説明

流路ユニット、液体噴射ヘッドユニット及び液体噴射装置

【課題】所望の作動圧で弁体を作動できる流路ユニット、これを用いた液体吐出速度や吐出された液滴の重量ばらつきが抑制された液体噴射ヘッドユニット及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】受圧部材は、弁体を押圧する受圧部47aと、受圧部材の回動軸となる軸部47cと、受圧部と該軸部とを接続し、該軸部の長手方向において、軸部の幅及び受圧部の幅よりも短い接続部47bとを有し、圧力室34には、接続部の軸部の長手方向における両端に対向してそれぞれ設けられた第1突起部と、軸部の長手方向において、圧力室を区画する壁面よりも内側に設けられた第2突起部とが設けられ、第1突起部と第2突起部とにフィルムが固着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流路ユニット、液体噴射ヘッドユニット及び液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドの代表例として、例えば圧電素子の変位により圧力室内のインクに作用する圧力を利用してノズル開口からインク滴を吐出するインクジェット式記録ヘッドがある。インクジェット式記録ヘッドでは、インクが充填されたインクカートリッジ等の液体源から供給されたインクを圧電素子や発熱素子等の圧力発生手段を駆動させることによりノズルから吐出させている。例えば、インクカートリッジにインク供給針を挿入することでインク供給針の導入孔からインクカートリッジ内のインクを液体噴射ヘッドの共通の液体室であるリザーバーに導入している。
【0003】
この種のインクジェット式記録ヘッドの中には、インクカートリッジ等の液体供給源からインクジェット式記録ヘッドにインクを供給する流路の途中に設けた流路ユニットと組み合わせてインクジェット式記録ヘッドユニットを構成したものが知られている(特許文献1参照)。かかるインクジェット式記録ヘッドユニットの流路ユニットは、ノズル開口からインク滴が吐出されることによりリザーバーの内部が負圧になったとき弁体を開いてインクカートリッジからのインクをインクジェット式記録ヘッドのリザーバーに供給する。このため、流路ユニットは、弁体が配設された流路の一部であり、且つ前記負圧が作用する圧力室を、インクの流路が形成された流路ユニット本体に形成している。ここで、圧力室はその開口部をフィルムで覆うことにより形成してある。かくして、圧力室内に作用する負圧によりフィルムが圧力室側に撓むことにより弁体を押圧し、この押圧力により弁体が移動して流路を開くようになっている。
【0004】
また、圧力室に設置される弁体としては、圧力室内に配された受圧板とフィルムとが熱溶着され、フィルムと受圧板とが作動することで、弁体が作動するものが知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−184202号公報
【特許文献2】特開2008−230196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に示す弁体では、受圧板とフィルムとが溶着されていて、受圧板がこのフィルムと受圧板の後方のバネでのみ支持されていたため、フィルムの変形時において、受圧板の姿勢、即ち受圧板の変位状態が安定しなかった。これにより、弁体が開状態となるときの圧力である作動圧が各流路ユニットにおいて異なってしまう。
【0007】
特に、特許文献1に示すように弁体が設置された圧力室の形状が円形ではない場合には、負圧時におけるフィルムの変形が不均一であるので、これにより受圧板の姿勢がより安定しないという問題がある。また、このような各流路ユニットの作動圧のばらつきは、これを用いた液体噴射ヘッドのインク吐出速度や吐出された液滴の重量ばらつきの原因となる問題がある。
【0008】
なお、このような問題は、インクジェット式記録ヘッドユニットに限らず、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドユニットにおいても同様に存在する。
【0009】
本発明は、上記従来技術に鑑み、所望の作動圧で弁体を作動できる流路ユニット、これを用いた液体吐出速度や吐出された液滴の重量ばらつきが抑制された液体噴射ヘッドユニット及び液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の流路ユニットは、液体が流通する液体流路と、該液体流路に設けられた圧力室と、該圧力室を区画する壁面に固着されて該圧力室を封止するフィルムと、該圧力室と前記液体流路との接続部に設けられ、該液体流路を開放又は閉鎖する弁体と、前記圧力室に設けられ、該弁体に対向して設けられた受圧部材とを備え、前記圧力室に作用する負圧に基づいて前記フィルムが前記圧力室側に変位して前記受圧部材を押圧することで、該受圧部材と対向する前記弁体が押圧されて前記液体流路を開放し液体が前記圧力室から前記液体流路へ流通する流路ユニットであって、前記受圧部材は、前記弁体を押圧する受圧部と、該受圧部材の回動軸となる軸部と、該受圧部と該軸部とを接続し、該軸部の長手方向において、軸部の幅及び受圧部の幅よりも短い接続部とを有し、前記圧力室には、該接続部の前記軸部の長手方向における両端に対向してそれぞれ設けられた第1突起部と、前記軸部の長手方向において、前記圧力室を区画する壁面よりも内側に設けられた第2突起部とが設けられ、該第1突起部と該第2突起部とに前記フィルムが固着されていることを特徴とする。
【0011】
本発明では、受圧部材が軸部で軸支されていわゆる片持ち構造とされていることから、受圧板とフィルムとが固着されていなくても受圧板が支持されて姿勢が安定する所望の作動圧で弁体を作動できる。かつ、第1突起部と第2突起部とにフィルムが固着されていることで、軸部の端部における軸部とフィルムとの距離が短いため、軸部の浮き上がりも抑制できるので、より所望の作動圧で弁体を作動させることができる。
【0012】
本発明の好ましい実施形態としては、前記軸部のその長手方向における両端に前記第2突起部がそれぞれ設けられていることか、その長手方向の中央に切り欠き部が設けられており、該切り欠き部に前記第2突起部が設けられていることが挙げられる。
【0013】
本発明の液体噴射ヘッドユニットは、前記したいずれかの流路ユニット、及び、液体を噴射するノズル開口と、該ノズル開口に連通すると共に、前記流路ユニットの液体流路と連通する流路内の圧力室に圧力変化を生じさせて、前記ノズル開口から液体を噴射させる圧力発生手段とを備えた液体噴射ヘッドを備えたことを特徴とする。作動圧のばらつきを抑制した流路ユニットを有することで、本発明の液体噴射ヘッドユニットは、液体吐出速度や吐出された液滴の重量ばらつきが抑制されている。
【0014】
本発明の液体噴射装置は、液体噴射ヘッドユニットを備えたことを特徴とする。液体吐出速度や吐出された液滴の重量ばらつきが抑制された液体噴射ヘッドユニットを有することで、本発明の液体噴射装置は、液体噴射特性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】インクジェット式記録装置の概略構成図である。
【図2】流路ユニット及びヘッドの正面図である。
【図3】流路ユニットの外観図である。
【図4】図2の平面図である。
【図5】図2中のV−V線矢視図である。
【図6】受圧板部分の概略一部拡大図である。
【図7】弁体が(1)閉状態時(2)開状態時の図6A−A線での一部概略断面図。
【図8】受圧板とフィルムとの関係を説明するための説明図である。
【図9】製造工程を説明するための一部概略断面図である。
【図10】別の実施形態にかかる受圧板部分の概略一部拡大図である。
【図11】別の実施形態の受圧板とフィルムとの関係を説明するための説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1には本発明の一実施形態例に係るインクジェット式記録ヘッドを備えたインクジェット式記録装置の概略構成、図2には流路ユニット及びヘッドの正面視、図3には流路ユニットの外観、図4には図2の平面視、図5には図2中のV−V線矢視を示してある。
【0017】
図1に基づいてインクジェット式記録装置を説明する。同図に示すように、液体噴射装置としてのインクジェット式記録装置1は液体噴射ヘッドとしてのインクジェット式記録ヘッド(以下、ヘッドという)4を有している。ヘッド4は、インクカートリッジ2が搭載されるキャリッジ3に固定されている。キャリッジ3は上部に開放する箱型をなし、記録紙Sと対面する面(下面)に記録ヘッド4のノズル面が露呈するよう取り付けられると共に、インクカートリッジ2が収容されるようになっている。そして、このインクカートリッジ2からのインクが図示しない流路ユニットを介してヘッド4に供給される。
【0018】
キャリッジ3はタイミングベルト5を介してステッピングモーター6に接続され、記録紙Sの紙幅方向(主走査方向)に往復移動するようになっている。これにより、キャリッジ3を移動させながら記録紙Sの上面にインク滴を吐出させて記録紙Sに画像や文字をドットマトリックスにより印刷するようになっている。
【0019】
図示したヘッド4には、インクカートリッジ2からインクをヘッド4に供給するための流路が形成された流路形成部材を兼用する流路ユニット(図1には図示せず)が備えられている。なお、図1の例では、キャリッジ3に液体源としてのインクカートリッジ2が収容される例を挙げて説明したが、インクカートリッジ2がキャリッジ3とは別の場所に収容され、供給管を介してインクがヘッド4の流路形成部材に圧送される構成のインクジェット式記録装置であっても本発明を適用することが可能である。
【0020】
次に、図2に基づいてヘッド4を説明する。ヘッド4の上部には、詳しくは後述する流路ユニット10が設けられ、また、ヘッド4の下部には、ノズルプレート8が設けられている。ヘッド4には、図示しないヘッド流路が形成されており、ヘッド流路は、インクを貯留するリザーバー室と、圧力発生手段により圧力が発生する圧力室とを備え、圧力室は、ヘッド4の下部にノズルプレート8に形成されたノズル開口に連通している。流路ユニット10からのインクがヘッド流路に供給されてヘッド流路に満たされて圧電素子等の圧力発生手段により圧力を発生させることにより圧力室内のインクがノズル開口からインク滴を吐出するようになっている。本実施形態において液体噴射ヘッドユニット9は、このヘッド4と流路ユニット10とからなる。そして、流路ユニット10にはインクカートリッジ2からインクが供給されるようになっている。例えば、供給管やインク供給針を介してインクカートリッジ2から流路ユニット10にインクが供給される。
【0021】
図2〜図8に基づいて流路ユニット10を具体的に説明する。これらの図に示すように、流路ユニット10は矩形状の盤面を有する直方体ブロック形状とされ、樹脂製のフィルム20(図2、図3では流路ユニット10の説明のため透明としてある)を樹脂製の本体21の両方の盤面に熱溶着して封止することで各盤面に盤面インク流路11が形成されている。即ち、本体21の各盤面には、盤面インク流路11が壁面部12により画成され形成されている。盤面インク流路11は、後述するように各盤面で互いに対称となるように形成されており、それぞれ主流路24を有する。主流路24は、入口部25から出口部26に向けて(インクの流れ方向に向けて)幅広状態とされ(幅広部)、出口部26には第一のフィルター27が備えられている。第一のフィルター27は、幅広状態の出口部26を包含する面積で盤面の広い部分に配され、大面積が確保されている。第一のフィルター27では、主に、後述する弁体35を流通したインクに含まれる異物がトラップされる。
【0022】
第一のフィルター27はインクの流れ方向に沿った面(盤面と平行な面)を有し、主流路24を流通したインクは盤面の外側から第一のフィルター27を通って本体21の内側の下部に送られ、2つの排出孔28からヘッド4(図2参照)に送られる。主流路24に送られたインクは、狭い流路から広い流路に広がって(出口部の幅方向に広がって)端部の排出孔28からヘッド4(図2参照)の一つのリザーバー室に送られる。つまり、それぞれの主流路24に対して一つのリザーバー室につながる2つの排出孔28が設けられ、一つの流路ユニット10には4つの排出孔28が設けられている(図4参照)。
【0023】
流路ユニット10の上部の端部にはインク導入孔31がそれぞれ設けられ、インク導入孔31にはインクカートリッジ2(図1参照)からインクがそれぞれ供給される。一方(図4中左側)のインク導入孔31に供給されたインクは、インク流路30を経由して図2に示した主流路24の入口部25に送られ、他方(図4中右側)のインク導入孔31に供給されたインクは、インク流路30を経由して図2の紙面の裏側に設けられた主流路24の入口部25に送られる。即ち、本実施形態の流路ユニット10においては、対称な二つのインク流路30が設けられている。
【0024】
インク導入孔31につながるインク流路30は、図4中矢印Aで示すように、一方(図4中左側)のインク導入孔31に供給されたインクが、図4、図5中上側に流通した後下側に向かい、フィルター室33に設けられた第二のフィルター32を流通して図2に示した圧力室34に送られるように形成されている。また、インク流路30は、図4中矢印Bで示すように、他方(図4中右側)のインク導入孔31に供給されたインクが、図4、図5中下側に流通した後、図2に示したフィルター室33に設けられた第二のフィルター32を流通して図4、図5中上側に向かい、図2の紙面の裏側に存在する圧力室34に送られるように形成されている。第二のフィルター32は盤面と平行な面を有し、第一のフィルター27と平行な状態で配されている。
【0025】
インク導入孔31と圧力室34の間のインク流路30には詳しくは弁体35がそれぞれ設けられ、ヘッド4(図2参照)のリザーバー室の圧力が低下した際に、即ち、インクが吐出されて主流路24側の圧力が相対的に低下した際に弁体35がインクの流通を許容するように作動する。
【0026】
すなわち、所定の圧力でインクがインク導入孔31から供給される状態にある場合に、ヘッド4(図2参照)のリザーバー室にインクが貯留されている際、弁体35は閉状態にされ、インクの吐出により後流側の圧力が低下すると、これに伴い発生する負圧力により弁体35が開状態にされてインクが供給される。
【0027】
具体的には、図6、7を用いて説明する。弁体35は、図7に示すように、弁体軸部40と、弁体軸部40の一端側に弁体軸部40と一体となって形成された円板部41とからなり、弁体軸部40が、圧力室34に形成された貫通孔42に挿通されている。円板部41の弁体軸部40とは逆側、即ち背面には、バネ44の一端が接続されており、バネ44の他端は、図示しないバネ座に接続されている。バネ座は、図に示すフィルター室33に固定されている。このようなバネ44は、バネ座がフィルター室33(図5参照)に固定されていることから、弁体35を圧力室34側のフィルム20側に付勢する。この場合には、円板部41と圧力室34の底面とにより、弁体35が閉状態となる。なお、フィルム20は詳しくは後述するように圧力室34上においては撓んだ状態となるように本体21の盤面に固着されている。
【0028】
また、圧力室34には、受圧板(受圧部材)47が設けられており、受圧板47は、弁体軸部40と当接するように設けられている。受圧板47は、本実施形態では、フィルム20には固着されていない。即ち、本実施形態では、受圧板47は、フィルム20が圧力室34側に変位した場合にフィルム20が受圧板47に当接することにより、フィルム20と同時に圧力室34側に変位するものであり、受圧板47が変位することで弁体35に当接して弁体35を移動させる。
【0029】
本実施形態では、受圧板47はフィルム20に固着されていないことから、受圧板47を安定して変位させるために、受圧板47は、本実施形態では片持ち構造となっている。具体的に説明する。図6に示すように、受圧板47は、本実施形態においては、正面視において略円形の受圧部47aと、受圧部47aの基端側で接続部47bを介して受圧部47aに接続された軸部47cとからなる。接続部47bの長手方向における長さは、受圧部47aの直径よりも、また、軸部47cの長手方向における長さよりも短い。この接続部47bに、接続部47bの長手方向において接続部47bに対向するように、圧力室34の底面からフィルム20側へ突出された一対の突起(第1突起部)48が設けられている。即ち、一対の突起48は、受圧板47の接続部47bの長手方向の両側を挟むように設けられている。なお、突起48は圧力室34と一体となって形成されている。突起48は、断面視において受圧板47よりも高くなるように構成され、その上面でフィルム20が溶融され固着されている。この突起48とフィルム20とから軸受部が構成されており、受圧板47は、この軸受部から外れずに軸支されて、軸部47cを軸中心としてその先端部、即ち受圧部47aが揺動する。即ち、受圧板47は、この軸受部により軸支されて上述したように軸部47cを軸中心として先端部が揺動可能な片持ち構造となっている。
【0030】
また、本実施形態では、圧力室34上のフィルム20は、撓んで、フィルム20と壁面部12との接合面よりも下流側に凸となっており、圧力室34の壁面部12上に溶着されている。即ち、圧力室34上のフィルム20は、本実施形態においては、負圧が作用していない場合に曲面状である。フィルム20が撓んだ弛緩状態でなく、フィルムにテンションがかかった緊張状態であると、負圧が作用するとフィルム20が下流側に引っ張られることでテンションに抗するのでフィルム20に反力が発生する。しかしながら、本実施形態においては、フィルム20は撓んだ状態であるので、負圧が作用して下流側に引っ張られたとしても反力が発生しにくい。
【0031】
このような流路ユニット10においては、フィルム20は、インクの吐出により後流側の圧力が低下して圧力室34内の圧力が流路ユニットの外気圧よりも低い圧力に、つまり圧力室34内に負圧が作用すると、圧力室34側に変位し、この変位を受圧板47を介して弁体35に伝達する。この場合に、図7(b)に示すように、受圧板47は、フィルム20の変位を受圧部47aで受けて(即ち、フィルム20により受圧部47aが押圧されて)軸部47cを軸中心として貫通孔42側に変位する。そして、この変位が弁体35の軸部40に伝達される。そして、弁体35に作用するバネ44の付勢力に抗し、受圧板47を介して弁体35を移動させることによりインク流路と圧力室34との間を開状態とする。
【0032】
さらに、本実施形態においては、負圧が作用しない状態では受圧板47とフィルム20とが離間されて設けられており、両者は固着されていない。従って、よりフィルム20が負圧に応じて自由に動くことができ、作動圧のばらつき要因を排除でき、より安定した作動圧を得ることができる。即ち、より作動圧のばらつきを抑制して所望の作動圧で弁体35を作動させることが可能であり、これによりヘッド4は、より安定して液体を噴射することができる。
【0033】
ところで、このように受圧板47とフィルム20とが固着されていない場合には、フィルム20が受圧部47aを押圧して軸部47cを軸中心として受圧板47が揺動した場合に、フィルム20の貫通孔42側への変位が大きいと軸部47cが浮き上がってしまうことが考えられる。このように軸部47cが浮き上がってしまった場合に軸部47cがフィルム20と接触することがあると、フィルム20の作動を阻害することにより、作動圧にばらつきが生じてしまうことが考えられるので、これを抑制する必要がある。
【0034】
そこで、本実施形態では、延設部50(第2突起部)を設けることにより、軸部47cの浮き上がりを抑制して、フィルム20の作動を阻害して作動圧にばらつきが生じることを抑制している。
【0035】
具体的に説明すると、受圧板47の軸部47cから接続部47bにかけて切り欠き部47dを設けられ、この切り欠き部47dに嵌合するように圧力室34を構成する壁面34aから延設部50が延設されて形成されている。壁面34a及び延設部50には、リブ(固定部)51が形成されており、このリブ51にフィルム20が固着されている。この場合に、図8(1)に示すように、仮に延設部50がないとすれば、フィルム20は、軸部47cの長手方向における圧力室34の壁面のみに固着されているので、軸部47cの上部において撓んでいる。このように撓んでいることで、軸部47cが動くことができる領域が多くなり、その結果、受圧部47a(図7参照)が揺動した場合に軸部47cが浮き上がってしまい、この浮き上がりによりフィルム20に軸部47cが接触すると、フィルム20の作動を阻害してしまう。
【0036】
これに対し、本実施形態では、図6のB−B線断面図である図8(2)に示すように、延設部50を設けて、この延設部50のリブ51にフィルム20を固着させることで、受圧板47の軸部47cの各端部でフィルム20と軸部47cとの距離が短くなるようにしている。これにより軸部47cの動きが規制されるので、軸部47cの浮き上がりが抑制でき、作動圧のばらつきをより抑制することができる。なお、このように軸部47cの浮き上がりが抑制されてもフィルム20に軸部47cが接触はするかもしれない。しかし、軸部47cの浮き上がりのような軸部47cの大幅な移動はフィルム20の作動を阻害してしまうことになるが、軸部47cが本実施形態のように浮き上がるほどでなければフィルム20に軸部47cが接触したとしてもフィルム20の作動を阻害することはない。
【0037】
また、このように受圧板47とフィルム20とが固着されていないことにより、フィルム20が負圧開放時に戻りやすい。即ち、受圧板47とフィルムとが固着されているとしわが不均一に寄ってしまってフィルムが一方向に変形しにくいことがあり、フィルムの作動が規制されてしまう。これにより負圧時に第二のフィルター32側に変位したフィルムが負圧開放時に戻りにくくなってしまうことがある。特に、本実施形態のように受圧板47を片持ち構造とする場合には、先端部側にフィルムの作動が規制された領域があると、所望の負圧で弁体が作動できないことも考えられる。しかし、本実施形態では上述のように受圧板47とフィルム20とが固着されていないので、フィルム20にしわが寄らず、これによりフィルム20が自由に動くことができ、負圧開放時においても作動圧のばらつき要因を排除でき、安定した作動圧を得ることができる。
【0038】
なお、このように受圧板47とフィルム20とが固着されていないと、受圧板は作動時において同一圧力に対して同一軌跡を描いて作動しにくいが、本実施形態においては、受圧板47は片持ち構造とされていることから、受圧板47はフィルム20と固着されていなくても作動時に姿勢が安定する。
【0039】
このように、本実施形態においては、負圧が作用しない状態でフィルム20が撓んでいることから、負圧が作用してフィルム20が下流側に引っ張られたとしても反力が発生しにくい。この結果、本実施形態の流路ユニット10では、より作動圧のばらつきを抑制できる。
【0040】
また、本実施形態例の流路ユニット10の主流路24にはインクの搬送方向(図2中上下方向)に延びる段差部としての棚部36が形成されている。棚部36は主流路24の端部(幅広部の両側端部)に形成され、深さが浅くされた状態になっている。主流路24の端部に棚部36を設けたことにより、主流路24に気泡が混入した際に、入口部25寄りの狭い流路に気泡が浮遊して深さが浅くされた棚部36に気泡が侵入することが阻止される。このため、主流路24に気泡が混入しても、インクは棚部36を流通してヘッド4(図2参照)に供給される。
【0041】
かかる本実施形態における流路ユニットの製造方法について説明する。
【0042】
はじめに、樹脂からなる本体21を成型により形成後、図9に示すように本体21を治具100に収容する。治具100は、ブロック状であり、本体21を収容する収容部101を有する。そして、この状態で収容部101の開口よりも大きいフィルム用基材102を治具100上に載置する(載置工程)。フィルム用基材102には、本体21の盤面と略同一の形状で図示しないミシン目が形成され、このミシン目により囲まれた領域が本体21の盤面に一致するように、図示しない位置決めピンによりフィルム用基材102を治具上で位置決めされる。
【0043】
その後、図9に示すように圧力室34上のフィルム用基材102を撓ませて変形させ(フィルム変形工程)、この状態でフィルム用基材102を盤面に形成された本体21の盤面に溶着(固着)する(溶着工程)。即ち、設置時に圧力室34側に凸となり、フィルム用基材102を押圧して撓ませる押圧部材104と、溶着する領域を覆ってフィルム用基材102を加熱して盤面に溶着させる加熱部材105とにより、フィルム用基材102を圧力室34上で撓ませた状態でフィルム用基材102を盤面に形成された本体21の盤面に溶着する。この場合に、フィルム用基材102は、具体的には位置決めされた状態で本体21の流路及び圧力室34を区画する壁面及び突起48に設けられた製造リブ106上に載置されている。従って、加熱部材105が接触することで、この製造リブ106は溶融されて短くなり(リブ51となる)、製造リブ106が溶融されることでフィルム用基材102が本体21と強固に接着され、流路が封止される。このようにフィルム用基材102が本体21に溶着されることで、延設部50、突起48とフィルム用基材102により受圧板47の軸受けが形成される。
【0044】
また、このように押圧部材104でフィルム用基材102を押圧して撓ませた状態でフィルム用基材102を本体に溶着することで、フィルム20を圧力室34において撓ませることができ、圧力発生時にフィルム20が作動しやすくなり、作動圧のばらつきを抑制することができる。
【0045】
その後、押圧部材104、加熱部材105を除去し、フィルム用基材102からミシン目で囲まれている領域以外の領域を除去して、治具100から本体21にフィルム20が固着され、流路が封止された流路ユニット10を取り出す。そして、この製造された流路ユニット10の液体流路を、ヘッド流路と連通するように記録ヘッド4に設置する。
【0046】
上述した実施形態においては、フィルム20と受圧板47とが固着されていないものを示したが、これに限定されない。フィルム20と受圧板47とが固着されていてもよい。この場合、押圧部材104を熱伝導率のよい材料から構成することで、溶着時においてフィルム20を撓ませながら受圧板47とフィルム20とを固着することができる。
【0047】
本発明の実施形態は、上述した実施形態に限定されない。例えば、上述した実施形態では、板状部材を設けたが、これに限定されない。軸部47cが浮き上がるのを抑制することができるように構成されていればよく、例えば図10に示すように、受圧板47に切り欠き部47dを設けずに、壁面34aと突起48とを接続するように延設部50Aを設けても良い。この場合の延設部50Aは、軸部47cの両端に近接して設けられている。このように設けられていることで、図11に示すように軸部47cの両端でフィルム20Aが延設部50Aに固着しているので、フィルム20Aと軸部47cとの距離、特にフィルム20Aと軸部47cの両端部における距離が延設部50Aを設けない場合に比べて(図中点線で示している)短くなっている。これにより、軸部47cの浮き上がりを抑制して作動圧のばらつきを抑制することができる。
【0048】
なお、この場合においてさらに切り欠き部47dを設けて延設部50Aを設けても良い。このように設けることで、さらに軸部47cの浮き上がりを規制することが可能である。
【0049】
受圧部材の形状は、上述した実施形態における受圧板の形状に限定されない。片持ち構造となるように軸部と受圧部とを備えていればよい。
【0050】
上述した実施形態においては、位置決め工程後、フィルム用基材102を撓ませながら本体21の盤面に溶着、即ちフィルム変形工程と溶着工程とを同時に行ったがこれに限定されない。例えば、位置決めをし(位置決め工程)、位置決めを保持した状態でフィルム用基材102を撓ませ(フィルム変形工程)、その後、位置決めを保持した状態で本体21にフィルム用基材102を溶着してもよい(溶着工程)。
【0051】
上述した実施形態においては、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【符号の説明】
【0052】
1 インクジェット式記録装置、 2 インクカートリッジ、 4 記録ヘッド、 10 流路ユニット、 20 フィルム、 21 本体、 24 主流路、 25 入口部、 26 出口部、 27 第一のフィルター、 28 排出孔、 30 インク流路、 31 インク導入孔、 32 第二のフィルター、 34 圧力室、 35 弁体、 47 受圧板、 47a 受圧部、 47c 軸部、 48 突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が流通する液体流路と、該液体流路に設けられた圧力室と、該圧力室を区画する壁面に固着されて該圧力室を封止するフィルムと、該圧力室と前記液体流路との接続部に設けられ、該液体流路を開放又は閉鎖する弁体と、前記圧力室に設けられ、該弁体に対向して設けられた受圧部材とを備え、
前記圧力室に作用する負圧に基づいて前記フィルムが前記圧力室側に変位して前記受圧部材を押圧することで、該受圧部材と対向する前記弁体が押圧されて前記液体流路を開放し液体が前記圧力室から前記液体流路へ流通する流路ユニットであって、
前記受圧部材は、前記弁体を押圧する受圧部と、該受圧部材の回動軸となる軸部と、該受圧部と該軸部とを接続し、該軸部の長手方向において、軸部の幅及び受圧部の幅よりも短い接続部とを有し、
前記圧力室には、該接続部の前記軸部の長手方向における両端に対向してそれぞれ設けられた第1突起部と、前記軸部の長手方向において、前記圧力室を区画する壁面よりも内側に設けられた第2突起部とが設けられ、
該第1突起部と該第2突起部とに前記フィルムが固着されていることを特徴とする流路ユニット。
【請求項2】
前記軸部のその長手方向における両端に前記第2突起部がそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1記載の流路ユニット。
【請求項3】
前記軸部には、その長手方向の中央に切り欠き部が設けられており、該切り欠き部に前記第2突起部が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の流路ユニット。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の流路ユニット、及び、液体を噴射するノズル開口と、該ノズル開口に連通すると共に、前記流路ユニットの液体流路と連通する流路内の圧力室に圧力変化を生じさせて、前記ノズル開口から液体を噴射させる圧力発生手段とを備えた液体噴射ヘッドを備えたことを特徴とする液体噴射ヘッドユニット。
【請求項5】
請求項4に記載の液体噴射ヘッドユニットを備えたことを特徴とする液体噴射装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−179868(P2012−179868A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45737(P2011−45737)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】