説明

流動性の改良された難燃性ポリカーボネート樹脂組成物

【解決手段】ポリカーボネート樹脂(A)、塩基性金属石鹸(B)、シリコーン化合物(C)、有機金属塩化合物(D)および繊維形成型の含フッ素ポリマー(E)からなる樹脂組成物であって、塩基性金属石鹸(B)が飽和または不飽和脂肪族モノカルボン酸の1種又は2種以上とマグネシウム又はカルシウムとからなり、かつシリコーン化合物(C)が、主鎖が分岐構造でかつ有機官能基を含有し、該有機官能基として芳香族基を必須に含有することを特徴とする流動性の改良された難燃性ポリカーボネート樹脂組成物、および成形品。
【効果】樹脂組成物は、従来の難燃剤と比べ環境面で優れた難燃性を有しており、さらにポリカーボネート樹脂の優れた衝撃強度、耐熱性、熱安定性等性能を維持したまま外観および流動性を顕著に改善させることが可能であるため、種々の大型若しくは薄肉成形品や各種難燃性工業部品材料として利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物ならびにそれから成形されてなる成形品に関する。更に詳しくは、ポリカーボネート樹脂の特徴である耐衝撃性、耐熱性、熱安定性等を保持したまま、外観、流動性および難燃性を向上させたポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性、耐熱性、熱安定性等に優れた熱可塑性樹脂であり、電気、電子、ITE、機械、自動車などの分野で広く用いられている。一方、当該樹脂が有するこれらの優れた性能に加えて、前述の各分野では、意匠面やデザイン上の要求を満たすため、高度な流動性(成形性)を具備した材料が求められている。特に近年では、製品の軽量化の傾向が著しく、ポリカーボネート樹脂に対する流動性改善の要求はますます顕著化しているのがその実態である。
【0003】
一方、当該ポリカーボネート樹脂組成物の流動性を改善させる手法として、過去より様々な技術が提案されてきたが、いずれも一長一短があり、必ずしも満足できる材料が提案されているわけではない。例えば、ポリカーボネート樹脂の分子量に着目して高い分子量のものと低い分子量のものを併用し、かつどちらかに分岐したポリカーボネート樹脂を用いる方法(特許文献1)、ポリカーボネート樹脂にABS樹脂やMBS樹脂を配合する方法(特許文献2)あるいはポリカーボネート樹脂にABS樹脂やリン酸エステルを配合する方法(特許文献3)などが提案されているが、これらの技術では、ポリカーボネート樹脂が持つ前述の優れた特徴の内いずれか1種以上が大きく損なわれてしまうといった問題を孕んでおり、従来からその改善が強く望まれてきた。
【特許文献1】特開2001−226576号公報
【特許文献2】特開2000−319497号公報
【特許文献3】特開2000−103951号公報
【0004】
また、ポリカーボネート樹脂に脂肪酸を配合することで流動性を改良する方法(特許文献4)が提案されているが、この場合、流動性は向上するものの、脂肪酸によるポリカーボネート樹脂の分解が起こり機械的強度の低下を招く等の根本的問題があった。この改良のために、ポリカーボネート樹脂に有機酸とアミド化合物を配合する方法(特許文献5)が提案されているが、機械的強度の低下は改良されてはいるが、成形品の外観が劣る(シルバーストリークの発生)という問題があり、高い流動性と良好な外観の両方を具備したポリカーボネート樹脂組成物を得るには至っていない。
【特許文献4】特開昭61−162520号公報
【特許文献5】特開2006−37032号公報
【0005】
流動性に加えて、電気・電子・OAの分野では、パーソナルコンピュータ外装部品のように高度な難燃性(UL94V)や耐衝撃性を要求される部品が少なくない。ポリカーボネート樹脂は、自己消火性を備えた難燃性の高いプラスチック材料ではあるが、電気・電子・OA分野では安全上の要求を満たすため、UL94V−0やV−1相当、さらには5V相当の一層高い難燃性が求められている。そこでポリカーボネート樹脂の難燃性を向上するために、従来、難燃剤としてハロゲン系化合物やリン系化合物を配合する方法が採用されている。これらの中で特に臭素や塩素等のハロゲン系化合物については、環境面からこれらを含有しない難燃剤の使用が望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のように、従来技術ではポリカーボネート樹脂が本来有する優れた特徴である耐衝撃性、耐熱性、熱安定性等の性能のうち、一種もしくは二種以上を犠牲にして流動性を改良するものであった。本発明は、上記の諸性能を保持したまま外観と流動性を改良し、かつ、臭素や塩素等のハロゲン系化合物からなる難燃剤を使用せずに難燃性能を高めたポリカーボネート樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、かかる課題に鑑み鋭意研究を行った結果、ポリカーボネート樹脂に、特定の塩基性金属石鹸、シリコーン化合物、有機金属塩化合物および繊維形成型の含フッ素ポリマーを特定量配合することにより、ポリカーボネート樹脂が有する種々の優れた性能を損なうことなく、難燃性が付与され、さらに外観および流動性が特異的かつ顕著に改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部、塩基性金属石鹸(B)0.2〜1.5重量部、シリコーン化合物(C)0.01〜3重量部、有機金属塩化合物(D)0.01〜0.3重量部および繊維形成型の含フッ素ポリマー(E)0.05〜5重量部からなる樹脂組成物であって、当該塩基性金属石鹸(B)が炭素数12〜30の飽和または不飽和の脂肪族モノカルボン酸の1種又は2種以上とマグネシウム又はカルシウムとからなる金属石鹸であり、かつ当該シリコーン化合物(C)が、主鎖が分岐構造でかつ有機官能基を含有し、該有機官能基として、芳香族基を必須に含有し、末端基以外の有機官能基として、芳香族基以外の炭化水素基を任意に含有してもよいことを特徴とする流動性の改良された難燃性ポリカーボネート樹脂組成物、およびそれからなる成形品を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物は、ハロゲンやリンなどを含有する従来の難燃剤を使用することなく優れた難燃性を有している。このため、燃焼時に当該難燃剤に起因するハロゲンやリンを含むガスの発生の懸念もなく、環境面からも優れている。さらに、ポリカーボネート樹脂が本来有する優れた衝撃強度、耐熱性、熱安定性等性能を維持したまま外観および流動性を特異的かつ顕著に改善させることが可能であるため、種々の大型若しくは薄肉成形品や各種難燃性工業部品材料として利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明にて使用されるポリカーボネート樹脂(A)とは、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0011】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。
【0012】
これらは単独または2種類以上混合して使用されるが、これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4′−ジヒドロキシジフェニル等を混合して使用してもよい。
【0013】
さらに、上記のジヒドロキシアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。3価以上のフェノールとしてはフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプテン、2,4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプタン、1,3,5−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ベンゾール、1,1,1−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−エタンおよび2,2−ビス−〔4,4−(4,4′−ジヒドロキシジフェニル)−シクロヘキシル〕−プロパンなどが挙げられる。
【0014】
ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量には特に制限はないが、成形加工性、強度の面より通常10000〜100000、より好ましくは15000〜30000、さらに好ましくは17000〜26000の範囲である。また、かかるポリカーボネート樹脂を製造するに際し、分子量調整剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。
【0015】
本発明にて使用される塩基性金属石鹸(B)は、炭素数12〜30の飽和または不飽和の脂肪族モノカルボン酸の1種又は2種以上とマグネシウム又はカルシウムとからなる金属石鹸である。また、当該脂肪族モノカルボン酸は、その構造中に側鎖あるいは水酸基、ケトン基、アルデヒド基、エポキシ基等の官能基があってもよく、代表例としてはカプリル酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラギン酸、ヘプタデシル酸、ベヘン酸、オレイン酸、エライジン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレイン酸、リシノール酸、ヒドロキシステアリン酸、モンタン酸、イソステアリン酸、エポキシステアリン酸が挙げられる。このうち、ベヘン酸が好適に用いられる。
【0016】
塩基性金属石鹸(B)は、上記の脂肪族モノカルボン酸の1種又は2種以上とマグネシウム又はカルシウムの酸化物もしくは水酸化物とから公知の製造方法で製造され、そのマグネシウム又はカルシウム含有量が対応する当量より1モル以下過剰に含有する塩基性金属塩である。
【0017】
本発明にて使用される塩基性金属石鹸(B)としては、塩基性ステアリン酸マグネシウム、塩基性ステアリン酸カルシウム、塩基性ヒドロキシステアリン酸マグネシウム、塩基性ヒドロキシステアリン酸カルシウム、塩基性ベヘン酸マグネシウム、塩基性ベヘン酸カルシウム等が挙げられ、このうち塩基性ベヘン酸カルシウムが好適に使用される。
【0018】
塩基性金属石鹸(B)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、0.2〜1.5重量部である。配合量が0.2重量部未満であると流動性の改善効果に劣り、配合量が1.5重量部を越えると機械的強度に劣るので好ましくない。より好ましくは0.3〜1.2重量部、更に好ましくは0.4〜1.0重量部である。
【0019】
本発明にて使用されるシリコーン化合物(C)としては、下記一般式(1)に示されるような、主鎖が分岐構造でかつ有機官能基として、芳香族基を含有するか、または芳香族基と炭化水素基(芳香族基を除く)を含有するものである。
一般式(1)
【0020】
【化1】

【0021】
上記一般式(1)において、R1、R2およびR3は主鎖に結合する有機官能基を表し、Xは末端基を表す。
【0022】
すなわち、分岐単位としてT単位(RSiO1.5)および/またはQ単位(SiO2.0)を持つことを特徴とする。これらは全体のシロキサン単位(R3〜0SiO2〜0.5)の20モル%以上含有することが好ましい。(Rは有機官能基をあらわす。)また、本シリコーン化合物(C)は、末端基又は末端基以外の官能基として主鎖や分岐した側鎖に結合する有機官能基のうち芳香族基が20モル%以上であることが好ましい。
【0023】
この有機官能基として、芳香族基を必須に含有する。この芳香族基としては、フェニル、ビフェニル、ナフタレンまたはこれらの誘導体が好ましいが、フェニル基がより好ましい。
【0024】
シリコーン化合物(C)中の有機官能基で、主鎖や分岐した側鎖に付いたもののうち芳香族基以外の有機基としては、炭素数4以下の炭化水素基が好ましく、メチル基が好適に使用できる。さらに、末端基はメチル基、フェニル基、水酸基の内から選ばれた1種またはこれらの2種から3種までの混合物であることが好ましい。
【0025】
シリコーン化合物(C)の平均分子量(重量平均)は、好ましくは3000〜500000であり、更に好ましくは5000〜270000である。
【0026】
シリコーン化合物(C)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり
0.01〜3重量部である。配合量が当該範囲外においてはいずれの場合も難燃効果が不十分であるので好ましくない。より好ましくは0.03〜1重量部である。
【0027】
本発明にて使用される有機金属塩化合物(D)としては、芳香族スルホン酸の金属塩、パーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩があげられる。金属の種類としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属等が挙げられる。好適には、4−メチル−N−(4−メチルフェニル)スルフォニル−ベンゼンスルフォンアミドのカリウム塩、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、ジフェニルスルホン−3−3´−ジスルホン酸カリウム、パラトルエンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩等が使用できる。
【0028】
有機金属塩化合物(D)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、0.01〜0.3重量部である。配合量が0.01重量部未満では、難燃性が低下するので好ましくない。また、0.3重量部を超えると、機械的強度が低下するといった問題が発生するので好ましくない。好ましくは0.02〜0.2重量部、より好ましくは0.02〜0.1重量部である。
【0029】
本発明にて使用される、繊維形成型の含フッ素ポリマー(E)としては、ポリカーボネート樹脂(A)中で繊維構造(フィブリル状構造)を形成するものがよく、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン系共重合体(例えば、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、等)、米国特許第4379910号に示される様な部分フッ素化ポリマー、フッ素化ジフェノールから製造されるポリカーボネート等が挙げられる。とりわけ、分子量1000000以上で二次粒子径100μm以上のフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンが好適に使用される。
【0030】
繊維形成型の含フッ素ポリマー(E)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、0.05〜5重量部である。配合量が0.05重量部未満では、燃焼時のドリッピング防止効果に劣るので好ましくない。また、5重量部を超えると造粒が困難となることから安定生産に支障をきたすので好ましくない。この配合量は、好ましくは、0.05〜1重量部、より好ましくは0.1〜0.5重量部の範囲である。この範囲では、難燃性、成形性のバランスが一層良好となる。
【0031】
本発明の各種配合成分(A)、(B)、(C)、(D)、(E)の配合方法には特に制限はなく、任意の混合機、例えばタンブラー、リボンブレンダー、高速ミキサー等によりこれらを混合し、通常の一軸または二軸押出機等で容易に溶融混練することができる。また、これらの配合順序についても特に制限はない。
【0032】
また、混合時、必要に応じて他の公知の添加剤、例えば離型剤、紫外線吸収剤、充填剤、帯電防止剤、酸化防止剤、リン系熱安定剤、染顔料、添着剤(エポキシ大豆油、流動パラフィン等)等を配合することができる。
【0033】
充填剤としては、例えばガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク、炭素繊維、タルク粉、クレー粉、マイカ、チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミウィスカー、ワラストナイト粉、シリカ粉等が挙げられる。
【実施例】
【0034】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら制限されるものではない。なお、特に断りのない限り重量基準に基づく。
【0035】
使用した配合成分の詳細は、以下のとおりである。
ポリカーボネート樹脂:
住友ダウ社製 カリバー200−20(粘度平均分子量:19000)
(以下、PCと略記)
塩基性金属石鹸:
栄伸化成社製 EC−700H(塩基性ベヘン酸カルシウム)
(以下、塩基性Ca石鹸と略記)
シリコーン化合物:
シリコーン化合物は、一般的な製造方法に従って製造した。すなわち、適量のジオルガノジクロロシラン、モノオルガノトリクロロシランおよびテトラクロロシラン、あるいはそれらの部分加水分解縮合物を有機溶剤中に溶解し、水を添加して加水分解して、部分的に縮合したシリコーン化合物を形成し、さらにトリオルガノクロロシランを添加して反応させることによって重合を終了させ、その後、溶媒を蒸留等で分離した。上記方法で合成したシリコーン化合物の構造特性は、以下のとおり:
・主鎖構造のD/T/Q単位の比率:40/60/0(モル比)
・全有機官能基中のフェニル基の比率(*):60モル%
・末端基:メチル基のみ
・重量平均分子量(**):15000
*:フェニル基は、T単位を含むシリコーン中ではT単位にまず含まれ、残った場合がD単位に含まれる。D単位にフェニル基が付く場合、1個付くものが優先し、さらにフェニル基が残余する場合に2個付く。末端基を除き、有機官能基は、フェニル基以外は全てメチル基である。
**:重量平均分子量は、有効数字2桁。
有機金属塩化合物:
パラトルエンスルホン酸ナトリウム(以下、金属塩と略記)
繊維形成型の含フッ素ポリマー:
ダイキン工業社製ネオフロンFA500(ポリテトラフルオロエチレン)
(以下、PTFEと略記)
【0036】
前述の各種原料を表2〜3に示す配合比率にて一括してタンブラーに投入し、10分間乾式混合した後、二軸押出機(神戸製鋼所製KTX37)を用いて、溶融温度280℃にて混練し、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットから、射出成形機(日本製鋼所製J100E−C5)を用いて各種試験片を加工し、下記方法により各種データーを採取した。
【0037】
(1)アルキメデススパイラルフロー流動性
溶融温度280℃、射出圧力1600kg/cmの条件下、アルキメデススパイラルフロー金型を使用して、流路厚み1mmでの流動長さを測定した。流動長さが140mm以上を合格とした。
【0038】
(2)アイゾット衝撃試験
溶融温度280℃の条件下、アイゾット衝撃試験用試験片を加工し、ASTM D256に準拠し、アイゾット衝撃強度を測定した。測定温度は23℃、試験片の厚みは3.2mmである。衝撃値が30Kg・cm/cm以上を合格とした。
【0039】
(3)耐熱性(荷重たわみ温度:HDT)
溶融温度280℃の条件下、耐熱性試験用試験片を加工し、ASTM D648に準拠し、荷重たわみ温度(HDT)を測定した。ファイバーストレスは18.5Kg/cmに設定し、測定用試験片のアニール処理は行わなかった。試験片の厚みは6.4mmである。
【0040】
(4)難燃性評価
(I)UL94・V試験
得られた各種ペレットを125℃で4時間乾燥した後に、射出成型機(日本製鋼所製J−100SAIIを用いて245℃、射出圧力1600kg/cmにて難燃性評価用試験片(125x13x2.0mm)を成型した。得られた試験片を温度23℃、湿度50%の恒温室の中で72時間放置し、アンダーライターズ・ラボラトリーズが定めているUL94・V試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼性試験)に準拠した難燃性の評価を行った。UL94・Vによるクラスを表1に示す。
【0041】
【表1】

残炎時間とは、着火源を遠ざけた後の試験片が、有炎燃焼を続ける時間の長さであり、ドリップによる綿の着火とは、試験片の下端から約300mm下にある標識用の綿が、試験片からの滴下(ドリップ)物によって着火されるかどうかによって決定される。V−1以上を合格とした。
【0042】
(II)UL94・5V試験
得られた各種ペレットを125℃で4時間乾燥した後に、射出成型機(日本製鋼所製J−100SAIIを用いて245℃、射出圧力1600kg/cmにて難燃性評価用の短冊状試験片(125x13x2.0mm)および板状試験片(150x150x2.0mm)を成型した。得られた試験片を温度23℃、湿度50%の恒温室の中で72時間放置し、アンダーライターズ・ラボラトリーズが定めているUL94・5V試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼性試験)に準拠した難燃性の評価を行った。UL94・5Vによるクラスを表2に示す。
【0043】
【表2】

5VB以上を合格とした。
【0044】
(5)外観評価
溶融温度320℃の条件下、平板試験片(50x90x3mm)を作成し、成形品表面のシルバーストリークの発生の有無を目視判定した。
【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

*NR:No Ratingの略。V−0、V−1、V−2に属さない。
【0047】
表3のとおり、ポリカーボネート樹脂組成物が本発明の構成要件を満足する場合(実施例1〜6)にあっては、全ての評価項目にわたりその規格を満足していた。
【0048】
表4で示したとおり、ポリカーボネート樹脂組成物が本発明の構成要件を満足しない場合においては、いずれの場合も何らかの欠点を有していた。
比較例1は、塩基性Ca石鹸が配合されていないため、流動性に劣っていた。
比較例2は、塩基性Ca石鹸が規定範囲を超えて配合されているため、難燃性(V、5V)、衝撃強度および外観に劣っていた。
比較例3は、Siの配合量が規定範囲よりも少ないため、難燃性(5V)に劣っていた。
比較例4は、Siが規定範囲を超えて配合されていたため、難燃性(V、5V)に劣っていた。
比較例5は、金属塩の配合量が規定範囲よりも少ないため、難燃性(V、5V)に劣っていた。
比較例6は、PTFEが規定範囲よりも少ないため、難燃性(V、5V)に劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)100重量部、塩基性金属石鹸(B)0.2〜1.5重量部、シリコーン化合物(C)0.01〜3重量部、有機金属塩化合物(D)0.01〜0.3重量部および繊維形成型の含フッ素ポリマー(E)0.05〜5重量部からなる樹脂組成物であって、当該塩基性金属石鹸(B)が炭素数12〜30の飽和または不飽和の脂肪族モノカルボン酸の1種又は2種以上とマグネシウム又はカルシウムとからなる金属石鹸であり、かつ当該シリコーン化合物(C)が、主鎖が分岐構造でかつ有機官能基を含有し、該有機官能基として、芳香族基を必須に含有し、末端基以外の有機官能基として、芳香族基以外の炭化水素基を任意に含有してもよいことを特徴とする流動性の改良された難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
塩基性金属石鹸(B)の配合量が、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり0.3〜1.2重量部であることを特徴とする請求項1記載の流動性の改良された難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
塩基性金属石鹸(B)が、塩基性ベヘン酸カルシウムであることを特徴とする請求項1または2に記載の流動性の改良された難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の流動性の改良された難燃性ポリカーボネート樹脂組成物から成形されてなる成形品。

【公開番号】特開2008−150450(P2008−150450A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−338308(P2006−338308)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(396001175)住友ダウ株式会社 (215)
【Fターム(参考)】