説明

流体ポンプ

【課題】インペラとポンプケーシングとの摺動抵抗を低減し、ポンプ効率を向上可能な流体ポンプを提供する。
【解決手段】筒状のハウジング10は、吐出口420を有するエンドカバー11と吸入口410を有するポンプカバー60により端部が塞がれている。シャフト31を回転駆動するモータ部20は、ポンプカバー60とポンプカバー60との間に設けられている。ポンプケーシング50は、モータ部20とポンプカバー60との間に設けられ、ポンプ室43を形成している。インペラ70は、略円板状で、シャフト31に接続され、ポンプ室43に回転可能に収容されている。インペラ70は、羽根溝76が回転方向に複数形成されている。インペラ70は、径方向外側から径方向内側に向かうにつれてポンプケーシング50の吐出口420側の面である第1の内壁面51に近づくように、第1の内壁面51側に凸となる形状に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸入口から吸入した流体を吐出口から吐出する流体ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インペラの回転により、吸入口から流体を吸入し、インペラの回転方向に沿って形成されたポンプ通路において流体を昇圧し、昇圧した流体を吐出口から吐出する流体ポンプが知られている(例えば、特許文献1)。
特許文献1に記載されている流体ポンプとしてのウエスコポンプでは、2つのポンプケーシングにより形成される収容部にインペラが収容されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−232060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の流体ポンプでは、吸入口側に向かって凸となるようにインペラが形成されている。ポンプケーシングは、インペラと向き合う内壁面が、インペラの形状に沿うように、非平面状に形成されている(特許文献1の図6参照)。これにより、インペラを収容するポンプケーシングとインペラとの間の無駄なクリアランスが減少するため、ポンプ効率の向上が図られる。
【0005】
しかしながら、上述の流体ポンプでは、インペラの回転により流体が昇圧されると、インペラの吐出口側の面に作用する流体の圧力はインペラの吸入口側の面に作用する流体の圧力より大きくなる。吐出口側の面と吸入口側の面とにおけるこのような圧力差により、インペラは、ポンプケーシングの吸入口側に押されるようになる。これによりインペラが回転軸に沿って吸入口側に移動すると、インペラと上述の非平面状に形成されたポンプケーシングの内壁面との摺動抵抗が増大し、ポンプ効率が悪化する虞がある。
本発明は、このような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、インペラとポンプケーシングとの摺動抵抗を低減し、ポンプ効率を向上可能な流体ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の流体ポンプは、ハウジング、ポンプカバー、エンドカバー、モータ部、ポンプケーシング、およびインペラを備えている。
ハウジングは、筒状に形成されている。ポンプカバーは、吸入口を有し、ハウジングの一方の端部を塞ぐようにして設けられている。エンドカバーは、吐出口を有し、ハウジングの他方の端部を塞ぐようにして設けられている。
【0007】
モータ部は、ポンプカバーとエンドカバーとの間に設けられ、ハウジングの軸方向に延びるシャフトを有し、当該シャフトを回転駆動する。
ポンプケーシングは、ポンプカバーとモータ部との間に設けられ、ポンプカバーとの間にポンプ室を形成する。
インペラは、略円板状で、ポンプ室に回転可能に収容されている。インペラは、回転軸と同軸にシャフトに接続され、シャフトとともに回転する。インペラには、羽根溝が回転方向に複数形成されている。ここでいう「同軸」とは、厳密に同軸でなくてもよい。
【0008】
ポンプケーシングは、第1の内壁面および当該第1の内壁面に形成された第1ポンプ通路を有している。第1の内壁面は、ポンプ室の吐出口側端面を形成し、インペラに向かい合っている。第1の内壁面は、平面状に形成されている。第1ポンプ通路は、インペラの羽根溝に対応するように形成され、吐出口に連通している。
【0009】
ポンプカバーは、第2の内壁面および当該第2の内壁面に形成された第2ポンプ通路を有している。第2の内壁面は、ポンプ室の吸入口側端面を形成し、インペラに向かい合っている。第2の内壁面は、平面状に形成されている。第2ポンプ通路は、インペラの羽根溝に対応するように形成され、吸入口に連通している。
インペラは、径方向外側から径方向内側に向かうにつれて第1の内壁面に近づくように、第1の内壁面側に凸となる形状に形成されている。
【0010】
これにより、インペラが回転すると、第2の内壁面から第1の内壁面へ向かう向きの揚力がインペラに作用する。この揚力は、インペラの回転により流体が昇圧されるときに吸入口側である第2の内壁面側に向かってインペラが押される力に対して、向きが反対である。このため、インペラの回転により流体が昇圧されるときに、回転軸に沿って第2の内壁面側にインペラが移動することが抑制される。
すなわち、本発明では、第2の内壁面にインペラが接触することによる摺動抵抗の増大が抑制されるため、結果としてポンプ効率を向上させることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明をより具体的に例示するものである。本発明では、インペラは、回転軸を含む縦断面において、吐出口側の端面である第1端面および吸入口側の端面である第2端面が、径方向外側から中央に向かうにつれて、第1の内壁面に近づくように曲線状に形成されることで、第1の壁面に向かって凸となる形状に形成されている。すなわち、本発明のインペラは、第1の内壁面に向かって傘状に凸となる形状に形成されている。
【0012】
また、インペラは請求項3に記載のように形成されることが例示される。本発明では、インペラは、回転軸を含む縦断面において、吐出口側の端面である第1端面および吸入口側の端面である第2端面が、径方向外側から中央に向かうにつれて第1の内壁面に近づくように直線状に形成されることで、第1の内壁面に向かって凸となる形状に形成されている。
【0013】
請求項2および3に記載された発明では、いずれも第1端面および第2端面が第1の内壁面側に凸となる形状にインペラが形成されている。これにより、第2の内壁面から第1の内壁面へ向かう向きの揚力がインペラに作用するため、第2の内壁面にインペラの第2端面が接触することによる摺動抵抗の増大が抑制される。結果としてポンプ効率を向上させることができる。
【0014】
請求項4に記載の発明では、インペラは、回転軸を含む縦断面において、羽根溝の径方向外側の壁面が、第1の内壁面側から第2の内壁面側に向かうにつれて、回転軸に近づくように傾斜している。これにより、第2の内壁面から第1の内壁面へ向かう向きの揚力がインペラに効果的に作用するため、第2の内壁面にインペラの第2端面が接触することによる摺動抵抗の増大が抑制され、結果としてポンプ効率をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態の流体ポンプの構成を示す断面図である。
【図2】第1実施形態のインペラをポンプカバー側から見た模式図である。
【図3】(a)はポンプケーシングに形成された第1ポンプ通路を示す模式図であり、(b)はポンプカバーに形成された第2ポンプ通路を示す模式図である。
【図4】第1実施形態のインペラの断面を示す模式図である。
【図5】図4の部分拡大図である。
【図6】第1実施形態の流体ポンプのインペラの作動を示す特性図である。
【図7】比較形態の流体ポンプのインペラの作動を示す特性図である。
【図8】第2実施形態のインペラの断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。なお以下では、車両の内燃機関に燃料を供給する燃料ポンプに本発明を適用した実施形態を説明する。
【0017】
(第1実施形態)
本発明の一実施形態による燃料ポンプを図1〜4に示す。
流体ポンプとしての燃料ポンプ1は、図示しない燃料タンク内の燃料を吸入し、内燃機関に吐出供給する。燃料ポンプ1は、図1に示すように、モータ部20とモータ部20により駆動されるポンプ部40を備えている。ポンプ部40は、ポンプカバー60、ポンプケーシング50、およびインペラ70等を有している。ハウジング10は、モータ部20およびポンプ部のハウジングをかねており、軸方向の一方の端部がポンプカバー60により塞がれ、他方の端部がエンドカバー11により塞がれている。
【0018】
ハウジング10は、例えば鉄等の金属により、円筒状に形成されている。また、ハウジング10の表面には、例えば亜鉛または錫等によるめっきが施されている。
ポンプカバー60は、例えばアルミ等の金属により略円板状に形成されている。ポンプカバー60は、ハウジング10の一方の端部が径方向内側へかしめられることにより、ハウジング10の内側で固定され、軸方向への抜けが規制されている。ポンプカバー60は筒状の吸入口410を有している。吸入口410は内部に吸入通路411が形成されている。
【0019】
エンドカバー11は、樹脂により形成されている。エンドカバー11は、ハウジング10の他方の端部が径方向内側へかしめられることにより、エンドサポートカバー16とともにハウジング10の内側で固定され、軸方向への抜けが規制されている。図1に示すように、エンドカバー11は筒状の吐出口420を有している。吐出口420は内部に吐出通路421が形成されている。
【0020】
モータ部20は、永久磁石25、電機子30、整流子35、シャフト31、および図示しないブラシ等を有する直流ブラシモータである。モータ部20は、ポンプカバー60とエンドカバー11との間に設置されている。
【0021】
永久磁石25は、円弧状に形成され、ハウジング10の内周壁に周方向に複数取り付けられている。
電機子30は、永久磁石25の内周側に回転自在に設置されている。電機子30のシャフト31は、軸方向の一方の端部が軸受部材48により軸受けされ、軸方向の他方の端部が軸受部材18により軸受けされている。軸受部材48はポンプケーシング50に収容されるとともに支持され、軸受部材18はエンドカバー11に収容されるとともに支持されている。軸受部材18,48は、例えば銅系の焼結金属により円筒状に形成されている。電機子30は、回転方向に複数の磁極コア34を形成している中央コア32と、各磁極コア34に巻き回されたコイル38、39とから構成されている。電機子30のコイル38、39には、ブラシ、整流子35を通して駆動電流が供給される。
モータ部20は、ハウジング10の軸方向に延びるシャフト31を回転駆動する。
【0022】
ポンプ部40は、上述のように、ポンプカバー60、ポンプケーシング50、およびインペラ70等を有している。ポンプ部40は、図1に示すように、モータ部20に対してシャフト31の軸方向の一方側に設置されている。
【0023】
ポンプケーシング50は、図1に示すように、ポンプカバー60とモータ部20との間に設けられている。ポンプケーシング50は、例えばアルミ等の金属により、略円板状に形成されている。ポンプケーシング50はポンプカバー60との間に略円板状のポンプ室43を形成しており、インペラ70はポンプ室43に回転可能に収容されている。
【0024】
インペラ70は、樹脂で略円板状に形成されており(図2参照)、シャフト31の軸方向の一方側に接続されている。シャフト31は、一方の端部がポンプ室43内に位置するよう設けられ、外壁の一部が平面状に面取りされている。インペラ70の中心部には、シャフト31の一方の端部の形状に対応する形状の穴74が形成されている。シャフト31の一方の端部は、インペラ70の穴74に嵌め込まれている。これにより、シャフト31が回転すると、インペラ70は、ポンプ室43内でシャフト31とともに回転する。図2に示すように、インペラ70の外周は環状部73に囲まれており、環状部73の内周側には複数の羽根溝76が回転方向に形成されている。インペラ70の形状等については、後に詳述する。
【0025】
ポンプケーシング50のインペラ70側の面である第1の内壁面51には、インペラ70の回転方向に形成された羽根溝76に沿って略C字状の第1ポンプ通路502が形成されている(図1、図3(a)参照)。第1ポンプ通路502は、インペラ70の吐出口420側の端面である第1端面71側の羽根溝76と連通している。第1ポンプ通路502には、ポンプケーシング50を板厚方向に貫くポンプ通路燃料出口510が形成されている。ポンプ通路燃料出口510は吐出口420に連通している。なお、第1の内壁面51は、ポンプ室43の吐出口420側端面を形成している。
【0026】
ポンプカバー60のインペラ70側の面である第2の内壁面61には、インペラ70の回転方向に形成された羽根溝76に沿って略C字状の第2ポンプ通路602が形成されている(図1、図3(b)参照)。第2ポンプ通路602は、インペラ70の吸入口410側の端面である第2端面72側の羽根溝76と連通している。第2ポンプ通路602には、ポンプ通路燃料入口610が形成されている。ポンプ通路燃料入口610は吸入口410に連通している。ポンプカバー60に設けられた空気抜き穴604は、第2ポンプ通路602の燃料中に含まれる空気を燃料ポンプ1の外に排出するためのものである。なお、第2の内壁面61は、ポンプ室43の吸入口410側端面を形成している。
第1の内壁面51および第2の内壁面61は、いずれも平面状に形成されている。
【0027】
次に、インペラ70について、さらに詳しく説明する。
インペラ70は、図4、5に示すように、回転軸300を含む縦断面において、吐出口420側の端面である第1端面71および吸入口410側の端面である第2端面72が、径方向外側から中央に向かうにつれて、第1の内壁面51に近づくように曲線状に形成されている。すなわち、インペラ70は、径方向外側から径方向内側に向かうにつれて第1の内壁面51に近づくように、第1の内壁面51側に凸となる形状に形成されている。
【0028】
各羽根溝76は、インペラ70の回転軸300方向両側に形成されている。回転軸300方向両側に形成された各羽根溝76は、仕切壁78により径方向内側の一部を仕切られているが、径方向外側で互いに連通している。回転方向に隣接する羽根溝76は、それぞれ隔壁75により仕切られている。
仕切壁78の凹曲面に沿って羽根溝76に流入した燃料は、回転軸300方向両側の羽根溝76でそれぞれ旋回流700となって流れる(図2参照)。羽根溝76からの流出、羽根溝76への流入を次々と繰り返すことにより、旋回流700となった燃料は、第1ポンプ通路502および第2ポンプ通路602で昇圧される(図5参照)。
【0029】
ここで、インペラ70の環状部73の第1端面71は、第1端面71に沿って回転軸300に交わるように延びる仮想直線330と回転軸300に垂直な仮想直線320とが角度θ11をなすように傾斜して形成されている(図4参照)。また、環状部73の第2端面72は、第2端面72に沿って回転軸300に交わるように延びる仮想直線331と回転軸300に垂直な仮想直線321とが角度θ12をなすように傾斜して形成されている。インペラ70は、板厚が略均一な厚さで形成されており、θ11とθ12とが略等しくなるように形成されている。
【0030】
インペラ70を収容するポンプ室43を形成する第1の内壁面51および第2の内壁面61は、インペラ70の回転軸300に略垂直な平面状に形成されている。すなわち、仮想直線330と第1の内壁面51がなす角度θ21は上述の角度θ11に略等しく、仮想直線332と第2の内壁面61がなす角度θ22は上述の角度θ12に略等しい(図5参照)。
なお、環状部73の径方向内側の壁面は、第1端面71側から第2端面72側に向かうにつれて、回転軸300に近づくように傾斜している。すなわち、環状部73の径方向内側の壁面は、回転軸300に平行な仮想直線310と角度θ13をなすように形成されている。
【0031】
このように、インペラ70は、第1端面71および第2端面72が、径方向外側から中央に向かうにつれて第1の内壁面51側に近づくように、曲線状に凸となる形状に形成されている。これにより、本形態では、インペラ70が回転すると、第1端面71側の羽根溝76と第2端面72側の羽根溝76の角度差により、第1ポンプ通路502を流れる燃料の圧力より第2ポンプ通路602を流れる燃料の圧力の方が高くなり、第2の内壁面61から第1の内壁面51へ向かう向きの揚力がインペラ70に作用する。
【0032】
次に、燃料ポンプ1の作動について、図1を用いて説明する。
モータ部20が駆動されると、ポンプカバー60に設けられた吸入口410から吸入された燃料は、ポンプ通路燃料入口610を経由して第1ポンプ通路502および第2ポンプ通路602に流入する。第1ポンプ通路502および第2ポンプ通路602の燃料はインペラ70の回転により昇圧される。昇圧された燃料は、ポンプ通路燃料出口510を経由してモータ部20の永久磁石25と電機子30との間に流入し、吐出口420から吐出される。
【0033】
吸入口410から吸入された燃料が昇圧されて吐出口420から吐出されるため、吐出口420側であるインペラ70の第1端面71に作用する燃料の圧力は、吸入口410側であるインペラ70の第2端面72に作用する燃料の圧力より高くなる。このため、第2の内壁面61側にインペラ70を押す力がインペラ70に作用する。すなわち回転軸300方向の吸入口410側にインペラ70を押す力がインペラ70に作用する。
【0034】
ここで、本形態では、第2の内壁面61から第1の内壁面51へ向かう向きの揚力がインペラ70に作用する。すなわち、吸入口410側から吐出口420側へ向かう向きの揚力がインペラ70に作用する。このため、インペラ70は、この揚力と吸入口410側にインペラ70を押す力とが平衡するまで第1の内壁面51側に回転軸300に沿って上昇し、平衡したところで回転軸300方向の位置を保持する。
【0035】
次に、インペラ70の上述の作動を確認した実験結果を図6に基づいて説明する。
図6(a)は、形状測定器により、本実施形態のインペラ70の第2端面72の形状を測定した一例である。図6(b)は、モータ部20の駆動電流の変化を示す。図6(c)は、回転軸300方向のインペラ70の位置の変化量(以下、変位という)を示す。ここでは、第2端面72の径方向外側端部においてインペラ70の変位を測定している。
【0036】
モータ部20の駆動が開始される前は、インペラ70は第2の内壁面61側に保持されている。
時刻t0で、モータ部20の駆動が開始されると(図6(b)参照)、インペラ70の回転により吸入口410から燃料が吸入される。吸入口410から吐出口420に向かう燃料の流れにより、インペラ70は第1の内壁面51側に次第に上昇する(図6(c)参照)。
【0037】
燃料が昇圧されると、インペラ70を吸入口410側である第2の内壁面61側に押す力がインペラ70に作用する。インペラ70を第1の内壁面51側に凸となる形状に形成したことによる第1の内壁面51に向かう向きの揚力と、インペラ70を第2の内壁面61側に押す力とが平衡するまで、インペラ70は第1の内壁面51側に向かって次第に上昇する。
時刻t11では、燃料が十分に昇圧され、インペラ70に作用する揚力とインペラ70を第2の内壁面61側に押す力とが平衡しており、インペラ70は回転軸300方向の位置を保持している。
【0038】
このように、インペラ70を吸入口410側である第2の内壁面61側に凸となる形状に形成することにより、インペラ70に第2の内壁面61から第1の内壁面51に向かう向きの揚力が作用することが確認された。
【0039】
(比較形態)
上述の実施形態では、第1の内壁面51側に凸となる形状にインペラ70が形成されていた。これに対し、第2の内壁面61側に凸となる形状にインペラを形成した場合の比較形態を実験結果に基づいて説明する。
図7(a)は、比較形態のインペラの第2の内壁面61側の端面の形状を形状測定器により測定した図である。図7(b)は、モータ部20の駆動電流の変化を示し、図7(c)はインペラの回転軸300方向の位置の変位を示す。ここでは、第2の内壁面61側の端面の中央においてインペラの変位を測定している。
【0040】
モータ部20の駆動が開始される前は、インペラは第2の内壁面61側に保持されている。
時刻t0でモータ部20の駆動が開始されると(図7(b)参照)、吸入口410から吐出口420に向かう燃料の流れにより、インペラは第1の内壁面51側に次第に上昇する(図7(c)参照)。
ここで、燃料が昇圧されると、吸入口410側である第2の内壁面61側にインペラを押す力がインペラに作用する。また本形態では、インペラの吸入口410側の羽根溝と吐出口420側の羽根溝の角度差により第1ポンプ通路502の燃料の圧力が第2ポンプ通路602の燃料の圧力より高くなるため、インペラを第2の内壁面61側に押す力がさらにインペラに作用する。これらにより、時刻t21以降、インペラは次第に第2の内壁面61側に下降し、時刻t22以降、インペラは第2の内壁面61と接触することでその位置を保持する。
このように、吸入口410側である第2の内壁面61側に凸となる形状にインペラを形成した場合、インペラには第2の内壁面61から第1の内壁面51へ向かう向きの揚力が作用しないことが確認された。
【0041】
以上説明したように、本実施形態では、回転軸300を含む縦断面において、吐出口420側の端面である第1端面71および吸入口410側の端面である第2端面72が、径方向外側から中央に向かうにつれて、第1の内壁面51に近づくように曲線状に形成されている。すなわち、インペラ70は、径方向外側から径方向内側に向かうにつれて第1の内壁面51に近づくように、第1の内壁面51側に凸となる形状に形成されている。また、環状部73の径方向内側の壁面は、第1端面71側から第2端面72側に向かうにつれて、回転軸300に近づくように傾斜している。
【0042】
これにより、インペラ70が回転すると、第2の内壁面61から第1の内壁面51へ向かう向きの揚力がインペラ70に作用する。この揚力は、インペラ70の回転により燃料が昇圧されるときに第2の内壁面61側にインペラ70が押される力に対して向きが反対である。このため、回転軸300に沿って第2の内壁面61側にインペラ70が移動することが抑制される。
すなわち、第2の内壁面61にインペラ70の第2端面72が接触することによる摺動抵抗の増大が抑制されるため、結果としてポンプ効率を向上させることができる。
【0043】
(第2実施形態)
上記第1実施形態ではインペラ70は第1の内壁面51側に傘状に凸となる形状に形成されていたが、インペラの形状はこれに限るものではない。以下説明する。なお、本実施形態において第1実施形態と同一の符号が付された構成要素は、その符号が付された第1実施形態の構成要素と対応する。
図8は本形態のインペラのみを示した図である。インペラ80は、回転軸300を含む縦断面において、第1端面81が、径方向外側から中央811に向かうにつれて第1の内壁面51に近づくように直線状に形成されている。また、第2端面82が、径方向外側から中央821に向かうにつれて第1の内壁面51に近づくように直線状に形成されている。なお、インペラ80の中央811および821は、平面状に形成されている。
【0044】
各羽根溝86は、インペラ80の回転軸300方向両側に形成されている。回転軸300方向両側に形成された各羽根溝86は、仕切壁88により径方向内側の一部を仕切られているが、径方向外側で互いに連通している。回転方向に隣接する羽根溝86は、それぞれ図示しない隔壁により仕切られている。
【0045】
ここで、環状部83の第1端面81は、回転軸300に垂直な仮想直線340と角度θ31をなすように傾斜して形成されている。また、環状部83の第2端面82は、回転軸300に垂直な仮想直線341と角度θ32をなすように傾斜して形成されている。インペラ80は、板厚が略均一に形成されており、θ31とθ32とが略等しくなるように形成されている。
なお、環状部83の径方向内側の壁面は、第1端面81側から第2端面82側に向かうにつれて、回転軸300に近づくように傾斜している。すなわち、環状部83の径方向内側の壁面は、回転軸300に平行な仮想直線310と角度θ33をなすように形成されている。
【0046】
これにより、インペラ80が回転すると、第1端面81側の羽根溝86と第2端面82側の羽根溝86の角度差により、第1ポンプ通路502を流れる燃料の圧力より第2ポンプ通路602を流れる燃料の圧力の方が高くなり、第2の内壁面61から第1の内壁面51へ向かう向きの揚力がインペラ80に作用する。
本形態は、インペラ80が第1の内壁面51側に凸となる形状に形成されている点で、第1実施形態と同様であり、第1実施形態と同様の効果が奏される。
【0047】
(他の実施形態)
(イ)第1実施形態では、インペラ70の中央が凸となる曲面状に形成されていたが、インペラの中央の形状はこれに限られるものではない。インペラの中央は、平面上に形成されてもよいし、凹状に形成されてもよい。
(ロ)第1実施形態では、インペラ70の形状の一例を図6(a)に示したが、インペラ70の形状はこれに限られるものではない。インペラ70は、上述のように、回転軸300を含む縦断面において第1端面71および第2端面72が径方向外側から中央に向かうにつれて第1の内壁面51に近づくように曲線状に形成されることで、第1の内壁面51側に凸となる形状に形成されていればよい。
【0048】
(ハ)第2実施形態では、インペラ80の中央811、821が平面状に形成されていたが、インペラの中央の形状はこれに限られるものではない。インペラの中央は、凸状に形成されてもよいし、凹状に形成されてもよい。
(ニ)上記複数の実施形態では、本発明を燃料ポンプに適用した実施形態について説明したが、本発明はこれに限らず種々の流体ポンプに適用してもよい。
以上、本発明は、上記形態に何等限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、種々なる形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 ・・・ 燃料ポンプ(流体ポンプ)
10 ・・・ ハウジング
11 ・・・ エンドカバー
20 ・・・ モータ部
31 ・・・ シャフト
43 ・・・ ポンプ室
50 ・・・ ポンプケーシング
51 ・・・ 第1の内壁面
60 ・・・ ポンプカバー
61 ・・・ 第2の内壁面
70 ・・・ インペラ
76 ・・・ 羽根溝
410 ・・・ 吸入口
420 ・・・ 吐出口
502 ・・・ 第1ポンプ通路
602 ・・・ 第2ポンプ通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のハウジングと、
吸入口を有し、前記ハウジングの一方の端部を塞ぐポンプカバーと、
吐出口を有し、前記ハウジングの他方の端部を塞ぐエンドカバーと、
前記ポンプカバーと前記エンドカバーとの間に設けられ、前記ハウジングの軸方向に延びるシャフトを有し、当該シャフトを回転駆動するモータ部と、
前記ポンプカバーと前記モータ部との間に設けられ、前記ポンプカバーとの間にポンプ室を形成するポンプケーシングと、
前記ポンプ室に回転可能に収容され、回転軸と同軸に前記シャフトに接続され、前記シャフトとともに回転し、羽根溝が回転方向に複数形成された略円板状のインペラと、を備え、
前記ポンプケーシングは、前記ポンプ室の前記吐出口側端面を形成するとともに前記インペラに向かい合う平面状の第1の内壁面、および、当該第1の内壁面に前記羽根溝に対応するように形成され前記吐出口に連通する第1ポンプ通路を有し、
前記ポンプカバーは、前記ポンプ室の前記吸入口側端面を形成するとともに前記インペラに向かい合う平面状の第2の内壁面、および、当該第2の内壁面に前記羽根溝に対応するように形成され前記吸入口に連通する第2ポンプ通路を有し、
前記インペラは、径方向外側から径方向内側に向かうにつれて前記第1の内壁面に近づくように、前記第1の内壁面側に凸となる形状に形成されていることを特徴とする流体ポンプ。
【請求項2】
前記インペラは、前記回転軸を含む縦断面において、前記吐出口側の端面である前記第1端面が径方向外側から中央へ向かうにつれて前記第1の内壁面に近づくように曲線状に形成されるとともに、前記吸入口側の端面である前記第2端面が径方向外側から中央へ向かうにつれて前記第1の内壁面に近づくように曲線状に形成されることで、前記第1の内壁面側に凸となる形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の流体ポンプ。
【請求項3】
前記インペラは、前記回転軸を含む縦断面において、前記吐出口側の端面である前記第1端面が径方向外側から中央に向かうにつれて前記第1の内壁面に近づくように直線状に形成されるとともに、前記吸入口側の端面である前記第2端面が径方向外側から中央に向かうにつれて前記第1の内壁面に近づくように直線状に形成されることで、前記インペラが前記第1の内壁面側に凸となる形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の流体ポンプ。
【請求項4】
前記インペラは、前記回転軸を含む縦断面において、
前記羽根溝の径方向外側の壁面が、前記第1の内壁面側から前記第2の内壁面側に向かうにつれて、前記回転軸に近づくように傾斜していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の流体ポンプ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate