説明

流体細胞操作装置

流体(106)中の粒子(104)を個別的に操作する-たとえば配向させるシステム(100)が記載されている。当該操作システム(100)は、流体チャネル(102)内での前記粒子(104)の捕獲を可能にする粒子捕獲システム(111)、及び前記粒子への剪断力勾配を制御する制御装置を有する。前記粒子への剪断力勾配は、前記粒子(104)を層流である前記流体チャネル(102)の中心から外すように位置設定し、又は前記層流自体を制御することによって制御される。それにより前記層流が、流れ発生装置(108)によって発生する。当該操作システム(100)は、粒子評価システム内で用いられて良いし、又は所定の配向下で前記粒子(104)への作用を行うのに用いられても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粒子の評価及び操作の分野に関する。より詳細には本発明は、検査又は評価を考慮した対象物又は粒子-たとえば生体細胞-を操作する方法及びシステム、並びに当該方法を実行するソフトウエアに関する。
【背景技術】
【0002】
検体の評価は、ある特定の種類の検体の存在を検出するための化学、生化学、又は生物学的試験において通常用いられる。たとえば細胞特性を検出及び/又は評価することによって、原理的には、悪性の細胞-たとえば前癌状態の細胞-を検出することが可能となることで、病気の進行-たとえば侵襲前から侵襲時まで-を検出及び/又は観察する可能性が開かれる。よって通常バイオセンサ用途に用いられているような単一粒子の検出及び/又は評価によって、定性的及び定量的結果を得ることが可能となる。単一粒子の特性を検出する一の手法は、関心粒子を表面へ選択的に結合させて、その粒子の特性を検知することである。単一粒子の特性を検出する他の手法は、捕獲システムを用いることによる流体内での単一粒子の捕獲である。
【0003】
多数の異なる捕獲手法が知られている。たとえば、光捕獲システム-レーザーに基づいたものであって、光ピンセットとしても知られている-を用いたもの、音響場を用いたもの、流体チャネルの収縮を用いたものなどである。これらの手法のほとんどでは、細胞の配向を決定又は制御することができない。それにもかかわらず、細胞の配向は、その細胞の評価において重要な役割を果たすものと考えられる。たとえば、粒子がその粒子の後部に存在する特性の検出を妨げるとき、又は、粒子の所定の配向がその粒子の処理を行う上で有利なときに、誤った検出が起こる恐れがあるからである。換言すると、研究及び単一粒子用途に対する評価又は処理される粒子の配向を可能にすることのインパクトは大きいとものと思われる。
【0004】
特許文献1では、単一細胞分析装置が記載されている。その装置では、細胞の捕獲及び操作は光トラップを用いて行われる。光トラップは、その光トラップ内で細胞を操作するのにレーザー及び集光レンズを用いる。集光したレーザービームを3次元的に移動させることによって細胞の位置を変化させることが可能であり、複数のスポット間の間隔を調節することによって細胞を伸張又は圧縮することが可能であり、かつビームの偏光又はビームスポットのパターンを回転させることによって細胞を回転させることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2006/059109号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、流体中の粒子を操作する良好なシステム及び方法、並びに当該方法を実行するソフトウエアの提供である。本発明の実施例の利点は、評価、検出、及び/又は処理目的で粒子の配向を選択することのできるシステム及び方法が得られることである。上記目的は、本発明による方法及びデバイスによって実現される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、流体中の粒子を個別的に操作するシステムに関する。当該システムは、流体チャネル内に前記流体の層流を発生させるように備えられた流れ発生装置、及び、前記流体の層流によって誘起される前記粒子への正味の剪断力を制御することによって、前記の流体チャネル内の粒子を捕獲し、かつ配向させるように備えられている粒子操作装置を有する。前記粒子操作装置は、前記流体の層流の流れ場(a flow field)中での前記粒子の位置を変化させることによって、及び/又は前記流体の層流の流れ場中での速度分布を変化させることによって、前記粒子の配向及び/又は回転を制御するように備えられていて良い。正味の剪断力を供することは、剪断力勾配を有する剪断力場中に前記粒子を導入することによって実行されて良い。それにより前記粒子は、他の側での剪断力よりも大きな一の側での剪断力によって回転して良い。その結果、前記粒子には正味の剪断力が生じる。本発明の実施例の利点は、当該システムが粒子の配向の変化を可能にすることである。本発明の実施例の更なる利点は、粒子の正確な配向及び位置を得ることができることである。また本発明の実施例の利点は、単一粒子操作システムを得ることが可能なことである。また本発明の実施例の利点は、前記粒子の各必要な配向を得ることが可能なことである。前記粒子操作装置は、捕獲されるべき前記粒子に直接作用して良いし、又は前記粒子に結合するラベルに作用することによって前記粒子に作用しても良い。
【0008】
前記粒子操作装置は、前記流体の層流の流れの方向に対して実質的に垂直な方向での前記粒子の位置を制御する粒子位置制御装置を有して良い。係る実施例の利点は、前記捕獲システム及び前記粒子位置制御装置は同一部品で良いこと、つまり前記位置設定及び捕獲が同一部品によって実行可能であること、である。係る実施例の利点は、前記配向が前記粒子の位置を制御することで、連続流中での当該システムの制御が可能となることである。
【0009】
前記粒子位置制御装置は、前記粒子を前記流体チャネル内での所定位置へ移動させるように備えられて良い。前記所定位置では、前記粒子への所定の正味の剪断力が前記層流によって誘起される。また係る実施例の利点は、前記粒子位置制御装置が、前記粒子の正確な移動を可能にすることである。係る実施例の利点は、前記粒子の回転方向を選ぶことが可能なことである。係る実施例の利点は、必要な回転量を容易に設定することが可能で、かつ正確に得ることが可能なことである。係る実施例の利点は、必要な配向を効率的に得ることが可能なことである。
【0010】
前記流体チャネルの形状は、前記流体チャネルが前記粒子の捕獲領域内に少なくとも1つの位置を有するようにされて良い。ここで層流が存在するときには前記粒子へは正味の剪断力は作用しない。係る実施例の利点は、当該システムが連続層流領域で使用可能となることである。前記粒子位置制御装置は、前記粒子を前記位置へ移動させるように備えられて良い。前記位置では、層流が存在するときには前記粒子へは正味の剪断力は作用しない。
【0011】
前記層流の流れによって誘起される前記粒子への正味の剪断力を制御する前記粒子操作装置は、前記流れ発生装置によって発生する前記流体の層流の流れの強さを制御するように備えられて良い。
【0012】
前記粒子操作装置は、前記流れ発生装置によって発生する前記流体の層流の流れの強さを制御する流れ制御装置を有して良い。たとえば最大の流れ速度によって決定される前記流れの強さは、前記最大の流れ速度が0から所定の最大流れ速度まで変化して良い。前記正味剪断力の制御は、前記流れ発生装置のオン/オフ状態、及び/又は前記流体の層流の流れの速度の制御を含んで良い。係る実施例の利点は、当該システムが様々な種類-たとえば様々な形状-の流体チャネルに用いることができることである。また係る実施例の利点は、前記粒子の回転速度を選ぶことが可能なことである。
【0013】
前記粒子操作装置は、少なくとも1つのピンセットを有して良い。前記粒子操作装置は、2つの交差する光ピンセットを有して良い。前記光ピンセットは設定可能でかつ調節可能な焦点位置を有して良い。前記設定可能でかつ調節可能な焦点位置は、前記流れの方向に対して垂直な2つの互いに平行ではない方向で粒子を位置設定することを可能にする。
【0014】
前記粒子操作装置は、少なくとも1つの誘電泳動トラップを有して良い。
【0015】
当該システムは、粒子の位置及び配向を決定し、かつ前記粒子操作装置へフィードバック制御を供するフィードバックシステムをさらに有して良い。係る実施例によるシステムの利点は、操作は、自動化された方法によって、及び/又は機械的な方法によって実行されて良い。
【0016】
当該システムは、前記粒子が所定の配向をとる状況下で、前記粒子への材料の注入及び/又は前記粒子からの材料の取り出しを行うように備えられた処理システムをさらに有して良い。係る実施例の利点は、粒子を生化学的に配向させる必要なく、より正確な粒子の処理が可能となることである。
【0017】
前記流れ発生装置は、0m/sから10-3m/sの間である前記層流の最大流れ速度を供するように備えられて良い。あるいはその代わりに、又はそれに加えて、前記流れ制御装置は、0m/sから10-3m/sの間である前記層流の最大流れ速度を供するように備えられて良い。前記流体チャネルの中心での速度である最大流れ速度は、少なくとも0mm/sから10-3m/sの間であって良い。あるいはその代わりに、又はそれに加えて、前記最大流れ速度は少なくとも10-5mm/s-たとえば10-4mm/sであり、たとえば10-3mm/s-であって良い。
【0018】
当該システムは、生体細胞を個別的に操作するように備えられて良い。
【0019】
本発明はまた、粒子を評価する評価システムに関する。前記粒子評価システムは、上述のように流体中で粒子を個別的に操作するシステムを有する。係るシステムはたとえば、流体チャネル中での前記流体の層流を発生させるように備えられた流れ発生装置、並びに前記流体の層流の流れによって誘起される前記粒子への正味の剪断力を制御することによる前記流体チャネル内での前記粒子の捕獲及び配向を行うように備えられた粒子操作装置を有する。前記評価システムはさらに、前記粒子の特性を決定するように備えられている。
【0020】
前記評価システムは、前記粒子若しくは該粒子に対して結合するラベルの磁気特性又は光学特性を検出する検出手段を有して良い。本発明による実施例の利点は、より正確及び/又はより効率的な粒子の評価を行うことが可能なことである。
【0021】
本発明はさらに、流体中で粒子を個別的に操作する方法に関する。当該方法は、流体チャネル中で前記流体の層流を発生させる手順、前記流体チャネル中で前記粒子を個別的に捕獲する手順、及び前記流体の層流によって誘起される前記粒子への正味の剪断力を制御することによって前記粒子を配向させる手順を有する。正味の剪断力を制御する手順は、剪断力勾配を有する剪断力場に前記粒子を導入することによって実行されて良い。前記粒子を配向させる手順は、前記流体の層流の流れ場での前記粒子の位置を変化させることによって、及び/又は前記流体の層流の流れ場での速度分布を変化させることによって、前記粒子の配向及び/又は回転を制御する手順を有して良い。それにより前記粒子は、他の側での剪断力よりも大きな一の側での剪断力によって回転して良い。その結果、前記粒子には正味の剪断力が生じる。前記制御手順は、前記粒子に対する剪断力勾配を発生させる層流場に前記粒子を運ぶ手順を有して良い。前記制御手順は、前記層流場をオンに切り換えることによって、前記粒子への剪断力勾配を誘起する手順を有して良い。前記粒子を操作する手順は前記粒子を配向させる手順であって良い。前記粒子を操作する手順は生体細胞を操作する手順であって良い。
【0022】
本発明はまた流体中の粒子の評価方法に関する。当該方法は、上述した流体中で粒子を操作する方法によって前記粒子を個別的に操作する手順であって、前記粒子の所定の配向が得られる手順、及び前記所定の配向での前記粒子の特性を決定する手順を有する。
【0023】
本発明はまた、上述したように流体中で粒子-たとえば生体細胞-を個別的に操作するシステムに使用される制御装置にも関する。
【0024】
本発明はまた、計算手段上で実行されるときに、流体中で粒子-たとえば生体細胞-を個別的に操作する方法を実行するコンピュータプログラム製品にも関する。当該方法は、流体チャネル中での前記流体の層流を発生させる手順、前記流体チャネル内で前記粒子を個別的に捕獲する手順、及び前記流体の層流によって誘起される前記粒子への正味の剪断力を制御することによって前記粒子を配向させる手順を有する。
【0025】
本発明はさらに、上述のコンピュータプログラム製品を記憶する機械読み取り可能なデータ記憶装置、及び/又は当該コンピュータプログラム製品の局所領域又は広域電気通信ネットワークにわたる伝送に関する。
【0026】
また本発明の実施例の利点は、対象物又は粒子-たとえば単一粒子-を配向させる効率的なシステム及び方法が得られることである。本発明の実施例の利点は、複雑な捕獲システム-たとえば多重スポット又は回転可能レーザービームを備えたレーザーシステム-を必要としないことである。さらに本発明の実施例の利点は、粒子の配向をより正確に行うことが可能なことである。また本発明の実施例の利点は、粒子の配向をより制御して行うことが可能なことである。本発明の実施例の利点は、捕獲された粒子-たとえば細胞-の初期配向-たとえばランダムな配向-を変化させ、かつ制御することが可能なことである。換言すると、本発明の特別な実施例は、制御しながら粒子を回転させることを可能にする制御機構を供する。また本発明の実施例の利点は、当該方法及びシステムを用いて配向した前記粒子への妨害、変化、及び/又は損傷は最小限に抑えられることである。それはたとえば、機械的接触が必要とされないからである。
【0027】
本発明の特別な態様及び好適態様は、添付の独立及び従属請求項に記載されている。従属請求項の事項は、適切であればたとえ請求項中に明示的に記載されていなくても、独立請求項の事項及び他の従属請求項の事項と組み合わせられて良い。
【0028】
本発明の教示は、粒子の評価及び/又は処理-たとえば粒子の光学的評価-を行うための改善された方法及び装置を設計することを可能にする。本発明の上記及び他の特徴、事項、及び利点は、添付の図と以降の詳細な説明から明らかとなる。添付の図は本発明の原理を例示している。本記載は、本発明の技術的範囲を限定せず、例示のみを目的としている。以降で引用される参照番号は、添付の図を指す。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1態様の実施例による粒子を操作するシステムの概略図である。
【図2】本発明の第1態様の実施例による粒子を操作するシステムで生じうるような、流体流内の粒子への前記流体流の影響を概略的に図示している。
【図3】本発明の第1態様の実施例による粒子を操作するシステムで利用されうるような、軸対称の流体チャネルの断面内での位置と速度の関係を表すグラフである。
【図4】本発明の第1態様の実施例による粒子を操作するシステムで利用されうるような、軸対称の流体チャネルの断面内での位置と剪断応力の関係を表すグラフである。
【図5】本発明の第1態様の第1特殊実施例による粒子の垂直及び水平位置設定手段として2つの光ピンセットを用いて粒子を操作する典型的システム(の一部)の概略図である。
【図6】本発明の第1態様の第1特殊実施例による粒子の垂直及び水平位置設定手段として2つの光ピンセットを用いて粒子を操作する典型的システム(の一部)の概略図である。
【図7】本発明の第1態様の実施例による粒子を操作するシステムに用いることが可能な光ビームによる細胞の位置設定の概略図である。
【図8】本発明の第1態様の第2特殊実施例による粒子の位置設定手段として1つの光ピンセットを用いて粒子を操作するシステムの概略図である。
【図9】本発明の第2態様の実施例による粒子を評価する評価システムの概略図である。
【図10】本発明の第4態様の実施例による粒子の操作方法を実行するのに用いることが可能なコンピュータシステムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
特定の図を参照しながら、具体的実施例について、本発明を説明する。しかし本発明は参照された具体的実施例によっては限定されず、「特許請求の範囲」に記載された請求項によってのみ限定される。示された図は単なる概略に過ぎず、非限定的である。図においては、例示目的のため、大きさが誇張され、かつ正しいスケールで描かれていない構成要素がある。
【0031】
さらに、明細書及び特許請求の範囲に記載されている第1、第2、第3等の語は、同様の構成要素を区別するために用いられており、必ずしも生起順序又は時系列順序を表すものではない。よって用いられているそれらの語は適切な状況下では同義であり、本明細書で説明されている本発明は、説明すなわち例示されている順序以外の順序での動作が可能であることに留意すべきである。しかも、明細書及び特許請求の範囲に記載されている上部、下部、上、下等の語は、説明目的で使用されており、必ずしも相対的位置を表すものではない。よって用いられているそれらの語は適切な状況下では同義であり、本明細書で説明されている本発明は、説明すなわち例示されている順序以外の順序での動作が可能であることに留意すべきである。
【0032】
本明細書全体を通じて「(一の)実施例」とあるのは、その実施例に関連して記載された特定の事項、構造、又は特徴が、本発明の少なくとも一の実施例中に含まれていることを意味する。よって本明細書を通じて様々な箇所で「(一の)実施例」という語句が散見されるとしても、これら全てが必ずしも同一の実施例について言及しているわけではない。ただしこれらが同一の実施例について言及しても良い。さらに一以上の実施例において、当業者が本開示から理解できるように、特定の事項、構造、又は特徴は、適切に組み合わせられて良い。
【0033】
同様に、本開示を簡略化するため、及び様々な発明の態様のうちの1つ以上の理解を助けるため、本発明の典型的実施例の記載では、本発明の様々な事項は時として一つの実施例、図、又はその説明中で一つにまとめられることがある。しかし開示された本方法は、請求項に係る発明が各請求項に明示的に記載された事項よりも多くの事項を要求しているという意図を反映していると解されてはならない。むしろ「特許請求の範囲」の請求項が反映しているように、発明の態様は、先に開示された単一の実施例の全ての事項よりも少ない事項しか存在しない。よって詳細な説明に従った請求項は、明らかにこの詳細な説明に含まれる。各請求項は本発明の各独立した実施例として存在する。
【0034】
さらに本明細書に記載された一部の実施例がある一部の事項を含み、かつ他の実施例には他の事項が含まれていない一方で、各異なる実施例の事項の組合せは、当業者にとって明らかなように、本発明の技術的範囲内に存在し、かつ異なる実施例を形成するものと解される。たとえば「特許請求の範囲」の請求項では、請求項に記載された実施例はいずれも組み合わせて用いられて良い。
【0035】
さらに実施例の一部は、コンピュータシステムのプロセッサ又はその機能を実行するための他の手段によって実装可能な方法又はその構成要素の結合として記載される。よって当該方法(の構成要素)を実行するのに必要な命令を備えたプロセッサは、その方法(の構成要素)を実行するための手段を形成する。さらに装置に係る実施例に記載された構成要素は、本発明の実行を目的とする構成要素によって実行される機能を実行する手段の一例である。
【0036】
本明細書で与えられた説明では、多数の具体的詳細が開示されている。しかし本発明の実施例はこれらの具体的詳細がなくても実施可能であることに留意して欲しい。他の例では、周知の方法、構造、及び手法は、本記載の理解を曖昧にするのを防ぐため、詳細には示していない。
【0037】
次の語又は定義は、本発明の理解を助けるためだけを目的として与えられる。
【0038】
本発明において「粒子」という語が用いられているが、この語は、化学、生化学、又は生体粒子といった、たとえば検出される必要がある粒子で、細胞器官、細胞膜、バクテリア、ウイルス、染色体、DNA、RNA、小さな有機分子、代謝体、酵素、ペプチド、核酸片、胞子、微生物、及びフラグメント含むタンパク質、その生成物、ポリマー、金属イオン、毒、不正薬物、火薬等が含まれるが、これらに限定されるわけではない。粒子は、0.1μmよりも大きな直径を有することが好ましく、0.5μmよりも大きな-たとえば1μmよりも大きな-直径を有することがより好ましい。そのようなものとして、粒子は典型的には、他の固有な拡散運動に悩まされなくなる。一部のDNA、RNA、核酸片等のような特に小さな粒子もまた、大きな粒子を配向又は位置設定するため、その大きな粒子と結合して良い。その粒子は生体細胞であって良い。
【0039】
本発明において「層流」という語が用いられているが、この語は、流れのチャネルの形状に依存して、層-たとえば平行又は同心円状の層-内に流れが生じるような流れの状態を意味する。その流れはまた、非乱流すなわち層流(streamline flow)とも呼ぶことができる。その流れは、たとえば粘性に対する密度と流体速度と平均チャネル径の積の比を表すレイノルズ数によって決定されても良い。本実施例では、その流れは、0〜10-たとえば0〜1及び0〜0.5-のレイノルズ数を有して良い。
【0040】
第1態様では、本発明は流体中で粒子を操作するシステムに関する。当該システムは、流体中での粒子の配向を可能にする。これは、粒子の特徴が検出されるべきであるが検出系に対してその粒子の背面に隠れている場合、又は検出若しくは処理するために所定の配向が好ましい場合に有利となる。当該システムは、単一粒子を操作する、つまり粒子-たとえば生体粒子-を個別的に操作するように備えられて良い。当該システムは、流体の層流を発生させる流れ発生装置、並びに、流体チャネル中での粒子の捕獲及び前記流体の層流によって誘起される前記粒子への剪断力の制御を行う粒子操作装置を有する。従って粒子操作装置は粒子捕獲システム-たとえば光捕獲システム-を有して良い。その粒子捕獲システムは、音響場、誘電泳動、チャネルの変形を用い、一部の粒子については電磁場を用いる。さらにその粒子捕獲システムは、流れ発生装置を制御する粒子位置制御装置及び/又は流れ制御装置を有して良い。
【0041】
各異なる標準的な構成部品及び任意の構成部品が、図1において例として図示されている。本発明は図1に限定されない。粒子104を操作する典型的システム100の各異なる構成部品は、図1から図8を参照しながらより詳細に論じられる。
【0042】
流体106中で粒子104を操作するシステム100は流れ発生装置108を有する。係る流れ発生装置108はたとえば、(部分的又は全体的に)能動的な流れ発生装置であって良く、たとえば流体チャネル102を介して流体106を送り出すポンピング手段を有して良い。その制御は前記ポンピング手段を制御することによって行われる。かつ/あるいは、流れ発生装置108は(部分的又は全体的に)受動的な流れ発生装置であって良い。その流れは、たとえば静水圧又は毛管力のような自然の力によって発生し、かつその流れの制御は(一組の)バルブを用いて行われる。流れ発生装置108は、流体チャネル102内で層流を発生させるように備えられている。ここで、流体106内で粒子104の操作が行われる。所与の流体粘性及び密度並びに所与の流体チャネルの寸法で層流が得られるような流体速度を発生させるように、流れ発生装置108は備えられて良い。ある流体で層流が発生するとき、流れのチャネル内の様々な位置で様々な剪断応力が存在する。そのような流れはたとえば、0〜4000のレイノルズ数によって評価されて良く、好適には0〜3000のレイノルズ数によって評価されて良く、もっと好適には0〜2000のレイノルズ数によって評価されて良い。流れ発生装置108はたとえば、0〜10-3m/s-たとえば0〜10-4m/s、0〜10-4m/s、0〜10-5m/s、0〜10-6m/s-の流体速度を供するように備えられて良い。システム100内での流体チャネル102の寸法及び形状もまた、層流条件を容易に得るのに適切な範囲内となるように備えられて良い。流体チャネル102は平面形状-たとえば軸対称な形状-であって良い。よって同心円状の層流が発生する。つまり流体速度が半径方向プロファイルを有し、流体チャネルの中心では、流体流中の粒子104には正味の剪断力が実質的に存在しない。流体チャネル102はまた、実質的に長方形の形状であっても良い。つまり流体流はたとえば、2つの平板間の流体流であって良い。理解を容易にするため、実施例及び例は、軸対称の形状を有する平面状流体チャネルについて説明する。とはいえ本発明はこれらの実施例や例に限定されない。たとえばそれぞれ固有の流体流速度プロファイルを有する流体チャネル102の他の形状が用いられても良い。流体チャネル102の断面内には、いずれの側の流速も実質的に等しくなることで粒子104に実質的に正味の剪断力が発生しない地点が少なくとも1点存在することが好ましいとはいえ、本発明はそのことに限定されない。以降で例示するように、たとえば流体流を制御することによって回転を制御することも可能である。
【0043】
層流を発生させることによって、一般的には流体チャネル102内の各異なる地点で各異なる流体速度が生じる。後者は、軸対称の流体チャネル102の例について、図2-4に図示されている。しかい本発明はこれに限定されるわけではない。図2では、流体流が存在し、かつ粒子104が流体チャネルの中心に位置していない場合には、その粒子には回転が誘起される。回転は、矢印rで示された方向に生じる。粒子の回転速度は、流れの速度とチャネル内の細胞の位置に依存すると考えられる。この回転は、流体106内での粒子104の2つの異なる側での流速の差異によって誘起される。軸対称の流体チャネル102の直径に沿った速度プロファイルが図3に図示されている。図3は流速の差異を示している。係る速度プロファイルは、図4に図示されているような粒子への剪断応力を誘起する。剪断応力勾配は、管の中心軸上の位置-流体チャネルのより一般的な形状については流体チャネルの中心-を除く全ての位置での層流によって誘起される。位置の関数として剪断応力を表している図4のグラフから分かるように、流体チャネル102内の中心位置では剪断応力がゼロであるために回転が生じないが、流体チャネル102の壁に近づくと剪断応力が大きくなるために回転が起こる。換言すると、層流が発生する場合、流体チャネルの中心(軸)に存在しない粒子は一の方向での回転を開始する。粒子の位置に依存して、負又は正の剪断応力が誘起されることで、各異なる方向での粒子104の回転が可能となる。
【0044】
上述したように、システム100はまた粒子操作装置110をも有する。粒子操作装置110は、流体チャネル102内で粒子を捕獲するように備えられている。従って粒子操作装置110は粒子捕獲システム111を有することが好ましい。粒子捕獲システム111は、流体の流れる方向に対して実質的に垂直な断面内で関心粒子104を捕獲するように備えられて良い。粒子捕獲システム111は任意の適切な捕獲機構に基づいても良い。適切な捕獲機構とはたとえば、たとえば光ピンセットを用いた光捕獲機構、誘電泳動を用いた機構、音響場を用いた機構、流体チャネル102の変形-たとえば収縮-を生じさせる機構であり、電磁場に敏感な粒子が用いられる場合には電磁力を用いた機構である。操作されるべき粒子が捕獲機構で用いられる力に対して敏感でない場合、その粒子はたとえば、捕獲機構で用いられる力に対して敏感である適切なレベルに結合して良い。たとえば磁気捕獲機構が用いられるとき、捕獲される粒子は、磁気ラベル又は磁化可能なラベルに結合する非磁性の粒子であって良い。粒子捕獲システム111は、付与される流体流によって粒子104がさらに流体チャネル102内へ引き込まれるのを防ぐことができるのに十分な力によって、粒子104を捕獲するように備えられていることが好ましい。例示として、流速によって誘起される力が印加されている状態で粒子が引き離されるのを防ぐことのできる捕獲システムの例が図示されている。光ピンセットはたとえばピコニュートン範囲に属する力を印加して良い。定常状態では、流れる流体によって及ぼされる球状細胞への力は3πηVDで与えられる。ここで、Vは流体流速度、ηは流体の粘性で、Dは細胞の直径である。η=1・10-5mを用いて、かつ抵抗力を1・10-12Nに設定することによって、1・10-5m/sの流速を容易に補償できることが分かる。
【0045】
さらに粒子操作装置110は、流体チャネル102内の粒子104へ及ぼされる流体の層流によって誘起される正味の剪断力を制御するように備えられている。従って粒子操作装置110は、流体の層流の流れ方向に対して実質的に垂直な方向での粒子の位置又はオフセットを制御する粒子位置制御装置112を有して良い。粒子位置制御装置112は、少なくとも流れの方向に対して垂直な成分を有する方向に、流体チャネル102内で捕獲されている粒子を移動させるように-つまり特定の位置から粒子のオフセットをとるように-備えられて良い。それにより粒子位置制御装置112は、層流によって誘起される正味の剪断力が存在する地点に対して粒子104を動かすことが可能である。このようにして、粒子104を正味の剪断力が存在しない地点から正味の剪断力が存在する地点へ動かし、十分な回転が得られた後に、粒子104を正味の剪断力が存在しない地点へ戻すことによって、粒子104の回転が制御されて良い。たとえば軸対称の流体チャネル102については、流体チャネル102の中心地点又は中心軸に近づけ、かつ遠ざけるように変位させることが可能となることで、流体の層流によって誘起される正味の剪断力場内に粒子104を運び、かつ該正味の剪断力場の外へ粒子104を運ぶことが可能となる。換言すると、粒子位置制御装置112は、勾配を有する流れの場内に粒子104を運び、かつ該場の外へ粒子104を運ぶことが可能となる。好適実施例では、粒子捕獲システム及び粒子位置制御装置112は同一構成部品であって良い。よって少なくとも粒子を操作するシステムに要求される構成部品は少なくなる。あるいはその代わりに、別個の独立した粒子位置制御装置112が供されても良い。粒子位置制御装置112は、たとえば光ピンセットを用いた光による力、誘電泳動、音響場の力、たとえば流体チャネル102の変形を用いた力学による力、電磁的粒子が考慮される場合には電磁力等に基づいて良い。
【0046】
あるいはその代わりに、又はそれに加えて、たとえば流体チャネル102内に正味の剪断力が存在しない地点が存在しない場合-それに限定されるわけではないが-、誘起される正味の剪断力の制御は、流れ発生装置108によって発生する層流を制御することによって実現されて良い。換言すると、粒子位置制御装置の代わりに、又は該粒子位置制御装置に加えて、粒子操作装置110は、流れ発生装置108の動作を制御する流れ制御装置113を有して良い。さらに動作の制御は、流体チャネル102内で発生する流体の流速の制御を有して良い。換言すると、流れ制御装置113は、流れの場のオン/オフを切り換えるのに用いられて良く、任意で流れの場がオンのときには流れの場の強さを変化させるのにも用いられて良い。後者は、当該システムによって回転速度を変化させることを可能にする。流れ制御装置113は、流れ発生装置108と直接接続して良いし、又はシステム制御装置を介して流れ発生装置と接続しても良い。流れ制御装置及び/又は流れ発生装置は、チャネル内での最大流速が0〜10-3m/sとなるように流れを制御するように備えられて良い。あるいはその代わりに又はそれに加えて、流れ制御装置は、0〜10-3m/sの流体の層流の最大流れ速度-たとえば0〜10-4m/s、0〜10-5m/s、及び0〜10-6m/s-を供するように備えられて良い。流体チャネルの中心での速度であって良い最大流速は0〜10-3m/sであって良い。あるいはその代わりに又はそれに加えて、最大流速は少なくとも10-5m/s-たとえば少なくとも10-4m/s、10-3m/s -であって良い。
【0047】
よって粒子操作装置112は、正味の剪断力場での粒子104の位置を変化させることによって、又は正味の剪断力場のオン/オフを切り換える-たとえば層流のオン/オフを切り換える-ことによって、粒子への剪断力を制御して良い。
【0048】
流体106で粒子104を操作するシステム100は、粒子操作装置110及び流れ発生装置108を制御するシステム制御装置116をも有して良い。システム制御装置116は、粒子操作装置110と流れ発生装置108との動作を同期させる同期装置118を有して良い。粒子操作装置110と流れ発生装置108との動作とはたとえば、粒子捕獲システム111、流れ発生装置108、及び粒子位置制御装置112又は流れ制御装置113のいずれかの間での動作である。よってこれらの構成部品には、同期信号を受信する入力手段が備えられて良い。同期は任意で、フィードバックシステム114の入力に基づいて良い。システム制御装置116は、各異なる動作を実行するプロセッサ120をさらに有して良い。システム制御装置116は、所定のアルゴリズムに基づいて動作して良いし、参照テーブルを用いて動作しても良く、ニューラルネットワークに基づいて動作しても良く、又は他の適切な方法で動作しても良い。操作システムは、自動化された方法によって、及び/又は機械的な方法によって動作して良い。
【0049】
好適実施例では、粒子104を操作するシステム100はフィードバックシステム114を有して良い。前記フィードバックシステム114は当該システム100のさらなる安定化を助けて良い。そのようなフィードバックシステム114を供する一の方法は、粒子104の位置及び/又は配向を決定する位置及び/又は配向検出器115を備えることである。位置及び/又は配向検出器115から得られた位置及び/又は配向の情報は、フィードバックシステム114によって制御装置116へ出力されるか、又は粒子操作装置110へ直接出力される。それにより、所望の位置での粒子104の位置設定、及び/又は所望の角度にわたる粒子104の回転が可能となる。位置及び/又は配向検出器は、たとえば光検出器に基づいた光検出システムであって良い。位置及び配向の光学検出は、固有のラベルを粒子104-たとえば粒子表面-へ供することによって、かつ粒子104での固有ラベルの位置を検出することによって助けられて良い。係るラベルは励起されて良く、たとえば励起用照射線源のような対応する励起手段-たとえば蛍光ラベル、ラベル励起用の電磁場発生装置-もまた供されて良い。あるいはその代わりに固有ラベルはまた、粒子の形状又は構造中に固有に存在しても良い。そのため粒子の回転の時間スケールは、フィードバック機構からの適切なフィードバックを得るのに適している。上述したように決定された最大流速の例については、直径が0.1μm範囲の粒子は、1秒オーダーの回転の時間スケールを有する。
【0050】
例示によって、本発明の第1態様に係る特定実施例についてより詳細に論じるが、本発明はこの実施例に限定されない。
【0051】
第1特定実施例では、本発明は、上述したように流体106内で粒子104を操作するシステム200に関する。ここでは、粒子104の捕獲及び粒子104への正味の剪断力の制御が同一構成部品によって実行される。たとえば粒子104への正味の剪断力の制御が粒子104の位置の制御によって実行される場合、位置の制御は、捕獲システムと同一の機構を用いて実行されて良い。従って本実施例では、捕獲システム111は、流体流に対して垂直な方向に少なくとも1つの成分を有する方向に粒子を移動させるように備えられて良い。捕獲システム111は、流体の流れに対して実質的に垂直な断面内で実質的に粒子を移動させるように備えられて良い。ここで粒子は捕獲されている。好適実施例では、粒子の位置設定は、流体の流れに対して垂直な2つの平行ではない方向で実行される。試料の捕獲及び位置設定のいずれをも可能にするシステム構成要素の一例は、たとえば図5及び図6に例として図示されている1組の交差する光ピンセット202と204であって良い。係る交差した光ピンセット202と204は、流体チャネル102の断面内での粒子の捕獲及び粒子の移動を可能にする。よって断面は流体106の流れる方向に対して垂直な断面であって良い。本発明の利点は、粒子の捕獲及び位置設定を行うのに必要な構成部品数が制限されることである。
【0052】
例として、平面流体チャネル102を備えたシステム200が図5及び図6に図示されている。本発明はこの例に限定されるわけではない。捕獲と移動の両方を行う光ピンセット202、204は、流れの方向に対して実質的に垂直な面内で粒子104を捕獲することを可能にする。粒子104の配向は、粒子104への正味の剪断力を誘起する流体流内で粒子を位置設定することによって変化して良い。従って粒子は、流体チャネル102の中心から離れるように再度位置設定されて良い。粒子104がすでに流体チャネル102の中心から外れている場合には、そのような再度の位置設定は不要である。流体流は、連続的であって良いし、又は粒子104の再度の位置設定と同期しても良い。その同期は、たとえば粒子104が中心から外れるように移動した後に流体流を開始し、適切な配向が得られた後にその流体流を中止することによって行われて良い。流体速度及び/又は流体チャネル102の断面内での粒子104の位置に依存するので、粒子104はある程度回転する。それにより回転は、粒子104へ及ぼされる非対称な応力によって引き起こされる。配向が変化する速度は、流体速度を変化させることによって変化して良い。適切な配向が得られるとき、粒子104を流体チャネル102の中心に(再度)位置設定することによって、回転を止めることができる。上述したように、あるいは流体流をオフに切り換えることが可能なため、流体速度は0m/sとすることができる。適切な配向を得るには、回転運動に対する粒子104の慣性が考慮されることに留意して欲しい。
【0053】
x方向及び/又はy方向での捕獲された粒子104の位置を変更することは、使用されている光ピンセット202、204-たとえばレーザー-の焦点を変化させることによって実現されて良い。後者はたとえば、制御及び調節可能なレンズ-たとえば流体レンズ-を用いて行われて良いし、たとえばエレクトロウエッティングの原理に基づいても良いし、又はレンズをシフトさせることによって焦点を力学的に変化させることによって実現されても良い。流体流を変化させることは、流れ発生装置108を用いることによって実行されて良い。流体チャネル内の適切な位置に細胞を位置設定することによって、任意の所望の配向に向かうような回転を得ることが可能なことは利点である。2つの交差した光ピンセット202、204を用いることによって、一方向での粒子の動きをカバーする機械部分が不要となりうる。係る実施例の利点は、x方向とy方向で対称的な力が得られることである。2つの照射ビーム206,208を用いた流体チャネル102の断面内での粒子104の位置設定の様子が図7に図示されている。
【0054】
第2特定実施例では、本発明は上述の-たとえば第1特定実施例のような-システム250に関する。しかし粒子操作装置110は、機械的に動かすことが可能な単一の光ピンセット252に基づく。換言すると、所与の方向については1つの光照射源-たとえばレーザー-しか用いられない。そのため、第2方向での粒子の位置設定は、必要であれば、スライダ254上の光照射源を移動させることによって行われる。そのような移動はたとえば、機械的方法、電気的方法、磁気的方法などで行われて良い。とはいえ本発明はこれらに限定されるわけではない。第2特定実施例による典型的システム250が例として図8に図示されている。
【0055】
さらなる実施例では、本発明は粒子104を操作するシステム100に関する。当該システム100はさらに処理システム130を有する。処理システム130によって粒子104は処理される。処理システム130は生体外処理であって良い。そのため粒子の配向が重要となりうる。前記処理システム130は、前記粒子へ材料を注入するか、又は前記粒子から材料を取り出すシステムであって良い。前記処理システム130はたとえばマイクロ注入システムであって良い。粒子104内でのマイクロ注入は、その粒子の配向を制御した状態で行われて良い。あるいは代わりに、又はそれに加えて、前記処理システム130はまた、粒子のエレクトロポレーション又は衝突等を起こすシステムであっても良い。本発明によるシステムを用いて実行できる一部の典型的手法は、細胞のトランスフェクション及び生体外受精である。しかし本発明はこれらに限定されるわけではない。処理システム130は図1において概略的に図示されている。
【0056】
本態様による実施例の利点は、単一粒子の配向を制御できることである。
【0057】
第2態様では、本発明は粒子を評価する評価システムに関する。第1態様で述べた粒子を個別的に操作するシステムが含まれる。よって評価システム600は、上述したように粒子104を個別的に操作するシステムを有し、さらに粒子104の特性を決定する検出システム602を有して良い。前記検出システム602は、励起システム、及び、捕獲され任意で配向する粒子104を励起し、かつその応答を検出する検出する検出器を有して良い。あるいはその代わりに、又はそれに加えて、評価システム600はまた、粒子の詳細を光学的に検査-たとえば可視化検査-することをも可能にする。その検出器はたとえば、粒子からの蛍光応答を検出する光検出器-たとえば蛍光検出器-であって良いし、又は磁気特性を検出する磁気検出器-たとえばホール検出器若しくは磁気抵抗検出-であっても良い。評価システム600はまたラベルに基づく検出を利用しても良い。この検出ではラベルは所定の特性を有する粒子と選択的に結合し、かつラベルの検出は前記所定の特性を有する粒子の定量化と評価を可能にする。換言すると、評価システム600は、粒子-たとえば細胞膜-でのラベル検出に用いられて良く、かつ/又は前記粒子104の特性の評価に用いられても良い。評価システム600は、粒子の複数の異なる配向について粒子の特性を検出するように備えられて良い。前記検出はたとえば、粒子の複数の所定の配向を供し、かつ各所定の配向について特性を評価又は検出することによって行われる。操作システム100はたとえば、ラベル又は関心ある他の特性が、粒子104の背後で隠されているか否か-つまり評価又は検出する上で隠されているか否か-をチェックするのに用いられて良い。このようにして、定性的に良好な評価が、本発明による評価システムを用いることによって得ることが可能である。検出システム602に加えて、検出システム602からの検出情報を受信し、かつその検出情報を処理し、任意で解析する処理手段604をも有することが好ましい。処理された結果はユーザーへ出力されて良い。前記処理手段604は、任意の適切な手法で情報を処理し、かつ自動化した手法又は機械的に処理されて良い。適切な手法とはたとえば、所定のアルゴリズム、ニューラルネットワークに基づくことである。
【0058】
評価システム600はまた、粒子の運動を研究するのに特に適していると考えられる。粒子104は典型的には異方的な運動特性を有していると考えられる。そのため粒子の運動-たとえば細胞の運動-は、粒子-たとえば細胞-の機能を理解する上で基本的に重要であると考えられる。たとえば細胞の運動が病気と強い関連を有するので、評価システムは、たとえば病気の研究又は診断といった腫瘍学に用いられて良い。
【0059】
第3態様では、本発明は、たとえば第1態様で述べたように、システム100内での粒子の個別操作を制御するシステム制御装置116に関する。システム制御装置116は、粒子104を個別的に操作するシステム100の全体的動作を制御して良い。流れ発生装置108及び粒子操作装置110は典型的には、システム制御装置116と接続して良い。さらにシステム制御装置116はフィードバックシステムからの入力を取得して良い。本態様によるシステム制御装置116は、流体106の層流を発生させるシステムの流れ発生装置を制御するように備えられ、かつ流体チャネル102内で粒子104を捕獲して流体の層流によって誘起される粒子104への剪断力を制御する粒子操作装置を制御するように備えられている。後者は、所定の又は計算した制御信号を、流れ発生装置108及び粒子操作装置110へ供することによって実行されて良い。剪断力の制御は、粒子位置制御装置112及び/又は流れ発生装置108を制御する流れ制御装置113を制御することによって実行されて良い。システム制御装置116はまた、存在する場合には流れ制御装置113を有して良いので、その動作を実行して良い。さらにシステム制御装置116は、流れ発生装置及び粒子操作装置を制御する制御パラメータを記憶するメモリを有して良い。その制御装置は、たとえばマイクロプロセッサのような計算装置を有して良い。その制御装置はたとえばマイクロ制御装置であって良い。具体的にその制御装置は、たとえばプログラマブルロジックデバイスのようなプログラマブル制御装置を有して良い。プログラマブルロジックデバイスとはたとえば、プログラマブルアレイロジック(PAL)、プログラマブルロジックアレイ、プログラマブルゲートアレイ、特にフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)である。FPGAを用いることで、たとえばFPGAの必要なセットをダウンロードすることによって、操作システム100を順次プログラミングすることが可能となる。システム制御装置116は設定可能パラメータによって操作されて良い。
【0060】
第4態様では、本発明は流体106内で粒子104を個別的に操作する方法に関する。本態様によると、流体チャネル102内で流体106の層流が得られるように、流体流は発生する。後者は、粒子104を有する流体の流れを受動的かつ/又は能動的に供することによって実行されて良い。能動的に供することはたとえば、流体チャネル102を介して流体106を送り出すことによって実現されて良い。流体流を受動的に供することは、たとえば毛管力や静水圧といった自然の力で流れが誘起される場合に実現されて良い。流れの制御はバルブを制御することによって供される。その結果流体を通過させ、又は通過させないことが可能となる。当該方法はさらに流体チャネル102内で粒子104を捕獲する手順を有する。後者は、粒子104を光学的に捕獲-たとえば光ピンセットを用いて-することによって、流体チャネル102を変形させることによって、音響場を印加することによって、電磁場を印加すること等によって実行されて良い。当該方法はさらに、層流によって誘起される粒子104への正味の剪断力を制御する手順を有する。そのような制御は、流れの場に粒子104を運ぶことで粒子104への正味の剪断力を生じさせることによって、又は流れ場をオンに切り換えて粒子104への剪断力勾配を誘起することによって実行されて良い。後者は、たとえば所定の配向に従って粒子104を配向させることを可能にする。一の実施例では、本発明の本態様による方法はまた、所定の配向下で粒子104を処理する手順をも有して良い。前記処理はたとえば粒子104のマイクロ注入であって良い。当該方法は、本発明の第1態様に記載されたように、システム100を用いて実行されるのに特に適していると考えられる。各異なる構成部品の機能は、本発明の本態様の考えられ得る方法の手順に対応する。
【0061】
第5態様では、本発明は粒子104の評価方法に関する。当該方法は、第4態様で述べたように粒子104を個別的に操作する方法の手順を有する。さらに当該方法は、粒子104の特性を決定する手順を有する。後者は、粒子104を励起する手順、及び粒子104の物理的応答-たとえば蛍光信号、磁気応答、電気応答等-を検出する手順を有して良い。粒子104の特性を決定する手順はまた、粒子104を特定する手順、又は粒子104がある特定のカテゴリーに属しているのか否かをチェックする手順をも有して良い。粒子104の特性を決定する手順はまた、粒子104についての粒子の運動を決定する手順をも有して良い。なぜなら後者は一部の病気の認識又は検出を可能にするからである。さらに評価方法は、粒子の各異なる配向について粒子104の特性を決定する手順を有して良い。後者はたとえば、粒子の各異なる配向について、又はより一般的には得られた評価結果の信頼性を向上させるため、ある特定の特性が粒子104によって隠されているか否かを検出することを助けることができる。第4態様に記載され、かつたとえば本発明の第1及び第2態様の構成部品の機能によって表現されるように、同様の手順及び特徴がさらに供されて良い。
【0062】
本発明の上述した方法の実施例は、図10に図示されたような処理システム700によって実施されて良い。図10は処理システム700の一の構成を図示している。前記一の構成は、メモリサブシステム705と結合する少なくとも1つのプログラマブルプロセッサ703を有する。メモリサブシステム705は、少なくとも1つの形式のメモリ-たとえばRAM、ROM等-を有する。(複数の)プロセッサ703は、汎用プロセッサ又は特殊用途向けプロセッサであって良く、かつあるデバイス-たとえば他の機能を実行する他の構成部品を有するチップ-内に含まれていて良い。よって本発明の1つ以上の態様は、デジタル電子回路、若しくはコンピュータハードウエア、ファームウエア、又はこれらの結合したものの中で実施されて良い。処理システムは、少なくとも1つのディスクドライブ、及び/又はCD-ROM、及び/又はDVDドライブを有する記憶サブシステム707を有して良い。実施例によっては、ディスプレイシステム、キーボード、及びポインティングデバイスが、ユーザーが情報を手動で入力するためのユーザーインターフェースサブシステム709の一部として含まれて良い。入出力データ用ポートが含まれても良い。より多くの構成要素-たとえばネットワーク接続、様々なデバイスへのインターフェース等-が含まれて良いが、これらは図10には図示されていない。処理システムの様々な構成要素は様々な方法で-たとえば図10に図示されたバスサブシステム713を介して-結合して良い。図10では簡明を期すため、1つのバスしか図示されていないが、当業者は、少なくとも1つのバスのシステムを含むことを分かっている。メモリサブシステム705のメモリは、処理システム700上で実行されるときに本明細書に記載した方法の実施例を実施する1組の命令の一部又は全部(いずれの場合についても711として図示されている)をある段階で保持することになるだろう。よってたとえば図10に図示された処理システム700は従来技術である一方で、粒子の操作又は評価を行う方法の態様を実施する命令を含むシステムは従来技術ではない。従って図10には従来技術のラベルが付されない。
【0063】
本発明はまた、計算デバイス上で実行されるときに本発明による方法のいずれかの機能を供するコンピュータプログラム製品をも有する。当該コンピュータプログラム製品は、プログラマブルプロセッサによって実行される機械による読み取りが可能なコードを有するキャリア媒体内で有用に実施されて良い。よって本発明は、計算手段上で実行されるときに、上述の方法のいずれかを実行する命令を供するコンピュータプログラム製品を有するキャリア媒体に関する。「キャリア媒体」という語は、実行用プロセッサへ命令を供することに関与する媒体を指称する。当該媒体は、多くの形態をとって良い。その多くの形態には、不揮発性媒体及び伝送型媒体が含まれるが、これらに限定されるわけではない。不揮発性媒体はたとえば、光又は磁気ディスク-たとえば大量記憶媒体の一部としての記憶デバイスのような-を有する。コンピュータにより読み取り可能な媒体の一般的な形態には、CD-ROM、DVD、フレキシブルディスク若しくはフロッピー(登録商標)ディスク、テープ、メモリチップ、若しくはカートリッジ、又はコンピュータが読み取り可能な他の媒体形式が含まれる。コンピュータにより読み取り可能な媒体の様々な形態には、実行用プロセッサへの1つ以上の命令からなる1つ以上のシーケンスの実行が含まれる。コンピュータプログラム製品はまた、ネットワーク-たとえばLAN、WAN、又はインターネット-での搬送波を介して伝送されても良い。伝送媒体は、音波又は光波の形態-たとえば高周波及び赤外データ通信中に生成されるような波の形態-をとって良い。伝送媒体は、同軸ケーブル、銅線、及びファイバ光学系を有する。これにはコンピュータ内にバスを有するワイヤが含まれる。
【0064】
本発明の特定実施例の利点は、これらが粒子-たとえば細胞-の研究において有利に用いられ得ることである。また本発明の特定実施例の利点は、当該方法が医学及び細胞科学の分野において用いられ得ることである。
【0065】
本発明の特定実施例の利点は、単一細胞の配向が決定可能なことである。
【0066】
本発明による素子について、好適実施例、特定の構造、構成、及び材料が論じられているとはいえ、本発明の技術的範囲から逸脱することなく、様々な詳細及び形式を変化させたものや修正したものを設計することが可能であることに留意すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体中の粒子を個別的に操作するシステムであって:
流体チャネル内に前記流体の層流を発生させるように備えられた流れ発生装置;及び
前記流体の層流によって誘起される前記粒子への正味の剪断力を制御することによって、前記の流体チャネル内の粒子を捕獲し、かつ配向させるように備えられている粒子操作装置;
を有するシステム。
【請求項2】
前記粒子操作装置は、前記流体の層流の流れの方向に対して実質的に垂直な方向での前記粒子の位置を制御する粒子位置制御装置を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記粒子位置制御装置は、前記粒子への所定の正味の剪断力が前記層流によって誘起される前記流体チャネル内での所定位置へ、前記粒子を移動させるように備えられている、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記流体チャネルの形状が、前記流体チャネルが前記粒子の捕獲領域内に少なくとも1つの位置を有するようにされ、
層流が存在するときには前記粒子へは正味の剪断力が作用しない、
請求項1-3のいずれかに記載のシステム。
【請求項5】
前記流体の層流によって誘起される前記粒子への正味の剪断力を制御するように備えられた前記粒子操作装置は、前記流れ発生装置によって発生する前記流体の層流の流れの強さを制御するように備えられている、請求項1-4のいずれかに記載のシステム。
【請求項6】
前記粒子操作装置は、前記流れ発生装置によって発生する前記流体の層流の流れの強さを制御する流れ制御装置を有する、請求項1-5のいずれかに記載のシステム。
【請求項7】
前記粒子操作装置は少なくとも1つのピンセットを有する、請求項1-6のいずれかに記載のシステム。
【請求項8】
前記粒子操作装置は少なくとも1つの誘電泳動トラップを有する、請求項1-7のいずれかに記載のシステム。
【請求項9】
粒子の位置及び配向を決定し、かつ前記粒子操作装置へフィードバック制御を供するフィードバックシステムをさらに有する、請求項1-8のいずれかに記載のシステム。
【請求項10】
前記粒子が所定の配向をとる状況下で、前記粒子への材料の注入及び/又は前記粒子からの材料の取り出しを行うように備えられた処理システムをさらに有する、請求項1-9のいずれかに記載のシステム。
【請求項11】
前記流れ発生装置が、0m/sから10-3m/sの間である前記層流の最大流れ速度を供するように備えられている、請求項1-10のいずれかに記載のシステム。
【請求項12】
生体細胞を個別的に操作するように備えられている、請求項1-11のいずれかに記載のシステム。
【請求項13】
粒子を評価する評価システムであって、
請求項1-12のいずれかに記載された、流体中で粒子を個別的に操作するシステムを有し、かつ
前記粒子の特性を決定するように備えられている、
評価システム。
【請求項14】
前記粒子若しくは該粒子に対して結合するラベルの磁気特性又は光学特性を検出する検出手段を有する、請求項13に記載の評価システム。
【請求項15】
流体中で粒子を個別的に操作する方法であって:
流体チャネル中で前記流体の層流を発生させる手順;
前記流体チャネル中で前記粒子を個別的に捕獲する手順;及び
前記流体の層流によって誘起される前記粒子への正味の剪断力を制御することによって前記粒子を配向させる手順;
を有する方法。
【請求項16】
前記粒子を配向させる手順は、前記流体の層流の流れ場での前記粒子の位置を変化させることによって、及び/又は前記流体の層流の流れ場での速度分布を変化させることによって、前記粒子の配向及び/又は回転を制御する手順を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
流体中の粒子の評価方法であって:
請求項15又は16に記載された、流体中で粒子を操作する方法によって前記粒子を個別的に操作する手順であって、前記粒子の所定の配向が得られる手順;及び
前記所定の配向での前記粒子の特性を決定する手順;
を有する方法。
【請求項18】
請求項1-12のいずれかに記載された、流体中で粒子を個別的に操作するシステムに使用される制御装置。
【請求項19】
計算手段上で実行されるときに、流体中で粒子を個別的に操作する方法を実行するコンピュータプログラム製品であって、
当該方法は:
流体チャネル中での前記流体の層流を発生させる手順;
前記流体チャネル内で前記粒子を個別的に捕獲する手順;及び
前記流体の層流によって誘起される前記粒子への正味の剪断力を制御することによって前記粒子を配向させる手順;
を有するコンピュータプログラム製品。
【請求項20】
請求項19に記載のコンピュータプログラム製品を記憶する機械読み取り可能なデータ記憶装置。
【請求項21】
局所領域又は広域電気通信ネットワークにわたる当該コンピュータプログラム製品の伝送。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−510803(P2010−510803A)
【公表日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−538840(P2009−538840)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際出願番号】PCT/IB2007/054841
【国際公開番号】WO2008/068680
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】