説明

流れ型実験室水素化装置のためのカートリッジ反応器

本発明は流れ型水素化装置のためのカートリッジ反応器(10)に関する。カートリッジ反応器(10)は、入口(18)、出口(20)、およびその入口(18)および出口(20)の間に広がる反応容積(16)を取り囲んでいる密閉拡大部を装備するケーシングを有する。本発明によるカートリッジ反応器(10)は実験室サイズで製造され、その反応容積(16)はサイズが大きくても10cmである。反応容積(16)は、流れ抵抗を増大させて混合を助長する不動化充填媒体(29)で満たされている。カートリッジ反応器(10)の入口(18)および出口(20)は、水素化装置に対する取り外し可能な接続を可能にする構造で形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応器が入口、出口、およびその入口と出口との間に広がる反応容積を取り囲む密閉拡大部を装備しているケーシングを有する流れ型(flow-type)水素化装置のためのカートリッジ反応器に関する。
【背景技術】
【0002】
水素化法(これ以降、水素化)は有機化合物の化学合成において使用される:水素は−随意に触媒の存在下で−出発分子の中に所定の位置に組み込まれ、それによってその出発分子から定性的に異なる分子が生成される。水素化は現代の化学工業(製剤工業も含む)によって広く用いられている。従って、色々な装置、所謂水素化反応器が水素化を実行するために開発されてきた。これらの装置は、しかし、水素化を一般に工業的規模で実施するのに利用できるものであり、従ってそれらの一般的な特長の1つは比較的大きなサイズおよびそのサイズに起因する不動性(immobility)である。
【0003】
組み合わせの化学的方法が急速に普及したために、今日では製剤工業および実験室的検定で用いられる合成がだんだん水素化の可能性のある適用分野となってきている。これらの新適用分野の場合には、単一物質を大量に製造するのではなく、幾つかの(または多くの)物質を少量で、別々であるが速やかに、そして可能であるならば自動化した方法で誘導すること(derivatisation)に重点が置かれている。関係する必要条件を満足する水素化装置は小さいサイズを有すべきであり、そして必要な場合には幾つかのタイプの均質または不均質接触水素化をそれらが非常に異なるタイプであっても短い時間内に成し遂げるのに適しているべきである。色々なタイプの反応の実現性を次々と(after each other)速やかに達成するためには、水素化されるべき−特に選択的接触水素化法の場合に水素化されるべき−物質(これ以降、試料物質)の速い変化の外に、可能ならば水素化装置の運転を中断することなく成し遂げられるべきである触媒自体の交換の必要もある。故に、触媒は容易に接近でき、かつ速やかに除去できるべきであり、しかも触媒は選ばれた水素化反応を比較的小さい容積において可能な最高効率で促進すべきである。
【0004】
水素化反応の進行が、試料物質とその試料物質に加えられるガス状水素(同時に反応体)とが混ざる程度のみならず、それら反応を成し遂げるために使用される反応器内に存在する温度と圧力に非常に影響されることは周知の事実である。連続流れ型(continuous flow-type)水素化の場合、反応器中で反応体によって費やされる時間の長さ、即ち所謂滞留時間がまた特に重要である:時間が長ければ長いほど、計画した水素化反応はますます完全になる。反応器内に適切な流れ抵抗を与えることによって、混合レベルおよび滞留時間を有意に増加させることができ、このことが最終的にその水素化法の収率を改善する。
【0005】
米国特許第4,847,016号明細書は、触媒の存在下における工業的規模の流れ型不均質(heterogeneous)水素化を開示している。触媒は試料物質またはその溶液(これ以降、試料溶液)に溶けない支持体の上に固定され、そして試料物質/溶液中に懸濁されたこのように固定された触媒が反応に不可欠な水素ガスと一緒に反応器に供給される。反応器は、反応体に対して化学的に不活性な材料の幾何学的に規則的に配置された要素、およびこの反応器の中に供給された触媒粒子で充填されている。充填要素は好ましくはガラスまたはセラミックの球体である。充填要素によって創られる幾何学的構造は、反応体相互の混合および反応体と触媒粒子との混合を有意に増進する。さらに、この幾何学的構造に因る流れ抵抗の結果として、反応器内における試料物質の滞留時間が増加する。この解決法の不利な点は、触媒粒子の一部が液相反応生成物(即ち水素化生成物)と一緒に反応器を出、従ってその回収が色々な追加の装置の使用を必要とすることである。
【0006】
国際公開WO第2004/007414号明細書も、工業規模の流れ型水素化法およびその方法を成し遂げるための配置について記述する。この解決法では、液相試料物質中にも懸濁されている触媒は、反応に必要とされる水素ガスの存在下で反応器の中に供給される。反応器からの触媒の輸送を妨げるか、またはその輸送を最小量まで低下させるために、触媒粒子を機械的に保持し、かつ反応体/水素化物を透過する装置がその反応器内に配置される。該装置は塊状材料、布帛材料、連続気泡フォームまたは蒸留塔の中で使用される充填材料により与えられる。反応器は水素化装置系中に固定的に組み込まれ、従ってその装置の機械的な触媒保持能力がなくなると、その交換は水素化装置系の解体を必要とする。さらに、懸濁した触媒粒子の大きさが異なる結果として、該装置は反応器内に触媒の一部しか保持せず、それ故この解決法では水素化物の触媒からの完全除去(full clearance)はまた追加の装置(1つまたは複数)の適用を必要とする。
【0007】
触媒の支持体上への固定、その次の試料物質または試料溶液に対するその触媒の懸濁形での添加は、工業的規模の水素化装置が考えられているときは完全に許容できる。それにもかかわらず、これは、実験が示すように、実験室規模の水素化装置の場合には、(例えば、装置で使用される液体輸送要素の横断面が小さい(大きさ約0.5mm)故に)不適当である:遅かれ早かれ、その懸濁触媒粒子は装置の液体輸送要素を詰まらせ、このことは装置の停止、または深刻なケースでは装置の破壊をもたらすかもしれない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のことを考慮して、本発明の目的は、触媒のあらゆる種類の取り扱い、即ち触媒の懸濁、触媒の供給、および随意に水素化物からの触媒の除去を不必要にするのみならず、実験室規模の連続水素化で現れる必要条件(例えば、異なる物質が次々と合成されるときの交換性および長い滞留時間の提供)を満足するそのような、サイズの小さい水素化装置を造ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的は、実験室サイズで形成されるカートリッジ反応器を造ることによって達成され、そしてその反応容積は大きくても10cmであり、かつ流れ抵抗を増大させ、そして混合を助長する不動化充填媒体(immobilized packing medium)で満たされ、そしてその入口および出口は水素化装置に対して取り外し可能な接続を可能にする構造で形成されている。
【0010】
好ましくは、充填媒体は触媒を含む。
【0011】
好ましくは、拡大部の内径は入口の内径の5〜10倍ほど大きく、そしてさらに好ましく拡大部の内径は大きくても10mmである。
【0012】
好ましくは、入口および出口はフレア継手の雄型要素(male elements)として形成されている。
【0013】
好ましくは、充填媒体の不動性は、拡大部の相対する両端に配置され、かつその全横断面に延在しているフィルター要素並びに個々の粒子の充填物によって達成され、ここでフィルター要素の開口の大きさは充填物の平均粒度よりも小さい。充填媒体は好ましくは粒状触媒から作られている。
【0014】
本発明によるカートリッジ反応器の可能なさらなる態様において、充填媒体の不動性は立体的に隣接する幾何学的構造を有する充填媒体を与えることによって達成される。
【0015】
本発明を今度は添付図面を参照して詳細に説明するが、ここで図1は本発明による、集成形態での、その縦軸に沿う交換可能なカートリッジ反応器の断面図を示す。
【実施例1】
【0016】
図1は、実験室規模の水素化装置のためのカートリッジ反応器10を図解するものである。カートリッジ反応器10は入口18および出口20を装備するケーシングを有し、ここでそのケーシングは囲い12、および好ましくは圧力タイトな接続手段、例えば溶接またはろう付け/はんだ付け継手15によって結合されている端板14から形成される。カートリッジ反応器10のケーシングは好ましくは圧力タイトであって、耐酸性および耐蝕性鋼から造られ、そして反応容積16を取り囲んでいる。集成されると、カートリッジ反応器10は優先的に管状(好ましくは円筒状)要素を形成する。
【0017】
カートリッジ反応器10は、そのカートリッジ反応器10を実験室規模の流れ型水素化装置の流路に接続できるようにする構造で形成されている。従って、カートリッジ反応器10の可能な態様において、入口18および出口20の外表面には、適正なシールを装備するフレア継手による上記実験室規模の装置との接続のためのネジ山22および24がそれぞれ備え付けられている。関連分野の当業者によって知られる他の取り外し可能は締結機構(例えば、耐酸性および耐蝕性鋼から造られた瞬間嵌合系(instant fitting system))が上記流路へのカートリッジ反応器10の交換可能な接続のために等しく利用できる。
【0018】
カートリッジ反応器10は、均質および不均質水素化を行うのに等しく適切である。不動化充填媒体29(即ち、カートリッジ反応器10を流通している試料溶液と一緒に出ることができない媒体)はカートリッジ反応器10の反応容積16内に配置され、それが供給試料溶液によって費やされるカートリッジ反応器10内の滞留時間を有意に増加させる。充填媒体29の不動性は、例えばカートリッジ反応器10中において、その相対する両端に、充填媒体29を透過させないフィルター要素26,28を配置することによって達成される。充填媒体29の不動性を保証するもう1つの方法は、それを空間的に隣接する多孔質の幾何学的構造で、例えば複数の繊維から形成された(厚い)ウェブの形で作ることである。
【0019】
均質水素化の場合、充填媒体29は固体触媒を含んでいないが、しかしその充填媒体は、供給試料溶液および水素ガスの強力混合に因り水素化反応を促進する(空の反応容積16が及ぼす流れ抵抗に比較して)増大した流れ抵抗を及ぼす。
【0020】
不均質反応の場合、充填媒体29は、例えば固体触媒粒子、触媒で被覆されたまたは触媒から作られた繊維のウェブまたはメッシュ、触媒で被覆された小さいビーズ或いはそれらの任意の組み合わせを含み、ここで触媒支持要素は実施されるべき水素化反応に対して不活性であるのが好ましい。互いに接触している複数の小さいビーズ、およびビーズ間の空の連続空間を満たしている触媒の微粉末を含む充填媒体29の変形が特に好ましい。どんな触媒も充填媒体29またはその一部として使用することができる;実際に使用される触媒は所定の水素化法に従って選ばれる。
【0021】
入口18および出口20は同一の内径で優先的に形成され、均質な物質の分布を横断面中に連続的に維持するためのその内径は、水素化装置で使用される液体輸送要素の内径と一致するのが好ましい。従って、入口18の内径は0.05〜1.0mm、好ましくは0.5mmである。カートリッジ反応器10の内径は、好ましくは入口18のそれの5〜10倍ほど大きく、好ましくは4〜6mmである。カートリッジ反応器10の長さは30〜100mm、好ましくは40〜60mmである。
【0022】
本発明によるカートリッジ反応器10の組み立ては、極めて簡単かつ安価である。カートリッジ反応器10の両者である入口18、および出口20を有する端板14を装備する囲い12は、製造ラインで単純な機械的作業によって製造される。囲い12を形成した後、まずフィルター要素26を反応容積16に挿入し、次いでその上に充填媒体29を満たす。次に、フィルター要素28を充填媒体29の上部に配置し、端板14を囲い12に嵌合させ、次いでこれら最後の2つの要素を適切な方法で、例えば溶接、はんだ付けまたはレーザー融着によって結合させる。次の工程として、カートリッジ反応器10がその入口18および出口20の上のネジ山22および24によってそれぞれ与えられ、そしてそのカートリッジ反応器10がネジ山22,24の各々にキャップをねじ込むことによって後の使用のために気密様式で閉じられる。カートリッジ反応器10の気密クロージャーは、また、入口18および出口20の各々に閉鎖用ホイルを適用することによっても成し遂げることができる。カートリッジ反応器10の逐次組み立ての枠内で、充填媒体29の質(例えば、充填媒体29中に含まれる触媒の一定量の維持)の連続監視も可能である。このようにして、上記交換可能カートリッジ反応器10の大規模製造が達成され、その反応器は、実験室規模の流れ型水素化装置に取り付けられた後に、水素化の進行に影響を及ぼす他のパラメーターは不変のままであるという条件で、同一特性を持つ水素化生成物の製造を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明による、集成形態での、その縦軸に沿う交換可能なカートリッジ反応器の断面図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応器が入口(18)、出口(20)、並びにその入口(18)と出口(20)との間に延在する反応容積(16)を取り囲む密閉拡大部を装備しているケーシングを含む、実験室規模の流れ型水素化装置のためのカートリッジ反応器(10)において、その反応器は実験室サイズで形成されており、そしてその反応容積(16)が大きくても10cmであり、かつ流れ抵抗を増大させて混合を助長する不動化充填材料(29)で充填されており、そして入口(18)および出口(20)が水素化装置に対して取り外し可能な接続を可能にする構造で形成されていることを特徴とする上記のカートリッジ反応器。
【請求項2】
充填媒体(29)が触媒を含むことを特徴とする、請求項1に記載のカートリッジ反応器(10)。
【請求項3】
拡大部の内径が入口(18)の内径の5〜10倍大きいことを特徴とする、請求項1に記載のカートリッジ反応器(10)。
【請求項4】
拡大部の内径が大きくても10mmであることを特徴とする、請求項3に記載のカートリッジ反応器(10)。
【請求項5】
入口(18)および出口(20)がフレア継手の雄型要素として形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のカートリッジ反応器(10)。
【請求項6】
充填媒体(29)の不動性が、拡大部の相対する両端に配置され、かつその全横断面に延在しているフィルター要素(26,28)および個々の粒子の充填物によって達成され、ここでフィルター要素(26,28)の開口の大きさは充填物の平均粒度よりも小さいことを特徴とする、請求項1に記載のカートリッジ反応器(10)。
【請求項7】
充填媒体(29)の不動性が、立体的に隣接する幾何学的構造を有する充填媒体を与えることによって達成されることを特徴とする、請求項1に記載のカートリッジ反応器(10)。
【請求項8】
充填媒体(29)が粒状触媒から作られていることを特徴とする、請求項6に記載のカートリッジ反応器(10)。

【図1】
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【公表番号】特表2008−510611(P2008−510611A)
【公表日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−529006(P2007−529006)
【出願日】平成17年8月23日(2005.8.23)
【国際出願番号】PCT/HU2005/000090
【国際公開番号】WO2006/021822
【国際公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(507059749)
【Fターム(参考)】