説明

津波防災構造物

【課題】低天端で、かつ景観にも影響を与えない津波防災構造物を提供することである。
【解決手段】津波防災構造物1は、堤体2の上面に前壁5と後壁9と上壁7とからなる中空堤体3が形成され、該中空堤体3内にはフロート10の上面に立設された昇降板4が内蔵され、長周期の波のみを中空堤体3内に流入させるための大きさが開口率と高さとによって決定された流入用スリット6が前壁5に開口され、該流入用スリット6からの波の流入によって昇降板4を上昇させて上壁7から突出させる昇降口8が上壁7に開口されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は津波防災構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
津波は周期が長く、一時的に水位が上昇する現象に近いため低水位(低水深)で高波浪が来襲した場合の衝撃砕波力が発生する可能性は少ない。そこで津波災害を軽減する津波防災構造物としては防波堤、護岸、防潮堤などが構築される。これらはいずれも津波防壁を構築するものであり、一般的には防壁が高いほど効果を発揮するものと考えられている。この防波堤および護岸は、海底に構築したケーソン、鋼管矢板などの基礎の上に堤体を形成して構築されている。またその他の津波防災構造物としては、例えば、特開2006−70536号公報および特開平5−79023号公報の発明がある。
【特許文献1】特開2006−70536号公報
【特許文献2】特開平5−79023号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、防壁の高い津波防災構造物を構築すると大断面で大型化するために、景観に悪い影響を与えるという問題があった。特に、既存の防波堤などを嵩上げする場合は、基礎構造の補強などを行う必要もある。
【0004】
本願発明は上記のような問題に鑑みてなされたものであり、その目的は低天端で、かつ景観にも影響を与えない津波防災構造物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するための津波防災構造物は、堤体の上面に前壁と後壁と上壁とからなる中空堤体が形成され、該中空堤体内にはフロートの上面に立設された昇降板が内蔵され、長周期の波のみを中空堤体内に流入させるための大きさが開口率と高さとによって決定された流入用スリットが前壁に開口され、該流入用スリットからの波の流入によって昇降板を上昇させて上壁から突出させる昇降口が上壁に開口されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
津波防災構造物に作用する短周期の高波浪は、中空堤体の前壁で反射されて流入用スリットから中空堤体内に僅かしか流入しないため、中空堤体内の内部水位と外部水位とに位相差が生じて昇降板を上昇させることができない。一方、長周期の津波は流入用スリットから中空堤体内に流入して昇降板を上昇させて上壁から突出するため、この昇降板によって津波を軽減させることができる。このように昇降板が短周期の高波浪では上昇せずに、長周期の津波が作用した場合にのみ上昇するため、景観への影響を極力避けることができるとともに、従来の防壁の高い大断面の津波防災構造物と比べても小規模な構造にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本願発明の津波防災構造物の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。この津波防災構造物は津波の来襲時にのみ昇降板が上昇して(それ以外は上昇せず)津波を防ぐことにより居住空間への浸入を防ぐというものである。
【0008】
津波防災構造物1は、図1に示すように、堤体2の上部に形成された中空堤体3と、該中空堤体3に内蔵された昇降板4とから構成され、該中空堤体3の前壁5には長周期の波を流入させる流入用スリット6が開口されるとともに、中空堤体3の上壁7には昇降板4を上昇させる昇降口8が開口されている。
【0009】
この堤体2は海底に設置された基礎上に構築されており、波と対向する方向に適宜長さ(例えば2、3km)延びている。また、この堤体2は新規に構築されたものに限らず、既存の防波堤または護岸であってもよい。
【0010】
一方、この堤体2の上面に形成された中空堤体3は、堤体2の前側に立設された前壁5と、該前壁5から適宜間隔をもって堤体2の後側に立設された後壁9と、これらの前壁5と後壁9とを上側で連結した上壁7とから構成されている。
【0011】
この前壁5には、周期の長い津波のみを中空堤体3内に流入させる流入用スリット6が、堤体2の上面から適宜高さで、かつ横方向(長さ方向)に適宜間隔をもって開口されている。また、この流入用スリット6は、開口率(図5参照)と高さとによって大きさが決定されることにより、中空堤体3内に流入する波の種類(周期別による種類)を調整するものであり、周期の長い津波は中空堤体3内に流入させるが、周期の短い高波浪などは前壁5で反射させて中空堤体3に流入させない大きさになっている。したがって、後述する中空堤体3内の昇降板4は周期の短い高波浪では上昇しないが、周期の長い津波で上昇するようになっている。
【0012】
また中空堤体3の上壁7の後側には長さ方向に沿って昇降口8が開口され、この昇降口8を昇降板4が昇降するようになっている。この昇降口8は上壁7の長さ方向の全長にわたって連続的に開口され、ここから昇降板4が一斉に上昇して上壁7から適宜高さ突出するようになっている。
【0013】
また中空堤体3に内蔵された昇降板4は、平面矩形状のフロート10の上面後部側に立設され、昇降板4の上部が昇降口8に挿入されている。そして、この昇降口8が昇降板4のガイドになってスムーズに昇降できるようになっている。これは昇降板4がフロート10の後部側に立設されてバランスが悪く、昇降時に昇降板4の重さで傾くのを防ぐためであり、上部が昇降口8に挿入されることによって、バランスの悪さを解消してフロートが水平に上昇するようになっている。また昇降板4の前後面または昇降口8の内周面の少なくとも一方に滑り材が塗布されて昇降板4の昇降を円滑にしている。また昇降板4をフロート10の後部側に立設させたのは、前面側に立設した場合よりも津波の進入を効果的に防いで軽減させるためである。したがって、津波が来襲しない通常時には昇降板4は、図1に示すように、中空堤体3内に内蔵された状態であるが、津波が来襲して中空堤体3内に海水が流入した時には、図2に示すように、昇降口8を昇降して上壁7から突出して津波の進入を防ぐための適宜高さの防壁を形成する。このように昇降板4が上壁7から突出したときにはフロート10が上壁7に当接して昇降板4を支えるため、昇降板4が垂直に立設して(傾かないで)防壁を形成している。この昇降板4は、図3に示すように、津波によって一斉上昇して防壁を形成するため、堤体2が嵩上げされた状態と同じになって津波の軽減効果を高める。
【0014】
次に、来襲する波浪周期に対する昇降板4の浮上応答特性を調べるために、以下の条件で昇降板4の浮上変位に関する試計算を行った。図4および図5はその設定形状と入射波緒元をまとめたものである。入射波周期は10〜20sの常時波浪(風波、うねり)から周期が数分以上の異常時波浪(津波、高潮)を想定して10s、20s、30s、60s、120s、180s、240sとし、波高3mにて検討した。
【0015】
また来襲波周期に対する内外水位および昇降板4の変動例を図6〜図8に示す。また流入用スリット6の開口率(R=ΣLn/L)と、高さを変えた場合の昇降板4の浮上率(計算最大変位/可能最大変位)を図9および図10に示す。
【0016】
この結果、流入用スリット6の一定の開口率や高さによる大きさによって、昇降板4は常時波浪に対しては浮上しない(初期変位2mで一定)が、津波や高潮に対しては100%上昇(変位2m→3m)している。このことから昇降板4が短周期の高波浪では上昇せずに、長周期の津波が作用した時にのみ上昇することを確認することができた。
【0017】
よって開口率が0.1〜0.5(10〜50%)で、高さが0.1〜0.3m(10〜30cm)の大きさの流入用スリット6のときに、津波などの長い周期の波が中空堤体3内に入り、短い周期の波は入らないことがわかる。このうちの流入用スリット6の好適な大きさは、開口率が0.15〜0.3で、高さが0.1〜0.15の範囲と、開口率が0.15〜0.18で、高さが0.15〜0.2の範囲と、開口率が0.1〜0.15で、高さが0.15〜3.0の範囲である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】津波防災構造物の断面図である。
【図2】津波防災構造物の断面図である。
【図3】津波防災構造物の正面図である。
【図4】(1)昇降板の浮上応答特性を調べるための津波防災構造物の断面図、(2)は同設定形状と入射波緒元をまとめた表である。
【図5】昇降板の浮上応答特性を調べるための設定形状と入射波緒元をまとめた津波防災構造物の正面図である。
【図6】来襲波周期に対する内外水位および昇降板の変動例を示すグラフ図である。
【図7】来襲波周期に対する内外水位および昇降板の変動例を示すグラフ図である。
【図8】来襲波周期に対する内外水位および昇降板の変動例を示すグラフ図である。
【図9】流入用スリットの開口率と、高さを変えた場合の昇降板の浮上率を示すグラフ図である。
【図10】流入用スリットの開口率と、高さを変えた場合の昇降板の浮上率を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0019】
1 津波防災構造物
2 堤体
3 中空堤体
4 昇降板
5 前壁
6 流入用スリット
7 上壁
8 昇降口
9 後壁
10 フロート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
堤体の上面に前壁と後壁と上壁とからなる中空堤体が形成され、該中空堤体内にはフロートの上面に立設された昇降板が内蔵され、長周期の波のみを中空堤体内に流入させるための大きさが開口率と高さとによって決定された流入用スリットが前壁に開口され、該流入用スリットからの波の流入によって昇降板を上昇させて上壁から突出させる昇降口が上壁に開口されたことを特徴とする津波防災構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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