説明

流体輸送装置、流体輸送装置の駆動方法

【課題】正確な総吐出量を制御できる流体輸送装置を実現する。
【解決手段】流体輸送装置1は、チューブ50と、突起部22〜25を有するカム20と、チューブ50とカム20の間にチューブ50に沿って配設されるフィンガー40〜46と、を有し、カム20を回転させて、突起部22〜25によりフィンガー40〜46を流体の流動方向に順次押動し、チューブ50の圧閉と開放を繰り返して流体を吐出する流体輸送装置であって、カム20に回転力を与える駆動ローター120と、カム20の回転位置を検出する検出部と、累積吐出量がカム20の回転角度にほぼ比例して増加する吐出領域Hの第1近似式と、カム20が回転しても累積吐出量がほとんど増減しない一定領域Jの第2近似式と、を用いて、累積吐出量に対するカム回転角度を演算し、指定累積吐出量に相当するカム20の回転位置に達するまで駆動ローター120を駆動させる制御部140と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少量の流体を低速で吐出する流体輸送装置と、この流体輸送装置の駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体を低速で輸送する装置としてペリスタポンプが従来から知られている。ペリスタポンプは、ローター上に複数個のローラーが同一円周上に配設され、ローターの外周を取り巻くようにチューブが配設されており、ローターを回転させることで、複数個のローラーによりチューブを液体流動方向に押し潰していき、押し潰し位置を移動していくことで液体を吐出するものである(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−92537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ペリスタポンプは、微量な吐出を行う場合には、ローターを小刻みに駆動・停止しながら回転することになり、ペリスタポンプ特有の脈流が発生し、吐出量にばらつきが発生する。そこで、特許文献1では、ローターの小刻みな駆動・停止位置毎における吐出量を予め測定して記憶させておき、ローターの回転角度に相当する吐出量の和を演算して、必要な総吐出量分、ローターの回転角度を制御している。
【0005】
しかしながら、ペリスタポンプは、液体流動の過程においてローターの回転角度毎に吐出量が変動するという特性がある。従って、ローターの回転角度を細かく分割して、その分割毎の吐出量を測定、記憶させておき、ローターの回転が進行するたびに、角度毎の吐出量の和を演算しなければならず、演算を担当するCPU、ローター回転角度と吐出量の演算結果を記憶及び書き換えを行うメモリーなど、ローター回転角度制御手段の負荷が大きくなるという課題を有していた。
【0006】
さらに、ローターの1回転当りの総吐出量のデータを予めメモリー中に記憶しておいて、ローターの回転角度を求めることが特許文献1に開示されているが、ローターの1回転中においてローター回転角度毎に吐出量の揺らぎがあるため、正確な総吐出量を把握することが困難という課題を有する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]本適用例に係る流体輸送装置は、流体を吐出する流体輸送装置であって、弾性を有するチューブと、n個(nは2以上の整数)の突起部を有するカムと、前記チューブと前記カムとの間に前記チューブに沿って配設される複数の押圧軸と、前記カムを回転させて、前記突起部によって前記複数の押圧軸を前記流体の流動方向に順次押動し、前記チューブの圧閉と開放とを繰り返す駆動手段と、前記カムの回転位置を検出する検出部と、累積吐出量が前記カムの回転角度に比例して増加する吐出領域を表す第1近似式と、前記カムが回転しても累積吐出量が増減しない一定領域を表す第2近似式と、を用いて、累積吐出量に対するカム回転角度を演算し、指定累積吐出量に相当する前記カムの回転位置を前記検出部にて検出するまで前記駆動手段を駆動させる制御部と、を有することを特徴とする。
【0009】
本適用例によれば、累積吐出量に対するカム回転角度を、累積吐出量がカムの回転角度に比例して増加する吐出領域を表す第1近似式と、カムが回転しても累積吐出量が増減しない一定領域を表す第2近似式との二つの近似式を用いて演算し、指定累積吐出量に達するまでカムを回転させるため、従来技術のように、ローターの回転角度を細かく分割して、その分割毎の吐出量を測定、記憶させておき、ローターの回転が進行するたびに、角度毎の吐出量の和を演算する方式にくらべ、制御部の構成を簡単にでき、演算回数が少ないなど制御部の負担を低減することができる。その結果、消費電流を低減することができるという効果がある。なお、ここで、「比例」するとは完全に比例していなくてもよく、ほぼ比例している場合も含む。また、「増減しない」とは、全く増減していない場合に加え、部分的に増減していても、一定領域全体として増減していない場合や、無視できる程度の少量だけ増減している場合も含む。
【0010】
さらに、近似式を用いることで、カムの回転途中やカムの1回転ごとの吐出量の揺らぎの影響を排除することができ、より正確な総吐出量を把握することが可能となる。
【0011】
[適用例2]上記適用例に係る流体輸送装置は、前記一定領域では、回転速度を前記吐出領域の前記カムの回転速度よりも高めることが好ましい。
【0012】
このように、流体を吐出しない一定領域でのカム回転速度を高めることで、カム回転角度に対する累積吐出量をほぼ直線で表すことができ、吐出指定時間内において流体吐出を連続的に、しかも一定の吐出速度で吐出することができる。
【0013】
[適用例3]上記適用例に係る流体輸送装置は、前記カムの回転角度と流体の累積吐出量との関係を表す基準直線を作成し、前記カムの1/n回転の間に吐出する累積吐出量を1吐出単位とし、前記基準直線を基に吐出単位数を演算し、指定累積吐出量と、前記吐出単位数に対する累積吐出量と、の差分の累積吐出量に対する前記カムの回転角度を前記第1近似式及び第2近似式を用いて演算することが好ましい。
【0014】
前述したように、流体を吐出しない一定領域でのカム回転速度を高めることで、カム回転角度に対する累積吐出量をほぼ直線で表すことができる。この直線を基準直線とし、基準直線と上述の近似式を用いて演算することで、指定累積吐出量に対するカムの回転角度を容易に求めることができる。
【0015】
[適用例4]上記適用例に係る流体輸送装置は、前記第1近似式は、累積吐出量から前記カムの回転角度が定まる単調増加関数によって近似することが好ましい。
【0016】
このようにすれば、吐出領域において累積吐出量とカム回転角度との関係が直線に限らず、二次曲線や放物線のような場合であっても、第1近似式として用いることが可能である。
【0017】
[適用例5]本適用例に係る流体輸送装置の駆動方法は、流体を吐出する流体輸送装置の駆動方法であって、n個(nは2以上の整数)の突起部を有するカムを回転させることと、前記カムの回転角度を検出したときに前記カムの回転を停止させることと、累積吐出量と前記カムの回転角度とを初期化することと、累積吐出量と前記カムの回転角度との関係を表す近似式を用いて、指定累積吐出量に相当する前記カムの回転角度を演算することと、前記カムを回転させて、前記突起部によって複数の押圧軸を流体の流動方向に順次押動し、弾性を有するチューブの圧閉と開放とを繰り返すことによる流体吐出を開始することと、前記カムの回転角度を検出して、前記指定累積吐出量に相当する回転角度に達したときに前記カムの回転を停止させることと、を含むことを特徴とする。流体輸送装置の駆動方法。
【0018】
本適用例によれば、指定累積吐出量に対するカム回転角度を近似式を用いて容易に求めることができ、そのカム回転角度に達するまでカムを回転させることで、正確な総吐出量(指定累積吐出量)を確保、管理することができる。よって、微量、且つ低速で液体を吐出する医療用の薬液投与装置として、または、各種分析装置の分液装置の駆動方法として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】流体輸送装置の概略構成を示す平面図。
【図2】図1のA−A切断面を示す部分断面図。
【図3】制御部及び検出部の1例を示す構成説明図。
【図4】カムの回転基準位置を表す第1検出マーカーを示す平面図。
【図5】駆動ローターの回転角度を表す第2検出マーカーを示す平面図。
【図6】カムの回転角度と累積吐出量の関係を表すグラフ。
【図7】カムの駆動時間と累積吐出量の関係を表すグラフ。
【図8】流体輸送装置の駆動方法の主要なステップを表す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本発明は、微量の流体を低速で吐出する用途に広く適用可能であるが、以下の実施の形態は、薬液を生体内に注入するために用いられる流体輸送装置、及びこの流体輸送装置の駆動方法の1例を例示して説明する。よって、ここで用いられる流体は薬液等の液体である。
また、以下の説明で参照する図は、図示の便宜上、部材ないし部分の縦横の縮尺は実際のものとは異なる模式図である。
(流体輸送装置)
【0021】
図1は、流体輸送装置の概略構成を示す平面図、図2は図1のA−A切断面を示す部分断面図である。図1、図2において、流体輸送装置1は、液体を収容するリザーバー14と、リザーバー14に連通し弾性を有するチューブ50と、チューブ50を圧閉する複数の押圧軸としてのフィンガー40〜46と、フィンガー40〜46をチューブ50に向かって押動するカム20と、カム20の駆動手段としての駆動ローター120と、カム20と駆動ローター120とを連結する減速伝達機構2と、これらを保持する第1機枠15と第2機枠16と、から構成されている。
【0022】
チューブ50は、第1機枠15に形成された円弧形状のチューブ案内壁15cによって部分的に円弧形状に成形され、一方の端部はリザーバー14に連通し、他方の端部は外部に延在されている。チューブ案内壁15cの円弧中心はカム20の回転中心P1と一致しており、チューブ50とカム20との間にフィンガー40〜46が配設されている。フィンガー40〜46は、カム20の回転中心P1方向から等角度で放射状に配置されている。
【0023】
フィンガー40〜46は同じ形状をしており、フィンガー43を例示し図2を参照して形状を説明する。フィンガー43は、棒状の軸部43aと、軸部43aの一方の端部に鍔状に形成されるチューブ押圧部43bと、他方の端部に半球状に形成されるカム当接部43cとから構成されており、本例では金属材料または剛性の高い樹脂材料からなる。なお、フィンガー43の軸方向に垂直な断面形状は円形または四角形である。
【0024】
カム20は図2に示すように、カム軸26と、カム軸26に軸止されるカム歯車28とカム体21と、から構成され、第1機枠15及び第2機枠16とによって軸支されている。カム体21は図1に示すように、外周部に4箇所の突起部22,23,24,25を有している。突起部22,23,24,25の周方向のピッチ、各形状は同じである。突起部22〜25がフィンガー40〜46を上流側から下流側に順次押動していく押動部である。よって以降、フィンガー押動部と表記する。なお、リザーバー14に近い方を上流側、遠い方を下流側とする。
【0025】
また、カム体21には、フィンガー40〜46を開放(つまり、チューブ50を開放)する領域から、フィンガー押動部22,23,24,25それぞれに緩やかに連続する斜面部22a,23a,24a,25aが形成されている。
なお、突起部は4個の場合を例示しているが、n個(2以上の整数)にしてもよく4個に限定されない。
【0026】
続いて、減速伝達機構2の構成について図1、図2を参照して説明する。減速伝達機構2は、カム歯車28と、伝達車110と、ローター軸121に軸止されるローターピニオン122と、から構成されている。伝達車110は、ピニオン113が形成される伝達車軸111と伝達歯車112とから構成されている。駆動ローター120は、ローター軸121とローターピニオン122と、ローター軸121に軸止される検出板123とを有する。伝達車110と駆動ローター120は、カム20と共に第1機枠15と第2機枠16によって軸支されている。ここで、駆動ローター120の回転は、上述した減速伝達機構2によって所定の減速比でカム20に伝達される。本例では、減速比を40として説明する。つまり、駆動ローターの1回転は、カム20の1/40回転に相当する。なお、駆動ローター120の回転中心をP2とする。
【0027】
駆動ローター120を回転する駆動源は振動体130である。振動体130は、圧電素子131と、腕部132と、ローター軸121の側面に当接される凸部133と、から構成されている。振動体130は、第1機枠15に植立された固定軸135に腕部132が螺子で螺着固定されている。なお、振動体130の構成及び駆動方法は、周知の振動体を適用できるので説明を省略する。振動体130の駆動は、制御部140に含まれるドライバー141(図3、参照)によって制御される。
なお、駆動手段としては、ステップモーターを採用することができる。
【0028】
続いて、制御部140及び検出部の構成について図2、図3を参照して説明する。
図3は、制御部及び検出部の1例を示す構成説明図である。検出部は、カム20の回転角度(回転位置)を検出する第1検出部と、駆動ローターの回転角度(回転位置)を検出する第2検出部とからなる。
【0029】
図3に示すように、第1検出部は、カム20の回転位置を検出する第1検出センサー151と、第1検出回路142とから構成される。第1検出センサー151は、発光素子と受光素子(共に図示は省略)とからなる光学式センサーである。また、図2に示すように、第1検出センサー151に対向するカム歯車28の表面には、回転位置を表す第1検出マーカー30が設けられており、発光素子から射出された光を第1検出マーカー30で反射し、この反射光を受光素子で検出する。
【0030】
図3に示すように、第2検出部は、駆動ローター120の回転角度を検出する第2検出センサー152と、第2検出回路143とから構成される。第2検出センサー152は、発光素子と受光素子(共に図示は省略)とからなる光学式センサーである。また、図2に示すように、第2検出センサー152に対向する検出板123の表面には、駆動ローター120の回転位置を表す第2検出マーカー35が設けられており、発光素子から射出された光を第2検出マーカー35で反射し、この反射光を受光素子で検出する。
【0031】
なお、第1検出マーカー30及び第2検出マーカー35については、図4、図5を参照して後述する。また、第1検出センサー151及び第2検出センサー152は、反射型のセンサーを例示したが透過型のセンサーでもよく、磁気センサーや超音波センサー等の被接触式センサー、接点式センサーを採用することもできる。
【0032】
制御部140は、図3に示すように、上述した第1検出回路142、第2検出回路143がそれぞれ検出した第1検出マーカー30,第2検出マーカー35の検出数を計数するカウンター144と、これら第1検出マーカー30,第2検出マーカー35の検出数を記憶する記憶部145と、指定累積吐出量に相当する回転位置にカム20を回転させるための駆動ローター120の回転角度を算出する演算部146と、振動体130を所定の周波数及び算出された時間だけ駆動するドライバー141と、を有する。
【0033】
次に、第1検出マーカー30及び第2検出マーカー35の構成例について図4、図5を参照して説明する。
図4は、カムの回転基準位置を表す第1検出マーカーを示す平面図である。なお、図4は第1検出センサー151に対向する面を表示している。第1検出マーカー30は、4個の第1検出マーカー30a〜30dからなり、第1検出マーカー30a〜30dは、それぞれカム歯車28の表面に回転中心P1から等距離、等角度間隔で放射状に形成されている。本例では、周方向に4等分割した場合を例示し、フィンガー押動部22,23,24,25に対応した位置にそれぞれ第1検出マーカー30a、30b、30c、30dが設けられている。従って、フィンガー押動部の数と第1検出マーカー30の数(分割数)は一致し、第1検出マーカー30間の角度は90度である。
【0034】
なお、カム体21のフィンガー押動部22〜25の頂点部(領域Dで表す)は、回転中心P1を中心とする同心円で形成されており、領域Dではチューブ50をフィンガーにより同じ潰し量で圧閉している領域である。カム20は、矢印方向(反時計回り)に回転し、領域Dを超えた瞬間にフィンガーの押動が解除されてチューブ50の圧閉を開放する。チューブ50を開放してから再び圧閉開始するまでの領域を領域Fで表す。なお、チューブ50の圧閉領域は、ばらつきを考慮して突起部22〜25の頂点部に達する前(領域E)から始まるよう設定されている。なお、領域Fでは、フィンガーの押動が解除されてチューブ50の圧閉を開放した瞬間から吐出された液体が逆流して累積吐出量が減少する領域であり、領域Gはカム20の回転により、チューブ50を圧閉して領域Dと同じ累積吐出量に達するまでのカム回転領域である。
【0035】
フィンガーを押動し始めてからチューブ50を圧閉し始める領域を吐出領域Hとする。
また、領域Dと領域Eと領域Fと領域Gとを含む領域Jが累積吐出量に増減がほとんど無い吐出量一定領域である。カム20の各回転領域と累積吐出量の関係は、図6を参照して後述する。
【0036】
図5は、駆動ローターの回転角度を表す第2検出マーカーを示す平面図である。第2検出マーカー35は、検出板123の表面に回転中心P2から等距離、等角度間隔で放射状に形成されている。なお、本例では第2検出マーカー35は、周方向に12等分割した場合を例示している。よって、隣り合う第2検出マーカー35間の角度は30度である。
【0037】
ここで、駆動ローター120とカム20までの減速比を1/40とすると、駆動ローター120の1回転でカム20は1/40回転(9度回転)することになる。第2検出マーカー35は12分割されているので駆動ローターの回転分解能は30度であり、カム20の回転分解能は30/40=0.75度となる。
【0038】
なお、第2検出マーカー35の分割数は12分割に限らず、カム20の角度分解能の要求に応じて、または減速比、または第2検出センサーの角度検出分解能に応じて適切に設定される。第2検出マーカー35の分割は、突起部の数に対応する分割数にすることが望ましい。
【0039】
また、第2検出部を設ける位置は、駆動ローター120に限定されず、減速伝達機構2のいずれかに設けることができる。例えば、伝達車110の伝達歯車112の位置に第2検出マーカー35を形成し、この第2検出マーカー35に対向する位置に第2検出センサー152を配置してもよい。この場合には、減速比が変化するため、カム20の回転速度と減速比と第2検出マーカー35の分割数を適宜設定する。
【0040】
なお、第1検出マーカー30,第2検出マーカー35は、光を反射するか、光を吸収する材料にする。あるいは、カム歯車28、検出板123を貫通する孔を設ける構造でもよい。
【0041】
次に、液体吐出作用について図1を参照して説明する。制御部140(具体的には、ドライバー141)から駆動信号が圧電素子131に入力されると、振動体130の凸部133が楕円振動し、駆動ローター120を時計回りに回転させる。駆動ローター120の回転力は、減速伝達機構2を介して減速比1/40でカム20を時計回りに回転する。図1で示す状態は、突起部23がフィンガー44を押動し、チューブ50を圧閉している状態を示している。フィンガー45,46は、カム体21の斜面部23aにあるためチューブ50を完全には圧閉していない。
【0042】
また、フィンガー41,42,43は、カム体21の斜面部22aに達していないためチューブ50は開放されている。フィンガー40は斜面部22aにかかり始めている状態で、まだチューブ50は開放状態である。チューブ50の圧閉されていない領域には流体が入り込んでいる。
【0043】
さらにカム20を時計回りに回転させることにより、フィンガー40〜46をカム20の回転方向に上流側から下流側に向かって順に押動し、チューブ50の圧閉〜開放〜圧閉を繰り返し、これらフィンガー40〜46の蠕動運動により液体をカム20の回転方向に輸送し吐出する。なお、複数のフィンガー40〜46のうち少なくとも一つ、好ましくは二つが、チューブ50を常時圧閉するように構成されている。
【0044】
次に、カム20の回転角度と累積吐出量の関係について説明する。
図6は、カムの回転角度と累積吐出量の関係を表すグラフである。横軸にカム20の回転角度、縦軸に累積吐出量(μl:マイクロリットル)を表す。なお、グラフはカム回転速度が一定の場合であって、カム回転角度と累積吐出量は、流体輸送装置一つ毎の実測値を表している。このグラフが、後述する第1近似式及び第2近似式を作成する基礎となるものである。各フィンガー押動部の作用は同じであるため、フィンガー押動部22の作用を例示して説明する。なお、図4も参照する。
【0045】
カム20の第1検出マーカー30aが検出された回転位置K0(この位置を基準位置0度とする)から回転していくと、累積吐出量はカム回転角度にほぼ比例して増加していく。そして、60度回転したとき(回転位置K1に達したとき)の累積吐出量は1.5μlであり、回転位置K1から回転位置K2までの領域では累積吐出量は増減せずほぼ一定である。これは、フィンガー46がチューブ50を圧閉している状態が継続している領域である。
【0046】
さらに、カム20が回転され回転位置K2を超えた回転位置に至ると、フィンガー押動部22とフィンガー46との係合が解除されてチューブ50は開放される。すると、回転位置K2から回転位置K3までに累積吐出量がv1だけ減少する。本例では、吐出された液体が0.13μl逆流していることを示している。この現象は、最下流側のフィンガー46がカム20のフィンガー押動部22との係合が解除されチューブ50が開放されると、フィンガー46によって圧閉されていたチューブ50の容積部分が負圧となり液体が吸引され逆流が発生するためである。さらに、カム20が回転すると、カム20の斜面部23aによって最も上流側のフィンガー40を押動開始し、チューブ50の圧閉を行い液体を吐出し始め、回転位置K4で、吐出減少分を補填した累積吐出量1.5μlとなる。
【0047】
よって、累積吐出量は、カム20の回転角度にほぼ比例して増加する吐出領域Hと、カムが回転しても累積吐出量がほとんど増減しない一定領域Jで表すことができる。そして、吐出領域Hでは、累積吐出量とカム回転角度の関係を第1近似直線L1で表し、一定領域Jでは、第2近似直線L2で表すことができる。なお、図6のグラフで表すように、累積吐出量の実測値は微小な増減があるが、この量は0.01μl以下であるため考慮しなくてもよいと判断する。
【0048】
従って、第1近似直線は、累積吐出量をv、カム回転角度をdとすると、直線の方程式v=αd+bで表すことができ、これを第1近似式とする。また、第2近似直線は、直線の方程式v=βで表すことができ、これを第2近似式とする。なお、本例では、直線の勾配αは0.025μl/度(1.5μl/60度)、b=0、βは1.5μlである。
【0049】
なお、このグラフは、カム20のフィンガー押動部の一つの作用を表しており、フィンガー押動部は4個形成されていることから、カム20が1回転すると吐出領域Hと一定領域Jとを4回繰り返すことになり、カム20の回転速度が一定であれば各フィンガー押動部における第1近似式と第2近似式とは、同様な考え方で作成できる。例えば、突起部23がチューブ50を圧閉するときには、第1近似式のbを回転位置K4を通り勾配αを0.025μl/度にした直線の方程式、第2近似式のβを3.0とすればよい。
【0050】
従って、指定累積吐出量に対して第1近似式と第2近似式を用いて必要とされる回転角度に至るまでカム20を回転させればよく、この回転角度は第1検出部及び第2検出部で検出する。次に、具体的な流体輸送装置1の駆動法について図1〜図8を参照して説明する。
(流体輸送装置の駆動方法/実施例1)
【0051】
実施例1は、図6で表したカム20の回転角度と累積吐出量の関係を表すグラフを基本形とし、カム20を一定速度で回転させた場合である。
図7は、カムの駆動時間と累積吐出量の関係を表すグラフであり、横軸に流体輸送装置1の駆動時間、縦軸に駆動開始からの累積吐出量を表す。
図8は、流体輸送装置の駆動方法の主要なステップを表す説明図である。なお、本実施例では、60分間にカム20を1回転させて6.0μl吐出する吐出速度を有する場合を例示して説明する。図8に示すステップに沿って説明する。
【0052】
まず、予め駆動対象の流体輸送装置1のカム回転角度と累積吐出量の関係を実測し、図6に表すグラフを作成し、そのデータを制御部140(具体的には記憶部145)に入力し、このデータに基づき演算部146で第1近似式と第2近似式とを作成する(ステップ:S10)。本例では、カム20のフィンガー押動部を4個、且つ、カム回転速度を一定にしているため、カムの回転角度と累積吐出量の関係は図7(破線で表す)に表すことができる。駆動時間60分の間では、“吐出領域H+一定領域J”の間の累積吐出量を1吐出単位とすれば、4つの吐出単位(ブロックB1,ブロックB2,ブロックB3,ブロックB4で表す)で構成される。よって、各ブロックの経過時間は15分である。
なお、本例では、フィンガー押動部の数を4個にしたが、フィンガー押動部の数がn個(nは2以上の整数)の場合、1/n回転の間に吐出する累積吐出量を1吐出単位とする。
【0053】
続いて、図示しない入力装置を用いて指定累積吐出量を入力する(ステップ:S20)。ここでは、仮に指定累積吐出量を5.0μlとする。
【0054】
次に、指定累積吐出量に相当するカム回転角度を演算部で算出する(ステップ:S30)。5.0μlを吐出するためには、“3吐出単位(3ブロック)+端数角度”だけ、カム20を回転させることが必要になる(図7、参照)。よって、カム20の回転角度は、270度+端数角度となる。つまり、第1検出部において、基準位置(K0位置)から第1検出マーカー30を検出し、プラス端数角度分回転させることが必要になる。
【0055】
端数角度は、第1近似式を用いて演算し、駆動ローター120の回転角度を求める。ここで、端数角度は、3番目の第1検出マーカー30を検出してからカム回転角度で20度に相当する。カム回転角度に対する駆動ローター120の回転角度は、減速比を1/40とすれば、20度×40=800度となる。これは、カム20が、2回転と80度回転に相当する。駆動ローター120に附されている第2検出マーカー35の分割数を12とすると、第1検出マーカー30の3番目を検出してから、第2検出マーカー35の3目盛を検出するまで駆動ローター120を回転すればよいことになる。
【0056】
なお、指定累積吐出量5.0μlに対するカム回転角度は290度であるため、この290度に対する駆動ローター120の回転角度を32回転と第2検出マーカー35の3目盛分回転させるというような演算方法でもよい。
【0057】
次に、駆動ローター120を回転させ(ステップ:S40)、カム20の第1検出マーカー30を検出した位置で駆動ローターを停止させる(ステップ:S50)。この際、カム20の基準位置と共に駆動ローター120の回転位置を第2検出マーカー35の検出位置として記憶させ、累積吐出量、駆動ローター120及びカム20の回転位置の初期化を行う(ステップ:S60)。
【0058】
次に、駆動ローター120を駆動して、液体吐出を開始)、指定累積吐出量に相当するだけカム20を回転させる(ステップ:S70)。
【0059】
液体吐出途中では、カム回転角度を把握する(ステップ:S80)。具体的には、カム20の第1検出マーカー30の検出数と、駆動ローター120の第2検出マーカー35の検出数をカウンター144で計数し、その結果を記憶部145に入力する。
【0060】
そして、指定累積吐出量に相当するカム回転角度に達したかを、記憶された指定回転角度と比較して判定する(ステップ:S90)。指定のカム回転角度に達した場合(ステップ:S90:YES)には、駆動ローター120を停止し、カム20の回転を停止することによって、液体吐出を停止させる(ステップ:S100)。まだ指定のカム回転角度に達していない場合(ステップ:S90:NO)には、駆動ローター120の駆動を継続し、S80以降のステップを継続する。
(流体輸送装置の駆動方法/実施例2)
【0061】
次に、実施例2について説明する。前述した実施例1が、カム20を速度一定で回転させた場合の駆動方法であることに対して、実施例2は、一定領域Jの回転速度を吐出領域Hの回転速度よりも高める場合の駆動方法である。図7、図8を参照して説明する。ステップS10では、実施例1と同様に実測値を基に第1近似式と第2近似式を作成する。しかし、一定領域J(図6、参照)では、カム回転速度を吐出領域Hよりも、例えば10〜20倍程度に高めていることから、一定領域Jの時間は非常に短くなり、図7に示すように、第1近似直線L1の延長線に直線化(直線L3で表す)することができる。しかし、このようにすると、60分で6.0μlの指定吐出速度を満足させることができない。
そこで、60分で6.0μlの指定吐出速度を満足するように、直線L3の勾配を補正(吐出領域Hにおけるカム回転速度を遅くする)して直線L4を作成し、基準直線とする。
【0062】
次いで、指定累積吐出量を入力(ステップ:S20)する。仮に指定累積吐出量を5.0μlとする。次に、指定累積吐出量に対するカム回転角度を演算部で算出する(ステップ:S30)。
【0063】
ここでは、基準直線L4を基に、指定累積吐出量に相当するカム回転角度を算出する。この際、このカム回転角度は、カム20の第1検出マーカー30の1目盛回転分の累積吐出量を1吐出単位(1ブロック)として、ブロック数を求め、端数角度は、吐出領域に相当するため第1近似式を用いて駆動ローター120の回転角度として算出する。第1近似式は、図6の吐出領域Hに相当するので、駆動ローター120の回転角度の演算は、実施例1と同様に行うことが可能である。ステップS40以降のステップは、実施例1と同様に行えるため、説明を省略する。
【0064】
なお、指定吐出速度をほぼ一定にするため、基準直線L4に乗るように吐出領域Hのカム回転速度を調整してもよい。
【0065】
前述した特許文献1では、ローターの回転角度を細かく分割して、その分割毎の吐出量を測定、記憶させておき、ローターの回転が進行するたびに、角度毎の吐出量の和を演算する方式は、データテーブルを読み出すため頻繁にメモリーアクセスが必要となり、消費電流の低減が困難である。しかしながら、本実施例による流体輸送装置1の構成及び駆動方法によれば、累積吐出量に対するカム回転角度を、吐出速度の異なる二つの近似式(第1近似式と第2近似式)を用いて演算し、指定累積吐出量に達するまでカム20を回転させている。従って、従来技術にくらべ、制御部140の構成を簡単にでき、演算回数が少ないなど制御部140の負荷を低減することができる。その結果、消費電流を低減することができるという効果がある。
【0066】
さらに、近似式を用いることで、カム20の回転途中やカム20の1回転ごとの吐出量の揺らぎの影響を排除することができ、より正確な総吐出量を把握することが可能となる。
【0067】
また、一定領域Jでは、カム回転速度を、吐出領域Hのカム回転速度よりも高めることで、カム回転角度に対する累積吐出量をほぼ直線で表すことができ、吐出指定時間内において流体吐出を連続的に、しかも一定の吐出速度で吐出することができる。
【0068】
また、実施例2では、カムの回転角度(カム駆動時間)と流体の累積吐出量との関係を直線化して基準直線を作成し、カム20の1/4回転の間に吐出する累積吐出量を1吐出単位とし、基準直線を基に吐出単位数を演算し、指定累積吐出量と、吐出単位数に対する累積吐出量と、の差分に対するカム20の回転角度を第1近似式を用いて演算する。このようにすれば、流体を吐出しない一定領域でのカム回転速度を高めることで、カム回転角度に対する累積吐出量をほぼ直線で表すことができる。この直線を基準直線L4とし、基準直線L4と上述の近似式を用いて演算することで、指定累積吐出量に対するカム20の回転角度を容易に求めることができる。
【0069】
なお、前述した実施例1、実施例2では、第1近似直線L1が直線の場合を例示して説明したが、累積吐出量からカム20の回転角度が定まる単調増加関数により近似することができる。
【0070】
このようにすれば、吐出領域において累積吐出量とカム回転角度との関係が直線に限らず、二次曲線や放物線のような場合であっても、第1近似式として用いることが可能である。
【符号の説明】
【0071】
1…流体輸送装置、20…カム、22〜25…突起部、40〜46…押圧軸としてのフィンガー、50…チューブ、120…駆動手段としての駆動ローター、140…制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を吐出する流体輸送装置であって、
弾性を有するチューブと、
n個(nは2以上の整数)の突起部を有するカムと、
前記チューブと前記カムとの間に前記チューブに沿って配設される複数の押圧軸と、
前記カムを回転させて、前記突起部によって前記複数の押圧軸を前記流体の流動方向に順次押動し、前記チューブの圧閉と開放とを繰り返す駆動手段と、
前記カムの回転位置を検出する検出部と、
累積吐出量が前記カムの回転角度に比例して増加する吐出領域を表す第1近似式と、前記カムが回転しても累積吐出量が増減しない一定領域を表す第2近似式と、を用いて、累積吐出量に対するカム回転角度を演算し、指定累積吐出量に相当する前記カムの回転位置を前記検出部にて検出するまで前記駆動手段を駆動させる制御部と、
を有することを特徴とする流体輸送装置。
【請求項2】
請求項1に記載の流体輸送装置において、
前記一定領域では、前記カムの回転速度を前記吐出領域の回転速度よりも高めることを特徴とする流体輸送装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の流体輸送装置において、
前記カムの回転角度と流体の累積吐出量との関係を表す基準直線を作成し、
前記カムの1/n回転の間に吐出する累積吐出量を1吐出単位とし、前記基準直線を基に吐出単位数を演算し、
指定累積吐出量と、前記吐出単位数に対する累積吐出量と、の差分の吐出量に対する前記カムの回転角度を前記第1近似式及び第2近似式を用いて演算することを特徴とする流体輸送装置。
【請求項4】
請求項1に記載の流体輸送装置において、
前記第1近似式は、累積吐出量から前記カムの回転角度が定まる単調増加関数によって近似することを特徴とする流体輸送装置。
【請求項5】
流体を吐出する流体輸送装置の駆動方法であって、
n個(nは2以上の整数)の突起部を有するカムを回転させることと、
前記カムの回転角度を検出したときに前記カムの回転を停止させることと、
累積吐出量と前記カムの回転角度とを初期化することと、
累積吐出量と前記カムの回転角度との関係を表す近似式を用いて、指定累積吐出量に相当する前記カムの回転角度を演算することと、
前記カムを回転させて、前記突起部によって複数の押圧軸を流体の流動方向に順次押動し、弾性を有するチューブの圧閉と開放とを繰り返すことによる流体吐出を開始することと、
前記カムの回転角度を検出して、前記指定累積吐出量に相当する回転角度に達したときに前記カムの回転を停止させることと、
を含むことを特徴とする流体輸送装置の駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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