流路を用いた光学的測定方法、および光学的測定装置
【課題】流路を用いた光学系測定方法において、光学系の簡素化を図り、より効率的に測定が可能な新規技術を提供すること。
【解決手段】流路を通流する試料に異なる波長の2以上のレーザ光を照射することにより、前記試料を光学的に測定する方法であって、前記各波長における励起スペクトラムが重複しない少なくとも2以上の色素で修飾した前記試料を前記流路に通流させる通流工程と、前記各レーザ光を、前記流路を通流中の前記試料に対して同軸かつ同時に入射させる光照射工程と、前記色素からの光学的情報を検出する光学的情報検出工程と、を少なくとも行う光学的測定方法を提供する。
【解決手段】流路を通流する試料に異なる波長の2以上のレーザ光を照射することにより、前記試料を光学的に測定する方法であって、前記各波長における励起スペクトラムが重複しない少なくとも2以上の色素で修飾した前記試料を前記流路に通流させる通流工程と、前記各レーザ光を、前記流路を通流中の前記試料に対して同軸かつ同時に入射させる光照射工程と、前記色素からの光学的情報を検出する光学的情報検出工程と、を少なくとも行う光学的測定方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路を用いた光学的測定方法に関する。より詳しくは、流路内を通流する試料を光学的に検出する光学的測定方法、および該光学的測定方法に適した光学的測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、分析手法の発展に伴い、細胞や微生物等の生体微小粒子、マイクロビーズなどの微小粒子等を流路中に通流させ、通流させる工程において前記微小粒子を個々に測定したり、測定した微小粒子を解析し、分取したりする手法が開発されつつある。このような流路を用いた微小粒子の解析又は分取の手法の代表的な一例として、フローサイトメトリーと呼ばれる分析手法の技術改良が急速に進んでいる。
【0003】
フローサイトメトリーとは、解析の対象となる微小粒子を流体中に流し込み、該微小粒子の列を形成し、整列した該微小粒子にレーザ光等を照射することにより、各微小粒子から発せられた蛍光や散乱光を検出することで微小粒子の解析を行い、更には、解析結果に基づいて、微小粒子の分取を行う分析手法である。
【0004】
以下、フローサイトメトリーについて図13を用いて具体的に説明する。図13は、従来のフローサイトメータの模式図である。フローサイトメトリーのプロセスは、(1)水流系、(2)光学系、(3)電気系、(4)分取系、に大別することができる。
【0005】
(1)水流系
水流系では、分析対象となる微小粒子をフローセル(流路)中で一列に整列させる(図13中(1)参照)。より具体的には、シース流F102を一定の流速でフローセル内に流入させ、その状態で微小粒子を含むサンプル流F101をフローセル中央部にゆっくりと注入する。この時、laminar flowの原理によりそれぞれの流れは互いに混合されず、層を成した流れ(層流)が形成される。そして、分析対象となる微小粒子の大きさ等に応じて、シース流F102とサンプル流F101の流入量を調節し、微小粒子を一つ一つが整列した状態で通流させる。
【0006】
(2)光学系
光学系では、分析対象となる微小粒子にレーザ光を照射し、微小粒子から発せられる蛍光や散乱光を検出する(図13中(2)参照)。微小粒子を、前記水流系(1)において、一つ一つが整列した状態でレーザ照射部を通流させ、一つ一つの微小粒子が通過する毎に、微小粒子から発せられる蛍光や散乱光を、パラメーター毎に光学検出器を用いて検出し、微小粒子一つ一つの特性を分析する。
【0007】
(3)電気系
電気系では、光学系において検出した光学的情報を、電気的信号(電圧パルス)に変換する(図13中(3)参照)。変換された電気的信号は数値化され、数値化されたデータをもとに解析用コンピューターとソフトウェアでヒストグラムを抽出し、解析を行う。
【0008】
(4)分取系
分取系では、測定を終えた微小粒子を分離し、回収する(図13中(4)参照)。代表的な分取方法としては、測定を終えた微小粒子にプラス又はマイナスの電荷を加え、フローセルを、電位差を有する2つの偏向板Dで挟み込み、帯電された微小粒子はその電荷に応じていずれかの偏向板に引き寄せられることにより、分取する方法がある。
【0009】
このフローサイトメトリーのような流路中の微小粒子の解析及び分取技術は、医療分野、創薬分野、臨床検査分野、食品分野、農業分野、工学分野、法医学分野、犯罪鑑識分野等、様々な分野で広く利用されている。特に医療分野においては、病理学、腫瘍免疫学、移植学、遺伝学、再生医学、化学療法などで重要な役割を担っている。
【0010】
このように、非常に広い分野で流路中の微小粒子を解析及び分取する技術が必要とされており、前記(1)から(4)のプロセスに関わる技術も、日々、開発が進められている。例えば、特許文献1では、複数種類の測定用微粒子の夫々に、大きさと色の異なった測定用物質を固定化し、この固定化された測定用物質に結合した蛍光標識付物質をレーザ光を用いて測定することにより、その大きさと色とにより二次元マトリクス的に種類を識別可能とするフローサイトメトリーを用いた物質の測定方法が提案されている。
【0011】
また、特許文献2には、レーザ光の強度を所定の周波数で時間変調して標識サンプルに照射し、このときの標識サンプルの蛍光を受光波長帯域の異なる複数の検出センサで受光することにより、位相情報を含む検出値を各検出センサから収集等することにより、複数の蛍光色素を含んだ標識サンプルに同時にレーザ光を照射することによって発する蛍光の検出値を用いて各蛍光強度を求める際、識別可能な蛍光の種類を従来に比べて多くする技術が提案されている。
【0012】
【特許文献1】特開2007−101412号公報
【特許文献2】特開2007−127415号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前記のように、測定対象となる試料を複数の色素で修飾し、この色素情報を光学的に得ることにより、各種測定を行う技術は開発されつつある。
【0014】
しかし、図14に示すように、各色素x、y、zの励起スペクトラムX、Y、Zが、各励起光a、b、cの波長A、B、Cにおいて重複する場合、全ての励起光a、b、cを同時に照射することができず、図15に示すように、流路112を通流する試料Sに対し、各励起光a、b、cを別々に照射する必要があった。
【0015】
そのため、集光レンズ117等の照射光学系が、励起光a、b、cの個数分必要となり、また、各照射光学系による各レーザスポットのアライメントもそれぞれ必要であり、煩雑であった。
【0016】
また、図16に示すように、試料Sの間隔を、照射スポットの合計の距離よりも長く設定する必要があり、検出時間が長時間化するという問題があった。
【0017】
更に、各励起光a、b、c毎に、スペクトラム解析をする必要が生じるため、解析時間も長時間化するという問題があった。
【0018】
そこで、本発明では、流路を用いた光学系測定方法において、光学系の簡素化を図り、より効率的に測定が可能な新規技術を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本願発明者らは、前記も目的を解決するために、用いる色素及び光学系の構造について、鋭意研究を行った結果、励起光の波長と、色素の励起スペクトラムとの関係に着目することにより、本発明を完成させるに至った。
【0020】
即ち、本発明では、まず、流路を通流する試料に異なる波長の2以上のレーザ光を照射することにより、前記試料を光学的に測定する方法であって、
前記各波長において励起スペクトラムが重複しない少なくとも2以上の色素で修飾した前記試料を前記流路に通流させる通流工程と、
前記各レーザ光を、前記流路を通流中の前記試料に対して同軸かつ同時に入射させる光照射工程と、
前記色素からの光学的情報を検出する光学的情報検出工程と、
を少なくとも行う光学的測定方法を提供する。
本発明に係る光学的測定方法では、前記試料の通流間隔を、前記レーザ光の照射スポットに合わせて制御する通流間隔制御工程を更に行うことも可能である。
前記光学的情報検出工程では、前記色素からの光学的情報が検出できれば、その方法は特に限定されないが、例えば、複数の色素を検出できる、いわゆるマルチカラー検出を行うことができる。
【0021】
本発明では、次に、試料に対して、異なる波長のレーザ光を照射するための2以上の光源と、
前記各波長において励起スペクトラムが重複しない少なくとも2以上の色素で修飾した前記試料が通流する流路と、
前記光源からの2以上のレーザ光を、前記試料に対して同軸かつ同時に入射させるための光路変更手段と、
前記色素からの光学的情報を検出する光学的情報検出手段と、
を少なくとも備えた光学的測定装置を提供する。
本発明に係る光学的測定装置には、前記試料の通流間隔を、前記レーザ光の照射スポットに合わせて制御する通流間隔制御手段を更に備えることも可能である。
前記光学的情報検出手段は、前記色素からの光学的情報が検出できれば、その検出器の種類は特に限定されないが、例えば、複数の光検出器をアレイ状に並べた、いわゆるマルチチャンネル光検出器を用いることができる。
【0022】
ここで、本発明で用いる技術用語の定義付けを行う。本発明における「試料」とは、細胞や微生物、リポソーム、DNA、タンパク質などの生体関連微小粒子、あるいはラテックス粒子やゲル粒子、工業用粒子などの合成粒子など、流路内を通流可能な物質であれば、全て包含する。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る光学的測定方法では、流路を通流する試料に対し、異なる波長の2以上のレーザ光を同軸に同時に入射するため、光学系の簡素化が図れ、また、光検出時間の短縮および解析時間の短縮化が図れるため、効率的な測定が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0025】
<光学的測定方法>
図1は、本発明に係る光学的測定方法のフロー図である。
本発明に係る光学的測定方法は、流路内を通流する試料Sに異なる波長(例えば、λ1、λ2、λ3)の2以上のレーザ光(L1、L2、L3)を照射することにより、試料Sを光学的に測定する方法であって、通流工程(I)と、光照射工程(II)と、光学的情報検出工程(III)と、を少なくとも行う方法である。また、必要に応じて、通流間隔制御工程(IV)を行うことが可能である。以下、それぞれの工程について、詳細に説明する。
【0026】
(I)通流工程
通流工程(I)は、図2に示すように、照射するレーザ光L1、L2、L3の各波長λ1、λ2、λ3における励起スペクトラムE1、E2、E3が重複しない色素P1、P2、P3で修飾した試料Sを流路12(後述する図4参照)に通流させる工程である。
【0027】
本実施形態で用いる色素P1、P2、P3は、それぞれ波長λ1、λ2、λ3の励起光L1、L2、L3に対応した色素である。なお、本実施形態では、3つの色素P1、P2、P3で試料Sを修飾しているが、修飾する色素の数は2以上であれば特に限定されず、照射するレーザ光の各波長において励起スペクトラムが重複しなければ、4つ以上の色素で修飾することも可能である。
【0028】
また、図3に示すように、例えば、励起光L3に対応する色素P3と同時に、波長λ1およびλ2では励起強度を示さなければ、励起光L3に対応する色素P4を用いることも可能である。
【0029】
本発明に係る光学的測定方法で用いることができる色素の種類も、前記の条件を満たせば特に限定されず、公知のあらゆる色素を選択して用いることが可能である。一例としては、Cascade Blue、Pacific Blue、Fluorescein isothiocyanate(FITC)、Phycoerythrin(PE)、Propidium iodide(PI)、Texas red(TR)、Peridinin chlorophyll protein(PerCP)、Allophycocyanin(APC)、4’,6-Diamidino-2-phenylindole(DAPI)、 Cy3、Cy5、Cy7等が挙げられる。
【0030】
これらの色素P1、P2、P3で修飾した試料Sを、図4に示すように、流路12に通流させる。試料Sの流路12中への通流方法は特に限定されないが、例えば、整流を促す流体媒体(シース流)で試料Sを挟み込みながら搬送する方法が挙げられる。このように搬送すれば、試料Sを含むサンプル流F1の層流を形成することができ、より好適である。前記流体媒体は試料Sを含むサンプル流F1の整流を促す機能を有すれば、その種類は特に限定されないが、例えば、試料Sが細胞である場合には、生理食塩水等を用いることができる。
【0031】
なお、本発明に係る光学的測定方法を行い得る流路12の形態は特に限定されず、自由に設計することができる。例えば、図4に示す形態に限らず、後述する図8に示すように、2次元又は3次元のプラスチックやガラス等の基板上に形成した流路12においても、本発明に係る検出方法を行うことが可能である。
【0032】
(II)光照射工程
光照射工程(II)は、各レーザ光L1、L2、L3を、流路12を通流する試料Sに対して、同軸かつ同時に入射させる工程である。
【0033】
例えば、図5に示すように、各光源11a、11b、11cから照射されたレーザ光L1、L2、L3を、各ミラー16a、16b、16cを用いて1つの集光レンズ17に集めることで、流路12を通流する試料Sに対して、同軸かつ同時に入射させる。
【0034】
本発明に係る光学的測定方法では、前記通流工程(I)において、レーザ光L1、L2、L3の各波長λ1、λ2、λ3において励起スペクトラムE1、E2、E3が重複しない色素P1、P2、P3で修飾した試料Sを流路に通流させているため、波長λ1、λ2、λ3の異なる励起光(レーザ光L1、L2、L3)を同時に照射することが可能である。そのため、集光レンズ17等の照射光学系の簡素化を図ることができる。
【0035】
また、照射レーザスポットを1つにできるため、照射レーザスポットのアライメントを容易に行うことが可能である。
【0036】
更に、照射レーザスポットを1つにできるため、測定対象の試料Sの流路内での間隔を、照射レーザスポットの直径まで縮めることができ、検出処理スピードを大幅に短縮することが可能である。
【0037】
(III)光学的情報検出工程
光学的情報検出工程(III)は、光照射工程(II)を経た後に、試料Sを修飾した色素P1、P2、P3からの光学的情報を検出する工程である。
【0038】
光学的情報検出工程(III)では、色素P1、P2、P3からの光学的情報の検出ができれば、その検出方法は特に限定されず、公知の光学的方法を自由に採用することができる。例えば、蛍光測定、散乱光測定、透過光測定、反射光測定、回折光測定、紫外分光測定、赤外分光測定、ラマン分光測定、FRET測定、FISH測定その他各種スペクトラム測定、複数の色素を検出できる、いわゆるマルチカラー検出等の方法が挙げられる。また、電荷結合素子(CCD)やComplementary Metal Oxide Semiconductor(CMOS)などのエリア撮像素子を用いて検出を行えば、一画面全体の試料Sから発せられるイメージを光電変換することができる。
【0039】
本実施形態では、色素P1、P2、P3から発せられた蛍光を、回折格子18を用いて波長毎に分け、マルチチャンネル光検出器14(光学的情報検出手段14)で蛍光スペクトルを測定している。
【0040】
本発明に係る光学的測定方法では、前記光照射工程(II)において、照射レーザスポットを1つにしているため、各色素からの光学的情報を一度に検出することができ、検出処理スピードを大幅に短縮することができる。
【0041】
また、検出した各色素からの蛍光スペクトラムを、1度に解析することができるため、解析時間も大幅に短縮することができる。
【0042】
(IV)通流間隔制御工程
本発明では必須ではないが、通流間隔制御工程(IV)を行うことができる。通流間隔制御工程(IV)では、照射レーザスポットの大きさに合わせて、試料Sの通流間隔を制御する工程である。
【0043】
通流間隔制御工程(IV)は、少なくとも光照射工程(II)の前に行えばよく、例えば図1のフロー図に示すように、通流工程(I)を行う前に行っても、通流工程(I)を行った後に行っても良い。
【0044】
通流工程(I)を行う前に通流間隔制御工程(IV)を行う方法としては、例えば、図6に示すように、通流工程(I)を行う前に試料Sを含む溶液S1の濃度調整を行うことで、試料Sの通流間隔を照射レーザスポットの大きさに合わせて制御することができる。濃度調節の方法は特に限定されないが、例えば、図6に示すように、溶媒S0の貯蔵部を設け、濃度を薄くしたい場合には、溶媒S0を流入し、濃度を濃くしたい場合には、溶媒S0を排出することで、S1の濃度調節を行うことができる。
【0045】
なお、この場合、図示しないが、溶媒S0の貯蔵部の出入口部分(図6中矢印A部分)に試料Sを通過させないフィルター等を設けることが望ましい。溶媒S0を排出する場合に、試料Sの排出を防ぐためである。
【0046】
また、図示しないが、流路12の流入口(図6中矢印B部分)に、フィルター若しくは開閉コック等を備え、試料Sを含む溶液S1の流入量を増減させることで、試料Sの通流間隔を照射レーザスポットの大きさに合わせて制御することもできる。
【0047】
通流工程(I)を行った後に通流間隔制御工程(IV)を行う方法としては、例えば、図7に示すように、流路12の途中に、溶媒S0の貯蔵部を設け、試料Sの間隔が狭すぎる場合には、溶媒S0を流路12内に流入し、試料Sの間隔が広すぎる場合には、流路12内から溶媒S0を排出することで、試料Sの通流間隔を照射レーザスポットの大きさに合わせて制御することができる。
【0048】
なお、この場合、図示しないが、溶媒S0の貯蔵部と流路12との間(図7中矢印C部分)に試料Sを通過させないフィルター等を設けることが望ましい。流路12内から溶媒S0を排出する場合に、試料Sの排出を防ぐためである。
【0049】
(V)分取工程
本発明では必須ではないが、光学的情報検出工程(III)を経た後、分取工程(V)を行うことができる。分取工程(V)では、光学的情報検出工程(III)で得られた試料Sの光学的情報に基づいて、試料Sの分取を行う。
【0050】
具体的な一例を挙げると、光学的情報検出工程(III)で得られた試料Sの大きさ、形態、内部構造等の情報に基づいて、図示しないが、流路12の下流に分取のための流路を形成し、偏向板D等を用いて試料Sを分取することができる。
【0051】
<光学的測定装置>
次に、図5を用いて、本発明に係る光学的測定装置の構造を説明する。図5は、本発明に係る光学的測定装置1の一実施形態を模式的に示す模式図である。本発明に係る光学的測定装置1は、大別すると、2以上の光源11a、11b、11cと、流路12と、光路変更手段13と、光学的情報検出手段14と、を備える。以下、各々について、詳細に説明する。
【0052】
(1)光源11a、11b、11c
本発明に係る光学的測定装置1では、異なる波長の少なくとも2以上のレーザ光L1、L2、L3を照射するために、2以上の光源11a、11b、11cを用いる。本発明に係る光学的測定装置1に用いる光源の個数は、異なる波長の少なくとも2以上のレーザ光を照射するために、2以上の光源を用いていれば、本実施形態のように3つの光源11a、11b、11cを用いても、4つ以上の光源を用いても良い。
【0053】
また、本発明に係る光学的測定装置1に使用できる光源11a、11b、11cの種類も特に限定されず、公知のあらゆる光源を選択して用いることができる。例えば、アルゴンイオン(Ar)レーザ、ヘリウム−ネオン(He-Ne)レーザ、ダイ(dye)レーザ、クリプトン(Cr)レーザ等を、2つ以上、自由に組み合わせて用いることができる。
【0054】
(2)流路12
流路12には試料Sが通流し、その所定部位において、光照射及び光学的情報検出が行われる。流路12を通流する試料Sは、図示しないが、光源11a、11b、11cから照射されるレーザ光L1、L2、L3の各波長λ1、λ2、λ3において励起スペクトラムが重複しない少なくとも2以上の色素で修飾されている。試料Sに修飾することが可能な色素Pの数、種類等については、前述の光学的測定方法と同一であるので、ここでは説明を割愛する。
【0055】
本発明に係る光学的測定装置1に用いることができる流路12の形態は特に限定されず、自由に設計することができる。例えば、図5に示す形態に限らず、図8に示すように、2次元又は3次元のプラスチックやガラス等の基板T上に形成した流路12も、本発明に係る光学的測定装置1に用いることができる。
【0056】
また、前記流路1の流路幅、流路深さ、流路断面形状も、層流を形成し得る形態であれば特に限定されず、自由に設計することができる。例えば、流路幅1mm以下のマイクロ流路においても、本発明に係る光学的測定装置1に用いることが可能である。特に、流路幅10μm以上1mm以下程度のマイクロ流路を用いれば、本発明に係る光学的測定方法をより好適に行うことができる。
【0057】
なお、基板T上に形成した流路12を採用する場合には、流路12の底面を透過性のある材料で形成することが好ましい。図8に示すように、後述の光学的情報検出手段14を、基板Tを挟んで光源11a、11b、11cと逆側に配置し、流路12の底面側からの光学的情報を検出できるようにするためである。
【0058】
(3)光路変更手段13
光路変更手段13は、各レーザ光L1、L2、L3を、流路12を通流する試料Sに対して、同軸かつ同時に入射させる手段である。
【0059】
例えば、図5および図8に示すように、各光源11a、11b、11cから照射されたレーザ光L1、L2、L3を、各ミラー16a、16b、16cを用いて1つの集光レンズ17に集めることで、流路12を通流する試料Sに対して、同軸かつ同時に入射させる。
【0060】
本発明に係る光学的測定装置1では、レーザ光L1、L2、L3の各波長λ1、λ2、λ3において励起スペクトラムE1、E2、E3が重複しない色素P1、P2、P3で修飾した試料Sを流路12に通流させているため、波長λ1、λ2、λ3の異なる励起光(レーザ光L1、L2、L3)を同時に照射することが可能である。そのため、集光レンズ17等の照射光学系の簡素化を図ることができる。
【0061】
また、照射レーザスポットを1つにできるため、照射レーザスポットのアライメントを容易に行うことが可能である。
【0062】
更に、照射レーザスポットを1つにできるため、測定対象の試料Sの流路内での間隔を、照射レーザスポットの直径まで縮めることができるため、検出処理スピードを大幅に短縮することが可能である。
【0063】
(4)光学的情報検出手段14
光学的情報検出手段14は、試料Sを修飾した色素P1、P2、P3からの光学的情報を検出する手段である。
【0064】
光学的情報検出手段14は、色素P1、P2、P3からの光学的情報の検出ができれば、その検出器の種類は特に限定されず、公知の光学的検出器を自由に採用することができる。例えば、蛍光測定器、散乱光測定器、透過光測定器、反射光測定器、回折光測定器、紫外分光測定器、赤外分光測定器、ラマン分光測定器、FRET測定器、FISH測定器その他各種スペクトラム測定器、複数の光検出器をアレイ状に並べた、いわゆるマルチチャンネル光検出器等が挙げられる。また、電荷結合素子(CCD)やComplementary Metal Oxide Semiconductor(CMOS)などのエリア撮像素子を用いた検出器を採用すれば、一画面全体の試料Sから発せられるイメージを光電変換することができる。
【0065】
図5および図8に示す実施形態では、色素P1、P2、P3から発せられた蛍光を、回折格子18を用いて波長毎に分け、マルチチャンネル光検出器14(光学的情報検出手段14)で蛍光スペクトルを測定している。
【0066】
また、光学的情報検出手段14の配置箇所は、色素P1、P2、P3から発せられた蛍光が検出できれば特に限定されないが、図5および図8に示すように、流路12を挟んで光源11a、11b、11cと逆側に配置することが好ましい。光源11a、11b、11cからのレーザ光L1、L2、L3の照射と同時に光学的情報を検出することができ、効率的な測定を行うことができるからである。
【0067】
また、光学的情報検出手段14を、流路12を挟んで光源11a、11b、11cと逆側に配置することで、光源11a、11b、11cをより自由な構成で配置させることができる。更に、光学的情報検出手段14のスペースを確保する必要がないため、光源11a、11b、11cの個数を増やすことも可能である。
【0068】
なお、図8に示す実施形態のように、基板T上の流路12を採用する場合には、流路12の底面を透過性のある材料で形成することが好ましい。
【0069】
本発明に係る光学的測定装置1では、光路変更手段13を備えることにより、照射レーザスポットを1つにすることができるため、各色素からの光学的情報を一度に検出することができ、検出処理スピードを大幅に短縮することができる。
【0070】
また、検出した各色素からの蛍光スペクトラムを、1度に解析することができるため、解析時間も大幅に短縮することができる。
【0071】
(5)通流間隔制御手段15
本発明では必須ではないが、本発明に係る光学的測定装置1には、通流間隔制御手段15を設けることができる。通流間隔制御手段15は、照射レーザスポットの大きさに合わせて、試料Sの通流間隔を制御する手段である。
【0072】
通流間隔制御手段15は、少なくとも流路12の光源11a、11b、11cからの照射が行われる位置より上流に備えていればよく、流路12に試料Sを通流させる前に通流間隔を制御できるように、流路12の最上流に設けても、流路12を通流中の試料Sの間隔を制御できるように、流路12の中間に設けても良い。
【0073】
通流間隔制御手段15を、流路12の最上流に設けて通流間隔を制御する方法としては、例えば、図6に示すように、流路12の最上流に溶媒S0の貯蔵部を設け、流路12に通流させる前の試料Sを含む溶液S1の濃度調整を行うことで、試料Sの通流間隔を照射レーザスポットの大きさに合わせて制御することができる。具体的には、濃度を薄くしたい場合には、溶媒S0を流入し、濃度を濃くしたい場合には、溶媒S0を排出することで、S1の濃度調節を行うことができる。
【0074】
なお、この場合、図示しないが、溶媒S0の貯蔵部の出入口部分(図6中矢印A部分)に試料Sを通過させないフィルター等を設けることが望ましい。溶媒S0を排出する場合に、試料Sの排出を防ぐためである。
【0075】
また、試料Sを含む溶液S1の流入量を増減させることで、試料Sの通流間隔を照射レーザスポットの大きさに合わせて制御するために、図示しないが、流路12の流入口(図6中矢印B部分)に、フィルター若しくは開閉コック等を備えることもできる。
【0076】
通流間隔制御手段15を、流路12の中間に設けて通流間隔を制御する方法としては、例えば、図7に示すように、流路12の途中に、溶媒S0の貯蔵部を設け、試料Sの間隔が狭すぎる場合には、溶媒S0を流路12内に流入し、試料Sの間隔が広すぎる場合には、流路12内から溶媒S0を排出することで、試料Sの通流間隔を照射レーザスポットの大きさに合わせて制御することができる。
【0077】
なお、この場合、図示しないが、溶媒S0の貯蔵部と流路12との間(図7中矢印C部分)に試料Sを通過させないフィルター等を設けることが望ましい。流路12内から溶媒S0を排出する場合に、試料Sの排出を防ぐためである。
【実施例1】
【0078】
実施例1では、下記表1に示す通り、励起光波長405nm、473nm、635nmに対応する色素、(i)Alexa405(登録商標)、(ii)Cascade Blue、(iii)Pacific Blue、(iv)Alexa532(登録商標)、(v)Alexa568(登録商標)、(vi)Phycoerythrin(PE)、(vii)Alexa633(登録商標)、(viii)Alexa647(登録商標)、(ix)Allophycocyanin(APC)、(x)Cy7を選択し、各色素を組み合わせた場合に、それぞれの励起光波長において、励起スペクトラムが重ならないかを調べた。
【0079】
【表1】
【0080】
(1)(i)Alexa405(登録商標)、(iv)Alexa532(登録商標)、(vii)Alexa633(登録商標)を組み合わせた場合の励起スペクトラムを図9に示す。図9に示すように、(i)Alexa405(登録商標)、(iv)Alexa532(登録商標)、(vii)Alexa633(登録商標)の色素が示す励起スペクトラムは、各励起光の波長405nm、473nm、635nmにおいて、重複していないことが分かった。
【0081】
従って、本発明に係る光学的測定方法には、(i)Alexa405(登録商標)、(iv)Alexa532(登録商標)、(vii)Alexa633(登録商標)を組み合わせて用いることが可能であることが分かった。
【0082】
(2)(ii)Cascade Blue、(v)Alexa568(登録商標)、(viii)Alexa647(登録商標)を組み合わせた場合の励起スペクトラムを図10に示す。図10に示すように、(ii)Cascade Blue、(v)Alexa568(登録商標)、(viii)Alexa647(登録商標)の色素が示す励起スペクトラムは、各励起光の波長405nm、473nm、635nmにおいて、重複していないことが分かった。
【0083】
従って、本発明に係る光学的測定方法には、(ii)Cascade Blue、(v)Alexa568(登録商標)、(viii)Alexa647(登録商標)を組み合わせて用いることが可能であることが分かった。
【0084】
(3)(iii)Pacific Blue、(vi)Phycoerythrin(PE)、(ix)Allophycocyanin(APC)を組み合わせた場合の励起スペクトラムを図11に示す。図11に示すように、(iii)Pacific Blue、(vi)Phycoerythrin(PE)、(ix)Allophycocyanin(APC)の色素が示す励起スペクトラムは、各励起光の波長405nm、473nm、635nmにおいて、重複していないことが分かった。
【0085】
従って、本発明に係る光学的測定方法には、(iii)Pacific Blue、(vi)Phycoerythrin(PE)、(ix)Allophycocyanin(APC)を組み合わせて用いることが可能であることが分かった。
【0086】
(4)(i)Alexa405(登録商標)、(ii)Cascade Blue、(iii)Pacific Blue、(iv)Alexa532(登録商標)、(v)Alexa568(登録商標)、(vi)Phycoerythrin(PE)、(vii)Alexa633(登録商標)、(viii)Alexa647(登録商標)、(ix)Allophycocyanin(APC)、(x)Cy7の全てを組み合わせた場合の励起スペクトラムを図12に示す。図12に示すように、波長405nmの励起光に対応する(i)Alexa405(登録商標)、(ii)Cascade Blue、(iii)Pacific Blueの励起スペクトラムは、波長473nm、635nmでは励起強度を示さず、波長473nmの励起光に対応する(iv)Alexa532(登録商標)、(v)Alexa568(登録商標)、(vi)Phycoerythrin(PE)は、波長405nm、635nmでは励起強度を示さず、波長635nmの励起光に対応する(vii)Alexa633(登録商標)、(viii)Alexa647(登録商標)、(ix)Allophycocyanin(APC)、(x)Cy7は、波長405nm、473nmでは励起強度を示さないことが分かった。
【0087】
従って、本発明に係る光学的測定方法には、(i)Alexa405(登録商標)、(ii)Cascade Blue、(iii)Pacific Blue、(iv)Alexa532(登録商標)、(v)Alexa568(登録商標)、(vi)Phycoerythrin(PE)、(vii)Alexa633(登録商標)、(viii)Alexa647(登録商標)、(ix)Allophycocyanin(APC)、(x)Cy7の全てを組み合わせて用いることが可能であることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明に係る光学的測定方法のフロー図である。
【図2】本発明に係る光学的測定方法に用いることができる色素P1、P2、P2の励起スペクトラムを示す図面代用グラフである。
【図3】本発明に係る光学的測定方法に用いることができる色素P1、P2、P2の励起スペクトラムを示す図面代用グラフである。
【図4】本発明に係る光学的測定方法における通流工程(I)を説明するための流路12の斜視模式図である。
【図5】本発明に係る光学的測定装置1の一実施形態を模式的に示す模式図である。
【図6】本発明に係る光学的測定装置1の通流間隔制御手段15の一実施形態を模式的に示す模式図である。
【図7】本発明に係る光学的測定装置1の通流間隔制御手段15の図6とは異なる実施形態を模式的に示す模式図である。
【図8】本発明に係る光学的測定装置1の図5とは異なる実施形態を模式的に示す模式図である。
【図9】実施例1において、(i)Alexa405(登録商標)、(iv)Alexa532(登録商標)、(vii)Alexa633(登録商標)を組み合わせた場合の励起スペクトラムを示す図面代用グラフである。
【図10】実施例1において、(ii)Cascade Blue、(v)Alexa568(登録商標)、(viii)Alexa647(登録商標)を組み合わせた場合の励起スペクトラムを示す図面代用グラフである。
【図11】実施例1において、(iii)Pacific Blue、(vi)Phycoerythrin(PE)、(ix)Allophycocyanin(APC)を組み合わせた場合の励起スペクトラムを示す図面代用グラフである。
【図12】実施例1において、(i)Alexa405(登録商標)、(ii)Cascade Blue、(iii)Pacific Blue、(iv)Alexa532(登録商標)、(v)Alexa568(登録商標)、(vi)Phycoerythrin(PE)、(vii)Alexa633(登録商標)、(viii)Alexa647(登録商標)、(ix)Allophycocyanin(APC)、(x)Cy7の全てを組み合わせた場合の励起スペクトラムを示す図面代用グラフである。
【図13】従来のフローサイトメータの模式図である。
【図14】従来の光学的測定方法に用いられる色素の励起スペクトラムを示す図面代用グラフである。
【図15】従来の光学的測定装置を模式的に示す模式図である。
【図16】従来の光学的測定装置を用いた場合の照射スポットの間隔と、試料の間隔と、の関係を示す模式図である。
【符号の説明】
【0089】
1 光学的測定装置
11a、11b、11c 光源
12 流路
13 光路変更手段
14 光学的情報検出手段
15 通流間隔制御手段
16a、16b、16c ミラー
17 集光レンズ
18 回折格子
111 光源
112 流路
114 光検出器
116 集光レンズ
S 試料
S1 試料溶液
S0 溶媒
L1、L2、L3 レーザ光
P1、P2、P3 色素
T 基板
D 偏向板
F1 サンプル流
x、y、z 色素
a、b、c レーザ光
F101 サンプル流
F102 シース流
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路を用いた光学的測定方法に関する。より詳しくは、流路内を通流する試料を光学的に検出する光学的測定方法、および該光学的測定方法に適した光学的測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、分析手法の発展に伴い、細胞や微生物等の生体微小粒子、マイクロビーズなどの微小粒子等を流路中に通流させ、通流させる工程において前記微小粒子を個々に測定したり、測定した微小粒子を解析し、分取したりする手法が開発されつつある。このような流路を用いた微小粒子の解析又は分取の手法の代表的な一例として、フローサイトメトリーと呼ばれる分析手法の技術改良が急速に進んでいる。
【0003】
フローサイトメトリーとは、解析の対象となる微小粒子を流体中に流し込み、該微小粒子の列を形成し、整列した該微小粒子にレーザ光等を照射することにより、各微小粒子から発せられた蛍光や散乱光を検出することで微小粒子の解析を行い、更には、解析結果に基づいて、微小粒子の分取を行う分析手法である。
【0004】
以下、フローサイトメトリーについて図13を用いて具体的に説明する。図13は、従来のフローサイトメータの模式図である。フローサイトメトリーのプロセスは、(1)水流系、(2)光学系、(3)電気系、(4)分取系、に大別することができる。
【0005】
(1)水流系
水流系では、分析対象となる微小粒子をフローセル(流路)中で一列に整列させる(図13中(1)参照)。より具体的には、シース流F102を一定の流速でフローセル内に流入させ、その状態で微小粒子を含むサンプル流F101をフローセル中央部にゆっくりと注入する。この時、laminar flowの原理によりそれぞれの流れは互いに混合されず、層を成した流れ(層流)が形成される。そして、分析対象となる微小粒子の大きさ等に応じて、シース流F102とサンプル流F101の流入量を調節し、微小粒子を一つ一つが整列した状態で通流させる。
【0006】
(2)光学系
光学系では、分析対象となる微小粒子にレーザ光を照射し、微小粒子から発せられる蛍光や散乱光を検出する(図13中(2)参照)。微小粒子を、前記水流系(1)において、一つ一つが整列した状態でレーザ照射部を通流させ、一つ一つの微小粒子が通過する毎に、微小粒子から発せられる蛍光や散乱光を、パラメーター毎に光学検出器を用いて検出し、微小粒子一つ一つの特性を分析する。
【0007】
(3)電気系
電気系では、光学系において検出した光学的情報を、電気的信号(電圧パルス)に変換する(図13中(3)参照)。変換された電気的信号は数値化され、数値化されたデータをもとに解析用コンピューターとソフトウェアでヒストグラムを抽出し、解析を行う。
【0008】
(4)分取系
分取系では、測定を終えた微小粒子を分離し、回収する(図13中(4)参照)。代表的な分取方法としては、測定を終えた微小粒子にプラス又はマイナスの電荷を加え、フローセルを、電位差を有する2つの偏向板Dで挟み込み、帯電された微小粒子はその電荷に応じていずれかの偏向板に引き寄せられることにより、分取する方法がある。
【0009】
このフローサイトメトリーのような流路中の微小粒子の解析及び分取技術は、医療分野、創薬分野、臨床検査分野、食品分野、農業分野、工学分野、法医学分野、犯罪鑑識分野等、様々な分野で広く利用されている。特に医療分野においては、病理学、腫瘍免疫学、移植学、遺伝学、再生医学、化学療法などで重要な役割を担っている。
【0010】
このように、非常に広い分野で流路中の微小粒子を解析及び分取する技術が必要とされており、前記(1)から(4)のプロセスに関わる技術も、日々、開発が進められている。例えば、特許文献1では、複数種類の測定用微粒子の夫々に、大きさと色の異なった測定用物質を固定化し、この固定化された測定用物質に結合した蛍光標識付物質をレーザ光を用いて測定することにより、その大きさと色とにより二次元マトリクス的に種類を識別可能とするフローサイトメトリーを用いた物質の測定方法が提案されている。
【0011】
また、特許文献2には、レーザ光の強度を所定の周波数で時間変調して標識サンプルに照射し、このときの標識サンプルの蛍光を受光波長帯域の異なる複数の検出センサで受光することにより、位相情報を含む検出値を各検出センサから収集等することにより、複数の蛍光色素を含んだ標識サンプルに同時にレーザ光を照射することによって発する蛍光の検出値を用いて各蛍光強度を求める際、識別可能な蛍光の種類を従来に比べて多くする技術が提案されている。
【0012】
【特許文献1】特開2007−101412号公報
【特許文献2】特開2007−127415号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前記のように、測定対象となる試料を複数の色素で修飾し、この色素情報を光学的に得ることにより、各種測定を行う技術は開発されつつある。
【0014】
しかし、図14に示すように、各色素x、y、zの励起スペクトラムX、Y、Zが、各励起光a、b、cの波長A、B、Cにおいて重複する場合、全ての励起光a、b、cを同時に照射することができず、図15に示すように、流路112を通流する試料Sに対し、各励起光a、b、cを別々に照射する必要があった。
【0015】
そのため、集光レンズ117等の照射光学系が、励起光a、b、cの個数分必要となり、また、各照射光学系による各レーザスポットのアライメントもそれぞれ必要であり、煩雑であった。
【0016】
また、図16に示すように、試料Sの間隔を、照射スポットの合計の距離よりも長く設定する必要があり、検出時間が長時間化するという問題があった。
【0017】
更に、各励起光a、b、c毎に、スペクトラム解析をする必要が生じるため、解析時間も長時間化するという問題があった。
【0018】
そこで、本発明では、流路を用いた光学系測定方法において、光学系の簡素化を図り、より効率的に測定が可能な新規技術を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本願発明者らは、前記も目的を解決するために、用いる色素及び光学系の構造について、鋭意研究を行った結果、励起光の波長と、色素の励起スペクトラムとの関係に着目することにより、本発明を完成させるに至った。
【0020】
即ち、本発明では、まず、流路を通流する試料に異なる波長の2以上のレーザ光を照射することにより、前記試料を光学的に測定する方法であって、
前記各波長において励起スペクトラムが重複しない少なくとも2以上の色素で修飾した前記試料を前記流路に通流させる通流工程と、
前記各レーザ光を、前記流路を通流中の前記試料に対して同軸かつ同時に入射させる光照射工程と、
前記色素からの光学的情報を検出する光学的情報検出工程と、
を少なくとも行う光学的測定方法を提供する。
本発明に係る光学的測定方法では、前記試料の通流間隔を、前記レーザ光の照射スポットに合わせて制御する通流間隔制御工程を更に行うことも可能である。
前記光学的情報検出工程では、前記色素からの光学的情報が検出できれば、その方法は特に限定されないが、例えば、複数の色素を検出できる、いわゆるマルチカラー検出を行うことができる。
【0021】
本発明では、次に、試料に対して、異なる波長のレーザ光を照射するための2以上の光源と、
前記各波長において励起スペクトラムが重複しない少なくとも2以上の色素で修飾した前記試料が通流する流路と、
前記光源からの2以上のレーザ光を、前記試料に対して同軸かつ同時に入射させるための光路変更手段と、
前記色素からの光学的情報を検出する光学的情報検出手段と、
を少なくとも備えた光学的測定装置を提供する。
本発明に係る光学的測定装置には、前記試料の通流間隔を、前記レーザ光の照射スポットに合わせて制御する通流間隔制御手段を更に備えることも可能である。
前記光学的情報検出手段は、前記色素からの光学的情報が検出できれば、その検出器の種類は特に限定されないが、例えば、複数の光検出器をアレイ状に並べた、いわゆるマルチチャンネル光検出器を用いることができる。
【0022】
ここで、本発明で用いる技術用語の定義付けを行う。本発明における「試料」とは、細胞や微生物、リポソーム、DNA、タンパク質などの生体関連微小粒子、あるいはラテックス粒子やゲル粒子、工業用粒子などの合成粒子など、流路内を通流可能な物質であれば、全て包含する。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る光学的測定方法では、流路を通流する試料に対し、異なる波長の2以上のレーザ光を同軸に同時に入射するため、光学系の簡素化が図れ、また、光検出時間の短縮および解析時間の短縮化が図れるため、効率的な測定が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0025】
<光学的測定方法>
図1は、本発明に係る光学的測定方法のフロー図である。
本発明に係る光学的測定方法は、流路内を通流する試料Sに異なる波長(例えば、λ1、λ2、λ3)の2以上のレーザ光(L1、L2、L3)を照射することにより、試料Sを光学的に測定する方法であって、通流工程(I)と、光照射工程(II)と、光学的情報検出工程(III)と、を少なくとも行う方法である。また、必要に応じて、通流間隔制御工程(IV)を行うことが可能である。以下、それぞれの工程について、詳細に説明する。
【0026】
(I)通流工程
通流工程(I)は、図2に示すように、照射するレーザ光L1、L2、L3の各波長λ1、λ2、λ3における励起スペクトラムE1、E2、E3が重複しない色素P1、P2、P3で修飾した試料Sを流路12(後述する図4参照)に通流させる工程である。
【0027】
本実施形態で用いる色素P1、P2、P3は、それぞれ波長λ1、λ2、λ3の励起光L1、L2、L3に対応した色素である。なお、本実施形態では、3つの色素P1、P2、P3で試料Sを修飾しているが、修飾する色素の数は2以上であれば特に限定されず、照射するレーザ光の各波長において励起スペクトラムが重複しなければ、4つ以上の色素で修飾することも可能である。
【0028】
また、図3に示すように、例えば、励起光L3に対応する色素P3と同時に、波長λ1およびλ2では励起強度を示さなければ、励起光L3に対応する色素P4を用いることも可能である。
【0029】
本発明に係る光学的測定方法で用いることができる色素の種類も、前記の条件を満たせば特に限定されず、公知のあらゆる色素を選択して用いることが可能である。一例としては、Cascade Blue、Pacific Blue、Fluorescein isothiocyanate(FITC)、Phycoerythrin(PE)、Propidium iodide(PI)、Texas red(TR)、Peridinin chlorophyll protein(PerCP)、Allophycocyanin(APC)、4’,6-Diamidino-2-phenylindole(DAPI)、 Cy3、Cy5、Cy7等が挙げられる。
【0030】
これらの色素P1、P2、P3で修飾した試料Sを、図4に示すように、流路12に通流させる。試料Sの流路12中への通流方法は特に限定されないが、例えば、整流を促す流体媒体(シース流)で試料Sを挟み込みながら搬送する方法が挙げられる。このように搬送すれば、試料Sを含むサンプル流F1の層流を形成することができ、より好適である。前記流体媒体は試料Sを含むサンプル流F1の整流を促す機能を有すれば、その種類は特に限定されないが、例えば、試料Sが細胞である場合には、生理食塩水等を用いることができる。
【0031】
なお、本発明に係る光学的測定方法を行い得る流路12の形態は特に限定されず、自由に設計することができる。例えば、図4に示す形態に限らず、後述する図8に示すように、2次元又は3次元のプラスチックやガラス等の基板上に形成した流路12においても、本発明に係る検出方法を行うことが可能である。
【0032】
(II)光照射工程
光照射工程(II)は、各レーザ光L1、L2、L3を、流路12を通流する試料Sに対して、同軸かつ同時に入射させる工程である。
【0033】
例えば、図5に示すように、各光源11a、11b、11cから照射されたレーザ光L1、L2、L3を、各ミラー16a、16b、16cを用いて1つの集光レンズ17に集めることで、流路12を通流する試料Sに対して、同軸かつ同時に入射させる。
【0034】
本発明に係る光学的測定方法では、前記通流工程(I)において、レーザ光L1、L2、L3の各波長λ1、λ2、λ3において励起スペクトラムE1、E2、E3が重複しない色素P1、P2、P3で修飾した試料Sを流路に通流させているため、波長λ1、λ2、λ3の異なる励起光(レーザ光L1、L2、L3)を同時に照射することが可能である。そのため、集光レンズ17等の照射光学系の簡素化を図ることができる。
【0035】
また、照射レーザスポットを1つにできるため、照射レーザスポットのアライメントを容易に行うことが可能である。
【0036】
更に、照射レーザスポットを1つにできるため、測定対象の試料Sの流路内での間隔を、照射レーザスポットの直径まで縮めることができ、検出処理スピードを大幅に短縮することが可能である。
【0037】
(III)光学的情報検出工程
光学的情報検出工程(III)は、光照射工程(II)を経た後に、試料Sを修飾した色素P1、P2、P3からの光学的情報を検出する工程である。
【0038】
光学的情報検出工程(III)では、色素P1、P2、P3からの光学的情報の検出ができれば、その検出方法は特に限定されず、公知の光学的方法を自由に採用することができる。例えば、蛍光測定、散乱光測定、透過光測定、反射光測定、回折光測定、紫外分光測定、赤外分光測定、ラマン分光測定、FRET測定、FISH測定その他各種スペクトラム測定、複数の色素を検出できる、いわゆるマルチカラー検出等の方法が挙げられる。また、電荷結合素子(CCD)やComplementary Metal Oxide Semiconductor(CMOS)などのエリア撮像素子を用いて検出を行えば、一画面全体の試料Sから発せられるイメージを光電変換することができる。
【0039】
本実施形態では、色素P1、P2、P3から発せられた蛍光を、回折格子18を用いて波長毎に分け、マルチチャンネル光検出器14(光学的情報検出手段14)で蛍光スペクトルを測定している。
【0040】
本発明に係る光学的測定方法では、前記光照射工程(II)において、照射レーザスポットを1つにしているため、各色素からの光学的情報を一度に検出することができ、検出処理スピードを大幅に短縮することができる。
【0041】
また、検出した各色素からの蛍光スペクトラムを、1度に解析することができるため、解析時間も大幅に短縮することができる。
【0042】
(IV)通流間隔制御工程
本発明では必須ではないが、通流間隔制御工程(IV)を行うことができる。通流間隔制御工程(IV)では、照射レーザスポットの大きさに合わせて、試料Sの通流間隔を制御する工程である。
【0043】
通流間隔制御工程(IV)は、少なくとも光照射工程(II)の前に行えばよく、例えば図1のフロー図に示すように、通流工程(I)を行う前に行っても、通流工程(I)を行った後に行っても良い。
【0044】
通流工程(I)を行う前に通流間隔制御工程(IV)を行う方法としては、例えば、図6に示すように、通流工程(I)を行う前に試料Sを含む溶液S1の濃度調整を行うことで、試料Sの通流間隔を照射レーザスポットの大きさに合わせて制御することができる。濃度調節の方法は特に限定されないが、例えば、図6に示すように、溶媒S0の貯蔵部を設け、濃度を薄くしたい場合には、溶媒S0を流入し、濃度を濃くしたい場合には、溶媒S0を排出することで、S1の濃度調節を行うことができる。
【0045】
なお、この場合、図示しないが、溶媒S0の貯蔵部の出入口部分(図6中矢印A部分)に試料Sを通過させないフィルター等を設けることが望ましい。溶媒S0を排出する場合に、試料Sの排出を防ぐためである。
【0046】
また、図示しないが、流路12の流入口(図6中矢印B部分)に、フィルター若しくは開閉コック等を備え、試料Sを含む溶液S1の流入量を増減させることで、試料Sの通流間隔を照射レーザスポットの大きさに合わせて制御することもできる。
【0047】
通流工程(I)を行った後に通流間隔制御工程(IV)を行う方法としては、例えば、図7に示すように、流路12の途中に、溶媒S0の貯蔵部を設け、試料Sの間隔が狭すぎる場合には、溶媒S0を流路12内に流入し、試料Sの間隔が広すぎる場合には、流路12内から溶媒S0を排出することで、試料Sの通流間隔を照射レーザスポットの大きさに合わせて制御することができる。
【0048】
なお、この場合、図示しないが、溶媒S0の貯蔵部と流路12との間(図7中矢印C部分)に試料Sを通過させないフィルター等を設けることが望ましい。流路12内から溶媒S0を排出する場合に、試料Sの排出を防ぐためである。
【0049】
(V)分取工程
本発明では必須ではないが、光学的情報検出工程(III)を経た後、分取工程(V)を行うことができる。分取工程(V)では、光学的情報検出工程(III)で得られた試料Sの光学的情報に基づいて、試料Sの分取を行う。
【0050】
具体的な一例を挙げると、光学的情報検出工程(III)で得られた試料Sの大きさ、形態、内部構造等の情報に基づいて、図示しないが、流路12の下流に分取のための流路を形成し、偏向板D等を用いて試料Sを分取することができる。
【0051】
<光学的測定装置>
次に、図5を用いて、本発明に係る光学的測定装置の構造を説明する。図5は、本発明に係る光学的測定装置1の一実施形態を模式的に示す模式図である。本発明に係る光学的測定装置1は、大別すると、2以上の光源11a、11b、11cと、流路12と、光路変更手段13と、光学的情報検出手段14と、を備える。以下、各々について、詳細に説明する。
【0052】
(1)光源11a、11b、11c
本発明に係る光学的測定装置1では、異なる波長の少なくとも2以上のレーザ光L1、L2、L3を照射するために、2以上の光源11a、11b、11cを用いる。本発明に係る光学的測定装置1に用いる光源の個数は、異なる波長の少なくとも2以上のレーザ光を照射するために、2以上の光源を用いていれば、本実施形態のように3つの光源11a、11b、11cを用いても、4つ以上の光源を用いても良い。
【0053】
また、本発明に係る光学的測定装置1に使用できる光源11a、11b、11cの種類も特に限定されず、公知のあらゆる光源を選択して用いることができる。例えば、アルゴンイオン(Ar)レーザ、ヘリウム−ネオン(He-Ne)レーザ、ダイ(dye)レーザ、クリプトン(Cr)レーザ等を、2つ以上、自由に組み合わせて用いることができる。
【0054】
(2)流路12
流路12には試料Sが通流し、その所定部位において、光照射及び光学的情報検出が行われる。流路12を通流する試料Sは、図示しないが、光源11a、11b、11cから照射されるレーザ光L1、L2、L3の各波長λ1、λ2、λ3において励起スペクトラムが重複しない少なくとも2以上の色素で修飾されている。試料Sに修飾することが可能な色素Pの数、種類等については、前述の光学的測定方法と同一であるので、ここでは説明を割愛する。
【0055】
本発明に係る光学的測定装置1に用いることができる流路12の形態は特に限定されず、自由に設計することができる。例えば、図5に示す形態に限らず、図8に示すように、2次元又は3次元のプラスチックやガラス等の基板T上に形成した流路12も、本発明に係る光学的測定装置1に用いることができる。
【0056】
また、前記流路1の流路幅、流路深さ、流路断面形状も、層流を形成し得る形態であれば特に限定されず、自由に設計することができる。例えば、流路幅1mm以下のマイクロ流路においても、本発明に係る光学的測定装置1に用いることが可能である。特に、流路幅10μm以上1mm以下程度のマイクロ流路を用いれば、本発明に係る光学的測定方法をより好適に行うことができる。
【0057】
なお、基板T上に形成した流路12を採用する場合には、流路12の底面を透過性のある材料で形成することが好ましい。図8に示すように、後述の光学的情報検出手段14を、基板Tを挟んで光源11a、11b、11cと逆側に配置し、流路12の底面側からの光学的情報を検出できるようにするためである。
【0058】
(3)光路変更手段13
光路変更手段13は、各レーザ光L1、L2、L3を、流路12を通流する試料Sに対して、同軸かつ同時に入射させる手段である。
【0059】
例えば、図5および図8に示すように、各光源11a、11b、11cから照射されたレーザ光L1、L2、L3を、各ミラー16a、16b、16cを用いて1つの集光レンズ17に集めることで、流路12を通流する試料Sに対して、同軸かつ同時に入射させる。
【0060】
本発明に係る光学的測定装置1では、レーザ光L1、L2、L3の各波長λ1、λ2、λ3において励起スペクトラムE1、E2、E3が重複しない色素P1、P2、P3で修飾した試料Sを流路12に通流させているため、波長λ1、λ2、λ3の異なる励起光(レーザ光L1、L2、L3)を同時に照射することが可能である。そのため、集光レンズ17等の照射光学系の簡素化を図ることができる。
【0061】
また、照射レーザスポットを1つにできるため、照射レーザスポットのアライメントを容易に行うことが可能である。
【0062】
更に、照射レーザスポットを1つにできるため、測定対象の試料Sの流路内での間隔を、照射レーザスポットの直径まで縮めることができるため、検出処理スピードを大幅に短縮することが可能である。
【0063】
(4)光学的情報検出手段14
光学的情報検出手段14は、試料Sを修飾した色素P1、P2、P3からの光学的情報を検出する手段である。
【0064】
光学的情報検出手段14は、色素P1、P2、P3からの光学的情報の検出ができれば、その検出器の種類は特に限定されず、公知の光学的検出器を自由に採用することができる。例えば、蛍光測定器、散乱光測定器、透過光測定器、反射光測定器、回折光測定器、紫外分光測定器、赤外分光測定器、ラマン分光測定器、FRET測定器、FISH測定器その他各種スペクトラム測定器、複数の光検出器をアレイ状に並べた、いわゆるマルチチャンネル光検出器等が挙げられる。また、電荷結合素子(CCD)やComplementary Metal Oxide Semiconductor(CMOS)などのエリア撮像素子を用いた検出器を採用すれば、一画面全体の試料Sから発せられるイメージを光電変換することができる。
【0065】
図5および図8に示す実施形態では、色素P1、P2、P3から発せられた蛍光を、回折格子18を用いて波長毎に分け、マルチチャンネル光検出器14(光学的情報検出手段14)で蛍光スペクトルを測定している。
【0066】
また、光学的情報検出手段14の配置箇所は、色素P1、P2、P3から発せられた蛍光が検出できれば特に限定されないが、図5および図8に示すように、流路12を挟んで光源11a、11b、11cと逆側に配置することが好ましい。光源11a、11b、11cからのレーザ光L1、L2、L3の照射と同時に光学的情報を検出することができ、効率的な測定を行うことができるからである。
【0067】
また、光学的情報検出手段14を、流路12を挟んで光源11a、11b、11cと逆側に配置することで、光源11a、11b、11cをより自由な構成で配置させることができる。更に、光学的情報検出手段14のスペースを確保する必要がないため、光源11a、11b、11cの個数を増やすことも可能である。
【0068】
なお、図8に示す実施形態のように、基板T上の流路12を採用する場合には、流路12の底面を透過性のある材料で形成することが好ましい。
【0069】
本発明に係る光学的測定装置1では、光路変更手段13を備えることにより、照射レーザスポットを1つにすることができるため、各色素からの光学的情報を一度に検出することができ、検出処理スピードを大幅に短縮することができる。
【0070】
また、検出した各色素からの蛍光スペクトラムを、1度に解析することができるため、解析時間も大幅に短縮することができる。
【0071】
(5)通流間隔制御手段15
本発明では必須ではないが、本発明に係る光学的測定装置1には、通流間隔制御手段15を設けることができる。通流間隔制御手段15は、照射レーザスポットの大きさに合わせて、試料Sの通流間隔を制御する手段である。
【0072】
通流間隔制御手段15は、少なくとも流路12の光源11a、11b、11cからの照射が行われる位置より上流に備えていればよく、流路12に試料Sを通流させる前に通流間隔を制御できるように、流路12の最上流に設けても、流路12を通流中の試料Sの間隔を制御できるように、流路12の中間に設けても良い。
【0073】
通流間隔制御手段15を、流路12の最上流に設けて通流間隔を制御する方法としては、例えば、図6に示すように、流路12の最上流に溶媒S0の貯蔵部を設け、流路12に通流させる前の試料Sを含む溶液S1の濃度調整を行うことで、試料Sの通流間隔を照射レーザスポットの大きさに合わせて制御することができる。具体的には、濃度を薄くしたい場合には、溶媒S0を流入し、濃度を濃くしたい場合には、溶媒S0を排出することで、S1の濃度調節を行うことができる。
【0074】
なお、この場合、図示しないが、溶媒S0の貯蔵部の出入口部分(図6中矢印A部分)に試料Sを通過させないフィルター等を設けることが望ましい。溶媒S0を排出する場合に、試料Sの排出を防ぐためである。
【0075】
また、試料Sを含む溶液S1の流入量を増減させることで、試料Sの通流間隔を照射レーザスポットの大きさに合わせて制御するために、図示しないが、流路12の流入口(図6中矢印B部分)に、フィルター若しくは開閉コック等を備えることもできる。
【0076】
通流間隔制御手段15を、流路12の中間に設けて通流間隔を制御する方法としては、例えば、図7に示すように、流路12の途中に、溶媒S0の貯蔵部を設け、試料Sの間隔が狭すぎる場合には、溶媒S0を流路12内に流入し、試料Sの間隔が広すぎる場合には、流路12内から溶媒S0を排出することで、試料Sの通流間隔を照射レーザスポットの大きさに合わせて制御することができる。
【0077】
なお、この場合、図示しないが、溶媒S0の貯蔵部と流路12との間(図7中矢印C部分)に試料Sを通過させないフィルター等を設けることが望ましい。流路12内から溶媒S0を排出する場合に、試料Sの排出を防ぐためである。
【実施例1】
【0078】
実施例1では、下記表1に示す通り、励起光波長405nm、473nm、635nmに対応する色素、(i)Alexa405(登録商標)、(ii)Cascade Blue、(iii)Pacific Blue、(iv)Alexa532(登録商標)、(v)Alexa568(登録商標)、(vi)Phycoerythrin(PE)、(vii)Alexa633(登録商標)、(viii)Alexa647(登録商標)、(ix)Allophycocyanin(APC)、(x)Cy7を選択し、各色素を組み合わせた場合に、それぞれの励起光波長において、励起スペクトラムが重ならないかを調べた。
【0079】
【表1】
【0080】
(1)(i)Alexa405(登録商標)、(iv)Alexa532(登録商標)、(vii)Alexa633(登録商標)を組み合わせた場合の励起スペクトラムを図9に示す。図9に示すように、(i)Alexa405(登録商標)、(iv)Alexa532(登録商標)、(vii)Alexa633(登録商標)の色素が示す励起スペクトラムは、各励起光の波長405nm、473nm、635nmにおいて、重複していないことが分かった。
【0081】
従って、本発明に係る光学的測定方法には、(i)Alexa405(登録商標)、(iv)Alexa532(登録商標)、(vii)Alexa633(登録商標)を組み合わせて用いることが可能であることが分かった。
【0082】
(2)(ii)Cascade Blue、(v)Alexa568(登録商標)、(viii)Alexa647(登録商標)を組み合わせた場合の励起スペクトラムを図10に示す。図10に示すように、(ii)Cascade Blue、(v)Alexa568(登録商標)、(viii)Alexa647(登録商標)の色素が示す励起スペクトラムは、各励起光の波長405nm、473nm、635nmにおいて、重複していないことが分かった。
【0083】
従って、本発明に係る光学的測定方法には、(ii)Cascade Blue、(v)Alexa568(登録商標)、(viii)Alexa647(登録商標)を組み合わせて用いることが可能であることが分かった。
【0084】
(3)(iii)Pacific Blue、(vi)Phycoerythrin(PE)、(ix)Allophycocyanin(APC)を組み合わせた場合の励起スペクトラムを図11に示す。図11に示すように、(iii)Pacific Blue、(vi)Phycoerythrin(PE)、(ix)Allophycocyanin(APC)の色素が示す励起スペクトラムは、各励起光の波長405nm、473nm、635nmにおいて、重複していないことが分かった。
【0085】
従って、本発明に係る光学的測定方法には、(iii)Pacific Blue、(vi)Phycoerythrin(PE)、(ix)Allophycocyanin(APC)を組み合わせて用いることが可能であることが分かった。
【0086】
(4)(i)Alexa405(登録商標)、(ii)Cascade Blue、(iii)Pacific Blue、(iv)Alexa532(登録商標)、(v)Alexa568(登録商標)、(vi)Phycoerythrin(PE)、(vii)Alexa633(登録商標)、(viii)Alexa647(登録商標)、(ix)Allophycocyanin(APC)、(x)Cy7の全てを組み合わせた場合の励起スペクトラムを図12に示す。図12に示すように、波長405nmの励起光に対応する(i)Alexa405(登録商標)、(ii)Cascade Blue、(iii)Pacific Blueの励起スペクトラムは、波長473nm、635nmでは励起強度を示さず、波長473nmの励起光に対応する(iv)Alexa532(登録商標)、(v)Alexa568(登録商標)、(vi)Phycoerythrin(PE)は、波長405nm、635nmでは励起強度を示さず、波長635nmの励起光に対応する(vii)Alexa633(登録商標)、(viii)Alexa647(登録商標)、(ix)Allophycocyanin(APC)、(x)Cy7は、波長405nm、473nmでは励起強度を示さないことが分かった。
【0087】
従って、本発明に係る光学的測定方法には、(i)Alexa405(登録商標)、(ii)Cascade Blue、(iii)Pacific Blue、(iv)Alexa532(登録商標)、(v)Alexa568(登録商標)、(vi)Phycoerythrin(PE)、(vii)Alexa633(登録商標)、(viii)Alexa647(登録商標)、(ix)Allophycocyanin(APC)、(x)Cy7の全てを組み合わせて用いることが可能であることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明に係る光学的測定方法のフロー図である。
【図2】本発明に係る光学的測定方法に用いることができる色素P1、P2、P2の励起スペクトラムを示す図面代用グラフである。
【図3】本発明に係る光学的測定方法に用いることができる色素P1、P2、P2の励起スペクトラムを示す図面代用グラフである。
【図4】本発明に係る光学的測定方法における通流工程(I)を説明するための流路12の斜視模式図である。
【図5】本発明に係る光学的測定装置1の一実施形態を模式的に示す模式図である。
【図6】本発明に係る光学的測定装置1の通流間隔制御手段15の一実施形態を模式的に示す模式図である。
【図7】本発明に係る光学的測定装置1の通流間隔制御手段15の図6とは異なる実施形態を模式的に示す模式図である。
【図8】本発明に係る光学的測定装置1の図5とは異なる実施形態を模式的に示す模式図である。
【図9】実施例1において、(i)Alexa405(登録商標)、(iv)Alexa532(登録商標)、(vii)Alexa633(登録商標)を組み合わせた場合の励起スペクトラムを示す図面代用グラフである。
【図10】実施例1において、(ii)Cascade Blue、(v)Alexa568(登録商標)、(viii)Alexa647(登録商標)を組み合わせた場合の励起スペクトラムを示す図面代用グラフである。
【図11】実施例1において、(iii)Pacific Blue、(vi)Phycoerythrin(PE)、(ix)Allophycocyanin(APC)を組み合わせた場合の励起スペクトラムを示す図面代用グラフである。
【図12】実施例1において、(i)Alexa405(登録商標)、(ii)Cascade Blue、(iii)Pacific Blue、(iv)Alexa532(登録商標)、(v)Alexa568(登録商標)、(vi)Phycoerythrin(PE)、(vii)Alexa633(登録商標)、(viii)Alexa647(登録商標)、(ix)Allophycocyanin(APC)、(x)Cy7の全てを組み合わせた場合の励起スペクトラムを示す図面代用グラフである。
【図13】従来のフローサイトメータの模式図である。
【図14】従来の光学的測定方法に用いられる色素の励起スペクトラムを示す図面代用グラフである。
【図15】従来の光学的測定装置を模式的に示す模式図である。
【図16】従来の光学的測定装置を用いた場合の照射スポットの間隔と、試料の間隔と、の関係を示す模式図である。
【符号の説明】
【0089】
1 光学的測定装置
11a、11b、11c 光源
12 流路
13 光路変更手段
14 光学的情報検出手段
15 通流間隔制御手段
16a、16b、16c ミラー
17 集光レンズ
18 回折格子
111 光源
112 流路
114 光検出器
116 集光レンズ
S 試料
S1 試料溶液
S0 溶媒
L1、L2、L3 レーザ光
P1、P2、P3 色素
T 基板
D 偏向板
F1 サンプル流
x、y、z 色素
a、b、c レーザ光
F101 サンプル流
F102 シース流
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路を通流する試料に異なる波長の2以上のレーザ光を照射することにより、前記試料を光学的に測定する方法であって、
前記各波長において励起スペクトラムが重複しない少なくとも2以上の色素で修飾した前記試料を前記流路に通流させる通流工程と、
前記各レーザ光を、前記流路を通流中の前記試料に対して同軸かつ同時に入射させる光照射工程と、
前記色素からの光学的情報を検出する光学的情報検出工程と、
を少なくとも行う光学的測定方法。
【請求項2】
前記試料の通流間隔を、前記レーザ光の照射スポットに合わせて制御する通流間隔制御工程を更に行う請求項1記載の光学的測定方法。
【請求項3】
前記光学的情報検出工程では、マルチカラー検出を行う請求項1又は2に記載の光学的測定方法。
【請求項4】
試料に対して、異なる波長のレーザ光を照射するための2以上の光源と、
前記各波長において励起スペクトラムが重複しない少なくとも2以上の色素で修飾した前記試料が通流する流路と、
前記光源からの2以上のレーザ光を、前記試料に対して同軸かつ同時に入射させるための光路変更手段と、
前記色素からの光学的情報を検出する光学的情報検出手段と、
を少なくとも備えた光学的測定装置。
【請求項5】
前記試料の通流間隔を、前記レーザ光の照射スポットに合わせて制御する通流間隔制御手段を更に備える請求項4記載の光学的測定装置。
【請求項6】
前記光学的情報検出手段は、マルチチャンネル光検出器である請求項4または5に記載の光学的測定装置。
【請求項1】
流路を通流する試料に異なる波長の2以上のレーザ光を照射することにより、前記試料を光学的に測定する方法であって、
前記各波長において励起スペクトラムが重複しない少なくとも2以上の色素で修飾した前記試料を前記流路に通流させる通流工程と、
前記各レーザ光を、前記流路を通流中の前記試料に対して同軸かつ同時に入射させる光照射工程と、
前記色素からの光学的情報を検出する光学的情報検出工程と、
を少なくとも行う光学的測定方法。
【請求項2】
前記試料の通流間隔を、前記レーザ光の照射スポットに合わせて制御する通流間隔制御工程を更に行う請求項1記載の光学的測定方法。
【請求項3】
前記光学的情報検出工程では、マルチカラー検出を行う請求項1又は2に記載の光学的測定方法。
【請求項4】
試料に対して、異なる波長のレーザ光を照射するための2以上の光源と、
前記各波長において励起スペクトラムが重複しない少なくとも2以上の色素で修飾した前記試料が通流する流路と、
前記光源からの2以上のレーザ光を、前記試料に対して同軸かつ同時に入射させるための光路変更手段と、
前記色素からの光学的情報を検出する光学的情報検出手段と、
を少なくとも備えた光学的測定装置。
【請求項5】
前記試料の通流間隔を、前記レーザ光の照射スポットに合わせて制御する通流間隔制御手段を更に備える請求項4記載の光学的測定装置。
【請求項6】
前記光学的情報検出手段は、マルチチャンネル光検出器である請求項4または5に記載の光学的測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2009−270990(P2009−270990A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123033(P2008−123033)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]