説明

活物質の製造方法

【課題】LiOH・HOの量が低減された活物質の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の活物質の製造方法は、リチウム−ニッケル複合酸化物またはリチウム−コバルト複合酸化物を、乾燥条件下で、酸性ガス含有ガスと接触させる工程を含む点に特徴を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に対処するため、二酸化炭素量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が盛んに行われている。
【0003】
モータ駆動用二次電池としては、携帯電話やノートパソコン等に使用される民生用リチウムイオン二次電池と比較して極めて高い出力特性、および高いエネルギー密度を発揮することが求められている。したがって、全ての電池の中で最も高い理論エネルギーを有するリチウムイオン二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、正極と負極とが、電解質を含む電解質層を介して接続され、電池ケースに収納される構成を有している。上記正極または負極は、一般に、正極活物質または負極活物質とバインダとが溶媒中に分散されてなる活物質スラリーを集電体の表面に塗布することによって形成される。
【0005】
このようなリチウムイオン二次電池の活物質としては、例えば、リチウム−ニッケル複合酸化物やリチウム−コバルト複合酸化物などの、リチウム−遷移金属複合酸化物などが用いられうる。当該リチウム−遷移金属複合酸化物は、反応性、サイクル特性に優れ、コストが低いことからも好適である。
【0006】
一方で、これらのリチウム−遷移金属複合酸化物については、次のような問題点が指摘されている。すなわち、リチウム−遷移金属複合酸化物のうち、リチウム−ニッケル複合酸化物またはリチウム−コバルト複合酸化物では、粒子表面に存在するLiOが水と反応し、強塩基であるLiOHの水和物(LiOH・HO)が形成されてしまう、という問題である。
【0007】
特許文献1では、リチウム−ニッケル複合酸化物を用いて活物質スラリーを製造する際に、上述のLiOH・HOによってスラリーがアルカリ性となるため、バインダが反応して三次元化し、スラリーがゲル化してしまう、という問題を指摘している。そして、該問題を解決するための手段として、特許文献1では、リチウム−ニッケル複合酸化物の表面に形成されたLiOH・HOを、水中で、空気中のCOまたはリン酸を用いて中和し、これを加熱乾燥させる、という手法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−90917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1の手法では、例えば、中和後の乾燥工程や、乾燥後に空気中に保管しておく過程において、活物質内部の未反応リチウム分がLiOとして表面に析出し、そのLiOが空気中の水分と反応することにより、LiOH・HOが生成してしまう。
【0010】
そこで本発明は、LiOH・HO量が低減された活物質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の活物質の製造方法は、リチウム−ニッケル複合酸化物またはリチウム−コバルト複合酸化物を、乾燥条件下で、酸性ガス含有ガスと接触させる工程を含む点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、リチウム−ニッケル複合酸化物またはリチウム−コバルト複合酸化物の表面に形成されたLiOH・HOが酸性ガスにより中和され、リチウム塩となる。当該中和は乾燥条件下で行われるので、LiOH・HOの生成が抑制され、活物質のLiOH・HO量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例および比較例で得た活物質スラリーについて、保管時間に対するスラリー粘度の変化を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。
【0015】
<活物質の製造方法>
本発明の一形態は、リチウム−ニッケル複合酸化物またはリチウム−コバルト複合酸化物を、乾燥条件下で、酸性ガス含有ガスと接触させる工程を含む、活物質の製造方法に関する。
【0016】
本形態において、リチウム−ニッケル複合酸化物またはリチウム−コバルト複合酸化物は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極活物質として使用される材料である。なお、以下において、リチウム−ニッケル複合酸化物またはリチウム−コバルト複合酸化物を、「活物質材料」とも称する。
【0017】
本明細書における「リチウム−ニッケル複合酸化物」は、金属元素としてリチウムおよびニッケルのみを含む複合酸化物のみならず、Niの一部がCo、Mn、Alなどの元素で置換された複合酸化物をも含む。このようなリチウム−ニッケル複合酸化物としては、具体的には、LiNiO、LiNi0.5Mn0.5、LiNi0.9Co0.1、LiNi0.8Co0.2、LiNi0.8Co0.18Mn0.02、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiNi0.6Co0.1Mn0.25Al0.05などが例示される。これらのリチウム−ニッケル複合酸化物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用しても構わない。
【0018】
また、本明細書における「リチウム−コバルト複合酸化物」は、金属元素としてリチウムおよび、コバルトのみを含む複合酸化物のみならず、Coの一部がNi、Mn、Alなどの元素で置換された複合酸化物をも含む。具体的には、LiCoO、LiNi0.9Co0.1、LiNi0.8Co0.2、LiNi0.5Co0.52、LiNi0.8Co0.18Mn0.02、LiNi0.8Co0.1Mn0.1、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi0.9Co0.1Al0.1LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiNi0.6Co0.1Mn0.25Al0.05などが例示される。これらのリチウム−コバルト複合酸化物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用しても構わない。
【0019】
本形態で使用される酸性ガスは、LiOHと中和反応しうる酸性の気体である。酸性ガスの種類は特に制限はないが、例えば、炭酸ガス(CO)、二酸化硫黄(SO)、三酸化硫黄(SO)などが挙げられる。このうち、後述のように本形態の製造方法で得られる活物質を用いてスラリーを製造した場合に、より優れたゲル化抑制効果が得られるという観点から、酸性ガスとしてCOを用いることが好ましい。なお、上記酸性ガスは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用しても構わない。
【0020】
本明細書において「酸性ガス含有ガス」とは、酸性ガスを含むガスを意味する。よって、酸性ガスのみからなるガスであってもよいし、酸性ガスと酸性ガス以外のガスとを含む混合ガスであってもよい。よって、例えば、COが含まれる空気も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0021】
酸性ガス含有ガス中の酸性ガス濃度は、酸性ガスとLiOHとの中和反応を効率よく行うために、100体積ppm以上であることが好ましい。特に、酸性ガスがCOである場合の酸性ガス含有ガス中の酸性ガス濃度は、LiOHとCOとの反応性の観点から、2〜100体積%であることが好ましい。一方、酸性ガスがSOまたはSOである場合の酸性ガス含有ガス中の酸性ガス濃度は、100体積ppm〜5体積%であることが好ましい。酸性ガス含有ガス中のSOまたはSOの濃度を5体積%以下とすることによって、活物質の性能を低下させることなく中和反応を行うことができる。
【0022】
活物質材料を酸性ガス含有ガスと接触させる手法は、活物質材料表面のLiOH・HOが酸性ガスと中和反応する限りにおいて、特に制限はない。例えば、(1)酸性ガス含有ガス雰囲気に、活物質材料を曝露する形態や、(2)有機溶媒中に活物質材料を分散させ、酸化ガス含有ガスをバブリングする形態などが挙げられる。上記(1)の形態をより具体的に説明すると、例えば、(1−a)袋状の封入バッグや、中空の容器の中に、活物質材料を入れ、封入バッグや容器内の気体を酸性ガス含有ガスで置換後、密閉して、一定時間反応させる形態;(1−b)封入バッグや容器の中に活物質材料を入れ、封入バッグや容器内の気体を、酸性ガス含有ガスを一定流量ずつ注入して置換しながら一定時間反応させる形態;(1−c)封入バッグや容器の中に活物質材料を入れ、封入バッグや容器内の気体を減圧排気した後、酸性ガス含有ガスを注入し、密閉して、一定時間反応させる形態などの方法が挙げられる。このうち、操作が容易である(1)の形態が好ましい。
【0023】
本明細書において、「乾燥条件下」とは、上述の活物質材料を酸性ガス含有ガスと接触させる工程において使用する酸化ガス含有ガスの25℃における相対湿度が、5体積%以下(露点−15℃以下、1600体積ppm以下)であることを意味する。これに加え、上記(2)の形態のように有機溶媒を使用する場合には、該有機溶媒の水分濃度が1000体積ppm以下であることを意味する。
【0024】
このように乾燥条件下で、活物質材料を酸性ガス含有ガスと接触させることにより、LiOH・HOのHOや中和によって生じたHOが蒸発により除去されうる。例えば、酸性ガスとしてCOを用いた場合の反応を下記化学式1に示す。
【0025】
【化1】

【0026】
酸性ガス含有ガスと接触させる時間は、反応性の観点から、酸性ガスがCOである場合は、2時間以上であることが好ましく、酸性ガスがSOまたはSOである場合は、1時間以上であることが好ましい。上記の時間以上接触させることによって、酸性ガスとLiOHとの中和が十分に行われ、LiOH量を効果的に低減させることができる。なお、時間の上限には特に制限はないが、接触時間が一定時間以上となると中和反応が頭打ちになるので、酸性ガスがCOである場合は、200時間以下とすることが好ましく、酸性ガスがSOまたはSOである場合は、100時間以下とすることが好ましい。
【0027】
本形態の製造方法におけるより好ましい形態として、上述の酸化ガス含有ガスに接触させる工程を行った後、得られた活物質をオーブンなどの加熱手段を用いて乾燥させる工程をさらに含むことが好ましい。このように酸化ガス含有ガスに接触させることによる中和反応後に乾燥工程を追加することによって、活物質表面に付着した微量の水分を除去し、LiOH・HOが生成するのをより効果的に防ぐことができる。
【0028】
従来の活物質の製造方法(例えば、特許文献1に記載の方法)では、活物質材料を水中でCOと反応させて中和を行っている。そして、中和後の活物質を加熱(特許文献1では90℃、24時間)によって乾燥している。従来法では、この乾燥の際に、活物質表面に付着した水が熱せられるため、活物質表面のLiOやリチウム塩と水とが反応し、LiOH・HOが生成しているものと考えられる。
【0029】
一方、本形態の製造方法によって得られる活物質は、乾燥条件下で中和されているため、活物質表面のLiOやリチウム塩と水との反応が起こりにくく、活物質表面に存在するLiOH・HO量を低減することができる。また、中和により生成されたリチウム塩によって活物質表面が覆われるので、多少の水分と接触してもLiOH・HOの再生が起こりにくい。そのため、得られた活物質を空気中で保管しても、LiOH・HOが生成されないままの状態が維持されうる。
【0030】
なお、本方法で得られた活物質の表面に存在するリチウム塩とLiOHとの比(Li塩/LiOH)は2.0以上でありうる。当該Li塩/LiOH比は、XPS分析により測定することができる。
【0031】
<スラリーの製造方法>
本発明によると、さらに、上記方法により得られる活物質と、バインダとを、溶媒に分散させる工程を含む、活物質スラリーの製造方法が提供される。
【0032】
本形態において、バインダは、活物質層中の構成部材同士または活物質層と集電体とを結着させて電極構造を維持する目的で添加される。バインダとしては、特に制限はないが、例えば、エポキシ樹脂、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、スチレンブタジエンゴム(SBR)などの合成ゴム材料、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、シリコーン、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)などの高分子材料が挙げられる。これらの高分子材料は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用しても構わない。
【0033】
これらのバインダのうち、特にPVDFは、表面にLiOH・HOが残存する活物質と接触すると、水素原子(H)およびフッ素原子(F)が脱離して、二重結合を形成する(下記化学式2を参照)。
【0034】
【化2】

【0035】
上記反応によって生じた二重結合同士が重合により架橋することによって三次元網目構造を形成しうる。したがって、バインダとしてPVDFを用いるとスラリーがゲル化し易いので、バインダとしてPVDFを用いた場合に本形態の製造方法を適用すると、本発明の効果がより一層顕著なものとなる。なお、PVDF以外のバインダについても、強塩基であるLiOHとの接触により、好ましくない重合反応などが起こりスラリーがゲル化しうる。
【0036】
本形態の溶媒は、活物質およびバインダを分散させ、スラリーの粘度を調整する目的で使用されるものである。溶媒としては、特に制限はないが、例えば、水、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、N−メチルホルムアミド(NMF)、ジメチルカーボネート(DMC)、アセトニトリル、ヘキサン、シクロヘキサン、キシレンなどが挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用しても構わない。
【0037】
上記溶媒は、活物質表面にLiOH・HOが生成してしまうのを防ぐために、なるべく水分を含まないことが好ましい。具合的には、スラリーに使用する溶媒に含まれる水分は、1000体積ppm以下であることが好ましい。なお、1000体積ppmを超える水分が含まれる場合であっても、活物質表面のリチウム塩が直ちにLiOH・HOへと加水分解してしまうわけではないので、一定のスラリーのゲル化抑制効果が得られうる。
【0038】
なお、活物質スラリーに含まれる、活物質、バインダ、および溶媒の配合比は、特に制限はなく、当該分野の知見を適宜参照することができる。
【0039】
また、本形態の活物質スラリーは、必要に応じて、導電助剤、支持塩(リチウム塩)、イオン伝導性ポリマーなどをさらに含みうる。また、イオン伝導性ポリマーが含まれる場合には、前記ポリマーを重合させるための重合開始剤が含まれてもよい。
【0040】
導電助剤は、活物質層の導電性を向上させる機能を有する。導電助剤としては、特に制限はないが、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛等の黒鉛系炭素材料、アセチレンブラック、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー、コークス、ソフトカーボン、ハードカーボン、気相成長炭素繊維(VGCF:登録商標)等の種々の炭素繊維、カーボンナノチューブ等の炭素材料や、金属粉などが挙げられる。これらの導電助剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用しても構わない。
【0041】
支持塩としては、例えば、LiN(SO、LiN(SOCF、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiSOCFなどが挙げられる。
【0042】
イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)系およびポリプロピレンオキシド(PPO)系のポリマーが挙げられる。
【0043】
本形態のスラリー製造方法では、上記の活物質の製造方法で得られた活物質およびバインダを、溶媒中に分散させる。分散させる手段は特に制限はないが、あらかじめバインダを溶媒に溶解させた溶液と、リチウム−ニッケル複合酸化物とを混合する方法を採用することによって、スラリー中に活物質を均一に分散させることができる。
【0044】
従来のスラリーの製造方法(例えば、特許文献1に記載の方法)では、活物質の表面にLiOH・HOが残存しているため、バインダ(特に、ポリフッ化ビニリデン(PVDF))が強塩基であるLiOH・HOと反応してしまう。その結果、バインダが重合反応により高分子量化して、スラリーがゲル化してしまう、という問題を有していた。このようなスラリーのゲル化は、集電体にスラリーを塗工する工程において、スラリーの塗り量が変動する要因となりうる。塗り量が変動すると、生産効率が下がり(歩留まりが悪くなり)、リチウムイオン二次電池の量産化の妨げとなってしまうので好ましくない。
【0045】
一方、本形態のスラリーの製造方法によると、上述の活物質の製造方法により活物質表面のLiOH・HOが中和されているため、スラリーを製造過程や、スラリーを保管する過程においてもゲル化が起こりにくく、スラリーが高粘度化しにくい。このため、電極を製造する際の活物質スラリーを集電体表面に塗布する工程において、塗布量のバラツキが抑えられ、電極の歩留まりを向上させることができる。よって、本形態の製造方法は、電極の量産化技術に特に好適である。
【実施例】
【0046】
本発明の作用効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0047】
<活物質の製造>
[実施例1−A]
LiNi0.8Co0.15Al0.05粉末10gを封入バッグ(容量1L)に入れ、バッグ内を炭酸ガス(COガス;純度99体積%以上、水分1000体積ppm以下)で置換し、密封した状態で、室温で4日間静置した。その後、粉末を取り出し、乾燥オーブンを用いて80℃で6時間乾燥させた。X線光電子分光法(XPS)により得られた粉末表面のリチウム成分の分析を行った結果、炭酸リチウム(LiCO)検出された。炭酸リチウム(LiCO)と水酸化リチウム(LiOH・HO)の比率(LiCO/LiOH・HO;Liモル比)は4.0以上であり、LiOH・HO量が低減されたことが示された。
【0048】
[実施例2−A]
LiNi0.8Co0.15Al0.05粉末10gを封入バッグ(容量500mL)に入れ、炭酸ガス(COガス;純度99体積%以上、水分1000体積ppm以下)を流量10ml/分で導入してバッグ内のガスを置換しながら、室温で2日間静置した。その後、粉末を取り出し、乾燥オーブンを用いて80℃で6時間乾燥させた。同様にXPS分析をした結果、炭酸リチウム(LiCO)と水酸化リチウム(LiOH・HO)の比率(LiCO/LiOH・HO;Liモル比)は4.7以上であり、LiOH・HO量が低減されたことが示された。
【0049】
[実施例3−A]
LiNi0.8Co0.15Al0.05粉末10gをステンレス製圧力容器(容量200mL)に封入し、一旦容器内を減圧排気した後、炭酸ガス(COガス;純度99体積%以上、水分1000体積ppm以下)を導入し0.3MPaの圧力で容器温度を60℃にして6時間処理を行った。その後、粉末を取り出し、乾燥オーブンを用いて80℃で6時間乾燥させた。同様にXPS分析をした結果、炭酸リチウム(LiCO)と水酸化リチウム(LiOH・HO)の比率(LiCO/LiOH・HO;Liモル比)は5.2以上であり、LiOH・HO量が低減されたことが示された。
【0050】
[実施例4−A]
酸性ガス含有ガスとして、二酸化硫黄(SO)/三酸化硫黄(SO)混合ガス(二酸化硫黄0.35体積%+三酸化硫黄1.65体積%、空気バランス、水分1000体積ppm以下)を用いたことを除いては、実施例3と同様の操作を行った。同様にXPS分析をした結果、硫酸リチウム(LiSO)が検出された。硫酸リチウム(LiSO)と水酸化リチウム(LiOH・HO)の比率(LiSO/LiOH・HO;Liモル比)は6.1以上であり、LiOH・HO量が低減されたことが示された。
【0051】
[比較例1−A]
LiNi0.8Co0.15Al0.05粉末を25℃、40%RHの調温調湿環境下の大気中に4日間置いた。なお、大気中には平均550体積ppmの二酸化炭素(CO)が含まれていた。同様にXPS分析をした結果、炭酸リチウム(LiCO)と水酸化リチウム(LiOH・HO)の比率(LiCO/LiOH・HO;Liモル比)は1.0以下であった。
【0052】
[比較例2−A]
LiNi0.8Co0.15Al0.05粉末10質量部を純水100質量部に分散し、該分散液のpHが10.5になるまで撹拌した。その後、粉末を濾取して乾燥オーブンを用いて80℃で6時間乾燥させた。同様にXPS分析をした結果、炭酸リチウム(LiCO)と水酸化リチウム(LiOH・HO)の比率(LiCO/LiOH・HO;Liモル比)は0.8以下であった。
【0053】
<活物質スラリーの製造>
[実施例1−B]
上記実施例1−Aで得られたLiNi0.8Co0.15Al0.05粉末22質量部、リチウムマンガン活物質粉末70質量部、ならびに導電助材としてのアセチレンブラック2質量部およびグラファイト粉末2質量部を混合し、粉末混合物を得た。また、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に対して8質量%の割合で溶解させたバインダ溶液を調製した。そして、上記粉末混合物100質量部に対して、PVDFが4質量部となるように、上記バインダ溶液を、粉末混合物に徐々に攪拌しながら加えた。その後も均一に分散するまで十分攪拌することにより、活物質スラリーを得た。
【0054】
[実施例2−B]
上記実施例2−Aで得られたLiNi0.8Co0.15Al0.05粉末を用いて、実施例1−Bと同様の操作を行い、活物質スラリーを得た。
【0055】
[実施例3−B]
上記実施例3−Aで得られたLiNi0.8Co0.15Al0.05粉末を用いて、実施例1−Bと同様の操作を行い、活物質スラリーを得た。
【0056】
[実施例4−B]
上記実施例4−Aで得られたLiNi0.8Co0.15Al0.05粉末を用いて、実施例1−Bと同様の操作を行い、活物質スラリーを得た。
【0057】
[比較例1−B]
上記比較例1−Aで得られたLiNi0.8Co0.15Al0.05粉末を用いて、実施例1−Bと同様の操作を行い、活物質スラリーを得た。
【0058】
[比較例2−B]
上記比較例2−Aで得られたLiNi0.8Co0.15Al0.05粉末を用いて、実施例1−Bと同様の操作を行い、活物質スラリーを得た。
【0059】
<スラリーの粘度測定>
スラリーが高粘度化(ゲル化)する挙動を把握するために、上記で製造した活物質スラリーの粘度を、E型粘度計(ブルックフィールド社製)を用いて測定した。測定サンプルは、25℃、40%RHの調温調湿環境下に置いた保管用ミキサ中で、一定回転速度で撹拌しながら保存したスラリーを、粘度測定に必要な量ずつサンプリングしたものを用いた。そして、各サンプルの保存時間に対するスラリー粘度の変化を測定した。スラリー粘度の値としてはせん断速度が1s−1での粘度値を測定した。結果を図1に示す。
【0060】
図1によると、比較例のスラリーは、スラリー調製後10時間〜30時間程度でスラリー粘度が管理範囲(約4500〜12500[mPa・s])を超えて高粘度化が進行した。スラリー粘度の管理範囲とは、所定の塗布量の電極を高い歩留まりで得る観点で設定されているものである。当該範囲を外れると、所定の単位面積あたりのスラリー塗布重量に対して、所定の塗布量許容バラツキ幅内に塗布量が収まらなくなり歩留まりが低下する虞がある。比較例1−Bでは大気中に含まれる二酸化炭素により一部は炭酸リチウムが生成しているが、大気中の二酸化炭素濃度が低いために炭酸塩化する割合が低いため高粘度化抑制効果が十分に得られなかったと考えられる。比較例2−Bでは大気下純水中で撹拌することによって水酸化リチウムを中和除去できたが、濾取して乾燥している間に水酸化リチウムの再生成が起こり、スラリー中に水酸化リチウムが持ち込まれるために高粘度化抑制効果が十分に得られなかったと考えられる。
【0061】
一方、実施例のスラリーは、スラリー調製後100時間経過してもスラリー粘度の上昇幅が小さく、高粘度化が大幅に抑制されていることが示された。
【0062】
以上の結果より、比較例のスラリーの場合、短時間でスラリー粘度が大きく変化するので塗工時間の経過とともに電極の歩留まりが低下する虞がある。一方、本発明によれば、時間によるスラリー粘度の変化が小さいので、塗布重量のバラツキが抑えられ、電極の歩留まりを向上させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム−ニッケル複合酸化物またはリチウム−コバルト複合酸化物を、乾燥条件下で、酸性ガス含有ガスと接触させる工程を含む、活物質の製造方法。
【請求項2】
前記酸性ガス含有ガスにおける酸性ガス濃度が、100体積ppm以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記酸性ガスが、CO、SO、またはSOを含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法により得られる活物質と、バインダとを、溶媒に分散させる工程を含む、活物質スラリーの製造方法。
【請求項5】
前記バインダが、ポリフッ化ビニリデンを含む、請求項4に記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−3891(P2012−3891A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136264(P2010−136264)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】