説明

流延装置及び方法、並びに溶液製膜方法

【課題】各層に含有するポリマーが異なる積層フィルムをつくる。
【解決手段】フィードブロック本体25aには流路が設けられる。流路のうち上流側の部分に、ベーン73b、74bが配される。ベーン73b、74bは流路の上流側部分を流路80〜82に仕切る。ベーン73b、74bよりも下流側の流路には、上流側から下流側に向かって、合流部85及び積層ドープ流路86が順次設けられる。主ドープは、平均速度V20で出口80eから合流部85へ流れる。第1副ドープは平均速度V21で出口81eから合流部85へ、そして、第2副ドープは平均速度V22で出口81eから合流部85へ流れる。合流部85では、各ドープ20〜22が合流する。制御部109は、V21>V20、V22>V20となるように、各部を制御する。合流部85では、各ドープ20〜22がそれぞれ層をなす積層ドープ45がつくられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の層を有する積層流延膜を形成する流延装置及び方法、並びに積層フィルムをつくる溶液製膜方法に関する。特に、各層に含まれるポリマーが互いに異なる積層流延膜を形成する流延装置及び方法、並びに、各層に含まれるポリマーが互いに異なる積層フィルムをつくる溶液製膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光透過性を有するポリマーフィルム(以下、フィルムと称する)は、軽量であり、成形が容易であるため、光学フィルムとして多岐に利用されている。中でも、セルロースアシレートなどを用いたセルロースエステル系フィルムは、写真感光用フィルムをはじめとして、近年市場が拡大している液晶表示装置の構成部材である偏光板の保護フィルムや位相差フィルム等の光学フィルムに用いられている。
【0003】
フィルムの主な製造方法としては、溶融押出方法と溶液製膜方法とがある。溶融押出方法は、ポリマーを溶融させた後、押出機で押し出してフィルムを製造する方法であり、生産性が高く、設備コストも比較的低額であるなどの特徴を有する。しかし、フィルムの厚みを調整することが難しいことに加え、フィルム上に細かいスジができる故障が発生しやすい。一方、溶液製膜方法は、ポリマーと溶剤とを含むポリマー溶液(以下、ドープと称する)を流し、支持体上に流延膜を形成する。次に、流延膜が搬送可能になった後、これを支持体から剥がして湿潤フィルムとする。そして、この湿潤フィルムから溶剤を蒸発させてフィルムとする方法である。溶液製膜方法は、溶融押出方法と比べて、フィルムの厚みの調節が容易、フィルム表面の状態を良好なものにすることが容易である。更に、溶液製膜方法は、含有異物の少ないフィルムを得ることができる。こうした経緯から、光学フィルムは、主に溶液製膜方法で製造されている。
【0004】
溶液製膜方法を用いてフィルムを製造すると、フィルムの表面に微小な凹凸が生じる故障、いわゆるシャークスキン故障が発生することがある。このシャークスキン故障は、製膜速度、すなわち支持体の走行速度の増大や流延時のドープの温度が一定の値以下になることにより、顕著に発生することが知られている。
【0005】
また、支持体から流延膜を剥ぎ取る際、流延膜の一部が支持体に残留する故障(以下、剥げ残り故障と称する)が問題となる。剥げ残り故障は、ドープに含まれるポリマー分子及び支持体表面にある原子または分子の相互作用(例えば、化学結合)に起因するものと考えられている。剥げ残り故障が発生すれば、残留物を取り除くために、溶液製膜方法を一旦停止する必要となる結果、生産効率が低下してしまう。剥げ残り故障は、支持体の走行速度の増大や流延時のドープのポリマー濃度の増大により、顕著に発生することが知られている。
【0006】
シャークスキン故障や剥げ残り故障を抑制する方法として、従来用いていたドープ(以下、主ドープと称する)とともに、主ドープよりもポリマー濃度が低いドープ(以下、副ドープと称する)を同時に流延し、主ドープを含む主層、及び副ドープを含む副層が層をなす積層流延膜を、支持体上に形成する方法が開示されている(例えば、特許文献1)。特許文献1の積層流延膜では、支持体側から順に、第1副ドープからなる第1副層、主ドープからなる主層、及び第2副ドープからなる第2副層が重なり、第2副層は、積層流延膜の表側の面に露呈する。このような方法によれば、第2副層をなす第2副ドープの粘度が低いため、シャークスキン故障を抑制することが可能となる。更に、積層流延膜の支持体側の面に位置する第1副層におけるポリマー濃度が低いため、剥げ残り故障を抑制することが可能となる。こうして、第1副層、主層、及び第2副層が順に重ななる積層フィルムを製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−066943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、フィルムに求められる光学特性によっては、主層に含まれるポリマーとして、支持体からの剥ぎ取り性の低いものを採用せざるを得ない。このような場合、支持体からの剥ぎ取り性の低いポリマーが第1副層にも含まれることとなると、積層流延膜の剥ぎ取り性が低下してしまう。このような場合には、第1副ドープに含まれるポリマーとして、主ドープに含まれるポリマーよりも支持体からの剥ぎ取り性が高いものを採用する必要がある。
【0009】
ところが、図7及び図8に示すように、A方向に走行する支持体190上に、含有するポリマーが異なる複数のドープを同時に流すと、支持体190上に形成した積層流延膜195に厚みムラ198が多発してしまう。この厚みムラ198は、主ドープからなる主層200と第1副ドープからなる第1副層201との界面の不安定化に起因する。界面の不安定化とは、主層200をなす主ドープの一部が第1副層201へ入り込む現象を指す。また、主ドープ及び第1副ドープに加え、主ドープと異なるポリマーを含む第2副ドープをA方向に走行する支持体190上に同時に流した場合には、主層200をなす主ドープの一部が、第2副ドープからなる第2副層202へ入り込む結果、厚みムラが発生してしまう。そして、厚みムラの発生した積層流延膜195をそのまま乾燥工程に導入しても、最終的に得られる積層フィルムには厚みムラが残ってしまう。
【0010】
本発明はこのような課題を解決するものであり、互いに異なるポリマーを含む層を有する積層流延膜を形成する流延装置及び方法、並びに、積層フィルムをつくる溶液製膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ブロック状の流延装置本体を貫通する流路を通して、含有するポリマー及び粘度の異なる複数のドープを支持体へ同時に流出して、前記支持体上の低粘度の副ドープからなる副層に高粘度の主ドープからなる主層が重なる積層流延膜を前記支持体上に形成する流延装置において、前記流路は、前記主ドープが流通する主流路と、前記副ドープが流通する副流路と、前記主流路から流出した前記主ドープ及び前記副流路から流出した前記副ドープを合流させて、前記各ドープが層をなす積層ドープをつくる合流部とを有し、前記流延装置本体は、前記合流部において前記主ドープの平均流速VMが前記副ドープの平均流速VSよりも低くなるように、前記各ドープを前記各流路から前記合流部へ送り出す制御部を有することを特徴とする。
【0012】
前記副流路は、第1副ドープが流通する第1副流路と第2副ドープが流通する第2副流路とを有し、前記合流部は、前記主流路から流出した前記主ドープ、前記第1副流路から流出した前記第1副ドープ、及び前記第2副流路から流出した前記第2副ドープを合流させて、前記積層流延膜では、前記支持体側から、前記第1副ドープからなる第1副層、前記主層、前記第2副ドープからなる第2副層が順次重なることが好ましい。
【0013】
前記各ドープが流通する前記流路の出口の面積をSとし、前記各ドープが前記各流路へ供給される体積流量をQとするときに、前記各ドープの平均流速が、Q/Sと表されることが好ましい。また、(前記平均流速VS−前記平均流速VM)の値が0.2m/秒以下であることが好ましい。更に、前記ポリマーはセルロースアシレートであり、前記主ドープに含まれるポリマーにおけるアシル基の総アシル置換度Z1は式(1)を満たし、前記副ドープに含まれるポリマーにおけるアシル基の総アシル置換度Z2は式(2)を満たすことが好ましい。
式(1) 2.0<Z1<2.7
式(2) 2.7<Z2
【0014】
また、本発明は、主ポリマーを含む主ドープ、及び前記主ポリマーと異なる副ポリマーを含み、前記主ドープよりも低粘度の副ドープをそれぞれ独立して送り出す送り出し工程と、前記送り出し工程を経た前記主ドープ及び前記副ドープを合流させて、前記各ドープが層をなす積層ドープをつくる合流工程と、前記積層ドープを前記支持体上へ流して、前記支持体上の前記副ドープからなる副層に前記主ドープからなる主層が重なる積層流延膜を前記支持体上に形成する膜形成工程とを有し、前記送り出し工程では、前記合流部における前記主ドープの平均流速VMが、前記合流部における前記副ドープの平均流速VSよりも低くなるように、前記各ドープを送り出す速度調節工程を行うことを特徴とする。
【0015】
前記送り出し工程では、前記主ドープよりも低粘度の第1副ドープ及び第2副ドープをそれぞれ独立して送り出し、前記合流工程では、前記送り出し工程を経た前記主ドープ、前記第1副ドープ、及び前記第2副ドープを合流させて、前記積層ドープをつくり、前記膜形成工程では、前記支持体側から、前記第1副ドープからなる第1副層、前記主層、前記第2副ドープからなる第2副層が順次重なる前記積層流延膜を形成することが好ましい。
【0016】
前記各ドープが流通する流路の出口の面積をSとし、前記各ドープが前記各流路へ供給される体積流量をQとするときに、前記各ドープの平均流速が、Q/Sと表されることが好ましい。また、(前記平均流速VS−前記平均流速VM)が0.2m/秒以下となるように前記速度調節工程を行うことが好ましい。更に、前記ポリマーはセルロースアシレートであり、前記主ドープに含まれるポリマーにおけるアシル基の総アシル置換度Z1は式(1)を満たし、前記副ドープに含まれるポリマーにおけるアシル基の総アシル置換度Z2は式(2)を満たすことが好ましい。
式(1) 2.0<Z1<2.7
式(2) 2.7<Z2
【0017】
更に、本発明の溶液製膜設備は、上記の流延方法によって形成された前記積層流延膜を前記支持体から剥ぎ取る剥ぎ取り工程と、前記剥ぎ取られた前記積層流延膜を乾燥する乾燥工程とを行うことを特徴する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高粘度の主ドープと低粘度の副ドープとの合流により、各ドープが層をなす積層ドープをつくる合流部において、主ドープの平均流速が副ドープの平均流速よりも低いため、異なるポリマーを含むドープ間の界面が安定する。したがって、本発明によれば、界面の不安定化に起因する厚みムラを防止しつつ、面状に優れ、所望の特性を有する積層構造の光学フィルムを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1の溶液製膜設備の概要を示す説明図である。
【図2】流延室内に設けられた流延装置の概要を示す斜視図である。
【図3】YZ平面におけるフィードブロック及び流延ダイの断面図である。
【図4】ベーン及びディストリビューションピンの概要を示す斜視図である。
【図5】YZ平面における合流部近傍の断面図である。
【図6】第2の溶液製膜設備の概要を示す説明図である。
【図7】厚みムラが発生した積層流延膜の概要を示す平面図である。
【図8】厚みムラが発生した積層流延膜の概要を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(溶液製膜設備)
溶液製膜設備10は、図1に示すように、流延室12とピンテンタ13とクリップテンタ14と乾燥室15と冷却室16と巻取室17とを有する。
【0021】
流延室12には、ポリマー及び溶剤を含む3種類のドープ、すなわち、主ドープ20、第1副ドープ21及び第2副ドープ22から、後述する積層ドープをつくるフィードブロック25及び積層ドープを流出する流延ダイ26を有する流延装置27と、積層ドープの支持体であり、積層ドープから積層流延膜29を形成する流延ドラム30と、流延ドラム30から積層流延膜29を剥ぎ取る剥取ローラ33と、温調装置34、35と凝縮器(コンデンサ)36と回収装置37とが備えられている。
【0022】
第1副ドープ21に含まれるポリマー(以下、第1副ポリマーと称する)は主ドープ20に含まれるポリマー(以下、主ポリマーと称する)と異なる。第2副ドープ22に含まれるポリマー(以下、第2副ポリマーと称する)は主ポリマーと異なるものでもよいし、同じものでもよい。また、第2副ポリマーは、第1副ポリマーと同じでもよいし、異なるものでもよい。
【0023】
主ポリマー及び第1副ポリマーは、セルロースアシレートであることが好ましい。そして、主ポリマー及び第1副ポリマーがセルロースアシレートである場合、主ポリマーにおけるアシル基の総アシル置換度Z1は、第1副ポリマーにおけるアシル基の総アシル置換度Z2よりも低いことが好ましい。特に、主ポリマーにおけるアシル基の総アシル置換度Z1は式(1)を満たし、第1副ポリマーにおけるアシル基の総アシル置換度Z2は式(2)を満たす。各ポリマーの詳細は後述する。
式(1) 2.0<Z1<2.7
式(2) 2.7<Z2
【0024】
レターデーションの波長分散性の観点から、主ポリマーに用いるセルロースアシレートのアセチル基の置換度X1、及び炭素数3以上のアシル基の置換度の合計Y1は、下記式(3)および(4)を満たすことが、好ましい。なお、X1とY1は前記式(1)の前記Z1との間にX1+Y1=Z1の関係が成り立つ。
式(3) 1.0<X1<2.7
式(4) 0≦Y1<1.5
【0025】
レターデーションの波長分散性の観点から、第1副ポリマーに用いるセルロースアシレートのアセチル基の置換度X2、及び炭素数3以上のアシル基の置換度の合計Y2は、下記式(5)および(6)を満たすことが好ましい。なお、X2とY2は前記式(2)のZ2との間にX2+Y2=Z2の関係が成り立つ。
式(5) 1.2<X2<3.0
式(6) 0≦Y2<1.5
【0026】
第1副ドープ21は主ドープ20よりも粘度が低く、第2副ドープ22は主ドープ20よりも粘度が低い。各ドープ20〜22の粘度は、JIS K 7117に基づいて求めることができる。各ドープの粘度は、特に限定されないが、例えば、主ドープ20の粘度は、40Pa・秒以上150Pa・秒以下であることが好ましく、50Pa・秒以上100Pa・秒以下であることがより好ましい。また、第1副ドープ21や第2副ドープ22の粘度は20Pa・秒以上80Pa・秒以下であることが好ましく、30Pa・秒以上50Pa・秒以下であることがより好ましい。なお、第1副ドープ21の粘度と、第2副ドープ22の粘度とは、等しくてもよいし、異なっていてもよい。
【0027】
また、主ドープ20に含まれるポリマー濃度は、15重量%以上30重量%以下であることが好ましく、20重量%以上25重量%以下であることがより好ましい。第1副ドープ21に含まれるポリマー濃度は、10重量%以上25重量%以下であることが好ましく、15重量%以上25重量%以下であることがより好ましく、19重量%以上22重量%以下であることが特に好ましい。第2副ドープ22に含まれるポリマー濃度は、10重量%以上25重量%以下であることが好ましく、15重量%以上25重量%以下であることがより好ましく、19重量%以上22重量%以下であることが特に好ましい。
【0028】
凝縮器36は、流延室12内の雰囲気に含まれる溶剤を凝縮する。図示しない制御部の制御の下、回収装置37は、凝縮器36により液化した溶剤を回収し、流延室12内の雰囲気のガス露点TRを、所定の範囲に保つ。ガス露点とは、流延室12内の雰囲気に含まれる溶剤が凝縮する温度である。回収された溶剤は再生装置で再生された後に、ドープ調製用溶剤として再利用される。制御部の制御の下、温調装置35は、流延室12内の雰囲気の温度を所定の範囲に保つ。
【0029】
流延ドラム30は、軸方向が水平となるように配され、軸を中心に回転自在となっている。流延ドラム30は、制御部の制御の下、図示しない駆動装置により軸30aを中心に回転する。流延ドラム30の回転により、周面30bは所定の速度(例えば、50m/分以上200m/分以下)で走行する。流延ドラム30には温調装置34が接続する。温調装置34は、伝熱媒体の温度を調節する温度調節部を内蔵する。温調装置34は、温度調節部及び流延ドラム30内に設けられる流路との間で、所望の温度に調節された伝熱媒体を循環させる。この伝熱媒体の循環により、流延ドラム30の周面30bの温度を所望の温度に保つことができる。
【0030】
流延ドラム30は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。流延ドラム30の周面30bに施されるクロムメッキ処理はビッカース硬さHv700以上、膜厚2μm以上、いわゆる硬質クロムメッキであることが好ましい。
【0031】
主ドープ20が貯留される貯留タンク40aは、ポンプ40bを有する配管40cによって、フィードブロック25と連通する。同様にして、第1副ドープ21が貯留される貯留タンク41aは、ポンプ41bを有する配管40cによって、フィードブロック25と連通し、第2副ドープ22が貯留される貯留タンク42aは、ポンプ42bを有する配管41cによって、フィードブロック25と連通する。
【0032】
図2及び図3に示すように、フィードブロック25は、配管40c〜42cから送られた各ドープ20〜22を合流させて、積層ドープ45をつくり、所定の流量の積層ドープ45を流延ダイ26へ送る。そして、流延ダイ26は、回転する流延ドラム30の周面30bに向けて、流出口から積層ドープ45を流出する。流出した積層ドープ45は、流延ドラム30の周面30b上に、積層流延膜29を形成する。
【0033】
積層流延膜29は、主ドープ20からなる主層と、第1副ドープからなる第1副層と、第2副ドープからなる第2副層とを有する。第1副層は、周面30bに接する積層流延膜29の表面側に位置し、第2副層は積層流延膜29の露呈面に位置し、主層は、第1副層及び第2副層の間に位置する。
【0034】
流延ドラム30は積層流延膜29を冷却する。冷却により、ゲル化が進行し、積層流延膜29は搬送が可能な状態となる。こうして、積層流延膜29は剥取ローラ33によって流延ドラム30から剥ぎ取られた後、湿潤フィルム52として搬送される。
【0035】
図1に示すように、減圧チャンバ47を、流延ダイ26に対し、周面30bの走行方向の上流側に配置してもよい。減圧チャンバ47は、流延ビードの走行方向上流側を所望の圧力まで減圧する。図示しない制御部の制御の下、減圧チャンバ47は、流延ビードの上流側の圧力が下流側の圧力よりも低くなるように、流延ビードの走行方向上流側を減圧することができる。流延ビードの上流側と下流側との圧力差は、10Pa以上2000Pa以下であることが好ましい。
【0036】
流延室12の下流には、ピンテンタ13、クリップテンタ14、乾燥室15、冷却室16、及び巻取室17が順に設置されている。流延室12及びピンテンタ13の間に設けられる渡り部50には、剥取ローラ33によって剥ぎ取られた湿潤フィルム52をピンテンタ13に導入するローラ53が配される。図示しない送風装置は、ローラ53で搬送される湿潤フィルム52に、所定の風をあてる。
【0037】
ピンテンタ13は、湿潤フィルム52の両側縁部を貫通して保持する多数のピンプレートを有し、このピンプレートが軌道上を走行する。ピンプレートにより走行する湿潤フィルム52に対し乾燥風が送られ、湿潤フィルム52は乾燥し、積層フィルム55となる。
【0038】
クリップテンタ14は、積層フィルム55の幅方向両側縁部を把持する多数のクリップを有し、このクリップが延伸軌道上を走行する。クリップにより走行する積層フィルム55に対し乾燥風が送られ、積層フィルム55には、幅方向への延伸処理とともに乾燥処理が施される。なお、クリップテンタ14は省略しても良い。
【0039】
ピンテンタ13及びクリップテンタ14の下流にはそれぞれ耳切装置57a、57bが設けられている。耳切装置57a、57bは積層フィルム55の幅方向両側縁部を切り離す。切り離された両側縁部は、送風によりクラッシャ58a、58bに送られて、破砕され、ドープ等の原料として再利用される。
【0040】
乾燥室15には、多数のローラ59が設けられており、これらに積層フィルム55が巻き掛けられて搬送される。乾燥室15内の雰囲気の温度や湿度などは、図示しない空調機により調節されており、乾燥室15の通過により積層フィルム55の乾燥処理が行われる。乾燥室15には吸着回収装置60が接続されており、積層フィルム55から蒸発した溶剤が吸着回収される。
【0041】
乾燥室15の出口側には冷却室16が設けられており、この冷却室16で積層フィルム55が室温となるまで冷却される。冷却室16の下流には強制除電装置(除電バー)61が設けられており、積層フィルム55が除電される。さらに、強制除電装置61の下流側には、ナーリング付与ローラ62が設けられており、積層フィルム55の両側縁部にナーリングが付与される。巻取室17には、プレスローラ63を有する巻取機64が設置されており、積層フィルム55が巻き芯65にロール状に巻き取られる。
【0042】
巻き芯65から送り出した積層フィルム55に延伸処理を施してもよい。延伸処理は、例えば、クリップテンタ14にて行うことができる。
【0043】
次に、図2及び図3を用いて、フィードブロック25及び流延ダイ26の詳細について説明する。以下の説明において、フィードブロック25の幅方向をX方向とし、フィードブロック25の高さ方向をZ方向とし、X方向及びZ方向と直交する方向をY方向とする。
【0044】
(フィードブロック)
フィードブロック25内には、ブロック状のフィードブロック本体25aを貫通する流路70がZ方向に設けられる。これにより、フィードブロック本体25aの上面には流入口が開口し、フィードブロック本体25aの下面には流出口72が開口する。この流入口から流路70の上流部分にかけて、2つの仕切部材73、74が配される。仕切部材73、74は、流路70の上流部分を、3つの流路(主流路80、第1副流路81、及び第2副流路82)に仕切る。主流路80は、第1副流路81及び第2副流路82の間に位置する。主流路80は配管40cと連通する。第1副流路81は配管41cと連通し、第2副流路82は、配管42cと連通する。こうして、流路70のうち、仕切部材73、74の下流側には、合流部85と積層ドープ流路86とが上流側から下流側へ向かって順次設けられる。
【0045】
仕切部材73は仕切ブロック73aとベーン73bとを有し、仕切部材74は、仕切ブロック74aとベーン74bとを有する。図3及び図4に示すように、楔状のベーン73bは、鋭角な先端部分が合流部85に向かうように配される。鋭角な先端部分と反対側にあるベーン73bの端部には、揺動軸73cが設けられる。ベーン73bは、揺動軸73cを中心に揺動自在に取り付けられている。ベーン74bも、ベーン73bと同様に、揺動軸74cを中心に揺動自在に取り付けられている。
【0046】
また、図5に示すように、第1副流路81の出口81e、及び第2副流路82の出口82eには、ディストリビューションピン87、88が設けられる。
【0047】
図4に示すように、円柱状のディストリビューションピン87は、軸の方向がX方向と平行になるように配され、軸を中心に回動自在である。ディストリビューションピン87の周面には、周方向に伸びるように形成される切欠溝87aが設けられる。各ディストリビューションピンに設けられた切欠溝の深さやX方向の幅は、周方向に向かうに従い漸増或いは漸減していることが好ましい。ディストリビューションピン88も、ディストリビューションピン87と同様の構造を有する。
【0048】
図5に示すように、各ディストリビューションピン87、88の回動、各ベーン73b、74bの揺動により、主流路80の出口80eの面積S80、第1副流路81の出口81eの面積S81、及び第2副流路82の出口82eの面積S82を、それぞれ独立して調節することができる。
【0049】
(流延ダイ)
図3に戻って、流延ダイ26は、リップ板101、102と1対の側板(図示しない)とを備える。X方向に設けられるリップ板101、102は、離間するようにY方向に並べられる。1対の側板は、リップ板101、102の間の隙間を塞ぐように、X方向に並べられる。そして、リップ板101、102と側板とによって囲まれる部分がスロット103として、流延ダイ26に形成される。スロット103は、フィードブロック25の流出口72と連通する流入口106、及び積層ドープ45を流出する流出口107を連通する。流出口107は、矩形であり、X方向に長く伸びるように形成される。
【0050】
フィードブロック25及び流延ダイ26には、それぞれ図示しない温調部が、設けられる。温調部は、フィードブロック本体25aや、流延ダイ26を構成するリップ板101、102や側板等の温度を所定の範囲内において調節する。これにより、フィードブロック25及び流延ダイ26の中を流通するドープの温度は、所定の範囲内で一定に保たれる。シャークスキン故障を防ぐ点から、フィードブロック25及び流延ダイ26の中を流通するドープの温度は30℃以上であることが好ましい。また、ドープに含まれる溶媒の蒸発を防ぐ点から、フィードブロック25及び流延ダイ26の中を流通するドープの温度は、溶媒の沸点未満であることが好ましい。
【0051】
制御部109は、各ポンプ40b〜42bと、各揺動軸73c〜74cと、ディストリビューションピン87〜88とそれぞれ接続する。これにより、ポンプ40b〜42bは、制御部109の下、各ドープ20〜22をフィードブロック25へ所定の体積流量で送り出す。また、ベーン73b〜74b及びディストリビューションピン87〜88は、制御部109の下、所定の向きとなるようにセットされる。
【0052】
次に、本発明の作用について説明する。図2及び図3に示すように、制御部109は、ベーン73b〜74b及びディストリビューションピン87〜88をそれぞれ所定の位置にセットする。また、制御部109は、ポンプ40b〜42bを介して、各ドープ20〜22をそれぞれ所定の体積流量でフィードブロック25へ送り出す。
【0053】
図5に示すように、各ドープ20〜22は、各ベーン73b、74b、ディストリビューションピン87、88を介して、合流部85へ送り出され、合流部85では、各ドープ20〜22が合流する。各ドープ20〜22の合流により、各ドープ20〜22が層をなす積層ドープ45がつくられる。
【0054】
積層ドープ45における各ドープ20〜22の界面の状態は、合流部85における各ドープ20〜22の平均流速の差による。そして、主ドープ20の平均流速V20、第1副ドープ21の平均流速V21、第2副ドープ22の平均流速V22の関係が、以下式(1)及び(2)を満たさない場合には、各ドープ20〜22の界面は不安定化する。
式(1) V20<V21
式(2) V20<V22
【0055】
ここで、各平均流速V20〜V22は、以下の式(3)〜(5)で表される。
式(3)V20=Q20/S80
式(4)V21=Q21/S81
式(5)V22=Q22/S82
【0056】
Q20は、合流部85へ送り出される主ドープ20の体積流量である。同様にして、Q21は、合流部85へ送り出される第1副ドープ21の体積流量であり、Q22は、合流部85へ送り出される第2副ドープ22の体積流量である。
【0057】
本発明では、制御部109の制御の下、ベーン73b〜74b及びディストリビューションピン87〜88を所定の位置にセットすることにより、各流路80〜82の出口80e〜82eの面積S80〜S82を独立して調節することができる。また、制御部109の制御の下、各ドープ20〜22についての体積流量Q20〜Q22を、独立して所定の範囲に調節することができる。こうして、制御部109により、上記式(1)〜(2)を満たすようにして、積層ドープ45をつくることができる。したがって、本発明によれば、各ドープ20〜22の界面は安定するため、厚みムラ故障を抑えることができる。
【0058】
合流部85において、粘度の高い主ドープの平均流速が、粘度の低い副ドープの平均流速よりも大きい場合には、副ドープに含まれるポリマー分子が歪みやすい。このポリマー分子の歪みは、フィードブロック25や流延ダイ26の流路を流れる最中においても緩和するものの、通常の寸法のフィードブロック25や流延ダイ26を用いる場合、このポリマー分子の歪みが流路内で完全に回復することは困難である。したがって、通常の寸法のフィードブロック25や流延ダイ26を用いる場合、副ドープは歪んだポリマー分子を含む状態のまま、流出口107から流出することとなる。このような状態の積層ドープ45が、流出口107から流出すると、ポリマー分子の歪みが緩和される。当該ポリマー分子の歪みの緩和により、一方のドープが、他方のドープを成す層に入り込む結果、積層ドープにおける各ドープの界面が不安定となる。
【0059】
本発明では、合流部85において、粘度の高い主ドープの平均流速が、粘度の低い副ドープの平均流速よりも小さくなるようにするため、積層ドープ45に含まれるポリマー分子は歪み難い。したがって、上記式(1)及び(2)を満たすことにより、各ドープの界面が安定化すると考えられる。
【0060】
(V21−V20)の値や(V22−V20)の値は、0.02m/秒以上であることが好ましく、0.05m/秒以上であることがより好ましい。(V21−V20)の値や(V22−V20)の値が0.02m/秒未満の場合には、積層ドープ45における界面の乱れが顕在化するため好ましくない。(V21−V20)の値や(V22−V20)の値は、0.2m/秒以下であることが好ましく、0.1m/秒以下であることがより好ましい。(V21−V20)の値や(V22−V20)の値が0.1m/秒を超える場合には、副流路における圧力が大きくなる結果、流延が困難となるため、好ましくない。(V21−V20)の値と(V22−V20)の値とは、等しくてもよいし、異なっていてもよい。
【0061】
合流部85において、主ドープ20と第1副ドープ21とが合流する合流角度θ1は、5°以上30°以下であることが好ましい。合流部85において、主ドープ20と第2副ドープ22とが合流する合流角度θ2は、5°以上30°以下であることが好ましい。
【0062】
上記実施形態では、フィードブロック25及び流延ダイ26を有する流延装置を用いたが、本発明はこれに限られず、流延装置27に代えて、マルチマニホールド型の流延ダイを用いてもよい。
【0063】
上記実施形態では、3層からなる積層構造を有する積層流延膜、及び積層フィルムを製造したが、本発明はこれに限られず、2層、または4層以上の積層構造を有する積層流延膜、及び積層フィルムを製造してもよい。積層流延膜が2層の積層構造を有する場合は、積層流延膜の支持体側(表側)に主層が設けられ、積層流延膜の裏側に第1副層が設けられる。積層流延膜が4層以上の積層構造を有する場合は、積層流延膜の表側に設けられる層、及び積層流延膜の裏側に設けられる第1副層の間に、主層及びその他の層が設けられる。なお、積層流延膜の表側に設けられる層が、第2副層であってもよい。
【0064】
上記実施形態では、支持体として、流延ドラム30を用いたが、本発明はこれに限られず、ローラに掛け渡され、ローラの回転により、走行する流延バンドを用いてもよい。
【0065】
上記実施形態では、冷却により積層流延膜29に自己支持性を発現させたが、本発明はこれに限られず、積層流延膜29に含まれる溶剤の乾燥により積層流延膜29に自己支持性を発現させてもよい。
【0066】
ベーン73bの表面のうち、主流路80の内壁面及び第1副流路81の内壁面をなす部分に低摩擦層を設けてもよい。低摩擦層の動摩擦係数は、仕切ブロック73aの表面のうち、主流路80の内壁面及び第1副流路81の内壁面をなす部分の動摩擦係数よりも低い。ベーン74bにも、同様の低摩擦層を設けても良い。このような低摩擦層を設けることにより、各ドープの界面における主ドープ及び副ドープの流速の差を小さくすることができるため、積層フィルムの厚みムラ故障を確実に抑制することができる。
【0067】
低摩擦層の厚さは、5μm以上500μm以下であることが好ましい。低摩擦層の動摩擦係数は、0.4以下であることが好ましく、0.2以下であることがより好ましい。本明細書における動摩擦係数は、(株)東洋精機製作所製、スラスト磨耗試験機を使用し、ASTM D−1894に規定される方法に従って測定できる。
【0068】
厚みムラ防止効果をより顕著に発揮させるため、低摩擦層表面粗さRaは、0.01μm以上3μm以下であることが好ましく、0.01μm以上2μm以下であることがより好ましい。表面粗さRaの測定方法は、JIS B 0001による。
【0069】
低摩擦層の硬度Hvは、350以上であることが好ましく、600以上であることがより好ましい。硬度Hvの測定方法は、JIS Z 2244による。
【0070】
次に、流延バンドを支持体として有する溶液製膜設備150について説明する。溶液製膜設備150の説明では、溶液製膜設備10と異なる部品や部材についての説明を行い、溶液製膜設備10と同一の部品や部材については同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0071】
溶液製膜設備150は、図6に示すように、流延室12とクリップテンタ14と乾燥室15と冷却室16と巻取室17とを有する。
【0072】
流延室12には、フィードブロック25及び積層ドープ45(図2参照)を流出する流延ダイ26が設けられる。流延ダイ26の下方には、回転ローラ152,153が設けられる。回転ローラ152,153には、流延バンド154が掛け渡される。流延バンド154の一端と他端とが連結され、流延バンド154は環状となっている。回転ローラ152,153は図示しない駆動装置により回転し、この回転に伴い流延バンド154は移動する。流延ダイ26から流出した積層ドープ45は、移動する流延バンド154上にて積層流延膜29を形成する。
【0073】
流延バンド154の移動速度、すなわち流延速度が10m/分以上200m/分以下で移動できるものであることが好ましく、より好ましくは15m/分以上150m/分以下であり、最も好ましくは20m/分以上120m/分以下である。流延速度が10m/分未満であるとフィルムの生産性が劣る。また、200m/分を超えると、流延ビードが安定して形成されず、積層流延膜29の面状が悪化するおそれが生じる。
【0074】
また、流延バンド154の表面温度を所定の値にするために、回転ローラ152,153に温調装置34が取り付けられていることが好ましい。流延バンド154は、その表面温度が−20℃〜40℃に調整可能なものであることが好ましい。温調装置34は、制御部の制御の下、所望の温度に調節された伝熱媒体を、回転ローラ152,153内に設けられる流路中を循環させる。この伝熱媒体の循環により、回転ローラ152,153の温度を所望の温度に保つことができる。
【0075】
流延バンド154の幅、長さ、厚み等は特に限定されるものではない。流延バンド154の幅は、例えば、積層ドープ45の流延幅の1.1倍以上2.0倍以下であることが好ましい。また、流延バンド154の長さは、例えば、20m以上200m以下であることが好ましく、流延バンド154の厚みは、例えば、0.5mm以上〜2.5mm以下であることが好ましい。なお、流延バンド154の表面のうち、積層ドープ45(図2参照)が流延される表面(以下、流延面と称する)の表面粗さは0.05μm以下であることが好ましい。流延面は、研磨されていることが好ましい。流延バンド154は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。また、流延バンド154の全体の厚みムラは0.5%以下のものを用いることが好ましい。
【0076】
また、流延室12には、温調装置34、35と、凝縮器36と、回収装置37とが備えられている。なお、減圧チャンバ47(図1参照)を、流延ダイ26よりも流延バンド154の走行方向上流側に設けてもよい。
【0077】
更に、流延室12は、積層流延膜29に乾燥風をあてる送風装置157〜159を有する。送風装置157〜159は、流延ダイ26よりも流延バンド154の走行方向下流側に設けられる。積層流延膜29に乾燥風があたると、積層流延膜29から溶剤が蒸発する。流延ダイ26と送風装置157との間に、乾燥風を遮るラビリンスシールを設けてもよい。このラビリンスシールの設置により、流延直後の積層流延膜29と乾燥風との接触に起因する積層流延膜29の面状変動を抑制することができる。また、流延ダイ26と送風装置157との間に、積層流延膜29に急速乾燥風をあてる送風装置(以下、急速乾燥送風装置と称する)161を設けてもよい。なお、流延ダイ26と送風装置157との間にラビリンスシールを設ける場合には、ラビリンスシールと送風装置157との間に急速乾燥送風装置161を設けてもよい。積層流延膜29に急速乾燥風があたると、積層流延膜29に含まれる溶剤は、乾燥風があたる場合に比べて早い蒸発速度で蒸発する。これにより、積層流延膜29の表面にスキン層を形成することができる。積層流延膜29から溶剤を蒸発させる工程の初期段階において、積層流延膜29にスキン層を設けることにより、面状に優れた積層フィルム55を製造することができる。
【0078】
乾燥風や急速乾燥風の送風方向は、積層流延膜29の搬送方向と平行でもよいし、積層流延膜29の搬送方向と交差していてもよい。乾燥風や急速乾燥風の送風方向は、各送風装置に設けられる送風口の位置により調節することができる。例えば、積層流延膜29の幅方向中央部と対向するように送風口を設けてもよいし、積層流延膜29の幅方向両端部と対向するように送風口を設けてもよい。また、積層流延膜29の幅方向の一方の端部と対向するように送風口を設け、他方の端部と対向するように吸気口を設けてもよい。
【0079】
渡り部50には、送風機165が備えられる。送風機165は、ローラ53により搬送される積層流延膜29に、所定の風をあてる。なお、渡り部50では下流側のローラ53の回転速度を上流側のローラ53の回転速度より速くすることにより湿潤フィルム52にドローテンションを付与させることも可能である。
【0080】
次に、溶液製膜設備150における積層フィルム55の製造方法の一例を以下に説明する。
【0081】
回転ローラ152,153の駆動により、流延バンド154は走行する。流延ダイ26は、積層ドープ45(図2参照)を流延バンド154上に連続して流出する。流延ダイ26から流延バンド154にかけて、流延ビードが形成され、流延バンド154上には積層流延膜29が形成される。流延バンド154上に形成した積層流延膜29は、流延バンド154の走行により、剥取ローラ33の近傍まで移動する。急速乾燥送風装置161は、積層流延膜29に急速乾燥風をあてる。積層流延膜29における急速な溶媒の蒸発により、積層流延膜29の表面には、スキン層が形成する。送風装置157〜159は、積層流延膜29に乾燥風をあてる。積層流延膜29における溶媒の蒸発により、積層流延膜29には自己支持性が発現し、剥ぎ取り可能な状態となる。自己支持性を有するものとなった積層流延膜29は、剥取ローラ33により、流延バンド154から剥ぎ取られる。
【0082】
積層流延膜29の剥ぎ取り時における残留溶媒量は、10質量%以上100質量%以下であることが好ましく、15質量%以上70質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上50質量%以下であることが特に好ましい。
【0083】
流延室12から送り出された湿潤フィルム52は、渡り部50のローラ53によって、クリップテンタ14へ搬送される。送風機165は、所定の風を湿潤フィルム52へあてて、湿潤フィルム52の乾燥を進行させる。この乾燥により、湿潤フィルム52は積層フィルム55となる。送風機165から送り出される風の温度は、20℃以上250℃以下であることが好ましい。
【0084】
クリップテンタ14に送られた積層フィルム55は、所定の延伸処理が施された後、耳切装置57bへ送られる。耳切装置57bは、積層フィルム55の耳部を切断する。耳部を切断された積層フィルム55は、乾燥室15、冷却室16及び巻取室17へと順次搬送される。
【0085】
次に、セルロースアシレートについて説明する。
【0086】
(セルロースアシレート)
セルロースアシレートの原料となるセルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ,針葉樹パルプ)などがある。本発明のセルロースアシレートは、何れのセルロースから得られたものでもよく、場合により混合して使用してもよい。これらのセルロースについての詳細な記載は、例えば、丸澤、宇田著、「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」日刊工業新聞社(1970年発行)や発明協会公開技報公技番号2001−1745号(7頁〜8頁)に記載のセルロースを用いることができる。
【0087】
本発明のセルロースアシレートのアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていてもよい。本発明のセルロースアシレートは、炭素数2〜4のアシル基を置換基として有することが好ましい。2種類以上のアシル基を用いるときは、そのひとつがアセチル基であることが好ましく、炭素数2〜4のアシル基としてはプロピオニル基またはブチリル基が好ましい。これらのセルロースアシレートを溶媒に溶解することにより、ドープを作成することができる。
【0088】
まず、本発明のセルロースアシレートを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部をアシル基によりアシル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位および6位に位置するセルロースの水酸基がアシル化している割合(各位における100%のアシル化は置換度1)の合計を意味する。
【0089】
炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリル基でもよく特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、イソブタノイル基、tert−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、tert−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくはアセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基(アシル基が炭素原子数2〜4である場合)であり、より特に好ましくはアセチル基(セルロースアシレートが、セルロースアセテートである場合)である。
【0090】
セルロースのアシル化において、アシル化剤としては、酸無水物や酸クロライドを用いた場合、反応溶媒である有機溶媒としては、有機酸、例えば、酢酸、メチレンクロライド等が使用される。
【0091】
セルロースのアシル化における触媒としては、アシル化剤が酸無水物である場合には、硫酸のようなプロトン性触媒が好ましく用いられ、アシル化剤が酸クロライド(例えば、CH3CH2COCl)である場合には、塩基性化合物が用いられる。
【0092】
最も一般的なセルロースの混合脂肪酸エステルの工業的合成方法は、セルロ−スをアセチル基および他のアシル基に対応する脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、吉草酸等)またはそれらの酸無水物を含む混合有機酸成分でアシル化する方法である。
【0093】
本発明に用いるセルロースアシレートは、例えば、特開平10−45804号公報に記載されている方法により合成できる。
【0094】
(非リン酸系エステル系の化合物)
本発明のフィルムの第1副ドープ及び第2副ドープに、非リン酸系エステル系の化合物を含めてもよい。これにより、第1副層及び第2副層に非リン酸系エステル系の化合物が含まれることとなる結果、本発明のフィルムのヘイズが低下するという効果を奏する。また、積層構造のフィルム全体のNzファクターが目標値に比べ低い場合には、第1副層及び第2副層を非リン酸系エステル系の化合物が含まれるものにすることにより、積層構造のフィルム全体のNzファクターが目標値まで増大することと、ヘイズが低下することとを両立させることができる。Nzファクターの詳細は後述する。
【0095】
また、本明細書中、「非リン酸系エステル系の化合物」とは、「エステル結合を有する化合物であって、該エステル結合に寄与する酸がリン酸以外である化合物」のことを言う。また、前記非リン酸系エステル系の化合物は、低分子化合物であっても、ポリマーであってもよい。
【0096】
本発明のフィルムにおいて、各層のそれぞれに、非リン酸エステル系の添加剤が含まれてもよい。また、低ヘイズ化の観点から、セルロースアシレートに対する該添加剤の割合(質量部)は、第1副層及び第2副層のものよりも主層のほうが少ないことが好ましい。
【0097】
以下、本発明に用いられる非リン酸系エステル系の化合物について説明する。
【0098】
非リン酸系エステル系の化合物としては、セルロースアシレートフィルムの添加剤として公知の高分子量添加剤および低分子量添加剤を広く採用することができる。添加剤の含量は、セルロースアシレートに対して、1〜35質量%であることが好ましく、4〜30質量%であることがより好ましく10〜25質量%であることがさらに好ましい。
【0099】
本発明のフィルムに非リン酸系エステル系の化合物として用いられる高分子量添加剤は、その化合物中に繰り返し単位を有するものであり、数平均分子量が700〜10000のものが好ましい。高分子量添加剤は、溶液製膜方法において、溶媒の蒸発速度を速める結果、残留溶媒量の低減を効率よく行うことができる。さらに、高分子量添加剤は、機械的性質向上、柔軟性付与、耐吸水性付与、水分透過率低減等のフィルム改質の観点で、有用な効果を示す。
【0100】
ここで、本発明における非リン酸系エステル系の化合物である高分子量添加剤の数平均分子量は、より好ましくは数平均分子量700〜8000であり、さらに好ましくは数平均分子量700〜5000であり、特に好ましくは数平均分子量1000〜5000である。
【0101】
以下、本発明に用いられる非リン酸系エステル系の化合物である高分子量添加剤について、その具体例を挙げながら詳細に説明する。
【0102】
非リン酸系エステル系の化合物である高分子系添加剤としては、ポリエステル系ポリマー(脂肪族ポリエステル系ポリマー、芳香族ポリエステル系ポリマー等)、ポリエステル系成分と他の成分の共重合体などが挙げられ、脂肪族ポリエステル系ポリマー、芳香族ポリエステル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー(脂肪族ポリエステル系ポリマー、芳香族ポリエステル系ポリマー等)とアクリル系ポリマーの共重合体およびポリエステル系ポリマー(脂肪族ポリエステル系ポリマー、芳香族ポリエステル系ポリマー等)とスチレン系ポリマーの共重合体が好ましい。
【0103】
前記脂肪族ポリエステル系ポリマーとしては、炭素数2〜20の脂肪族ジカルボン酸と、炭素数2〜12の脂肪族ジオール、炭素数4〜20のアルキルエーテルジオールから選ばれる少なくとも1種類以上のジオールとの反応によって得られるものが挙げられ、かつ反応物の両末端は反応物のままでもよいが、さらにモノカルボン酸類やモノアルコール類またはフェノール類を反応させて、所謂末端の封止を実施してもよい。この末端封止は、特にフリーなカルボン酸類を含有させないために実施されることが、保存性などの点で有効である。本発明のポリエステル系ポリマーに使用されるジカルボン酸は、炭素数4〜20の脂肪族ジカルボン酸残基または炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸残基であることが好ましい。
【0104】
本発明で好ましく用いられる炭素数2〜20の脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸および1,4−シクロヘキサンジカルボン酸が挙げられる。
【0105】
これらの中でも好ましい脂肪族ジカルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸である。特に好ましくは、脂肪族ジカルボン酸成分としてはコハク酸、グルタル酸、アジピン酸である。
【0106】
前記高分子量添加剤に利用されるジオールは、例えば、炭素数2〜20の脂肪族ジオール、炭素数4〜20のアルキルエーテルジオールから選ばれるものである。
【0107】
炭素原子2〜20の脂肪族ジオールとしては、アルキルジオールおよび脂環式ジオール類を挙げることができ、例えば、エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用される。
【0108】
好ましい脂肪族ジオールとしては、エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールであり、特に好ましくはエタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールである。
【0109】
炭素数4〜20のアルキルエーテルジオールとしては、好ましくは、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリエチレンエーテルグリコールおよびポリプロピレンエーテルグリコールならびにこれらの組み合わせが挙げられる。その平均重合度は、特に限定されないが好ましくは2〜20であり、より好ましくは2〜10であり、さらには2〜5であり、特に好ましくは2〜4である。これらの例としては、典型的に有用な市販のポリエーテルグリコール類としては、カーボワックス(Carbowax)レジン、プルロニックス(Pluronics) レジンおよびニアックス(Niax)レジンが挙げられる。
【0110】
本発明においては、特に末端がアルキル基あるいは芳香族基で封止された高分子量添加剤であることが好ましい。これは、末端を疎水性官能基で封止することにより、高温高湿での経時劣化に対して有効であり、エステル基の加水分解を遅延させる役割を示すことが要因となっている。
【0111】
本発明の高分子量添加剤の両末端がカルボン酸やOH基とならないように、モノアルコール残基やモノカルボン酸残基で保護することが好ましい。この場合、モノアルコールとしては炭素数1〜30の置換、無置換のモノアルコールが好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、シクロヘキシルアルコール、オクタノール、イソオクタノール、2−エチルヘキシルアルコール、ノニルアルコール、イソノニルアルコール、tert−ノニルアルコール、デカノール、ドデカノール、ドデカヘキサノール、ドデカオクタノール、アリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪族アルコール、ベンジルアルコール、3−フェニルプロパノールなどの置換アルコールなどが挙げられる。
【0112】
好ましく使用され得る末端封止用アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、シクロヘキシルアルコール、イソオクタノール、2−エチルヘキシルアルコール、イソノニルアルコール、オレイルアルコール、ベンジルアルコールであり、特にはメタノール、エタノール、プロパノール、イソブタノール、シクロヘキシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、イソノニルアルコール、ベンジルアルコールである。
【0113】
また、モノカルボン酸残基で封止する場合は、モノカルボン酸残基として使用されるモノカルボン酸は、炭素数1〜30の置換、無置換のモノカルボン酸が好ましい。これらは、脂肪族モノカルボン酸でも芳香族環含有カルボン酸でもよい。好ましい脂肪族モノカルボン酸について記述すると、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、カプリル酸、カプロン酸、デカン酸、ドデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸が挙げられ、芳香族環含有モノカルボン酸としては、例えば安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、p−tert−アミル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等があり、これらはそれぞれ1種または2種以上を使用することができる。
【0114】
かかる前記高分子量添加剤の合成は、常法により上記脂肪族ジカルボン酸とジオールおよび/または末端封止用のモノカルボン酸またはモノアルコール、とのポリエステル化反応またはエステル交換反応による熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコール類との界面縮合法のいずれかの方法によっても容易に合成し得るものである。これらのポリエステル系添加剤については、村井孝一編者「添加剤 その理論と応用」(株
式会社幸書房、昭和48年3月1日初版第1版発行)に詳細な記載がある。また、特開平05−155809号、特開平05−155810号、特開平5−197073号、特開2006−259494号、特開平07−330670号、特開2006−342227号、特開2007−003679号各公報などに記載されている素材を利用することもできる。
【0115】
前記芳香族ポリエステル系ポリマーは、前記ポリエステルポリマーに芳香環を有するモノマーを共重合することによって得られる。芳香環を有するモノマーとしては、炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸、炭素数6〜20の芳香族ジオールから選ばれる少なくとも1種類以上のモノマーである。
【0116】
炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,8−ナフタレンジカルボン酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸等がある。これらの中でも好ましい芳香族ジカルボン酸としてはフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、である。
【0117】
炭素数6〜20の芳香族ジオールとしては、特に限定されないがビスフェノールA、1,2−ヒドロキシベンゼン、1,3−ヒドロキシベンゼン、1,4−ヒドロキシベンゼン、1,4−ベンゼンジメタノールが挙げられ、好ましくはビスフェノールA、1,4−ヒドロキシベンゼン、1,4−ベンゼンジメタノールである。
【0118】
本発明では、芳香族ポリエステル系ポリマーは前述のポリエステルに芳香族ジカルボン酸または芳香族ジオールのそれぞれの少なくとも一種類を組み合わせて用いられるが、その組み合わせは特に限定されるものではなく、それぞれの成分を数種類組み合わせても問題ない。本発明においては、前述のように、特に末端がアルキル基あるいは芳香族基で封止された高分子量添加剤であることが好ましく、封止には前述の方法を使用することができる。
【0119】
本発明のフィルム中には、前記非リン酸系エステル系の化合物以外の添加剤として、レターデーション調整剤(レターデーション発現剤およびレターデーション低減剤)、フタル酸エステル、リン酸エステルなどの可塑剤;紫外線吸収剤;酸化防止剤;マット剤などの添加剤を加えることもできる。
【0120】
(溶媒)
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)およびエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明においてドープとは、ポリマーを溶媒に溶解または分散させることで得られるポリマー溶液または分散液を意味している。
【0121】
上記のハロゲン化炭化水素の中でも、炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フイルムの機械的強度および光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対して2〜25重量%が好ましく、より好ましくは、5〜20重量%である。アルコールとしては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0122】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない溶媒組成も検討されている。この場合には、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく、これらを適宜混合して用いる場合もある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステルおよびアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステルおよびアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−および−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も溶媒として用いることができる。
【0123】
以下、本発明の積層フィルムについて説明する。
【0124】
積層フィルム55の厚みは、30μm以上200μm以下であることが好ましく、40μm以上150μm以下であることがより好ましく、40μm以上100μm以下であることがさらに好ましい。
【0125】
積層フィルム55は、主層と、第1副層と、第2副層とを有する。第1副層及び第2副層は、積層フィルム55の両表面に露呈するように位置する。主層は、第1副層及び第2副層の間に位置する。ここで、積層フィルム55の主層は主ドープ20からなるものであり、積層フィルム55の第1副層は第1副ドープ21から、そして、積層フィルム55の第2副層は第2副ドープ22からなるものである。
【0126】
主層の平均膜厚が30〜100μmであることが好ましく、30〜80μmであることがより好ましく、30〜70μmであることがさらに好ましい。30μm以上とすることにより、ウェブ状のフィルムを作製する際のハンドリング性が向上し好ましい。また、70μm以下とすることにより、湿度変化に対応しやすく、光学特性を維持しやすい。
【0127】
各副層のうち少なくとも一方の平均膜厚は、主層の平均膜厚の0.2%以上25%未満であることが好ましい。これにより、積層フィルムの剥離性が十分となり、スジ状のムラ、厚みムラあるいは光学特性のばらつきが抑制される。この結果、主層の光学特性を、積層フィルムの光学特性として発揮させることができる。
【0128】
本発明の積層フィルムは、フィルム幅が700mm以上3000mmであることが好ましく、1000mm以上2800mm以下であることがより好ましく、1500mm以上2500mm以下であることが特に好ましい。なお、本発明の積層フィルムは、フィルム幅が2500mm以上であってもよい。
【0129】
(ヘイズ)
本発明の積層フィルムのヘイズは、0.20%未満であることが好ましく、0.15%未満であることがより好ましく、0.10%未満であることが特に好ましい。ヘイズを0.2%未満とすることにより、液晶表示装置に組み込んだ際のコントラスト比を改善することができる。また、フィルムの透明性がより高くなり、光学フィルムとしてより用いやすくなるという利点もある。
【0130】
(Re、Rth)
本発明の積層フィルムにおいて、波長550nmにおける面内方向のレターデーションRe(550)が波長440nmにおける面内方向のレターデーションRe(440)よりも大きい。このような波長分散特性を有することで、本発明のフィルムを液晶表示装置に組み込んだときに、液晶表示画面を黒表示した時に斜めから観察した際のカラーシフトの問題を解決することができる。
【0131】
本発明の積層フィルムにおいて、波長550nmにおけるフィルム膜厚方向のレターデーションRth(550)が、波長440nmにおける膜厚方向のレターデーションRth(440)よりも大きいことが、よりカラーシフトの問題を解決し易くする観点から好ましい。
【0132】
また、本発明の積層フィルムは2軸性の光学補償フィルムであることが好ましい。ここで光学補償フィルムが2軸性であるとは光学補償フィルムのnx、nyおよびnz(nxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表す。)がそれぞれ全て異なる場合であり、本発明の場合にはnx>ny>nzであることがさらに好ましい。本発明のフィルムが2軸性の光学特性を示すということは液晶表示装置、特にVAモード液晶表示装置における斜め方向から観察した場合のカラーシフトの問題を低減する上で好ましい特性である。
【0133】
本発明の積層フィルムにおいて、面内方向のレターデーションRe及び厚み方向のレターデーションRthの波長分散が、可視光域の光に対し、長波長になるに従って大きくなることが好ましい。ここで可視光域の光とは具体的には波長380〜780nmであり、長波長ほどRe及びRthの値が大きい特性を有することが好ましい。このようなフィルムを本発明の液晶表示装置に用いることで液晶表示装置を斜め方向からみた場合における色味付きをより軽減することができる。
【0134】
本発明のフィルムは、位相差フィルムに用いる場合等には、ReおよびRthは液晶セルおよび光学フィルムの設計により、適宜選択されるが、測定波長590nmにおいて面内方向のレターデーションReが25nm≦|Re|≦100nmであり、かつ、膜厚方向のレターデーションRthが50nm≦|Rth|≦250nmであることが、位相差フィルムとして液晶表示装置用の光学補償に用いる観点から、好ましい。前記Reは30nm≦|Re|≦80nmであることがより好ましく、35nm≦|Re|≦70nmであることが特に好ましい。前記Rthは70nm≦|Rth|≦240nmであることがより好ましく、90nm≦|Rth|≦230nmであることが特に好ましい。
【0135】
本明細書におけるRe(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。本願明細書においては、特に記載がないときは、波長λは、590nmとする。Re(λ)はKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHが算出する。尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の式(A−1)、式(A−2)及び式(B)より、Re及びRthを算出することもできる。ここで平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
【0136】
【数1】

【0137】
ここで、上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表し、nx、ny、nzは、屈折率楕円体の各主軸方位の屈折率を表し、dはフィルム厚を表す。
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d 式(B)
【0138】
上記において、光学フィルムについて説明したが、本発明はこれに限られず、含有ポリマーの異なる複数の層を有する積層フィルムについて適用することができる。
【実施例1】
【0139】
次に、本発明の効果の有無を確認するために、実験1〜5を行った。詳細な説明は実験1で行い、実験2〜5については、実験1と同じ条件の箇所の説明は省略し、異なる部分のみを説明する。
【0140】
(セルロースアシレートの調製)
表1に記載のアシル基の種類、置換度の異なるセルロースアシレートを調製した。これは、触媒として硫酸(セルロース100質量部に対し7.8質量部)を添加し、アシル置換基の原料となるカルボン酸を添加し40℃でアシル化反応を行った。この時、カルボン酸の種類、量を調整することでアシル基の種類、置換度を調整した。またアシル化反応の後に40℃で熟成を行った。さらに、この熟成後、アセトンで洗浄し、セルロースアシレートのうち低分子量成分を除去した。なお、表1の置換度Aは、アセチル基の置換度であり、Bは、他の置換基Xの置換度である。
【0141】
【表1】

【0142】
主ドープ、第1副ドープ、及び第2副ドープの成分を以下に示す。
【0143】
(主ドープ)
セルロースアシレート樹脂(表1に記載のC−2) 100 質量部
添加剤A(表2に記載のA−3) 19 質量部
化合物D(化1) 4 質量部
ジクロロメタン 428 質量部
メタノール 64 質量部
【0144】
(第1副ドープ)
セルロースアシレート樹脂(表1に記載のC−1) 100 質量部
添加剤A(表2に記載のA−3) 11.3 質量部
化合物D(化1) 4 質量部
マット剤 0.13質量部
ジクロロメタン 400 質量部
メタノール 60 質量部
【0145】
(第2副ドープ)
セルロースアシレート樹脂(表1に記載のC−1) 100 質量部
添加剤A(表2に記載のA−3) 11.3 質量部
化合物D(化1) 4 質量部
マット剤(日本エアロジル(株)製のAEROSIL R972 2次平均粒子サイズ1.0μm以下) 0.13質量部
ジクロロメタン 400 質量部
メタノール 60 質量部
【0146】
【表2】

【0147】
表2において、「PA」はフタル酸を表す。同様に、「TPA」はテレフタル酸を、「IPA」はイソフタル酸を、「AA」はアジピン酸を、「SA」はコハク酸を表す。「NPA」は、ナフタレンジカルボン酸を表し、「−」の前の数字は、カルボン酸の置換位置を表す。また、「PD」はプロパンジオールを表し、「BD」はブタンジオールを表し、「CH」は、シクロヘキサンジメタノールを表す。そして、「AE残基」はアセチルエステル残基を、「PE残基」はプロピオニルエステル残基を表す。
【0148】
【化1】

【0149】
主ドープの成分をそれぞれミキシングタンクに投入し、攪拌してポリマーを溶剤に溶解させた。その後、平均孔径34μmのろ紙、平均孔径10μmの焼結金属フィルターを用いて、ろ過した。これにより、主ドープ20を調製した。同様にして、第1副ドープ21の成分をそれぞれミキシングタンクに投入して第1副ドープ21を、第2副ドープ22の成分をそれぞれミキシングタンクに投入して第2副ドープ22を調製した。主ドープ20の粘度μ20は50Pa・秒であった。第1副ドープ21の粘度μ21は30Pa・秒であり、第2副ドープ22の粘度μ22は30Pa・秒であった。
【0150】
(実験1)
図6に示す溶液製膜設備150にて積層フィルム55を製造した。積層ドープ45の温度を略34℃で略一定となるように調整するために、流延ダイ26にジャケット(図示しない)を設けてジャケット内に供給する伝熱媒体の温度を調節した。流延バンド154の走行速度は、20m/分であった。温調装置34により、流延バンド154の温度は、30℃で略一定になるように調節した。
【0151】
制御部109は、ベーン73b、74b、ディストリビューションピン87、88を所定の向きにセットした。また、制御部109は、ポンプ40b〜42bを介して、各ドープ20〜22をフィードブロック25へ所定の体積流量で送った。こうして、合流部85では、各ドープ20〜22の合流により、積層ドープ45がつくられた。合流部85において、主ドープ20の平均流速V20は0.05m/秒であり、第1副ドープ21の平均流速V21は0.15m/秒であり、第2副ドープ22の平均流速V22は0.15m/秒であった。フィードブロック25は、積層ドープ45を流延ダイ26へ送った。
【0152】
流延ダイ26は、積層ドープ45を周面30b上に流出し、周面30b上に積層流延膜29を形成した。積層流延膜29において、主層の厚みは55μmであり、第1副層及び第2副層の厚みはそれぞれ2.5μmであった。急速乾燥送風装置161は、温度が50℃の急速乾燥風を積層流延膜29にあてて、積層流延膜29の表面にスキン層を形成した。送風装置157〜159は、積層流延膜29に乾燥風をあてて、積層流延膜29から溶媒を蒸発させた。剥取ローラ33を用いて、自己支持性を有するものとなった積層流延膜29を流延バンド154から剥ぎ取った。積層流延膜29の剥ぎ取り時における残留溶媒量は、20質量%以上50質量%以下であった。積層流延膜29の剥ぎ取りによって得られた湿潤フィルム52をクリップテンタ14へ導入し、乾燥工程を行った。
【0153】
乾燥工程により、湿潤フィルム52から積層フィルム55を得た。次に、積層フィルム55をクリップテンタ14へ送った。クリップテンタ14では、積層フィルム55から溶剤を蒸発させる乾燥工程とともに、積層フィルム55をX方向へ延伸する延伸工程を行った。延伸工程における積層フィルム55の温度は、150℃であり、延伸工程における延伸率ER(=W1/W0)は1.2であった。W0は、延伸工程前の積層フィルム55の幅であり、W1は、延伸工程後の積層フィルム55の幅である。積層フィルム55を乾燥室15で乾燥した後、冷却室16を経て、巻取室17へ送った。
【0154】
(評価)
製造した積層フィルム55について以下の評価を行った。
【0155】
1.厚みムラ評価
積層フィルム55について、厚みムラ測定を行った。この厚みムラ測定の手順は、次のとおりである。第1に、積層フィルム55から、略6cm四方のサンプルフィルムを切り出した。第2に、サンプルフィルムの屈折率差を厚み差に換算できる装置を用いてサンプルフィルムの屈折率差を測定した。この装置として、FX−03 FRINGEANALYZER(FUJINON(株)社製)を用いた。第3に、サンプルフィルムの全域にわたりこの屈折率差を測定し、この平均値を積層フィルムの厚みムラとした。このようにして得られた厚みムラについて、以下基準で評価した。なお、積層フィルムの厚みは、マイクロメータにより計測されたサンプルフィルムの6箇所の厚みの平均値である。
◎:厚みムラが積層フィルム55の厚みに対して1.5%未満であった。
○:厚みムラが積層フィルム55の厚みに対して1.5%以上1.8%未満であった。
△:厚みムラが積層フィルム55の厚みに対して1.8%以上2.2%未満であった。
×:厚みムラが積層フィルム55の厚みに対して2.2%以上であった。
−:積層流延膜の形成を行うことができなかったため、評価不能であった。
【0156】
2.面状評価
積層フィルム55を目視で観察し、以下基準に基づいて、積層フィルム55の面状を評価した。
○:積層フィルム55の表面は平滑である。
△:積層フィルム55の表面に弱い凹凸が見られ、異物の存在がはっきり観察される。
×:積層フィルム55の表面に凹凸が見られ、異物が多数見られる。
−:積層流延膜の形成を行うことができなかったため、評価不能であった。
【0157】
(実験2〜5)
各条件を表3に示す値に代えたこと以外は、実験1と同様にして、積層フィルム55を製造した。
【0158】
表3には、実験1〜実験5における、各ドープ20〜22の粘度μ20〜μ22、各ドープ20〜22の平均流速V20〜V22、積層フィルムの光学特性、及び各評価項目についての評価結果を示す。表3における評価結果の番号は、各評価項目に付した番号を表す。なお、表中の「*」は、積層流延膜の形成ができなかったため、各物性値の測定ができなかったことを表す。
【0159】
【表3】

【実施例2】
【0160】
実施例1において、各ドープに含まれる添加剤Aを、表2に記載のA−3の化合物から表2に記載のA−10の化合物に代えたこと以外は、実験1〜5と同様にして、積層フィルム55の製造を行った。得られた積層フィルム55についての評価結果は、実施例1の実験1〜5と同様の傾向を示した。
【実施例3】
【0161】
実施例1において、各ドープに含まれる添加剤Aを、表2に記載のA−3の化合物から表2に記載のA−24の化合物に代えたこと以外は、実験1〜5と同様にして、積層フィルム55の製造を行った。得られた積層フィルム55についての評価結果は、実施例1の実験1〜5と同様の傾向を示した。
【0162】
以上より、本発明によれば、厚みムラを抑え、面状が良好な積層フィルムを製造することができることがわかった。
【符号の説明】
【0163】
20 主ドープ
21 第1副ドープ
22 第2副ドープ
25 フィードブロック
26 流延ダイ
27 流延装置
29 積層流延膜
30 流延ドラム
40b、41b、42b ポンプ
70 流路
73a、74a 仕切ブロック
73b、74b ベーン
80 主流路
81 第1副流路
82 第2副流路
85 合流部
86 積層ドープ流路
87、88 ディストリビューションピン
109 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロック状の流延装置本体を貫通する流路を通して、含有するポリマー及び粘度の異なる複数のドープを支持体へ同時に流出して、前記支持体上の低粘度の副ドープからなる副層に高粘度の主ドープからなる主層が重なる積層流延膜を前記支持体上に形成する流延装置において、
前記流路は、
前記主ドープが流通する主流路と、
前記副ドープが流通する副流路と、
前記主流路から流出した前記主ドープ及び前記副流路から流出した前記副ドープを合流させて、前記各ドープが層をなす積層ドープをつくる合流部とを有し、
前記流延装置本体は、
前記合流部において前記主ドープの平均流速VMが前記副ドープの平均流速VSよりも低くなるように、前記各ドープを前記各流路から前記合流部へ送り出す制御部を有することを特徴とする流延装置。
【請求項2】
前記副流路は、第1副ドープが流通する第1副流路と第2副ドープが流通する第2副流路とを有し、
前記合流部は、前記主流路から流出した前記主ドープ、前記第1副流路から流出した前記第1副ドープ、及び前記第2副流路から流出した前記第2副ドープを合流させて、
前記積層流延膜では、前記支持体側から、前記第1副ドープからなる第1副層、前記主層、前記第2副ドープからなる第2副層が順次重なることを特徴とする請求項1記載の流延装置。
【請求項3】
前記各ドープが流通する前記流路の出口の面積をSとし、前記各ドープが前記各流路へ供給される体積流量をQとするときに、前記各ドープの平均流速が、Q/Sと表されることを特徴とする請求項1または2記載の流延装置。
【請求項4】
(前記平均流速VS−前記平均流速VM)の値が0.2m/秒以下であることを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項記載の流延装置。
【請求項5】
前記ポリマーはセルロースアシレートであり、
前記主ドープに含まれるポリマーにおけるアシル基の総アシル置換度Z1は式(1)を満たし、
前記副ドープに含まれるポリマーにおけるアシル基の総アシル置換度Z2は式(2)を満たすことを特徴とする請求項1ないし4のうちいずれか1項記載の流延装置。
式(1) 2.0<Z1<2.7
式(2) 2.7<Z2
【請求項6】
主ポリマーを含む主ドープ、及び前記主ポリマーと異なる副ポリマーを含み、前記主ドープよりも低粘度の副ドープをそれぞれ独立して送り出す送り出し工程と、
前記送り出し工程を経た前記主ドープ及び前記副ドープを合流させて、前記各ドープが層をなす積層ドープをつくる合流工程と、
前記積層ドープを前記支持体上へ流して、前記支持体上の前記副ドープからなる副層に前記主ドープからなる主層が重なる積層流延膜を前記支持体上に形成する膜形成工程とを有し、
前記送り出し工程では、前記合流部における前記主ドープの平均流速VMが、前記合流部における前記副ドープの平均流速VSよりも低くなるように、前記各ドープを送り出す速度調節工程を行うことを特徴とする流延方法。
【請求項7】
前記送り出し工程では、前記主ドープよりも低粘度の第1副ドープ及び第2副ドープをそれぞれ独立して送り出し、
前記合流工程では、前記送り出し工程を経た前記主ドープ、前記第1副ドープ、及び前記第2副ドープを合流させて、前記積層ドープをつくり、
前記膜形成工程では、前記支持体側から、前記第1副ドープからなる第1副層、前記主層、前記第2副ドープからなる第2副層が順次重なる前記積層流延膜を形成することを特徴とする請求項6記載の流延方法。
【請求項8】
前記各ドープが流通する流路の出口の面積をSとし、前記各ドープが前記各流路へ供給される体積流量をQとするときに、前記各ドープの平均流速が、Q/Sと表されることを特徴とする請求項6または7記載の流延方法。
【請求項9】
(前記平均流速VS−前記平均流速VM)が0.2m/秒以下となるように前記速度調節工程を行うことを特徴とする請求項6ないし8のうちいずれか1項記載の流延方法。
【請求項10】
前記ポリマーはセルロースアシレートであり、
前記主ドープに含まれるポリマーにおけるアシル基の総アシル置換度Z1は式(1)を満たし、
前記副ドープに含まれるポリマーにおけるアシル基の総アシル置換度Z2は式(2)を満たすことを特徴とする請求項6ないし9のうちいずれか1項記載の流延方法。
式(1) 2.0<Z1<2.7
式(2) 2.7<Z2
【請求項11】
請求項6ないし10のうちいずれか1項記載の流延方法によって形成された前記積層流延膜を前記支持体から剥ぎ取る剥ぎ取り工程と、
前記剥ぎ取られた前記積層流延膜を乾燥する乾燥工程とを行うことを特徴する溶液製膜方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−161712(P2011−161712A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25244(P2010−25244)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】