流体噴射装置
【課題】小型化を図ることが可能な流体噴射装置を提供すること。
【解決手段】ノズル形成面5に密着させられるフィルム23と、フィルム23をノズル形成面5に密着させノズル開口を封止するフィルム密着機構24と、ノズル形成面5に密着されたフィルム23とノズル形成面5とを相対的に互いに異なる方向に移動させるフィルム移動機構25等を備える。インク排出機構18は、フィルム23をノズル形成面5に密着させノズル開口7を封止している状態で、ノズル形成面5とフィルム23とを相対的に互いに異なる方向に移動することで、ノズル8内の空気あるいはインク(空気/インク)に、ノズル開口7に向かう流れを発生させ、ノズル8内に溜まっているインクをノズル外に排出させることができる。
【解決手段】ノズル形成面5に密着させられるフィルム23と、フィルム23をノズル形成面5に密着させノズル開口を封止するフィルム密着機構24と、ノズル形成面5に密着されたフィルム23とノズル形成面5とを相対的に互いに異なる方向に移動させるフィルム移動機構25等を備える。インク排出機構18は、フィルム23をノズル形成面5に密着させノズル開口7を封止している状態で、ノズル形成面5とフィルム23とを相対的に互いに異なる方向に移動することで、ノズル8内の空気あるいはインク(空気/インク)に、ノズル開口7に向かう流れを発生させ、ノズル8内に溜まっているインクをノズル外に排出させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流体噴射装置は、流体を噴射する流体噴射ヘッドを備え、この流体噴射ヘッドから被記録媒体等に流体を噴射する。かかる流体噴射装置は、流体噴射ヘッドに設けられるノズルから流体を噴射する構成となっているが、ノズルから流体が噴射されない状態が続くと、ノズル内に残留している流体が増粘することがある。ノズル内に増粘した流体があると、流体の適正な噴射を行えなくなる虞がある。そのため、流体噴射装置には、特許文献1,2に開示されるように、ノズル内に溜まった増粘インクの排出を行うためのメンテナンス機構が備えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−58303号
【特許文献2】実開平5−88945号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、流体噴射装置には、装置の小型化が求められ、また、メンテナンス時には、インクの不必要な排出を抑えることが求められる。そこで、本発明においては、装置の小型化あるいはインクの不必要な排出の低減を図ることが可能な流体噴射装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、流体噴射装置は、流体を噴射する流体噴射ヘッドと、流体噴射ヘッドのノズル形成面に密着可能なフィルムと、フィルムをノズル形成面に密着させ、ノズル開口を封止するフィルム密着機構と、ノズル形成面に密着されたフィルムと、ノズル形成面とを、互いに異なる方向に相対的に移動させるフィルム移動機構とを備えることとする。
【0006】
流体噴射装置をこのように構成することで、フィルムがノズル形成面に密着された状態で、フィルムとノズル形成面とを互いに異なる方向に相対的に移動させることで、ノズルの内部から開口方向に向かって空気の流れを発生させることができる。この空気の流れによりノズル内のインクをノズル外に排出することができる。つまり、吸引ポンプを用いることなくノズル内のインクを排出することができる。したがって、流体噴射装置の小型化が可能となる。また、たとえば、吸引ポンプを使用してノズル内のインクを排出する場合に比べて、インクの排出量を少なくすることができるので、インクの不必要な排出の低減を図ることができる。
【0007】
上記発明に加えて、上述のフィルム密着機構は、フィルムをノズル形成面に押圧する押圧部材を有し、押圧部材がフィルムをノズル形成面に対して押圧している状態で、ノズル形成面と押圧部材とをノズル形成面に沿って一方から他方に相対的に移動することにより、フィルムをノズル形成面に密着させることとする。
【0008】
流体噴射装置をこのように構成することで、押圧部材がノズル形成面の一方から他方に移動するため、フィルムとノズル形成面との間の空気を排出させ易くなり、フィルムとノズル形成面との密着性を高くすることができる。
【0009】
上記発明に加えて、上述の流体噴射ヘッドは、ノズル形成面にノズル開口よりも広い開口部を有する凹部が形成され、ノズル開口は、凹部内に配置されていることとする。
【0010】
流体噴射装置をこのように構成することで、凹部内にフィルムを入り込ませた状態で、フィルムをノズル形成面に密着させることができる。凹部内にフィルムが入り込んだ状態でフィルムをノズル形成面に対して移動させると、凹部内に体積変動を発生させることができる。この体積変動によりノズルの内部から開口方向に向かって発生する空気の流れ量を多くすることができる。そのため、ノズル内のインクをよりノズル外に排出させやすくすることができる。
【0011】
上記発明に加えて、上述のフィルムは、凹部に嵌合する凸部が形成されていることとする。
【0012】
流体噴射装置をこのように構成することで、凹部内により確実にフィルムを入り込ませることができる。そのため、ノズル形成面に密着したフィルムをノズル形成面から離間させて移動する際に、ノズルに溜まっている増粘インクをノズル開口から外部により一層確実に排出させることができる。
【0013】
上記発明に加えて、上述の凹部の押圧部材の移動方向に沿う方向の前後に配置される内側面は、ノズル開口の側からノズル形成面に向かって開口幅が広がる方向に傾斜する傾斜面に形成され、移動方向の前方に配置される傾斜面は、移動方向の後方に配置される傾斜面に比べて傾斜角が小さいこととする。
【0014】
流体噴射装置をこのように構成することで、押圧部材が、凹部からノズル形成面側に脱出する際に、ノズル内の空気/インクをノズル形成面側に追い出し易くなる。したがって、フィルムを凹部内に入り込ませ易くすることができる。
【0015】
上記発明に加えて、押圧部材がフィルムをノズル形成面に対して押圧しているときのフィルムとの接触部は、ノズル形成面に沿い、かつ、移動方向に沿う方向に対して傾斜する傾斜部を有し、この傾斜部は、移動方向の前方側において内向部を有しない方向に傾斜する傾斜部であり、傾斜部の移動方向における幅は、凹部の移動方向における幅よりも狭いこととする。
【0016】
流体噴射装置をこのように構成した場合には、傾斜部分の移動方向における幅が、凹部の移動方向における幅よりも狭いため、押圧部材のノズル形成面との接触部が、凹部内に入り込み易くなり、フィルムを凹部内に入り込ませ易くすることができる。また、押圧部材のノズル形成面との接触部が内向部を有しない方向に傾斜する傾斜部分とされることにより、押圧部材の移動によって押し出される凹部内の空気が、凹部の外側に押し出され易くなる。
【0017】
上記発明に加えて、上述の流体噴射装置は、フィルムを巻回された状態で収納することができると共に、巻回された状態から展開されたフィルムを巻き取り収納することができるフィルム収納機構を備えていることとする。
【0018】
流体噴射装置をこのように構成した場合には、フィルムの収納スペースを小さなものとすることができる。
【0019】
上記発明に加えて、上述の流体噴射装置は、フィルムが、ノズル形成面に沿って、ローラーに支持されて張り渡される無端ベルトの形状であり、ローラーは回転駆動可能であり、さらに、フィルムに接触するインク吸収材が備えられていることとする。
【0020】
流体噴射装置をこのように構成した場合には、ローラーを回転駆動し、フィルムを周回することで、フィルムの周囲に付着したインクをインク吸収材により払拭することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態に係るインクジェットプリンターの外観を示す斜視図である。
【図2】インクジェットプリンターの電気的構成を示すブロック図である。
【図3】ノズル内の増粘インクが排出される原理を示す図である。
【図4】ノズル内の増粘インクが排出される原理を示す図である。
【図5】インク排出機構の概略の構成を示す図である。
【図6】インク排出動作の流れを示す図である。
【図7】インク排出動作の流れを示す図である。
【図8】インク排出機構の概略の構成を示す図である。
【図9】インク排出動作の流れを示す図である。
【図10】インク排出動作の流れを示す図である。
【図11】インク排出動作を示すフローチャートである。
【図12】本発明の実施の形態に係るインクジェットプリンターの外観を示す斜視図である。
【図13】インク排出機構の概略の構成を示す図である。
【図14】インク排出動作の流れを示す図である。
【図15】インク排出動作の流れを示す図である。
【図16】インク排出動作を示すフローチャートである。
【図17】ノズル内にワイパーの一部が入り込んだ状態を示す図である。
【図18】ノズル形成面に凹部を形成したときの構成を示す図である。
【図19】ワイパー(可撓板)の形状を示す図である。
【図20】ワイパー(可撓板)の形状を示す図である。
【図21】フィルムの構成を示す図である。
【図22】ローラーの構成を示す図である。
【図23】押圧板の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の第1の実施の形態に係る流体噴射装置としてのインクジェットプリンター(以下、単に、プリンターと記載する。)100について説明をする。 図1は、プリンター100の全体的な概略の構成を示す斜視図である。図2は、図1に示すプリンター100の概略の構成を示すブロック図である。以下の説明において、図1に図中矢印Xで示す方向を、記録用紙Pの搬送方向(副走査方向)である前方(前側)とし、また、図1中矢印Yで示す方向をプリンター100の設置面の方向である下方(下側)として説明を行う。そして、前方から後方を見たときの左手側を左方(左側)とし、右手側を右方(右側)として説明を行う。
【0023】
(プリンター100の全体構成)
図1に示すように、プリンター100は、外装筐体1を有し、この外装筐体1の内部に、流体噴射ヘッドとしてのインク噴射ヘッド(以下、単に、ヘッドと記載する。)2と、このヘッド2が搭載されるキャリッジ3と、キャリッジ3を左右に移動させるキャリッジ移動機構4と、ヘッド2のノズル形成面5の拭き取り等を行うメンテナンス機構6等を備える。
【0024】
ヘッド2は、図示を省略するインクタンクから流体としてのインクの供給を得て、ノズル開口7(図3、4等参照)からインク滴を噴射することができるように構成されている。ヘッド2としては、たとえば、ヘッド2内に設けられるインク室に充填されたインクを、ピエゾ素子の振動によりノズル8(図3、4等参照)を介してノズル開口7から噴射させることができる、いわゆるピエゾ型のヘッドを用いることができる。
【0025】
キャリッジ移動機構4は、ガイド部材9と、アイドルプーリー10と、駆動プーリー11と、タイミングベルト12と、キャリッジモーター13等を有している。ガイド部材9は、外装筐体1の内部に、ガイド方向を主走査方向(本実施の形態においては左右方向)に向けて配置されている。キャリッジ3は、ガイド部材9のガイドを受けて左右方向に移動することができるように、ガイド部材9に取り付けられている。アイドルプーリー10と駆動プーリー11とは、ガイド部材9のガイド方向と平行な方向に配置されている。
【0026】
タイミングベルト12は、アイドルプーリー10と駆動プーリー11とに掛け渡されている。駆動プーリー11は、キャリッジモーター13により左右に往復回転させられる。したがって、タイミングベルト12は、駆動プーリー11の回転に従って左右方向に往復回転させられる。キャリッジ3は、タイミングベルト12の一部に結合されている。したがって、タイミングベルト12が左右方向に往復回転すると、キャリッジ3もタイミングベルト12と共に左右方向(主走査方向)に往復移動する。
【0027】
タイミングベルト12の下方には、記録用紙Pを後方から前方に向かって(副走査方向に)搬送するための搬送ローラー14が配設されている。搬送ローラー14は、搬送モーター15により回転させられる。また、搬送ローラー14の前方には、搬送ローラー14の回転によって搬送される記録用紙Pの下側を支持するプラテン16が配設されている。
【0028】
ヘッド2は、ノズル形成面5を記録用紙Pに対向させる姿勢で配置されている。そして、ヘッド2は、キャリッジ3と共に左右方向(主走査方向)に往復移動しながら、後方から前方に向かって(副走査方向に)搬送される記録用紙Pに対してインク滴を噴射する。インク滴の噴射は、パソコンPC(図2参照)等から送られる画像データ等に基づいて行われ、記録用紙Pには、画像データ等に基づく所望の画像が記録される。なお、ヘッド2が記録用紙Pに記録を行う際におけるヘッド2の左右方向への往復移動は、記録用紙Pの左右幅に対応した幅を有する記録領域A1で行われる。
【0029】
一方、記録を行っている間にノズル形成面5がインクや紙粉等で汚れたり、ノズル内のインクが増粘したとき、あるいは一定量の記録を行った後等の所定のタイミングで、ヘッド2は、記録領域A1の左側に設定されている非記録領域A2に移動させられる。非記録領域A2には、メンテナンス機構6が配置されている。プリンター100は、非記録領域A2に移動されたヘッド2のノズル形成面5に対して、メンテナンス機構6により、メンテナンスを行うメンテナンス動作を行うことができるように構成されている。メンテナンス動作においては、ノズル形成面5の拭き取りを行うノズル形成面払拭動作およびノズル8内のインクを吸引し排出させるインク排出動作を実行することができる。
【0030】
(メンテナンス機構6の構成)
メンテナンス機構6は、ヘッド2が非記録領域A2に移動したときに、ヘッド2の下方となる位置に配置され、ノズル形成面5の拭き取りを行うワイピング機構17と、ノズル内のインクを排出するインク排出機構18とを備えている。
【0031】
(ワイピング機構17)
ワイピング機構17は、ワイパー19と、ワイパー19が取り付けられる支持台20と、支持台20を上下に昇降させる昇降機構21等を備えている。昇降機構21は、たとえば、上下方向に軸方向が配置される図示を省略するリードスクリューと、このリードスクリューにねじ結合されると共に支持台20に連結される図示を省略するナットと、リードスクリューを回転させる図示を省略する支持台昇降モーター22(図2参照)等から構成することができる。支持台昇降モーター22によりリードスクリューを回転させると、ナットがリードスクリューにガイドされ、リードスクリューの回転方向に応じて上下に移動する。つまり、ナットに連結される支持台20が上下に移動する。支持台20が上下に移動することで、ワイパー19は上方位置と下方位置とに昇降することができる。
【0032】
昇降機構21によって支持台20が昇降することで、ワイパー19は、ワイパー19の上端部19Aがノズル形成面5に当接する上方位置と、上端部19Aがノズル形成面5から離間する下方位置とに移動することができる。そして、ワイパー19が上方位置に配置されている状態で、キャリッジ移動機構4を駆動し、ヘッド2を左(右)から右(左)に移動させることで、ノズル形成面5の払拭が行われる。
【0033】
(インク排出機構18)
インク排出機構18は、後述するように、ノズル形成面5に密着させられるフィルム23(図5等参照)と、フィルム23をノズル形成面5に密着させノズル開口を封止するフィルム密着機構24と、ノズル形成面5に密着されたフィルム23とノズル形成面5とを相対的に互いに異なる方向に移動させるフィルム移動機構25等を備える。インク排出機構18は、フィルム23をノズル形成面5に密着させノズル開口7を封止している状態で、ノズル形成面5とフィルム23とを相対的に互いに異なる方向に移動することで、ノズル8内の空気あるいはインク(空気/インク)に、ノズル開口7に向かう流れを発生させ、ノズル8内に溜まっているインクをノズル外に排出させることができるように構成されている。
【0034】
(電気的構成)
次に、図2を参照しながら図1に示すプリンター100の電気的な構成の概略を説明する。
【0035】
図2において、プリンター100は、パソコンPCから入力された画像データ等を受け取るインターフェイス26と、制御部27と、ヘッド2と、ヘッド2を駆動するためのヘッドドライバー2Aと、キャリッジモーター13と、搬送モーター15と、支持台昇降モーター22と、その他のモーターを駆動するための各種のモータードライバーを備えるモータードライバー28等を備える。
【0036】
制御部27は、記録開始信号、インク排出動作開始信号あるいは画像データー等に基づいて、ヘッド2、搬送モーター15、キャリッジモーター13、支持台昇降モーター22等の駆動の他、プリンター100の様々な動作制御を司る機能を有し、CPU(Central Processing Unit)29あるいはマイクロコンピュータ等により構成される。また、制御部27には、プリンター100の各種動作に係る処理プログラム等が記憶されているPROM(Programmable Read−Only Memory)30と、パソコンPCからインターフェイス26を介して入力される画像データ等を格納・記憶したり、作業用のメモリとして機能するRAM(Random Access Memory)31と、プリンター100に関する諸情報を記憶するEEPROM(Electrically Erasable Read−Only Memory)32等を備える。
【0037】
(インク排出動作)
次に、図面を参照しながら、プリンター100に備えられるインク排出機構18とその動作について説明する。
【0038】
(動作原理)
先ず、図3、図4を参照しながら、ヘッド2のノズル8内に溜まった増粘したインク(増粘インクS)をノズル8の外に排出するインク排出動作の原理について説明する。図3は、フィルム23とノズル形成面5とを互いに離間させる方向に移動させることで、ノズル開口7をフィルム23による封止から開放させ、ノズル8内に溜まった増粘インクSを排出させる原理を示す図である。ノズル形成面5に密着されたフィルム23と、ノズル形成面5とが、相対的に互いに異なる方向に移動する方向として、フィルム23とノズル形成面5とは、互いに相対的に離間させる方向に移動されている。
【0039】
図4は、フィルム23とノズル形成面5とをノズル形成面5に沿って互いに異なる方向に移動することで、ノズル開口7をフィルム23による封止から開放させ、ノズル8内に溜まった増粘インクSを排出させる原理を示す図である。ノズル形成面5に密着されたフィルム23と、ノズル形成面5とが、相対的に互いに異なる方向に移動する方向として、フィルム23とノズル形成面5とは、ノズル形成面5に沿って互いに相対的に異なる方向に移動されている。
【0040】
図3の上段(A)は、ヘッド2の断面を概略的に示した図であり、ノズル8内に増粘インクSが溜まっている状態を示している。図3(A)に示すヘッド2のノズル形成面5に対して、図3の中段(B)に示すようにノズル開口7を封止するようにフィルム23を密着させる。なお、フィルム23としては、シリコーンゴムやエチレンプロピレンゴム(EPDM)等のゴム材やエラストマ材により形成される弾性および可撓性を有するフィルムを使用できる他、弾性を有しなくても、PE(ポリエチレン)やPET(ポリエチレンテレフタラート)から形成される柔軟性を有するフィルムを使用できる。
【0041】
そして、図3の下段(C)に示すように、ノズル形成面5に密着しているフィルム23を下方に向かって移動(離間)する。すなわち、ノズル形成面5に密着しているフィルム23を下方に向かってノズル形成面5から剥がす。ノズル形成面5に密着されているフィルム23がノズル形成面5から下方に剥がされると、ノズル8内の空気/インクは、その粘性あるいは表面張力により、フィルム23の移動に引っ張られてノズル8内からノズル開口7の外側に向かって移動する。上述のようにノズル形成面5に密着しているフィルム23をノズル形成面5から移動(離間)することで、ノズル8内の空気/インクにノズル開口7の外側に向かう流れが発生し、ノズル8内に溜まった増粘インクSがノズル8外に排出させられると考えられる。
【0042】
図4の第1段(A)は、図3(A)と同様の図である。また、図4の第2段(B)も、図3(B)と同様の図であり、ノズル開口7を封止するようにフィルム23がノズル形成面5に密着している状態が示されている。そして、図4の第3段(C)と第4段(D)に示すように、ノズル形成面5に密着されている状態のフィルム23をノズル形成面5に沿って一方向に移動させる。図4の第3段(C)に示すように、フィルム23がノズル形成面5に沿って移動することで、ノズル8内の空気/インクには、その粘性あるいは表面張力により、フィルム23の移動に引っ張られてフィルム23の移動方向に移動しようとする力が作用する。
【0043】
そして、図4の第4段(D)に示すように、ノズル8内の空気/インクにフィルム23の移動方向に移動しようとする力が作用している状態で、フィルム23によって封止されているノズル開口7が開放されると、ノズル8内の空気/インクは、ノズル8内からノズル開口7の外側に向かって流れる。上述のようにノズル形成面5に密着しているフィルム23をノズル形成面5から沿って移動することで、ノズル8内の空気/インクにノズル開口7の外側に向かう流れが発生し、ノズル8内に溜まった増粘インクSがノズル8外に排出させられると考えられる。
【0044】
(インク排出機構18)
次に、図5、図6および図11等を参照しながら本発明の第1の実施の形態に係るプリンター100におけるインク排出機構18の構成とその動作ついて説明する。図5は、プリンター100におけるインク排出機構18の概略の構成を示す図である。図6は、インク排出機構18の動作状態を示す図であり、図6の第1段(A)〜第7段(G)は、インク排出機構18の動作の流れを図示したものである。図11は、インク排出動作の示すフローチャートである。
【0045】
図5に示すように、インク排出機構18は、フィルム23と、フィルム収納機構33と、フィルム密着機構24と、フィルム移動機構25等を備えている。
【0046】
(フィルム収納機構33)
フィルム収納機構33は、フィルム23が巻回される軸体34と、軸体34をフィルム23の巻取り方向(図5において反時計周り)に回転させる付勢機構35とを備えている。軸体34および付勢機構35は、筐体36内に収納されている。なお、フィルム23は、後述するように、ノズル形成面5にフィルム23を密着させたとき、ノズル形成面5に形成されている全てのノズル開口7をフィルム23により封止することができる前後方向の幅と左右方向の長さを有する帯状を呈している。
【0047】
軸体34に巻回されたフィルム23の先端を引っ張ると、フィルム23は軸体34から解かれ(展開され)筐体36の外に引き出される。フィルム23が軸体34から解かれるように引き出されると、軸体34はフィルム23が引き出される方向に回転する。この回転により付勢機構35には、軸体34をフィルム23の巻取り方向に回転させる付勢力が蓄積される。付勢機構35には、たとえば、軸体34の回転により蓄勢されるゼンマイばねを用いることができる。
【0048】
フィルム23を筐体36から引き出した後、フィルム23を引く力を解除すると、付勢機構35に蓄勢された付勢力により、軸体34がフィルム23の巻取り方向に回転する。これにより、フィルム収納機構33から引き出されたフィルム23は、軸体34に自動的に巻き取られる。つまり、フィルム収納機構33はフィルム自動巻取り機構を備えている。筐体36内には、フィルム23に付着した廃インクを払拭するインク吸収材37が設けられている。本実施の形態では、フィルム収納機構33は、キャリッジ3に対して取り付けられ、キャリッジ3と一体に移動する。
【0049】
(フィルム密着機構24)
フィルム密着機構24は、押圧機構としてのワイピング機構17とキャリッジ移動機構4とを有して構成されている。ワイピング機構17には、フィルム23の先端に設けられるフック38と係合することができるフック留め39が設けられている。
【0050】
(フィルム移動機構25)
フィルム移動機構25は、ワイピング機構17に備えられる昇降機構21により構成されている。昇降機構21は、支持台20を、上方位置T1(図6(A)参照)と下方位置T2(図6(E)参照)とに昇降することができる。上方位置T1は、ワイパー19がノズル形成面5の下側に配置されたときに、ノズル形成面5に当接することができる位置である。下方位置T2は、ノズル形成面5に密着されたフィルム23を、ノズル形成面5から離間することができる位置である。
【0051】
(インク排出動作)
インク排出動作について図6および図11を参照しながら説明する。
【0052】
インク排出動作は、図11に示すように、フィルム23をフィルム収納機構33から引き出しノズル形成面5に密着させる密着動作(S10)と、ノズル形成面5とノズル形成面5に密着されたフィルム23とを相対的に異なる方向に移動させる移動動作(S20)と、引き出されたフィルム23をフィルム収納機構33に収容する収納動作(S30)とを有する。図6(A)〜(D)に示す動作が、図11に示す密着動作(S10)に対応し、図6(D)〜(E)に示す動作が、図11に示す移動動作(S20)に対応する。そして、図6(E)〜(G)に示す動作が、図11に示すフィルム収納動作(S30)に対応する。
【0053】
ヘッド2は、プリンター100のインク排出動作の開始時においては、図6(A)に示す待機位置U1に配置されている。プリンター100のインク排出動作が実行されると、ヘッド2は、待機位置U1の左方に設定される非記録領域A2に向けて移動を開始する。なお、プリンター100の記録動作が実行される場合には、ヘッド2は、待機位置U1の右方に設定される記録領域A1において所定の移動を行う。
【0054】
インク排出動作の実行は、たとえば、ユーザーが、記録用紙Pへの記録状態を見て、インク排出動作を行うことが必要性であると判断し、インク排出動作の実行の指示を制御部27に対して与えることで開始される。また、プリンター100は、記録動作を所定時間継続して行った場合等の所定のタイミングで、自動的にインク排出動作を開始する構成とされていてもよい。
【0055】
ユーザーの指示、あるいは所定のタイミングでインク排出動作が開始されると、図6(A)〜(D)に示すように、制御部27は、キャリッジ3が左方に移動するようにキャリッジモーター13を駆動する。
【0056】
ヘッド2が待機位置U1に配置されているとき、フィルム23は、フック38を筐体36の下面36Aよりも下方に垂らした状態で筐体36内に収容されている。また、支持台20は上方位置T1に配置されている。この状態で、キャリッジ3が待機位置U1から左方に移動されると、フック留め39にフック38が係合する(図6(B)参照)。フック留め39にフック38が係合した状態で、更にキャリッジ3が左方に移動されると、フィルム23は、フィルム収納機構33から引き出されながらヘッド2のノズル形成面5の下側に配置される。
【0057】
フック留め39の左方、すなわちキャリッジ3の移動方向には、ワイパー19が配置されている。支持台20が上方位置T1に配置されている状態で、キャリッジ3が左方に移動すると、ワイパー19の先端部19Aはノズル形成面5に対して接触することができる。そのため、ノズル形成面5の下側にフィルム23が配置された状態で、キャリッジ3が左方に移動すると、フィルム23は、ワイパー19によりノズル形成面5に押圧されノズル形成面5に密着させられる。つまり、ワイパー19は、フィルム23をノズル形成面5に押圧する押圧部材として機能する。ノズル形成面5にフィルム23が押圧された状態で、キャリッジ3が図6(B)〜(D)に示すように移動することで、フィルム23がノズル形成面5の左方から右方に向かって順に密着させられていく。図6(D)に示すように、ノズル形成面5の左端から右端に亘ってフィルム23が密着された状態となったときに密着動作(S10)が完了する。
【0058】
上述のように、ノズル形成面5の下側に配置されたフィルム23を、ワイパー19によりノズル形成面5に押圧することで、フィルム23はノズル形成面5に密着させられる。支持台20の上方位置T1は、上述の押圧が確実に行われるように、ワイパー19によりノズル形成面5を払拭するときよりも上方にワイパー19が配置させるように設定することが好ましい。
【0059】
密着動作(S10)が完了した後、制御部27は、図6(D)〜(E)に示すように、支持台20が、下方位置T2に降下するように昇降機構21を動作させる。支持台20が下方に移動すると、フック留め39も一体に下降する。そのため、図6(E)に示すように、フィルム23の右端が下方に引かれ、フィルム23のノズル形成面5との密着部分がノズル形成面5から下方に離間する。すなわち、フィルム23のノズル形成面5に密着している部分がノズル形成面5に対して相対的に下方に移動する。フィルム23がノズル形成面5に密着している状態から離間させられることで、上述した図3で説明したように、ノズル8内の空気/インクがノズル開口7の外側に向かって移動し、ノズル8内に溜まっている増粘インクがヘッド2の外部に排出される。
【0060】
支持台20の下降速度は、フィルム23が破断したり、フック38がフック留め39から外れてしまわない範囲内で速くすることが好ましい。下降速度を速くすることで、ノズル8内からノズル開口7の外側に向かって流れる空気/インクの流速を速くすることができ、増粘インクSを排出する排出力を大きくすることができる。
【0061】
上述の密着動作において、フィルム23をノズル形成面5に押圧するワイパー19は、ノズル形成面5に対して相対的に左側から右側に、すなわち一方から他方に向かって移動されている。このように、ワイパー19がフィルム23をノズル形成面5に押圧する位置を、一の方向に移動させることで、フィルム23とノズル形成面5との間に入り込んだ空気を追い出しながら、フィルム23をノズル形成面5に密着させることができる。フィルム23とノズル形成面5との間の密着性を向上させることで、ノズル8内からノズル開口7の外側に向かって流れる空気/インクの流れをより確実に発生させることができ、インク排出動作の確実性を向上させることができる。
【0062】
支持台20が下方に移動された後、制御部27は、図6(F)に示すように、キャリッジ3を右方に移動し待機位置U1に配置させる。キャリッジ3が図6(E)に示す左端位置U2から右方に移動するに連れて、フィルム収納機構33とワイピング機構17との間の距離が短くなっていくため、フィルム23に弛みが発生する。しかしながら、この弛み分は、順次、フィルム収納機構33の軸体34に巻き取られる。つまり、図6(E)〜(F)に示すように、キャリッジ3が左端位置U2から右方の待機位置U1に向かって移動するに連れて、フィルム23は、フィルム収納機構33の軸体34に巻き取られる。キャリッジ3の移動と共にフィルム23をフィルム収納機構33の軸体34に巻き取らせることで、フック38がフック留め39を外れて勢いよくフィルム23がフィルム収納機構33に巻き取られる場合に比べて、フィルム23についた廃インクの跳ね跳びや、フィルム23が他の部材に衝突する等の不都合の発生を抑えることができる。
【0063】
キャリッジ3が図6(E)に示す左端位置U2から待機位置U1に向かって移動する間に、フック38は、フック留め39から外れる。フック留め39からフック38が外れた後は、キャリッジ3の移動に関係なく、フィルム23は、フィルム収納機構33の軸体34に巻き取られる。
【0064】
図6(G)に示すように、キャリッジ3が待機位置U1に配置された状態で、支持台20を上方位置T1に移動し、一連のインク排出動作が完了する。フィルム収納機構33の筐体36内には、インク吸収材37が備えられている。インク吸収材37は、フィルム23の上側の面(ノズル形成面5に密着していた側の面)に当接することができるように配置されている。フィルム23には、ノズル形成面5に付着していたインクやノズル8から排出された増粘インクが付着している。したがって、インク吸収材37は、フィルム23が軸体34に巻回される際に、フィルム23に付着しているインクを吸収することができる。
【0065】
また、軸体34に巻回されたフィルム23の最外周のフィルム23の外周に重ねて巻かれるフィルム23には、付勢機構35によるテンションが懸っている。したがって、軸体34に巻回されるフィルム23は、軸体34に巻回されているフィルム23の最外周のフィルム23に対して密着させられながら巻き取られる。つまり、巻き取られるフィルム23が最外周のフィルム23に密着することで、最外周のフィルム23の外周面に付着しているインクを軸体34の回転方向と反対の方向に押し出しながら、フィルム23の巻き取りを行うことができる。
【0066】
なお、上述した本実施の形態のプリンター100においては、ノズル形成面5からのフィルム23の離間は、フィルム23の側をノズル形成面5から離間させているが、たとえば、キャリッジ3を上方に移動させることで、ノズル形成面5の側をフィルム23から離間させる構成とすることもできる。
【0067】
(変形例1)
次に、図7および図11を参照しながら第1の実施の形態に係るプリンター100の変形例であるプリンター200(図1参照)について説明する。図7は、プリンター200におけるインク排出機構40の動作状態を示す図であり、図7の第1段(A)〜第6段(F)は、インク排出機構40の動作の流れを図示したものである。
【0068】
プリンター200において、プリンター100と同様な部材については、同一の符号を付し、その説明を省略または簡略化する。第1の実施の形態に係るプリンター100は、移動動作(図11のS20)において、フィルム23をノズル形成面5から離間させている。これに対し、変形例に係るプリンター200は、図7(D)〜(E)に示すように、ノズル形成面5をフィルム23に対して一方から他方に移動させることで、ノズル8内の空気/インクにノズル開口7に向かう流れを発生させる構成である点で異なっている。つまり、プリンター100においては、昇降機構21がフィルム移動機構25として構成されているのに対し、プリンター200においては、キャリッジ移動機構4がフィルム移動機構41として構成されている。フィルム収納機構33およびフィルム密着機構24については、プリンター100と同様の構成である。
【0069】
図7(A)〜(D)までの動作については、図11に示す密着動作(S10)に対応するものであり、図6(A)〜(D)と同様の動作であるので説明を省略する。図7(D)〜(F)に示す動作は、図11に示す移動動作(S20)に対応する。また、図7(D)〜(F)に示す動作は、図11に示すフィルム収納動作(S30)にも対応する。
【0070】
密着動作(S10)が完了した後、制御部27は、図7(D)〜(E)に示すようにキャリッジ3が待機位置U1に向かって(右方に)移動するようにキャリッジモーター13を動作させる。キャリッジ3が右方に移動すると、ノズル形成面5は、ノズル形成面5に沿う方向に沿って、ノズル形成面5に密着しているフィルム23に対して移動する。すなわち、フィルム23のノズル形成面5に密着している部分と、ノズル形成面5とはノズル形成面5に沿って相対的に互いに異なる方向に移動する。これにより、ノズル8内の空気/インクにノズル開口7に向かう流れが発生する。インクヘッド2が移動し、ノズル開口7がフィルム23の右端の外側に外れ、ノズル開口7が開放されたときに、ノズル8内に溜まった増粘インクが排出される。
【0071】
キャリッジ3が図7(D)に示す左端位置U2から右方に移動するに連れて、フィルム収納機構33とワイピング機構17との間の距離が短くなる。そのため、フィルム23に弛みが発生する。しかしながら、この弛み分は、順次、フィルム収納機構33の軸体34に巻き取られる。図7(D)〜(F)に示すように、キャリッジ3が左端位置U2から右方の待機位置U1に向かって移動するに連れて、フィルム23は、フィルム収納機構33により軸体34に巻き取られていく。つまり、プリンター200においては、移動動作(S20)とフィルム収納動作(S30)とが同時に行われる。
【0072】
ところで、フィルム収納機構33の付勢機構35がフィルム23を巻き取る力は、フィルム23とノズル形成面5との密着力よりも大きく、また、移動動作(S20)におけるキャリッジ3の移動速度は、付勢機構35がフィルム23を巻き取る速さに一致するように設定されている。これにより、右方に移動するヘッド2の移動方向の前側部分でフィルム23にジャミングが発生することを抑えることができる。
【0073】
(第2の実施の形態)
次に、図8、図9および図11を参照しながら本発明の第2の実施の形態に係るプリンター300について説明する。図8は、プリンター300におけるインク排出機構42の概略の構成を示す図である。図9は、インク排出機構42の動作状態を示す図であり、図9の第1段(A)〜第7段(G)は、インク排出機構42の動作の流れを図示したものである。
【0074】
図8に示すように、インク排出機構42は、フィルム23と、フィルム収納機構43と、フィルム密着機構44と、フィルム移動機構45等を備えている。なお、以下のプリンター300の説明において、プリンター100と同様な部材については、同一の符号を付し、その説明を省略または簡略化する。
【0075】
(フィルム収納機構43)
フィルム収納機構43は、フィルム収納機構33と同様の構成であるが、プリンター100においてはフィルム収納機構33がキャリッジ3に取り付けられ、キャリッジ3と一体に移動する構成であるのに対し、プリンター300のフィルム収納機構43は、プリンター300に対して固定位置に設けられている。
【0076】
(フィルム密着機構44)
フィルム密着機構44は、ワイピング機構17と、ワイピング機構17を左右に移動させる移動機構46とを有して構成されている。移動機構46は、たとえば、左右方向に軸方向が配置される図示を省略するリードスクリューと、このリードスクリューにねじ結合すると共にワイピング機構17に対して連結される図示を省略するナットと、リードスクリューを回転させる図示を省略する移動モーター47(図2参照)等から構成することができる。移動モーター47によりリードスクリューを回転すると、ナットがリードスクリューにガイドされ、リードスクリューの回転方向に応じて左右に移動する。つまり、ナットに連結されるワイピング機構17が左右に移動する。ワイピング機構17が左右に移動すると、ワイパー19も一体に左右に移動する。
【0077】
(フィルム移動機構45)
フィルム移動機構45は、ワイピング機構17に備えられる昇降機構21により構成されている。昇降機構21は、支持台20を上方位置T1(図9(A)参照)と下方位置T2図(9(E)参照)に昇降することができる。
【0078】
(インク排出動作)
インク排出動作について図9および図11を参照しながら説明する。第1の実施の形態に係るプリンター100のワイピング機構17は、インク排出動作において、左右方向について固定位置とされている。これに対し、第2の実施の形態のプリンター300は、ワイピング機構17が左右方向に移動可能な構成とされている。つまり、プリンター100においては、キャリッジ3を左方に移動させてフィルム密着動作を行っているのに対し、プリンター300においては、後述するようにワイピング機構17を右方に移動させてフィルム密着動作を行う。
【0079】
インク排出動作は、図11に示すように、フィルム23をフィルム収納機構43から引き出しノズル形成面5に密着させる密着動作(S10)と、ノズル形成面5とノズル形成面5に密着されたフィルム23とを相対的に異なる方向に移動させる移動動作(S20)と、引き出されたフィルム23をフィルム収納機構33に収容する収納動作(S30)とを有する。図9(A)〜(D)に示す動作が、図11に示す密着動作(S10)に対応し、図9(D)〜(E)に示す動作が、図11に示す移動動作(S20)に対応する。そして、図9(E)〜(G)に示す動作が、図11に示すフィルム収納動作(S30)に対応する。
【0080】
ヘッド2は、プリンター300のインク排出動作の開始時においては、図9(A)に示す待機位置U1に配置されている。また、ワイピング機構17は、移動機構46により移動される可動範囲の左端となる初期位置V1に配置されている。なお、プリンター300の記録動作が実行される場合には、ヘッド2は、待機位置U1の右方に設定される記録領域A1において所定の移動を行う。
【0081】
ユーザーの指示、あるいは所定のタイミングでインク排出動作が開始されると、図9(A)〜(D)に示すように、制御部27は、ワイピング機構17が初期位置V1から右方に移動するように移動モーター47を駆動する。
【0082】
ワイピング機構17が初期位置V1に配置されているとき、フィルム23は、フック38を筐体36の下面36Aよりも下方に垂らした状態で筐体36内に収容されている。また、支持台20は、上方位置T1に配置されている。この状態で、ワイピング機構17が初期位置V1から右方に移動されると、フック留め39にフック38が係合する(図9(B)参照)。フック留め39にフック38が係合した状態で、更にワイピング機構17が右方に移動されると、フィルム23はフィルム収納機構33から引き出されながらヘッド2のノズル形成面5の下側に配置される。
【0083】
フック留め39の左方、すなわちワイピング機構17の移動方向と反対の方向には、ワイパー19が配置されている。支持台20が上方位置T1に配置されている状態で、ワイピング機構17が右方に移動すると、ワイパー19の先端部19Aがノズル形成面5に対して接触する。そのため、ノズル形成面5の下側にフィルム23が配置された状態で、ワイピング機構17が右方に移動すると、フィルム23は、ワイパー19によりノズル形成面5に押圧されノズル形成面5に密着させられる。ノズル形成面5にフィルム23が押圧された状態で、ワイピング機構17が図9(B)〜(D)に示すように移動することで、フィルム23がノズル形成面5の左方から右方に向かって順に密着させられていく。図9(D)に示すように、ノズル形成面5の左端から右端に亘ってフィルム23が密着された状態となったときに密着動作(S10)が完了する。
【0084】
密着動作(S10)が完了した後、制御部27は、図9(E)に示すように、支持台20が降下するように昇降機構21を動作させる。支持台20が下方に移動すると、フック留め39も一体に下降するため、図9(E)に示すように、フィルム23がノズル形成面5から下方に離間する。すなわち、フィルム23のノズル形成面5に密着している部分がノズル形成面5に対して相対的に下方に移動する。フィルム23がノズル形成面5に密着している状態から離間させられることで、上述した図3で説明したように、ノズル8内の空気/インクがノズル開口7の外側に向かって移動し、ノズル8内に溜まっている増粘インクがヘッド2の外部に排出される。
【0085】
支持台20の下降速度は、フィルム23が破断したり、フック38がフック留め39から外れてしまわない範囲で速いことが好ましい。下降速度を速くすることで、ノズル8内からノズル開口7の外側に向かって流れる空気の流速を速くすることができ、増粘インクSを排出する排出力を大きくすることができる。
【0086】
上述の密着動作において、フィルム23をノズル形成面5に押圧するワイパー19は、ノズル形成面5に対して相対的に左側から右側、すなわち一方から他方に向かって移動されている。このように、ワイパー19がフィルム23をノズル形成面5に押圧する位置を、一方向に向かって移動させることで、フィルム23とノズル形成面5との間に入り込んだ空気を追い出しながら、フィルム23をノズル形成面5に密着させることができる。フィルム23とノズル形成面5との間の密着性を向上させることで、ノズル8内からノズル開口7の外側に向かって流れる空気/インクの流れをより確実に発生させることができ、インク排出動作の確実性を向上させることができる。
【0087】
支持台20が下方に移動された後、制御部27は、図9(F)に示すように、ワイピング機構17を左方に移動し初期位置V1に配置させる。ワイピング機構17が図9(E)に示す右端位置V2から左方に移動するに連れて、フィルム収納機構33とワイピング機構17との間の距離が短くなっていくため、フィルム23に弛みが発生する。しかしながら、この弛み分は、順次、フィルム収納機構33の軸体34に巻き取られる。つまり、図9(E)〜(F)に示すように、ワイピング機構17が右端位置V2から左方の初期位置V1に向かって移動するに連れて、フィルム23は、フィルム収納機構33の軸体34に巻き取られていく。ワイピング機構17が図9(E)に示す右端位置V2から図9(F)に示す初期位置V1に向かって移動する間に、フック38は、フック留め39から外れる。フック留め39からフック38が外れた後は、フィルム収納機構33の移動に関係なく、フィルム23は、フィルム収納機構33の軸体34に巻き取られる。
【0088】
図9(G)に示すように、ワイピング機構17が初期位置V1に配置された状態で、ワイピング機構17を上方に移動し、一連のインク排出動作が完了する。
【0089】
本実施の形態のプリンター300においては、ノズル形成面5からのフィルム23の離間は、フィルム23の側をノズル形成面5から離間させているが、たとえば、キャリッジ3を上方に移動させることで、ノズル形成面5の側をフィルム23から離間させる構成とすることもできる。また、密着動作(S10)において、ワイピング機構17は左方から右方(主走査方向)に向かって移動する構成としているが、副走査方向(前方から後方、あるいは後方から前方)に移動させる構成としてもよい。
【0090】
(変形例2)
次に、図10および図11を参照しながら本発明の第2の実施の形態に係るプリンター300の変形例であるプリンター400ついて説明する。図10は、プリンター400におけるインク排出機構48の動作状態を示す図であり、図10の第1段(A)から第7段(G)は、インク排出機構48の動作の流れを図示したものである。
【0091】
プリンター400において、プリンター300と同様な部材については、同一の符号を付し、その説明を省略または簡略化する。第2の実施の形態に係るプリンター300は、移動動作(図11のS20)において、フィルム23をノズル形成面5から離間させている。これに対し、変形例に係るプリンター400は、フィルム23のノズル形成面5に密着している部分をノズル形成面5に対して一方から他方に移動させることで、ノズル8内にノズル開口7に向かう空気/インクの流れを発生させる点で異なっている。つまり、プリンター300においては、昇降機構21がフィルム移動機構45として構成されているのに対し、プリンター400においては、フィルム収納機構43のフィルム巻取り機構がフィルム移動機構43として構成されている。本変形例におけるフィルム収納機構43の付勢機構35のフィルム23の巻き取り力は、ノズル形成面5に密着されている状態のフィルム2を、この密着の密着力に抗して巻き取ることができる強さとされている。
【0092】
図10(A)〜(D)までの動作については、図11に示す密着動作(S10)に対応するものであり、図9(A)〜(D)と同様であるので説明を省略する。図10(D)〜(F)に示す動作は、図11に示す移動動作(S20)に対応する。そして、図10(D)〜(F)に示す動作は、図11に示すフィルム収納動作(S30)にも対応する。
【0093】
密着動作(S10)が完了した後、制御部27は、図10(E)に示すようにワイピング機構17が初期位置V1に向かって(左方に)移動するように移動モーター47(図2参照)を動作させる。ワイピング機構17が左方に移動すると、この移動量に応じて、フィルム収納機構43は、フィルム23とノズル形成面5との密着力に抗して、フィルム23をフィルム収納機構43の軸体34に巻き取る。すなわち、フィルム23は、軸体34に巻き取られることで、ノズル形成面5に沿って移動する。すなわち、フィルム23のノズル形成面5に密着している部分とノズル形成面5とはノズル形成面5に沿って相対的に互いに異なる方向に移動する。これにより、ノズル8内の空気/インクにノズル開口7に向かう流れが発生する。ワイピング機構17が移動し、ノズル開口7がフィルム23の右端の外側に外れ、ノズル開口7が開放されたときに、ノズル8内に溜まった増粘インクが排出される。
【0094】
図10(D)〜(F)に示すように、ワイピング機構17が右端位置V2から左方の初期位置V1に向かって移動するに連れて、フィルム23は、フィルム収納機構43の軸体34に巻き取られていく。つまり、プリンター400においては、移動動作(S20)とフィルム収納動作(S3)とが同時に行われる。
【0095】
移動動作(S20)におけるにワイピング機構17の移動速度は、フィルム収納機構43の付勢機構35によりフィルム23が巻き取られる速さよりも小さく設定されている。フィルム23を巻き取られる速さよりもワイピング機構17の移動速度の方が大きくなると、ノズル形成面5の移動と共に、フィルム23が移動してしまう虞がある。一方、フィルム23とノズル形成面5との相対的な移動速度が大きい方が、ノズル8内からノズル開口7の外側に向かって流れる空気/インクの流速を速くすることができる。したがって、フィルム23が破断したり、フック38がフック留め39から外れてしまわない範囲で、付勢機構35はフィルム23をできるだけ速く巻き取ることが好ましい。
【0096】
本変形例のプリンター400においては、ワイピング機構17を左右方向(主走査方向)に移動させて、密着動作(S10)および移動動作(S20)を行っているが、ワイピング機構17を副走査方向(前方から後方、あるいは後方から前方)に移動させる構成としてもよい。
【0097】
本変形例のプリンター400においては、フィルム23をフィルム収納機構43により巻き取ることで、フィルム23をノズル形成面5に対して移動する構成とされている。これに対し、図10(D)に示す状態で、これ以上、フィルム収納機構43からフィルム23が引き出されないように、軸体33の回転止めを行った状態で、キャリッジ4を右方に移動することで、ノズル形成面5をフィルム23に対して移動する構成としてもよい。
【0098】
(第3の実施の形態)
次に、図12、図13、図14および図16を参照しながら本発明の第3の実施の形態に係るプリンター500について説明する。以下の説明において、プリンター100と同様な部材については、同一の符号を付し、その説明を省略または簡略化する。図12は、プリンター500の全体的な概略の構成を示す斜視図である。図13は、図12に示すプリンター500におけるインク排出機構49の概略の構成を示す図である。図14は、インク排出機構49の動作状態を示す図であり、図14の第1段(A)から第6段(F)は、インク排出機構18の動作の流れを図示したものである。図16は、インク排出動作を示すフローチャートである。
【0099】
上述の実施の形態およびその変形例に係るプリンター100から400におけるインク排出機構18等は、ワイピング機構17を用いて構成されている。これに対し、プリンター500に備えられるインク排出機構49は、ワイピング機構17とは独立した構造となっている。図12に示すように、インク排出機構49は、ワイピング機構17の左側に配置されている。すなわち、ワイピング機構17を挟んで記録領域A1の反対側に配置されている。
【0100】
図13に示すように、インク排出機構49は、フィルム50と、フィルム密着機構51と、フィルム移動機構52等を備えている。
【0101】
(フィルム密着機構51)
また、本実施の形態では、フィルム密着機構51は、一対のローラー53A,53Bと、押圧機構54と、押圧機構54を左右に移動させる移動機構55とを有して構成されている。フィルム50は、無端ベルトの形状に構成され、ローラー53A,53Bに掛け渡されている。ローラー53Aとローラー53Bとの間には、ローラー53A,53Bの下側に配置される下側フィルム50Aを、ローラー53A,53Bの上側に配置される上側フィルム50Bに近接させるローラー53C,53Dが備えられている。下側フィルム50Aは、上側フィルム50Bに接触しない程度にできるだけ近接していることが好ましい。
【0102】
ローラー53Aは、図示を省略するローラーモーター56(図2参照)により回転駆動させられる。したがって、ローラー53Aをローラーモーター56により回転することで、フィルム50をローラー53A,53Bの周りに周回させることができる。
【0103】
押圧機構54は、弾性および可撓性を備える押圧部材としての可撓板57と、可撓板57が取り付けられる支持台58と、支持台58を昇降させ可撓板57を上方位置Q1と下方位置Q2とに昇降させる昇降機構59等を備えている。昇降機構59は、たとえば、上下方向に軸方向が配置される図示を省略するリードスクリューと、このリードスクリューにねじ結合すると共に支持台58に連結される図示を省略するナットと、リードスクリューを回転させる図示を省略する支持台昇降モーター60(図2参照)等から構成することができる。
【0104】
支持台昇降モーター60によりリードスクリューを回転すると、ナットがリードスクリューにガイドされ、リードスクリューの回転方向に応じて上下移動する。つまり、ナットに連結される支持台58が上下に移動する。支持台58が上下に移動することで、可撓板57は上方位置Q1と下方位置Q2とに昇降することができる。なお、可撓板57は、ワイパー19と同様の部材を用いることができ、たとえば、ゴムあるいはエラストマから形成することができる。
【0105】
移動機構55は、たとえば、左右方向に軸方向が配置される図示を省略するリードスクリューと、このリードスクリューにねじ結合すると共に押圧機構54に対して連結される図示を省略するナットと、リードスクリューを回転させる図示を省略する移動モーター61(図2参照)等から構成することができる。移動モーター61によりリードスクリューを回転すると、ナットがリードスクリューにガイドされ、リードスクリューの回転方向に応じて左右に移動する。つまり、ナットに連結される押圧機構54が左右に移動する。押圧機構54が左右に移動すると、可撓板57も一体に左右に移動する。
【0106】
フィルム密着機構51を構成するローラー53A,53B,53C,53D、押圧機構54および移動機構55等は、図示を省略するフレーム体に支持されている。したがって、上記のフレーム体を後述する昇降機構62により昇降させることで、フィルム密着機構51を昇降することができる。
【0107】
(フィルム移動機構52)
また、本実施の形態では、フィルム移動機構52は、フィルム密着機構51を昇降することができる昇降機構62により構成されている。昇降機構62は、たとえば、上下方向に軸方向が配置される図示を省略するリードスクリューと、このリードスクリューにねじ結合すると共にフィルム密着機構51が支持される上述するフレーム体(図示省略)に連結される図示を省略するナットと、リードスクリューを回転させる図示を省略するフレーム体昇降モーター63(図2参照)等から構成することができる。フレーム体昇降モーター63によりリードスクリューを回転すると、ナットがリードスクリューにガイドされ、リードスクリューの回転方向に応じて上下移動する。つまり、ナットに連結されるフレーム体(図示省略)が上下に移動することで、フィルム密着機構51が上下に昇降する。
【0108】
(インク排出動作)
インク排出動作について図14および図16を参照しながら説明する。
【0109】
インク排出動作は、図16に示すように、フィルム50をノズル形成面5に密着させる密着動作(S110)と、ノズル形成面5とフィルム50とを相対的に異なる方向に移動させる移動動作(S120)とを有する。図14(A)〜(E)に示す動作が、図16に示す密着動作(S110)に対応し、図14(E)〜(F)に示す動作が、図16に示す移動動作(S120)に対応する。
【0110】
ヘッド2は、プリンター500のインク排出動作の開始時においては、図14(A)に示す待機位置R1に配置されている。また、押圧機構54は、移動機構55により移動される可動範囲の左端となる初期位置L1に配置されている。なお、プリンター500の記録動作が実行される場合には、ヘッド2は、待機位置R1の右方に設定される記録領域A1において所定の移動を行う。
【0111】
ユーザーの指示、あるいは所定のタイミングでインク排出動作が開始されると、図14(A)〜(D)に示すように、制御部27は、キャリッジ3が左方に移動するようにキャリッジモーター13を駆動する。
【0112】
図14(A)に示すように、ヘッド2が待機位置R1に配置されているとき、可撓板57は下方位置Q2に配置されている。可撓板57が下方位置Q2に配置されているとき、可撓板57の上端部57Aはフィルム50から離れた位置に配置されている。可撓板57が下方位置Q2に配置されている状態で、図14(B)に示すように、制御部27は、ノズル形成面5がフィルム50に対向する対向位置R2に配置されるように、キャリッジ3を待機位置R1から左方に移動する。
【0113】
そして、制御部27は、図14(C)に示すように、可撓板57が上方位置Q1に配置されるように支持台昇降モーター60を駆動する。可撓板57が上方位置Q1に配置されているとき、可撓板57の上端部57Aは、フィルム50をノズル形成面5に押圧する位置に配置されている。可撓板57が上方位置Q1に配置され、フィルム50をノズル形成面5に押圧している状態で、押圧機構54が、移動機構55により、図14(C)〜図14(E)に示すように右方に移動されると、フィルム23がノズル形成面5の左方から右方に向かって順に密着される。図14(E)に示すように、ノズル形成面5の左端から右端に亘ってフィルム50が密着された状態となったときに密着動作(S10)が完了する。
【0114】
密着動作(S10)が完了した後、制御部27は、図14(E)〜(F)に示すように、フィルム密着機構51が降下するように昇降機構62を動作させる。この時、制御部27は、可撓板57も下方位置Q2に配置させる。フィルム密着機構51が下方に移動すると、上側フィルム50Bがノズル形成面5から下方に離間する。すなわち、フィルム50がノズル形成面5に対して相対的に下方に移動する。フィルム50がノズル形成面5に密着している状態から離間させられることで、上述した図3で説明したように、ノズル8内の空気/インクがノズル開口7の外側に向かって移動し、ノズル8内に溜まっている増粘インクがヘッド2の外部に排出される。
【0115】
フィルム密着機構51の下降速度は、フィルム50が破断してしまわない範囲で速いことが好ましい。下降速度を速くすることで、ノズル8内からノズル開口7の外側に向かって流れる空気/インクの流速を速くすることができ、増粘インクSを排出する排出力を大きくすることができる。
【0116】
上述の密着動作において、フィルム50をノズル形成面5に押圧する可撓板57は、ノズル形成面5に対して相対的に左側から右方、すなわち一方から他方に向かって移動されている。このように、可撓板57がフィルム50をノズル形成面5に押圧する位置を、一方向に向かって移動させることで、フィルム50とノズル形成面5との間に入り込んだ空気を追い出しながら、フィルム50をノズル形成面5に密着させることができる。フィルム50とノズル形成面5との間の密着性を向上させることで、ノズル8内からノズル開口7の外側に向かって流れる空気/インクの流れをより確実に発生させることができ、インク排出動作の確実性を向上させることができる。
【0117】
インク排出機構49には、フィルム50の外周面にインク吸収材64が備えられている。インク吸収材64は、フィルム50の外周面に当接することができるように配置されている。ローラーモーター56を駆動してローラー53Aを回転することで、フィルム50をローラー53A〜53Dの周りを周回させることができる。したがって、フィルム50を周回させることで、ノズル形成面5に付着していたインクやノズル8から排出された増粘インクをインク吸収材64により吸収させることができる。
【0118】
本実施の形態のプリンター500においては、ノズル形成面5からのフィルム50の離間は、フィルム50をノズル形成面5から離間させているが、たとえば、キャリッジ3を上方に移動させることで、ノズル形成面5をフィルム50から離間させる構成とすることもできる。
【0119】
(変形例3)
次に、図15および図16を参照しながら本発明の第3の実施の形態に係るプリンター500の変形例であるプリンター600について説明する。図15は、プリンター600におけるインク排出機構65の動作状態を示す図であり、図15の第1段(A)から第7段(G)は、インク排出機構65の動作の流れを図示したものである。
【0120】
プリンター600において、プリンター500と同様な部材については、同一の符号を付し、その説明を省略または簡略化する。第3の実施の形態に係るプリンター500は、移動動作(図16のS20)において、フィルム50をノズル形成面5から離間させている。これに対し、変形例に係るプリンター600は、ノズル形成面5をフィルム50に対して一方から他方に移動させることで、ノズル8内にノズル開口7に向かう空気/インクの流れを発生させる構成である点で異なっている。つまり、プリンター500においては、フィルム移動機構52を昇降機構62により構成しているのに対し、プリンター600においては、キャリッジ移動機構4がフィルム移動機構66として構成されている。フィルム密着機構51については、プリンター500と同様の構成である。
【0121】
図15(A)〜(E)までの動作については、図16に示す密着動作(S110)に対応するものであり、図14(A)〜(E)と同様の動作であるので説明を省略する。図15(E)〜(G)に示す動作は、図16に示す移動動作(S120)に対応する。
【0122】
密着動作(S110)が完了した後、制御部27は、図15(E)に示すようにキャリッジ3が待機位置U1に向かって(右方に)移動するようにキャリッジモーター13を動作させる。キャリッジ3が右方に移動すると、ノズル形成面5は、ノズル形成面5に沿ってフィルム50に対して移動する。すなわち、フィルム50とノズル形成面5とはノズル形成面5に沿って相対的に互いに異なる方向に移動する。これにより、ノズル8内の空気/インクにノズル開口7に向かう流れが発生する。ヘッド2が移動し、ノズル開口7がフィルム50の右端の外側に外れ、ノズル開口7が開放されたときに、ノズル8内に溜まった増粘インクが排出される。
【0123】
上述の第3の実施の形態に係るプリンター500,600においては、押圧機構54および移動機構55は、フィルム55の下側に配置されている。これに対し、ローラー53C,53Dを設けないようにして、下側フィルム50Aと上側フィルム50Bとの間隔を広くし、また、ローラー53A,53Bの直径を大きくして、圧機構54および移動機構55を下側フィルム50Aと上側フィルム50Bとの間に配置する構成としてもよい。
【0124】
(変形例4)
ところで、上述の各実施の形態およびその変形例において、ワイパー19あるいは可撓板57は、フィルム23あるいはフィルム50をノズル形成面5に押圧したときに、図17に示すように、ノズル開口7に位置する部分において開口内に入り込むように変形する柔軟性(可塑性)を有していることが好ましい。フィルム23(フィルム50)をノズル形成面5に密着させる際、かかる柔軟性を有するワイパー19(可撓板57)を用いてフィルム23(フィルム50)をノズル形成面5に押圧すると、図17に示すように、ワイパー19(可撓板57)のノズル開口7に位置する部分が開口内に入り込み、フィルム23(フィルム50)をノズル開口7の内側に湾曲させることができる。ノズル開口7に位置する部分において開口内に湾曲した状態でノズル形成面5に密着しているフィルム23(フィルム50)を、ノズル形成面5から移動(ノズル形成面5に沿って移動あるいはノズル形成面5から離間)させると、ノズル開口7内に入り込んでいるフィルム23(フィルム50)がノズル開口7から出る際に、ノズル8のノズル開口7側に負圧が発生する。そのため、ノズル8内からノズル開口7に向かう空気/インクの流れが発生し易い状態となる。この空気/インクの流れにより、ノズル8に溜まっている増粘インクSをノズル開口7から外部により確実に排出させることができる。
【0125】
(変形例5)
したがって、図18に示すように、ヘッド2のノズル形成面5にノズル開口7よりも広い開口部67を有する凹部68を形成し、この凹部68内にノズル開口7を配置することが好ましい。図18の上段(A)は、ヘッド2をノズル形成面5の側から見た図である。図18の中段(B)は、図18(A)に示す切断線A−Aにおけるヘッド2の断面の概略の構成を示す図である。図18の下段(C)は、ワイパー19(可撓板57)が、フィルム23(フィルム50)を凹部68内に押し込みながらノズル形成面5に密着させていく状態を示す図である。本変形例に示すヘッド2においては、凹部68は、ワイパー19(可撓板57)の進行方向に直交する方向に配列されるノズル8(ノズル列8A)を内部に配置することができるように、該進行方向に直交する方向に長手方向が配列される凹条(溝形状)に形成されている。
【0126】
図18(C)に示すように、フィルム23(フィルム50)をノズル形成面5に密着させる際に、凹部68が形成されているノズル形成面5に対して、フィルム23(フィルム50)をワイパー19(可撓板57)で押圧すると、凹部68内にフィルム23(フィルム50)が入り込む。そして、凹部68に位置する部分において凹部68内に入り込んだ状態でノズル形成面5に密着しているフィルム23(フィルム50)を、ノズル形成面5から移動(ノズル形成面5に沿って移動あるいはノズル形成面5から離間)させると、凹部68内に入り込んでいるフィルム23(フィルム50)が凹部68から出る際に凹部68内が負圧になる。そのため、ノズル8内から凹部68に向かう空気/インクの流れが発生する。これにより、ノズル8に溜まっている増粘インクSがノズル開口7から外部に排出される。
【0127】
凹部68の開口部67は、ノズル開口7よりも広い。そのため、フィルム23(フィルム50)がノズル開口7内に入り込む容積よりも、フィルム23(フィルム50)が凹部68内に入り込む容積の方が大きい。したがって、フィルム23(フィルム50)がノズル形成面5に対して移動する際に、フィルム23(フィルム50)がノズル開口7内だけに入り込んでいる場合に比べて、フィルム23(フィルム50)が凹部68内に入り込んでいる場合の方が、ノズル8内から凹部68に向かう空気/インクの流れの量を多くすることができる。これにより、ノズル8に溜まっている増粘インクSをノズル開口7から外部により一層確実に排出させることができる。
【0128】
凹部68の左右方向、すなわち、ワイパー19(可撓板57)の移動方向に沿う方向における内側面は、図18に示すように、ノズル開口7の側からノズル形成面5に向かって開口幅が広がる方向に傾斜する傾斜面69と傾斜面70として形成されている。上記内側面を傾斜面69と傾斜面70にて形成することで、フィルム23(フィルム50)が傾斜面69と傾斜面70に密着するため、フィルム23(フィルム50)が凹部68内に入り込み易くなる。また、凹部68の左右方向に加えて、凹部68の内側の全側面について、ノズル開口7の側からノズル形成面5に向かって開口幅が広がる方向に傾斜する傾斜面とすることで、フィルム23(フィルム50)が凹部68内により入り込み易くなる。また、図18(A)に示すように、凹部68の左右方向の内側面と前後方向の内側面との繋がり部71については、円弧状とすることで、繋がり部71においてもフィルム23(フィルム50)を密着させることができ、フィルム23(フィルム50)のノズル形成面5に対する密着性を向上させることができる。
【0129】
図18(B)に示すにように、傾斜面69のノズル形成面5に対する傾斜角69Aと、傾斜面70のノズル形成面5に対する傾斜角70Aは、傾斜角69A>傾斜角70Aとされている。傾斜面70は、凹部68内に入ったワイパー19(可撓板57)の上端部19A(57A)が凹部68から脱出する側の面である。すなわち、傾斜面70は、ワイパー19(可撓板57)の移動方向後方に配置される。傾斜角70Aを小さくすることで、ワイパー19(可撓板57)の上端部19A(57A)が、凹部68からノズル形成面5側に脱出する際に、ノズル8内の空気/インクをノズル形成面5側に追い出し易くなる。つまり、フィルム23(フィルム50)をノズル8内に入り込ませるために、フィルム23(フィルム50)がノズル8内に入り込む容積分の空気/インクをノズル8の外に追い出す必要があるが、傾斜角70Aを小さくすることで、ノズル8内の空気/インクをノズル形成面5側に追い出し易くなる。したがって、フィルム23(フィルム50)を凹部68内に入り込ませ易くすることができる。
【0130】
そして、傾斜角69A>傾斜角70Aとすることで、隣接する凹部68の傾斜面69と傾斜面70とが接触しない範囲で、傾斜角70Aをより小さくした傾斜面70を形成することができる。
【0131】
ワイパー19(可撓板57)は、ノズル形成面5との接触部が、図19の上段(A)、中段(B)、下段(C)に示す形状となるように構成してもよい。すなわち、ワイパー19(可撓板57)は、ノズル形成面5との接触部において、ノズル形成面5に沿い、かつ、ワイパー19(可撓板57)の移動方向に対して直交する方向であって、この移動方向の前方側において、互いに向かう方向に傾斜する内向部を有しない方向に傾斜する傾斜部分71を有している。そして、ワイパー19(可撓板57)の移動方向における傾斜部分71の幅W1は、凹部68の幅W2(図18参照)よりも狭く設定されている。ワイパー19(可撓板57)は、フィルム23(フィルム50)をノズル形成面5に対して押圧しているときのフィルム23(フィルム50)との接触部が、図19の上段(A)、中段(B)、下段(C)に示すように、傾斜部71を有する形状に構成してもよい。傾斜部71は、ノズル形成面5に沿い、かつ、ワイパー19(可撓板57)の移動方向に沿う方向に対して傾斜する傾斜部であるが、移動方向の前方側において内向部を有していない。そして、ワイパー19(可撓板57)の移動方向における傾斜部分71の幅W1は、凹部68の幅W2(図18参照)よりも狭く設定されている。
【0132】
傾斜部分71の幅W1を、凹部68の幅W2よりも狭く設定することで、ワイパー19(可撓板57)のノズル形成面5との接触部が、凹部68内に入り込み易くなり、フィルム23(フィルム50)を凹部68内に入り込ませ易くすることができる。
【0133】
また、ワイパー19(可撓板57)のノズル形成面5との接触部が内向部を有しない方向に傾斜する傾斜部分71とされることにより、ワイパー19(可撓板57)の移動によって押し出される凹部68内の空気が、凹部68の外側に押し出され易くなる。そのため、フィルム23(フィルム50)を凹部68内に入り込ませ易くすることができる。
【0134】
これに対し、図20に示すように、ワイパー19(可撓板57)のノズル形成面5との接触部である傾斜部分72が、互いに向かう方向に傾斜する内向部73を有する場合には、傾斜部分72の交差部分74の側に空気が集められ易い。そのため、凹部68内の空気が排出されず、フィルム23(フィルム50)を凹部68内に入り込ませ難くなる。
【0135】
図21に示すように、フィルム23(フィルム50)には、凹部68に対応する位置に凹部68に嵌合する凸部75を形成してもよい。フィルム23(フィルム50)に凸部75を形成することで、凹部68内により確実にフィルム23(フィルム50)を入り込ませることができる。そのため、ノズル形成面5に密着したフィルム23(フィルム50)をノズル形成面5から離間させて移動する際に、ノズル8に溜まっている増粘インクSをノズル開口7から外部により一層確実に排出させることができる。
【0136】
図22に示すように、押圧機構を、周面に突起部76を有し、ノズル形成面5に対して転回することができるローラー77を、ワイパー19あるいは可撓板57の換わりに押圧部材として備えることとしてもよい。突起部76は、凹部68の配列ピッチに対応して配置され、ローラー77がノズル形成面5に対して転回したときに、凹部68に入り込むことができるように配置されている。ローラー77をノズル形成面5に転回すると、ローラー77がノズル形成面5と接触する部分に配置される突起部76が凹部68に入り込む。そのため、フィルム23(フィルム50)を凹部68に確実に入り込ませることができる。したがって、ノズル形成面5に密着したフィルム23(フィルム50)をノズル形成面5から離間させて移動する際に、ノズル8に溜まっている増粘インクSをノズル開口7から外部により一層確実に排出させることができる。
【0137】
また、ローラー77に換えて、図23に示すように、凹部68の配列ピッチに対応して形成される突起部78を有する押圧板79を、可撓板57の換わりに押圧部材として用いて、フィルム50をノズル形成面5に密着させるようにすることもできる。この場合には、可撓板57を左右に移動させる移動機構55に換えて、押圧板79をノズル形成面5に接離することができる昇降機構を設ける。そして、インク排出動作時に、押圧板79の突起部78と凹部68とを位置合わせした状態で、押圧板79をノズル形成面5に向けて上昇させ、フィルム50をノズル形成面に押圧する。これにより、突起部78がフィルム50を凹部68内に押し込む。突起部78が凹部68内にフィルム23を押し込むため、確実にフィルムを凹部68内に押し込むことができる。
【0138】
なお、上述の各実施の形態およびその変形例におけるプリンターの概念には、インク以外の他の液体(液体そのものや、機能材料の粒子が液体に分散又は混合されてなる液状体、ゲルのような流動性を有する材質を含む)を噴射したりする流体噴射装置を含むようにすることもできる。そのようなものとしては、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ及び面発光ディスプレイの製造などに用いられる電極材や色材(画素材料)などの材料を分散または溶解のかたちで含む液体を噴射する液状体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する流体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する流体噴射装置等がある。
【0139】
さらに、本発明の流体噴射装置の概念に含まれるものとしては、プリンターの他、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する流体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する流体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する流体噴射装置、ゲル(例えば物理ゲル)などの流状体を噴射する流状体噴射装置等がある。
【符号の説明】
【0140】
2 … インク噴射ヘッド(流体噴射ヘッド) 5 … ノズル形成面 7 … ノズル開口 19 … ワイパー(押圧部材) 23,50 … フィルム 24,44,51 … フィルム密着機構 25,41,45,52,66 … フィルム移動機構 33,43 … フィルム収納機構 50 … 可撓板(押圧部材) 53A,53B … ローラー 64 … インク吸収材 67 … 開口部 68 … 凹部 69,70 … 傾斜面 69A,70A … 傾斜角 71 … 傾斜部分 78 … 凸部 100,200,300,400,500,600 … プリンター(流体噴射装置)
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流体噴射装置は、流体を噴射する流体噴射ヘッドを備え、この流体噴射ヘッドから被記録媒体等に流体を噴射する。かかる流体噴射装置は、流体噴射ヘッドに設けられるノズルから流体を噴射する構成となっているが、ノズルから流体が噴射されない状態が続くと、ノズル内に残留している流体が増粘することがある。ノズル内に増粘した流体があると、流体の適正な噴射を行えなくなる虞がある。そのため、流体噴射装置には、特許文献1,2に開示されるように、ノズル内に溜まった増粘インクの排出を行うためのメンテナンス機構が備えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−58303号
【特許文献2】実開平5−88945号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、流体噴射装置には、装置の小型化が求められ、また、メンテナンス時には、インクの不必要な排出を抑えることが求められる。そこで、本発明においては、装置の小型化あるいはインクの不必要な排出の低減を図ることが可能な流体噴射装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、流体噴射装置は、流体を噴射する流体噴射ヘッドと、流体噴射ヘッドのノズル形成面に密着可能なフィルムと、フィルムをノズル形成面に密着させ、ノズル開口を封止するフィルム密着機構と、ノズル形成面に密着されたフィルムと、ノズル形成面とを、互いに異なる方向に相対的に移動させるフィルム移動機構とを備えることとする。
【0006】
流体噴射装置をこのように構成することで、フィルムがノズル形成面に密着された状態で、フィルムとノズル形成面とを互いに異なる方向に相対的に移動させることで、ノズルの内部から開口方向に向かって空気の流れを発生させることができる。この空気の流れによりノズル内のインクをノズル外に排出することができる。つまり、吸引ポンプを用いることなくノズル内のインクを排出することができる。したがって、流体噴射装置の小型化が可能となる。また、たとえば、吸引ポンプを使用してノズル内のインクを排出する場合に比べて、インクの排出量を少なくすることができるので、インクの不必要な排出の低減を図ることができる。
【0007】
上記発明に加えて、上述のフィルム密着機構は、フィルムをノズル形成面に押圧する押圧部材を有し、押圧部材がフィルムをノズル形成面に対して押圧している状態で、ノズル形成面と押圧部材とをノズル形成面に沿って一方から他方に相対的に移動することにより、フィルムをノズル形成面に密着させることとする。
【0008】
流体噴射装置をこのように構成することで、押圧部材がノズル形成面の一方から他方に移動するため、フィルムとノズル形成面との間の空気を排出させ易くなり、フィルムとノズル形成面との密着性を高くすることができる。
【0009】
上記発明に加えて、上述の流体噴射ヘッドは、ノズル形成面にノズル開口よりも広い開口部を有する凹部が形成され、ノズル開口は、凹部内に配置されていることとする。
【0010】
流体噴射装置をこのように構成することで、凹部内にフィルムを入り込ませた状態で、フィルムをノズル形成面に密着させることができる。凹部内にフィルムが入り込んだ状態でフィルムをノズル形成面に対して移動させると、凹部内に体積変動を発生させることができる。この体積変動によりノズルの内部から開口方向に向かって発生する空気の流れ量を多くすることができる。そのため、ノズル内のインクをよりノズル外に排出させやすくすることができる。
【0011】
上記発明に加えて、上述のフィルムは、凹部に嵌合する凸部が形成されていることとする。
【0012】
流体噴射装置をこのように構成することで、凹部内により確実にフィルムを入り込ませることができる。そのため、ノズル形成面に密着したフィルムをノズル形成面から離間させて移動する際に、ノズルに溜まっている増粘インクをノズル開口から外部により一層確実に排出させることができる。
【0013】
上記発明に加えて、上述の凹部の押圧部材の移動方向に沿う方向の前後に配置される内側面は、ノズル開口の側からノズル形成面に向かって開口幅が広がる方向に傾斜する傾斜面に形成され、移動方向の前方に配置される傾斜面は、移動方向の後方に配置される傾斜面に比べて傾斜角が小さいこととする。
【0014】
流体噴射装置をこのように構成することで、押圧部材が、凹部からノズル形成面側に脱出する際に、ノズル内の空気/インクをノズル形成面側に追い出し易くなる。したがって、フィルムを凹部内に入り込ませ易くすることができる。
【0015】
上記発明に加えて、押圧部材がフィルムをノズル形成面に対して押圧しているときのフィルムとの接触部は、ノズル形成面に沿い、かつ、移動方向に沿う方向に対して傾斜する傾斜部を有し、この傾斜部は、移動方向の前方側において内向部を有しない方向に傾斜する傾斜部であり、傾斜部の移動方向における幅は、凹部の移動方向における幅よりも狭いこととする。
【0016】
流体噴射装置をこのように構成した場合には、傾斜部分の移動方向における幅が、凹部の移動方向における幅よりも狭いため、押圧部材のノズル形成面との接触部が、凹部内に入り込み易くなり、フィルムを凹部内に入り込ませ易くすることができる。また、押圧部材のノズル形成面との接触部が内向部を有しない方向に傾斜する傾斜部分とされることにより、押圧部材の移動によって押し出される凹部内の空気が、凹部の外側に押し出され易くなる。
【0017】
上記発明に加えて、上述の流体噴射装置は、フィルムを巻回された状態で収納することができると共に、巻回された状態から展開されたフィルムを巻き取り収納することができるフィルム収納機構を備えていることとする。
【0018】
流体噴射装置をこのように構成した場合には、フィルムの収納スペースを小さなものとすることができる。
【0019】
上記発明に加えて、上述の流体噴射装置は、フィルムが、ノズル形成面に沿って、ローラーに支持されて張り渡される無端ベルトの形状であり、ローラーは回転駆動可能であり、さらに、フィルムに接触するインク吸収材が備えられていることとする。
【0020】
流体噴射装置をこのように構成した場合には、ローラーを回転駆動し、フィルムを周回することで、フィルムの周囲に付着したインクをインク吸収材により払拭することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態に係るインクジェットプリンターの外観を示す斜視図である。
【図2】インクジェットプリンターの電気的構成を示すブロック図である。
【図3】ノズル内の増粘インクが排出される原理を示す図である。
【図4】ノズル内の増粘インクが排出される原理を示す図である。
【図5】インク排出機構の概略の構成を示す図である。
【図6】インク排出動作の流れを示す図である。
【図7】インク排出動作の流れを示す図である。
【図8】インク排出機構の概略の構成を示す図である。
【図9】インク排出動作の流れを示す図である。
【図10】インク排出動作の流れを示す図である。
【図11】インク排出動作を示すフローチャートである。
【図12】本発明の実施の形態に係るインクジェットプリンターの外観を示す斜視図である。
【図13】インク排出機構の概略の構成を示す図である。
【図14】インク排出動作の流れを示す図である。
【図15】インク排出動作の流れを示す図である。
【図16】インク排出動作を示すフローチャートである。
【図17】ノズル内にワイパーの一部が入り込んだ状態を示す図である。
【図18】ノズル形成面に凹部を形成したときの構成を示す図である。
【図19】ワイパー(可撓板)の形状を示す図である。
【図20】ワイパー(可撓板)の形状を示す図である。
【図21】フィルムの構成を示す図である。
【図22】ローラーの構成を示す図である。
【図23】押圧板の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の第1の実施の形態に係る流体噴射装置としてのインクジェットプリンター(以下、単に、プリンターと記載する。)100について説明をする。 図1は、プリンター100の全体的な概略の構成を示す斜視図である。図2は、図1に示すプリンター100の概略の構成を示すブロック図である。以下の説明において、図1に図中矢印Xで示す方向を、記録用紙Pの搬送方向(副走査方向)である前方(前側)とし、また、図1中矢印Yで示す方向をプリンター100の設置面の方向である下方(下側)として説明を行う。そして、前方から後方を見たときの左手側を左方(左側)とし、右手側を右方(右側)として説明を行う。
【0023】
(プリンター100の全体構成)
図1に示すように、プリンター100は、外装筐体1を有し、この外装筐体1の内部に、流体噴射ヘッドとしてのインク噴射ヘッド(以下、単に、ヘッドと記載する。)2と、このヘッド2が搭載されるキャリッジ3と、キャリッジ3を左右に移動させるキャリッジ移動機構4と、ヘッド2のノズル形成面5の拭き取り等を行うメンテナンス機構6等を備える。
【0024】
ヘッド2は、図示を省略するインクタンクから流体としてのインクの供給を得て、ノズル開口7(図3、4等参照)からインク滴を噴射することができるように構成されている。ヘッド2としては、たとえば、ヘッド2内に設けられるインク室に充填されたインクを、ピエゾ素子の振動によりノズル8(図3、4等参照)を介してノズル開口7から噴射させることができる、いわゆるピエゾ型のヘッドを用いることができる。
【0025】
キャリッジ移動機構4は、ガイド部材9と、アイドルプーリー10と、駆動プーリー11と、タイミングベルト12と、キャリッジモーター13等を有している。ガイド部材9は、外装筐体1の内部に、ガイド方向を主走査方向(本実施の形態においては左右方向)に向けて配置されている。キャリッジ3は、ガイド部材9のガイドを受けて左右方向に移動することができるように、ガイド部材9に取り付けられている。アイドルプーリー10と駆動プーリー11とは、ガイド部材9のガイド方向と平行な方向に配置されている。
【0026】
タイミングベルト12は、アイドルプーリー10と駆動プーリー11とに掛け渡されている。駆動プーリー11は、キャリッジモーター13により左右に往復回転させられる。したがって、タイミングベルト12は、駆動プーリー11の回転に従って左右方向に往復回転させられる。キャリッジ3は、タイミングベルト12の一部に結合されている。したがって、タイミングベルト12が左右方向に往復回転すると、キャリッジ3もタイミングベルト12と共に左右方向(主走査方向)に往復移動する。
【0027】
タイミングベルト12の下方には、記録用紙Pを後方から前方に向かって(副走査方向に)搬送するための搬送ローラー14が配設されている。搬送ローラー14は、搬送モーター15により回転させられる。また、搬送ローラー14の前方には、搬送ローラー14の回転によって搬送される記録用紙Pの下側を支持するプラテン16が配設されている。
【0028】
ヘッド2は、ノズル形成面5を記録用紙Pに対向させる姿勢で配置されている。そして、ヘッド2は、キャリッジ3と共に左右方向(主走査方向)に往復移動しながら、後方から前方に向かって(副走査方向に)搬送される記録用紙Pに対してインク滴を噴射する。インク滴の噴射は、パソコンPC(図2参照)等から送られる画像データ等に基づいて行われ、記録用紙Pには、画像データ等に基づく所望の画像が記録される。なお、ヘッド2が記録用紙Pに記録を行う際におけるヘッド2の左右方向への往復移動は、記録用紙Pの左右幅に対応した幅を有する記録領域A1で行われる。
【0029】
一方、記録を行っている間にノズル形成面5がインクや紙粉等で汚れたり、ノズル内のインクが増粘したとき、あるいは一定量の記録を行った後等の所定のタイミングで、ヘッド2は、記録領域A1の左側に設定されている非記録領域A2に移動させられる。非記録領域A2には、メンテナンス機構6が配置されている。プリンター100は、非記録領域A2に移動されたヘッド2のノズル形成面5に対して、メンテナンス機構6により、メンテナンスを行うメンテナンス動作を行うことができるように構成されている。メンテナンス動作においては、ノズル形成面5の拭き取りを行うノズル形成面払拭動作およびノズル8内のインクを吸引し排出させるインク排出動作を実行することができる。
【0030】
(メンテナンス機構6の構成)
メンテナンス機構6は、ヘッド2が非記録領域A2に移動したときに、ヘッド2の下方となる位置に配置され、ノズル形成面5の拭き取りを行うワイピング機構17と、ノズル内のインクを排出するインク排出機構18とを備えている。
【0031】
(ワイピング機構17)
ワイピング機構17は、ワイパー19と、ワイパー19が取り付けられる支持台20と、支持台20を上下に昇降させる昇降機構21等を備えている。昇降機構21は、たとえば、上下方向に軸方向が配置される図示を省略するリードスクリューと、このリードスクリューにねじ結合されると共に支持台20に連結される図示を省略するナットと、リードスクリューを回転させる図示を省略する支持台昇降モーター22(図2参照)等から構成することができる。支持台昇降モーター22によりリードスクリューを回転させると、ナットがリードスクリューにガイドされ、リードスクリューの回転方向に応じて上下に移動する。つまり、ナットに連結される支持台20が上下に移動する。支持台20が上下に移動することで、ワイパー19は上方位置と下方位置とに昇降することができる。
【0032】
昇降機構21によって支持台20が昇降することで、ワイパー19は、ワイパー19の上端部19Aがノズル形成面5に当接する上方位置と、上端部19Aがノズル形成面5から離間する下方位置とに移動することができる。そして、ワイパー19が上方位置に配置されている状態で、キャリッジ移動機構4を駆動し、ヘッド2を左(右)から右(左)に移動させることで、ノズル形成面5の払拭が行われる。
【0033】
(インク排出機構18)
インク排出機構18は、後述するように、ノズル形成面5に密着させられるフィルム23(図5等参照)と、フィルム23をノズル形成面5に密着させノズル開口を封止するフィルム密着機構24と、ノズル形成面5に密着されたフィルム23とノズル形成面5とを相対的に互いに異なる方向に移動させるフィルム移動機構25等を備える。インク排出機構18は、フィルム23をノズル形成面5に密着させノズル開口7を封止している状態で、ノズル形成面5とフィルム23とを相対的に互いに異なる方向に移動することで、ノズル8内の空気あるいはインク(空気/インク)に、ノズル開口7に向かう流れを発生させ、ノズル8内に溜まっているインクをノズル外に排出させることができるように構成されている。
【0034】
(電気的構成)
次に、図2を参照しながら図1に示すプリンター100の電気的な構成の概略を説明する。
【0035】
図2において、プリンター100は、パソコンPCから入力された画像データ等を受け取るインターフェイス26と、制御部27と、ヘッド2と、ヘッド2を駆動するためのヘッドドライバー2Aと、キャリッジモーター13と、搬送モーター15と、支持台昇降モーター22と、その他のモーターを駆動するための各種のモータードライバーを備えるモータードライバー28等を備える。
【0036】
制御部27は、記録開始信号、インク排出動作開始信号あるいは画像データー等に基づいて、ヘッド2、搬送モーター15、キャリッジモーター13、支持台昇降モーター22等の駆動の他、プリンター100の様々な動作制御を司る機能を有し、CPU(Central Processing Unit)29あるいはマイクロコンピュータ等により構成される。また、制御部27には、プリンター100の各種動作に係る処理プログラム等が記憶されているPROM(Programmable Read−Only Memory)30と、パソコンPCからインターフェイス26を介して入力される画像データ等を格納・記憶したり、作業用のメモリとして機能するRAM(Random Access Memory)31と、プリンター100に関する諸情報を記憶するEEPROM(Electrically Erasable Read−Only Memory)32等を備える。
【0037】
(インク排出動作)
次に、図面を参照しながら、プリンター100に備えられるインク排出機構18とその動作について説明する。
【0038】
(動作原理)
先ず、図3、図4を参照しながら、ヘッド2のノズル8内に溜まった増粘したインク(増粘インクS)をノズル8の外に排出するインク排出動作の原理について説明する。図3は、フィルム23とノズル形成面5とを互いに離間させる方向に移動させることで、ノズル開口7をフィルム23による封止から開放させ、ノズル8内に溜まった増粘インクSを排出させる原理を示す図である。ノズル形成面5に密着されたフィルム23と、ノズル形成面5とが、相対的に互いに異なる方向に移動する方向として、フィルム23とノズル形成面5とは、互いに相対的に離間させる方向に移動されている。
【0039】
図4は、フィルム23とノズル形成面5とをノズル形成面5に沿って互いに異なる方向に移動することで、ノズル開口7をフィルム23による封止から開放させ、ノズル8内に溜まった増粘インクSを排出させる原理を示す図である。ノズル形成面5に密着されたフィルム23と、ノズル形成面5とが、相対的に互いに異なる方向に移動する方向として、フィルム23とノズル形成面5とは、ノズル形成面5に沿って互いに相対的に異なる方向に移動されている。
【0040】
図3の上段(A)は、ヘッド2の断面を概略的に示した図であり、ノズル8内に増粘インクSが溜まっている状態を示している。図3(A)に示すヘッド2のノズル形成面5に対して、図3の中段(B)に示すようにノズル開口7を封止するようにフィルム23を密着させる。なお、フィルム23としては、シリコーンゴムやエチレンプロピレンゴム(EPDM)等のゴム材やエラストマ材により形成される弾性および可撓性を有するフィルムを使用できる他、弾性を有しなくても、PE(ポリエチレン)やPET(ポリエチレンテレフタラート)から形成される柔軟性を有するフィルムを使用できる。
【0041】
そして、図3の下段(C)に示すように、ノズル形成面5に密着しているフィルム23を下方に向かって移動(離間)する。すなわち、ノズル形成面5に密着しているフィルム23を下方に向かってノズル形成面5から剥がす。ノズル形成面5に密着されているフィルム23がノズル形成面5から下方に剥がされると、ノズル8内の空気/インクは、その粘性あるいは表面張力により、フィルム23の移動に引っ張られてノズル8内からノズル開口7の外側に向かって移動する。上述のようにノズル形成面5に密着しているフィルム23をノズル形成面5から移動(離間)することで、ノズル8内の空気/インクにノズル開口7の外側に向かう流れが発生し、ノズル8内に溜まった増粘インクSがノズル8外に排出させられると考えられる。
【0042】
図4の第1段(A)は、図3(A)と同様の図である。また、図4の第2段(B)も、図3(B)と同様の図であり、ノズル開口7を封止するようにフィルム23がノズル形成面5に密着している状態が示されている。そして、図4の第3段(C)と第4段(D)に示すように、ノズル形成面5に密着されている状態のフィルム23をノズル形成面5に沿って一方向に移動させる。図4の第3段(C)に示すように、フィルム23がノズル形成面5に沿って移動することで、ノズル8内の空気/インクには、その粘性あるいは表面張力により、フィルム23の移動に引っ張られてフィルム23の移動方向に移動しようとする力が作用する。
【0043】
そして、図4の第4段(D)に示すように、ノズル8内の空気/インクにフィルム23の移動方向に移動しようとする力が作用している状態で、フィルム23によって封止されているノズル開口7が開放されると、ノズル8内の空気/インクは、ノズル8内からノズル開口7の外側に向かって流れる。上述のようにノズル形成面5に密着しているフィルム23をノズル形成面5から沿って移動することで、ノズル8内の空気/インクにノズル開口7の外側に向かう流れが発生し、ノズル8内に溜まった増粘インクSがノズル8外に排出させられると考えられる。
【0044】
(インク排出機構18)
次に、図5、図6および図11等を参照しながら本発明の第1の実施の形態に係るプリンター100におけるインク排出機構18の構成とその動作ついて説明する。図5は、プリンター100におけるインク排出機構18の概略の構成を示す図である。図6は、インク排出機構18の動作状態を示す図であり、図6の第1段(A)〜第7段(G)は、インク排出機構18の動作の流れを図示したものである。図11は、インク排出動作の示すフローチャートである。
【0045】
図5に示すように、インク排出機構18は、フィルム23と、フィルム収納機構33と、フィルム密着機構24と、フィルム移動機構25等を備えている。
【0046】
(フィルム収納機構33)
フィルム収納機構33は、フィルム23が巻回される軸体34と、軸体34をフィルム23の巻取り方向(図5において反時計周り)に回転させる付勢機構35とを備えている。軸体34および付勢機構35は、筐体36内に収納されている。なお、フィルム23は、後述するように、ノズル形成面5にフィルム23を密着させたとき、ノズル形成面5に形成されている全てのノズル開口7をフィルム23により封止することができる前後方向の幅と左右方向の長さを有する帯状を呈している。
【0047】
軸体34に巻回されたフィルム23の先端を引っ張ると、フィルム23は軸体34から解かれ(展開され)筐体36の外に引き出される。フィルム23が軸体34から解かれるように引き出されると、軸体34はフィルム23が引き出される方向に回転する。この回転により付勢機構35には、軸体34をフィルム23の巻取り方向に回転させる付勢力が蓄積される。付勢機構35には、たとえば、軸体34の回転により蓄勢されるゼンマイばねを用いることができる。
【0048】
フィルム23を筐体36から引き出した後、フィルム23を引く力を解除すると、付勢機構35に蓄勢された付勢力により、軸体34がフィルム23の巻取り方向に回転する。これにより、フィルム収納機構33から引き出されたフィルム23は、軸体34に自動的に巻き取られる。つまり、フィルム収納機構33はフィルム自動巻取り機構を備えている。筐体36内には、フィルム23に付着した廃インクを払拭するインク吸収材37が設けられている。本実施の形態では、フィルム収納機構33は、キャリッジ3に対して取り付けられ、キャリッジ3と一体に移動する。
【0049】
(フィルム密着機構24)
フィルム密着機構24は、押圧機構としてのワイピング機構17とキャリッジ移動機構4とを有して構成されている。ワイピング機構17には、フィルム23の先端に設けられるフック38と係合することができるフック留め39が設けられている。
【0050】
(フィルム移動機構25)
フィルム移動機構25は、ワイピング機構17に備えられる昇降機構21により構成されている。昇降機構21は、支持台20を、上方位置T1(図6(A)参照)と下方位置T2(図6(E)参照)とに昇降することができる。上方位置T1は、ワイパー19がノズル形成面5の下側に配置されたときに、ノズル形成面5に当接することができる位置である。下方位置T2は、ノズル形成面5に密着されたフィルム23を、ノズル形成面5から離間することができる位置である。
【0051】
(インク排出動作)
インク排出動作について図6および図11を参照しながら説明する。
【0052】
インク排出動作は、図11に示すように、フィルム23をフィルム収納機構33から引き出しノズル形成面5に密着させる密着動作(S10)と、ノズル形成面5とノズル形成面5に密着されたフィルム23とを相対的に異なる方向に移動させる移動動作(S20)と、引き出されたフィルム23をフィルム収納機構33に収容する収納動作(S30)とを有する。図6(A)〜(D)に示す動作が、図11に示す密着動作(S10)に対応し、図6(D)〜(E)に示す動作が、図11に示す移動動作(S20)に対応する。そして、図6(E)〜(G)に示す動作が、図11に示すフィルム収納動作(S30)に対応する。
【0053】
ヘッド2は、プリンター100のインク排出動作の開始時においては、図6(A)に示す待機位置U1に配置されている。プリンター100のインク排出動作が実行されると、ヘッド2は、待機位置U1の左方に設定される非記録領域A2に向けて移動を開始する。なお、プリンター100の記録動作が実行される場合には、ヘッド2は、待機位置U1の右方に設定される記録領域A1において所定の移動を行う。
【0054】
インク排出動作の実行は、たとえば、ユーザーが、記録用紙Pへの記録状態を見て、インク排出動作を行うことが必要性であると判断し、インク排出動作の実行の指示を制御部27に対して与えることで開始される。また、プリンター100は、記録動作を所定時間継続して行った場合等の所定のタイミングで、自動的にインク排出動作を開始する構成とされていてもよい。
【0055】
ユーザーの指示、あるいは所定のタイミングでインク排出動作が開始されると、図6(A)〜(D)に示すように、制御部27は、キャリッジ3が左方に移動するようにキャリッジモーター13を駆動する。
【0056】
ヘッド2が待機位置U1に配置されているとき、フィルム23は、フック38を筐体36の下面36Aよりも下方に垂らした状態で筐体36内に収容されている。また、支持台20は上方位置T1に配置されている。この状態で、キャリッジ3が待機位置U1から左方に移動されると、フック留め39にフック38が係合する(図6(B)参照)。フック留め39にフック38が係合した状態で、更にキャリッジ3が左方に移動されると、フィルム23は、フィルム収納機構33から引き出されながらヘッド2のノズル形成面5の下側に配置される。
【0057】
フック留め39の左方、すなわちキャリッジ3の移動方向には、ワイパー19が配置されている。支持台20が上方位置T1に配置されている状態で、キャリッジ3が左方に移動すると、ワイパー19の先端部19Aはノズル形成面5に対して接触することができる。そのため、ノズル形成面5の下側にフィルム23が配置された状態で、キャリッジ3が左方に移動すると、フィルム23は、ワイパー19によりノズル形成面5に押圧されノズル形成面5に密着させられる。つまり、ワイパー19は、フィルム23をノズル形成面5に押圧する押圧部材として機能する。ノズル形成面5にフィルム23が押圧された状態で、キャリッジ3が図6(B)〜(D)に示すように移動することで、フィルム23がノズル形成面5の左方から右方に向かって順に密着させられていく。図6(D)に示すように、ノズル形成面5の左端から右端に亘ってフィルム23が密着された状態となったときに密着動作(S10)が完了する。
【0058】
上述のように、ノズル形成面5の下側に配置されたフィルム23を、ワイパー19によりノズル形成面5に押圧することで、フィルム23はノズル形成面5に密着させられる。支持台20の上方位置T1は、上述の押圧が確実に行われるように、ワイパー19によりノズル形成面5を払拭するときよりも上方にワイパー19が配置させるように設定することが好ましい。
【0059】
密着動作(S10)が完了した後、制御部27は、図6(D)〜(E)に示すように、支持台20が、下方位置T2に降下するように昇降機構21を動作させる。支持台20が下方に移動すると、フック留め39も一体に下降する。そのため、図6(E)に示すように、フィルム23の右端が下方に引かれ、フィルム23のノズル形成面5との密着部分がノズル形成面5から下方に離間する。すなわち、フィルム23のノズル形成面5に密着している部分がノズル形成面5に対して相対的に下方に移動する。フィルム23がノズル形成面5に密着している状態から離間させられることで、上述した図3で説明したように、ノズル8内の空気/インクがノズル開口7の外側に向かって移動し、ノズル8内に溜まっている増粘インクがヘッド2の外部に排出される。
【0060】
支持台20の下降速度は、フィルム23が破断したり、フック38がフック留め39から外れてしまわない範囲内で速くすることが好ましい。下降速度を速くすることで、ノズル8内からノズル開口7の外側に向かって流れる空気/インクの流速を速くすることができ、増粘インクSを排出する排出力を大きくすることができる。
【0061】
上述の密着動作において、フィルム23をノズル形成面5に押圧するワイパー19は、ノズル形成面5に対して相対的に左側から右側に、すなわち一方から他方に向かって移動されている。このように、ワイパー19がフィルム23をノズル形成面5に押圧する位置を、一の方向に移動させることで、フィルム23とノズル形成面5との間に入り込んだ空気を追い出しながら、フィルム23をノズル形成面5に密着させることができる。フィルム23とノズル形成面5との間の密着性を向上させることで、ノズル8内からノズル開口7の外側に向かって流れる空気/インクの流れをより確実に発生させることができ、インク排出動作の確実性を向上させることができる。
【0062】
支持台20が下方に移動された後、制御部27は、図6(F)に示すように、キャリッジ3を右方に移動し待機位置U1に配置させる。キャリッジ3が図6(E)に示す左端位置U2から右方に移動するに連れて、フィルム収納機構33とワイピング機構17との間の距離が短くなっていくため、フィルム23に弛みが発生する。しかしながら、この弛み分は、順次、フィルム収納機構33の軸体34に巻き取られる。つまり、図6(E)〜(F)に示すように、キャリッジ3が左端位置U2から右方の待機位置U1に向かって移動するに連れて、フィルム23は、フィルム収納機構33の軸体34に巻き取られる。キャリッジ3の移動と共にフィルム23をフィルム収納機構33の軸体34に巻き取らせることで、フック38がフック留め39を外れて勢いよくフィルム23がフィルム収納機構33に巻き取られる場合に比べて、フィルム23についた廃インクの跳ね跳びや、フィルム23が他の部材に衝突する等の不都合の発生を抑えることができる。
【0063】
キャリッジ3が図6(E)に示す左端位置U2から待機位置U1に向かって移動する間に、フック38は、フック留め39から外れる。フック留め39からフック38が外れた後は、キャリッジ3の移動に関係なく、フィルム23は、フィルム収納機構33の軸体34に巻き取られる。
【0064】
図6(G)に示すように、キャリッジ3が待機位置U1に配置された状態で、支持台20を上方位置T1に移動し、一連のインク排出動作が完了する。フィルム収納機構33の筐体36内には、インク吸収材37が備えられている。インク吸収材37は、フィルム23の上側の面(ノズル形成面5に密着していた側の面)に当接することができるように配置されている。フィルム23には、ノズル形成面5に付着していたインクやノズル8から排出された増粘インクが付着している。したがって、インク吸収材37は、フィルム23が軸体34に巻回される際に、フィルム23に付着しているインクを吸収することができる。
【0065】
また、軸体34に巻回されたフィルム23の最外周のフィルム23の外周に重ねて巻かれるフィルム23には、付勢機構35によるテンションが懸っている。したがって、軸体34に巻回されるフィルム23は、軸体34に巻回されているフィルム23の最外周のフィルム23に対して密着させられながら巻き取られる。つまり、巻き取られるフィルム23が最外周のフィルム23に密着することで、最外周のフィルム23の外周面に付着しているインクを軸体34の回転方向と反対の方向に押し出しながら、フィルム23の巻き取りを行うことができる。
【0066】
なお、上述した本実施の形態のプリンター100においては、ノズル形成面5からのフィルム23の離間は、フィルム23の側をノズル形成面5から離間させているが、たとえば、キャリッジ3を上方に移動させることで、ノズル形成面5の側をフィルム23から離間させる構成とすることもできる。
【0067】
(変形例1)
次に、図7および図11を参照しながら第1の実施の形態に係るプリンター100の変形例であるプリンター200(図1参照)について説明する。図7は、プリンター200におけるインク排出機構40の動作状態を示す図であり、図7の第1段(A)〜第6段(F)は、インク排出機構40の動作の流れを図示したものである。
【0068】
プリンター200において、プリンター100と同様な部材については、同一の符号を付し、その説明を省略または簡略化する。第1の実施の形態に係るプリンター100は、移動動作(図11のS20)において、フィルム23をノズル形成面5から離間させている。これに対し、変形例に係るプリンター200は、図7(D)〜(E)に示すように、ノズル形成面5をフィルム23に対して一方から他方に移動させることで、ノズル8内の空気/インクにノズル開口7に向かう流れを発生させる構成である点で異なっている。つまり、プリンター100においては、昇降機構21がフィルム移動機構25として構成されているのに対し、プリンター200においては、キャリッジ移動機構4がフィルム移動機構41として構成されている。フィルム収納機構33およびフィルム密着機構24については、プリンター100と同様の構成である。
【0069】
図7(A)〜(D)までの動作については、図11に示す密着動作(S10)に対応するものであり、図6(A)〜(D)と同様の動作であるので説明を省略する。図7(D)〜(F)に示す動作は、図11に示す移動動作(S20)に対応する。また、図7(D)〜(F)に示す動作は、図11に示すフィルム収納動作(S30)にも対応する。
【0070】
密着動作(S10)が完了した後、制御部27は、図7(D)〜(E)に示すようにキャリッジ3が待機位置U1に向かって(右方に)移動するようにキャリッジモーター13を動作させる。キャリッジ3が右方に移動すると、ノズル形成面5は、ノズル形成面5に沿う方向に沿って、ノズル形成面5に密着しているフィルム23に対して移動する。すなわち、フィルム23のノズル形成面5に密着している部分と、ノズル形成面5とはノズル形成面5に沿って相対的に互いに異なる方向に移動する。これにより、ノズル8内の空気/インクにノズル開口7に向かう流れが発生する。インクヘッド2が移動し、ノズル開口7がフィルム23の右端の外側に外れ、ノズル開口7が開放されたときに、ノズル8内に溜まった増粘インクが排出される。
【0071】
キャリッジ3が図7(D)に示す左端位置U2から右方に移動するに連れて、フィルム収納機構33とワイピング機構17との間の距離が短くなる。そのため、フィルム23に弛みが発生する。しかしながら、この弛み分は、順次、フィルム収納機構33の軸体34に巻き取られる。図7(D)〜(F)に示すように、キャリッジ3が左端位置U2から右方の待機位置U1に向かって移動するに連れて、フィルム23は、フィルム収納機構33により軸体34に巻き取られていく。つまり、プリンター200においては、移動動作(S20)とフィルム収納動作(S30)とが同時に行われる。
【0072】
ところで、フィルム収納機構33の付勢機構35がフィルム23を巻き取る力は、フィルム23とノズル形成面5との密着力よりも大きく、また、移動動作(S20)におけるキャリッジ3の移動速度は、付勢機構35がフィルム23を巻き取る速さに一致するように設定されている。これにより、右方に移動するヘッド2の移動方向の前側部分でフィルム23にジャミングが発生することを抑えることができる。
【0073】
(第2の実施の形態)
次に、図8、図9および図11を参照しながら本発明の第2の実施の形態に係るプリンター300について説明する。図8は、プリンター300におけるインク排出機構42の概略の構成を示す図である。図9は、インク排出機構42の動作状態を示す図であり、図9の第1段(A)〜第7段(G)は、インク排出機構42の動作の流れを図示したものである。
【0074】
図8に示すように、インク排出機構42は、フィルム23と、フィルム収納機構43と、フィルム密着機構44と、フィルム移動機構45等を備えている。なお、以下のプリンター300の説明において、プリンター100と同様な部材については、同一の符号を付し、その説明を省略または簡略化する。
【0075】
(フィルム収納機構43)
フィルム収納機構43は、フィルム収納機構33と同様の構成であるが、プリンター100においてはフィルム収納機構33がキャリッジ3に取り付けられ、キャリッジ3と一体に移動する構成であるのに対し、プリンター300のフィルム収納機構43は、プリンター300に対して固定位置に設けられている。
【0076】
(フィルム密着機構44)
フィルム密着機構44は、ワイピング機構17と、ワイピング機構17を左右に移動させる移動機構46とを有して構成されている。移動機構46は、たとえば、左右方向に軸方向が配置される図示を省略するリードスクリューと、このリードスクリューにねじ結合すると共にワイピング機構17に対して連結される図示を省略するナットと、リードスクリューを回転させる図示を省略する移動モーター47(図2参照)等から構成することができる。移動モーター47によりリードスクリューを回転すると、ナットがリードスクリューにガイドされ、リードスクリューの回転方向に応じて左右に移動する。つまり、ナットに連結されるワイピング機構17が左右に移動する。ワイピング機構17が左右に移動すると、ワイパー19も一体に左右に移動する。
【0077】
(フィルム移動機構45)
フィルム移動機構45は、ワイピング機構17に備えられる昇降機構21により構成されている。昇降機構21は、支持台20を上方位置T1(図9(A)参照)と下方位置T2図(9(E)参照)に昇降することができる。
【0078】
(インク排出動作)
インク排出動作について図9および図11を参照しながら説明する。第1の実施の形態に係るプリンター100のワイピング機構17は、インク排出動作において、左右方向について固定位置とされている。これに対し、第2の実施の形態のプリンター300は、ワイピング機構17が左右方向に移動可能な構成とされている。つまり、プリンター100においては、キャリッジ3を左方に移動させてフィルム密着動作を行っているのに対し、プリンター300においては、後述するようにワイピング機構17を右方に移動させてフィルム密着動作を行う。
【0079】
インク排出動作は、図11に示すように、フィルム23をフィルム収納機構43から引き出しノズル形成面5に密着させる密着動作(S10)と、ノズル形成面5とノズル形成面5に密着されたフィルム23とを相対的に異なる方向に移動させる移動動作(S20)と、引き出されたフィルム23をフィルム収納機構33に収容する収納動作(S30)とを有する。図9(A)〜(D)に示す動作が、図11に示す密着動作(S10)に対応し、図9(D)〜(E)に示す動作が、図11に示す移動動作(S20)に対応する。そして、図9(E)〜(G)に示す動作が、図11に示すフィルム収納動作(S30)に対応する。
【0080】
ヘッド2は、プリンター300のインク排出動作の開始時においては、図9(A)に示す待機位置U1に配置されている。また、ワイピング機構17は、移動機構46により移動される可動範囲の左端となる初期位置V1に配置されている。なお、プリンター300の記録動作が実行される場合には、ヘッド2は、待機位置U1の右方に設定される記録領域A1において所定の移動を行う。
【0081】
ユーザーの指示、あるいは所定のタイミングでインク排出動作が開始されると、図9(A)〜(D)に示すように、制御部27は、ワイピング機構17が初期位置V1から右方に移動するように移動モーター47を駆動する。
【0082】
ワイピング機構17が初期位置V1に配置されているとき、フィルム23は、フック38を筐体36の下面36Aよりも下方に垂らした状態で筐体36内に収容されている。また、支持台20は、上方位置T1に配置されている。この状態で、ワイピング機構17が初期位置V1から右方に移動されると、フック留め39にフック38が係合する(図9(B)参照)。フック留め39にフック38が係合した状態で、更にワイピング機構17が右方に移動されると、フィルム23はフィルム収納機構33から引き出されながらヘッド2のノズル形成面5の下側に配置される。
【0083】
フック留め39の左方、すなわちワイピング機構17の移動方向と反対の方向には、ワイパー19が配置されている。支持台20が上方位置T1に配置されている状態で、ワイピング機構17が右方に移動すると、ワイパー19の先端部19Aがノズル形成面5に対して接触する。そのため、ノズル形成面5の下側にフィルム23が配置された状態で、ワイピング機構17が右方に移動すると、フィルム23は、ワイパー19によりノズル形成面5に押圧されノズル形成面5に密着させられる。ノズル形成面5にフィルム23が押圧された状態で、ワイピング機構17が図9(B)〜(D)に示すように移動することで、フィルム23がノズル形成面5の左方から右方に向かって順に密着させられていく。図9(D)に示すように、ノズル形成面5の左端から右端に亘ってフィルム23が密着された状態となったときに密着動作(S10)が完了する。
【0084】
密着動作(S10)が完了した後、制御部27は、図9(E)に示すように、支持台20が降下するように昇降機構21を動作させる。支持台20が下方に移動すると、フック留め39も一体に下降するため、図9(E)に示すように、フィルム23がノズル形成面5から下方に離間する。すなわち、フィルム23のノズル形成面5に密着している部分がノズル形成面5に対して相対的に下方に移動する。フィルム23がノズル形成面5に密着している状態から離間させられることで、上述した図3で説明したように、ノズル8内の空気/インクがノズル開口7の外側に向かって移動し、ノズル8内に溜まっている増粘インクがヘッド2の外部に排出される。
【0085】
支持台20の下降速度は、フィルム23が破断したり、フック38がフック留め39から外れてしまわない範囲で速いことが好ましい。下降速度を速くすることで、ノズル8内からノズル開口7の外側に向かって流れる空気の流速を速くすることができ、増粘インクSを排出する排出力を大きくすることができる。
【0086】
上述の密着動作において、フィルム23をノズル形成面5に押圧するワイパー19は、ノズル形成面5に対して相対的に左側から右側、すなわち一方から他方に向かって移動されている。このように、ワイパー19がフィルム23をノズル形成面5に押圧する位置を、一方向に向かって移動させることで、フィルム23とノズル形成面5との間に入り込んだ空気を追い出しながら、フィルム23をノズル形成面5に密着させることができる。フィルム23とノズル形成面5との間の密着性を向上させることで、ノズル8内からノズル開口7の外側に向かって流れる空気/インクの流れをより確実に発生させることができ、インク排出動作の確実性を向上させることができる。
【0087】
支持台20が下方に移動された後、制御部27は、図9(F)に示すように、ワイピング機構17を左方に移動し初期位置V1に配置させる。ワイピング機構17が図9(E)に示す右端位置V2から左方に移動するに連れて、フィルム収納機構33とワイピング機構17との間の距離が短くなっていくため、フィルム23に弛みが発生する。しかしながら、この弛み分は、順次、フィルム収納機構33の軸体34に巻き取られる。つまり、図9(E)〜(F)に示すように、ワイピング機構17が右端位置V2から左方の初期位置V1に向かって移動するに連れて、フィルム23は、フィルム収納機構33の軸体34に巻き取られていく。ワイピング機構17が図9(E)に示す右端位置V2から図9(F)に示す初期位置V1に向かって移動する間に、フック38は、フック留め39から外れる。フック留め39からフック38が外れた後は、フィルム収納機構33の移動に関係なく、フィルム23は、フィルム収納機構33の軸体34に巻き取られる。
【0088】
図9(G)に示すように、ワイピング機構17が初期位置V1に配置された状態で、ワイピング機構17を上方に移動し、一連のインク排出動作が完了する。
【0089】
本実施の形態のプリンター300においては、ノズル形成面5からのフィルム23の離間は、フィルム23の側をノズル形成面5から離間させているが、たとえば、キャリッジ3を上方に移動させることで、ノズル形成面5の側をフィルム23から離間させる構成とすることもできる。また、密着動作(S10)において、ワイピング機構17は左方から右方(主走査方向)に向かって移動する構成としているが、副走査方向(前方から後方、あるいは後方から前方)に移動させる構成としてもよい。
【0090】
(変形例2)
次に、図10および図11を参照しながら本発明の第2の実施の形態に係るプリンター300の変形例であるプリンター400ついて説明する。図10は、プリンター400におけるインク排出機構48の動作状態を示す図であり、図10の第1段(A)から第7段(G)は、インク排出機構48の動作の流れを図示したものである。
【0091】
プリンター400において、プリンター300と同様な部材については、同一の符号を付し、その説明を省略または簡略化する。第2の実施の形態に係るプリンター300は、移動動作(図11のS20)において、フィルム23をノズル形成面5から離間させている。これに対し、変形例に係るプリンター400は、フィルム23のノズル形成面5に密着している部分をノズル形成面5に対して一方から他方に移動させることで、ノズル8内にノズル開口7に向かう空気/インクの流れを発生させる点で異なっている。つまり、プリンター300においては、昇降機構21がフィルム移動機構45として構成されているのに対し、プリンター400においては、フィルム収納機構43のフィルム巻取り機構がフィルム移動機構43として構成されている。本変形例におけるフィルム収納機構43の付勢機構35のフィルム23の巻き取り力は、ノズル形成面5に密着されている状態のフィルム2を、この密着の密着力に抗して巻き取ることができる強さとされている。
【0092】
図10(A)〜(D)までの動作については、図11に示す密着動作(S10)に対応するものであり、図9(A)〜(D)と同様であるので説明を省略する。図10(D)〜(F)に示す動作は、図11に示す移動動作(S20)に対応する。そして、図10(D)〜(F)に示す動作は、図11に示すフィルム収納動作(S30)にも対応する。
【0093】
密着動作(S10)が完了した後、制御部27は、図10(E)に示すようにワイピング機構17が初期位置V1に向かって(左方に)移動するように移動モーター47(図2参照)を動作させる。ワイピング機構17が左方に移動すると、この移動量に応じて、フィルム収納機構43は、フィルム23とノズル形成面5との密着力に抗して、フィルム23をフィルム収納機構43の軸体34に巻き取る。すなわち、フィルム23は、軸体34に巻き取られることで、ノズル形成面5に沿って移動する。すなわち、フィルム23のノズル形成面5に密着している部分とノズル形成面5とはノズル形成面5に沿って相対的に互いに異なる方向に移動する。これにより、ノズル8内の空気/インクにノズル開口7に向かう流れが発生する。ワイピング機構17が移動し、ノズル開口7がフィルム23の右端の外側に外れ、ノズル開口7が開放されたときに、ノズル8内に溜まった増粘インクが排出される。
【0094】
図10(D)〜(F)に示すように、ワイピング機構17が右端位置V2から左方の初期位置V1に向かって移動するに連れて、フィルム23は、フィルム収納機構43の軸体34に巻き取られていく。つまり、プリンター400においては、移動動作(S20)とフィルム収納動作(S3)とが同時に行われる。
【0095】
移動動作(S20)におけるにワイピング機構17の移動速度は、フィルム収納機構43の付勢機構35によりフィルム23が巻き取られる速さよりも小さく設定されている。フィルム23を巻き取られる速さよりもワイピング機構17の移動速度の方が大きくなると、ノズル形成面5の移動と共に、フィルム23が移動してしまう虞がある。一方、フィルム23とノズル形成面5との相対的な移動速度が大きい方が、ノズル8内からノズル開口7の外側に向かって流れる空気/インクの流速を速くすることができる。したがって、フィルム23が破断したり、フック38がフック留め39から外れてしまわない範囲で、付勢機構35はフィルム23をできるだけ速く巻き取ることが好ましい。
【0096】
本変形例のプリンター400においては、ワイピング機構17を左右方向(主走査方向)に移動させて、密着動作(S10)および移動動作(S20)を行っているが、ワイピング機構17を副走査方向(前方から後方、あるいは後方から前方)に移動させる構成としてもよい。
【0097】
本変形例のプリンター400においては、フィルム23をフィルム収納機構43により巻き取ることで、フィルム23をノズル形成面5に対して移動する構成とされている。これに対し、図10(D)に示す状態で、これ以上、フィルム収納機構43からフィルム23が引き出されないように、軸体33の回転止めを行った状態で、キャリッジ4を右方に移動することで、ノズル形成面5をフィルム23に対して移動する構成としてもよい。
【0098】
(第3の実施の形態)
次に、図12、図13、図14および図16を参照しながら本発明の第3の実施の形態に係るプリンター500について説明する。以下の説明において、プリンター100と同様な部材については、同一の符号を付し、その説明を省略または簡略化する。図12は、プリンター500の全体的な概略の構成を示す斜視図である。図13は、図12に示すプリンター500におけるインク排出機構49の概略の構成を示す図である。図14は、インク排出機構49の動作状態を示す図であり、図14の第1段(A)から第6段(F)は、インク排出機構18の動作の流れを図示したものである。図16は、インク排出動作を示すフローチャートである。
【0099】
上述の実施の形態およびその変形例に係るプリンター100から400におけるインク排出機構18等は、ワイピング機構17を用いて構成されている。これに対し、プリンター500に備えられるインク排出機構49は、ワイピング機構17とは独立した構造となっている。図12に示すように、インク排出機構49は、ワイピング機構17の左側に配置されている。すなわち、ワイピング機構17を挟んで記録領域A1の反対側に配置されている。
【0100】
図13に示すように、インク排出機構49は、フィルム50と、フィルム密着機構51と、フィルム移動機構52等を備えている。
【0101】
(フィルム密着機構51)
また、本実施の形態では、フィルム密着機構51は、一対のローラー53A,53Bと、押圧機構54と、押圧機構54を左右に移動させる移動機構55とを有して構成されている。フィルム50は、無端ベルトの形状に構成され、ローラー53A,53Bに掛け渡されている。ローラー53Aとローラー53Bとの間には、ローラー53A,53Bの下側に配置される下側フィルム50Aを、ローラー53A,53Bの上側に配置される上側フィルム50Bに近接させるローラー53C,53Dが備えられている。下側フィルム50Aは、上側フィルム50Bに接触しない程度にできるだけ近接していることが好ましい。
【0102】
ローラー53Aは、図示を省略するローラーモーター56(図2参照)により回転駆動させられる。したがって、ローラー53Aをローラーモーター56により回転することで、フィルム50をローラー53A,53Bの周りに周回させることができる。
【0103】
押圧機構54は、弾性および可撓性を備える押圧部材としての可撓板57と、可撓板57が取り付けられる支持台58と、支持台58を昇降させ可撓板57を上方位置Q1と下方位置Q2とに昇降させる昇降機構59等を備えている。昇降機構59は、たとえば、上下方向に軸方向が配置される図示を省略するリードスクリューと、このリードスクリューにねじ結合すると共に支持台58に連結される図示を省略するナットと、リードスクリューを回転させる図示を省略する支持台昇降モーター60(図2参照)等から構成することができる。
【0104】
支持台昇降モーター60によりリードスクリューを回転すると、ナットがリードスクリューにガイドされ、リードスクリューの回転方向に応じて上下移動する。つまり、ナットに連結される支持台58が上下に移動する。支持台58が上下に移動することで、可撓板57は上方位置Q1と下方位置Q2とに昇降することができる。なお、可撓板57は、ワイパー19と同様の部材を用いることができ、たとえば、ゴムあるいはエラストマから形成することができる。
【0105】
移動機構55は、たとえば、左右方向に軸方向が配置される図示を省略するリードスクリューと、このリードスクリューにねじ結合すると共に押圧機構54に対して連結される図示を省略するナットと、リードスクリューを回転させる図示を省略する移動モーター61(図2参照)等から構成することができる。移動モーター61によりリードスクリューを回転すると、ナットがリードスクリューにガイドされ、リードスクリューの回転方向に応じて左右に移動する。つまり、ナットに連結される押圧機構54が左右に移動する。押圧機構54が左右に移動すると、可撓板57も一体に左右に移動する。
【0106】
フィルム密着機構51を構成するローラー53A,53B,53C,53D、押圧機構54および移動機構55等は、図示を省略するフレーム体に支持されている。したがって、上記のフレーム体を後述する昇降機構62により昇降させることで、フィルム密着機構51を昇降することができる。
【0107】
(フィルム移動機構52)
また、本実施の形態では、フィルム移動機構52は、フィルム密着機構51を昇降することができる昇降機構62により構成されている。昇降機構62は、たとえば、上下方向に軸方向が配置される図示を省略するリードスクリューと、このリードスクリューにねじ結合すると共にフィルム密着機構51が支持される上述するフレーム体(図示省略)に連結される図示を省略するナットと、リードスクリューを回転させる図示を省略するフレーム体昇降モーター63(図2参照)等から構成することができる。フレーム体昇降モーター63によりリードスクリューを回転すると、ナットがリードスクリューにガイドされ、リードスクリューの回転方向に応じて上下移動する。つまり、ナットに連結されるフレーム体(図示省略)が上下に移動することで、フィルム密着機構51が上下に昇降する。
【0108】
(インク排出動作)
インク排出動作について図14および図16を参照しながら説明する。
【0109】
インク排出動作は、図16に示すように、フィルム50をノズル形成面5に密着させる密着動作(S110)と、ノズル形成面5とフィルム50とを相対的に異なる方向に移動させる移動動作(S120)とを有する。図14(A)〜(E)に示す動作が、図16に示す密着動作(S110)に対応し、図14(E)〜(F)に示す動作が、図16に示す移動動作(S120)に対応する。
【0110】
ヘッド2は、プリンター500のインク排出動作の開始時においては、図14(A)に示す待機位置R1に配置されている。また、押圧機構54は、移動機構55により移動される可動範囲の左端となる初期位置L1に配置されている。なお、プリンター500の記録動作が実行される場合には、ヘッド2は、待機位置R1の右方に設定される記録領域A1において所定の移動を行う。
【0111】
ユーザーの指示、あるいは所定のタイミングでインク排出動作が開始されると、図14(A)〜(D)に示すように、制御部27は、キャリッジ3が左方に移動するようにキャリッジモーター13を駆動する。
【0112】
図14(A)に示すように、ヘッド2が待機位置R1に配置されているとき、可撓板57は下方位置Q2に配置されている。可撓板57が下方位置Q2に配置されているとき、可撓板57の上端部57Aはフィルム50から離れた位置に配置されている。可撓板57が下方位置Q2に配置されている状態で、図14(B)に示すように、制御部27は、ノズル形成面5がフィルム50に対向する対向位置R2に配置されるように、キャリッジ3を待機位置R1から左方に移動する。
【0113】
そして、制御部27は、図14(C)に示すように、可撓板57が上方位置Q1に配置されるように支持台昇降モーター60を駆動する。可撓板57が上方位置Q1に配置されているとき、可撓板57の上端部57Aは、フィルム50をノズル形成面5に押圧する位置に配置されている。可撓板57が上方位置Q1に配置され、フィルム50をノズル形成面5に押圧している状態で、押圧機構54が、移動機構55により、図14(C)〜図14(E)に示すように右方に移動されると、フィルム23がノズル形成面5の左方から右方に向かって順に密着される。図14(E)に示すように、ノズル形成面5の左端から右端に亘ってフィルム50が密着された状態となったときに密着動作(S10)が完了する。
【0114】
密着動作(S10)が完了した後、制御部27は、図14(E)〜(F)に示すように、フィルム密着機構51が降下するように昇降機構62を動作させる。この時、制御部27は、可撓板57も下方位置Q2に配置させる。フィルム密着機構51が下方に移動すると、上側フィルム50Bがノズル形成面5から下方に離間する。すなわち、フィルム50がノズル形成面5に対して相対的に下方に移動する。フィルム50がノズル形成面5に密着している状態から離間させられることで、上述した図3で説明したように、ノズル8内の空気/インクがノズル開口7の外側に向かって移動し、ノズル8内に溜まっている増粘インクがヘッド2の外部に排出される。
【0115】
フィルム密着機構51の下降速度は、フィルム50が破断してしまわない範囲で速いことが好ましい。下降速度を速くすることで、ノズル8内からノズル開口7の外側に向かって流れる空気/インクの流速を速くすることができ、増粘インクSを排出する排出力を大きくすることができる。
【0116】
上述の密着動作において、フィルム50をノズル形成面5に押圧する可撓板57は、ノズル形成面5に対して相対的に左側から右方、すなわち一方から他方に向かって移動されている。このように、可撓板57がフィルム50をノズル形成面5に押圧する位置を、一方向に向かって移動させることで、フィルム50とノズル形成面5との間に入り込んだ空気を追い出しながら、フィルム50をノズル形成面5に密着させることができる。フィルム50とノズル形成面5との間の密着性を向上させることで、ノズル8内からノズル開口7の外側に向かって流れる空気/インクの流れをより確実に発生させることができ、インク排出動作の確実性を向上させることができる。
【0117】
インク排出機構49には、フィルム50の外周面にインク吸収材64が備えられている。インク吸収材64は、フィルム50の外周面に当接することができるように配置されている。ローラーモーター56を駆動してローラー53Aを回転することで、フィルム50をローラー53A〜53Dの周りを周回させることができる。したがって、フィルム50を周回させることで、ノズル形成面5に付着していたインクやノズル8から排出された増粘インクをインク吸収材64により吸収させることができる。
【0118】
本実施の形態のプリンター500においては、ノズル形成面5からのフィルム50の離間は、フィルム50をノズル形成面5から離間させているが、たとえば、キャリッジ3を上方に移動させることで、ノズル形成面5をフィルム50から離間させる構成とすることもできる。
【0119】
(変形例3)
次に、図15および図16を参照しながら本発明の第3の実施の形態に係るプリンター500の変形例であるプリンター600について説明する。図15は、プリンター600におけるインク排出機構65の動作状態を示す図であり、図15の第1段(A)から第7段(G)は、インク排出機構65の動作の流れを図示したものである。
【0120】
プリンター600において、プリンター500と同様な部材については、同一の符号を付し、その説明を省略または簡略化する。第3の実施の形態に係るプリンター500は、移動動作(図16のS20)において、フィルム50をノズル形成面5から離間させている。これに対し、変形例に係るプリンター600は、ノズル形成面5をフィルム50に対して一方から他方に移動させることで、ノズル8内にノズル開口7に向かう空気/インクの流れを発生させる構成である点で異なっている。つまり、プリンター500においては、フィルム移動機構52を昇降機構62により構成しているのに対し、プリンター600においては、キャリッジ移動機構4がフィルム移動機構66として構成されている。フィルム密着機構51については、プリンター500と同様の構成である。
【0121】
図15(A)〜(E)までの動作については、図16に示す密着動作(S110)に対応するものであり、図14(A)〜(E)と同様の動作であるので説明を省略する。図15(E)〜(G)に示す動作は、図16に示す移動動作(S120)に対応する。
【0122】
密着動作(S110)が完了した後、制御部27は、図15(E)に示すようにキャリッジ3が待機位置U1に向かって(右方に)移動するようにキャリッジモーター13を動作させる。キャリッジ3が右方に移動すると、ノズル形成面5は、ノズル形成面5に沿ってフィルム50に対して移動する。すなわち、フィルム50とノズル形成面5とはノズル形成面5に沿って相対的に互いに異なる方向に移動する。これにより、ノズル8内の空気/インクにノズル開口7に向かう流れが発生する。ヘッド2が移動し、ノズル開口7がフィルム50の右端の外側に外れ、ノズル開口7が開放されたときに、ノズル8内に溜まった増粘インクが排出される。
【0123】
上述の第3の実施の形態に係るプリンター500,600においては、押圧機構54および移動機構55は、フィルム55の下側に配置されている。これに対し、ローラー53C,53Dを設けないようにして、下側フィルム50Aと上側フィルム50Bとの間隔を広くし、また、ローラー53A,53Bの直径を大きくして、圧機構54および移動機構55を下側フィルム50Aと上側フィルム50Bとの間に配置する構成としてもよい。
【0124】
(変形例4)
ところで、上述の各実施の形態およびその変形例において、ワイパー19あるいは可撓板57は、フィルム23あるいはフィルム50をノズル形成面5に押圧したときに、図17に示すように、ノズル開口7に位置する部分において開口内に入り込むように変形する柔軟性(可塑性)を有していることが好ましい。フィルム23(フィルム50)をノズル形成面5に密着させる際、かかる柔軟性を有するワイパー19(可撓板57)を用いてフィルム23(フィルム50)をノズル形成面5に押圧すると、図17に示すように、ワイパー19(可撓板57)のノズル開口7に位置する部分が開口内に入り込み、フィルム23(フィルム50)をノズル開口7の内側に湾曲させることができる。ノズル開口7に位置する部分において開口内に湾曲した状態でノズル形成面5に密着しているフィルム23(フィルム50)を、ノズル形成面5から移動(ノズル形成面5に沿って移動あるいはノズル形成面5から離間)させると、ノズル開口7内に入り込んでいるフィルム23(フィルム50)がノズル開口7から出る際に、ノズル8のノズル開口7側に負圧が発生する。そのため、ノズル8内からノズル開口7に向かう空気/インクの流れが発生し易い状態となる。この空気/インクの流れにより、ノズル8に溜まっている増粘インクSをノズル開口7から外部により確実に排出させることができる。
【0125】
(変形例5)
したがって、図18に示すように、ヘッド2のノズル形成面5にノズル開口7よりも広い開口部67を有する凹部68を形成し、この凹部68内にノズル開口7を配置することが好ましい。図18の上段(A)は、ヘッド2をノズル形成面5の側から見た図である。図18の中段(B)は、図18(A)に示す切断線A−Aにおけるヘッド2の断面の概略の構成を示す図である。図18の下段(C)は、ワイパー19(可撓板57)が、フィルム23(フィルム50)を凹部68内に押し込みながらノズル形成面5に密着させていく状態を示す図である。本変形例に示すヘッド2においては、凹部68は、ワイパー19(可撓板57)の進行方向に直交する方向に配列されるノズル8(ノズル列8A)を内部に配置することができるように、該進行方向に直交する方向に長手方向が配列される凹条(溝形状)に形成されている。
【0126】
図18(C)に示すように、フィルム23(フィルム50)をノズル形成面5に密着させる際に、凹部68が形成されているノズル形成面5に対して、フィルム23(フィルム50)をワイパー19(可撓板57)で押圧すると、凹部68内にフィルム23(フィルム50)が入り込む。そして、凹部68に位置する部分において凹部68内に入り込んだ状態でノズル形成面5に密着しているフィルム23(フィルム50)を、ノズル形成面5から移動(ノズル形成面5に沿って移動あるいはノズル形成面5から離間)させると、凹部68内に入り込んでいるフィルム23(フィルム50)が凹部68から出る際に凹部68内が負圧になる。そのため、ノズル8内から凹部68に向かう空気/インクの流れが発生する。これにより、ノズル8に溜まっている増粘インクSがノズル開口7から外部に排出される。
【0127】
凹部68の開口部67は、ノズル開口7よりも広い。そのため、フィルム23(フィルム50)がノズル開口7内に入り込む容積よりも、フィルム23(フィルム50)が凹部68内に入り込む容積の方が大きい。したがって、フィルム23(フィルム50)がノズル形成面5に対して移動する際に、フィルム23(フィルム50)がノズル開口7内だけに入り込んでいる場合に比べて、フィルム23(フィルム50)が凹部68内に入り込んでいる場合の方が、ノズル8内から凹部68に向かう空気/インクの流れの量を多くすることができる。これにより、ノズル8に溜まっている増粘インクSをノズル開口7から外部により一層確実に排出させることができる。
【0128】
凹部68の左右方向、すなわち、ワイパー19(可撓板57)の移動方向に沿う方向における内側面は、図18に示すように、ノズル開口7の側からノズル形成面5に向かって開口幅が広がる方向に傾斜する傾斜面69と傾斜面70として形成されている。上記内側面を傾斜面69と傾斜面70にて形成することで、フィルム23(フィルム50)が傾斜面69と傾斜面70に密着するため、フィルム23(フィルム50)が凹部68内に入り込み易くなる。また、凹部68の左右方向に加えて、凹部68の内側の全側面について、ノズル開口7の側からノズル形成面5に向かって開口幅が広がる方向に傾斜する傾斜面とすることで、フィルム23(フィルム50)が凹部68内により入り込み易くなる。また、図18(A)に示すように、凹部68の左右方向の内側面と前後方向の内側面との繋がり部71については、円弧状とすることで、繋がり部71においてもフィルム23(フィルム50)を密着させることができ、フィルム23(フィルム50)のノズル形成面5に対する密着性を向上させることができる。
【0129】
図18(B)に示すにように、傾斜面69のノズル形成面5に対する傾斜角69Aと、傾斜面70のノズル形成面5に対する傾斜角70Aは、傾斜角69A>傾斜角70Aとされている。傾斜面70は、凹部68内に入ったワイパー19(可撓板57)の上端部19A(57A)が凹部68から脱出する側の面である。すなわち、傾斜面70は、ワイパー19(可撓板57)の移動方向後方に配置される。傾斜角70Aを小さくすることで、ワイパー19(可撓板57)の上端部19A(57A)が、凹部68からノズル形成面5側に脱出する際に、ノズル8内の空気/インクをノズル形成面5側に追い出し易くなる。つまり、フィルム23(フィルム50)をノズル8内に入り込ませるために、フィルム23(フィルム50)がノズル8内に入り込む容積分の空気/インクをノズル8の外に追い出す必要があるが、傾斜角70Aを小さくすることで、ノズル8内の空気/インクをノズル形成面5側に追い出し易くなる。したがって、フィルム23(フィルム50)を凹部68内に入り込ませ易くすることができる。
【0130】
そして、傾斜角69A>傾斜角70Aとすることで、隣接する凹部68の傾斜面69と傾斜面70とが接触しない範囲で、傾斜角70Aをより小さくした傾斜面70を形成することができる。
【0131】
ワイパー19(可撓板57)は、ノズル形成面5との接触部が、図19の上段(A)、中段(B)、下段(C)に示す形状となるように構成してもよい。すなわち、ワイパー19(可撓板57)は、ノズル形成面5との接触部において、ノズル形成面5に沿い、かつ、ワイパー19(可撓板57)の移動方向に対して直交する方向であって、この移動方向の前方側において、互いに向かう方向に傾斜する内向部を有しない方向に傾斜する傾斜部分71を有している。そして、ワイパー19(可撓板57)の移動方向における傾斜部分71の幅W1は、凹部68の幅W2(図18参照)よりも狭く設定されている。ワイパー19(可撓板57)は、フィルム23(フィルム50)をノズル形成面5に対して押圧しているときのフィルム23(フィルム50)との接触部が、図19の上段(A)、中段(B)、下段(C)に示すように、傾斜部71を有する形状に構成してもよい。傾斜部71は、ノズル形成面5に沿い、かつ、ワイパー19(可撓板57)の移動方向に沿う方向に対して傾斜する傾斜部であるが、移動方向の前方側において内向部を有していない。そして、ワイパー19(可撓板57)の移動方向における傾斜部分71の幅W1は、凹部68の幅W2(図18参照)よりも狭く設定されている。
【0132】
傾斜部分71の幅W1を、凹部68の幅W2よりも狭く設定することで、ワイパー19(可撓板57)のノズル形成面5との接触部が、凹部68内に入り込み易くなり、フィルム23(フィルム50)を凹部68内に入り込ませ易くすることができる。
【0133】
また、ワイパー19(可撓板57)のノズル形成面5との接触部が内向部を有しない方向に傾斜する傾斜部分71とされることにより、ワイパー19(可撓板57)の移動によって押し出される凹部68内の空気が、凹部68の外側に押し出され易くなる。そのため、フィルム23(フィルム50)を凹部68内に入り込ませ易くすることができる。
【0134】
これに対し、図20に示すように、ワイパー19(可撓板57)のノズル形成面5との接触部である傾斜部分72が、互いに向かう方向に傾斜する内向部73を有する場合には、傾斜部分72の交差部分74の側に空気が集められ易い。そのため、凹部68内の空気が排出されず、フィルム23(フィルム50)を凹部68内に入り込ませ難くなる。
【0135】
図21に示すように、フィルム23(フィルム50)には、凹部68に対応する位置に凹部68に嵌合する凸部75を形成してもよい。フィルム23(フィルム50)に凸部75を形成することで、凹部68内により確実にフィルム23(フィルム50)を入り込ませることができる。そのため、ノズル形成面5に密着したフィルム23(フィルム50)をノズル形成面5から離間させて移動する際に、ノズル8に溜まっている増粘インクSをノズル開口7から外部により一層確実に排出させることができる。
【0136】
図22に示すように、押圧機構を、周面に突起部76を有し、ノズル形成面5に対して転回することができるローラー77を、ワイパー19あるいは可撓板57の換わりに押圧部材として備えることとしてもよい。突起部76は、凹部68の配列ピッチに対応して配置され、ローラー77がノズル形成面5に対して転回したときに、凹部68に入り込むことができるように配置されている。ローラー77をノズル形成面5に転回すると、ローラー77がノズル形成面5と接触する部分に配置される突起部76が凹部68に入り込む。そのため、フィルム23(フィルム50)を凹部68に確実に入り込ませることができる。したがって、ノズル形成面5に密着したフィルム23(フィルム50)をノズル形成面5から離間させて移動する際に、ノズル8に溜まっている増粘インクSをノズル開口7から外部により一層確実に排出させることができる。
【0137】
また、ローラー77に換えて、図23に示すように、凹部68の配列ピッチに対応して形成される突起部78を有する押圧板79を、可撓板57の換わりに押圧部材として用いて、フィルム50をノズル形成面5に密着させるようにすることもできる。この場合には、可撓板57を左右に移動させる移動機構55に換えて、押圧板79をノズル形成面5に接離することができる昇降機構を設ける。そして、インク排出動作時に、押圧板79の突起部78と凹部68とを位置合わせした状態で、押圧板79をノズル形成面5に向けて上昇させ、フィルム50をノズル形成面に押圧する。これにより、突起部78がフィルム50を凹部68内に押し込む。突起部78が凹部68内にフィルム23を押し込むため、確実にフィルムを凹部68内に押し込むことができる。
【0138】
なお、上述の各実施の形態およびその変形例におけるプリンターの概念には、インク以外の他の液体(液体そのものや、機能材料の粒子が液体に分散又は混合されてなる液状体、ゲルのような流動性を有する材質を含む)を噴射したりする流体噴射装置を含むようにすることもできる。そのようなものとしては、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ及び面発光ディスプレイの製造などに用いられる電極材や色材(画素材料)などの材料を分散または溶解のかたちで含む液体を噴射する液状体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する流体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する流体噴射装置等がある。
【0139】
さらに、本発明の流体噴射装置の概念に含まれるものとしては、プリンターの他、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する流体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する流体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する流体噴射装置、ゲル(例えば物理ゲル)などの流状体を噴射する流状体噴射装置等がある。
【符号の説明】
【0140】
2 … インク噴射ヘッド(流体噴射ヘッド) 5 … ノズル形成面 7 … ノズル開口 19 … ワイパー(押圧部材) 23,50 … フィルム 24,44,51 … フィルム密着機構 25,41,45,52,66 … フィルム移動機構 33,43 … フィルム収納機構 50 … 可撓板(押圧部材) 53A,53B … ローラー 64 … インク吸収材 67 … 開口部 68 … 凹部 69,70 … 傾斜面 69A,70A … 傾斜角 71 … 傾斜部分 78 … 凸部 100,200,300,400,500,600 … プリンター(流体噴射装置)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を噴射する流体噴射ヘッドと、
前記流体噴射ヘッドのノズル形成面に密着可能なフィルムと、
前記フィルムを前記ノズル形成面に密着させ、ノズル開口を封止するフィルム密着機構と、
前記ノズル形成面に密着された前記フィルムと、前記ノズル形成面とを、互いに異なる方向に相対的に移動させるフィルム移動機構と、
を備えることを特徴とする流体噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の流体噴射ヘッドであって、
前記フィルム密着機構は、前記フィルムを前記ノズル形成面に押圧する押圧部材を有し、前記押圧部材が前記フィルムを前記ノズル形成面に対して押圧している状態で、前記ノズル形成面と前記押圧部材とを前記ノズル形成面に沿って一方から他方に相対的に移動することにより、前記フィルムを前記ノズル形成面に密着させる、
ことを特徴とする流体噴射装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の流体噴射装置であって、
前記流体噴射ヘッドは、
前記ノズル形成面に前記ノズル開口よりも広い開口部を有する凹部が形成され、
前記ノズル開口は、前記凹部内に配置されている、
ことを特徴とする流体噴射装置。
【請求項4】
請求項3に記載の流体噴射装置であって、
前記フィルムには、前記凹部に嵌合する凸部が形成されている、
ことを特徴とする流体噴射装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載の流体噴射装置であって、
前記凹部の前記押圧部材の移動方向に沿う方向の前後に配置される内側面は、前記ノズル開口の側から前記ノズル形成面に向かって開口幅が広がる方向に傾斜する傾斜面に形成され、前記移動方向の前方に配置される傾斜面は、前記移動方向の後方に配置される傾斜面に比べて傾斜角が小さい、
ことを特徴ことを特徴とする流体噴射装置。
【請求項6】
請求項3から5のいずれか1項に記載の流体噴射装置であって、
前記押圧部材が前記フィルムを前記ノズル形成面に対して押圧しているときの前記フィルムとの接触部は、前記ノズル形成面に沿い、かつ、前記移動方向に沿う方向に対して傾斜する傾斜部を有し、
前記傾斜部は、前記移動方向の前方側において内向部を有しない方向に傾斜する傾斜部であり、
前記傾斜部の前記移動方向における幅は、前記凹部の前記移動方向における幅よりも狭い、
ことを特徴とする流体噴射装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の流体噴射装置であって、
前記フィルムを巻回された状態で収納することができると共に、前記巻回された状態から展開された前記フィルムを巻き取り収納することができるフィルム収納機構を備える、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか1項に記載の流体噴射装置であって、
前記フィルムは、前記ノズル形成面に沿って、ローラーに支持されて張り渡される無端ベルトの形状であり、
前記ローラーは回転駆動可能であり、
さらに、前記フィルムに接触するインク吸収材が備えられている、
ことを特徴とする流体噴射装置。
【請求項1】
流体を噴射する流体噴射ヘッドと、
前記流体噴射ヘッドのノズル形成面に密着可能なフィルムと、
前記フィルムを前記ノズル形成面に密着させ、ノズル開口を封止するフィルム密着機構と、
前記ノズル形成面に密着された前記フィルムと、前記ノズル形成面とを、互いに異なる方向に相対的に移動させるフィルム移動機構と、
を備えることを特徴とする流体噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の流体噴射ヘッドであって、
前記フィルム密着機構は、前記フィルムを前記ノズル形成面に押圧する押圧部材を有し、前記押圧部材が前記フィルムを前記ノズル形成面に対して押圧している状態で、前記ノズル形成面と前記押圧部材とを前記ノズル形成面に沿って一方から他方に相対的に移動することにより、前記フィルムを前記ノズル形成面に密着させる、
ことを特徴とする流体噴射装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の流体噴射装置であって、
前記流体噴射ヘッドは、
前記ノズル形成面に前記ノズル開口よりも広い開口部を有する凹部が形成され、
前記ノズル開口は、前記凹部内に配置されている、
ことを特徴とする流体噴射装置。
【請求項4】
請求項3に記載の流体噴射装置であって、
前記フィルムには、前記凹部に嵌合する凸部が形成されている、
ことを特徴とする流体噴射装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載の流体噴射装置であって、
前記凹部の前記押圧部材の移動方向に沿う方向の前後に配置される内側面は、前記ノズル開口の側から前記ノズル形成面に向かって開口幅が広がる方向に傾斜する傾斜面に形成され、前記移動方向の前方に配置される傾斜面は、前記移動方向の後方に配置される傾斜面に比べて傾斜角が小さい、
ことを特徴ことを特徴とする流体噴射装置。
【請求項6】
請求項3から5のいずれか1項に記載の流体噴射装置であって、
前記押圧部材が前記フィルムを前記ノズル形成面に対して押圧しているときの前記フィルムとの接触部は、前記ノズル形成面に沿い、かつ、前記移動方向に沿う方向に対して傾斜する傾斜部を有し、
前記傾斜部は、前記移動方向の前方側において内向部を有しない方向に傾斜する傾斜部であり、
前記傾斜部の前記移動方向における幅は、前記凹部の前記移動方向における幅よりも狭い、
ことを特徴とする流体噴射装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の流体噴射装置であって、
前記フィルムを巻回された状態で収納することができると共に、前記巻回された状態から展開された前記フィルムを巻き取り収納することができるフィルム収納機構を備える、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか1項に記載の流体噴射装置であって、
前記フィルムは、前記ノズル形成面に沿って、ローラーに支持されて張り渡される無端ベルトの形状であり、
前記ローラーは回転駆動可能であり、
さらに、前記フィルムに接触するインク吸収材が備えられている、
ことを特徴とする流体噴射装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2012−187793(P2012−187793A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52622(P2011−52622)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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