説明

流動性部材注出器および流動性部材注出方法

【課題】流動性部材注出器100内の流動性部材に加わる圧力が高くても流動性部材注出器100の破損を抑制し且つ流動性部材注出器100内の流動性部材の漏れを抑制する流動性部材注出器100を提供する。
【解決手段】筒状部材110、流動性部材注出口112、開口部114、筒状部材110内にその軸方向に沿って移動可能に配置され且つ軸方向に対して可逆的に変形可能な第一の部材120、筒状部材110内にその軸方向に沿って移動可能に配置され且つ第一の部材120よりも剛性の高い主要部132から構成されると共に流動性部材が軸方向に沿って筒状部材100内を移動するのを防止するように筒状部材110の内周面と密着する第二の部材130を備え、開口部114から流動性部材注出口112へと第一の部材120と第二の部材130とがこの順に筒状部材110の内部に配置された流動性部材注出器100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動性部材注出器および流動性部材注出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療用途や、理化学実験など様々な分野で、流動性部材を所定の位置に所望量だけ注出することを目的として、従来より、注射器などの流動性部材注出器が用いられている。この流動性部材注出器の主要部は、内部に流動性部材が充填可能な筒状部材と、この筒状部材の一方の端に設けられた流動性部材注出口と、筒状部材の他方の端に、筒状部材内に充填された流動性部材を流動性部材注出口側へと押し出す押出部材を筒状部材内に挿入する為に設けられた開口部とから構成される。
【0003】
一方、近年、歯牙の修復を目的として、2液ペースト硬化型の歯科用充填修復材(例えば、特許文献1参照)が広く利用されている。このような歯科用充填修復材を口内で利用する場合、2つの筒状部材を互いに隣接して配置した流動性部材注出器が用いられている(例えば、特許文献2参照)。図6は、2液ペーストの歯科用充填修復材等を利用する場合に用いられる従来の流動性部材注出器の一例を示す概略模式図である。図6に示す流動性部材注出器200は、互いに平行且つ隣接して配置された2本の筒状部材210、212と、これら2本の筒状部材210、212の流動性部材注出口(不図示)側の先端部に取り付けられた混合器220と、2本の筒状部材210、212の(不図示)側の先端部に取り付けられたフランジ230と、筒状部材210、212内部をその軸方向に移動可能なピストン240、242とから構成されている。ここで、混合器220は、筒状部材210、212の流動性部材注出口それぞれを覆うように取り付けられる。また、筒状部材210、212は、その断面形状が、外周側および内周側共に円形状である。さらに、ピストン240、242の最大面積を有する断面の断面形状は、筒状部材210、212の内周側の断面形状とほぼ同じ形状・サイズである。なお、ピストン240、242としては、柱状のゴム材料からなるピストン(ゴム製ピストン)、または、柱状の樹脂部材の外周面にリング状のゴム製パッキンを取り付けたピストン(ゴムパッキン付きピストン)が利用される。
【0004】
この流動性部材注出器200を利用する場合、まず、第一の流動性部材が、筒状部材210内の流動性部材注出口側とピストン240との間の空間に充填され、第二の流動性部材が、筒状部材212内の流動性部材注出口側とピストン242との間の空間に充填される。そして、この状態で、筒状部材210、212の開口部側から、柱状の押出部材(不図示)を挿入して、押出部材を開口部側から流動性部材注出口側へと押し込む。これにより、筒状部材210、212内に充填された第一の流動性部材および第二の流動性部材が流動性部材注出口を経て混合器220内に注出され、混合器220内中にて第一の流動性部材と第二の流動性部材とが混合される。さらに、第一の流動性部材と第二の流動性部材とが混合された混合流動性部材は、混合器220の先端部に設けられた混合流動性部材排出口222から外部へと排出される。このような注出動作の実行に際しては、手押し式の押出器(例えば、特許文献2参照)や、手動レバーを備え、梃の原理を利用した押出器(例えば、特許文献3参照)が用いられる。
【0005】
図7は手押し式の押出器の一例を示す概略模式図である。図7に示す押出器300は、互いに平行且つ隣接して配置された2本の柱状の押出部材310、312と、押出部材310、312の一方の端に取り付けられた押板320と、貫通孔(不図示)を有し、この貫通孔内に押出部材310、312がその軸方向にスライド可能に配置されたフランジホルダー330とから構成される。なお、フランジホルダー330には、フランジ230に対応した差し込み穴332が設けられている。そして、流動性部材注出器200の使用に際しては、差し込み穴332にフランジ230を差し込んで、流動性部材注出器200と押出器300とを互いに固定する。これにより、押出部材310、312を、筒状部材210、212内へとスムーズに挿入することができる。また、フランジホルダー330の押板320側には、押出部材310、312の軸方向のスライドをガイドするガイド部材334が取り付けられている。
【0006】
図8は、手動レバー式の押出器の一例を示す概略模式図であり、図8(A)は側面図を、図8(B)は上面図を示したものである。図8に示す押出器400は、その主要部が、本体部410と、この本体部410内を貫通するように配置された押出部材420と、本体部410の下方側に、本体部410と一体的に形成されたグリップ430と、本体部410の下方側に取り付けられ、且つ、グリップ430と対向する位置に配置された手動レバー440とから構成される。手動レバー440は、グリップ430側(図中、矢印P方向と反対方向側)に押し込むことができる。そして、グリップ430側に押し込まれた手動レバー440は、本体部410内に設けられた不図示のバネ部材によって、自動的にグリップ430から離れる方向(図中、矢印P方向側)に移動して、元の位置に戻るようになっている。また、本体部410内には、手動レバー440をグリップ430側に押し込んだ際に、押出部材420がその軸方向(図中、矢印P方向)に所定量だけ押出せるように、梃の原理を利用した押出部材押出機構(不図示)が内蔵されている。
【0007】
押出部材420は、矢印P方向と反対側の端から、矢印P方向側の端へと行く途中で2つに分岐し、且つ、互いに平行な2本の柱状の押出部422、424を有している。また、本体部410左側側面の矢印P方向側の領域には、フランジ230に対応した差し込み穴412が設けられている。そして、流動性部材注出器200の使用に際しては、差し込み穴412にフランジ230を差し込んで、流動性部材注出器200と押出器400とを互いに固定する。これにより、押出部422、424を、筒状部材210、212内へとスムーズに挿入することができる。
【0008】
【特許文献1】WO2006/030645(請求項1等)
【特許文献2】WO2007/095769(図1等)
【特許文献3】WO2006/15506(図1等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図7、図8に示す押出器300、400のうち、手押し式の押出器300は、手動レバー式の押出器400と比べると、手動レバー440に加える力よりも、より強い力を押板320に加えなければ注出することができない。このため、手押し式の押出器300は、手動レバー式の押出器400と比べると、注出量の精密なコントロールという点では劣る。それゆえ、注出量の精密なコントロールがより要求される場合;例えば、注出する流動性部材が高価であり、流動性部材の無駄な浪費を極力さける必要がある場合や、注出する場所に流動性部材を所定量だけ過不足なく注出する必要性が大きい場合では、押出器として手動レバー式の押出器400が好んで用いられる。
【0010】
一方、筒状部材内にピストンを配置する図6に例示したようなタイプの流動性部材注出器では、ピストンとして、ゴム製ピストンを用いると、筒状部材の流動性部材注出口側とピストンとの間に充填された流動性部材が、注出時の加圧によって、開口部側に漏れ易くなる傾向にある。それゆえ、このような流動性部材の漏れを防止するためには、ピストンとして、ゴムパッキン付きピストンを用いることが好ましい。
【0011】
しかし、ピストン240、242としてゴムパッキン付きピストンを用いた流動性部材注出器200と、手動レバー式の押出器400とを組み合わせて用いた場合、筒状部材210、212が割れてしまうことがあった。そして、このような割れは、例えば、歯科用充填材用途で用いられるような粘調性を有する流動性部材が充填された樹脂製シリンジなどのように、粘調性を有する流動性部材(特にペースト)を用いたり、筒状部材210、212が肉厚0.7mm〜1.3mm程度の樹脂製部材からなる場合に特に発生しやすくなる。これは、梃の原理を利用した手動レバー式の押出器400の方が、手押し式の押出器300と比べて、ピストン240,242を介して、筒状部材210、212内に充填された流動性部材に加わる圧力がより高くなるためであると推定される。このような問題を解決するためには、ゴム製ピストンを用いることが好ましい。しかし、この場合は流動性部材の漏れが発生してしまう。
【0012】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、手押し式の押出器を用いて注出する場合と比べて、流動性部材注出器の筒状部材内に充填された流動性部材に加わる圧力がより高くなる場合でも、流動性部材注出器の破損を抑制すると同時に、流動性部材注出器内の流動性部材の漏れを抑制する流動性部材注出器および流動性部材注出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の流動性部材注出器は、内部に流動性部材が充填可能な筒状部材と、該筒状部材の一方の端に設けられた流動性部材注出口と、上記筒状部材の他方の端に設けられた開口部と、上記筒状部材内に、その軸方向に沿って移動可能に配置され、且つ、上記軸方向に対して可逆的に変形可能な第一の部材と、上記筒状部材内に、その軸方向に沿って移動可能に配置され、且つ、上記第一の部材よりも剛性の高い主要部から構成されると共に、流動性部材が上記軸方向に沿って上記筒状部材の内部を移動するのを防止するように上記筒状部材の内周面と密着する第二の部材と、を備え、上記開口部から上記流動性部材注出口へと、上記第一の部材と、上記第二の部材とが、この順に上記筒状部材の内部に配置された構成としたものである。
【0014】
このような構成を採用した流動性部材注出器では、第二の部材が、流動性部材が軸方向に沿って筒状部材内を移動するのを防止するように筒状部材の内周面と密着している。このため、筒状部材内の流動性部材注出口側と第二の部材との間に流動性部材を充填しても、流動性部材が、開口部側へと漏れることが無い。これに加えて、第二の部材は第一の部材よりも剛性の高い主要部から構成されるため、強い圧力が加わった場合でも実質的に変形しない。このため、筒状部材内の流動性部材注出口側と第二の部材との間に充填された流動性部材が高圧状態となった場合でも、第二の部材が変形することなく第二の部材と筒状部材内周面との密着性を維持できる。従って、このような場合でも、流動性部材が、開口部側へと漏れることが無い。
【0015】
第一の部材と、第二の部材とは、開口部から流動性部材注出口へと、筒状部材内に、この順に配置されている。このため、筒状部材内の流動性部材注出口側と第二の部材との間に流動性部材を充填した状態で、押出部材を開口部側から挿入して、注出する場合、押出部材による押圧力は、第一の部材を介して、第二の部材へ伝達され、さらに第二の部材から流動性部材注出口側と第二の部材との間の筒状部材内に充填された流動性部材へと伝達される。そして、第一の部材は軸方向に対して可逆的に変形可能である。このため、押出部材による押圧力は、第一の部材から、第二の部材、流動性部材へと直接伝達されず、押圧力の一部は、第一の部材が軸方向に縮むように変形することにより、一時的に変形エネルギーとして吸収・蓄積される。それゆえ、筒状部材内に充填された流動性部材に加わる圧力は、押出部材による押圧力がそのままダイレクトに流動性部材に伝達される場合と比べて低く抑えられる。従って、流動性部材注出器の破損を抑制することができる。また、第一の部材がその軸方向に変形することによって蓄えられた変形エネルギーは、筒状部材内に挿入された押出部材が第一の部材と接触した状態で静止したまま固定した位置にある場合、第二の部材を押圧する力として、徐々にリリースされることになる。それゆえ、この場合は、注出に利用される押圧エネルギーの損失も発生しない。
【0016】
また、本発明の流動性部材注出器の一態様は、前記第一の部材は、ゴム材料から構成されるものであることが好ましい。
【0017】
このような構成を採用した流動性部材注出器では、第一の部材が軸方向に弾性変形することにより、押出部材による押圧力の一部が第一の部材中に変形エネルギーとして吸収・蓄積される。このため、第二の部材や、流動性部材に伝達される押圧力をより小さくでき、結果として、流動性部材注出器の破損を抑制できる。
【0018】
また、本発明の流動性部材注出器の他の態様は、前記第二の部材が、前記筒状部材の内周側の断面形状と略同一の断面形状を有する柱状の剛性部材と、該剛性部材の外周面に配置されたリング状のゴム製パッキンとから構成されることが好ましい。
【0019】
このような構成を採用した流動性部材注出器では、剛性部材と筒状部材内壁との間に弾性体であるゴム製パッキンが配置されることになるため、ゴム製パッキンと剛性部材との間や、ゴム製パッキンと筒状部材内壁との間が隙間なく密着する。このため、流動性部材が、第二の部材外周面と筒状部材の内壁面との間を通り抜けて、開口部側へと漏れる現象(流動性部材の漏れ)を抑制することができる。これに加えて、第二の部材は、柔軟性を持つゴム製パッキンを介して筒状部材の内壁面と強く接触することになるため、第二の部材が筒状部材内を軸方向にスムーズに移動することが容易である。
【0020】
また、本発明の流動性部材注出器の他の態様は、前記開口部から前記流動性部材注出口へと、前記第一の部材と、前記第二の部材とが、この順に内部に配置された前記筒状部材を2つ有し、第一の筒状部材と第二の筒状部材とが、互いの軸方向が平行となるように隣接して配置されると共に、上記軸方向に対して、上記第一の筒状部材および上記第二の筒状部材の流動性部材注出口と開口部とが、それぞれ同じ側に配置される構成を有することが好ましい。
【0021】
このような構成を採用した流動性部材注出器は、2種類の流動性部材を同じ側に注出できるため、注出と同時にこれら2種類の流動性部材を混合することが極めて容易である。このため、2種類の流動性部材が混ざりあうことによって利用価値が発揮される材料(例えば、2種類の流動性部材を混合した際に化学反応により硬化する硬化型材料)を用いる場合に、2種類の流動性部材の注出および混合作業をより簡易化することができる。
【0022】
また、本発明の第一の流動性部材注出方法は、上述した本発明の流動性部材注出器の筒状部材中空部に挿入可能な断面形状を有する柱状の押出部材、および、手動レバーを有し、該手動レバーの動きを梃の原理を利用して上記押出部材をその軸方向に押出す動作に変換する押出部材押出機構、を備えた押出器と、筒状部材内の流動性部材注出口側と第二の部材との間に流動性部材が充填された本発明の流動性部材注出器とを、上記押出部材の軸方向と上記流動性部材注出器の筒状部材の軸方向とが一致するように、上記押出部材の先端部を上記流動性部材注出器の開口部から挿入した状態で互いに固定した後、前記手動レバーを作動させて、上記押出部材を上記筒状部材の開口部側から流動性部材注出口側へと押出すことにより、上記流動性部材を流動性部材注出口から上記流動性部材注出器の外部に注出するというものである。
【0023】
この流動性部材注出方法では、手動レバーの動きを梃の原理を利用して押出部材の動きに変換するため、押出器を手で強く操作しなくても注出することができる。これに加えて、流動性部材注出器として上述した本発明の流動性部材注出器を用いているため、流動性部材注出器の破損や流動性部材の漏れを抑制することもできる。
【0024】
また、本発明の第二の流動性部材注出方法は、流動性部材注出器を構成する筒状部材中空部に挿入可能な断面形状を有する柱状の押出部材、該押出部材の先端に取り付けられ、且つ、上記押出部材の軸方向に対して可逆的に変形可能な先端部部材、および、手動レバーを有し、該手動レバーの動きを梃の原理を利用して上記押出部材をその軸方向に押出す動作に変換する押出部材押出機構、を備えた押出器と、内部に流動性部材が充填可能な筒状部材と、該筒状部材の一方の端に設けられた流動性部材注出口と、上記筒状部材の他方の端に設けられた開口部と、上記筒状部材内に、その軸方向に沿って移動可能に配置され、且つ、上記先端部部材よりも剛性の高い主要部から構成されると共に、流動性部材が上記軸方向に沿って上記筒状部材の内部を移動するのを防止するように上記筒状部材の内周面と密着する柱状部材と、を備え、上記筒状部材内の流動性部材注出口側と柱状部材との間に流動性部材が充填された流動性部材注出器とを、上記押出部材の軸方向と上記流動性部材注出器の筒状部材の軸方向とが一致するように、上記押出部材の先端部を上記流動性部材注出器の開口部から挿入した状態で互いに固定した後、前記手動レバーを作動させて、上記押出部材を上記筒状部材の開口部側から流動性部材注出口側へと押出すことにより、上記流動性部材を流動性部材注出口から上記流動性部材注出器の外部に注出するというものである。
【0025】
この流動性部材注出方法では、上述した本発明の流動性部材注出器に用いられる第一の部材の機能が、流動性部材注出器側ではなく、押出器側に付与される。すなわち、本発明の第二の流動性部材注出方法において、流動性部材注出器を構成する柱状部材は、本発明の流動性部材注出器の第二の部材に相当するものであり、押出器の押出部材の先端に取り付けられた先端部部材は、本発明の流動性部材注出器の第一の部材に相当するものである。このため、注出時には、本発明の流動性部材注出器と同様に、開口部から流動性部材注出口へと、第一の部材と実質同等の機能を有する先端部部材と、第二の部材と実質同等の機能を有する柱状部材とが、この順に筒状部材の内部に配置されることになる。それゆえ、第二の流動性部材注出方法も、第一の流動性部材注出方法と同様に、押出器を手で強く操作しなくても注出することができる上に、流動性部材注出器の破損や流動性部材の漏れも抑制できる。
【発明の効果】
【0026】
以上に説明したように、本発明によれば、手押し式の押出器を用いて注出する場合と比べて、流動性部材注出器の筒状部材内に充填された流動性部材に加わる圧力がより高くなる場合でも、流動性部材注出器の破損を抑制すると同時に、流動性部材注出器内の流動性部材の漏れを抑制する流動性部材注出器および流動性部材注出方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について、各図に基づいて説明する。
図1は、本発明の流動性部材注出器の一例を示す模式断面図である。図1に示す流動性部材注出器100は、その主要部が、筒状部材110と、筒状部材110内に配置された第一の部材120および第二の部材130とから構成される。
【0028】
−筒状部材−
筒状部材110は、図中、一点鎖線で示される軸方向に対して内径が一定な筒状の部材である。筒状部材110の内壁面側の断面形状は、特に限定されないが、通常は円形状であることが好ましい。筒状部材110の一方の端には流動性部材注出口112が設けられ、他方の端には、開口部114が設けられる。流動性部材注出口112は、筒状部材110の内径よりも小さいサイズの開口径を有するものである。流動性部材注出口112の形状は特に限定されず、筒状部材110の軸方向と交差する面に開口部が設けられただけ(すなわち、長さ0)でもよいし、図1に例示するように、筒状部材110の軸方向と交差する面に対して所定の高さを有する凸形状を有していてもよい。また、流動性部材注出口112には、必要に応じて、細長い筒状の注出ガイド(不図示)など各種のアダプターを取り付けてもよい。開口部114は、その形状・サイズが、筒状部材110の内壁面側の断面形状と略同一の形状・サイズからなる。なお、押出部材の筒状部材110内への挿入を容易とするために、開口部114は、その形状・サイズを、筒状部材110の内壁面側の断面形状と同じ形状・サイズよりも若干大きめにしてもよい。また筒状部材110の他方の端(開口部114が設けられた側の端)には、図7、図8に例示したような既存の押出器への取り付けおよび固定を容易とするために、図1に例示するようにフランジ116が設けられていてもよい。
【0029】
筒状部材110を構成する材料としては特に限定されず、樹脂、金属、ガラス、セラミックスなど、流動性部材をその内部に安定して保持する上で適度な強度が確保できるのであれば公知の材料が利用できる。これらの材料の中でも、筒状部材110を作製する時のコストや成形加工性等の観点からは樹脂が最も好ましく、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、アクリル樹脂、ナイロン樹脂、ABS樹脂、フッ素系樹脂、或いはこれらの樹脂を混合したもの、これらの樹脂にフィラーを練り込んだもの等が利用できる。また、筒状部材110を構成する材料は、透明又は半透明であってもよいが、筒状部材110内に充填される流動性部材が、可視光や紫外光により変性・劣化する場合は、不透明であることが好ましい。
【0030】
また、筒状部材110の容量は特に限定されず、用途により適宜選択することができる。しかしながら、例えば、歯科充填用コンポジットレジンを口内で利用するなどのような医療用途や、その他、1回の注出作業で0.05cc以上1cc以下程度(より好ましくは0.1cc以上0.7cc以下程度)の比較的少量の流動性部材を使用する各種作業(例えば、理化学実験など)では、(A)容量は1cc以上50cc以下の範囲内であることが好ましく、2cc以上20cc以下の範囲内であることがより好ましい。なお、ここで言う「容量」とは、筒状部材110内に第一の部材120および第二の部材130を配置しない状態で、筒状部材110内に充填できる流動性部材の最大容量を意味する。また、この場合、適正な注出速度を確保する観点から、(B)流動性部材注出口112の開口径(円換算相当直径)は、0.5mm以上10mm以下であることが好ましく、1mm以上5mm以下であることがより好ましい。さらに、筒状部材110の肉厚(外径から内径を引いた値は特に限定されず、用途により適宜選択することができるが、上述したような比較的少量の流動性部材を扱う用途では、筒状部材110の機械的強度と成型加工性との両立を図る観点から、(C)肉厚は0.5mm以上2.0mm以下の範囲内にあることが好ましく、0.7mm以上1.3mm以下の範囲内にあることがより好ましい。これらに加えて、上述したような比較的少量の流動性部材を扱う用途では、(D)流動性部材注出器100の内径は、既存の押出器との適合性などを考慮すると、3mm以上30mm以下が好ましく、5mm以上15mm以下がより好ましい。
【0031】
−第一の部材−
(1)第一の部材120は、開口部114から押出部材が挿入された際に筒状部材110内をその軸方向に沿って移動可能に配置される。これにより、押出部材による押圧力を第一の部材120が受け止めて、第二の部材130へと伝達することができる。(2)また、第一の部材120としては、軸方向に対して可逆的に変形可能な部材が用いられる。これにより、第一の部材120に強い押圧力が加わった際に、第一の部材120が軸方向に縮むように変形する。そしてこの変形によって、押圧部材(図1中、不図示)から第一の部材120へと伝達される押圧力よりも、第一の部材120から第二の部材130へと伝達される押圧力をより小さくできる。このため、第二の部材130から流動性部材へと強い押圧力が伝達されることによる筒状部材110の破壊を抑制することができる。
【0032】
第一の部材120としては、上述した2つの機能を備えた部材であれば、特に制限なく利用できる。しかしながら、部材の入手容易性やコスト等の実用上の観点からは、第一の部材120は、図1に例示するようにゴム材料から構成されたものが好ましい。このようなゴム材料の硬さとしては、特に限定されないが、流動性部材を注出する際の操作性や本発明の目的である流動性部材注出器の破損を抑制するという観点から、JIS K 6301による硬さが30以上100以下が好ましく、50以上80以下が特に好ましい。ゴム材料を具体的に例示するならば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−酢酸ビニルゴム、アクリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、エピクロルヒドリンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フォスファゼン系フッ素ゴム等が挙げられる。これらのゴム材料の中でも、流動性部材を注出する際の操作性の観点からイソプレンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴムが好ましい。
【0033】
第一の部材120の形状としては特に限定されるものではない。しかし、押出部材によって印加される押圧力を受け止めて、第二の部材130へと確実に伝達するために、第一の部材120の断面形状は、筒状部材110の内面側の断面形状と略同一であり、第一の部材120の断面積は、筒状部材110の内面側の断面積とほぼ同一であるのが好適である。特に、筒状部材110の内面側の断面積よりもやや大き目のものを、筒状部材110内に少し圧縮して配置することが好適である。この場合、第一の部材120の外周面が、筒状部材110の内面に対してより均一且つより強く密着するため、流動性部材の漏れをより確実に防止できる。また、第一の部材120の軸方向長さとしては、押出部材によって印加される押圧力に応じて適宜選択することができる。すなわち、押出部材によって印加される押圧力が相対的に強い場合は、軸方向長さをより長くし、押出部材によって印加される押圧力が相対的に弱い場合は、軸方向長さをより短くすることができる。
【0034】
なお、筒状部材110が上述した(A)〜(D)に示す条件を満たす場合、ゴム材料から構成される第一の部材120の軸方向長さとしては、3mm以上30mm以下とすることが好ましく、5mm以上15mm以下とすることがより好ましい。軸方向長さが1mm未満では、押出部材によって印加される押圧力が強い場合、この押圧力が第一の部材120により十分に吸収できないまま、第二の部材130へと伝達される。このため、筒状部材120が破損してしまう場合がある。また、軸方向長さが30mmを超える場合は、押出部材によって印加される押圧力が、第一の部材120により吸収されて、第二の部材130へと十分に伝達されなくなる場合がある。そして、結果的に、注出速度が著しく低下したり、注出自体が困難となる場合がある。なお、ゴム材料から構成される第一の部材120としては、図6に例示した既に市販されている流動性部材注出器に利用されているゴム製ピストンを利用してもよい。
【0035】
一方、第一の部材120は、図1に例示したゴム材料から構成される部材以外にも、例えば、押出部材側と第二の部材130側とに各々対向する2枚の板と、この2枚の板の間に配置されたバネとから構成された部材を用いることができる。この場合は、使用するバネのバネ定数は、押出部材によって印加される押圧力に応じて適宜選択することができる。
【0036】
−第二の部材−
(1)第二の部材130は、押出部材によって押された第一の部材120からの押圧力が伝達されることにより、筒状部材110内をその軸方向に沿って移動することができる。これにより、第一の部材120により印加される押圧力を受け止めて、この押圧力を第二の部材130と流動性部材注出口112側との間の筒状部材110内に充填された流動性部材へと伝達することができる。(2)また、第二の部材130としては、その主要部が第一の部材120よりも剛性が高い部材(以下、「剛性体」と称す場合がある)から構成されると共に、流動性部材が軸方向に沿って筒状部材110内を移動するのを防止するように筒状部材110の内周面と密着するように構成された部材が用いられる。これにより、第二の部材130と流動性部材注出口112側との間の筒状部材110内に充填された流動性部材に高圧が加わった状態でも、第二の部材130は第一の部材120よりも剛性の高い主要部からなるため変形することが無い。このため、第二の部材130と筒状部材110の内壁面との間に隙間が生じることも無く、結果的に流動性部材の漏れを抑制することができる。これに加えて、流動性部材を流動性部材注出口112から流動性部材注出器100の外部へと排出させることができる。
【0037】
第二の部材130としては、第一の部材120よりも剛性の高い主要部から構成されると共に、流動性部材が軸方向に沿って筒状部材110内を移動するのを防止するように筒状部材110の内周面と密着するように構成された部材であれば特に限定されない。このような部材としては、例えば、断面形状が筒状部材110の内周側の断面形状と同一であり、金属、ガラス、セラミックス、樹脂などの剛性体のみから構成される部材が挙げられる。但し、剛性体のみから構成される部材では、筒状部材110の内壁面との摩擦が大きくなり過ぎて、軸方向にスムーズに動けなくなる場合がある。これに加えて、筒状部材110の内壁面との密着性を確保するためには、筒状部材110および第二の部材130に対して、共に、高い寸法精度が要求される。また、第二の部材130と筒状部材110の内壁面との摩擦を小さくするために、鏡面仕上げが必要となる場合もある。それゆえ、結果的に、流動性部材注出器100の製造コストが高くなる場合がある。
【0038】
このような事情を考慮すれば、第二の部材130は、図1に例示されるように、筒状部材110の内周側の断面形状と略同一の断面形状を有する柱状の剛性部材132と、この剛性部材132の外周面に配置されたリング状のゴム製パッキン134とから構成された部材であることが好ましい。ここで、「略同一」とは、第二の部材130の軸方向に対して、その断面形状が、筒状部材110の内周側の断面形状と同一か、これよりも小さいことを意味する。ゴム製パッキン134を用いることにより、ゴム製パッキン134と剛性部材と132の間や、ゴム製パッキン134と筒状部材110の内壁面との間が隙間なく密着することができる。このため、流動性部材の漏れを抑制することができる。これに加えて、第二の部材130は、柔軟性を持つゴム製パッキン134を介して筒状部材110の内壁面と強く接触することになるため、第二の部材130が筒状部材内を軸方向にスムーズに移動することが容易である。さらに、第二の部材130の主要部は、剛性部材132から構成される。このため、第二の部材130に強い圧力が加わった際に、第二の部材130に変形が生じ、第二の部材130と筒状部材110の内壁面との間に、流動性部材の漏れを招くような隙間が生じることも無い。
【0039】
なお、ゴム製パッキン134は、図1に例示するように、剛性部材132の外周面に溝を設け、この溝に嵌め込むように剛性部材132の外周面に配置してもよい。これにより、ゴム製パッキン134を剛性部材132の外周面に安定して固定することができる。また、柱状の剛性部材132を構成する材料としては、公知の剛性材料;すなわち、金属、ガラス、セラミックス、樹脂、および、これらの複合化した材料から選択することができる。しかし、第二の部材130が筒状部材130内を軸方向に移動した際に、剛性部材132と筒状部材110の内壁面とが接触して、内壁面に流動性部材の漏れの原因となる傷が発生するのを防止観点からは、剛性部材132は、樹脂部材、または、外周部分が樹脂から構成される複合部材を用いることが好ましい。なお、樹脂製の剛性部材132とゴム製パッキンとから構成される第二の部材130としては、図6に例示した既に市販されている流動性部材注出器に利用されているゴムパッキン付きピストンを利用してもよい。
【0040】
−第一の部材と第二の部材との位置関係等について−
第一の部材120および第二の部材130は、開口部114側から流動性部材注出口112側へと、第一の部材120と、第二の部材130とが、この順に配置されていれば、その位置関係は特に限定されるものではない。そして、通常は、筒状部材110内の流動性部材注出口112側と第二の部材130との間に充填される流動性部材の容量をできるだけ多くするために、第一の部材120と、第二の部材130とは、互いに隣接し接触した状態で配置されていることが好ましい。この場合、第一の部材120および第二の部材130は、両者を接着剤で接合するなどして、一体的に構成されたものであってもよい。また、第一の部材120と、第二の部材130とは、筒状部材110の軸方向に対して、離れて配置されていてもよい。但し、この場合は、第一の部材120と、第二の部材130との間に、圧縮変形しない部材(流動性部材や剛性体からなる部材)を配置する。両部材120、130の間に空気などの圧縮変形する部材が存在すると、流動性部材注出口112から流動性部材を注出するのに必要な押圧力を第二の部材130に伝達できないからである。
【0041】
−流動性部材−
流動性部材注出器100により注出する場合に用いられる流動性部材(図1に示す例では、流動性部材注出口112と第二の部材130との間の筒状部材110内に充填される流動性部材)としては、注出した後に化学的および/または、物理的変化が起こるか否かを問わず、公知のいかなる流動性部材も利用できる。しかし、外部環境に曝された場合に容易に化学的、および/または、物理的に変化してしまう流動性部材の場合、この流動性部材を流動性部材注出器100内に充填すれば、このような変化を抑制することが容易である。この点を考慮すれば、流動性部材として、(1)流動性部材注出器100外部へと排出された後に光照射や加熱処理などの物理的刺激が強制的に付与されることにより硬化する流動性部材、(2)酸化反応や溶媒成分の揮発など、流動性部材注出器100外部へと排出された後に自発的に硬化が進行する流動性部材、(3)2種類の流動性部材の化学反応により硬化する流動性部材、又は、(4)(1)〜(3)のうちのいずれか2つ以上の硬化メカニズムを利用して硬化する流動性部材を利用することが好ましい。このような流動性部材の一例としては、例えば、歯科用コンポジットレジンとして利用される2種類の流動性部材を混合して硬化するタイプの流動性部材が挙げられ、特に好ましいものとして支台築造用途に用いられる歯科用コンポジットレジンが挙げられる。
【0042】
なお、注出対象となる「流動性部材」とは、流動性部材注出器100を利用する温度環境において流動性を有している材料を意味し、溶媒成分のみからなる「純粋な液体」のみならず、溶媒中に固形分を溶解および/または分散させた「溶液」や、「ペースト」なども挙げられる。この流動性部材の粘度は特に限定されず、流動性部材注出器100を利用する温度環境において流動性を有しているものであれば如何様な流動性部材でも利用できる。しかしながら、従来の流動性部材注出器を用いた場合と比べて、流動性部材注出器100を用いた場合に、流動性部材注出器100の破損を抑制すると同時に流動性部材注出器100内の流動性部材の漏れを抑制するという効果がより一層効果的に発揮されうるという点から、流動性部材の粘度は、流動性部材注出器100を利用する温度環境において、100ポイズ〜10000ポイズの範囲内であることが好ましく、500ポイズ〜4000ポイズの範囲内であることがより好ましい。流動性部材の粘度が、100ポイズ未満の場合は、流動性部材注出器100の破損を抑制すると同時に流動性部材注出器内の流動性部材の漏れを抑制するという点で、従来の流動性部材注出器の代わりに流動性部材注出器100を用いるメリットが小さくなる。また、流動性部材の粘度が、10000ポイズを超えると、流動性部材の流動性が低すぎて、注出が困難となったり、目詰まりを起こしやすくなる場合がある。なお、上述した100ポイズ〜10000ポイズの範囲の粘度を比較的容易に満たし得る点では、純粋な液体よりも、溶液を用いることが好ましく、溶液を用いるよりもペーストを用いることがより好ましい。また、ペースト状の流動性部材の具体例としては、例えば、支台築造用途に用いられる歯科用コンポジットレジンが挙げられる。
【0043】
−変形例−
次に、本発明の流動性部材注出器の変形例について、説明する。本発明の流動性部材注出器は、図1に例示するように、その主要部が1本の筒状部材110のみから構成される流動性部材注出器であってもよいが、2本以上の筒状部材110が一体的に構成されたものでもよい。このような流動性部材注出器は、例えば、2種類の流動性部材が混合することによって何がしかの利用価値が発生する流動性部材(例えば、2種類の流動性部材を混合することで硬化反応が起こる流動性部材など)を注出する目的で利用するのに好適である。このような流動性部材注出器としては、実用上、開口部から流動性部材注出口へと、第一の部材と、第二の部材とが、この順に内部に配置された筒状部材を2つ有し、第一の筒状部材と第二の筒状部材とが、互いの軸方向が平行となるように隣接して配置されると共に、軸方向に対して、第一の筒状部材および第二の筒状部材の流動性部材注出口と開口部とが、それぞれ同じ側に配置された構成を有することが特に好ましい(以下、当該態様の流動性部材注出器を、「ダブル注出型流動性部材注出器」と称す場合がある)。
【0044】
図2は、本発明の流動性部材注出器の他の例を示す概略模式図であり、図中、図1に示す部材と同様の機能・構造を有する部材には同じ番号の符合が付してある。図2に示す流動性部材注出器102は、図1に示す流動性部材注出器100を、2本並列に並べて繋げた構造を有するものであり、各々が筒状部材110と同様の構造・機能を持つ第一の筒状部材110Aと、第二の筒状部材110Bとから構成されている。そしてこれら2つの筒状部材110A、110B内には、流動性部材注出器100と同様に、第一の部材120および第二の部材130が配置されている。
なお、第一の筒状部材110A、110Bに設けられる流動性部材注出口112は、図2に示すように、互いに、両筒状部材110A、110Bの接合部分に近づけた位置に設けてもよい。また、図中、フランジ(不図示)を、例えば、筒状部材110A、110Bの開口部114側で、図2中の紙面上下方向に設けてもよい。
【0045】
なお、図2に例示したようなダブル注出型流動性部材注出器では、2つの流動性部材を混合した状態で、注出対象物上に注出できることが好ましい。このため、ダブル注出型流動性部材注出器の流動性部材注出口側に、2つの流動性部材注出口を覆う混合器を取り付けてもよい。このような混合器としては、公知のものが利用でき、例えば、特表2008−504955号公報(例えば、図8等)中に開示された混合器が利用できる。更に、注出作業をより容易にするために、この混合器の先端に、流動性部材注出器を構成する筒状部材の軸方向に対して、斜めに折れ曲がったチューブ(いわゆる、ガイドチップ)を取り付けてもよい。なお、図1、図2に例示した本発明の流動性部材注出器100、102にこのようなアダプター類を取り付けた場合、流動性部材注出口からアダプターの開口部までの圧損が大きくなったり、図2に例示したタイプの流動性部材注出器102で2種類の流動性部材を混合して硬化するタイプの流動性部材を使用した場合はアダプター中を通過している過程で硬化反応が開始され更に粘度が増加することになる。このような場合、従来の流動性部材注出器であれば、流動性部材注出器内に充填された流動性部材にはより高い圧力が加わることになるため、結果的に流動性部材注出器の破損がより生じやすくなる。しかしながら、本発明の流動性部材注出器では、流動性部材注出器にアダプターを取り付けた場合でもこのような問題を抑制することができる。
【0046】
−流動性部材注出方法−
次に、本発明の流動性部材注出方法について説明する。本発明の流動性部材注出器により注出を行う場合、まず、筒状部材110内に流動性部材を充填する。流動性部材の充填方法としては特に限定されないが、例えば、第二の部材130を流動性部材注出口112から開口部114へと移動させることにより、流動性部材を流動性部材注出口112を介して筒状部材110内に吸い上げる方法、流動性部材注出口112付近に第二の部材130を押し込んだ状態で注入口112から流動性部材を充填し、第二の部材130を開口部114側に押し上げる方法、筒状部材110内に流動性部材を満たし、開口部114側から第二の部材130を開口部114側から押し込む方法などが利用できる。
【0047】
次に、押出部材を開口部114の側から挿入して、第一の部材120を流動性部材注出口112の側へと押圧する。この際、第一の部材120は、その軸方向に縮むように変形すると同時に、第二の部材130を押圧する。そして、第二の部材130により、第二の部材130と流動性部材注出口112の側との間の筒状部材内に充填された流動性部材の圧力が高められ、流動性部材が流動性部材注出口112の側から排出される。
【0048】
上述した流動性部材注出方法は、図7に例示したような押出器300を用いて押出部材310、312を手で直接押出すことにより実施できる。また、押出部材310、312を、機械的な力を利用して押出したり、あるいは、手を利用する場合でも梃の原理を利用して押出すことにより実施できる。梃の原理を利用した押出器としては、流動性部材注出器の筒状部材中空部に挿入可能な断面形状を有する柱状の押出部材、および、手動レバーを有し、この手動レバーの動きを梃の原理を利用して押出部材をその軸方向に押出す動作に変換する押出部材押出機構、を備えた押出器(例えば、図8に例示する押出器400)が利用できる。
【0049】
このような手動レバーを用いた押出器を用いる場合、まず、押出器と、筒状部材内の流動性部材注出口側と第二の部材との間に流動性部材が充填された流動性部材注出器とを、押出部材の軸方向と流動性部材注出器の筒状部材の軸方向とが一致するように、押出部材の先端部を流動性部材注出器の開口部から挿入した状態で互いに固定する。この場合の固定方法としては、特に限定されないが、図6、図8に例示したように、流動性部材注出器の開口部側にフランジを設け、押出器に、このフランジに対応する差し込み穴を設けておけば、フランジを差し込み穴に差し込むことで、流動性部材注出器と押出器とを固定することができる。続いて、手動レバーを作動させて、押出部材を筒状部材の開口部側から流動性部材注出口側へと押出すことにより、流動性部材を流動性部材注出口から流動性部材注出器の外部に注出することができる。
【0050】
−押出部材押出機構−
なお、手動レバーの動きを梃の原理を利用して押出部材をその軸方向に押出す動作に変換する押出部材押出機構としては特に限定されるものではないが、例えば、図8に示す押出器400に用いられる押出部材押出機構としては図3に例示されるものが一例として挙げられる。なお、図3は、図8に示される押出器400の本体部410内部を拡大した概略模式図である。図3中に示す押出部材420の下面側には、鋸刃状の凸部422が設けられている。この凸部422は、押出部材420の押出方向Pに対して垂直な面422Aと、凸部422の頂上部から押出方向P側に斜めに傾斜した面422Bとから構成される。押出部材420の下側には、手動レバー440を握った際の手動レバー先端部442の動きを、押出部材420が押出方向Pへの動きに変換して伝達する伝達部材460が設けられている。
【0051】
この伝達部材460は、支持軸472により、手動レバー先端部442に対して回転可能に取り付けられている。また、また、伝達部材460の伝達部材先端部462(支持軸472を基準として、押出方向P側の伝達部材460の先端部)には、不図示のバネ部材によって、常に、図中、矢印U方向(上側方向)に力が作用している。このため、伝達部材先端部462は、常に押出部材420の下面側を押し上げるように接触している。なお、手動レバー440を動作させない状態では、伝達部材先端部462は、凸部422の垂直面422Aと接触している。また、手動レバー先端部442は、支持軸472よりも下方側に設けられた支持軸470によって、本体部410に固定されると共に、支持軸470を中心として回転可能である。また、手動レバー先端部442は、不図示のバネ部材によって、常に、図中、矢印R方向(押出方向Pと反対側の方向)に力が作用している。このため、手動レバー440を握った後に、離すと、手動レバー440が自動的にグリップ430から離れる方向に移動して元の位置に戻ることができる。
【0052】
図3に示す押出部材押出機構は、まず、手動レバー440を握ることにより、手動レバー先端部442が、押出方向Pへと移動する。そして、これに伴い、伝達部材460も押出方向Pへと移動する。この際、伝達部材先端部462は凸部422の垂直面422Aを押出方向Pへと押出すため、押出部材420が押出方向Pへと移動することになる。そして、手動レバー440を離すと、手動レバー先端部422は自動的に矢印R方向に移動するため、伝達部材460も同時に矢印R方向に移動する。この際、伝達部材先端部462は、凸部422の傾斜面422B上を伝いながら、右隣りの凸部422(押出方向Pと反対側の凸部)へと移動し、再び、右隣りの凸部422の垂直面422Aと接触した状態で静止する。
【0053】
−その他の発明−
なお、本発明者らは、手押し式の押出器を用いて注出する場合と比べて、流動性部材注出器の筒状部材内に充填された流動性部材に加わる圧力がより高くなる場合でも、流動性部材注出器の破損を抑制すると同時に、流動性部材注出器内の流動性部材の漏れを抑制する方法として、図1に例示したような流動性部材注出器を例示した。しかしながら、流動性部材注出器として、本発明の流動性部材注出器から第一の部材を取り去った場合でも、同様の課題を解決することも可能である。この場合、この流動性部材注出器と組み合わせる押出器として、押出部材が、その軸方向に可逆的に変形可能な機能を備えていればよい。すなわち、本発明の流動性部材注出器における第一の部材の機能を、押出器の押出部材側に付与することによっても、上記課題を解決することができる。
【0054】
この場合の押出部材としては、(a)押出部材の軸方向の一部分をゴム部材やバネ部材などの押出部材の軸方向に対して可逆的に変形可能な部材(第一の部材と実質的に同等の機能を有する部材)に置き換えたもの、又は、(b)押出部材の先端に、押出部材の軸方向に対して可逆的に変形可能な先端部部材(第一の部材と実質的に同等の機能を有する部材)を取り付けたもの、が利用できる。上述の態様(a)(b)のいずれの場合においても、注出時には、本発明の流動性部材注出器と同様に、開口部から流動性部材注出口へと、第一の部材と実質同等の機能を有する部材と、第二の部材と実質同等の機能を有する柱状部材とが、この順に筒状部材の軸線上に配置されることになる。それゆえ、この場合も、押出器を手で強く操作しなくても注出することができる上に、流動性部材注出器の破損や流動性部材の漏れも抑制できる。また、態様(b)では、注出時に、第一の部材と実質同等の機能を有する先端部部材も、筒状部材内に配置されることになる。このため、押圧力を受けて先端部部材が変形しても、先端部部材の外周側は筒状部材の内壁面で囲まれているため、その変形は筒状部材の軸方向に制限される。従って、押圧力を加えた際に押出部材が軸方向に変形しても、態様(b)の押出部材は、態様(a)の押出部材と比べて軸振れが起こりにくく、安定した注出作業が可能である。
【0055】
図4は、本発明の他の流動性部材注出方法に用いられる手動レバー式の押出器の一例について示しす上面図であり、具体的には、上記の態様(b)の押出部材を備えた手動レバー式の押出器の一例を示す図である。また、図5は、図4に示す手動レバー式の押出器と組み合わせて用いる流動性部材注出器の一例について示す概略模式図である。図4に示す押出器402は、押出部422、424の先端に、先端部部材426が取り付けられている点を除けば、図8に示す押出器400と同様の構成を有するものである。そして、先端部部材426は、例えば、図2に示す第一の部材120と実質的に同等の機能・構成を有する部材(例えば、柱状のゴム部材など)から構成されている。一方、図5に示す流動性部材注出器104は、2本の筒状部材110A、110B内に、柱状部材130Aが配置されたものであり、図2に示す流動性部材注出器102から第一の部材120を取り除いた以外は、流動性部材注出器102と同様の構成を有するものである。そして、この柱状部材130Aは、流動性部材注出器102に用いられる第二の部材130と同一の機能および構成を有するものである。
【0056】
図4および図5に示す押出器402と流動性部材注出器104とを組み合わせて注出を行う場合、まず、筒状部材110A、110B内に流動性部材を充填する。次に、押出部材420の押出部422、424を、2つの筒状部材110A、110Bの開口部114の側から挿入して、柱状部材130Aを流動性部材注出口112の側へと押圧する。この際、2つの先端部部材426は、筒状部材110A、110B内で、その軸方向に縮むように変形すると同時に、柱状部材130Aを押圧する。そして、柱状部材130Aにより、柱状部材130Aと流動性部材注出口112の側との間の筒状部材内に充填された流動性部材の圧力が高められ、流動性部材が流動性部材注出口112の側から排出される。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の流動性部材注出器および流動性部材注出方法は、流動性部材を所定の位置に注出する分野において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の流動性部材注出器の一例を示す模式断面図である
【図2】本発明の流動性部材注出器の他の例を示す模式断面図である
【図3】本発明の流動性部材注出方法に用いられる手動レバー式の押出器の押出部材押出機構の一例を示す概略模式図である。
【図4】本発明の他の流動性部材注出方法に用いられる手動レバー式の押出器の一例について示しす上面図である。
【図5】図4に示す手動レバー式の押出器と組み合わせて用いる流動性部材注出器の一例について示す概略模式図である。
【図6】2液硬化型の歯科用充填修復材等を利用する場合に用いられる従来の流動性部材注出器の一例を示す概略模式図である。
【図7】手押し式の押出器の一例を示す概略模式図である。
【図8】手動レバー式の押出器の一例を示す概略模式図である。
【符号の説明】
【0059】
100、102、104 流動性部材注出器
110 筒状部材
110A 第一の筒状部材
110B 第二の筒状部材
112 流動性部材注出口
114 開口部
116 フランジ
120 第一の部材
130 第二の部材
130A 柱状部材
132 剛性部材
134 ゴム製パッキン
400 押出器
410 本体部
412 差し込み穴
420 押出部材
422、424 押出部
426 先端部部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に流動性部材が充填可能な筒状部材と、
該筒状部材の一方の端に設けられた流動性部材注出口と、
上記筒状部材の他方の端に設けられた開口部と、
上記筒状部材内に、その軸方向に沿って移動可能に配置され、且つ、上記軸方向に対して可逆的に変形可能な第一の部材と、
上記筒状部材内に、その軸方向に沿って移動可能に配置され、且つ、上記第一の部材よりも剛性の高い主要部から構成されると共に、流動性部材が上記軸方向に沿って上記筒状部材の内部を移動するのを防止するように上記筒状部材の内周面と密着する第二の部材と、
を備え、
上記開口部から上記流動性部材注出口へと、上記第一の部材と、上記第二の部材とが、この順に上記筒状部材の内部に配置されたことを特徴とする流動性部材注出器。
【請求項2】
前記第一の部材は、ゴム材料から構成されることを特徴とする請求項1に記載の流動性部材注出器。
【請求項3】
前記第二の部材が、前記筒状部材の内周側の断面形状と略同一の断面形状を有する柱状の剛性部材と、該剛性部材の外周面に配置されたリング状のゴム製パッキンとから構成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の流動性部材注出器。
【請求項4】
前記開口部から前記流動性部材注出口へと、前記第一の部材と、前記第二の部材とが、この順に内部に配置された前記筒状部材を2つ有し、
第一の筒状部材と第二の筒状部材とが、互いの軸方向が平行となるように隣接して配置されると共に、上記軸方向に対して、上記第一の筒状部材および上記第二の筒状部材の流動性部材注出口と開口部とが、それぞれ同じ側に配置されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の流動性部材注出器。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の流動性部材注出器の筒状部材中空部に挿入可能な断面形状を有する柱状の押出部材、および、手動レバーを有し、該手動レバーの動きを梃の原理を利用して上記押出部材をその軸方向に押出す動作に変換する押出部材押出機構、を備えた押出器と、
筒状部材内の流動性部材注出口側と第二の部材との間に流動性部材が充填された請求項1〜4のいずれか1項に記載の流動性部材注出器とを、
上記押出部材の軸方向と上記流動性部材注出器の筒状部材の軸方向とが一致するように、上記押出部材の先端部を上記流動性部材注出器の開口部から挿入した状態で互いに固定した後、
前記手動レバーを作動させて、上記押出部材を上記筒状部材の開口部側から流動性部材注出口側へと押出すことにより、上記流動性部材を流動性部材注出口から上記流動性部材注出器の外部に注出することを特徴とする流動性部材注出方法。
【請求項6】
流動性部材注出器を構成する筒状部材中空部に挿入可能な断面形状を有する柱状の押出部材、該押出部材の先端に取り付けられ、且つ、上記押出部材の軸方向に対して可逆的に変形可能な先端部部材、および、手動レバーを有し、該手動レバーの動きを梃の原理を利用して上記押出部材をその軸方向に押出す動作に変換する押出部材押出機構、を備えた押出器と、
内部に流動性部材が充填可能な筒状部材と、該筒状部材の一方の端に設けられた流動性部材注出口と、
上記筒状部材の他方の端に設けられた開口部と、上記筒状部材内に、その軸方向に沿って移動可能に配置され、且つ、上記先端部部材よりも剛性の高い主要部から構成されると共に、流動性部材が上記軸方向に沿って上記筒状部材の内部を移動するのを防止するように上記筒状部材の内周面と密着する柱状部材と、を備え、上記筒状部材内の流動性部材注出口側と柱状部材との間に流動性部材が充填された流動性部材注出器とを、
上記押出部材の軸方向と上記流動性部材注出器の筒状部材の軸方向とが一致するように、上記押出部材の先端部を上記流動性部材注出器の開口部から挿入した状態で互いに固定した後、
前記手動レバーを作動させて、上記押出部材を上記筒状部材の開口部側から流動性部材注出口側へと押出すことにより、上記流動性部材を流動性部材注出口から上記流動性部材注出器の外部に注出することを特徴とする流動性部材注出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−36970(P2010−36970A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−204074(P2008−204074)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】