(すなわち当該洗濯機設備に、本来的に設けられている機器)であること、及び、
β.従来技術における熱風に比して本発明に係る蒸気は、単位体積あたり熱容量が大きいので、これを導く管路は既存の溶剤用の管路で足りること(大径のダクトを必要としないこと)である。
なお、本発明は高温高圧の蒸気を必須の構成要件とするが、一般の洗濯設備においては必ず蒸気発生装置と蒸気配管とが設けられているので、これらを利用することができ、新設する必要は無い。
【0012】
上述の原理に基づく具体的な構成として請求項1の発明に係る発明方法は、
(図1参照)溶剤及び洗濯物(2)を入れる洗濯槽(1)と、上記溶剤を濾過するカートリッジフィルタ(5)とを備えた洗濯機に設けられている上記カートリッジフィルタを交換する際、該カートリッジフィルタに含まれている溶剤を回収する方法であって、
カートリッジフィルタ(5)に高温高圧の蒸気(15)を吹き込んで、該カートリッジフィルタに含まれている溶剤を気化させ、
発生した溶剤蒸気を冷却し、液化させて回収する方法において、
カートリッジフィルタ(5)に含まれている溶剤を気化させた混合蒸気を、当該洗濯機に本来的に設けられているスチルタンク(9)に導き(矢印C,D)、さらにスチルコンデンサ(10)に導いて(矢印E,F)冷却し、液化させ、液化された溶剤と水との混合液を、当該洗濯機に本来的に設けられている水分分離器11により水と溶剤とに分離させることを特徴とする。
【0013】
請求項2の発明に係る洗濯機における溶剤回収方法の構成は、前記請求項1の発明方法の構成要件に加えて、
(図1参照)カートリッジフィルタ(5)に高温高圧の蒸気(15)を吹き込む方向を、『該カートリッジフィルタの通常作動時における溶剤の流通方向』と反対向にすることを特徴とする。
【0014】
請求項3の発明に係る洗濯機における溶剤回収装置の構成は、
(図1参照)溶剤及び洗濯物(2)を入れる洗濯槽(1)と、上記溶剤を濾過するカートリッジフィルタ(5)とを備えた洗濯機において、上記のカートリッジフィルタを交換する際、該カートリッジフィルタに含まれている溶剤を回収する装置であって、
前記カートリッジフィルタの流出側管路に設けられた三方弁(14)に対して高温高圧の水蒸気15を供給する管路が接続されており、
かつ、前記カートリッジフィルタの流入側管路に設けられた三方弁(16)に対してスチルタンク(9)が接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明方法を適用すると、カートリッジフィルタに含まれている溶剤を回収するために専用の冷却器や専用の分離器を設ける必要無く、当該洗濯機設備に本来的に設けられているスチルタンクや本来的に設けられている水分分離器を利用して溶剤回収を行なうことができる。
【0016】
請求項2に係る発明方法を、前記請求項1の発明方法に併せて適用すると、
カートリッジフィルタに高温高圧の蒸気を吹き込む方向を、『該カートリッジフィルタの通常作動時における溶剤の流通方向』と反対向にすることにより、高い効率で溶剤を回収することができる。
【0017】
請求項3に係る発明装置を適用すると、新たに冷却器や分離器を作成する必要無く、既存の(すなわち当該洗濯機設備に、本来的に設けられているスチルコンデンサや水分分離器を有効に利用して溶剤回収装置を構成することができる。
さらに、カートリッジフィルタの溶剤流出側から水蒸気を吹き込むので、水蒸気による溶剤回収が高能率で行なわれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は本発明装置の1実施形態を模式的に描いた系統図である。
この実施形態は、前掲の図2に示した従来例に本発明を適用して改良したものである。
次に、この図1が図2に比して異なる点、すなわち、本発明を適用して改良した事項を
抽出して説明する。
カートリッジフィルタ5の流出側管路に設けられてる三方弁14に、蒸気15を供給する管路を接続する。
主たる改造は以上であり、その構造は至って簡単である。従来例(図3)におけるがごとく大形大重量な熱風ダクトを設ける必要が無い。
【0019】
通常の洗濯作業に際しては、前記三方弁14、同16を操作して、溶剤ポンプ4が吐出した溶剤をカートリッジフィルタ5の中へ送り込み、該カートリッジフィルタから流出した溶剤を矢印b,b′のように洗濯槽1は送り込む。
溶剤回収に際しては、前記三方弁14、同16を操作して、蒸気(詳しくは、先に説明したように高温高圧の水蒸気)15をカートリッジフィルタ5の中へ送り込む。
カートリッジフィルタ5の中へ送り込まれた高温の蒸気は溶剤に触れてこれを加熱し、該溶剤を気化させる。従って、カートリッジフィルタから流出する気体は溶剤蒸気と水蒸気との混合気体である。
【0020】
図から容易に理解されるように、上記の構成において三方弁14から送り込まれた蒸気は、通常の洗濯作業における溶剤の流動方向とは反対の方向に流れてカートリッジフィルタを通過する。
洗濯作業においては、カートリッジフィルタ5を流通して漉し取られた異物がフイルタエレメントの外側の面に堆積する。
前記の構成,操作によると、洗濯作業における溶剤の流出方向と反対の方向に水蒸気が流通するので、溶剤回収効率が良い。
【0021】
カートリッジフィルタ5を流通した混合気体(溶剤蒸気と水蒸気)はスチルタンク9に流入する(矢印C,D)。
スチルタンク内で更に加熱された混合流は、異物を残して矢印E,矢印Fのようにスチルコンデンサ10に導かれ、冷却されて液化し、矢印Gのように流下して水分分離器11に入る。
【0022】
水分分離器11の作用は、通常の洗濯作業時とほぼ同様である。すなわち、溶剤と水との比重差(約1.2対1)を利用して、軽い水は矢印Waのように排出し、重い溶剤は矢印H,矢印Iのように溶剤タンク3の新液タンク3bへ戻される。
このようにして、カートリッジフィルタ5に含まれていた溶剤は溶剤タンク3へ回収される
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明装置の1実施形態における洗濯機の主要構成部材の配置と配管系統とを描いた模式図
【図2】従来例の洗濯機における主要構成部材の配置と配管系統とを描くとともに、流動方向を表す矢印を付記した模式図
【図3】従来技術に係る溶剤回収装置における主要構成部材の配置と配管系統とを描いた模式図
【符号の説明】
【0024】
1…洗濯槽
1a…外胴
1b…内胴
2…洗濯物
3…溶剤タンク
3a…ベースタンク
3b…新液タンク
4…溶剤ポンプ
5…カートリッジフィルタ
6…ファン
7…ヒータ
8…コンデンサ
9…スチルタンク
10…スチルコンデンサ
11…水分分離器
12…供給ダクト
13…回収ダクト
14…三方弁
15…高温高圧の水蒸気
16…三方弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤及び洗濯物(2)を入れる洗濯槽(1)と、上記溶剤を濾過するカートリッジフィルタ(5)とを備えた洗濯機に設けられている上記カートリッジフィルタを交換する際、該カートリッジフィルタに含まれている溶剤を回収する方法であって、
カートリッジフィルタ(5)に高温高圧の蒸気(15)を吹き込んで、該カートリッジフィルタに含まれている溶剤を気化させ、
発生した溶剤蒸気を冷却し、液化させて回収する方法において、
カートリッジフィルタ(5)に含まれている溶剤を気化させた混合蒸気を、当該洗濯機に本来的に設けられているスチルタンク(9)に導き、同じく本来的に設けられているスチルコンデンサ(10)で冷却・液化せしめ、
液化された溶剤と水との混合液を、同じく本来的に設けられている水分分離器11により分離させることを特徴とする、洗濯機における溶剤回収方法。
【請求項2】
カートリッジフィルタ(5)に高温高圧の蒸気(15)を吹き込む方向を、『該カートリッジフィルタの通常作動時における溶剤の流通方向』と反対向にすることを特徴とする、請求項1に記載した洗濯機における溶剤回収方法。
【請求項3】
溶剤及び洗濯物(2)を入れる洗濯槽(1)と、上記溶剤を濾過するカートリッジフィルタ(5)とを備えた洗濯機において、上記のカートリッジフィルタを交換する際、該カートリッジフィルタに含まれている溶剤を回収する装置であって、
前記カートリッジフィルタの流出側管路に設けられた三方弁(14)に対して高温高圧の水蒸気15を供給する管路が接続されており、
かつ、前記カートリッジフィルタの流入側管路に設けられた三方弁(16)に対してスチルタンク(9)が接続されていることを特徴とする、洗濯機における溶剤回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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